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Kyushu University Institutional Repository
高温ガス炉の確率論的リスク評価手法構築のための 原子炉動特性解析に関する研究
本多, 友貴
http://hdl.handle.net/2324/2198519
出版情報:九州大学, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
学位論文
高温ガス炉の確率論的リスク評価手法構築のための 原子炉動特性解析に関する研究
九州大学大学院工学府 エネルギー量子工学専攻
本多 友貴
平成 30 年 7 月
i
目次
第1章 序論 ... 1
1.1 背景 ... 1
1.2 高温ガス炉の研究開発 ... 2
1.3 高温ガス炉の確率論的リスク評価手法 ... 5
1.3.1 概要 ... 5
1.3.2 ソースターム評価の概要 ... 7
1.4 本研究の目的及び構成 ... 12
第2章 空気侵入事故時の事象進展解析 ... 14
2.1 緒言 ... 14
2.2 発電用実用高温ガス炉GTHTR300 ... 15
2.2.1 概要 ... 15
2.2.2 原子炉動特性解析モデル ... 20
2.3空気侵入事故の起因事象選定 ... 25
2.3.1 高温ガス炉における空気侵入事故の概要 ... 25
2.3.2 空気侵入事故時に考慮すべき現象の把握及び不確さ因子分析 ... 26
2.3.3 空気侵入事故時の破断箇所による影響評価 ... 29
2.3.4 空気侵入事故の起因事象の選定結果 ... 32
2.4空気侵入事故の事象進展での緩和機能喪失の重畳による影響評価 ... 33
2.4.1 反応度制御設備機能喪失による影響評価 ... 36
2.4.2 炉容器冷却設備機能喪失による影響評価 ... 39
2.4.3 制御設備機能喪失及び炉容器冷却設備機能喪失の重畳による影響評価 ... 42
2.5結言 ... 44
第3章 HTTR LOFC 試験データを用いた原子炉動特性評価手法の検証及び 高度化 ... 45
3.1 緒言 ... 45
3.2 高温工学試験研究炉の概要 ... 45
3.2.1 設備概要 ... 45
3.3 HTTRを用いたLOFC試験... 50
3.3.1 LOFC試験の概要 ... 50
3.3.2 LOFC#1試験概要 ... 50
ii
3.4 原子炉動特性解析コードのHTTR炉心モデル構築 ... 52
3.4.1 原子炉動特性解析コードでのHTTRモデル ... 52
3.4.2 物性値 ... 56
3.5評価パラメータの検証 ... 57
3.6 ゼノン反応度評価手法の高度化 ... 67
3.6.1 ゼノン反応度評価式 ... 69
3.6.2 温度依存性を考慮しない場合の解析結果 ... 70
3.6.3 温度依存性のあるパラメータの準備 ... 71
3.6.4 感度解析 ... 74
(a) 評価式による温度依存性の影響確認 ... 74
(b) 解析による温度依存性の影響確認 ... 75
3.6.5 ゼノン反応度評価モデルの高度化 ... 76
3.7 結言 ... 77
第4章 不確実さ評価 ... 78
4.1 緒言 ... 78
4.2 不確実さ評価手順 ... 78
4.3燃料温度解析の不確実さの評価 ... 82
4.3.1 変動パラメータの不確実さの抽出(手順3) ... 82
4.3.2 重要因子候補の選定(手順4) ... 87
4.3.3 専門家意見の考慮及び重要因子候補の決定(手順5,6) ... 92
4.3.4 不確実さ伝播評価及び結果の分析(手順7,8,9) ... 94
4.4 結言 ... 98
第5章 結論 ... 99
参考論文 ... 102
略語の説明 ... 106
記号表 ... 107
謝辞 ... 110
1
第1章 序論
1.1 背景
エネルギーの持続安定的な確保及び地球温暖化の抑制は世界共通の課題とな っているものの、我が国では、2011 年に発生した東京電力福島第一原子力発電 所の事故により、国内の原子力発電所は長期にわたり停止しており、一次エネル ギー国内供給への化石資源の占める割合が大幅に増加している。一方で、諸外国 では、オイルサンド、シェールガス等の非在来型化石燃料資源、並びに原子力、
水素等の低炭素・クリーンエネルギーの開発が行われている。これにより、現在 でも原子力の需要は高く、一部の国は脱原発に向かったものの、多くの国では過 酷事故時の安全性を強化しつつ、原子力の新規開発及び導入を進めている1)。今 後の世界全体のエネルギー使用量は2012年から2040年までの間に48%増加し、
発電電力量は、2012年の21.6兆kWhから2020年には25.8兆kWh、2040年に は 36.5 兆 kWh へと 69%増加すると予想されている。そのうち、原子力による 発電電力量は2012年の2.3兆kWhから、2020年には3.1兆kWh、2040 年には 4.5 兆 kWh へと約2倍になり、特に中国等のアジア圏を中心に多数の原子力発 電所建設が予想されている2)。
これまで、我が国で商用発電用原子炉として利用されてきた軽水炉は冷却水 により核熱の取り出しを行うとともに核燃料の冷却を行うため、水の循環が必 須である。これまでは安全性が確保されていることが前提とされ、経済性の向上 を目指した研究開発が中心であったが、東京電力福島第一原子力発電所におい て商用電源喪失及び非常用発電機の機能喪失による全電源喪失が発生したこと で、燃料溶融が発生し大きな被害を及ぼした。そのため、これまで以上に安全性 が重要視されるようになっている。
そこで、全電源喪失の場合でも燃料溶融を引き起こさない安全炉として小型 の高温ガス炉(High Temperature Gas-cooled Reactor : HTGR)が注目されている。
高温ガス炉はセラミックス被覆粒子燃料、希ガスのヘリウム冷却材、耐熱性の 高い黒鉛減速材を使用し、小型にすることで除熱性能が高くなり、固有の安全 性を有する。さらに、原子炉出口温度は 950℃と高温であり、発電に限らず、
水素製造、海水の淡水化、地域暖房等、多目的熱利用が可能であることが特長 である。加えて、ヘリウムを作動流体とするガスタービン発電設備を利用する ことでプラント内での水使用量を大幅に削減可能であり、経済性に影響を与え ることなく内陸部へ設置することが可能である。これらの特徴から、在来の
2
1000MW級商用炉が担ってきた大都市への電力供給という需要のみならず、過
疎地における電力及び熱供給という需要に応えることが可能な高温ガス炉へ の期待が高まっている。
1.2 高温ガス炉の研究開発
高温ガス炉は、二酸化ウラン等から成る燃料核をセラミックス材により被覆 した高い耐熱性を有する被覆燃料粒子を採用している。これにより高温におい ても燃料被覆材の健全性は損なわれず、核分裂生成物(Fission Product : FP)を 燃料内に閉じ込めることが可能である。冷却材には希ガスのヘリウムを採用し ており、中性子の減速や吸収などがほとんど生じない。また、相変化による冷却 条件の急激な変化がないため、配管の破損などによる冷却材喪失事故時におい ても極端な除熱性能の変化がなく、炉心の反応度にも影響を与えない。また、化 学的にも不活性であるため、構造物との化学反応の心配もなく、放射化する腐食 生成物が生成する恐れもない。さらに、減速材や原子炉内の構造材には耐熱性の 高い黒鉛を採用しており、中性子の吸収断面積が小さく、耐放射線性にすぐれて いることから軽水炉に比べ燃料を長い期間燃焼させることができる。また、昇華 温度が約 3000℃と高い耐熱性を有する。これらの特徴に加え、炉心での出力密 度を厳格に制限した設計を積極的に採用することで、万一の事故時に原子炉内 から冷却材が喪失した場合においても炉心は溶融することなく、原子炉圧力容 器外表面からの自然放熱により炉心での残留熱及び崩壊熱を除去することが可 能な安全性に優れた原子炉である。
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、上記のような高温ガス炉の優れた 安全性が着目されており、世界各国で活発な研究開発が進められている。
