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FEMシミュレーションによるシリカ充填ゴムの微視構造のモデル化と力学特性評価

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(1)

修士論文

FEM

シミュレーションによるシリカ充填ゴムの

微視構造のモデル化と力学特性評価

指導教員:屋代 如月

中田 伸哉

2013

2

神戸大学大学院 工学研究科 博士課程前期課程 機械工学専攻

(2)

Master Thesis

Finite Element Modeling and Characterization of

Microstructure in Silica-Filled Rubber

February 2013

Division of Mechanical Engineering,

Graduate School of Engineering,

Kobe University, Kobe, Japan

(3)

要 約

本研究では,シリカ充填ゴムの粒子分布形態や界面ゲル相の物性について,種々の実 験結果に基づくモデル化を非アフィン分子鎖網目理論と均質化有限要素法の枠組みの 中で試みるとともに,最大応力やヒステリシスロス増大のキーメカニズムについて基 礎的な検討を行った. まずシリカ充填ゴムの分散構造を単純な直鎖状数珠繋ぎ構造でモデル化し,粒子の 配置形態が応答に及ぼす影響を検討した.ゴム相には実験により得られた応力ースト レッチ関係を再現する非アフィンモデルを,ゲル相には模擬実験をベースに作成した アフィンモデルを用いている.その結果,粒子を繋ぎ止めるゲル相に変形が集中し,系 の応力上昇の主要因となることが分かった.ゲル相アフィンモデルではヒステリシス ロスが小さくなるため,非アフィンモデルをゲル相に導入し,かつ初期セグメント数 Nsを小さく(硬いゲルを仮定)したところ,分子鎖の配向硬化が強められ,かつ除 荷時の応力低下が顕著になりヒステリシスロスが増大することが示された.次に,実 験で新たに報告された硫黄架橋時に生じる絡み点の不均一性を考慮した解析を行った. その結果,局所的に硬い部分の存在が,カーボンブラック充填ゴムの検討で既に報告 している,見かけの体積減少と同様の効果をもたらし最大応力が上昇すること,また 軟らかい部分で顕著な非アフィン変形を生じることでヒステリシスロスが増大するこ とが分かった.最後に,不均一性の効果を考慮したゴム相・ゲル相の応答を非アフィ ンモデルの構成式で再フィッティングし,45数珠繋ぎ構造の FEM シミュレーション を行った.その結果,ゲル相の分子鎖の配向硬化がさらに顕著になり不均一性をもた ない最初のモデルの解析結果よりも最大応力・ヒステリシスロスが増大した.

(4)

Summary

Toward a new FEM model for dispersion morphology of silica particles and mechani-cal properties of gel interface in silica-filled rubber, we constructed various constitutive models in the framework of nonaffine chain network theory and the homogenization method and investigated the key mechanisms for maximam stress and hysteresis loss. First, we examined the influence of dispersion morphology of silica particles on the macroscopic stress-strain responses, with a simple straight-chain bunching structure where the interfacial gel phase connects silica particles. The result shows that the remarkable stress increase occurred due to the deformation concentration on the con-necting gel phase. Affine chain-network model for gel phase shows small hysteresis loss than experimental observation, so that we introduced nonaffine model for gel phase and discussed the influence of the initial segment number Ns (smaller segment

indicate harder gel), then revealed that the strain hardening by chain orientation is activated, resulting in drastic stress decrease in the unloading process and increase in the hysteresis loss. Then, we discussed about the effect of the heterogeneity of“ chain entanglement”, which is recently reported by experiment, in the rubber matrix and gel phase. As a result, we found that the heterogeneity enhances the stress increase since the deformable part decreases due to the presence of hard part, as previously reported in the analysis of carbon black filled rubber. It also causes the remarkable rise in the hysteresis loss since significant nonaffine deformation takes place at soft part. Finally, we re-fitted the viscoelastic constitutive models for rubber and gel phases ta-king the effect of the heterogeneity into account. FEM simulation for 45bunching structure demonstrated that maximum stress and hysteresis loss are further increased due to the remarkable orientation hardening in the gel phase, compared to the result of homogeneous gel model.

