奈良教育大学学術リポジトリNEAR
順向干渉の形成における検索手掛りの弁別機能の検 討
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 42
号 1
ページ 183‑194
発行年 1993‑11‑25
その他のタイトル The Examination of Discriminative Function of Retrieval Cue in the Buildup of Proactive Interference
URL http://hdl.handle.net/10105/1736
奈良教育大学紀要 第42巻第1号(人文・社会)平成5年 Bull, Nara Univ. Educ,, Vol.42, No. 1 (Cult.&Soc,). 1993
順向干渉の形成における検索手掛りの弁別機能の検討
藤 田 正 (奈良教育大学心理学教室)
(平成5年4月30日受理)
Keppel and Underwood (1962)が、 Brown‑Petersonパラダイムを用いて、短期記憶にお ける忘却にも干渉が関係していることを検討して以来、順向干渉(Proactive Interference)の 研究を中心に干渉の形成や解除に影響する要因や、その生起メカニズムを検討する多くの研究が 行われてきた(Underwood, 1982; Wickens, 1970)。これまでのところ、順向干渉ははぼ検索時 の弁別困難性にその原因があることが指摘されてきた(Gardiner, et al., 1972;菊野, 1983;
Mori, 1979 ; Watkins & Watkins, 1975)c
検索時の弁別困難性を問題にする場合、記銘する材料の性質によって2つの異なるメカニズム が働いていることを考える必要がある。一つは、項目間に共通する検索手掛りの機能が関与する 場合である。同一の手掛かりを繰り返し使用しなければならないので、検索手掛りの弁別機能が 低下し、それによって弁別的な項目検索ができなくなり干渉が形成される。もう一つは、先行試 行項目と現試行項目との類似性に基づく項目間弁別の困難性だけが関与する場合である。試行の 繰り返しにより項目間弁別の困難性が増加し、順向干渉が形成される。
ところで、従来の研究では、多くの場合、無意味綴りを構成する形態的、あるいは音韻的属性 の類似性の操作がなされた。その結果、リスト項目間に類似性が存在する場合に干渉が形成され、
さらに類似性が高いほど干渉の程度が大きいことが明らかにされた(Delaney & Logan, 1979;
Loess, 1968; Wickens, Born & Allen, 1963)。これらのタイプの研究は、項目間弁別の困難性 そのものの程度が順向干渉に及ぼす効果を検討したものである。
それに対して、カテゴリー項目リストを用いた場合には、手掛りの弁別機能が順向干渉に関係 する。藤田(1982, 1985)では、全試行が同一のカテゴリーの項目で構成された類似リスト条件 と、試行ごとにリストを構成するカテゴリーが変化する非類似リスト条件を用いて順向干渉形成 の程度が比較された。その結果、予想どおり非類似リスト条件では傾向干渉が形成されなかった が、類似リスト条件では顕著な順向干渉が形成された.しかし、これらの研究では、リスト間の カテゴリーの類似性の程度を変化させて順向干渉の形成に及ぼす効果についての検討がなされて いない。それ故、リスト問のカテゴリー類似性の程度を組織的に変化させ、順向干渉の形成の程 度を比較することは、手掛りの弁別機能について明らかにする上で必要である。
Wickens, Dalezman & Eggemeier (1976)は、同一カテゴリー項目リストの記銘の繰り返し により順向干渉が形成された後、別のカテゴリーの項目リストの記銘へと変化させた時に生じる 再生率の上昇(順向干渉からの解除)の程度について、順向干渉の形成試行から解除試行へのリ
ストの類似性の程度を変化させて検討した。第1試行から第3試行までは同一のカテゴリーで構 成された項目リスト(例えば、果物)を用い、第4試行のリスト項目には、先行試行と同一カテ
ゴリーの項目リスト(果物)、先行試行とのカテゴリー類似性が大きい項目リスト(野菜)、先行
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184 藤 田 正
試行とのカテゴリー類似性を若干持っ項目リスト(肉、花)、先行試行とのカテゴリ一類似性が ない項目リスト(職業)を用いた。
