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後期戯作における雅俗

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

後期戯作における雅俗

佐藤, 悟

http://hdl.handle.net/2324/4755936

出版情報:雅俗. 1, pp.29-32, 1994-02-28. 雅俗の会

バージョン:

(2)

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近世の文芸を雅俗という二分法︑この方法の有効性に

は問題があるにしろ︑この方法で分類すると︑戯作は俗

の俗たるものであろう︒逆に俗の俗たる故に︑それを自

覚して戯作を執筆するという行為は雅であったのかも知

れない︒しかし戯作者という職業が成立すると︑戯作は

俗なるものになった︒同時に戯作そのものの中にも階層

の分化が生じ︑高級な戯作と低級な戯作という意識が生

まれた︒これを雅俗とすることに踏躇を覚えるが︑ここ

では図式的に雅俗として論じることにする︒

職業的な戯作者であった曲亭馬琴の意識の中では読本

と合巻は異なった存在であった︒馬琴は友人達に対して︑

読本は随筆に次ぐ﹁雅﹂なるものであり︑合巻は生活費

を得るための手段という姿勢をとった︒しかし実際には

佐 藤

後 期 戯 作 に お け る 雅 俗

^特集雅俗の諸相>

読本の潤筆料も馬琴の生活を支える重要な収入であった︒

読本と合巻の相違はなんであろうか︒原則として読本

は書物問屋が扱うもの︵実際の板元が貸本屋であったに

しろ︶であり︑書型は半紙本であった︒それに対し合巻

は地本問屋が扱うものであり︑書型は中本であった︒こ

れだけでも両者の格の違いは明らかである︒また挿絵の

比重が大きかった合巻は女性や子供を読者とするものと

いう建前が伝統的にあり︑読本よりも卑しめられていた

ということもあった︒読本と合巻を同時に執筆していた

戯作者にとって︑両者の問にはこのような外的な相違の

ほかに︑どのような相違があったのであろうか︒

後期戯作に関しては︑一般に︑趣向に作者の技量が示

されるという認識があったようである︒播本真一﹁﹃南

(3)

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1総里見八犬伝﹄と馬琴合巻﹂は﹃八犬伝﹄が﹃敵討児手

柏﹄などの合巻と共通の原拠・典拠を用い︑その趣向の

あり方が合巻に近似していることを明らかにしている︒

とすれば両者の間の相違はどこにあったのであろうか︒

2馬琴の天保三年四月二十八日付殿村篠斎宛書簡の中には

次のような記述がみられる︒

今の評者多くは趣向の巧拙のみ文章の事に不及候縦

趣向は巧に出来候共文拙ければ見るに足らず候趣向

は誰も見候文をよく見るが真の見巧者に候へ共多く

A

に不及敷と奉存候不文の人に趣向を立遣し此通

りにかけと申候とも大かたは書ころしてあたらしき

魚を鉛刀にて料理するごとくさらし可申哉かく申せ

ばとて愚文をよしとて誇るには神以無之候へども人

毎に趣向のみ評して文をいふものなきがあかぬ心地

し候へば申にて候趣向は一夜にても出来申候文は書

たて候のみにても数十日か

A

り候一行にても筆を握

て半日をくらし候事毎々あり趣向は晩の寝覚にも出

来申候かくのごとくに候へば趣向と文卜具足せざれ

ば意を述ることなしがたきものなるに趣向を見る人 のみにて文を評するものなきは評者が筆をとつて綴り試たる事なき故なるべし

ここで馬琴は趣向よりも文章を問題にしている︒ここで

いう文章は読本を念頭に置いたものであろう︒馬琴は天

保四年一月十二日に成立した﹁本朝水滸伝を読む井に批

評﹂の中で︑古語・雅言によらない新しい表現の重要性

を主張している︒読本よりも高尚な営みと考えられてい

た随筆においても︑馬琴は文政八年正月二十六日付殿村

2篠斎宛書簡の中で︑兎園会は耽奇会と比べて﹁好事のみ

にて文気無之仁﹂が多く参加していたため﹁奇談怪談の

み多く考はまれ﹂と評している︒馬琴には﹁文気﹂が問

題であったのである︒

3飯倉洋一﹁奇談から読本へ﹂は︑読本の始祖とされる

都賀庭鐘﹃英草紙﹄が面白く語られる読み物である﹁奇

談﹂の中から登場したこと︑その要因は中国小説に通じ

た文人の手になる小説であったことを指摘している︒と

ころが十九世紀初頭の江戸を中心とした読本は﹁奇談﹂

の世界に逆戻りしている︒馬琴の言葉を借りるならば︑

﹁文気﹂なき﹁奇談怪談﹂がその当時の読本の現実であっ

(4)