(5)

目 次

第 1 章 緒論 1 第 2 章 基礎理論 4 2.1 ゴム単相の構成式 . . . . 4 2.1.1 分子鎖網目理論 . . . . 4 2.1.2 ゴム粘弾性体の構成式 . . . . 7 2.1.3 非アフィン分子鎖網目モデル . . . . 14 2.2 均質化法による微視組織のモデル化 . . . . 16 2.2.1 漸近展開理論に基づく均質化手法 . . . . 16 2.2.2 有限要素均質化方程式 . . . . 19 第 3 章 直鎖状数珠繋ぎ構造をもつシリカ充填ゴムの粘弾性変形挙動 23 3.1 ゴムマトリクス部のモデル化 . . . . 23 3.2 ゲル相のモデル化 . . . . 24 3.2.1 ゲル相物性見積もり実験 . . . . 24 3.2.2 アフィンモデルによるゲル相のモデル化 . . . . 25 3.3 シリカ粒子の配置形態の基礎的検討 . . . . 27 3.3.1 解析モデル . . . . 27 3.3.2 0◦数珠繋ぎ構造モデルの解析結果 . . . . 29 3.3.3 30数珠繋ぎ構造モデルの解析結果 . . . . 33 3.3.4 45数珠繋ぎ構造モデルの解析結果 . . . . 35 3.4 ゲル相の非アフィンモデル導入 . . . . 37 3.4.1 非アフィンモデルによるゲル相のモデル化 . . . . 37 3.4.2 非アフィンゲル相モデルによる 45数珠繋ぎ構造の解析結果 . . 40 3.4.3 ゲル相の初期セグメント数 Nsを変化させた場合 . . . . 42

(6)

目 次 ii 第 4 章 分子鎖セグメントの不均一分布が変形挙動に及ぼす影響 45 4.1 ゴム単相の変形挙動評価 . . . . 45 4.1.1 解析モデル . . . . 45 4.1.2 ゴム単相モデルの解析結果 . . . . 47 4.2 ゲル単相の変形挙動評価 . . . . 53 4.2.1 解析モデル . . . . 53 4.2.2 ゲル単相モデルの解析結果 . . . . 54 4.3 ゲル単相の平均セグメント数 Ns 0 を変化させた場合 . . . . 59 4.3.1 解析モデル . . . . 59 4.3.2 N0s=6.4,4.4としたゲル単相モデルの解析結果 . . . . 59 第 5 章 分子鎖の不均一性を反映させた構成式の構築 63 5.1 セグメント不均一性を反映したゴム単相・ゲル単相の構成式化 . . . . . 63 5.1.1 ゴム単相の構成式化 . . . . 64 5.1.2 ゲル単相の構成式化 . . . . 66 5.2 不均一性を反映した構成式による 45◦数珠繋ぎ構造モデルの解析 . . . . 68 第 6 章 結論 71 参考文献 74 第 A 章 非圧縮性ゴム粘弾性体の構成式の速度形式表示 80 第 B 章 [ϕ],[B],[E],{ψ} の具体形 82 第 C 章 関連発表論文・講演論文 84 謝 辞 97

(7)

1

緒論

我々の身の周りでゴム材は,タイヤ,衝撃吸収材,防振ゴム等の工業製品や,ボー ルやシューズに代表されるスポーツ用品,また医療機器等にも幅広く用いられている. このようなゴム材料は,原料ゴムに数 10∼100[nm] のフィラー(充填材)を高充填す ることで,弾性率,引張強度,引裂き強度,破断エネルギー等(1)の多様な力学的特性 を大幅に向上させて製造されている.なかでも,シリカ充填ゴム(図 1.1(b))やカーボ ンブラック (CB) 充填ゴム(図 1.1(c))はタイヤの材料として広範に利用されている. ゴムのような高分子材料の内部では,モノマー(単量体)が多数連なったひも状の 高分子が複雑に絡み合い三次元的な網目構造(図 1.1(d))を形成しており,負荷時の応 力と除荷時の応力経路が異なるヒステリシス (履歴現象)(2)や粘弾性応答(3)等の特異な (a)Tire.

(b)Silica filled rubber.

(c)CB filled rubber.

(d)Molecular chain.

100nm 100nm

(8)