その結果、第4試行の再生率は職業、花・肉、野菜、果物の順に小さくなり、先行試行と解除 試行とのリスト項目のカテゴリー類似性が小さいほど、順向干渉の解除の程度が大きくなること が明らかにされた。この結果は、解除試行で先行試行とは異なる手掛かりを利用したことにより、
弁別的な項目の符号化、検索が可能になり、弁別の困難性の程度に応じて解除の大きさが異なっ たことを示している。
また、藤田(1988)は順向干渉の形成に及ぼす隣接試行の類似性の効果を調べるために、花‑
工具‑花のように隣接する試行のリストのカテゴリ‑が非類似であるリスト条件と、花‑木一花 のように隣接する試行のリスト間のカテゴリーの類似性が比較的高いリスト条件の再生率を比較 した。その結果、第1試行から第2試行にかけて、非類似リスト条件の再生率は変化がなく干渉 が形成されなかったのに対し、類似リストでは再生率は有意に低下し、干渉が形成された。しか し、第2試行から第3試行にかけては、両リスト条件とも再生率は低下し、干渉が形成された。
これは、第1試行が同じカテゴリーであったことが干渉を生じる原因となったものと解釈された。
第1試行から第2試行にかけての干渉の程度は、従来の研究で兄い出されたように、リスト間の 類似性が手掛りの弁別機能の効果性に影響することを示すものであった。
以上のように、解除試行や隣接試行でリスト間の類似性の程度を変化させ、順向干渉の形成や 解除にどう影響するのかが検討されているが、類似性の程度を変化させる手続きは1試行のみに 限定されており、試行を繰り返す中で類似性を組織的に変化させ、順向干渉の形成がどのように
なされるのかを検討するのは興味のある問題である。
そこで本研究では、順向抑制の形成における手掛りの弁別機能について検討するため、リスト 間のカテゴリー類似性の程度を組織的に変化させ、順向抑制の形成に及ぼす効果について検討す
ることを主な目的とした。
ところで、記憶手掛りの弁別機能の低下は、記銘あるいは検索のいずれの段階で生じ、順向干 渉の形成に関係しているのであろうか。この問題は、この領域で理論的にも関心が持たれ、また 実験的な検討も行われてきた(Loftus & Patterson, 1975; Radtke & Grove, 1977; Radtke, Grove & Talasli, 1982)c この問題を検討するためのひとつの方法として、 Brown‑Peterson試 行が終ったあとで、それまでに提示されたすべての項目の再生を求める最終自由再生(Final Free Recall)がある。この手続きでは、現試行で再生すべき項目と先行試行で出てきた項目と
を弁別する必要がない。もし、順向干渉の形成が記銘時の手掛りによる弁別的な符号化ができに くくなることによるものであれば、試行が進むにつれて符号化が困難になるので、試行とともに 貯蔵される項目の量も減少する。したがって、最終自由再生の成績もBrown‑Peterson試行の 成績と同様、試行に伴い再生率が減少するという結果を示すだろう(Radtke & Grove, 1977;
Radtke, Grove & Talasli, 1982)。他方、順向干渉の形成が検索時の手掛りによる弁別的な検索 困軌こよるものであれば、リスト項目は記銘され、貯蔵されてはいるが、試行が進むにつれ検索 手掛りを用いた弁別的な検索が困難になるので再生率が低下する。しかし、最終自由再生ではリ ストの呈示順序に関係なく項目を再生すればよいので、検索手掛りの弁別困難性の問題はなくな る。したがって、 Brown‑Peterson試行の成績とは異なり、試行に伴う再生率の減少はないと いう結果を示すだろう(Loftus & Patterson, 1975 ; Watkins & Watkins, 1975)。本研究では、
この手続きを用いて、順向干渉の形成の原因が記銘、あるいは検索のいずれにあるのかを併せて
傾向干渉の形成における検索手掛りの弁別機能の検討 185
検討する。
被験者が再生又は再認に要する反応時間を測定して検索過程を検討する研究が行われている (Gorfein & Jacobson, 1973 ; Hendrikx, 1986 ; Sternberg, 1969)c 本研究においても、順向干渉 の形成がより敏感に測定できると考えられる再生反応時間を用いた。検索時の弁別困難が試行と 共に大きくなるならば、再生率の結果と対応して反応時間も長くなっていくことが予想される。
方 法
実験計画 4 × 3の要因計画が用いられた。第1の要因はリスト類似性条件で、弁別・類似 小リスト条件、弁別・類似大リスト条件、非弁別・類似小リスト条件、非弁別・類似大リスト条 件の4条件で被験者問の要因であった。第2の要因は試行数で、第1試行から第3試行までで、