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た︒山東京伝や柳亭種彦にとって読本・合巻はともに戯

作であって︑読本が高級で合巻が低級という意識はなかっ

たと思われる︒京伝は商人であり︑種彦は旗本であって︑

職業的な戯作者ではなかったので︑両者を厳密に区別し

なければならない必然性はなかったのである︒ところが

武家としての﹁滝沢﹂の家の﹁復興﹂を願ってはいたも

のの︑自らは職業的な戯作者以外の何者でもなかった馬

琴は︑戯作の中に自らの立脚点を求めざるを得なかった︒

その対象となったのが自らの﹁学問﹂を発揮できると考

えた読本であり︑必然的に合巻は低級な存在となった︒

ここにおいて馬琴の読本は創作意識において︑﹁文人﹂

により執筆された﹃英草紙﹄系の読本と結び付き︑建部

綾足﹃本朝水滸伝﹄や上田秋成﹃雨月物語﹄を意識して

読本を執筆することになった︒しかし﹃英草紙﹄系の読

本と十九世紀江戸読本は連続したものではなく︑両者の

問には大きな断絶があった︒その溝を乗り越えるために

は新しい文体を必要とし︑そのための模索が始まったの

であ

る︒

馬琴の方法の︱つに﹃忠義水滸伝﹄を初めとする中国

小説にその構成を求めるという方法があった︒これは

﹃英草紙﹄系の読本の方法でもあった︒馬琴は特に﹃水

滸伝﹄に対し︑勧善懲悪という点では問題があるが小説

としては優れているという認識を持っていた︒このこと

は馬琴の読本に骨太な構成を与えることとなった︒これ

に対して京伝や種彦の読本は馬琴とは異なった方向を目

4指していたように思われる︒中国小説の摂取についても︑

5種彦は天保五年の笠亭仙果宛書簡の中で︑﹃水滸伝﹄を

﹁源氏とちがい筋があらあらしくいやでなり不申候﹂と

評している︒もし京伝・種彦が読本の執筆を続けたなら

ば︑十九世紀の読本には今日我々が知っている文学史と

は異なるいくつかの可能性があったかもしれない︒しか

し京伝・種彦の関心は随筆に向かい︑書陣も利潤のあが

る合巻の執筆を要求していたので︑主な読本の作者は馬

6琴だけという状況になった︒このことは馬琴の読本が京

伝・種彦の読本に優越するということを意味しない︒馬

琴には︑自分自身の問題として︑自らの読本の優越性を

証明することが必要であった︒その現れの︱つが馬琴の

評論活動であり︑'稗史七則の提唱による権威付けであっ

(5)

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物を集め︑その考察と賛美を人に委ね︑自らゆたかな

詞藻に遊泳するかのように一生を過ごしてきた中村仏庵

は︑幾人かの考証家と計らって︑文政七年から耽奇会と

いう定例の集いを江戸で興した︒生前のことはさておき︑

今日一般に知られる仏庵の唯一の事績である︒後世の眼

3  2  ー

ロバートキャンベル

. 

たの

であ

る︒

﹃江戸文学研究﹄(‑九九三年︑新典社︶

﹃日本藝林叢書﹄第九巻(‑九︱︱九年︑六合館︶

﹃日本の近世﹄第十二巻(‑九九三年︑中央公論

吉 原 考 証 の 雅 と 俗

6  5  4 

拙稿﹁柳亭種彦の﹃南総里見八犬伝﹄評について﹂ 社 ︶

︵﹁

読本

研究

﹂第

七輯

︑一

九九

︱︱

﹃古書簡集目録北尾コレクショソ﹄

年︑東海大学出版会︶

拙稿﹁馬琴の潤筆料と板元﹂

号︑一九九四年︶

^特集雅俗の諸相>

には晩年の美事︑ほほえましくすら映るこの一幕を︑本

人はどのように思ったのか︒

仏庵は当年七十四歳︑この珍奇展観合評会に関わった

十数の文人のうちもっとも老齢であり︑その頃小梅先生

と︑隠居地の名に因んで彼らに呼び親しまれていた︒日

参照

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