欧州連合(European Union : EU)においては、近年、ポーランド政府が大学や 産業と組んで「ポーランド高温炉建設可能性調査プログラム」を開始した。さら に、ポーランド国立原子力研究センター(National Centre for Nuclear Research :
NCBJ)が中心となりEU の研究開発ファンディングHORIZON 2020の下で実施
する高温ガス炉コジェネレーションシステムの研究開発プロジェクトGEMINI+
を開始した。本プロジェクトは、EU の原子力コジェネレーション 産業界イニ シアチブ(Nuclear Cogeneration Industrial Initiative : NC2I)が米国次世代原子力プ ラント(Next Generation Nuclear Plant : NGNP) 産業界アライアンス、国立研究 開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構 Japan Atomic Energy Agency : JAEA)、韓国原子力研究所(Korea Atomic Energy Research Institute : KAERI)等と
3
協力して実施する国際協力研究である。これらの研究協力成果を基に、ポーラン ド政府は産業への熱供給が可能な実用高温ガス炉(熱出力 200~350MW)及び 研究用高温ガス炉(熱出力10MW)の導入検討を実施している。また、英/蘭/
独の合弁ウラン濃縮会社 URENCOは、遠隔地における熱電併給用小型高温ガス
炉 U-Battery を研究開発中で、主に英国及びカナダの過疎地において 2038 年ま
でに 239 基の建設を目指している。現在はフェーズ1として基本設計、コスト 概算、安全評価、許認可取得基礎設計、コスト概算、安全評価及び許認可取得を 実施している。
米国においては、X-energy 社が2013年に使用済燃料の処理・処分、プロセス 熱利用等を目指した高温ガス炉開発プロジェクト開始した。同社が開発するXe-
100 は熱出力 200MW のぺブルベッド型高温ガス炉で、2016 年に DOE はその
開発に対し 5年間で 40M$の資金提供を発表し、2018年までに概念設計完了を 目指している。また、エネルギー政策法2005(Energy Policy ACT2005 : EPACT2005)
3)において、NGNPとして、水素製造、発電用の高温ガス炉システムの建設が規 定され、米国アイダホ国立研究所を中心とした研究開発が進められている。需要 動向や技術的成熟度等の判断から、その主目的を水素製造及び発電から熱利用 と発電に、また、冷却材出口温度条件を 950℃以上から 750~800℃程度に変更 し、現在は被覆粒子燃料や原子力級黒鉛材料の製造や照射特性評価研究を実施 している2)。
中国においては、高温ガス炉開発が国家エネルギー計画の重要事項のひとつ として位置付けられ、発電を目的とした高温ガス炉 HTR-PM の建設に着工して おり、2016 年末には格納容器の設置を完了している 4)。また、実用化に向けて
2014 年に6モジュールで構成される HTR-PM600 プラントの概念設計も終了
しており、将来に向けて更に高温の炉(HTR-PM+)、水素製造、トリウム 燃料 炉等も検討している。また、2003 年から 2006 年の間、ペブルベッド型試験炉
HTR-10を用いて循環機停止試験、負荷喪失試験等の安全性実証試験が行われた。
現在は、「フェーズ 2(ガスタービンサイクル:HTR-10-GT)」への移行を準備
中である5) 6)。
韓国においては、原子力水素製造開発・実証(Nuclear Hydrogen Development and Demonstration : NHDD)計画の下で、水素製造実証を目指し、被覆燃料粒子 製造、耐熱金属材料、設計手法等の主要技術の研究開発を進めている7)。開発目 標とする原子炉の仕様は熱出力200MWt、冷却材出口温度950℃である。国家戦 略として水素製造を主目的にした当プログラムを推進している。2028 年以降に
4
プラント運転・実証開始を予定である2)。
第4世代炉開発国際フォーラム(Generation IV International Forum : GIF)にお いては、超高温ガス炉(Very High Temperature Reactor : VHTR)が、発電、水素 生産、海水淡水化や熱利用などの用途を含む、持続可能性、経済性、安全性、信 頼性等の特徴を有する原子炉システムの一つに選定され、8カ国が参加し国際 協力による共同開発に向けた議論が進められている8)。燃料・燃料サイクルプロ ジェクト、材料プロジェクト及び水素製造プロジェクトの全3件のプロジェク トを推進している。また、これらプロジェクトに加えて、新たに計算手法・ベン チマークプロジェクトが開始される予定である。
我が国においては、1969 年以来、核熱利用を主要な目的とした多目的高温ガ ス炉の設計及び関連要素技術の開発が行われ、産業界においても通産省の大型 プロジェクトとして、原子力製鉄の研究開発が 1973 年から 1980 年まで行われ た。その後、これらの技術を活用し、原子力機構が中心となり高温工学試験研究 炉(High Temperature Engineering Test Reactor : HTTR9))プロジェクトのもと、高 温ガス炉から取り出される高温の核熱を用いた発電及び水素製造に関する研究 開発を進めてきた。原子炉技術については、茨城県大洗町に HTTR を建設し、
1998年に初臨界、2001年に原子炉出口ヘリウムガス温度850oCでの全出力運転
(30MW)を達成した。また、2004年には、原子炉出口ヘリウムガス温度950oC での全出力運転 10)、2010 年には定格熱出力状態での 50 日間の高温連続運転に 成功した 11)。その後、高温ガス炉の安全性を実証するための安全性実証試験等 の試験、運転を行っている。現在は高温ガス炉の代表的な過渡事象である空気侵 入事故時に制御棒挿入が失敗した場合でも安全性が確保できることの確証及び 解析コードの妥当性確認のためのデータ取得を目指し、強制循環喪失(Loss of
Forced Cooling : LOFC)試験12)を実施しているところである。最終的には商用電
源喪失を想定し、すべての補助設備を停止する全電源喪失(Station Black Out : SBO)を模擬した試験を実施する予定としている。
また、ブロック型炉心である HTTR の設計・建設で蓄積した原子炉技術をベ ースに、一部に日本独自の設計を取り入れた発電用実用高温ガス炉 GTHTR300 及び高温ガス炉熱電併給システム GTHTR300C の設計研究が実施された。
GTHTR300では高温ガス炉の特長を活かし、高温熱供給、安全設備の簡素化、モ
ジュラー化等、排熱の効率的な利用等を行うことで発電単価4円/kWh程度と小 型でも高い経済性を実現している。
5
1.3 高温ガス炉の確率論的リスク評価手法 1.3.1 概要
確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment : PRA)は、原子炉施設で 発生しうる事故のシナリオを系統的な方法で網羅的に探索し、その発生頻度及 び影響の大きさを定量的に推定する安全評価の手法である。東京電力福島第一 原子力発電所の事故を受けて、我が国では、実用炉において重要事故シーケン スの導出や安全性向上にPRAを活用することが必須となっている。
高温ガス炉は、セラミックス被覆粒子燃料、黒鉛減速材、ヘリウム冷却材の基 本要素が有する固有の特性から、炉心溶融が想定されず、溶融燃料による格納系 への脅威がないという優れた安全上の特長を有する。また、この優れた安全上の 特長を活用することで、実用高温ガス炉では安全機能を静的構築物、系統及び機
器(Structure, System and Component :SSC)のみで担うことが可能であり、非常用
炉心冷却装置等の安全機能を有する支援系が不要、又は、簡素という設計上の特 長を有している。これらの特長から、高温ガス炉は燃料溶融の想定が必要なく、
またFPの大規模放出に至る可能性のある事象が限られていることから事故シー ケンスの簡素化が可能であるため、高温ガス炉PRAでは、在来の軽水炉を対象 としたPRAのようにレベル1、2、3という区分をとらず、事故シーケンスご との公衆被ばく線量評価までを一気通貫して評価する体系をとっている(Fig.
