順向抑制の形成に及ぼす漢字属性の類似性の効果
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 35
号 1
ページ 259‑269
発行年 1986‑11‑25
その他のタイトル The Effects of List Similarity upon the
Buildup of Proactive Inhibition with Chinese Letter, Kanji
URL http://hdl.handle.net/10105/2174
奈良教育大学紀要 第35巻 第1号(人文・社会)昭和61年 Bull. Nara Univ. Educ, Vo】.35, No.1 (cult. &soc), 1986
傾向抑制の形成に及ぼす漢字属性の類似性の効果
藤 田 正 (奈良教育大学心理学教室)
(昭和61年4月30日受理)
何らかの次元、属性で類似している項目により構成されたリストの記銘、再生を繰り返すと、
再生成績の減少がみられる。この現象は、先行事象が後続事象の記憶に妨害を及ぼすために順向 干渉(Proactive Interference)、あるいは傾向抑制(Proactive Inhibition)と呼ばれ、この現象 に関して数多くの研究が行われてきた(Houston, 1981 ;辰野、 1973),その中で、順向抑制の形 成のメカニズムに関しては、項目の弁別性の低下(Wickens, 1970)、あるいは検索手掛りの過 重負荷(cue‑overload) (Watkins & Watkins, 1975)などにより形成されることが提唱されて いる。しかし、藤田(1982、 1985)は、さまざまなリスト材料における順向抑制の形成のメカニ ズムを考えた場合、少なくとも記銘、検索のための手耕りの効果的な利用可能性と、リスト項目 間の弁別性という2つの要因を含めて考えていく必要があることを主張した。
藤田(1985)は、順向抑制の形成に関係すると考えられる記銘、検索手掛りの効果的な利用可 能性と項目間の弁別性の機能を明確にするために、リストに共通する概念カテゴリーの有索酎こ基 づくリスト内、及びリスト間の類似性が傾向抑制の形成に及ぼす効果について検討した。その結 果、 2つの要因の機能から予想されたように、リスト内類似、リスト間非類似であるS‑D条件 では、リスト内の項目間に共通するカテゴリー名が効果的な検索手掛りとして利用でき、しかも 試行ごとにリストのカテゴリーが変化するため、試行ごとにカテゴ))一割ま効果的な検索の手掛 りとして機能し、それに基づいて項目間の弁別も容易になされるので傾向抑制は形成されなかっ た。
残りの3条件では順向抑制が形成された。 I)スト内、リスト間ともに類似性が存在するS‑S 条件では試行に伴う再生の減少、すなわち傾向抑制がみられた。この条件では、リスト内の項目 間に類似性があり、共通するカテゴT)‑が検索の手掛りとして利用できても、リスト間に存在す
る類似性のため、手掛りの効果的な利用可能性を低下させる。それに伴い、現試行と先行試行と の項目の弁別も困難になっていく、その結果として傾向抑制が形成された。リスト内、リスト問
ともに非類似のD‑D条件では、 S‑S条件と同程度の傾向抑制の形成がみられた。この条件で は、リスト内、 ))スト問のいずれにも共通するカテゴリーが存在しないので、カテゴリー手掛り は利用できず、試行を重ねるにつれて先行試行と現試行との項目の弁別のみが困難となり、順向 抑制が形成された。リスト内非類似、リスト間類似であるD‑S条件では、最初に大きな順向抑 制が形成され、それ以降は再生の減少はみられなかった。これは、最初の試行ではリスト内非類 似のため共通した手掛りが利用できないが、第2試行以降はリスト間に類似するカテゴリーが存 在するので、それを手掛りとして利用する可能性が高くなり、それによって項目間の弁別性の低 下も少なくなったことによるものである。
また、順向抑制が形成される原因が主として記銘時か、検索時のいずれの段階にあるのかを検 討するために、 Brown‑Peterson試行が終った後で、それまでの試行で提示されたすべての項目
259
を再生する最終自由再生を求めた。もし、記銘時に原因があるならば、 Brown‑Peterson 試行 でみられた再生の減少パターンは最終自由再生においても同様にみられるだろう(Radtke &
