奈良教育大学学術リポジトリNEAR
順向抑制の形成に及ぼす隣接試行の類似性の効果
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 37
号 1
ページ 139‑148
発行年 1988‑11‑25
その他のタイトル The Effects of Category Similarity in Adjacent Lists on the Buildup of Proactive Inhibition URL http://hdl.handle.net/10105/2042
奈良教育大学紀要 第37巻 第1号(人文・社会)昭和63年 Bull. Nara Univ. Educ. Vol. 37, No.1 (cult.& soc), 1988
順向抑制の形成に及ぼす隣接試行の類似性の効果
藤 田 正 (奈良教育大学心理学教室) (昭和63年4月30日受理)
記憶における傾向抑制(Proactive Inhibition)、または順向干渉(Proactive Interference) の現象は、先行事象が後続事象の記憶を妨げる現象であり、事象が類似しているはど干渉が大き いことが兄い出されている(Houston, 1981 :辰野、 1973)。短期記憶の忘却においても川貞向抑 制が関係していることをKeppel and Underwood (1962)が兄い出して以来、短期記憶の研究
においても、傾向抑制の形成に影響する要因や、順向抑制のメカニズムに関しても、数多くの実 験的な研究が行われている(Crowder, 1976 : Underwood, 1982)c
これまでに提唱されてきた短期記憶における川貞向抑制のメカニズムに関する主な理論には、次 のものがある。それらは、 Keppel and Uuderwood (1962)の「学習解消」と自発的回復による
「競合」を仮定する2要因説であり、 Wickens (1972)の項目間の弁別性の低下を仮定する説で あり、 Watkins and Watkins (1975)の検索手掛りの過重負荷による検索機能の低下を仮定す る手掛り過重負荷説(cue‑overload hypothesis)であり、 Radtke and Grove (1977)の初期 の試行で提示された項目と後期の試行で提示された項目の利用可能性(availability)と接近可 能性(accessibility)の差の反映を仮定する説である。
これまでの理論では、検索手掛りと干渉の関係について検討した理論は少なく、また、実験的 な検討も少なかったので、藤田(1982)は、 "リスト内に共通する属性に基づく検索手掛りの体 制化機能と、それに基づくリスト問の弁別機能が、効果的に作用する場合には再生は促進され、
干渉が生じることはないが、弁別機能が効果的に作用しない場合には、再生を妨害し、干渉が生 じる。〝 という干渉における検索手掛りの体制化機能と弁別機能を仮定する仮説を提唱し、実験 的検討を行ってきた(藤田、 1982、 1985、 1986)。
ところで、傾向抑制の形成に最も強く関係するリスト問の弁別性の問題は、隣接する試行問の 類似性と、先行試行の類似性に関係することが考えられる。しかしながら、この点に関して十分 な検討が行われていないので、両者が順向抑制に及ぼす効果について検討することは、検索手掛
りの弁別機能について明らかにする上においても必要である。
藤田(1982、 1985)では、同一カテゴリーの項目から各試行のリストが構成されているリスト 条件(s‑s条件)では、検索手掛りが項Ejを弁別的に検索できないことにより、順向抑制が形 成された。他方、各試行が異なるカテゴリーで構成されているリスト条件(S‑D条件)では、
各試行において、検索手掛りが項目を弁別的に検索できるので、川貞向抑制は形成されてないとい う結果が兄い出されている。これらの条件をリスト間の類似性の観点からみてみると、 S‑S条 件は隣接試行間も、先行試行も同一カテゴリ‑であり、 S‑D条件は隣接試行間も、先行試行も 異カテゴリ‑である.しかし、これら2つのリスト条件の比較だけからは、隣接試行問、及び先 行試行の類似性がそれぞれ傾向抑制の形成に及ぼす効果については明らかにならない。
最初の隣接試行(n試行とn+ 1試行)での類似性は、直接川貞向抑制の形成に結びつくが、そ れに続く試行(n 試行)を考える場合、先行試行(n試行)と隣接試行(n+l試行)の両
139
icn:
