本論文では、高温ガス炉の静的SSCの多重故障のPRAに利用可能な原子炉 動特性解析手法の検証及び高度化、並びに不確実さ因子分析手法に着目し研究 を行った。
第1章の序論では、高温ガス炉の現状の説明として、福島第一原子力発電所で の事故の影響を受けている現在でも、地球温暖化抑制のため、世界中では原子力 発電需要が変わらず高いことを述べるとともに、原子力に対する安全性の重要 性が高まっており、その中でも各国で優れた安全性を有する高温ガス炉が注目 され研究開発が進められていることを述べた。さらに、高温ガス炉は多目的熱利 用が可能であり、水冷却を必要としないことから必ずしも海岸での建設を必要 としないため、近年はカナダを始めとした過疎地において小型高温ガス炉の建 設が検討されていることを述べた。
さらに、本研究の背景として、高温ガス炉の静的 SSC の多重故障事故におけ るPRA手法開発及びソースターム評価手法開発について紹介した。PRAで求め られる要件及び検討が必要な事項について調査し、本研究の目的及び位置づけ として、静的 SSC の多重故障事故における原子炉動特性解析手法の検証及び高 度化、並びに系統的な不確実さ評価を設定した。
第2章事象進展解析では、公衆被ばくの観点から最も厳しいと考えられる空 気侵入を起因事象とした高温ガス炉の事故進展解析及び原子炉動特性に関する 不確実さ因子分析を行った。
事象進展解析の結果、燃料溶融に伴う著しい炉心損傷が発生しないことを確 認した。このことから、燃料溶融に伴う燃料デブリの挙動評価、原子炉外への放 射性物質の移行評価等を必要としないと言え、考慮すべき現象の範囲を明らか にするとともに、当該範囲の中から不確実さ因子として燃料温度及び自然循環 流量を抽出した。
ここで起因事象に緩和機能の喪失が重畳した事象進展解析結果から、燃料温 度は緩和機能の重畳により大きく影響を受け厳しい結果になるのに対し、自然 循環流量は粘性係数が大きくなり流量が抑えられるのに加え、その流量に大き な差は見られなかった。酸化に伴うソースターム評価結果は自然循環流量に比 例することから、シーケンスの違いによる自然循環流量の変化がソースターム 評価結果に与える影響が小さいと考えられるため、自然循環流量を不確実さ因
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子から除外することとした。結果として、燃料温度を最終的な不確実さ因子と選 定した。
第3章の原子炉動特性解析手法の検証及び高度化では、2章において不確実 さ因子として注目した燃料温度について、空気侵入事故にCRS機能喪失が重畳 した事象を対象とした解析手法の検証を行った。既往研究での各代表因子の妥 当性確認情報を調査した結果、高温ガス炉においてはゼノン反応度評価に用い る断面積等の温度依存性が重要であることを指摘し、モデルの高度化の必要性 を明らかにした。
そこで、空気侵入事故にCRS機能喪失が重畳した事象を模擬したHTTRを用 いた LOFC 試験の再臨界時刻を指標として、感度解析を行いその影響を明らか にした。更に、温度依存性モデルを構築しHTTR での LOFCの解析を行い実験 結果とよく一致することを確認し、その妥当性を確認した。
結果として、改良したモデルにより本再臨界性を再現でき、ゼノン反応度モデ ルの妥当性を確認した。
第4章の不確実さ評価では、既往研究において重要因子の選定手順が不明瞭 であったことを受けて、系統的、かつ、追跡性を確保した重要因子選定手順の構 築を行った。また、2章において不確実さ因子として注目した燃料温度について、
空気侵入事故にCRS機能喪失が重畳した事象を対象とした不確実さ評価を行っ た。結果として、燃料温度評価の重要因子として減速材温度反応度、キセノン反 応度、崩壊熱、熱伝導(炉内)、熱容量(炉外)、輻射(炉内)の6因子を抽出し、
これらの因子を入力値とした不確実さ伝播解析を実施した。結果、燃料最高温度 のピーク値及び再臨界後の静定温度のばらつきを定量的に示した。さらに、ばら つきを考慮した場合でも再臨界後の燃料最高温度は I-131 の放出率が上昇し始 める 1300℃を上回ることはなく、燃料最高温度のピーク値がソースターム評価 に重要となる明らかにした。重要因子の寄与度分析も実施し、ソースタームの不 確実さを低減するためには崩壊熱の不確実さの低減が重要であることを明らか にした。
本研究では、高温ガス炉の静的SSCの多重故障の事故におけるPRAに必要と なるソースターム評価手法のうち、原子炉動特性に着目した。空気侵入事故を起 因事象とした多重故障を対象とし、これまで未実施であった、事象進展解析によ る考慮すべき現象の把握、燃料温度解析の検証及び高度化、並びに不確実さ評価 手法の確立を完了させることで、高温ガス炉のPRA手法の構築へ貢献した。
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また、構築したゼノン反応度評価のための断面積等の温度依存性モデルにつ いては、再臨界時刻への影響が非常に大きいことを明らかにすることができ、今 後実施予定の HTTR を用いた 100%出力の LOFC 試験の予備評価においても貢 献が期待できるとともに、再臨界時刻に対するゼノン反応度モデルの妥当性を 確認したことで不確かな要因を減らすことができ、LOFC試験の再臨界データを 指標とした崩壊熱等の他のパラメータの妥当性確認をより高精度で行うことを 可能とした。
さらに、燃料温度の不確実さ評価により、系統的な不確実さ評価手順を確認す るとともに、崩壊熱のソースターム評価の不確実さへの寄与度が大きいことを 明らかにした。そのため、崩壊熱評価手法の妥当性は確認されているものの、ソ ースターム評価の不確実さ低減に向けて、崩壊熱モデルの改良による認識論的 不確かさの低減が期待できると考える。特に、これまで、ORIGENコードによる 評価においては、ピンセルモデルの中性子束を用いた体表的な一群断面積によ り求めた燃焼特性により崩壊熱を評価していたため、炉心を 1 点に代表させる ことによる認識論的不確かさがあった。今後、HTTRから取り出した使用済み燃 料の燃焼組成データ取得及び、MVP-BURN等の全炉心モデルを参照解とした崩 壊熱評価モデルの高度化が重要であることを提言した。
本研究では、高温ガス炉のPRA手法の確立に向けて新たな知見を得ることが できた。また、高温ガス炉の特徴である高い安全性を実証するため、今後継続し て実施予定の LOFC 試験の解析精度の向上のための新たな知見を得ることがで き、また今後の研究課題として、高温ガス炉の崩壊熱評価モデルの重要性を指摘 することができた。今後の原子力開発において、PRA の重要性は大きくなって きている。本研究によって、原子炉におけるPRAの活用の一助になることを願 う。
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