被験者内の要因であった。
被験者 被験者は、この種の実験に未経験な大学生60名(男19名:女41名、平均年齢 19歳6か月:範囲18歳3か月〜22歳2か月)であった。これらの被験者は、各リスト条件ご
とに15名ずつ割りあてられた。
記銘リストおよび装置 記銘リストには、小川(1972)のカテゴリー出現頻度表を参考にし て選択された3‑5音節の名詞の中から熟知度調査を行ったもの59語が用いられた。 1リスト は3項目から成り、リスト問の出現頻度、熟知度ができるだけ等しくなるようにした。
表1は、本実験で用いた記銘リストの一例を示したものである。 .)ストは異なるカテゴリーの ものについても行うためにそれぞれのリスト条件で2種類用意された。非弁別・類似大条件では、
リストは第1試行から第3試行まで同一カテゴリー(花、または国)で、項目内の頬似性の大き い項目で構成されている。非弁別・類似小条件では、リストは同一カテゴリ‑であるが、試行間 でサブカテゴリーで分類できる項目(野菜、または昆虫)で構成されている。弁別・類似大条件 では、リストは試行間のリストカテゴリーは異なるが、カテゴリー問の類似性が比較的大きい項
表1本実験で用いた記銘のリストの一例
試 行 リスト類似性条件
1 2 3
パンジ‑ カモシカ オルガン 弁 別・類似小 ダリア イタチ フルート キキョウ ラクダ ハーモニカ キャベツ ネーブル シメジ 弁 別・類似大 レタス メロン シイタケ
ハクサイ イチヂク エノキ キリギリス クワガタ ミツバチ 非弁別・類似小 コオロギ カナプン キアゲハ スズムシ タマムシ アカトンボ カナダ ブラジル メキシコ 非弁別・類似大 ビルマ イラン インド
スペイン ドイツ ギリシア
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冒(帽虫類、鳥類、晴乳類、または野菜、果物、茸類)で構成されている。弁別・類似小条件で は、試行ごとにカテゴリーが明確に異なるリスト項目(国、果物、昆虫、または花、動物、楽 器)で構成されている。
それぞれのリスト内の項目の呈示順序は、予め同じ韻が続かないように考慮され、配列されて いた。また各条件とも、リストの呈示順序の異なるリストを3種類ずつ用意した。なお、練習課 題用のリストを2試行分作成した。これらのリストは、本課題で用いられたカテゴリーとは異な
る2つのカテゴリーの項目で構成されていた。
項目の呈示及び、項目呈示時間、リスト間間隔などの時間制御には、 Sharp MZ2500マイク ロコンビ一夕ー(システムディスク、 M‑25)を用いた。また反応時間の測定には、三和工業製 ビデオタイマーをビデオシステム(Sonyトリニトロン・カラービデオカメラHVC‑2800、
SonyポータブルビデオカッセトレコーダーSL‑B5、 Sonyトリニトロン・カラーテレビレ シーバーKV‑13P2、 SonyベーターマックスFl用アダプター)に接続し、録画する方法を 用いた。
手続き 実験は個別に行われた。被験者が所定の位置につくと、実験課題についての標準 的な教示を与えた後、実験を開始した。
"あなたにやってもらう事は、単語を覚える作業と簡単な暗算です。画面に『***』という 合図の後、 『では始めます。』という文章が現れ、続いて3つの単語が出てきますのでよく覚えて おいて下さい。単語の次に3桁の数字が出てきますので、その数から声を出して3ずつ引いて いって下さい。そして、画面に『どんな順序でもよろしいから想い出して言って下さい。』とい う文章が現れたら、先程覚えた単語を想い出して言って下さい。このような作業が数回続きます。
最後に、 『今まで出てきた物をすべて想い出して下さい。』という文章が現れますので、出てきた 単語をすべて言って下さい。暗算と単語を覚える事のどちらにも頑張って下さい。"
教示が終わると、コンピューターMZ2500に予め作成されたプログラムの中から使用するも のを選択し、システムディスクに読み込ませた後、そのプログラムを作動させた。
項目の呈示は3項目同時呈示で、呈示時間は2.0秒であった。 『では始めます』の教示画面の 後、 3項目が同時に呈示された。項目はカタカナにし、頭文字をひとつずつ右方向にずらして、
3項目が縦に並ぶような配置でコンピュータ‑のディスプレイに呈示された。それに続いて、 3 桁の整数が20秒間提示され、その間、被験者には減算課題を声に出して行わせた。続いて『ど んな順序でもよろしいから想い出して言って下さい。』の教示画面が呈示され、口頭で10秒間の 自由再生が行われた。