藤 川 ll‑.方からの類似性の影響が考えられる。この場合、隣接する直前の試行との類似性の影響が大きい のか、先行試行との類似性の影響が大きいのであろうか。これまでの我々の研究では、弁別の困 難性の測度であるリスト内侵入エラーは、 SI S条件では先行試行よりも直前試行からのものが 多く、 S‑D条件では先行試行、直前試行のいずれもほとんどないとの結果が兄い出されている。
したがって、リストの弁別性に関して、隣接試行間の類似性と先行試行の類似性の影響には違い が生じることが十分考えられる。
さらに、リスト問の類似性の影響については、類似性が高いほどリスト間の弁別が困難になる ので、順向抑制が大きくなることが兄い出されている(Wickens, Dalezman, & Eggmeier, 1976; Wickens & Commarata, (1986)c したがって、この点についても併わせて検討するこ とにした。
本研究の目的は、川貞向抑制の形成における検索手掛りの弁別機能について検討するため、隣接 試行のリスト項目は異なるカテゴリーであるが、先行試行に同じカテゴリーの項目が存在する場 合における順向抑制の形成について、リスト間のカテゴリーの類似性を操作することにより検討 することである。
これらの目的を検討するため、以下のリスト条件を設けた。それらは、 ①全試行が同じカテゴ リ‑の項目で構成されるリスト条件(以下、 A‑A‑A条件)、 ㊥各試行E:とに異なるカテゴリ‑
で構成されリスト条件(以下、 A‑B‑C条件)、 ③最初と最後の試行が同じカテゴリーで、真 申の試行が異なるカテゴリーの項目で構成される、隣接試行問は非類似、先行試行は類似のリス ト条件(以下、 A‑BIA条件)、 ④A‑B‑A条件と同様なリスト構成であるが、隣接する試 行間の類似性が大きいカテゴリーで構成されたリスト条件(以下、 A‑B′‑A条件)の4つの
リスト条件であった。
それぞれのリスト条件での再生成績の予想は次の通りである。 ㊥A‑A‑A条件では、リスト 問に存在する類似性のため、検索手掛りによりリストを構成するカテゴリーへの接近はできても、
リスト問の項目の弁別が試行とともに困難になるので、再生は低下し傾向抑制が形成される。 ② A‑B‑C条件では、試行ごとにリストのカテゴリーが変化するため、各試行において検索手掛 りの弁別機能が効果的に働くので、リストを構成するカテゴリーへの接近と、リスト間の項目の 弁別が効果的になされ、再生は減少せず順向抑制は形成されない。 ③A‑B‑A条件では、第1 試行から第2試行までは、 A‑B‑C条件と同じ結果が予想されるが、第2試行から第3試行に かけては、次のような2通りの予想ができる。 a)隣接する試行間の類似性の方がリスト問の弁 別に関係するならば、非類似の関係にあるこの条件では、手掛りの弁別機能も効果的に働き、項 目の弁別がなされ易いので、再生は低下せず順向抑制は形成されない。しかし、 b)先行試行リ ストの影響が考えられる場合、先行試行に同カテゴリーのリストが存在するので、利用される検 索手掛りは同じものであり、 A‑A‑A条件の場合と同様、カテゴリーへの接近はできても、同 カテゴリーである先行試行からの影響で項目間の弁別が困難になり、再生の低下が生じ傾向抑制 が形成されることが予想される。 ④AIB′‑A条件では、 A‑B‑A条件と同様なメカニズム が働くことが考えられるが、隣接する試行問の類似性が高いので、検索手掛りの弁別機能は低下 する。したがって、 A‑B‑A条件の場合よりも、第2試行以降において順向抑制を受ける可能 性は大きいことが予想される。
順向抑制の形成に及ぼす隣接試行の類似性の効果 方 法
eh
実験計画 実験計画は4 × 3の要因計画であった。第1の要因はリスト条件で、試行問の類 似性の操作により構成されたA‑A‑A条件、 A‑B‑C条件、 A‑B‑A条件、 A‑B′‑A 条件であった。第2の要因は試行数で、第1試行から第3試行までであった。前者は被験者間要 因、後者は被験者内要因であった。
被験者 被験者は、この種の実験に未経験な大学生80名(平均年齢19歳6か月:範囲18歳3 か月〜23歳0か月)であった。これらの被験者は、各リスト条件ごとに20名ずつ割りあてられた。
記銘リストおよび装置 記銘リストには小川(1972)のカテゴリー出現頻度表を参考にして 選択された3‑4音節の名詞36語が用いられた。 1リストは3項目から成り、リストの出現頻 度、音節数、熟知度ができるだけ等しくなるようにした。項目は邦文タイプでカタカナ文字に打っ たものをスライドにした。ひとつのスライドには、頭文字をひとつ右方向にずらして、 3項目が 縦に並べられた。表1は、実験に用いられたリストのカテゴリーをリスト条件別に示したもので