Grove, 1977; Radtke, Grove, & Talasli, 1982)。他方、検索時に原因があるならば、記銘は十 分になされていると考えられるので、最終自由再生のように検索時の弁別的な困難さが取り除か れた状況では、 Brown‑Peterson試行でみられたような試行に伴う再生の減少パターンはみられ ないことが予想される(Loftus & Patterson, 1975; Watkins & Watkins, 1975),結果は、
Brown‑Peterson試行で順向抑制が形成されたS‑S条件、 D‑S条件、 D‑D条件のいずれの 条件においても、試行に伴う再生の減少はみられなかった。この結果は、検索段階に原因がある と考える立場を支持するものであった。
以上の結果から、カテゴリーの類似性が利用できるような項目))ストにおける順向抑制の形成 は、試行を重ねるにつれて項目が記銘され、貯蔵されていても、リスト項目の意味的類似性によ り、検索時に一時的に手掛りの効果的な利用ができなくなり、それに伴って、その試行で想起す べき項目と先行試行項目との弁別が徐々に困難になっていく結果と解釈することができた。
ところで、有意味材料にはカテゴリーのような意味的類似性の他、音親、形態に基づく類似性 の存在が考えられる。これまでにも、いずれかの属性の類似性に基づいて構成されたリスト条 件での検討がなされており、類似性が高い程、干渉の程度も大きいことが明らかにされている (Bimbaum, 1974; Corman & Wickens, 1978; Delaney & Logan, 1979; Loess, 1968;辰野、
1973; Wickelgren, 1965; Wickens, Born, & Al一en, 1963),しかし、いずれの類似属性が傾向 抑制の形成により強く影響するのかは、筆者がこれまでに検討してきた検索手掛りの効果的な利 用可能性と項目の弁別性の機能を検討する上においても関心のもたれる点である。これまで、干 渉の研究ではあまり検討がなされてこなかった漢字に注目した場合、漢字には同音、類音の語が 多いことや、同一あるいは類似した部首や概形をもった語が多いことがわかる。また、このよう
な特徴が漢字の学習や記憶に影響することも指摘されている(海保と野村、 1983)。
本研究では、傾向抑制の形成に関与すると仮定される検索手掛りの効果的な利用可能性と、項 目間の弁別性の要因について、これまで概念カテゴリー項目を用いて検討してきた結果の一般性 をさらに吟味するため、実験Iでは漢字の音観的類似性、実験Ⅱでは漢字の形態的類似性が傾向 抑制の形成に及ぼす効果について、それぞれリスト内、及びリスト問の類似性により構成された リスト条件を用いることにより検討することを主な目的とした。もし、漢字属性の類似性の場合 にも、リスト内あるいはリスト間の共通な属性が検索の手掛りとして機能するならば、それが弁 別的に利用できるS‑D条件では傾向抑制は形成されないだろう。しかし、検索的な手掛りを弁 別的に利用できないS‑S条件では傾向抑制を受けるだろう。また、 D‑S条件においては、検 索手掛りが弁別的に利用できる時点から順向抑制は形成されないだろう D‑D条件は共通な手 掛りが利用できないので、項目間の弁別性の低下により傾向抑制が形成されるだろう。
また、これまでの研究においても検討してきたように、最終自由再生テストを用いて傾向抑制 の形成が、記銘あるいは検索のいずれの段階での手掛りの効果的な利用可能性や、項目の弁別性 の低下によるものであるのかについても併せて検討することにした。
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目的 漢字の音韻的類似性が傾向抑制の形成に及ぼす効果について、リスト内とリスト間の
順向抑制の形成に及ぼす漢字属性の類似性の効果 類似性の有無に基づいて構成されたリスト条件を用いて検討する。
261
方法 (1)実験計画‑実験計画は4× 3の要因計画であった。第1の要因はリスト条件で、
リスト内と))スト問の類似性の組合せにより構成された Similar‑Simi】ar条件(以下S‑S条 件)、 Similar‑Dissimilar条件(以下SID条件)、 Dissimilar‑Similar条件(以下D‑S条件)、
DissimilaトDissimilar条件(以下D‑D条件)であった。第2の要因は試行数で、第1試行か ら第3試行までであった。なお、第1要因は被験者間、第2要因は被験者内の要因であった。