自由再生の間、モニター画面にビデオタイマーが挿入され、再生の様子が録画された。実験が 終わった後、テープが再生され、反応時間(1/100秒)が測定された。次の試行に移るまでに2 秒間を置き、同様な手続きで3試行が繰り返された。また、第3試行が終わった後、 『今まで出 てきた物をすべて想い出して下さい。』という教示画面を提示し最終自由再生テストを20秒間 行った。
教示が終わると練習試行を行い、被験者が手続きを把握した後、同様な手続きで本試行が3試 行実施された。なお、各条件とも第1リストの終了後、 1分間の間隔を置いて、別のカテゴリ‑
で作成された第2リストについて、同様な手続きでもって実験が行われた。
順向干渉の形成における検索手掛りの弁別機能の検討 187
結 果
結果の処理に際しては、 2回行った課題についての成績を平均したものを用いた。
1. Brown‑Peterson試行の成練
(1)正再生率:呈示順序に関係なく正しく再生された項目の再生率を求め、その平均した値を 個人の再生率とした。各条件別に平均正再生率を図示したのが図1である。検定に際しては、個 人の再生率を角変換した値の平均を用いて、 4(リスト条件)×3(試行)の分散分析を行った。そ の結果、リスト条件(F‑ 10.36, d/‑3/56, ♪く.01)と試行(F‑26.65, df‑2/¥¥2, p<.01) の主効果、およびリスト条件×試行の交互作用 CF‑3.17, d/‑6/112, ♪<.01)がそれぞれ有 意であった。
交互作用が有意になったので、単純効果の検定を行った。まず、試行にともなう正再生率の変 化を条件別にみるために、誤差項(MSe(w)‑ 232.44)を用いてt検定を行った。弁別・類似小 条件では、どの試行間においても有意差はみられなかったO弁別・類似大条件では、第1試行と 第2試行及び第3試行のそれぞれの間において有意差がみられたが(第1試行と第2試行: i (56)‑2.74,♪<.01;第1試行と第3試行:∫(56)‑3.22,♪<.01)、第2試行と第3試行との問 には有意差はみられなかった。非弁別・類似小条件では、第1試行と第2試行、及び第3試行の それぞれの間において有意差がみられたが(第1試行と第2試行:*(56)‑2.65, p<.01;第1 試行と第3試行: *(56)‑4.16, fl<.01)、第2試行と第3試行との間では有意差はみられなかっ た。非弁別・類似大条件では、第1試行と第2試行、及び第3試行のそれぞれの問において有意 差がみられた(第1試行と第2試行:∫(56)‑4.91,♪く.01;第1試行と第3試行:∫(56)‑
6.36,♪<.01)が、第2試行と第3試行との間では有意差はみられなかった。
次に、試行ごとの条件間の差について合成した誤差項を(MSe‑247.05)を用いてt検定を 行った。その結果、第1試行では、どの条件問においても有意差はみられず、再生数はほぼ等し かった。第2試行では、弁別・類似小条件が、残りの3条件よりもそれぞれ有意に再生率が高
図1 Brown‑Peterson試行における正再生率の平均
188 w iK
かった(弁別・類似小条件と弁別・類似大条件: ∫(168)‑ 2.79, ♪<.01;弁別・類似小条件と非 弁別・類似小条件: K56)‑ 2.83, p<.01 :弁別・類似小条件と非弁別・類似大条件: 」(168)‑
5.02, pく.01)。また、弁別・頬似小条件が非弁別・類似大条件よりも有意に再生率が高く、非 弁別・類似小条件が非弁別・類似大条件よりもそれぞれ有意に再生率が高かった(弁別・類似大 条件と非弁別・類似大条件: K168)‑ 2.24, p<.05;非弁別・類似小条件と非弁別・類似大条 件:*(168)‑2.83, p<.05)。しかし、弁別・類似大条件と非弁別・類似小条件の間には、有意 差はみられなかった。
第2試行と同様、第3試行でも、弁別・類似小条件は残りの3条件よりもそれぞれ有意に再生 率が高かった(弁別・類似小条件と非弁別・類似小条件: f(168)‑ 2.98, p<.01;弁別・類似小 条件と非弁別・類似大条件: ∫(168)‑ 5.ll, ♪<.01;弁別・類似小条件と弁別・類似大条件: ∫ (168)‑ 1.93, p<.10)c また、弁別・規似大条件、及び非弁別・類似小条件が非弁別・類似大 条件よりも有意に再生率が高かった(弁別・類似大条件と非弁別・類似小条件: K168)‑ 3.18, p<.01;非弁別・類似小条件と非弁別・類似大条件:K168)‑2.13, p<.05)。しかし、弁別・
類似大条件と非弁別・頬似小条件の問には有意差はみられなかった.
