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マリノウスキーと日本の法律学

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Academic year: 2022

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

マリノウスキーと日本の法律学

南方, 暁

https://doi.org/10.15017/2231617

出版情報:九州人類学会報. 7, pp.33-36, 1980-03-31. 九州人類学研究会 バージョン:

権利関係:

(2)

マ リ ノ ウ ス キ ー と 日 本 の 法 律 学

南 方 暁

今日、法学研究も他の学問領践との関連を無視しては成り立たなくなっていると言われている。本年3 月に研究会で発表させていただく機会を得たが、そこで考察したかった乙とも法律学と人類学との関りあ いについてであった。

すでに、法学と人類学との関りは明治期の穂積隙重以降、中川義之助、末弘厳太郎、平野義太郎らによ (1) 

る数多くの業績のなかにみられる。乙ういった民族法学、法人類学が法学研究において有する重要性はい うまでもないが、それ以上に、法学領域においては日々の社会生活で発生する法的紛争を解決するために

必要な法解釈の研究が不可欠である。

法解釈の研究、すなわち法解釈学における法解釈とは、一定の個別的具体的法的紛争を前提として、そ の法的解決を図るための作業であり、民事事件の場合には主として裁判所において紛争当事者によりなさ れ、裁判官によって確定的な判断を導く作業であると言えよう。そして、 ζの法解釈という作業には、裁 判所で争われている個々の事件がどのような事実の絡み合いからなり(?)どのような争点を含んでいるかを

明らかにする「事実の認識

J

ともいうべきものと、当該の紛争が現行法体系のなかでいかなる基準に基づ いて判断され、またその判断を正当化するためにはどのような説明がなされねばならないかという「判断 をめぐる認識jというべき 2つの側面があると思われる。そして、 ζういった作業では法解釈の科学ぽ3) として事実認識の精確さと判断筆準の合理性、説得論理の有効性が必要とされるのである。法解釈の科学 性は現行法の諸般念を厳密に定義し、かつ精綴な理論織成をするだけではもはや十分笑現され得ないと考

(4) 

えられており、乙乙に法学以外の領域へ目を向ける契機がある。そζで、本稿は人類学の成果が法解釈の 科学位を高めるζとといかなる関係にあるかの検討を目的とする。

現在、人類学の理論を法解釈へ直ちに活用した例は少い。そζで、本稿では人類学の成果によって法解 釈が一層説得力をもら科学伎を高めると思われる例を示し、法律学と人類学の接点のlつを検討してみた いと思う。

こうした検討作業は人類学上の様々な理論と法律上の問題を全体にわたり個々に考察しなければならな いが、現在、その能力と用意もない。そζで、わが国の法律学にもよく知られている

B

・マリノウスキー の理論と法律学者として人類学に造詣の深い青山道夫の法解釈を素材として論を進めてゆきたい。 ζの点 で表題は羊頭拘肉である乙とをお詫びしておきたいと思う。また、本稿には2つの留保争付しておきたい。

第1は、法解釈の場として挙げたものが現行家族法であり、なかでも僅か一例を検討したにすまないζと である。第2は、人類学上の法概念と現代国家における法概念との異聞についてであり、法として同じ土 俵で扱う ζとが果してよいか苔かについてである。 ζのように本考察の結果は限定的意味をもつにすぎな

いが、法律学と人類学の接点を発見する試みの1つとして位置づけておきたいと思う。

‑33ー

(3)

(1) 千葉正士『現代法人類学』 (北望社 1 9 6 9年) 1 8頁以下。

(2)事実の認識の重要性については、規孝一、佐藤良雄 「『婚姻予約有効判決』の再検討」法時31巻 3号、 4号、 10号、 II号に詳しい。

(3) 

J I   I

島武宜『科学としての法律学』 (弘文堂新社 1 9 6 4年)、第l章、第4章、解釈については、

総積忠夫 「法律行為の『解釈』の精進と機能付。」法協77巻6号、78巻1号。

(4)  江守五夫『法社会学方法論序説j (法律文化社 1 9 6 2年)第2章参照。

それでは具体的事例をあげて検討に入る乙とにする。事例は改正前民法下のものであるが問題の本質は 変らない。

<私生児認知無効確認事件(大判昭和6年1月23日法律事訴関32 2 7号)〉

事実:;夫Xは婆Aが子宮易IJ出手術によって憶妊の望みを断たれたため、 Aの同意のもとにAの養女で連 れ子の

B

と妥関係類似の関係に入り子

C

を得た。しかし、

B

は他男

Y

とも関係があり、

Y

C

を自己の子 として認知してしまった。そ乙で

X

は自己の認知を有効とするために、

Y

による認知の無効を求め、裁判 所は一・二審とも

X

の請求を容れた。

Y

は上告審で、 「親子関係ノアル者ノ間ニ於テ情交関係ヲ生シ而カ モ一子 Cヲ設ケタリトノ事実ノ如キ実ニ人倫ノ大本ニ反スル罪悪ニシテ公ノ秩序及善良ノ風俗ニ背反スル ヤ大ナリ

