奈良教育大学学術リポジトリNEAR
順向抑制の形成に及ぼすリスト類似性の効果
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 34
号 1
ページ 189‑200
発行年 1985‑11‑25
その他のタイトル The Effects of List Similarity upon the Buildup of Proactive Inhibition
URL http://hdl.handle.net/10105/2221
奈良教育大学紀要 第34巻 第1号(人文・社会)昭和60年 Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 34, No. 1 (cult. & soc.) 1985
順向抑制の形成に及ぼすリスト類似性の効果
藤 田 正 (奈艮教育大学心理学教室)
(昭和60年4月30日受理)
意味的、あるいは物理的に類似した項目により構成されたリストの記銘と再生を反復すると、
試行が進むにつれて再生成績の減少がみられる。この現象は、先行リストの記憶が後続リストの 記憶に妨害を及ぼしたので傾向抑制(Proactive Inhibition)、あるいは傾向干渉(Proactive In‑
terference)と呼ばれ,古くからこの現象について数多くの研究が行われてきた(Houston, 1981;
辰野, 1973)。特に、短期記憶における順向抑制については、 Keppel and Underwood (1962) の研究以降盛んに研究が行われるようになった。この現象について実験的に検討されてきた主要 な問題のひとつは、順向抑制の形成に関係するメカニズムの検討であり、さらには、これらのメ カニズムの機能の低下が主に記憶過程のどの段階で生じ、順向抑制を形成しているのかという点 の検討であった(Crowder, 1976; Klatzky, 1980)。
順向抑制の形成に関係するメカニズムに関しては、項目の弁別性の低下(Wickens, 1970)、検 索手がかりの過重負荷(cue‑overload) (Watkins & Watkins, 1975)、検索手がかりの効果性と 項目の弁別性の低下(Craik & Birtwistle, 1971;藤田, 1982)などが提唱されている。しかし、
様々なリスト材料における順向抑制の形成を考えた場合、少なくとも記銘、検索のための手がか りの効果的な利用可能性とリスト問の項目の弁別性という2つの要因を含めて考えていくことが 必要であると思われる。
藤田(1982)は、これら2つの要因が異なるように作用すると考えられるリスト条件を設け、
JlB向抑制の形成の程度を検討した。その結果、単一カテゴリーで構成されたPI条件では傾向抑 制が形成された。また、互いに関連しないカテゴリーの項目で構成された無関連語リスト条件で は、 PI条件と同程度の傾向抑制が形成された。しかし、試行毎にリストのカテゴリーが変化す るカテゴリー変化条件では順向抑制は形成されず、比較的高い、安定した再生成績が得られた。
これらの結果は、検索手がかりの効果性と項目の弁別性の2つの要因でもって以下のように解 釈された。 PI条件での再生成績の低下は、同じカテゴリーの項目リストが繰り返されるので、
試行が進むにつれて検索手がかりを弁別的に利用することができなくなり、同時に項目の弁別性 も低下するので再生が困難になったことによるものである。無関連語リスト条件の結果は、リス
トに共通するカテゴリーが含まれていないので検索手がかりの利用は関係しないが、試行が進む につれて項目の弁別性のみが低下し再生が祖難になったことによるものである。カテゴリー変化 条件では、試行ごとにカテゴリーが変化するので検索手がかりは弁別的に利用でき、同時にリス
ト問の項目も弁別しやすいので再生の困難さはなかったのであろう。
ところで、従来の研究ではリスト項目間に意味的、形態的、あるいは音故的な類似性が存在す る場合に干渉が形成され、さらに類似性が高い程、干渉の程度は大きいことが明らかにされてい る(Birnbaum, 1974; Corman & Wickens, 1968; Delaney & Logan, 1979; Loess, 1968;辰 野, 1973; Wickelgren, 1965; Wickens, Born, & Allen, 1963)。これに関連して、項目間に共
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藤 田 正通するカテゴリーが存在する場合を類似性がある(北潰, 1982)と操作的に定義し、リストの類 似性という観点から従来の研究で用いられたリストを分析した。
単一カテゴリーの項目で構成された7)スト条件は、リスト内、リスト間に共通するカテゴリ‑