(2)反応時間:反応時間は、再生用の教示が与えられてから、最初の語が再生される(誤反応 も含む)までにかかった時間を測定したものである。また、再生のなかったものについては反応 時間を便宜的に10秒とした。
再生された反応時間の平均を示したものが表2である。平均値について4(リスト条件)×3(読 行)の分散分析を行った.その結果、試行(F‑50.42, df‑2/112, p<.01)、及びリスト条件 (F‑2.43, df‑3/56, ♪<.10)の主効果において有意差、または有意な傾向がみられたo しか
し、リスト条件×試行の交互作用は有意ではなかった。
(3)誤反応:リスト外侵入エラー(先行試行のリストにない侵入エラー)と、リスト内侵入エ ラー(先行試行のリストからの侵入エラ‑)について算出した。しかし、表3で示されるように、
侵入エラーが非常に少なかったので総数で表した。また、これらに関しては特に統計処理は行わ なかった。
リスト外侵入エラーでは、 4条件間に明確な差はみられなかった。一方、リスト内侵入エラ‑
では、弁別・類似小条件では全くみられなかったが、弁別・類似大条件では、第2試行において 表2 Brown‑peterson試行における条件ごとの反応時間(秒)の平均とSD
リスト類似性条件
1 2 3
弁 別・類似小 弁 別・類似大 非弁別・類似中 井弁別・類似大
3.72 4.05 (0.84) (0.69)
4.12 4.34 (1.02) (1.47)
3.55 4.23 (0.78) (1.82)
4.79 5.07 (1.58) (2.27)
( )内の数値はSD
順向干渉の形成における検索手掛りの弁別機能の検討
表3 侵入エラーの総数
リスト外侵入エラーリスト内侵入エラー リスト類似性条件 試 行 試 行
1 2 3 1 2 3
弁 別・類似小 3 ‑ 弁 別・類似大 6 ‑ 非弁別・輯似小 0 ‑ 非弁別・輯似大 ‑ 6
189
わずかにみられた。また、非弁別条件は、弁別条件よりもリスト内侵入エラーが多かった。
次に、各条件ごとに両方のエラ‑を比較してみた。弁別・類似小条件、弁別・類似大条件にお いては、リスト外侵入エラーの方がリスト内侵入エラーよりも多かった。非弁別・類似小条件、
非弁別・類似大条件ではリスト外侵入エラーよりもリスト内侵入エラーの方が多かった。
2.最終自由再生テストの成練
最終自由再生テストにおいて、呈示順序に関係なく正しく再生された項目をBrown‑
Peterson試行に割り振り直し、平均再生率を求め各条件別に図示したのが図2である。
個人の再生率を角変換した値の平均を用いて、 4(リスト条件)×3(試行)の分散分析を行った。
その結果、リスト条件(F‑ 10.71, df‑3/56, p<.01)の主効果のみが有意であり、試行の主 効果、およびリスト条件×試行の交互作用は有意ではなかった。主効果の検定の結果、弁別・類 似小条件が非弁別・類似大条件よりも有意に再生率が高かったが 0(56)‑3.26, df‑ 56, p<
.01)、他の条件の間には有意差はみられなかった。
190 藤 田 正
議 論
本研究では、リスト間の類似性の程度を組織的に変化させ、順向干渉の形成における検索手掛 りの弁別機能について検討した。また、順向干渉の形成については、再生成績の低下でとらえる 他に再生反応時間を測度として用いて検討した。
Brown‑Peterson試行における正再生率についての主な結果は、次のとおりであった。弁 別・類似小条件では順向干渉は形成されず、各試行とも80%以上の再生率を示し、再生率の有 意な低下はみられなかった。それに対して、非弁別・類似大条件では顕著な順向干渉が形成され た。再生率は、第1試行から第2試行にかけて他の条件よりも大きく低下したが、第2試行から 第3試行にかけての低下はゆるやかであった。また、弁別・類似大条件と非弁別・類似小条件に おいては、両条件とも第1試行から第2試行にかけて同程度に再生率が低下したが、その後の低 下はゆるやかであった。全体としては、弁別・類似小条件と非弁別・類似大条件の間に、両条件 の中間の類似性を持つ弁別・類似大条件と非弁別・類似小条件が位置する成績であった。再生率 に低下がみられた3条件は、第1試行から第2試行で再生率の低下が大きく、第2試行から第3 試行への低下はゆるやかなパターンであった。特に、非弁別・類似大条件の低下は34%と他の
2条件よりも大きかった。
これらの結果の内、順向干渉が形成されなかった弁別・類似小条件と顧著な順向干渉の形成さ れた非弁別・類似大条件の結果は、従来の研究(藤田、 1982、 1985)の結果と一致した。リスト 間の類似性の小さい弁別・類似小条件では、各試行が「国、果物、昆虫」といった明確に意味的 な区別が可能なリスト項目であり、試行ごとにそれらのカテゴリー名を手掛かりとして符号化や 検索に利用できるので、手掛りの弁別機能が有効に働き、順向干渉が形成されなかった。