(2)被験者‑被験者は、この種の実験に未経験な大学生96名(平均年齢19歳8か月:範囲18歳 3か月〜24歳4か月)であった。これらの被験者は、各リスト条件ごとに24名ずつ割りあてらゎ た。
(3ほ己銘))ストおよび装置‑記銘リストには、海保と野村(1983)の「学習漢字の諸特性と読 み書き成績の一覧表」を参考にして選択した清音2個を持つ漢字42字が用いられた。 1リストは
3項目から成り、リスト間で画数、熟知度、音主率、および同じ音を持つ漢字の母集団の大きさ ができるだけ等しくなるように考慮して作成された。漢字は邦文タイプで打ったものをスライド にした。 1枚のスライドには、漢字が縦と横をひとつずつ右方向にずらして並べられた。表1は 実験に用いたリスト項目を条件別に示したものである。
S‑S条件では、リストは第1試行から第3試行まですべて同一の音(「カン」、または「ト ウ」)を持つ漢字のみで構成されている。 S‑D条件では、リストは「カン」、 「ヨウ」、 「ケイ」
(または、 「トウ」、 「カイ」、 「シン」)のように試行ごとにリスト全体の音が異なる漢字で構成さ れている。 D‑S条件では、 T)ストはどの試行でも、「カン、ヨウ、ケイ」(または、「トウ、カ ィ、シン」)の音を持つ漢字で構成されている。 DID条件では、リス‑トはすべて異なる音を持 つ漢字で構成されている。
なお、それぞれのリストの漢字の選択にあたっては、形態的な類似性を持たないようにできる だけ統制した。また、各条件ともリスト内及びリスト問の漢字の配列位置と提示順序の異なるリ ストを2種類ずつ用意した。これとは別に、
それぞれのリスト条件に合わせて練習課題 用のリストを2試行分作成した。これらの
リストは、本課題で用いられた音とは異な る音の漢字で構成されていた。
スライドの提示.には、 Kodak Ektagra‑
phic Slide Projectorを用い、項目提示時 間、リスト間間隔などの時間の制御には、
三和工業製Digital Time Regulatorを用 いた。また、把持時間、再生時間及び試行 間間隔の測定にはストップウォッチを使用
した。
(4)手続き‑実験は個別に行われた。被 験者が所定の位置につくと、氏名、生年月 日などを尋ねたあと、次のような旨の教示 を与え、実験を開始した。
表1 実験Iで用いた記銘リスト
\ 試行リスト1 リスト2 リスト条蔚\ 1 2 3 1 2 3
S‑S
感 簡 看 観 完 幹 刊 漠 館
景 誓 系 曜 用 容 刊 漢 館
容 系 館 警 漠 用 刊 曜 景
鏡 察 均 校 典 歴 刊 曜 景
登 糖 討 燈 投 覚 当 等 統
信 新 臣 解 回 械 当 等 統
械 臣 統 新 等 回 当 解 信
類 論 活 貞 封 総 当 解 信
"今から、幾つかの漢字を見せますので、その漢字の音を読んでから、しっかりと覚えて下さ い。漢字に続いて数字が出てきた時には声に出して、その数字から3ずつ小さい方‑引いて行
って下さい。そのあと、スクリーンに『*想い出した臓に書いて下さい。』という教示が出て きますから、今覚えた漢字をできるだけ多く想い出して書いて下さい。このような課題が数回 続きます。暗算も漢字を覚えることもどちらも大切な課題ですから、がんばって下さい。"
教示が終わると、タイムレギュレーターのスイッチを入れ、プロジェクターを作動させた。項目 の提示は3項目同時提示で、提示時間は2.5秒であった。 『*では、始めます。』の教示スライド の後、 3項目が同時に提示された。それに続いて3桁の整数が20秒間提示され、その間、被験者 には減算課題を声に出して行わさせた。続いて『*想い出した順に書いて下さい。』の教示スラ イドが提示され、筆答による15秒間の自由再生が行われた。
試行問間隔を2.0秒とり、同様な手続きで3試行が繰り返された。また、第3試行が終った後、
「練習課題以外で覚えたすべての漢字をどんな順序でもよろしいから想い出して書いて下さい。」
という教示を与えて、最終自由再生テストを45秒間行った。なお、実際には表1に示したリスト 1を先に用い、 1分間の時間間隔を置いた後にリスト2について実験を行った。
結果 結果の処理に際しては、 2種類のリストの成績を平均したものを用いた。
(l)Brown‑Peterson 試行の成績‑項目の提示位置に関係なく正しく再生された項目の再生率を 求め、条件別に示したのが図1である。角変換した倍の平均値について4 (条件) ×3 (試行) の分散分析を行った。その結果、リスト条件(F‑3.35, df‑3 と 92, /><.05)と試行(F‑