が存在するリスト内類似、リスト間類似の条件であり、毎試行カテゴリーが変化するリスト条件 は、リスト内には共通するカテゴリーが存在するが、リスト間には共通するカテゴリーが存在し ないリスト内類似、リスト間非類似の条件である。また、無関連語や無意味綴だけで構成される リスト条件は少なくとも])スト内にも、リスト間にも共通するカテゴリーが存在しないリスト内 非類似、リスト間非類似の条件である。
しかしながら、これまでの研究では、リスト内とリスト間の類似性を完全に組み合わせた条件 のもとで傾向抑制の形成を比較検討したものはない。そこで本研究では、リスト内の類似性とリ スト問の類似性のすべての組み合わせにより構成されるリスト条件を用いて、リストの類似性が 傾向抑制の形成に及ぼす効果について検討し、記憶手がかりの効果性と項目の弁別性の機能につ
いてより明確にすることを第1の目的とした。
l)スト内の類似性とリスト問の類似性の組み合わせを考えると、 ①リスト内類似、リスト問類 似(Similar‑Similar: S‑S条件)、 ②リスト内類似、リスト間非類似(Similar‑Dissimilar:
S‑D条件)、 ③リスト内非類似、リスト問類似(Dissimilar‑Similar: D‑S条件)、 ④T)スト 内非類似、リスト問非類似(Dissimilar‑Dissimilar: D‑D条件)の4つのリスト条件が構成で きる。それぞれのリスト条件の再生成績の予想は次の通りである。 S‑S条件では、それぞれの 試行を独立に考えた時、リスト内の類似性により共通するカテゴリー名が記憶手がかりとして使 用できるが、試行が反復されるにつれてリスト問に存在する類似性のため、記憶の手がかりとし て効果的な利用ができなくなる。それと同時に、リスト問の項目の弁別性も低下するので傾向抑 制が形成されるだろう S‑D条件では、リスト内の類似性により共通するカテゴリー名が記憶 の手がかりとして利用でき、その上、リスト間は類似しない異なるカテゴリーのリストで構成さ れているため、記憶の手がかりは各試行で効果的に利用でき、同時にリスト間の項目の弁別性も 高いので傾向抑制は形成されないだろう。
D‑S条件は、これまでの研究では検討されてこなかったので明確な予想はむずかしいが、各 試行を独立に考えると非類似のためリスト内に共通する手がかりの利用はできないが、リスト間 を通してみるとリストを構成する複数のカテゴリー手がかりの利用が可能である。したがって、
試行が進むにつれ記憶の手がかりとしてリストを構成するカテゴリー名が利用される可能性が高 まるので、手がかりが利用されない場合に比べて、試行問の項目の弁別性の低下も少なくなりJlB 向抑制を受ける程度も少ないだろう D‑D条件では、リスト内、リスト間に共通する記憶の手 がかりが存在しないため、リストが反復されることにより、リスト問の項目の弁別性のみが低下 し、傾向抑制が形成されるだろう。
ところで,記憶手がかりの効果的な利用可能性や項目の弁別性の低下は、記銘あるいは検索の いずれの段階で生じ、順向抑制の形成に関係しているのであろうか。この間題は、この儲域で理 論的にも関心が持たれ、実験的な検討も行われている(Dillon, 1973;菊野1983; Loftus &
Patterson, 1975; Radtke & Grove, 1977; Radtke, Grove & Talasli, 1982),この問題を検討 するためのひとつのアプローチは、 Brown‑Peterson 試行が終ったあとで、それまでに提示さ れたすべての項目の再生を求める最終自由再生(final free recall)テストを用いることである。
この手続きでは、 Brown‑Peterson 試行とは異なり、提示された試行の位置や提示順序を考慮
傾向抑制の形成に及ぼすリスト類似性の効果
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して項目を再生する必要がない。
もし、傾向抑制の形成が記銘時の手がかりの効果性や項目の弁別性の低下によるものであれば、
試行が進むにつれて徐々に記銘が困難になっていくので、試行とともに貯蔵される項目の量も減 少する。したがって、最終自由再生の成績もBrown‑Peterson試行の成績と同様、試行に伴い 再生成績が減少するという結果のパターンを示すだろう(Radtke & Grove, 1977; Radtke, Grove, & Talasli, 1982)t
他方、傾向抑制の形成が検索時の手がかりの効果性や項目の弁別性の低下によるものであれば、
リスト項目は記銘され、貯蔵されていても、試行が進むにつれ、検索時に手がかりが効果的に利 用できなかったり、現試行で再生すべき項目と先行試行で再生すべき項目との弁別が困難になっ
ていくので再生成績が減少する。しかし、最終自由再生では、リストの提示順に関係なく項目を 再生すればよいので、検索時の手がかりの効果性や項目の弁別性の低下という問題はなくなる。
したがって、 Brown‑Peterson 試行の成績とは異なり、試行にともない再生成績は減少しない という結果のパターンを示すだろう(Loftus & Patterson, 1975; Watkins & Watkins, 1975)c