それに対して、リスト内、リスト問ともに類似性の大きい非弁別・類似大条件では、全試行が 同じカテゴリーの項目で構成されたリストであるので、各試行で同じカテゴリー名しか符号化や 検索の手掛りとして利用できないため、手掛りを弁別的に利用することはできず順向干渉が形成
された。
今回、リスト問の類似性の程度が順向干渉の形成に及ぼす効果をみるために新たに設けられた 弁別・類似大条件と非弁別・類似小条件でも順向干渉が形成されたが、再生成績は弁別・類似小 条件と非弁別・類似大条件の中間に位置するという結果であった。このようにリスト間の類似性 の違いにより順向干渉の程度に差が生じた結果は、リスト問の類似性が順向干渉の形成や解除の 大きさに影響したという結果(藤田、 1988; Wickens, Dalezman & Eggemeir, 1976)と一致す
るものであった。
ところで、弁別・類似大条件の方が、非弁別・類似小条件よりも検索手掛りの弁別機能がより 効果的に利用できると予想したが、 2条件の再生率にはほとんど違いがなかった。弁別・類似大 条件においては、リスト内に存在するサブカテゴリー名が符号化や検索手掛りとして利用できる。
ところが、リスト問のサブカテゴリーは異なるが、上位のレベル(動物)では類似性があるため 検索手掛りの弁別機能が弱められ、順向干渉が形成されたと考えられる。
また、非弁別・類似小条件では、リスト内のカテゴリ一名を検索手掛りとして利用できるが、
リスト間においては同一カテゴリ‑であるため弁別が困難になる。しかし、試行ごとにリストを 構成するサブカテゴリーが変化するので検索手掛りの弁別機能がある程度利用できるため、非弁 別・類似大条件と比較して順向干渉の形成が軽減されたと考えられる。以上のような可能性によ
服向干渉の形成における検索手掛りの弁別機能の検討 191
り、両条件における順向干渉の程度の差異が小さかった考えられる。
以上の結果を総合してみると、リスト間の意味的類似性の程度を変化させることにより、符号 化や検索に利用される手掛りの弁別機能の程度に影響し、順向干渉の形成の大きさに違いを生じ ることが明らかになった。
傾向干渉の形成が符号化時の手掛かりの弁別機能よりも、むしろ検索時の手掛りの弁別機能の 低下により生じることが最終自由再生の結果により明らかにされた。最終自由再生テストの結果 からは、 Brown‑Peterson試行で順向干渉が形成された弁別・類似大条件、非弁別・類似小条 件、非弁別・類似大条件について最終自由再生テストの成績を比較したところ、いずれの条件に おいても試行に伴う再生成績の減少はみられなかった。したがってこの結果は、検索説 (Loftus & Patterson, 1975; Watkins & Watkins, 1975)からの予想と一致するものであったO つまり、試行を重ねるにつれて、項目が記銘され、貯蔵されていても、リスト間の類似性により、
検索時に手掛りの弁別機能が効果的に働かず、弁別的な項目検索が困難になった結果として順向 干渉が形成されたことを支持している。
最後に、再生反応時間の結果について考察する。反応時間の増加は、第1試行から第2試行に かけて大きく、その後はゆるやかであった。このような結果は、 Brown‑Peterson試行の正再生 率で兄い出された結果と一致するものであった。これは試行の初期において既に干渉が大きく形 成されることを示している。この結果は、 Gorfein and Jacobson (1973)の結果と一致するも のであった。
ところで、興味がもたれるのは再生率がはぼ一定で、順向干渉が形成されなかった弁別・類似 小条件においても反応時間が増加した点である。藤田(1989)は、再認事態において、リスト間 の類似性が順向抑制の形成に及ぼす効果について反応時間を用いて調べたところ、正再認率が一 定であった弁別条件において第1試行から第2試行にかけて反応時間が有意に増加するという結 果を兄い出している。本研究の結果は、この結果と一致するものである。これらの結果をもとに 考えた場合、順向干渉の形成は再生率の低下からとらえる場合に比べて、再生反応時間の増加か
らとらえる場合の方がより干渉を敏感にとらえる測度であることを示している。