18.45, df‑2 と184, p<.01)の主効果、及びリスト条件×試行の交互作用(F‑2.36, rf/‑6 と184, ♪<.05)がそれぞれ有意であった。
交互作用が有意になったので、単純効果の検定を行った。最初に、試行に伴う再生率の変化を 条件別にみたところ、 S‑S条件では第1試行と第2試行、第2試行と第3試行の間にそれぞれ 有意差がみられた(t卜2(184)‑3.21, /サ<.01; f2‑3(184)‑2.63, p<.01)。 S‑D条件では、どの 試行問にも有意差はみられなかった D‑S条件では、第1試行と第2試行の間にのみ有意差が
図1 Brown‑Peterson試行における 条件ごとの平均正再生率
図2 最終自由再生テストにおける条件 ごとの平均正再生率
傾向抑制の形成に及ぼす漢字属性の類似性の効果
263
みられた(*(184)‑2.43,/<.05)。 D‑D条件では、第1試行と第3試行の間にのみ有意差がみ られた(f(184)‑2.96, ♪<.Ol),
次に、試行ごとに条件問の差をみたところ、第1試行では、どの条件間においても有意差はみ られなかった。第2試行では、 D‑D条件とD‑S条件との問に有意差がみられた(t(276)‑
2.00,pく.05),第3試行では、 S‑S条件とS‑D条件(f(276)‑3.73, p<.001)、 D‑S条件 (/(276)‑2.82, p<.Ol)、及びD‑D条件(*(276) ‑2.96, p<.01)との間にそれぞれ有意差が みられた。
(2)最終自由再生テストの成績‑項目の提示位置に関係なく正しく再生された項目の再生率を求 め、条件別に示したのが図2である。角変換した値の平均値について4 (条件) ×3 (試行)の 分散分析を行った。その結果、リスト条件(F‑2.55, df‑3と92, n.s.)、試行(F‑0.59, df
‑2と184, n.s.)の主効果、及びリスト条件×試行(F‑1.07, df‑6 と184, n.s.)の交互作 用のいずれも有意でなかった。
考察 Brown‑Peterson試行の第1試行では、 4条件間に有意な差がみられなかった。この 結果は、リスト内に類似性があり、カテゴリー名を検索手掛りとして利用できるS‑S条件とS
‑D条件が、リスト内に類似性がなく、検索手掛りの利用できないD‑S条件とD‑D条件より も再生成績が良かった藤田(1985)の結果とは異なるものであった。
次に、第2試行以降の再生成績を比較してみると、検索手掛りの効果的な利用可能性と項目の 弁別性の要因に基づいて予想したように、傾向抑制が形成された条件と傾向抑制が形成されなか った条件に明白に分かれた.魔向抑制が形成されなかったのは、リスト内が類似、リスト問が非 類似であるS‑D条件のみであった。藤田(1985)では、この条件は各試行とも85%の再生率を 示していたが、漢字の場合には第1試行77%、第2試行74%、第3試行70%と統計的には有意で はなかったが、若干の再生率の減少がみられた。この条件では、リスト内類似、リスト間非類似 であるので試行ごとに、リストに共通する音が変化するため、リスト内の項目に共通する音が検 索の手掛りとして利用できる。それに伴って、項目の弁別も容易になされるので、傾向抑制が形 成されなかったものと考えられる。しかしながら、漢字の場合、検索手掛りの弁別的な機能は、
カテゴリーの場合ほど効果的でないのかもしれない。
残りの3条件では、順向抑制が形成された。リスト内、リスト問ともに類似性があるS‑S条 件では、第1試行から第3試行にかけての他の条件より大きな傾向抑制の形成がみられた。この 条件では、リスト内の項目間に類似性があり、共通するカテゴリーが検索の手掛りとして利用で
きても、リスト問に存在する類似性のため、この手掛りの弁別的な利用可能性を低下させ、しか も現試行と先行試行との項目の弁別も困難になっていく結果として、大きな順向抑制が形成され たものと思われる。リスト内、リスト間ともに非類似のD‑D条件では、第1試行から第3試行 にかけて再生数が減少し、傾向抑制の形成がみられた。この条件では、リスト内、リスト間のい ずれにも共通した音をもつ漢字が存在しないので、共通した音が手掛りととして利用できない。
それ故、主に先行試行と現試行との項目の弁別が困難になる結果として順向抑制が形成されたも のと考えられる。リスト内非類似、リスト問類似のD‑S条件では、第1試行から第2試行にか けてのみ再生の減少がみられたが、それ以降は減少がみられなかった。この条件では、第3試行 ではリスト問に存在する音の類似性に気づき、それを検索の手掛りとして利用し始めたので、そ れ以上の傾向抑制が生じなかったと考えられる。