1.1 a)。また、高温ガス炉PRAではリスク指標として、事故シーケンス発生頻度
と影響(ソースターム、又は、敷地境界での公衆被ばく線量)の2つの指標を組 み合わせた2次元的な指標が使用されているため(Fig. 1.1 b)、ソースターム評 価が必須である。
また、高温ガス炉を対象とした PRA については、これまでに、米国、中国、
独国、南アフリカ等においては主として内的事象を起因とする事故シーケンス のリスク評価が実施され、放射性物質の大規模放出に至らないことが示されて いた。しかしながら、事故シーケンスの打切り頻度を設定しており、静的SSCの 機能喪失が想定されていないことが問題であった。すなわち、静的 SSC が機能 喪失に至ると想定される地震起因の事故シーケンスの把握が不十分であった。
このように、実用化に向けて、高温ガス炉を対象としたPRAでは静的SSCの 機能喪失を考慮したソースターム評価が必須である。
さらに、PRA では不確実さ評価が必要となり、不確実さの定量化には妥当性 を確認した手法により評価された中央値及び不確実さ因子分析が必要となる。
6
(a) 評価体系
(b) リスク指標 Fig. 1.1高温ガス炉のPRA概要13)
※ 1Rem:10mSv
7
1.3.2 ソースターム評価の概要
ソースタームとは、想定される事故時における原子炉プラントから環境中へ 放出される放射性物質の種類、量及びタイミングである。ソースタームは、各事 故シーケンスにおける放射性物質の放出に係る主要な現象の評価モデルが組み 込まれた解析コードを用いて評価する。
原子力機構が、高温ガス炉を対象とした地震起因PRAのために構築した、地 震リスク評価システムの概要 13)を Fig. 1.2 に示す。本地震リスク評価システム は、地震ハザード評価、建家・機器のフラジリティ評価、ソースターム評価のた めの3つのシステムから成り、地震ハザード評価により得られた地盤応答の結 果から建家・機器のフラジリティ評価を実施し、得られた損傷モードに関する情 報を考慮したシステム信頼性解析により地震発生頻度を求めると共に、ソース ターム評価により公衆被ばく線量を求める。これらのうち、本研究で着目してい るソースターム解析コードシステムの構成をFig. 1.3に示す。ソースターム計算 コードは、原子炉動特性解析コード、燃料酸化挙動解析コード、燃料核分裂生成 物放出挙動解析コードから構成される。
本研究ではこれらの解析コードのうち、① 原子炉動特性解析コードを対象と する。各解析コードの概要は以下のとおりである。
① 原子炉動特性解析コード
原子炉動特性解析には、地震応答解析結果に基づき設定した構築物、系統及び 機器の損傷形態に応じた流路や構造物構成、過渡条件、境界条件をインプットと して、原子炉システム内の流体温度や圧力、流量、流体中の空気や水の質量割合、
構造材温度の過渡挙動を出力することが要求される。本ソースターム評価コー ドシステムでは、任意の流路構成についていくつかのボリュームとそれらを連 結するジャンクションで構成し、質量、運動量及びエネルギー保存式を解くこと で流体の過渡流力状態を求めることが可能で、炉心や熱交換器等の構造材内の 2次元温度分布を非定常熱伝導方程式によって求めることが可能であり、多成 分非凝縮性ガスの取扱いが可能な RELAP5-3D コード 14)を用いる。また、
RELAP5-3Dの核動特性は一点近似動特性方程式と3次元動特性が選択可能とな
っているが、本研究はPRAのための原子炉動特性解析コードを対象としており、
多数の評価が必要となることから、現実的な解析手法として、簡易的な一点近似 動特性方程式を対象とする。なお、地震による黒鉛構造物及び建屋損傷評価モデ ルの構築として、別途、ソースターム評価結果における支配因子が検討されてお り、原子炉建屋及び黒鉛構造物の損傷に係るものは、空気の自然循環流量、建屋 壁間の有効熱伝導度、コンファイメント漏えい率、原子炉有効熱伝導度、原子炉
8
熱容量、原子炉流動抵抗及び炉停止系反応度が抽出されている 13)。空気の自然 循環流量は、地震等により流路の構成要素である冷却パネルや原子炉建屋の建 屋壁が損傷し、流路を流れる空気の漏えいや流路の閉塞が生じることで減少す る。ここでは、流路の構成要素のいずれかひとつが損傷した条件を機能喪失とし、
損傷モードは空気の自然循環流量が最も小さくなる流路の閉塞で代表させる。
この時、本原子炉動特性解析モデルでは、炉容器冷却設備モデルの流路断面積を 最小に設定することで、流路閉鎖をモデル化する。
② 燃料酸化挙動解析コード
燃料酸化挙動解析には、流体温度や圧力、流量、流体中の空気や水の質量割合、
構造材温度をインプットとして、燃料被覆層の酸化による燃料破損率、黒鉛構造 物の酸化により発生する化学種の質量割合を出力することが要求される。本解 析コードシステムでは、ノードジャンクション法により原子炉システムを流路 網でモデル化し、化学反応による生成や消滅を考慮した物質収支式を解くこと で冷却材中の化学種組成を求めることが可能で、黒鉛構造物中の化学種濃度分 布を非定常拡散方程式によって求めることが可能な計算コードTHYTANコード
15)にSiCと酸素、又は、水の熱力学的平衡関係に基づくSiC酸化条件判定モデル を組み合わせる手法を採用している。
③ 炉心核分裂生成物放出挙動解析コード
炉心核分裂生成物放出挙動解析には、燃料温度や燃料破損率をインプットと して、核分裂生成物量について炉心蓄積量に対する冷却材への放出割合を出力 することが要求される。本解析コードシステムでは、燃料要素を対象に、一般化 崩壊連鎖モデルや被覆燃料粒子の核分裂放出率相関式を取り込んだ核種総量保 存式と拡散方程式を解くことで冷却材への核分裂生成物放出量を求めることが 可能なHTFPコード16)を用いる。
④ 核分裂生成物移行挙動解析コード
核分裂生成物移行挙動評価には、炉心冷却材流量やコンファインメント流量、
冷却材への核分裂生成物放出量をインプットとしてソースタームを出力するこ とが要求される。本計算コードシステムでは、原子炉から環境中までの放射性物 質移行経路にある SSC を対象に、放射性物質の崩壊を考慮した物質収支保存式 を解くことでソースタームを求めることが可能なFPTRANコードを用いる。
上述のソースターム評価コードシステムを構成する解析コードのうち、燃料 酸化挙動解析コード、燃料核分裂生成物放出挙動解析コード及び核分裂生成物
9
移行挙動解析コードについては、実験データ等との比較により信頼性が確認さ れ、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて改定された新規制基準に対 するHTTRの適合性確認において使用されている。
一方で、原子炉動特性解析については、地震起因による静的SSC損傷を考 慮するため、従来使用していた安全解析コードに代えて、任意に流路や構造物 の形状をモデル化可能なRELAP5-3Dコードを適用する。本解析コードは、軽 水炉の安全解析を目的として開発されており、基礎式やその解法、水・蒸気系 を対象とした物理モデルなど、基本的な機能の妥当性は確認されているもの の、高温ガス炉特有の条件下における検証が必要である。