しかし、なぜ再生率の場合と異なり、本研究においてリスト条件問で試行に伴う反応時間の差 がみられなかったのだろう。これについてはMurdock (1961) (Gorfein & Jacobson, 1973に よる)の説明が参考になる。再生事態において反応時間を測度として用いる場合には、記銘項目 として1語のみを用いるべきで、 3語対を記銘リストとして用いる場合、反応時間は測度として 敏感さを失う恐れがあると述べている。本研究では、記銘リストとして3語対を用いたため、第 1再生語までの反応潜時においてリスト条件問の差を適切に把捉できなかったのではないかと思 われる。従来の反応時間を扱った研究では、系列位置を指定して再生を行わせるものや、プロー ブを呈示して再認を行わせるものが主であった(Hendrikx, 1986; Sternberg, 1969)が、自由 再生の事態においても干渉が生じていることを裏づける測度として反応時間を使用することで、
より幅広い検討が可能になるだろう。
要 約
順向干渉の形成に関係する検索手掛りの弁別機能について明確にするため、リスト間のカテゴ リー類似性を組織的に変化させ、順向干渉の形成に及ぼす効果について検討することを目的とし
192 藤 田 正
た。また、測度に再生反応時間を用いて、再生反応時間の増加という観点から干渉の形成を検討 した。
大学生90名が、リスト間の類似性の程度を変化させて構成された非弁別・類似大条件、非弁 別・類似小条件、弁別・類似大条件、弁別・類似小条件のいずれかのリスト条件に割りあてられ た。実験は個別に行われた。 3項目が同時に2秒間呈示され、 20秒間のリ‑‑サル妨害課題 (3桁の整数の減算課題)を行った後に10秒間の口頭自由再生が行われた。このようなBrown‑
Peterson試行の手続きが3試行繰り返された。 3試行が終わった後、最終自由再生テストが行 われた。項目呈示及び時間制御にはマイクロコンピューターSharPMZ‑2500が用いられた。反 応時間の測定にはモニターにタイムカウンターを挿入し、録画する方法がとられた。
主な結果は次の通りである。 Brown‑Peterson試行の正再生率に関しては、 (1)リスト間の類 似性が最も小さい弁別・類似小条件では、試行に伴う再生率の低下はみられず順向干渉は形成さ れなかった。リスト間に類似性が存在する弁別・類似大条件、非弁別・類似小条件、非弁別・類 似大条件では、試行に伴い再生率が低下し干渉が形成された。全体としては、弁別・類似小条件 と非弁別・類似大条件の中間に弁別・類似大条件と非弁別・類似小条件が位置する再生成績で あった(2)リスト内侵入エラーはどの条件でもごく少なく、条件間の差も見られなかった(3) 再生反応時間についても条件間に有意差はみられなかったが、試行に伴い反応時間は増加した。
最終自由再生テストに関しては、 Brown」'eterson試行で順向干渉が形成された弁別・類似 大条件、非弁別・類似小条件、非弁別・類似大条件の全てにおいて試行に伴う再生率の減少はみ
られず、各試行で同程度の再生成績であった。
以上の結果から、 (1)順向干渉の形成は、検索時における手掛りの弁別機能が低下するため弁 別的な項目検索が困難になることにより生じる、 (2)検索手掛りの弁別機能はリスト間の類似性 の程度に影響される、 (3)反応時間は、順向干渉の形成をより敏感にとらえる測度である。など が明らかになった。
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[付記]本研究で実験の実施と資料分析に際して東川卓司氏の協力を得た。記して厚くお礼申し上げま す。
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The Examination of Discriminative Function of Retrieval Cue in the Buildup of Proactive Interference
Tadashi Fujita
{Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan) (Received April 30, 1993)
The purpose of this experiment was to examine the effects of discriminative func‑
tion of retrieval cue on the buildup of proactive interference by using four category lists with different category similarity.
A 4×3 factorial design was used, which incorporated list similarity conditions (Dis‑