*3tm
表1リスト条件におけるカテゴリ‑構成の一例
^ (]
リスト条件
1 2
八 一A It 花
A‑B‑C 乗 物 工 具
A B A / [; しl.I
A‑BLA 花 木
花 花 花 花
A‑A‑A条件は、リストは第1試行から第3試行まですべて同一のカテゴリI(花または動 物)から選ばれた項目のみで構成されている。 A‑B‑C条件は、乗り物、工具、花(または、
野菜、衣服、動物)のように、試行こ、とにカテゴリーが異なる項目で構成されている A‑B‑
A条件は、花、工貝、花(または、動物、衣服、動物)のように、第1試行と第3試行が同一カ テゴリーであり、第2試行は全く非類似である異カテゴリーから選ばれた項目で構成されている。
A‑B′‑A条件は、花、木、花(または、動物、鳥、動物)のように、第1試行と第3試行が 同一カテゴリーであり、第2試行は非類似であるが隣接試行との類似性が高いカテゴリーから選 ばれた項目で構成されている。それぞれのリスト内の項目の提示順序は、予め同じ韻が続かない ように考慮され、配列されていた。また、各条件とも、リストの提示順序の異なるリストを4種 類ずつ用意した。なお、課題に慣れるため、練習課題用のリストを1試行分だけ作成した。リス
トのカテゴリ‑は、本課題で用いるのとは異なるカテゴリーの項目で構成されていた0
スライドの提示には、 Kodak Ektagraphic Slide Projectorを用い、項目提示時間、リス ト問間隔などの時間の制御には、サンワ Digital Time Regulatorを用いた。また、把持時間、
再生時間、および試行間間隔の測定には、ストップウォッチを使用した。
手続き 実験は個別に行われた。被験者が所定の位置につくと、氏名、生年月日などを尋ね たあと、次のような旨の教示を与え実験を開始した。
142
藤 田 正"今から、幾っかの単語を見せますので、よく覚えて下さい。次に数字が出てきた時には声に 出して、その数字から3ずつ小さい方‑引いていってfさい。そのあと、スクリ‑ンに『※ど んな順序でもよろしいから、想い出して言って下さい。』という教示が出てきますから、今覚 えた単語をできるだけ多く想い出して言って下さい。このような課題が数回続きます。計算と 単語を覚えることはどちらも大切な課題ですから、がんばってやって下さい。〝
教示が終わると、タイムレギュレータ‑のスイッチを入れ、プロジェクターを作動させた。項目 の提示は3項目同時提示で、提示時間は2.0秒であった。 『※では、始めます。』の教示スライ
ドの後、 3項目が同時に提示された。それに続いて、 3桁の整数が20秒間提示され、その間、被 験者には滅算課題を声に出して行わせた。続いて『※どんな順序でもよろしいから、想い出して 言って下さい。』の教示スライドが提示され、口頭で10秒間の自由再生が行われた。試行間間隔 を2.0秒とり、同様な手続きで3試行が繰返された。 1分間の時間間隔を置いた後に、別のカテ
ゴリーから成るリストについて同様な手続きでもって実験が繰返された。
結 果
結果の処理に際しては、 2種類のリストについての再生成績を平均したものを用いた。
正再生数 提示位置に関係なく正しく再生された項目の総数を求め、リスト条件別に平均値 を示したのが表2である。平均値について4 (リスト条件) ×3 (試行)の分散分析を行った。
その結果、リスト条件(F‑9.18, df‑3と76, P<.01)と試行(F‑39.81, df‑2と152, P<.01)の主効果、およびリスト条件×試行(F‑6.ll, df‑6と152, P<.01)の交互作 用がそれぞれ有意であった。
表2 Brown‑Peterson試行における平均正再生数と標準偏差
試 行 リスト条件
1 2 3
A‑ A‑ A 2.75(0.26) 1.83(0.75) 1.75(0.72) A‑B‑C 2.70(0.34) 2.60(0.50) 2.68(0.34) A‑B‑A 2.70(0.38) 2.53(0.44) 1.80(0.59)
A‑ B′‑ A 2.70(0.38) 2.08(0.86) 1.73(0.77)
( )内は標準偏差
交互作用が有意になったので、単純効果の検定を行った。最初に、試行に伴なう再生数の変化 を条件別にみるために、誤差項を用いた t検定を行った。その結果、 A‑AIA条件では、第