ところで、カテゴ))‑リストの場合と大きく異なる点は、 D‑D条件で傾向抑制が比較的ゆる やかであった結果である。この条件では、項目間の弁別性の低下により傾向抑制を生じることが 考えられるが、漢字の場合、リスト内に共通する手掛りが存在しないことがむしろ、個々の漢字 の意味的、形態的、音韻的な属性を弁別的に利用する可能性を高くし、傾向抑制の形成を弱めた のかもしれない。
最終自由再生テストの結果では、 Brown‑Peterson試行で順向抑制の形成されたいずれの条件 においても試行に伴う再生率の減少はみられなかった。この結果は、カテゴリー項目リストを用 いた先の研究(藤田、 1985)の結果とも一致し、傾向抑制の形成される原因は検索段階にあると 主張する立場(Loftus & Patterson, 1975; Watkins & Watkins, 1975)を支持するものであ る。
K^^^^^^MZ‑fJi …
目的 漢字の形態的類似性が傾向抑制の形成に及ぼす効果について、リスト内とリスト問の
1
類似性の有無に基づいて構成されたリスト条件を用いて検討する。
方法 (1)実験計画‑実験計画は4× 3の要因計画であった。第1の要因はリスト条件で、
実験Iと同様リスト内とリスト間の類似性の組合せにより構成されたS‑S条件、 S‑D条件、
D‑S条件、 D‑D条件であった。第2の要因は試行数で、第1試行から第3試行までであった。
なお、第1要因は被験者問、第2要因は被験者内要因であった。
(2)被験者‑被験者は実験Iに参加した者とは別の大学生96名(平均年齢19歳5か月:範囲18 歳3か月〜21歳11か月)であった。これらの被験者は、各リスト条件ごとに24名ずつ割りあてら れた。
(3)記銘リストおよび装置‑記銘リストには、実験Iと同様、海保と野村(1983)の「学習漠 表2 実験Iで用いた記銘リスト
\ 試行リスト1 リスト2 I)スト条巌\ 1 2 3 1 2 3
S‑S
担 技 推 拝 採 接 拡 授 批
往 後 従 径 得 律 徒 役 復
S‑D
連 退 造 宣 宗 実 拡 授 批
忠 恩 念 陽 陛 険 徒 役 復
D‑S
実 造 批 退 宗 授 拡 宣 連
険 念 復 恩 役 陛 徒 陽 忠
D‑D
責 黍 敬 在 要 的 拡 墨 還
単 制 秘 快 堂 信 徒 陽 忠
字の諸特性と読み書き成績の一覧表」を参 考にした選択した教育漢字42字が用いられ た。リストは表2に示されるように、異な る部首を持つ漢字からリストが2種類用意 された。 1リストは3項目から成り、リス ト間の画数、熟知度、音主率、および漢字 が属する母集団の大きさができるだけ等し くなるように考慮して作成された。漢字は 邦文タイプで打ったものをスライ下にした。
1枚のスライドには、漢字が右方向‑ひと つずつずらして並べられた。表2は実験に 用いたリスト項目を条件別に示したもので
ある。
S‑S条件では、リストは第1試行から 第3試行まで、すべて同じ部首(「才」、ま たは「才」)を持つ漢字のみから選ばれた
傾向抑制の形成に及ぼす漢字属性の類似性の効果
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もので構成されている S‑D条件では、リストは「才、{、L(または、才、 ri、心)」のよ うに、試行ごとに部首が異なる漢字で構成されている。 D‑S条件では、リストは各試行が「才、
r*‑r、 L (または、才、 r;、心)」の部首を持つ漢字からひとつずつ選ばれたもので構成されてい る。 D‑D条件では、リストはすべて同一の部首を持たない漢字で構成されている。
なお、それぞれのリストの漢字の選択にあたっては、音組的に類似した漢字はなるべく含まな いように統制した。また、各条件ともリスト内およびリスト間の漢字の配列位置と提示順序の異 なるリストを2種類ずつ用意した。これとは別に、それぞれのリスト条件に合わせて練習課題用 のリストを1試行分作成した。このリストは、本課題で用いられた部首とは異なる部首を持つ漢 字で構成されていた。
スライドの提示、および時間の制御に用いた装置は実験Iと同じであった。
(4)手続き‑記銘の際、 ̀̀漢字をよく見て覚えるように"との教示を与えた以外は、項目提示 時間、把持時間、再生時間、再生方法、試行数など、手続きはすべて実験Tと同じであった。