本研究では、それぞれのリスト条件における Brown‑Peterson試行の再生成績のパターンと 最終自由再生の成績のパターンを比較することにより、順向抑制の形成の原因が記銘、あるいは 検索のいずれの段階で生じやすいのかを検討することを第2の目的とした。
方 法
実験計画 実験計画は4×4の要因計画であった。第1の要因はリスト条件で、リスト内と リスト問の類似性の組み合わせにより構成されたSimilar‑Similar条件(以下S‑S条件)、
Similar‑Dissimilar条件(以下S‑D条件), Dissimilar‑Similar条件(以下D‑S条件)及び Dissimilar‑Dissimilar条件(以下D‑D条件)であった。第2の要因は試行数で、第1試行か
ら第4試行までであった。
被験者 被験者は、この種の実験に未経験な大学生96名(平均年齢19歳1か月:範囲18歳3 か月〜20歳11か月)であった。これらの被験者は、各リスト条件ごとに24名ずつ割りあてられた。
記銘リストおよび装置 記銘リストには小川(1972)のカテゴリ一出現頻度表を参考にして 選択された3‑4音節の名詞66語が用いられた。 1リストは3項目から成り、リスト間の出現頻 度、音節数、熟知度ができるだけ等しくなるようにした。項目は邦文タイプでカタカナ文字に打 ったものをスライドにした。ひとつのスライドには、頭文字をひとつずつ右方向にずらして、 3 項目が縦に並べられた。表1は実験に用いられたリスト項目の一例を条件別に示したものである。
S‑S条件では、リストは第1試行から第4試行まですべて同一のカテゴリー(花または国) から選ばれた項目のみで構成されている。 S‑D条件では、リストは動物、果物、魚、工具(ま たは、花、鳥、野菜、国)のように、試行ごとにカテゴリーが異なる項目で構成されている。 D
‑S条件では、リストは全試行を通して野菜、花、鳥(または、果物、国、動物)のカテゴリー からひとつずつ選ばれた項目で構成されている。 D‑D条件では、リストはすべて同一のカテゴ リーに属さない、互いに比較的関連性の低い項目で構成されている。それぞれのリスト内の項目 の提示JTB序は、予め同じ嶺が続かないように考慮され、配列されていた。また、各条件とも、リ ストの提示順序の異なるリストを4種類ずつ用意した。なお、各リスト条件に合わせて、練習課 題用のリストを2試行分、別に作成した。これらのリストは、本課題で用いられたカテゴリーと
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藤 田 正表1本研究で用いた記銘リストの一例 試 行
3 4
パンジー ユウガオ ダリ ア ナノハナ キキョウ ショウブ カモシカ イチジク イ タ チ ネーブル
ラク ダ ア ン ズ
レ ンゲ サザンカ スズラン ア ヤ メ ヒナギク ボタ ン ハ マ チ ヤ スリ カ ツ オ ハンマー トビウオ ペ ン チ ベルギー イ ンド
イチジク ア ン ズ オオカミ シマウマ
D‑D
メキシコ ギリシア ネーブル レ モ ン イ タ チ カモシカ シンバル ハ マ チ イチジク カモシカ ト カ ゲ ステレオ タ ワ シ サンダル ユウガオ ル ビ ー カリウム ヤ スリ
は異なるカテゴリーの項目で構成されていた。
スライドの提示には、 Kodak Ektagraphic Slide Projectorを用い、項目提示時間、リスト間 間隔などの時間の制御には、三和工業製Digital Time Regulatorを用いた。また、把持時間、
再生時間、および試行問間隔の測定には、ストップウォッチを使用した。
手続き 実験は個別に行われた。被験者が所定の位置につくと、氏名、生年月日などを尋ね たあと、次のような旨の教示を与え実験を開始した。
"今から、幾つかの単語を見せますので、よく覚えて下さい。次に数字が出てきた時には声に 出して、その数字から3ずつ小さい方‑引いていって下さい。そのあと、スクリーンに『※ど んな傭序でもよろしいから、想い出して言って下さい。』という教示が出てきますから、今覚 えた単語をできるだけ多く想い出して言って下さい。このような課題が数回続きます。計算と 単語を覚えることはどちらも大切な課題ですから、がんばってやって下さい。〝
教示が終わると、タイムレギュレーターのスイッチを入れ、プロジェクターを作動させた。項目 の提示は3項目同時提示で、提示時間は2.0秒であった。 『※では、始めます。』の教示スライド の後、 3項目が同時に提示された。それに続いて、 3桁の整数が20秒間提示され,その間、被験 者には減算課題を芦に出して行わせた。続いて『※どんな順序でもよろしいから、想い出して言
って下さい。』の教示スライドが提示され、口頭で10秒間の自由再生が行われた。
試行間間隔を2.0秒とり、同様な手続きで4試行が繰り返された。また、第4試行が終った後、