1試行と第2試行U (152) ‑5.64, P<.01)、および第1試行と第3試行(t (152) ‑6.10, P<.01)の間に有意差がみられたが、第2試行と第3試行の問には有意差はみられなかったO これは、第1試行から第2試行にかけて再生数が減少しているが、その後は再生数が一定である ことを示しているo A‑B‑C条件では、いずれの試行問においても有意差はみられなかった。
これは、第1試行から第3試行にかけて再生数は一定であることを示しているo
A‑B‑A条件では、第1試行と第2試行の間には有意差がみられなかったが、第1試行と第 3試行(t (152) ‑5.49, Pく.01)、および第2試行と第3試行(t(152) ‑4.42, P<.OV
順向抑制の形成に及ぼす隣接試行の類似性の効果
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の間においてそれぞれ有意差がみられた。これは、第1試行から第2試行にかけて再生数が一定 であるが、その後は減少していることを示している。 A‑B′‑A条件では、第1試行と第2試 行(t (152) ‑3.81, P<.01)の問、第1試行と第3試行U (152) ‑5.90, P<.01)の問、
および第2試行と第3試行(t(152) ‑2.13, P<.05)の間に有意差がみられた。これは、第 1試行から第3試行にかけて再生数が減少していることを示している。
次に、試行ごとに条件間の差についてt検定を行った。その結果、第1試行では、どの条件 問においても有意差がみられなかった。
第2試行では、 A‑B‑C条件が、 A‑A一一IA条件(t (228) ‑4.35, P<.Ol)、およびAI B′‑A条件(t (228) ‑2.95, P<.01)よりもそれぞれ有意に再*.数が多かったが、 A‑BI A条件との問には有意な差はみられなかった。また、 A‑B‑A条件は、 AI B′‑A条件(t (228) ‑2.53, P<.05)、およびA‑AI A条件 U (228) ‑9.55, P<.01)よりも、それ ぞれ有意に再生数が多かったO また、 A‑B′‑A条件とAIA‑A条件の間には有意差がみら れなかった。
第3試行では、 AI B‑C条件が、 A‑B′‑A灸件(t (228) ‑5.34, P<.01)、 A‑B‑
A条件(t(228) ‑4.92, P<.01)およびA‑A‑A条件(t (228) ‑5.20, P<.01)、より もそれぞれ有意に再生数が多かった。しかし、 A‑B′‑A条件、 A‑B‑A条件、 A‑AI A 条件のいずれの間にも有意差はみられなかった。
誤反応 誤反応は、リスト外侵入エラー(リストに含まれない項目による侵入エラ‑)と、
リスト内侵入エラー(先行するリストからの侵入エラー)について算出した。エラー数が少なかっ たので、総数で表わすことにした。表3は、各々のエラーの総数を条件別に示したものである。
なお、リスト内侵入エラーについては、直前の試行からのエラー数の割合を( )内に%で示し ている。表4は、リスト内侵入エラーの内訳を示したものである。誤反応については、総数が少 ないので、統計的処理は行わなかった。それぞれのエラ‑の特徴は、次の通りである.リスト外 侵入エラーでは、 A‑B‑A条件、 A‑BI C条件、 AI B′‑A条件、 A‑AI A条件のIIIIに 少なくなっており、リスト間の類似性が高いほどエラー数が減少している。一方、リスト内侵入 エラー数は、 A‑B‑C条件ではエラーがほとんどなく、 A‑B‑A条件では、第1試行から第 3試行‑の侵入エラーのみがみられた A‑A‑A条件、 AI B′‑A条件においては、第2試 行、第3試行にエラーがあり、どちらの条件も第3試行のエラ‑数の方が多い。
表3 リスト条件別の誤反応(総数)
リスト外侵入エラー リスト内侵入エラー
リスト条件 試 行 試 行
1 2
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⁝ i .
‑
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c Q C Q C D
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一
< < < < O
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( )は直前試行からのエラー数の割合(形)