Brown‑Peterson 試行が3試行終ったあとで、最終自由再生テストを行った点も同じであった。
結果 結果の処理に際しては、 2種類のリストの成績を平均したものを用いた。
(l)Brown‑Peterson 試行の成績‑項目の提示位置に関係なく正しく再生された項目の再生率を 求め、条件別に示したのが図3である。角変換した値の平均値について4 (条件) ×3 (試行) の分散分析を行った。その結果、試行(F‑49.03, df‑2と184, ♪<・001)の主効果が有意で あり、リスト条件(F‑2.15, df‑Zと92,.05</><.10)の主効果には有意な傾向があったo
しかし、リスト条件×試行の交互作用は有意ではなかった(F‑1.49, df‑6と184, n.s.)。試 行について主効果の検定を行ったところ、第1試行と第2試行の間に有意差が見られた(t(184
‑3.79, l<.OOl)が、第2試行と第3試行の間には有意差は見られなかった。
(2)最終自由再生テストの成績‑項目の提示位置に関係なく正しく再生された項目の再生率を求 め、条件別に示したのが図4である。角変換した値の平均値について4 (条件) ×3 (試行)の 分散分析を行った。 .)スト条件(F‑1.51, df‑3と92, n.s.)、試行(F‑l.ll, df‑2と184,
辛 均 80
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再 70
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率 60 症撃ssDD ‑ i
1 2 3 試 行
図3 Brown‑Peterson試行における 条件ごとの平均正角生率
1 2 3
試 行
図4 最終自由再生テストにおける条件 ごとの平均正再生率
n.s.)の主効果、リスト条件×試行(F‑1.64, df‑6と184, n.s.)の交互作用のいずれも有意 ではなかった。
考察 Brown‑Peterson試行の第1試行では、同音漢字リストの場合と同様、 4つのリスト 条件間に統計的に有意な差はみられなかった。しかし、 D‑S条件とD‑D条件の方が、 SIS 条件やs‑D条件よりも再生率が高くなっており、この点はカテゴリー項目リストを用いた藤田
(1985)のS‑S条件とS‑D条件がD‑S条件とDID条件よりも再生率が高かったという結 果とは一致しない。これについては、 3つの漢字に共通する同一部首より、項目間の類似性が高 まり、弁別を困難にしたことが関係しているのかもしれない。
試行に伴う再生率の減少には、条件間に有意な違いはなく、いずれの条件においても第1試 行から第2試行にかけて順向抑制の形成がみられた。特に、従来の結栄(藤田、 1982、 1985;
Russ‑Eft, 1979)や音払リストの結果(実験I)と大きく異なる点は、 S‑D条件においてJTB向 抑制が形成された点である。しかしながら、この条件では第1試行から第3試行にかけての再生 率の減少は78%から63%と比較的ゆるやかで、他の3条件の減少率よりも小さいものであった。
実験Ⅱでは、同一部首を持つ漢字を類似項目として用いた。この条件では、全員の被験者がリス ト内に共通する部首の存在に気づいてはいた。しかし、部首そのものは漢字を構成するひとつの 要素にしかすぎないので、検索時の共通手掛りとしては比較的弱くしか機能せず、リスト問の項
目の弁別をも促進しなかったと考えられる。また、 D‑S条件における第2試行から第3試行に かけての減少は、藤田(1985)や同音漢字リストの場合にはみられなかったもので、同一部首に
よる検索手掛りとしての機能の弱さが影響したことによるものと考えられる。
最終自由再生テストの結果は、すべての条件で試行に伴う再生率の減少はみられなかった。
この結果は、同音漢字の場合と同様、検索時に傾向抑制が形成される原因があると考える立場 (Loftus & Patterson, 1975; Watkins & Watkins, 1975)を支持するものであった。
本研究では、順向抑制の形成に関係すると仮定される検索手掛りの効果的な利用可能性と項目 間の弁別性の機能の一般性を吟味するために、漢字の音出的類似性(実験I)と形態的類似性