criminative・Dissimilar, Discriminative・Similar, Nondiscriminative・Dissimilar, Nondis‑
criminative・Similar) and number of trials (1,2,3). The subjects were 60 students with
a mean age of 19yr. and 6 mO. who were assingned to one of the four list conditions (see Table 1). Each list had three words.
Under the Discriminative・Dissimilar(D‑D) condition, the list had the words from
different categories. Under the Discriminative・Similar(D‑S) condition, the list had
words from different subcategories in one higher level category. Under the Nondiscn‑
minative・Dissimilar(N‑D) condition, the list had words from different subcategories in
one category. Under the Nondiscriminative・Similar(N‑S) condition, the list had the
words from the same categories in the three trials.
Using the Brown‑Peterson paradigm, three words were presented simultaneously for 2 sec. rate, which was followed by the distractor task (20 sec). Then recall test was given 10 sec. After the 3rd trial was over, final free recall test was required to recall all items presented from lst to 4th trials.
The mam results were as follows : on the performance of Brown‑Peterson recall test (see Fig. 1), Under D‑D condition, PI was not built up as a function of trials, and the performances of recall were at a high level and kept constant. Under N‑S condition, PI was built up as a function of trials. Under D‑S and N‑D conditions, PI was built up as a function of trials and the performances of both conditions were about the same, but the degree of PI formation was smaller than N‑S condition.
Response time of first recall word increased as a function of trials under all list con‑
ditions.
On the performance of final free recall test (see Fig. 2), the performances of recall under three conditions which PI was built up did not decrease as a function of trials.
On the bases of above results, we concluded that the buildup of PI was due to the discriminative function of retrieval cues and this factor was infulenced by the degree of list similarity.