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藤 田 正表4 リスト内侵入エラーの内訳
リ ス ト 条 件
A I A‑A A‑B'‑A A‑B I A
試 行 1 ‑2‑3
\J \J
ェラー数 U
2
1 1 2 ‑ 3
二プ
6
1 ‑ 2 ‑ 3
\\\Jノ
8
次に、各条件E:とに両方のエラ‑を比較した A‑A‑A条件とA‑B′‑A条件においては、
リスト外侵入エラ‑よりもリスト内侵入エラ‑の方が多かった。 A‑BIA条件では、リスト内 侵入よりもリスト外侵入の方が多かった。また、 A‑B‑C条件では、リスト内侵入エラーはほ
とんどなく、リスト外侵入エラーが多かった。これらの結果は、リスト問の類似性が高い条件は、
リスト外侵入エラーよりもリスト内侵入エラーが多く、リスト間の類似性が低い条件はその逆で あることを示している。
考 察
本研究では、隣接試行のリスト項目は異なるカテゴリーであるが、先行試行に同じカテゴリー の項目が存在する場合におけるIIII向抑制の形成について、リスト問のカテゴリ‑の類似性を操作 することにより検討することを目的とした。
AI A‑A条件では、順向抑制が形成され、第1試行から第2試行にかけて再生数が減少し、
その後は再生数が一定であったo この条件では、同一カテゴリ‑が繰返されることによって、検 索手掛りが項目を弁別的に検索できないので順向抑制が形成されたのである。 A‑B‑C条件で は、第1試行から第3試行にかけて再生数が一定で、順向抑制は形成されなかった。この条件は、
各試行が異なるカテゴリーの項目リストが用いられており、検索手掛りが項目を弁別的に検索で きるので順向抑制が形成されなかったのである。これら2条件の結果は、藤田(1982, 1985)の 結果と一致しており、順向抑制の形成は、検索手掛りの体制化機能が有効にリスト問の弁別機能
と結びつかず、項目の弁別を困難にした結果生じるという仮説が支持された。
次に、本研究の主な関心であるA‑B‑A条件とA‑B′‑A条件について考察する。 A‑B‑
A条件では、第1試行から第2試行にかけてはA‑B‑C条件と同様、再生数に変化はなく、順 向抑制の形成はみられなかった。しかし、第2試行から第3試行にかけては、再生数は減少し順 向抑制がみられた。また、第3試行の成績は、 A‑A‑A条件の成績とほぼ同じであった。第1 試行から第2試行にかけては、 A‑B‑C条件と同様に、検索手掛りが項目を弁別的に検索でき るので、 Jill向抑制が形成されなかった。しかし、続く第3試行は第2試行と非類似であるにもか かわらず、再生の減少がみられた。これは、第3試行が第1試行と同一カテゴリーであることか ら、 A‑A‑A条件と同様、検索手掛りが弁別的に利用できなくなり、項目間の弁別が困難になっ た結果生じたものである。リスト内侵入エラ‑は、第2試行では、第1試行からの侵入はみられ なかったが、第3試行では第1試行からの侵入が8個もあったという結果は、この条件での検索 手掛りの弁別機能の低下を別な面から裏づける結果であるといえる。
順向抑制の形成に及ぼす隣接試行の類似性の効果
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A‑‑B‑A条件の結果から、少なくとも試行が進んだ時点では、隣接する試行が非類似のリス ト項目であるだけでは、検索手掛りは弁別的に機能しないといえる。つまり、隣接する試行問が 非類似であっても、先行試行に同一の手掛りが利用できる事態では、中間に非類似なカテゴリー が存在していても、検索手掛りの弁別機能は低下するのである。
また、 A‑B‑A条件よりも、隣接試行問の類似性が大きいA‑B′‑A条件では、 A‑A‑
A条件とはぼ同程度に第1試行から第3試行にかけて再生数の減少がみられ、順向抑制が形成さ れた。この条件では、隣接試行リストのカテゴリーが、花と木、動物と鳥のように類似しており、
検索手掛りの弁別機能がより大きく低下したので、 A‑A‑A条件と同様な結果になったものと 解釈できる。したがって、第1試行から第2試行にかけてのA‑B‑A条件とA‑B′‑A条件 の差は、従来の研究(Wickens, Dalezman, & Eggmeir, 1976 ; Wickens & Commarata, 1986) で兄い出されたように、リスト間の類似性の差により生じたものといえる。