「練習課題以外で覚えたすべての単語を、どんな順序でもよろしいから想い出'して言って下さ い。」という教示を与えて、最終自由再生テストを行った。なお、実際には、表1に示した内容 のリストを先に用い、 1分間の時間間隔を置いた後に、別のカテゴリーから成るリストについて も実験が行われた。 2種類のリストについての実験が終った後、どのような方略を用いて記銘お よび検索を行ったかについての内省報告が求められた。
順向抑制の形成に及ぼすリスト類似性の効果
H 秦
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結果の処理に際しては、 2種類のリストについての再生成績を平均したものを用いた。
Brown‑Peterson試行の戚練 1.正再生数 提示位置に関係なく正しく再生された項目 の総数を求め、各条件別に平均値を図示したのが図1である。平均値について4 (リスト条件)
×4 (試行)の分散分析を行ったOその結果、リスト条件(F‑86.24, df‑3と92, p<.01)と 試行(F‑136.10, df‑3と276, /<.Ol)の主効果、およびリスト条件×試行の交互作用(F‑
18.15, df‑ 9と276, /><.Ol)がそれぞれ有意であった。
交互作用が有意になったので、単純効果の検定を行った。最初に、試行にともなう再生数の変 化を条件別にみるためにNewman KeulsのMultiple range test (瀧野、 1968)により検定を 行った。その結果、 S‑S条件では、第3試行と第4試行の間を除いたすべての試行間において 有意差がみられた。これは、第1試行から第4試行にかけて再生数が減少していることを示して いる。 S‑D条件では、どの試行間においても有意差はみられなかった。これは、第1試行から 第4試行までの再生数は一定であることを示している。 D‑S条件では、第1試行と第2試行、
第3試行および第4試行のそれぞれの問において有意差がみられたが、その他の試行間には有意 差はみられなかった。これは、第1試行から第2試行にかけて再生数が減少したが、その後は再 生数が一定であることを示している。 D‑D条件では、第3試行と第4試行の間を除いたすべて の試行間において有意差がみられた。これは、第1試行から第4試行にかけて再生数が減少して いることを示している。
次に、試行ごとに条件問の差についてt検定を行った。その結果、第1試行では、 S‑S条件 とS‑D条件は、それぞれD‑S条件とD‑D条件よりも有意に再生数が多かった(S‑SとD
‑S, *‑2.99; S‑SとD‑D, t‑2.83,いずれもdf‑368, /><.Ol; S‑DとD‑S, t‑
3.83; S‑DとD‑D, t‑3.68,いずれもdf‑368, p<.001¥ しかし、 S‑S条件とSID 条件、およびDIS条件とD‑D条件の問には有意差がみられなかった。
第2試行では、 S‑D条件がS‑S条件(∫(368)‑8.96, ♪<.001)、 D‑S条件(∫(368)‑
7.66, ♪<.001)、およびD‑D条件(∫
(368)‑10.00, ♪<.001)よりもそれぞ れ有意に再生数が多かった。また、 D‑
S条件とS‑S条件の問には有意な差は みられなかったが、 D‑S条件はD‑D 条件よりも有意に再生数が多かった(∫(3 68)‑2.37, /サ<.05)。しかし、 S‑S条 件とD‑D条件の間には有意な差はみら れなかった。
第3試行では、 S‑D条件はS‑S条 件(∫(368)‑ll.64, ♪<.001)、 D‑S条 件(∫(368)‑8.27, ♪く001)、およびD
‑D条件(<(368)‑12.26, p<.001)よ りもそれぞれ有意に再生数が多かった。
P 8 I I B O 8 J S L U 8 J I U B 8
∑
1 2 3 4 Trials
図1 Brown・Peterson 試行における条件ごとの正再 生数の平均
U?E
藤 田 正また、 D‑S条件は、 S‑S条件0(368)‑3.37,/><.001)とD‑D条件(*(368)‑3.98, p<
.001)よりも有意に再生数が多かった。しかし、 S‑S条件とD‑D条件の間には有意差がみら れなかった。
第4試行でも、第3試行と同様に、 S‑D条件はS‑S条件(f(368)‑13.71, /><.001)、 D‑
S条件0(368)‑8.27, /><.001)、およびD‑D条件0(368)‑14.17, /><.001)よりもそれぞ れ有意に再生数が多かった。また、 D‑S条件は、 S‑S条件0(368)‑4.83, /><.001)とD‑
D条件0(368)‑5.29, 」<.OOl)よりも有意に再生数が多かった。しかし、 S‑S条件とD‑D 条件の間には有意な差はみられなかった。