J

(新聞前掲14頁)という理由を以て、 Xの認知は公序良俗違反として無効であると主張した。

本件は、民法第90条(公序良俗規定)が財産法領践の問題だけではなく 「身分」法領践のそれにも適 用されるのか否かが問われたものであったが、かかる問題を考察するにおいて、配偶者の養女に生ませた 子を認知することが、公序良俗逮反として無効なのか苔かが検討されねばならなかった。

裁判所は、継綾子関係ある者の性関係は公序良俗に反するとしたが、 XB聞に生まれた CをXが認知す る乙とは、 「事実ヲ事実卜シテ届出テタルモノ」 (新聞前掲15頁)であり、かような認知が「私生児j Cの法的地位を高めその救済につながるから、公序良俗には反しないと判断した。

また、半lj旨に賛成する学説も、 「兎』乙角親子関係あるものにはなるべく毅子関係を法律上存立せしめよ うといふのが原則である。つまり『事実を事実として』である・−…事実を事実として承認する乙と自体は

(1) 

常に公序良俗の問題を生じない」 と言って、本件の認知を有効とする。かかる考え方の前提に 「身分

J

法領減における事実先行性の重視があった乙とは言うまでもない。(2) 

しかし、青山道夫は判例学説の判断に反対する。宵山は、親子関係を血縁を基礎にしながらも単なる生 物学的、自然的関係ではないとし、また社会(国家)がその価値判断に基づき社会的、法的制度として規

(3) 

定したものととらえる。したがって、親子関係は当該の子のおかれる家族内部で婚姻と深く結合するとと もに、個々の社会により規定される家族の形態、機能に強く影響を受ける乙とになる。そこで、 「家族関 係、身分関係は社会における法秩序の一端としてすなわち制度として存在するζとを忘るるべきではない}( から、判例学説の説くように単なる事実関係としての 「身分」関係はあり得ず、 「身分

J

関係発生にも当 該社会における規範的価値判断が必要とされる乙とになる。認知により初めて法律的親子関係が発生する

34‑

(4)

のであるから、国家はその発生に対し規範的価値判断をしなくてはならない。そして、本件の如き認知は 公序良俗に反するものとして無効とされねばならないのである。

そこで、 背山は認知無効という結論を導く根拠lζ家族内の秩序維持の必要を挙げて説明する。すなわち、 家族内秩序は夫婦(性愛)の秩序と親子の秩序に分けられ、乙の2つの秩序の混同は許されないと説かれ

る。家族』

ι

課された機能は家族織成員の感情の均衡を条件として果されるのであり、性愛が夫婦・親子間 (5) 

ζ混在するζとになると当事者の感情の均衡が崩れ、家族の諸機能は十分に働かなくなる。本件の如く、

継親子聞に生まれた子の認知は、親子と夫婦の秩序の混在を法が結果的

K

承認するζととなり、かかる結 梁は家族の機能、家族内秩序の維持という視点から許されてはならないのである。

(6)  乙うして、青山は認知事件の判断において、家族の精進ぞうた婦と親子の秩序の視点からとらえ法解釈を

(7)  したが、青山の法的権威は単なる論理や概念の操作だけではなく人類学との関連を窺わせるのである。

(1)  中川善之助『親族・相続判例総評』第1巻(岩波書店 1 9 3 5年) 1 5 9頁。

(2)  事実の重視のもつ意味については、山畠正男

f

中川身分法学の成立」法セ臨時増刊『中川善之助・ 人と学問』 (日本評論社 1 9 7 6年) 2 2

2 3頁。

(3) 青山道夫『養子(近代家際法の基礎理論)』 (日本評論社 1 9 5 2年) 5頁、中川他編

f

家族問 題と家族法

I V

(親子)』 (酒井書店 I 9 7 4年) 1 O

1 1頁。

(4) 脅山「身分行為と民法第90条一判例を中心として」 『続近代家族法の研究j (有斐閣 I 9 5 8  年) 3 I頁。但、本論文で問われているのは妥を養女にする事例である。