ところで、 A‑A‑A条件、 A‑B‑A条件、 A‑B′‑A条件の第3試行の再生数がほぼ同 じであった結果には興味がもたれる。 A‑A‑A条件では、第1試行から第2試行にかけて大き な再生の減少があり、その後は一定になっている。このような服向抑制の形成のパタ‑ンは、従 来の多くの研究(Wickens, 1972)でもよく兄い出されていた。 A‑B‑A条件とA‑B′‑A 条件の第3試行の成績がほぼ同じであったことは、第2試行に異なるカテゴリーが存在していて も、それに大きく影響されず、共通に利用できる検索手掛りの弁別機能による影響の方が大きい 結果といえる。
本研究のA‑B‑A条件とAI B′‑A条件の両条件では、同一カテゴリーリストの間に、非 類似リストが1試行介在しただけで、比較的短い時間の範囲内で、同カテゴリ‑リストが反復さ れた。したがって、検索手掛りの機能が[司復しやすく、それがリスト問の項目の弁別の低下につ ながったといえる。しかし、 Russ‑Eft (1979, Exp. 2)は、 4試行の異カテゴリ‑の試行 が介在した後でさえも、先行試行に同一カテゴリーが存在していたことにより、再生成績の減少 を兄い出している。来研究の結果や Russ‑Eft (1979)の結果を合わせて考えると、非類似 のカテゴリーリストが反復される事態では、記憶痕跡はカテゴリーごとに独立した形で、弁別的 な状態になっている。したがって、数試行を,経過したあとでも、同カテゴリ‑のリストの再生が 求められる場合には、共通する検索手掛りが以前と同様に機能するようになり、先行試行からの 影響が生じる。したがって、それが検索手掛りの弁別機能を低下させ、順向抑制を生じるのであ
る。
以上の結果より、検索手掛りの弁別機能は、先行試行および隣接試行間の類似性の両方により 決定されると結論づけることができる。
要 約
本研究の目的は、 Jill向抑制の形成における検索手掛りの弁別機能について検討するため、隣接 試行のリスト項目は異なるカテゴリーであるが、先行試行に同じカテゴリ‑の項目が存在する場 合における順向抑制の形成について、リスト問のカテゴリ‑の類似性を操作することにより検討 することであった。
大学生80名が、表1に示された4つのリスト条件のいずれかに割りあてられた。 A‑A‑A条 件は、全試行が同一カテゴリーで構成されるリスト条件、 A‑B‑C条件は、試行ごとに異なる
146
藤 ffl iEカテゴリーで構成されたリスト条件、 A‑B‑A条件は第1試行と第3試行が同一カテゴリーで、
これらの試行と第2試行が全く非類似カテゴリーで構成されるリスト条件、 A‑B′‑A条件は 第1試行と第3試行が同一カテゴリ‑で、これらと第2試行が非類似であるが、類似性が大きい
カテゴリーで構成されるリスト条件であった。
実験は個別に行われ、 Brown‑Petersonパラダイムが用いられた。 3項目が同時に2秒間提 示され、 20秒間のリ‑‑サル妨害課題(3桁の整数の減算課題)を行った後に10秒間の口頭自由 再生が行われた。この手続きが3試行繰返されたo
主な結果は次の通りであった(表2参照)。 (DA‑A‑A条件では、試行に伴い再生が減少し、
順向抑制がみられた。 (2)A‑B…C条件では、試行に伴う再生の減少はみられず、順向抑制は形 成されなかった(31A‑B‑A条件では、 A‑B‑C条件と同様、第1試行から第2試行にかけ ては再生の減少はみられなかったが、第2試行から第3試行にかけては再生の減少がみられ、帽 向抑制が形成された。 (4)A‑B′‑A条件では、 A‑A‑A条件と同様、試行に伴い再生が減少
し、順向抑制がみられた。
以上の結果から、隣接するリスト項目間が非類似であっても、先行試行に現試行と同一のカテ ゴリ‑が存在する場合には、先行試行の類似性の影響を強く受け、順向抑制が形成されることが 明らかにされた。
引 用 文 献
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〔付記〕実験の実施とデ‑ターの分析に際して北川直美さんの多大な協力を得た。ここに記して厚く御礼申 し上げます。
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The Effects of Category Similarity in Adjacent Lists on the Buildup of Proactive Inhibition
Tadashi FuJITA
Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan (Received April 30, 1988)
