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順向干渉の形成に及ぼす漢字の部首手掛りの効果

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

順向干渉の形成に及ぼす漢字の部首手掛りの効果

著者 藤田 正

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 41

号 1

ページ 181‑189

発行年 1992‑11‑25

その他のタイトル Effects of Radical Cues in Kanji upon Buildup of Proactive Interference

URL http://hdl.handle.net/10105/1756

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順向干渉の形成に及ぼす漢字の部首手掛りの効果

藤 田   正 (奈良教育大学心理学教室)

(平成4年4月30日受理)

我々が日常経験する忘却は、手掛かり依存的(cue‑dependent)なものであるという考え方 が提唱されている(Tulving, 1974)c 忘却の有力な要因であるといわれてきた干渉も、その一 部には、手掛かり依存的な要因が関係していることが、従来の研究を吟味する中で明らかにされ てきた(Wessells, 1982)。本研究は、短期記憶における順向干渉の形成や解除も、手掛かりの 弁別機能に依存しているという基本的な考え方に立って、手掛かりの機能と干渉の関係を漢字の 部首が手掛かりとして機能する材料を用いて検討しようとするものである。

Keppel and Underwood (1962)が、 Brown‑Petersonパラダイムを用いて短期記憶におけ る忘却にも順向干渉が関係していることを兄いだして以来、順向干渉の形成や解除に影響する要 因やメカニズムに関して数多くの研究が行われてきた(Underwood, 1982; Wickens, 1972)c 初期の研究では、リスト項目に数字や無意味綴りを用いて検討がなされ、長期記憶の場合と同様

に、項目の物理的類似性が干渉形成の重要な要因であり、類似する記憶痕跡間の親合により干渉 が生じることが明らかにされた(Crowder, 1976)c 一方、近年よく用いられているカテゴリー 項目リストでは、むしろ項目間に共通する意味属性から表象されたカテゴリー名などが、符号化 や検索時に手掛かりとして弁別的に使用できず干渉が生じることが示唆されている。しかし、こ れまでのところ記憶手掛かりの機能から干渉を明確に説明したのは、 Watkins and Watkins (1975)が提唱する手掛かり過重負荷(cue‑overload)説以外にはない。しかも、このような記 憶手掛かりの機能と干渉の関係に関しての理論的、実験的な検討は必ずしも十分には行われずに 現在に至っている。

このような順向干渉に及ぼす記憶手掛かりの機能について検討するために、藤田(1985)は、

全試行が同じカテゴリーの項目で構成された非弁別リストと、試行ごとにリストを構成するカテ ゴリーが変わる弁別リストを用いて、試行に伴う再生成績を比較するという方法を考案した。弁 別リストでは、試行毎にリストのカテゴリーが変化するので、各試行において異なるカテゴリー 名を手掛かりとして用いた弁別的な符号化と検索が可能であり、傾向干渉は形成されない。他方、

非弁別リストでは全試行が同一カテゴリーの項目で構成されているので、同じカテゴリー名が手 掛かりとして利用されるので、試行が進むにつれて弁別的な符号化と検索が困難になり、傾向干 渉が形成される。したがって、両リスト問の差は試行に伴い大きくなることが予想された。結果 は、予想したように弁別リストでは試行に伴い再生率の減少はなかったが、非弁別リストでは試 行に伴い再生率は大きく減少した。さらに、試行に伴うリスト間の差も大きくなった。これらの 結果から、順向干渉の形成には記憶手掛かりの弁別機能の低下が関係していることが明らかにさ れた。

さらに藤田(1986)は、手掛かりの機能と干渉の関係についてより包括的な検討を行うために、

181

(3)

182

藤 田   正

これまで検討されてこなかった漢字を材料として用いた。漢字を扱う場合、漢字の形、音、意味 のいずれかの属性の類似性に基づいたリスト構成が行われるが、短期的情報処理の段階では、音 韻処理がより有効に行われるので、漢字の音韻手掛かりの機能と順向干渉の関係が検討された。

結果は、すべての試行が同音漢字で構成された非弁別リスト(例えば、第1試行:刊、漢、館;