また、実用高温ガス炉を対象としたこれまでの安全評価では、静的SSC損傷 による多重故障起因事象や複数の緩和機能喪失重畳を考慮した評価が実施され ておらず、RELAP5-3Dの高温ガス炉条件下での妥当性確認に当たり考慮すべ き現象の範囲が十分であるかが確証されていなかった。このことから、高温ガ ス炉を対象としたソースタームの評価に当たり残る課題として、原子炉動特性 の評価に用いる解析コードの高温ガス炉条件下での妥当性確認が必須であるこ とから、原子炉動特性解析コードの検証及び高度化を本研究の対象とする。
また、リスクとは、本質的に不確実さをその要素にもつことから、PRA にお いてはソースタームの評価のみならず、不確実さ評価が必須である。例えば、米 国機械学会/原子力学会発行の非軽水型先進炉のための PRA 実施基準 17)では、
ソースターム評価における不確実さ評価について以下の技術要件を課している。
合理的に可能な限り、ソースターム評価とこれに付随する放射性物質移行現 象に係る不確実さについて、その特性を明らかにするとともに定量化しなけ ればならない
モデルの主要な不確実さ及び仮定を同定するとともに、これらの結果への影 響を把握しなければならない。
これまで、高温ガス炉のソースタームに関する不確実さ評価については、以下 の研究が実施されている。
米国ゼネラルアトミックス社は、米国モジュラー型高温ガス炉を対象とした PRAにおいて、ソースタームの不確実さ評価を実施している18)。しかしながら、
本評価では、公衆被ばく線量について不確実さ幅を提示しているものの、不確実 さ評価プロセスが不明瞭である。また、不確実さが同定されていないため、不確 実さの結果への影響把握が困難である。
Strydomらは、評価手法の不確実さに関するIAEA研究協力プログラムの枠組
みの下で、原子炉動特性解析に関するモデルや評価条件の不確実さ伝播解析や
10
感度評価を実施している 19)。しかしながら、不確実さ因子分析プロセスが不明 瞭であり、重要因子(不確実さ伝播解析の入力値)やその確率分布の設定根拠が 示されておらず、本手法を用いて得られたリスク情報を活用することができな い。このように、高温ガス炉を対象としたソースタームにおける不確実さ評価に ついては、リスク情報活用に資する不確実さ因子分析手法の構築が必要である。
すなわち、系統的、かつ、追跡性を確保した重要因子の選定手法を構築すること が求められる。
Fig. 1.2 高温ガス炉地震リスク評価体系の概要
11
Fig. 1.3 ソースターム評価コードシステム
12
1.4 本研究の目的及び構成
本研究の目的は、高温ガス炉のPRAで必須となるソースターム評価コードシ ステムの構築を目指して、静的 SSC の多重故障を考慮可能な原子炉動特性解析 コードを構築することである。また、PRA のためのソースターム評価コードの 構築としては、不確実さ評価が必要となり、不確実さの定量評価には評価手法の 妥当性確認及び不確実さの因子分析が必要となる。静的SSCの多重故障として、
本研究では、公衆被ばくの観点から高温ガス炉において最も厳しい事故シナリ オである空気侵入を起因事象とした多重故障を対象とする。空気侵入が発生し た場合、燃料温度の上昇及び酸化により燃料破損の可能性が生じる。
本研究では、空気侵入を起因事象とした多重故障に対し、原子炉動特性の評価
に用いる RELAP5-3D コードと評価モデルの高温ガス炉条件下での妥当性を確
認するとともに、リスク情報活用に資する不確実さの定量化手法を構築する。研 究目的達成のため、本研究では以下を実施する。
事象進展解析:解析手法の検証を実施するにあたり、空気侵入を起因事象と する事故が発生した場合に考慮すべき現象の把握(燃料熔融の評価が必要か 等)及び不確実さ因子の抽出を目的とした事象進展解析
解析手法の検証及び高度化:不確実さ因子である燃料温度を対象とし、原子 炉動特性解析コードの高温ガス炉条件下での検証及び高度化が必要な評価 モデルの改良及び検証
不確実さ評価:系統的、かつ、追跡性を確保した重要因子(不確実さ評価の 入力値)の選定手法構築、並びに、提案手法の試行による実用高温ガス炉の 燃料温度評価に関する不確実さの定量化
これにより、高温ガス炉のPRAに資する、静的SSCの多重故障を考慮可能な 原子炉動特性解析コードの構築を目指す。
本研究により、静的 SSC の多重故障を考慮可能な原子炉動特性に関する不確 実さを含む定量化手法が構築されることで、高温ガス炉において公衆被ばくリ スク上最も厳しいと想定される多重故障起因事象に緩和設備の多重故障が重畳 するような事故シナリオにおけるソースターム評価が可能となり、不確実さを 含む信頼性の高いリスク情報の提供が可能となる。これにより、不確実さをふま えた上でリスク評価から得られる情報に基づき意思決定を行うことが可能とな るとともに、公衆に対して安全確保対策の有効性を説明する上で、意思決定の信 頼性及び説明性を高めることができる。
13
本論文は以下のように構成する。
第1章では、本研究の背景を述べるとともに、研究の目的及び位置づけを行う。
また、高温ガス炉のPRA手法開発の概要及びソースターム評価コードシステム の概要を示す。
第2章では、公衆被ばくの観点から最も厳しいと考えられる空気侵入を起因 事象とした高温ガス炉の事故進展解析を実施し、静的 SSC の多重故障を想定し た配管破断及び緩和機能喪失の重畳により急峻な事故進展に発展する事象がな いことを確認する。これにより、評価手法の検証を行うに当たり、考慮すべき現 象を把握するとともに、不確実さ因子の抽出を行う。
第3章では、2章で抽出された不確実さ因子である燃料温度解析手法の検証 及び高度化を行う。高度化が必要な因子としてゼノン反応度を抽出し、その温度 依存性に関するモデルの高度化を実施するとともに検証を行う。妥当性確認に おいては、HTTRを用いたLOFC試験の再臨界時刻を指標とする。LOFC試験は 高温ガス炉の空気侵入事故に制御棒が挿入しない事故と類似の再臨界性を伴い、
本検証に利用できる。
第4章では、系統的、かつ、追跡性を確保した重要因子の選定手法構築及び、
提案手法の試行として実用高温ガス炉の燃料温度解析の不確実さ伝播評価を実 施する。代表因子の感度解析及び専門家の意見による重要因子の選定、並びに重 要因子の不確実さへの寄与度を明らかにする。
第5章では、本研究を総括し、結論を記す。
また、巻末に謝辞を記す。
14
第2章 空気侵入事故時の事象進展解析
2.1 緒言
高温ガス炉は冷却材が喪失した場合においても炉心は溶融することなく、原 子炉圧力容器外表面からの自然放熱により炉心での残留熱及び崩壊熱を除去す ることが可能である。また、高温においても燃料被覆材の健全性は損なわれず、
確実に核分裂生成物を燃料内に閉じ込めることが可能である。
炉内黒鉛構造物に使用している原子力級黒鉛は、一般的に、気孔が少なく表面 積が小さいこと、酸化反応の触媒になり得る不純物の濃度が低いことなどから 通常の黒鉛と比較して酸化反応速度は小さい。しかしながら、空気侵入及び水侵 入時には黒鉛酸化及び腐食が発生する恐れは否定できない。よって、大量の FP 放出を生じる大規模な炉心損傷が発生する可能性のある起因事象としては、空 気侵入と水侵入事故が挙げられる。空気侵入事故では、1次系冷却材配管が破断 することにより炉内に空気が侵入し炉内黒鉛構造物の酸化が生じる可能性があ る。水侵入事故では、水を2次側流体として使用する熱交換器の伝熱管破損が発 生した場合、炉心内に侵入した水蒸気により、炉内黒鉛構造物の酸化反応が生じ る可能性がある。本研究では以下で説明するヘリウムガスタービン高温ガス炉