(実験Ⅱ)の及ぼす効果について検討した。その結果、音親的類似性の場合には、リストに共通 する音が検索的な手掛りとして利用され、カテゴリー名が検索手掛りとして機能する場合とほぼ 同様に機能していることが明らかにされた。しかしながら、同一部首に基づく形態的類似性の場 合は、同一部首は手掛りとしては効果的に利用されにくいものであることが明らかにされた。木 研究では、漢字の類似性として音韻と形態のみに注目し、リスト項目の選択の際には他の属性の 影響をできるだけ小さくするように心がけた。しかしながら、漢字の情報処理に際しては、意味、
形態、音韻のそれぞれの処理の相互の影響が生じやすいので(海保と野村、 1983)、今後この点 を留意して検討することが必要であると思われる。
要 約
傾向抑制の形成に関係すると仮定される検索手掛りの効果的な利用可能性と、項目間の弁別性 の機能の一般性を吟味するために、漢字の音軸的類似性(実験T)と形態的類似性(実験II)が 順向抑制の形成に及ぼす効果について検討した。
実験Iでは、大学生96名が漢字の音韻的類似性に基づいて構成されたS‑S条件、 S‑D条件
傾向抑制の形成に及ぼす漢字属性の類似性の効果
267
D‑S条件、 D‑D条件のいずれかに割りあてられた。 3項目が同時に提示(2.5秒間)され、
リハーサル妨害課題(20秒間)を行った後、書記再生(15秒間)が行われた。 3試行が終った 後それまでに提示された項目のすべてを再生する最終自由再生テストが行われた。その結果、
Brown‑Peterson試行において、 S‑D条件では順向抑制は形成されなかった。 S‑S条件では 急激な順向抑制が形成された。 D‑D条件では順向抑制が形成されたが、 S‑S条件よりもゆる やかであった。 D‑S条件では第1試行から第2試行にかけては順向抑制が形成されたが、それ 以降は再生の低下はみられなかった。最終自由再生テストにおいては、順向抑制が形成された S‑S条件、 D‑S条件、 D‑D条件のいずれにおいても試行に伴う再生の減少はみられなかっ た。
実験Ⅲでは、大学生96名が漢字の形態的類似性に基づき構成された実験Iと同様な4つのリス ト条件のいずれかに割りあてられた。手続きに関しては、実験l とほぼ同様であった。その結果 BrowrトPeterson 試行においては、すべての条件においてほぼ同程度、第1試行から第2試行に
かけて大きな順向抑制が形成された。また、最終自由再生テストにおいては、すべてのリスト条 件で試行に伴う再生の減少はみられなかった。
順向抑制が、検索時の手掛りの効果的な利用可能性と項目の弁別性の低下により形戊されると いう仮説は、漢字の音加的類似性の場合には強く支持されたが、形態的類似性の場合には十分に は支持されなかった。
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〔付記〕実験の実施とデーターの分析に際して後藤由美子さん、山科香さんの多大な協力を得た。ここに記し て厚く御礼申し上げます。
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The Effects of List Similarity upon the Buildup of Proactive Inhibition with Chinese Letter, Kanji
Tadashi FujlTA
{Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan) (Received April 30, 1986)
The purpose of this study was to examine the effects of list similarity on buildup of proactive inhibition by manipulating both within list similarity and between list similarity on acoustic property (Exp. 1) and on figurative property (Exp. 2) of Kanji.
In Exp. 1, 96 students were assigned to one of the four list conditions (see Table 1).
Each list consisted of three Kanji letters. Under the S‑S condition, all list in three trials consisted of Kanji letters from the same acoustic articulation. Under the S‑D condition, two lists in adjacent trials consisted of Kanji letters from different acoustic articulation.