2・供反応数 誤反応は、 I)スト外侵入エラー(7)ストに含まれていない項目の再生)と、リス ト内侵入エラー(先行試行のリスト項目の再生)について算出した。表2は、それぞれのエラーの総 数を条件別に示したものである。なお、リスト内侵入エラーについては、直前の試行からのエラー 数の割合を( )内に%で示した。全体的にエラーの出鄭ま少なかったので、特に統計的な処理は行 わなかった。また、顕著な傾向もみられなかったので、結果は参考程度にかかげることにとどめた。
表2 Brown‑Peterson試行における誤反応数の内訳
I)スト外侵入エラー リスト条件 試 行
1 2 3
リスト内侵入エラー 試 行
1 2 3
CO Q cO Q
L一
̀: j A
co co Q Q
T f n h n
C‑ cO r‑1 T* i
n h n
^ C O N m H
) ) ヽ
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( )内の数値は、直前の試行からのエラー率を示す。
最終自由再生テストの成績 正しく再生された項目の総数を求め、条件別に平均値を図示し たものが図2である。順向抑制の形成がみられたS‑S条件、 D‑S条件、 D‑D条件の平均値 について3 (リスト条件) ×4 (試行)の分散分析を行った。その結果、リスト条件(F‑6.83, df‑ 2と69, F<.01)の主効果のみが有意
であり、試行の主効果、及びリスト条件×
試行の交互作用は有意でなかった。リスト 条件について主効果の換定を行った。その 結果、 D‑S条件はD‑D条件よりも有意 に再生数が多かった(*(207)‑3.59, P<
.001)が、 S‑S条件とD‑S条件および D‑D条件のそれぞれの問に有意な差はみ
られなかった。
Brown‑Peterson試行に関する内省報告 表3は、実験後に行われた内省報告の結 果をまとめたものである。特に統計的な処 理は行わなかったが、以下の点が明らかに なった。記銘時では、どのリスト条件におい
2 1
P8
││ BO 8J S UU 8J I UB 9I AI
1 2 3 4 Trials
図2 最終自由再生テストにおける条件ごとの正 再生数の平均
順向抑制の形成に及ぼすリスト類似性の効果
表3 Brown‑Peterson試行に関する内省報告の内訳
記銘時 試行を重ねるにつれて、徐々におぼえにくくなるという報告は、どの条件でもみられな かった。
屈bfLt>i
S‑S条件 ①初めはカテゴリーから連想できたが、次第にわからなくなった(14名)
②頭文字だけおぼえても、前の項目と混同して忘れてしまう。 (1名)
③項目のあった位置で想い出そうとしたが、わからなくなった。 (1名) S‑D条件 ①項目3つをカテゴリーでまとめて想い出した(14名)
②頭文字でおぼえて、カテゴリーで引き出した。 (4名)
③ひとつ想い出すと、カテゴリーにつられて残りを想い出した。 (2名)
D‑S条件 ①3つのカテゴリーが、それぞれ出てくるとわかった時、想い出しやすかったO (9名)
②カテゴリーの存在に気がつかなかった時、項目が混同して想い出せなかった。 (4名)
③よく出てくると気づいたカテゴリーの項目は想い出しやすかった。 (3名)
④頭文字のみおぼえ、カテゴリ‑の存在に気づかなかった時には、混同して想い出せな かった。 (1名)
⑤カテゴリーがあっても、前の項目と混同したO (1名)
⑥位置で想い出そうとしたが無駄であった。 (1名) D‑D条件 ①頭に浮かんだものを想い出した。 (8名)
②イメージ化したものを想い出した。 (5名)
③頭文字は役に立たない。 (1名)
④手がかりがない。 (1名)
⑤関連づけて想い出せない。 (1名)
⑥関連づけたものは、想い出しやすかった. (1名)
⑦印象に残ったものは、想い出しやすかった。 (1名)
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ても試行にともなう記銘の困難さは報告されなかった。しかしながら、検索時ではリスト条件に 応じて予想されたような、検索手がかりの効果的な利用と項目の弁別性に関する特徴のある内省 報告が行われている。 S‑S条件では、同カテゴリーの項目リストの反復により検索手がかりの 効果的な利用ができにくくなっていること S‑D条件では、各試行で検索手がかりが効果的に 利用できていること D‑S条件では、カテゴリーの存在に気づき、カテゴリーを検索手がかり として利用した時に傾向抑制の形成が減少していること。 D‑D条件では、検索手がかりの利用 ができず、様々な方略を用いようとしているが、結局は再生が困難になっていることなどであ る。
考 察
本研究の第1の目的は、リスト内およびリスト問の類似性の有無に基づいて構成された4つの リスト条件を用いて、傾向抑制の形成に関係すると考えられる検索手がかりの効果性と項目の弁 別性の要因の機能を検討することであった。また、第2の目的は、最終自由再生手続きを用いて、
順向抑制の形成の要因が、記銘あるいは検索のいずれの段階に存在するのかについて検討するこ とであった。
Brown‑Peterson試行の第1試行は、 S‑S条件とS‑D条件は、それぞれD‑S条件とD‑D
196