GTHTR300 を対象としている。本システムにおいて、水を2次流体として使用
する熱交換器は前置冷却器があるが、水系の圧力はヘリウム側の圧力より低く すること等から、伝熱管の破損による大量の水侵入の可能性は少ないと考えら れる。また、空気侵入の原因となる二重管破断が発生した場合、空気侵入位置が 炉心に近いこと、破断口径も大きいことから水侵入と比較した場合、炉内黒鉛の 酸化量がより多くなると考えられる。よって、これらの理由から、本章では公衆 被ばくの観点から最も厳しい事故シナリオである空気侵入を起因事象とする。
空気侵入事故を起因事象とする高温ガス炉の事故事象の進展解析を行い、緩和 機能喪失の重畳による急峻な事象進展の有無を確認することにより、地震起因 の SSC 損傷時の解析コードの妥当性確認に当たり考慮すべき現象及び不確実さ 因子を把握する。
わが国では、商用炉に対する規制要求としてPRAの実施が求められているこ とから、本事象進展解析の対象としては、わが国で設計した発電用実用炉
GTHTR300を対象とする。GTHTR300はPRA評価が可能な詳細設計が整備され
ており、またブロック型商用高温ガス炉としては、他国の設計例と同等な設計仕 様があり汎用性のある炉型である。
15
2.2 発電用実用高温ガス炉 GTHTR300 2.2.1 概要
GTHTR300 は原子力機構が日本の原子炉製造メーカーと協力して設計した、
原子炉熱出力600MW、原子炉出口温度850℃のブロック型高温ガス炉のガスタ ービンシステムである。HTTRにおける設計、建設、運転経験を踏まえたブロッ ク型高温ガス炉とガスタービンシステムを組み合わせて発電効率 46%を達成し、
モジュール化することにより、簡素で経済性に優れた発電システムとしたもの である。基本仕様をTable 2.1に示す。また、原子炉垂直断面をFig. 2.1に、炉心 水平断面をFig. 2.2に示す。また、燃料体及び燃料棒の概念をFig. 2.3に示す。
原子炉は、炉心、炉内構造物、原子炉圧力容器から構成される。炉心は、燃料 体、制御棒案内ブロック、可動反射体ブロック等により構成し、除熱を効率的に するため、炉心は燃料カラム数90 で 1 カラムは 8段の燃料ブロックから成る。
また、高さ8mの環状炉心とすることで外表面積を大きくしている。
燃料形式は HTTR と同様にピン・イン・ブロック型燃料を採用しており、減 速材である六角柱の黒鉛製ブロックに複数の冷却材流路孔を加工し、それぞれ に燃料棒を1本ずつ挿入したものを使用する。経済性向上の観点から、HTTR に 比べて約2倍の5.4W/cm3の平均出力密度を可能とするため、燃料棒には、燃料 コンパクトに厚さ1mmの黒鉛被覆層を施し、燃料コンパクト表面と冷却材が直 接接触して冷却する一体型構造を採用している。燃料体は平径 410mm、高さ
1050mmの六角柱状黒鉛ブロックに燃料棒57本を装荷している。
燃料領域の外側には、可動反射体及び固定反射体等があり、固定反射体に冷却 材の流路孔を設けるとともに、その外側のコアバレルと原子炉圧力容器の間に 冷却材圧縮機から再生熱交換器に向かう冷却材の 0.2%程度を分流することとし ている。ここに、約 140℃、7.1MPa の低温で炉内冷却材と比べて相対的に微高 圧のヘリウム冷却材流路を設けることで、原子炉圧力容器を高温の冷却材から 隔離している。このため原子炉圧力容器内径を7.6mに抑え、固定反射体近傍を 薄い構造材にしているにも関わらず、原子炉圧力容器の昇温防止が可能となり、
軽水炉等で一般的に用いられる原子炉圧力容器材料であるマンガンモリブデン 鋼の採用を可能としている。
二重管の外管から原子炉に流入したヘリウムは、側部反射体内の流路を上昇 した後、上部プレナムにおいて流れ方向を転換し、燃料冷却流路へ導入される。
炉心を通り加熱されたヘリウムは二重管の内管を通り原子炉から取り出される。
燃料領域の内側及び外側に隣接する側部可動反射体カラムの30箇所には原子 炉停止系である制御棒と後備停止系を挿入するための制御棒案内カラムを設け
16
ている。各制御棒案内カラムの上方には、スタンドパイプを設けておりバウンダ リとしての役割も担っている。燃料領域内側の6か所は、燃料交換にも使用でき る大型のスタンドパイプとしている。
反応度制御は HTTR と同様に、制御棒系に加えて、反応度調整材(Burnable
Poison:BP)を用いて過剰反応度を制御する。
主冷却設備は、原子炉圧力容器、動力変換容器及び熱交換器収納容器とこれら を接続する二重管から構成している。
炉容器冷却設備の概要をFig. 2.2示す。炉容器冷却設備は事故時の炉心冷却を 目的としており、1次冷却設備の配管破損等により炉心強制循環冷却が喪失し た場合においても、炉室の1次生体遮へいコンクリート外側に設けられた冷却 パネルにより、原子炉圧力容器の外側から間接的に炉心を冷却することが可能 である。冷却パネルは原子炉建屋外から導入された空気の自然循環流により冷 却される方式を採用している。
また、GTHTR300の代表的な安全施設及びそれらの安全機能をTable 2.2に示
す。原子炉の停止機能を担う反応度制御機能は、反応度制御設備が担っており、
制御棒系(Control Rod System : CRS)とバックアップ機能を有する後備停止系の 2系統を設けている。事故時の除熱に関しては、炉容器冷却設備(Vessel cooling
system : VCS)が担っている。更に、炉心内の酸化等化学的な影響に対しては原
子炉格納設備が担っている。これらの反応度制御設備、VCS 及び原子炉格納は 緩和機能を有する設備として分類されている。
本研究では、原子炉動特性解析に着目していることから、2.4節の緩和機能喪 失による影響評価においては、CRS 機能喪失及び VCS 機能喪失を対象とする。
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Table 2.1 GTHTR300の仕様
Parameter Value
Thermal power [MW] 600
Net electric generation [MWe] 274 Net electric efficiency [%] 45.6 Reactor inlet temperature [
oC] 588 Reactor outlet temperature [
oC] 850 Coolant peak pressure [MPa] 7.0 Average fuel burnup [MWD/t] 120 Refueling interval [months] 24
Table 2.2 GTHTR300の安全施設及びそれらの安全機能20)
Fundamental
safety function Safety function Inherent
Safety characteristic
Mitigation system
Control of core heat generation
Reactor shutdown
Maintain core sub criticality
Large negative feedback coefficient