ω 

青山前掲3 2頁、 3 7

3 8頁。

(6) 背山の家族についての認識は当時の 「家」制度と対比する極めて近代的であった。かかる発想は純 然たる法解釈学の視点からは出てζないととに注目しておきたい。

(7)  中川善之助も人類学的視点をもっていたζとは言うまでもない(青山「中川教授と民族学

J

法セ臨 時増刊前掲9頁)。

青山と人類学との関連は、マリノウスキーの家族論、文化論との関連と言ってよいと恩われる。

マリノウスキーによれば、婚姻や親子関係は社会的制度であり、夫婦綾子からなる家族

κ

対する社会的

(1)  (2) 

統制は常に存在する。そして、本能的要因と社会的要因とによって維持される個別的家族は、生殖と技術、

(3) 

知識、経験、情擦など文化伝承の場としてとらえられている。 ζうした家族

K

課された役割は社会的、法 的規制

κ

よって実効性舎もち、また、かかる役割j遂行に対する阻害要因は法的規制により排斥されねばな らない。ところで、乙の文化伝索の条件として家族内での秩序が必要とされ、この秩序は親子聞において

(4) 

は愛情のこもった権威と信従によって支えられると言われる。文化を伝える側と受ける側との聞に安定し た人間関係がなくては文化伝承は十分貫徹されない。そζで、前述の権威と信従の秩序関係が必要とされ るのである。とうした綾子の関係は夫婦(男女)閤にみられる性令中心とする求愛行動や求愛関係とは、

関係当事者の情緒的結合を動嬬きせるから相容れない。家族において世代簡の文化伝承を実効あらしめる

‑35 ‑

(5)

ためには、親子の秩序と夫婦の秩序を明確に区別する必要があり、法による規制もそのために予定される (5) 

のである。

(1)  B・マリノウスキー 『未聞人の論理と心理』 (法律文化社 1 9 6 0年) 7 1頁、 73頁。

(2)  マリノウスキー・ブリフォールト 『婚姻一過去と現在』 (社会思想社 1 9 7 2年) 5 4頁、 106 頁、マリノウスキー 『禾聞社会における伎と抑圧』 (社会思怨社 1 9 7 2年) 2 0 9頁、 2 5 5頁 参照。

(3)  マリノウスキー『未聞社会における性と抑圧』前掲2 3 2頁、2 4 8頁か文化については『文化の 科学理論』 (岩波書店 1 9 5 8年)4 2頁。

(4)  マリノウスキー『未聞社会における性と抑圧』前潟2 1 8頁、 24 2頁。

(5)  マリノウスキー『未聞社会における犯罪と償習』 (新泉社 1 9 6 7年)4 4頁、

f

文化の科学恕 論』前掲12 6頁、 『未聞社会4ζおける性と抑圧』前掲24 2頁参照。

. .  

マリノウスキーは家族における文化伝承という観点から家族

4

賛成員聞の情緒的安定を阻害する親子・夫 婦秩序の混在を否定した。青山は、文化伝承とは言わなかったが家族の機能(草円滑哨かせるという点か ら家族織成員聞の情緒的安定を不可欠とし家族内秩序の混乱を法が認めてはならないとした。乙ζl乙、マ リノウスキーと青山の共通項があり、人類学と法解釈との接点をみることができる。

(2) 

人類学の成果をふまえたと思われる青山の解釈論は、事実を事実として認める という解釈論と比べる と家族関係の把握、法的規制の位置づけなどの点で高い説得性をもっと言えよう。継親子間に出生した子 の認知事件において、人類学と法解釈はうまく接点をもつことができたと考えられる。

さで、問題の対象を認知に絞っても背山の如く親子関係を制度的視点からとらえると、成年者の認知

(第7 8 2条)、詐欺強迫による認知の取消(第7 8 5条) 、認知の訴の性質(第7 8 7条)、母の認知 (3) 

(第77 9条)など論議が分れるとζろであろう。また、青山自身の見解にも不統ーがみられる。さらに 認知以外でも、例えば近親婚禁止規定の解討4)をめぐる問題なども人類学的アプローチが有効となると思 われる。今後、個々の問題で人類学と解釈学をつき合せてゆく作業ぞ積み重ねるζとによって、両者の関 係が一層明らかにされてゆくものと恩われる。

(1)  脅山「身分行為と民法第90条一半jl例を中心として

J

前掲38頁参照。

(2)  事実行為先行という考え方は素朴な事実重視ではない。

(ぬ母の認知などを

P

めぐっての解釈がその代表的なものであろう。

μ

) 有地亨 「近親婚」 『家族法大系 D(婚姻)

(有斐閣 1 9 5 9年) 5 8頁以下参照。

‑36 ‑

参照

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