藤 田 正条件よりも再生成績が高かった。この結果は、リストあたりの項目数が異なっていたにもかかわ らず、藤田(1982)のP I条件とカテゴ1) ‑変化条件が無関連語条件よりも再生成績が艮いとい う結果と一致していた。また、記憶の体制化の研究でみられたような、関連語リストの再生成績 が無関連語リストの再生成績よりも良いという結果(Cole, Frankel, & Sharp, 1971)とも一致 している s‑s条件やS‑D条件のようにリスト内に類似している項目が存在する場合、それ がリストに共通する手がかりとして利用できるので、それが利用できないD‑S条件やD‑D条 件の場合よりも成績は艮かったものと解釈できる。
しかし、このようなリスト内類似性の特性も、リスト間の類似性によって影響を受けることが 明らかになった。第2試行以降の再生成績を比較してみると、記憶の手がかりの効果性と項目の 弁別性に基づいて予想したように、傾向抑制が形成された条件と順向抑制が形成されなかった条 件に明白に分かれた。傾向抑制が形成されなかったのは、リスト内が類似、リスト間が非類似で あるS‑D条件のみで、各試行ともおよそ85%の再生率を示していた。この条件では、リスト内 の類似、リスト間が非類似であるので、リスト内の項目に共通するカテゴリーが記銘、または検 索の手がかりとして利用できる。さらに、試行ごとにカテゴリーが変化するため、試行E.'とにカ テゴリー名は効果的な手がかりとして機能し、項目の弁別も容易になされるので傾向抑制が形成 されなかったものと考えられる。
残りの3条件では、順向抑制が形成された。 ))スト内、リスト問ともに類似性があるS‑S条 件では、第1試行から第4試行にかけて再生数が減少し、脹向抑制の形成がみられた。この条件 では、リスト内の項目に類似性があり、共通するカモゴリーが記銘、または検索の手がかりとし て利用できても、リスト間に存在する類似性のため、この手がかりの効果的な利用可能性を低下 させ、しかも、現試行と先行試行との項目の弁別も困難になっていくことの結果として順向抑制 が形成されたと考えられる。リスト内、リスト問ともに非類似のD‑D条件では、第1試行から 第4試行にかけて再生数が減少し、順向抑制の形成がみられた。この条件では、リスト内、リス
ト間のいずれにも共通するカテゴリーが存在しないので、カテゴリー手がかりは利用できず、試 行を重ねるにつれて現試行と先行試行との項目の弁別が因襲酎こなり、 JTB向抑制が形成されたもの
と考えられる。
次に、これまで検討されなかったリスト条件であるD‑S条件は、リスト内非類似、リスト問 類似の条件である。この条件では、第1試行から第2試行にかけてのみ再生数が減少したが、第
2試行から第4試行までは再生数が一定であった。また、全体としてS‑S条件およびD‑D条 件よりも順向抑制の受け方は少なかった。この条件では、リスト内非類似のため、第1試行では 共通した手かかりが利用できないが、第2試行になってリスト間類似のため、リスト問に存在す る3つの共通カテゴ')‑を手がかりとして利用する可能性が高くなり、それによって項目間の弁 別性の低下も少なくなる。しかし、この特徴は特に、試行の進んだ第3試行以降になって明確に なっている。第2試行以降で再生数が一定になった結果は、それを示すものと考えられる。
ところで、 S‑S条件とDID条件の結果を比較すると、第1試行ではS‑S条件の方がD‑
D条件よりも再生数が多かったが、第2試行以降は両条件の問に大きな差はなく、いずれも同程 度の順向抑制が形成された。この結果は、 10項目リストを用いた藤田(1982)の結果と一致する ものであった。 S‑S条件では、試行が進むにつれて記憶のための手がかりの効果の減少と、項 目の弁別性の低下という二重の困難性があると考えたが、手がかりの効果的な利用ができなくな った時点では、むしろ項目の弁別性の低下のみが強く作用するということを示唆している。
順向抑制の形成に及ぼすリスト類似性の効果
197
次に、最終自由再生テストの結果を吟味することにより、傾向抑制が形成される原因が記銘か、
放棄のいずれの段階にあるのかを検討した Brown‑Peterson 試行抑制が形成されたS‑S条件、
D‑S条件、 D‑D条件の成練を比較したところ、いずれの条件においても、試行にともなう再 生成績の減少はみられなかった。この結果は、検索段階に原因があると考える立場(Loftus &
Patterson, 1975; Watkins & Watkins, 1975)からの予想と一致するものであった。つまり、試 行を重ねるにつれて、項目が記銘され、貯蔵されていても、リストの類似性により、検索時に一 時的に、手がかりの効果的な利用ができなくなったり、その試行で想起すべき項目と先行試行項
目との弁別が除々に困難になっていった結果として、傾向抑制が形成されたと考えることができ る。なお、実験後に行った内省報告の結果は、検索時の手がかりの効果的な利用可能性と項目間 の弁別性が傾向抑制の形成に関係していることを裏づける証拠として、興味が持たれる結果であ る。