Control rod system
Reserve shut down system
Control of core heat removal
Removal of decay and residual heat in core
Core large thermal capacity
Core large thermal conductivity
Core low power density
Vessel cooling system
Control of chemical attack
Prevention of fuel oxidation
Core large length- to-diameter ratio
Carbon monoxide oxidation reaction
SiO2 layer formation
Confinement
18
Fig. 2.1 GTHTR300の原子炉垂直断面と冷却材の流れ
19
Fig. 2.2 GTHTR300Cの炉心水平断面
Fig. 2.3 GTHTR300の燃料体及び燃料棒の概念20)
20
2.2.2 原子炉動特性解析モデル
ここでは、実用高温ガス炉のモデルプラントであるGTHTR300を対象とし事 故事象の進展解析を行う。既往研究21)においては、RELAP/MOD3コードを用い た二重管破断による空気侵入事故評価が行われている。本研究ではより現実に 近い空気侵入事故評価を行うため、分子拡散モデルを考慮できるRELAP5-3Dを 用いるとともに、解析モデルの改良を行った。RELAP5-3Dコードの概要を以下 に示す。
RELAP5-3Dコードの基本機能について、1.3.2節の①原子炉動特性解析コード、
及びTable 2.3に示す。RELAP5-3Dコードでは、一点炉動特性方程式と3次元動
特性解析が選択可能となっているが、本研究はPRAのための原子炉動特性解析 コードを対象としており、多数の解析が必要となることから、現実的な解析手法 として、簡易的な一点近似動特性を選択している。また、空気侵入事故評価に重 要となる空気侵入量に寄与する分子拡散モデルが搭載されている。本研究では 分子拡散モデルを選択し評価の対象としている。空気侵入時の挙動及び分子拡 散モデルの必要性については2.3.1節を参照されたい。
Table 2.3 原子炉動特性評価コードの概要
21
続けて、改良した解析モデルの概要を以下に示す。原子炉内の冷却流路は燃料 領域内側及び外側の冷却流路、制御棒案内管流れ、固定反射体内流路及び格納容
器(Reactor Pressure Vessel:RPV)の冷却流路の5流路により構成され、それぞ
れ流路断面積を等価とする流路としてモデル化されている。炉内構造物は中央 反射体、燃料領域、側部可動反射体、固定反射体、コアバレル及び原子炉圧力容 器から構成され、側部可動反射体及び固定反射体は均一の構造体としてモデル 化されている。六角柱状の燃料体から構成される中央反射体及び燃料領域は、等 価な断面積を持つ円柱としてモデル化されている。燃料領域は炉心内外の 2 領 域に分割し、それぞれの領域ごとに燃料棒及び燃料体がモデル化されている。
VCS は高温パネル及び高温パネルと低温パネル間の空気流路をモデル化してお り、空気の密度差に起因する自然循環挙動が評価される。
既往研究で用いたRELAP/MOD3コードでは、空気侵入評価で重要となる分子 拡散モデルが非搭載であることから、空気侵入挙動を詳細に評価することが困 難であった。さらに、VCS機能が喪失する事象を考慮しないため、VCSの低温 パネルを温度境界条件としていた。
本研究で評価対象としている空気侵入事故の空気侵入挙動及びVCS機能喪失 による炉内温度への影響を評価できるように以下の改良を行った。改良後のモ デル概要をFig. 2.4に示す。
・ 二重管両端破断が発生した場合、直ちに空気侵入は発生せず分子拡散によ り徐々に侵入し一定時間経過後に自然循環を形成することが知られてい る22)。自然循環流量は燃料の酸化量に大きく寄与するため、自然循環形成 時間を評価できるよう分子拡散モデルを使用可能な RELAP5-3D コードを 採用する。
・ 境界条件 B.C.1 から B.C.4(定常条件のヘリウム条件)に加え、境界条件
B.C.5からB.C.8(原子炉建家内の空気条件)を追加し、事象発生時に境界
条件の切り替えを行うようにモデルを改良する。
・ スタンドパイプ破損を考慮できるよう境界条件 B.C.9(原子炉建家内の空 気条件)を追加する。また、スタンドパイプの破断口は1対のスタンドパ イプが完全に破断することを想定し、炉心からの混合気体の流量を再現で きるように現実的な値を設定する。
・ スタンドパイプ破損による制御棒の飛び出しに伴い反応度(0.267$)が添 加されるようにモデルを追加する。
・ 本研究では VCS 機能喪失に伴う炉内温度変化を評価するため、VCS 設備
(高温パネル、低温パネル、空気流路、炉室壁)、動力変換容器室壁、建屋 壁及び土壌のモデルを追加した。なお、VCS機能喪失時はFig. 2.5に示す
22
ように、他モジュールでの同時の冷却機能喪失が発生を想定し、他モジュ ールへの熱の移動を考慮しないよう、モジュール間の境界条件は保守的に 断熱条件とした。具体的には、Fig.2.5の土壌方向の伝熱面積のみを考慮し、
他モジュール間の熱移動は考慮していない。また、モジュール間方向との 垂直方向については、保守的評価となるよう、土壌への熱移動量が小さく なる、原子炉中央からタービン設備側をモデル化しており、原子炉中央部 の境界は断熱条件としている。
23
Fig. 2.4GTHTR300解析モデル概要
24
Fig. 2.5GTHTR300解析モデルの境界条件概要
25
2.3 空気侵入事故の起因事象選定
ここでは、本研究で着目する空気侵入事故時のソースターム評価のための不 確実さ因子分析を実施するとともに、選定した不確さ因子に着目し空気侵入事 故の起因事象の選定を行う。
2.3.1 高温ガス炉における空気侵入事故の概要
高温ガス炉は固有の安全を有する炉であるが、原子炉の設計を行う際には、
代表的な過渡事象の1つである空気侵入時の安全性を確保する必要がある。こ の事故は二重管またはスタンドパイプ等の1次冷却材のバウンダリが破損する ことにより、炉心に空気が侵入し、燃料要素等の黒鉛構造物が酸化する高温ガス 炉特有の事故である。空気侵入事故は、配管破断等により冷却材が急速漏洩し圧 力が低下するため、「減圧事故」と呼ばれる場合がある。
1次冷却材のバウンダリが破損した場合、まず、第一段階として炉内の冷却材 が破断口から格納容器内に噴出し、炉内外が均圧化する。1次冷却配管は炉心下 部に位置しており、炉内には密度の小さいヘリウムが充満し、破断面より下方の 格納容器内には空気とヘリウムの混合気体が充満する。
その後、第二段階として、格納容器内に噴出したヘリウムと空気の混合気体に よる自然循環が生じる。これは、炉内の内側流路が外側流路と比べて高温となり、
内外流路の温度差により生じる浮力が駆動力となる。
炉内にはヘリウムが充満しているため、炉内外の温度差による浮力だけでは 自然循環を発生させるには不十分であり、第一段階である減圧が終了した後、直 ちに自然循環が発生することはなく、空気は分子拡散と非常にわずかな自然循 環流により炉内に侵入する。その後、炉内の混合気体密度が大きくなり炉内の浮 力が十分大きくなった時点で炉内を一巡する自然循環が生じる23)。