The purpose of this experiment was to examine the effects of category similarity in the adjacent trials on the buildup of proactive inhibition (PI).
A 4 × 3 factorial design was used, which incorporated list conditions (A‑
A‑A, A‑B‑C, A‑B‑A, A‑B′‑A) and number of trials (1, 2, 3). The
subjects were 80 college students with a mean age of 19yr. and 6 mO. who were assingned to one of the four list conditions (see Table 1 ). Each list had three words. Under the A‑A‑A condition all lists had the words from the same category.
Under the A‑B‑C condition two lists in adjacent trials had the words from different categories. Under the A‑ B‑A condition the first and the third lists had the words from the same category and the second list had the words from different
category. Under the A‑B′‑A condition the category in the second list was
different from the A‑B‑A condition and had a similar category to the first and the third lists.
Using the Brown‑ Peterson Paradigm, three words were presented simultaneously for 2sec. and then the distractor task was given for 20sec. After then recall test was given lOsec. After the recall test the second and third lists were presented one after another.
The main results were as follows : on the performance of Brown‑peterson recall test (see Table 2), (1) under the A‑B‑C condition, PI was not built up as a
function of trials, (2) under both the A‑A‑A and A‑B′‑A condition, PI was
built up as a function of trials, (3) under the A‑B‑A condition, PI was not built up from 1 to 2 trials, but was built up from 2 to 3 trials. The performance in the
third trial was about the same to the A‑A‑A and A‑B′‑A conditions.
From three findings we concluded that (1) although the lists of adjacent trials had different categories from each other, proactive inhibition was built up by the reI冶tition of prior list from the same category. (2) The degree of PI was infulenced by the category similarity between adjacent trials.