第2試行:観、完、幹;第3試行:感、簡、看)では、試行に伴って再生が顕著に低下し、順向 干渉が形成された。他方、リスト内に共通する漢字の音が試行毎に変化するリスト(例えば、第 1試行:刊、漠、館;第2試行:曙、用、容;第3試行:景、肇、系)では、試行に伴う再生の 変化はみられず、順向干渉は形成されなかった。また、試行とともに、両リスト間の再生の差は

大きくなった。この結果は、少なくとも漢字の音韻属性については、カテゴリー項目リストの場 合と同様に、共通属性に基づいて抽象された手掛かりが同じ符号化、または検索に使用されねば ならないので、手掛かりの弁別的な機能特性の低下を起こし、その結果として順向干渉が形成さ れることが明らかになった。

ところで、漢字には音韻属性以外に形態属性や意味属性がある。これらの属性に基づく手掛か りの場合にも、手掛かりの弁別機能の低下によって干渉が形成されるだろうか。本研究では、漢 字を材料とした場合の手掛かりの機能と干渉の形成の関係についてさらに検討するために、漢字

の形態属性を取り上げた。漢字の形態属性の内、記憶の手掛かりとして利用されやすい部首に注 目し、部首が記憶手掛かりとしてどのように機能し、順向干渉の形成と関係するのかについて検 討することを目的とした。

実   験 1

日  的

漢字の形態属性が手掛かりとして利用される場合の順向干渉の形成を検討するために、同一部 首をもつ漢字を用いて2つのリストを構成した。リスト内に共通する部首が手掛かりとして利用 されるならば、全試行が同一部首の漢字で構成された非弁別リストでは、試行が繰り返されるに 伴い、部首の類似性のために手掛かりによる弁別的な符号化、検索ができなくなるので順向干渉

が形成される。しかし、試行ごとにリストを構成する漢字の部首が変化する弁別リストでは、部 首が類似していないので試行ごとに手掛かりによる弁別的な符号化、検索が効果的に行われ、順

向干渉が形成されないことが予想される。

方  法

(1)実験計画‑2(リスト条件)×3(試行)の要因計画であった。リスト条件は、試行ごと にリスト内で共通する部首が異なる漢字で構成された弁別リスト条件と全試行が同一部首の漢字 で構成された非弁別リスト条件であった。試行の要因は、第1試行から第3試行までであり、被 験者内の要因であった。

(2)被験者‑被験者は、大学生48名(平均年齢19歳5カ月:範囲18歳3カ月から21歳 11カ月)であった。これらの被験者は、各リスト条件に24名ずつ割り当てられた。

(3)記銘リスト及び装置‑記銘リストには、海保・野村(1983)を参考にして選択した教 育漢字42字が用いられた。 1リストは3項目から成り、リスト間の画数、熟知度、音主率、及 び漢字の属する母集団の大きさができるだけ等しくなるように作成した。漢字は邦文タイプで 打ったものをスライドにし、 1枚のスライドには3つの漢字が等間隔で右下がりに配列されてい

(4)

Tab一e 1 List items used in Experiment 1

list 1 list 2

list condition      1 2 3 1 2 3

discriminative

拡 宣 連 徒 陽 忠 授 宗 退 役 陛 恩 批 実 造 復 険 念

nondiscrimmative

拡 拝 担 徒 径 往 授 採 技 役 得 後 批 接 推 復 律 従

る。漢字の選択にあたっては、音韻的に類似 した漢字をなるべく含まないようにし、また、

各リストともリスト内、及びリスト問の漢字 の配列位置と提示順序の異なるリストを2種 類ずつ用意した。

Table lに示されるように、弁別リストは、

「才、 rJ‑、 Lまたは才、 r;、心」のように、

試行ごとに部首が異なる漢字で構成されてい る。非弁別リストは、第1試行から第3試行 まで、すべて同じ部首(「手」、または「才」) をもつ漢字のみから構成されている。これと は別に、それぞれのリスト条件に合わせて練 習課題用リストを2試行分作成した。このリストは、本課題で用いられた漢字とは異なる部首を 持つ漢字で構成されている。

Kodak Ektagraphic Slide Projectorを用いてスライドを提示し、項目提示時間、リスト間 間隔などの時間制御にはサンワ製Digital Time Regulatorを用いた。把持時間、再生時間及び 試行間間隔の測定にはストップウォッチを用いた。