空気侵入時の被覆燃料粒子の破損は、主として以下に分類される。
・ 異常昇温によるSiC層の熱的劣化・破損
・ 炉心に侵入した空気や水とSiC層の酸化反応度によるSiC層の破損 異常昇温による SiC 層の熱的劣化・破損について、1次系バウンダリ破損に より冷却機能が喪失することにより除熱量が減少し、燃料温度の上昇が予想さ れる。被覆燃料粒子の照射実験の結果から、加熱温度が 1600℃までは、著しい 破損は生じず、1800℃で破損率がわずかに上昇する。これらのことから、設計に
26
おける燃料の許容設計限界は 1600℃に設定されている。また、2000℃を超える とSiC層が急激に破損する24)。
SiC層の酸化反応について、バウンダリ破損により炉内に空気が侵入し、燃料 被覆材の最外のPyC 層及びSiC 層が酸化されることで燃料破損率が上昇する。
この時の燃料破損に至るシーケンスは、空気侵入、燃料コンパクトの酸化、SiC 層酸化、破損、FP放出となる。また、SiC層酸化反応は以下のように生じる25)。
2𝑆𝑖𝐶 + 3𝑂2 → 2𝑆𝑖𝑂2 + 2𝐶𝑂 (2.1) 𝑆𝑖𝐶 + 2𝑂2 → 𝑆𝑖𝑂2 + 𝐶𝑂2 (2.2) また、SiCの表面は酸化し、安定なSiO2による酸化膜が形成され、酸化腐食の 進行は抑制される。
2.3.2 空気侵入事故時に考慮すべき現象の把握及び不確さ因子分析
2章では地震起因の SSC 損傷時の解析コードの妥当性確認にあたり考慮すべ き現象の把握及び不確実さ因子分析による不確実さ因子の選定を目指している。
考慮すべき現象として、燃料の昇温による破損と、その後の燃料の異常昇温に より生ずる燃料溶融に伴う著しい炉心損傷がある。炉心溶融が生じた場合、ソー スターム評価に加え、燃料デブリの挙動評価、原子炉外への放射性物質の移行評 価等が追加で必要となる。そこで燃料最高温度に着目した事故事象の進展解析 を実施し、2.3.1節で述べたSiCが急激に破損する2000℃を判断基準とし、これ を超えた場合には炉心溶融の可能性があるとしてその影響評価を行うこととす る。
次に、ソースターム評価の不確実さ因子分析を実施する。燃料から原子炉まで のFPの放出メカニズム及び各メカニズムを評価するための不確実さ因子を抽出 した結果をFig. 2.6に示す。なお、本研究では原子炉動特性解析に着目している ことから、不確実さ因子の抽出にあたっては、核・熱流動に関する因子に着目す る。
燃料からのFPの放出メカニズムは、早期放出と追加放出に分類される。早期 放出では、配管破断直後に炉内を循環している FP 及び機器に沈着している FP が冷却材とともに圧力容器外に放出される。追加放出では事故後、時間が経過し て冷却材の流れがほぼ定常になったのち、2.3.1 節で述べた、燃料の昇温や被覆 層の酸化腐食等の事象進展に伴いFPが放出される。
ここでは事象進展に寄与する不確さ因子の抽出を目的としていることから追 加放出に着目する。FP 追加放出における FP の移行段階は、燃料から冷却材へ
27
の放出と、自然循環流れによる炉心からの放出に分類される。燃料からのFP移 行に係る現象は、昇温によるFP放出と酸化による燃料破損に分類される。昇温 によるFP放出の評価因子には燃料温度と放出計算パラメータ、酸化による燃料 破損の評価因子には燃料初期破損率及び追加破損率があり、追加破損率の評価 因子として燃料温度がある。また、自然循環流れ放出のFP移行に係る現象とし て原子炉内流動があり、評価因子として自然循環流量がある。自然循環流量は、
燃料の酸化量及び原子炉からのFP放出量に寄与する。Fig. 2.6の結果から、核・
熱流動に関する因子に着目した結果、不確実さ因子として燃料温度と自然循環 流量を抽出した。
燃料溶融による著しい炉心損傷等、追加で考慮すべき現象を把握するため、以 下の節で行う事象進展解析では、燃料最高温度に着目し、考慮すべき現象がある かを判断する。さらに、ソースターム評価の不確実さ因子として抽出した燃料温 度及び自然循環流量に着目し、事象進展解析を行い、最終的な不確実さ因子を決 定する。
28
Fig. 2.6不確実さ因子の抽出
29
2.3.3 空気侵入事故時の破断箇所による影響評価
配管破断により自然循環流が発生し、これにより炉内への空気の侵入が想定 される。ここでは、以下の2ケースの配管破断箇所による自然循環流量の影響を 評価し、その特徴を確認する。
・Case 1:二重管両端破断
・Case 2:二重管両端破断及びスタンドパイプ破損
二重管とスタンドパイプの損傷は、地震によりRPVの自重を支える二重管中 心高さの容器胴部に設けられた4基の支持ブラケットが損傷し、RPV と動力変 換容器や熱交換器収納容器の間で過大な相対変位が生じることで同時に生じる ことが想定される。そこで本評価では、Case 2としてソースターム評価上もっと も厳しい条件である、二重管とスタンドパイプの破断を損傷モードとして仮定 した。
事象発生後、長時間経過しほぼ安定となった状態での、Case 1(600 時間後)
及びCase 2(600時間後)の流路方向及び各破断口の流量をFig. 2.7に示す。本
評価結果から、配管が破断した場合、空気は炉心の構造と破断個所の関係、炉内 の温度差から生じる自然循環により高温の原子炉出口から低温の原子炉入口に 向けて逆流することが見られる。Case 2では、スタンドパイプ破断口の流路断面 積は小さいためスタンドパイプ破損口からの空気と冷却材の混合流の噴出はわ ずかであるが、上部のスタンドパイプが破断することにより煙突効果が発生す る。炉内外の温度差により炉内に浮力が発生し空気侵入の駆動力となることで、
Case 1と比べて自然循環流量が大きくなる。
また、Case 1及びCase 2の自然循環流量(内側流路)の時間経過による変化
をFig. 2.8に示す。Case 1の場合、事象発生500時間経過までは自然循環流量は
ほとんどゼロであり、500時間経過後に急な発生が見られる。これは、二重管の 両端破断のみの場合、開口部が高温部である炉心より低い位置にあることから 直ちに多量の空気が自然循環流によって炉内に侵入することはなく、空気は分 子拡散により徐々に侵入するためと考えられる。炉内の空気質量割合が徐々に 増加し、燃料領域と固定反射体内の流路間の冷却材密度差が大きくなることで 自然循環流が発生する。本評価結果は、模擬装置による実験等で得られた空気侵 入プロセス22)と同じ傾向が見られる。
これと比較し、Case 2では、上記で述べた通り、開口部が炉心上部と下部に同 時に発生することから煙突効果により、直ちに自然循環流が発生し、またその流
量もCase 1と比較して非常に大きい。そのためCase 2ではCase 1と比較して、
30
空気の侵入開始時刻も早く、また自然循環流量も多いことから、早期からの燃料 及び黒鉛構造材の酸化の可能性があると言える。
Fig. 2.7 自然循環流量の評価結果(600時間経過後)
31
Fig. 2.8 自然循環流量発生時刻の比較
32
2.3.4 空気侵入事故の起因事象の選定結果
本節では、Case 1の二重管両端破断とCase 2の二重管両端破断及びスタンド パイプ破損が発生した場合の空気侵入量及びメカニズムを比較した。空気侵入 事故では、分子拡散が律速となり空気侵入が発生するまでに時間を要するとさ れているが、上部のスタンドパイプが同時に破断することで、煙突効果が生じ、