ところで、有意味材料には意味、形態、音韻の類似性が存在するが、いずれの類似性が傾向抑 制により強く影響するのかは、本研究で検討した換乗手がかりの効果性と項目の弁別性の機能を 検討するうえにおいても関心のもたれるところである。日本語の漢字には、同音、類音の語が多 いことや、同一あるいは類似した部首や概形を持ったものが多い。これらの特徴は、漢字の習得 や記憶などに影響することが指摘されている(海保と野村, 1983),しかしながら、漢字の属性 の類似性が記憶の干渉に及ぼす影響に関しての検討はなされていない。現在、筆者は本研究で用 いたリスト内、リスト間の類似性に基づいて構成された4つのリスト条件を用いて、漢字の形態、
音韻、意味の類似性が傾向抑制の形成に及ぼす影響について検討することを計画している。
要 約
順向抑制の形成に関係すると仮定される、検索手がかりの効果的な利用可能性と、項目間の弁 別性の働きを明確にするために、共通するカテゴリーの有無に基づくリスト内、及びリスト問の 類似性が傾向抑制に及ぼす効果について検討することを目的とした。
大学生96名が表1に示されるような、リスト内とリスト間の類似性の有無に基づいて構成され たS‑S条件、 S‑D条件、 D‑S条件、 D‑D条件のいずれかのリスト条件に割りあてられた。
実験は個別に行われた。 3項目が同時に2秒間提示され、 20秒間のリ‑‑サル妨害課題(3桁 の整数の減算課題)を行った後に10秒間の口頭自由再生が行われた。このような手続きが4試行 繰り返された。 4試行が終わった後、それまで提示された項目のすべてを再生する一括最終自由 再生テストが行われた。
主な結果は次の通りである Brown‑Peterson試行に関しては、(1)リスト内類似、リスト間非類 似であるS‑D条件では、試行にともなう再生の減少はみられず、傾向抑制は形成されなかった。
(2)リスト内類似、リスト問類似であるS‑S条件と、リスト内非類似、リスト間非類似であるD
‑D条件では、試行にともない、同程度に再生が減少し、傾向抑制が形成された(3)リスト内非 類似、リスト間類似であるS‑D条件では、第1試行から第2試行にかけて再生が減少し、傾向 抑制が形成されたが、それ以降は再生数は一定であった。全体として、 S‑D条件とS‑S条件 やD‑D条件との中間に位置する再生成績であった。最終自由再生テストに関しては、 Brown‑
Peterson試行で傾向抑制が形成されたS‑S条件、 D‑S条件、 D‑D条件のすべてにおいて, 試行にともなう再生成績の減少はみられず、各試行で同程度の再生成績であった。
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藤 田 正以上の結果から、傾向抑制の形成には、検索時における検索手がかりの効果性と、リスト問の 項目の弁別性の2つの要因が関係し、これらの要因はリスト内とリスト問の類似性により影響を 受けることが明らかになった。
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〔付記〕データーの蒐集と分析に際して牧本昭代さんの協力を得た。記して厚く御礼申しあげます。
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藤 田 正The Effects of List Similarity upon the Buildup of Proactive Inhibition
Tadashi FujiTA
Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan (Received April, 30)
The purpose of this experiment was to examine the e∬ects of list similarity on forma一
tion of proactive inhibition by manipulating both within‑list and between‑list similarity in the categorized and noncategorized list.
A 4 × 4 factorial design was used, which incorporated list conditions (Similar (within)
‑Similar (between), Similar‑Dissimilar, Dissimilar‑Similar, and Dissimilar‑Dissimilar) and number of trials (from 1 to 4). The subjects were 96 student at Nara University of Educa‑