Under the D‑S condition, each list consisted of three letters each of which were selected from different acoustic articulation. Under the D‑D condition, each consisted of three letters from unrelated acoustic articulations throughout the trials.
Three items were presented simultaneously by the slide projector at a 2. 5 sec. rate, which was followed by the distractor task (20 sec.). Then written recall test was given for 15 sec. After the third trial was over,伝nal free recall test was required to write all items presented from lst through 3rd trials.
The main results were as follows: PI was not built up as a function of trials under the S‑D condition, but PI was built up as a function of trials under the S‑S, D‑S and D‑D conditions. The amount of PI was larger the S‑S than the D‑D and D‑S conditions (see Fig. 1). The performance of final free recall test under the S‑S, D‑S and D‑D condi‑
tions did not decrease as a function of trials (see Fig.2).
In Exp.2, Ss were 96 students who did not participate at Exp. 1. They were assigned of one of the same four list conditions as Exp.1. The lists of Exp.2 consisted of both within‑list similarity and between list similarity by manipulated on the same radical of Kanji. The procedures were almost identical to Exp. 1.
The main results were as follows:工n all list conditions, PI was built up as a function of trials at about the same level (see Fig.3). The丘nding that PI was built up under the S‑D condition did not support our prediction. The performance of final free recall test under the all conditions did not decrease as a function of trials (see Fig.4).
Our hypothesis that the build up of PI was due to both effectiveness of retrieval cue and discriminability of list items in the phase of retrieval was supported strongly for the acoustic similarity, but weakly for the丘gurative similarity of Kanji.