炉内外の浮力の影響により直ちに自然循環が発生することが見られた。本評価 結果から、Case 2ではCase 1と比較して、空気の侵入開始時刻も早く、また自 然循環流量も多いことから、早期からの燃料及び黒鉛構造材の酸化の可能性が あると言える。そのため、空気侵入を引き起こす起因事象として、より厳しい状 況が想定されるCase 2 の二重管両端破断及びスタンドパイプの同時破損を選定 することとした。
33
2.4 空気侵入事故の事象進展での緩和機能喪失の重畳に よる影響評価
本節では、空気侵入事故の評価を行うにあたり、評価手法の妥当性確認を行う 必要がある現象の選定を目的とし、2.3 節で選定した起因事象(Case 2)に緩和 機能の喪失を重畳させた場合を想定した事象の進展解析を実施する。事象進展 解析の事故シーケンスをFig. 2.9に示す。緩和機能が喪失する事故シーケンスと して、CRS機能喪失とVCS機能喪失を考慮する。
地震においては、過大な水平変位による制御棒挿入孔の不連続や過大な角度 変位による制御棒挿入孔の屈曲、黒鉛ブロック損傷による制御棒挿入孔の閉塞 が発生することが想定される。このことによりCRS機能が喪失することが想定 される。本評価では、ソースターム評価上もっとも厳しい条件として、全制御棒 が臨界制御棒位置で固着しスクラムによる反応度が添加されない状態を仮定し た。
同様に、地震起因のVCS流路壁や冷却パネルの損傷による流路が閉塞し、空 気の自然循環流れが阻害されることが想定される。このことによりVCS機能が 喪失することが想定される。本評価では、ソースターム評価上もっとも厳しい条 件として、VCS流路の完全閉塞を仮定した。
比較する事故シーケンスをTable 2.4に示す。評価における着目パラメータは、
2.3節において不確実さ因子と選定した燃料温度、自然循環流量とする。
34
Fig. 2.10対象とするイベントシーケンス
35
Table 2.4 評価条件
36
2.4.1 反応度制御設備機能喪失による影響評価
高温ガス炉では、空気侵入事故時にCRS機能喪失が重畳した場合においても、
負の大きな温度反応度のフィードバックにより直ちに出力は下がり静定するこ と、さらにその後に温度反応度とゼノン反応度のバランスにより再臨界が発生 することが知られている21)。ここでは、CRS 機能喪失の重畳が燃料温度及び自 然循環流量に与える影響を定量的に評価するため、Table 2.3に示すCase 2及び
Case 3の評価結果の比較を行った。
短時間スケールでの原子炉出力及び燃料最高温度の評価結果を Fig. 2.10 に示 す。原子炉出力は、スタンドパイプ破損に伴う1対の制御棒の飛び出し(0.267$) により、直ちにCase 2では762.6MW、Case 3では798.1MW まで上昇する。さ
らに、Case 2 では1対の制御棒以外は全挿入され、スクラム反応度が添加され
る。Case 3 では制御棒は臨界制御棒位置で固着しておりスクラム反応度は添加
されない。しかしながらCase 3 においては、原子炉出力の上昇及び冷却材喪失 による除熱量の減少により炉内温度は上昇する。これにより負の温度反応度が 投入されることで出力は30秒程度でゼロまで低下し静定するため、どちらのケ ースにおいても燃料温度の急激な上昇は見られない。
長時間スケールでの核分裂による原子炉出力、全反応度、燃料最高温度、自然 循環流量の評価結果をFig. 2.11、Fig. 2.12、Fig. 2.13に示す。Case 3においては、
温度反応度とゼノン反応度のバランスにより全反応度は負から正に転換し、再 臨界は約 300 時間経過後に発生する。燃料最高温度について、再臨界時刻まで は出力がゼロであるためCase 2とCase 3で同じ挙動となるが、再臨界後、Case 3では再臨界時刻の温度が維持されるためCase 2より高温の状態が続く。なお、
未臨界状態が維持されているにも関わらず長い間、燃料温度が高温状態である 理由は、崩壊熱の影響及び黒鉛の熱容量が非常に大きいことによる。さらに、自 然循環流量についても、再臨界発生前は同じ挙動を示すが、再臨界後は、Case 3
の方がCase 2 よりも炉内温度が高いため、空気とヘリウムの混合流体の粘性係
数が大きくなり混合流体の流量が抑えられる結果となった。
以上のことから、起因事象にCRS機能喪失が重畳した場合でも、燃料温度は 設計基準である 1600℃を超えることはなく、急峻な事象進展には至らないと言 える。このため、CRS 機能喪失の重畳により、燃料溶融に伴う追加評価の必要 性がないことを明らかにした。
37
Fig. 2.10 Case 2及びCase 3の出力及び燃料最高温度(短期挙動)
Fig. 2.11 Case 2及びCase 3の出力及び全反応度(長期挙動)
38
Fig. 2.12 Case 2及びCase 3の自然循環流量(長期挙動)
Fig. 2.13 Case 2及びCase 3の燃料最高温度(長期挙動)
39
2.4.2 炉容器冷却設備機能喪失による影響評価
空気侵入事故ではVCS機能喪失により燃料の温度上昇を引き起こす可能性 が考えられる。ここでは、VCS 機能喪失の重畳が燃料温度及び自然循環流量に 与える影響を定量的に評価するため、Table 2.4に示すCase 2及びCase 4の比較 を行った。評価結果をFig. 2.14、Fig. 2.15、Fig. 2.16に示す。
VCS機能喪失に伴う除熱量の減少によりCase 4の燃料最高温度はCase 2に比 べて高い結果となっている。Case 4 の燃料最高温度の最大値は設計基準である 1600℃を超えているが、SiC 被覆層の損傷を引き起こす 2000℃を超えてはいな い。また、原子炉圧力容器温度は設計基準値を超えてはいるがクリープ破損が生 じる1500℃を下回っているため形状は維持される26)。また、Fig. 2.15に、燃料 領域8分割(1燃料ブロック×8段)をさらに径方向に2分割(内側と外側)し た場合の各領域の燃料平均温度を示す。燃料領域の分割方法については既往研 究によるモデリング説明を参照されたい 21)。3 段目及び 4 段目以外の領域では 燃料温度は設計基準である1600℃以下となっている。このことからも、VCS機 能喪失の重畳は放射性物質の放出に大きな影響を与えず、急峻な事象進展には 至らないと言える。さらに、Fig. 2.16の自然循環流量の評価結果について、Case
4 は Case 2 よりも炉内温度が高いため、空気とヘリウムの混合流体の粘性係数
が大きくなり、混合流体の流量が抑えられる結果となった。
以上のことから、VCS 機能喪失が重畳した場合、燃料温度及は設計基準値を 超える結果となったが、損傷をもたらす温度以下となっているため、急峻な事象 進展には至らないと言える。よって、VCS 機能喪失の重畳により燃料溶融に伴 う追加評価の必要性がないことを明らかにした。
40
Fig. 2.14 Case 2及びCase 4での燃料最高温度及びRPV最高温度の比較
Fig. 2.15 Case 2及びCase 4での燃料平均温度の比較(軸方向)
41
Fig. 2.16 Case 2及びCase 4での自然循環流量の比較