(4)手続き‑実験は個別に行われた。課題についての標準的な教示を与えた後、タイムレ ギュレーターのスイッチを入れ、プロジェクターを作動させ、練習を2試行行った。準備の合図 用のスライドの後、 3項目が同時に2.5秒間提示された。それに続いてリハーサル妨害課題とし て、 3桁の整数について3ずつ小さい方へ減算させる課題を20秒間行わせた。続いて再生用の 教示スライドが提示され、筆答による自由再生が15秒間行われた。試行間間隔を2秒間とり、

同様な手続きが2試行繰り返された。続いて同じ手続きによって本課題を3試行行った。全員が リスト1を行ってから1分間の時間間隔を置き、リスト2についても同じ手続きで3試行繰り返

㈱   o

>

  s       榊   帥

tl

1﹂く3山∝トU山∝∝QU轟けlud

3 TRIALS Fig. 1 Mean percent of correct recall in each trial (Exp. 1 and 2)

(5)

184

藤 田   正

された。

結  果

(1)正再生率‑2つのリストについて、項目提示順序に関係なく正しく再生された項目の 再生率を求め、その平均した値を個人の再生率とした Fig. 1 (破線の図)はリスト別の平均 値を図示したものである。検定に際しては、個人の再生率を角変換し、その平均値を用いて2 (リスト条件)×3(試行)の分散分析を行った。その結果、リスト(F‑4.61, df‑1/46, p<

.05)と、試行(F‑ 19.ll, df‑2/92, p<.01)の主効果がそれぞれ有意であったが、交互作

Table 2 Mean percent of mtralist intrusion

errors as a function of trials in

Exp.1 and Exp. 2

list condition

1  2   3

Exp. 1 discriminative   ‑ 0.00 0.00 nondiscriminative  ‑ 1.59 4.76

Exp. 2 discriminative   ‑ 0.00 1.59 nondiscriminative  ‑ 4.76 7.94

用(F‑1.44, df‑2/92, n.s.)は有意で なかった。試行の主効果に関しては、第1試 行と第2試行の間が有意であったが、第2試 行と第3試行の問は有意でなかった。

(2)エラー率 ‑Table2 (上欄)は、

リスト内侵入エラー(Intrusion error)に ついて平均エラー率をまとめたものである。

リスト内侵入エラーについては、弁別リスト でエラ‑がみられなかったので検定は行われ なかったが、非弁別リスト条件では試行とと

もに侵入エラーが増加している。

%  m

正再生率は標本値では、非弁別リスト条件に比べて弁別リスト条件の方が再生率の減少が小さ く、第2試行及び第3試行にかけて両リスト条件の差は開く傾向にあったが、交互作用は有意で なかった。この結果は、程度の差はあるものの、両リスト条件とも順向干渉が形成されていたこ とを示すものである。

非弁別リスト条件では、予想通り試行に伴う再生率の減少がみられた。これは、リスト内に共 通する部首がリスト間でも類似しているために、試行の比較的早い時期から検索手掛かりとして 弁別的に利用できなくなり、再生率の低下を生じたものと言える。

予想に反して、弁別リスト条件ではゆるやかではあるが順向干渉が形成された。この結果は、

このリストにおいて手掛かりの弁別機能が十分に働いていなかったことを示している。また、こ れまでのカテゴリー名や漢字の音韻属性が共通手掛かりとして機能する場合の結果(藤田、 1985、

1986)とも不一致の結果であった。しかしながら、第2試行と第3試行では弁別リストの再生率 が非弁別リストの再生率よりも有意に高いので、弁別リスト条件では部首が検索手掛かりとして 利用されていたことは示唆される。

内省報告を分析してみると、両リスト条件ではぼ全員の被験者がリスト内に共通する部首の存 在は気付いていた。しかし、符号化の際には部首に注目した後、それぞれの項目を読んで記銘し ていた。海保・野村(1983)は表音文字の読みの場合には、まず形態処理が行われ、音韻処理、

意味処理へと移行すると述べている。部首そのものは、漢字を構成する一つの要素にしかすぎな いので、形態処理から音韻処理への移行によって、部首の手掛かりとしての機能が弱められたと 考えられる。それ故、弁別手掛かり条件のように、試行毎に異なる部首の漢字が用いられても、