tion with a mean age of 19 years and 1 month, who were assigned to one of the four list conditions (see Table 1). Each list was consisted of three words. Under the S‑S condition,
all lists in four trials were consisted of words from the same taxonomic category (e. g. flow‑
ers). Under the S‑D condition, two lits in adjacent trials were consisted of words from different categories (e. g. animals, flowers,丘shes, and tools). Under the D‑S condition, each list was consisted of three words each of which were selected from each category (e.g.
nations, fruits, and animals). Under the D‑D condition, each consisted of 3 words from unrelated categories throughout the trials.
The experiment was conducted individually by Brown‑peterson paradigm. Three items were presented simultaneously by the slide projector at a 2‑sec rate. Following it, the dis・
tractor task (counting backwards by・three from a three‑digit number) was given during retention interval (20 sec) and then recall test was given for 10 sec. Following the recall test, next trial was introduced until four trials were completed. After fourth‑trial was over, 氏nal free recall test was required to recall all items presented from lst trial to 4th trial.
The main results were as follows: on the performance of Brown‑peterson recall test (see Fig. 1), (1) under the S‑D condition, PI was not built up as a function of trials, and the performances of recall were at a high level and kept constant.
(2) Under both the S‑S and D‑D condition, PI was built up as a function of trials, and the performances of both conditions were about the same except trial 1.
(3) Under the D‑S condition, PI was built up as a function of trials, but the degree of PI formation were smaller than both S‑S and D‑D condition.
(4) On the performance of丘nal free recall test (see Fig. 2), the performances of recall under the S‑S, D‑D, and D‑S condition which were built up PI do not decrease as a func・
tion of trials.
On the bases of above results, we concluded that the buildup of PI was due to both effectiveness of retrieval cues and the discriminatality of list items in the phase of retrieval, and these two factors were infulenced by both within‑list similarity and between‑list simi‑
larity.