部首の手掛かりとしての機能が検索時に十分に効果的に働かず、ゆるやかな再生率の低下が生じ たものといえる。

(6)

実   験 2

目  的

実験1で用いたのは同部首漢字であったが、リスト内には共通する意味を持たない表音性の高 い所謂、同部首異義漢字であった。それ故、符号化時の音韻処理の影響により部首が手掛かりと

して十分に機能しなかったことが示唆された。

もしそうであれば、同じく部首が手掛かりとして利用される場合でも、表意性の高い同部首類 義漢字から構成されたリストの場合には、部首から喚起される意味を手掛かりとして利用する可 能性(海保、 1975、 1979)が高くなり、部首の形態と意味手掛かりの両方が利用できる。これに より音韻処理による影響が少なくなり、手掛かりの機能がより明権になることが考えられる。実 験2ではこの点から、手掛かりの機能と順向干渉の形成の関係を検討することを目的とした。

方  法

(1)実験計画‑2(リスト条件)×3(試行)の要因計画であった。実験1と同様、リスト条 件は弁別リスト条件と非弁別リスト条件であった。試行の要因は、第1試行から第3試行までで あり、被験者内の要因であった。

(2)被験者‑被験者は大学生42名(平均年齢19歳3カ月:範囲18歳3カ月から23歳7 カ月)であった。これらの被験者は、各リスト条件に21名ずつ割り当てられた。

(3)記銘リスト及び装置‑記銘リストには、実験1と同様、海保・野村(1983)を参考に して選択された「.7、言、木、糸、十十、才」のいずれかの部首をもつ教育漢字60字が用いられ た。リスト項目の選択に際しては、実験2に用いた被験者とは異なる学生45名を用いて予備調 査を行い、その結果に基づいて項目を選択した。実験に用いたリストは、実験1と同様、 1試行 あたり3項目から構成された。なお、リストを作成する上で統制する条件は実験1と全く同じで あった。漢字は邦文タイプで打ったものをスライドにし、 1枚のスライドには3つの漢字が、等

間隔で右下がりに配列されている。

Table 3 List items used in Experiment 2

list 1 list 2

list condition      1 2 3 1 2 3

discriminative

海 説 材 絹 業 投 河 評 植 結 菜 拾 港 詞 板 綿 花 指

nondiscriminative

海 波 流 説 話 談 河 湖 泳 評 講 論 港 洋 漁 詞 訓 訳

Table3は、実験2で用いられたリスト項 目を条件別に示したものである。それぞれの リストの漢字の選択にあたっては、音の類似 した漢字を含まないように考慮した。また、

各条件ともリスト内及びリスト間の漢字の配 列位置と提示順序の異なるリストを3種類ず つ用意した。

弁別リストは、 「ナ、言、木」のように試 行ごとに部首が異なる漢字で構成されている。

非弁別リストは、第1試行から第3試行まで すべて同じ部首(「.7、または言」)をもつ漠 字から構成されている。これとは別に、実験の手続きをよく理解させるために、本課題で用いる 漢字とは部首の異なる漢字を用いて、練習用リストを2試行分作成した。リストの作成条件は、

本課題と同じであった。スライドの提示、項目提示時間等の制御、時間の測定には実験1と同じ 装置を用いた。

(4)手続き‑実験は個別に行われた。手続きの内容は、実験1と全く同じであった。

(7)

186

糠 m iT.

結  果

(1)正再生率‑実験1と同様、 2つのリストの成績を平均したものを用いた。項目の提示 順序に関係なく正しく再生された項目の再生率を求め、平均値を図示したのがFig. 1 (実線の 図)である。個人の再生率を角変換し、その平均値を用いて2(リスト条件)×3(試行)の分散分 析を行った。その結果、リスト条件(F‑9.85, df‑ 1/40, ♪<.01)及び試行(F‑ 14.45, df

‑2/80, p<.01)の主効果が有意になり、リスト×試行(F‑2.25, df‑2/80, p<.10)の 交互作用に有意な傾向がみられた。

交互作用について単純効果の検定を行った。最初に、 Duncan法を用いて試行問の差を検定し た。弁別リスト条件では、いずれの試行間にも有意差はみられなかった。非弁別リスト条件では、

第1試行と第2試行に5%水準で有意差がみられたが、第2試行と第3試行の間には有意差は みられなかった。次に、合成した誤差項(MSe‑230.22)を用いて試行ごとにリスト間の差を 検定した。第1試行では有意差はみられなかったが、第2試行では0.1%水準で、第3試行では

5 %水準で有意差がみられた。

(2)ェラー率 ‑Table2 (下欄)はリスト内侵入エラ‑についてリストごとの平均エラー 率を示したものである。特に、統計的な処理は行わなかったが、非弁別リスト条件では、試行と ともに侵入エラーが増加したが、弁別リスト条件では第3試行でごくわずかにエラーがみられた だけであった。

考  察

実験1の場合と異なり、弁別リスト条件では試行に伴う有意な再生率の減少はみられず、順向 干渉は生じなかった。それに対して非弁別リスト条件では、第1試行から第2試行にかけて有意 な減少がみられ、順向干渉が形成された。また、試行に伴い両リスト条件の差は大きくなった。

この結果から、同部首類義漢字の場合には、部首の形態手掛かりに加えて、部首から喚起され る意味手掛かりが利用されるようになり、手掛かりの弁別機能が効果的に働く場合には順向干渉 は形成されないが、手掛かりの弁別機能が効果的に働かなくなる場合には順向干渉が形成される ことが明らかになった。以上の結果が示すように、同一手掛かりを繰り返し利用することにより、

手掛かりの弁別機能が低下し、順向干渉が形成されるという仮説はほぼ支持された。

ところで、 Fig. 1で明らかなように、両リスト条件とも、どの試行においても、同部首類義 漢字リスト条件の再生率が同部首異義漢字リスト条件の再生率よりも高かった。これは、部首か ら喚起された意味手掛かりが符号化や検索時に効果的に利用されたことによる違いを示すもので ある。しかし、再生率の減少のパターンや減少の程度の違いは、弁別リスト条件では若干みられ たが、非弁別リスト条件ではみられなかった。

因に、両実験の結果を比較するために両実験を併せて2 (漢字のタイプ)×2(リスト)×3(試行) の3要因の分散分析を行った。その結果、漢字のタイプ(F‑ll.57, df‑1/86, p<.01)、リ スト(F‑18.18, d/‑1/86, p<.01)、試行(F‑36.69, df‑2/172, pく.01)の主効果、

及びリスト×試行(F‑5.23, df‑2/172, pく.01)の交互作用が有意になった.しかし、漢 字の特性の違いにより順向干渉の形成の程度に違いを示す2次の交互作用は有意にならなかった。

実験2で用いた同部首類義漢字リストは、実験1で用いた同部首異義漢字リストと比べると、

部首の形態的類似性に加えて、部首の喚起する意味的類似性を持っている。類似属性数の違いと いう観点からみれば、同部首類義漢字の方が類似性が高くなる。したがって、非弁別リスト条件 では、同部首異義漢字リストよりも同部首類義漢字リストの方がより大きな干渉を受けることを

(8)

予想した。しかし、再生率の減少の程度や減少パターンは、両方の漢字でほぼ同じであった。

この結果は、無意味綴りをリスト項目として用いた研究(Delaney & Logan, 1979)でよく 兄いだされたような、類似属性数の増加が単純に順向干渉の大きさに影響を及ぼすようなもので

はなかった。同部首類義漢字の場合は、部首そのものの形態的、物理的な類似性に加えて、部首 から喚起された意味という表象的で、媒介的な類似性が扱われた。それに対して、無意味綴りの 場合は属性の物理的な類似性が扱われてきたという質的な差異による影響があると考えられる。

ところで、同じ意味手掛かりでも、漢字の部首から喚起された意味の場合、手掛かりの意味内 容がカテゴリー名のように一つに限定されたものになりにくいという特性の違いがあり、その点 がカテゴリー名や音韻手掛かりが利用できる場合の結果と違いを生じている可能性がある。

本研究の結果から、部首から喚起された意味手掛かりが利用された結果、音韻処理の影響を少 なくし、それが弁別的に利用できる場合には符号化や検索を促進したが、逆に弁別的に利用でき ない場合には、手掛かりの弁別機能の低下に影響を及ぼすものの、漢字特有の手掛かりの豊富さ と処理の柔軟性から、干渉が生じるのを和らげたものと解釈できる。このように、漢字の形態属 性の類似性の場合にも、同部首類義漢字のように形態属性に基づく手掛かりに加えて、部首から 喚起された意味が手掛かりとして利用される場合には、手掛かりの弁別機能の低下により順向干 渉が形成されることが明確になった。

要     約

本研究では、順向干渉の形成に及ぼす漢字の形態属性(部首)の類似性の効果を調べるために 同部首異義漢字リスト(実験1)と同部首類義漢字リスト(実験2)を用いて、大学生を被験者

にして2つの実験を行った。

Brown‑Petersonパラダイムを用いて、試行毎に漢字の部首が変化する弁別リストと、全て の試行で同じ部首の漢字である非弁別リストの正再生率とェラー率を比較した.弁別リストでは、

記憶の手掛かりが各試行で弁別的に機能するので順向干渉は形成されないが、非弁別リストでは 同じ手掛かりを符号化と検索で利用しなければならないので、手掛かりが試行とともに弁別的で

なくなってくるので、順向干渉が形成されることを予想した。

同部首異義漢字リストを用いた実験1では、順向干渉の形成は予想に反して両方のリスト条件 でみられた。しかし、その程度は非弁別リストに比べると弁別リストでは小さいものであった。

この原因のひとつに記銘時の音韻処理の影響が考えられた。

同部首類義漢字リストを用いた実験2では、形態手掛かりに加えて部首から喚起される意味が 手掛かりとして利用できるので、音韻処理の影響は少なくなることが期待できる。結果は、予想 通り弁別リストでは順向干渉は形成されなかったが、非弁別リストでは順向干渉が形成された。

以上の結果から、順向干渉の形成は検索手掛かりの弁別機能の低下により生じるという仮説は、

同部首類義漢字の場合のように部首から喚起された意味手掛かりが機能する場合に、より強く支 持された。

引 用 文 献

Crowder, R.G. 1976 Principles of learning and memory. New Jersey : Lawrence Erlbaum Associ‑

(9)

188

藤 田  if.

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[付記]実験の実施と資料の分析に際して山科番さん、山根あゆみさんの多大な協力を得た。ここに記し て厚くお礼申し上げます。

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Effects of Radical Cues in Kanji upon Buildup of Proactive Interference

Tadashi Fujita

{Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630 , Japan) (Received April 30, 1992)

The purpose of this study was to examine the effects of discriminability of radi‑

cal cues in kanji on buildup of proactive interference by the use of the Brown‑Peter‑

son paradigm for kanji lists with the same radicals and different meanings (Exp. 1) and with the same radicals and common associative meanings (Exp. 2).

In Exp. 1, 48 students were assigned to one of the two list conditions. Each list consisted of three kanji letters with the same radicals and different meanings.

Under the discriminative list condition, lists in three trials consisted of kanji letters with changed radicals in each trial. In the nondiscnminative list condition, all lists consisted of kanji letters with the same radicals in all trials. Three items were pre‑

sented simultaneously by the slide projector at a 2.5 sec. rate, which was followed by the distractor task (20 sec). Then a written recall test was given for 15 sec.

The main results were as follows: PI was built up as a function of trials under both the discriminative and the nondiscriminative lists. But the amount of PI was larger for the nondiscriminative lists than for the discriminative lists. The finding that PI was built up under the discriminative list condition did not support our pre‑

diction.

In Exp.2, 42 students were assigned to one of the same two list conditions as Exp.1. The lists of Exp. 2 consisted of the kanji lists with the same radicals and common associative meanings. The procedures were almost identical to Exp. 1.

The main results were as follows: PI was built up as a function of trials under the nondiscriminative list, but not under the discriminative list. The performances in each trial were higher for Exp. 2 than Exp. 1 in each list condition. These find‑

ings suggested that the semantic cues evoked by the radicals facilitated recall in each trial.

Our general hypothesis that buildup of PI is due to the effectiveness of retrieval cues was supported for the semantic cues in kanji with the same radicals.

参照

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