力学特性を示す.それらの力学特性の発現メカニズムの解明には高分子材料の微視的 構造の観察が必要不可欠であり,柴山らは中性子小角散乱(SANS)装置を用いたゴム 内部の硫黄架橋の不均一性の観察(5)を行っており,中島らは原子間力顕微鏡(AFM) を用いた不均一構造の可視化に関する研究(6)(7)を推進している.池田らは,変形中の ゴム内部の構造変化を観察することに成功しており,分子鎖の伸長に伴う結晶化につ いて言及している(8).さらに,分子動力学(MD)を用いた高分子材の分子レベルの 変形挙動解析も盛んに行われており(9)(10)(11),屋代らは分子鎖の配向による応力上昇 ならびにヒステリシス発現のメカニズムについて新たな知見を報告している(12)(13) 充填ゴムのヒステリシスや粘弾性応答は,前述の補強効果により未充填ゴムに比べ て顕著になることが確認されており(2)(14)(15),充填ゴムに引張変形を加えた時に生じ る応力軟化(=ヒステリシスロスの増大)の要因として,フィラー粒子の凝集体構造 の変化(16)(17)(18)や,ゴムの延伸に伴う高分子鎖の滑り(19),架橋構造の破壊(20)(21)が 古くから考えられてきた.最近では内藤らが,ゴム分子鎖のエネルギー変化を詳細に 検討することにより,変形中の架橋構造・凝集体構造の破壊を裏付ける実験結果を報 告している(22).このように充填ゴムはその内部で非常に複雑な力学特性を呈すること が知られており,製品の設計や製造に充填ゴムの力学特性を最大限に生かすためには, 材料内部の微視的変形挙動の解明と,フィラー/ポリマー間の相互作用の適切な評価, そしてそれらを反映した巨視的応答を精密に再現し得るシミュレーションモデルの構 築が求められている.我々の研究グループではこれまで,CB 充填ゴムの高機能性発 現の詳細なメカニズム,特に CB 充填に伴うゴム部の微視的変形挙動と CB 充填ゴム の巨視的応答の関係を明らかにするため,ゴム部の適切な構成式の定式化と,CB 充 填ゴムが材料の機械的特性に及ぼす影響,微視領域における変形挙動を検討し得るシ ミュレーションモデルの構築,評価など,広範多岐に及ぶ研究を推進し,得られた成 果はタイヤの実際の設計にも用いられている(23)(24)(25)(26) 現在,工業的に利用されているゴム材料の多くは多量生産が容易な CB が充填剤と して用いられているが,その一方で石油を原材料とせず脱石油に貢献するシリカが新 たな充填剤として脚光を浴びている.シリカ充填ゴムは CB 充填ゴムよりも耐油性・耐 酸性に優れ,タイヤに用いる場合では転がり抵抗が小さくなるため燃費の向上をもた らし高性能なタイヤ材料となり得ることが報告されている(27).最近の実験から,シリ カ充填ゴムの製造工程においてシリカ粒子とゴム材の界面状態を制御するために添加

(9)

50nm Rubber matrix. Gel phase. Silica particle. V V Rubber Matrix Crosslinking Agent Rubber Matrix

(a)Bunching structure. (b)Role of crosslinking agent.

Fig.1.2 Microscopic structure of silica-filled rubber.

するシランカップリング剤の影響(28)(図 1.2(b))により,界面にゴムとは物性の異な る「ゲル相」が生成し,図 1.2(a) のようにシリカ粒子を数珠繋ぎ状に繋ぎ止めている ことが観察された(4).そこで,我々の研究グループでは CB を対象として開発してき たこれまでのフィラー充填ゴムの FEM モデルを発展させ,シリカ粒子のネットワーク 構造や数珠繋ぎ構造,ゲル相の厚さなどを様々に変化させたシミュレーション(29)(30) を行ってきたが,実験結果に見られる引張後期に見られる配向硬化がもたらす応力上 昇ならびにヒステリシスロスが十分に再現できていなかった.本研究では,数珠繋ぎ 構造を呈するシリカ充填ゴムの力学応答の基礎を把握するものとして,シリカ粒子が 直列に連結した単純な解析モデルを用いて,最近の実験により報告された硫黄架橋の 不均一性(5)を考慮したモデル化を行った. 第 2 章では解析手法の基礎として,ゴムの粘弾性応答を表現するための分子鎖網目 理論に基づく粘弾性 8 鎖モデルの構成式について説明し,解析に用いる有限要素均質 化方程式の概要を述べる.第 3 章では,実験データを基に同定したゴムマトリクス部 およびゲル相の粘弾性 8 鎖モデルの構成式を導入した直鎖状数珠繋ぎ構造の FEM シ ミュレーションを行い,シリカ粒子の配置形態,ならびにゲル相の特性変化が系の応 答に及ぼす影響を明らかにする.第 4 章では,硫黄架橋により生じる絡み点の空間的 な不均一性を,分子鎖網目理論におけるセグメント数 N の不均一性として導入し,分 布形態の違いがゴム単相,ゲル単相の応答に及ぼす影響を検討する.第 5 章では,第 4章の解析結果を粘弾性 8 鎖モデルの構成式として再度パラメータフィッティングする ことでスケールアップを行い,第 3 章の解析結果と比較し議論する.最後に,第 6 章 で本研究で得られた結果の総括を述べる.

(10)

2

基礎理論

本章では,まずゴム弾性応答を記述するために提案された分子鎖網目理論(31)∼(40) ついて説明する.次に,分子鎖に管模型(48)を用い,非ガウス鎖理論に基づく非圧縮 性を考慮したゴム粘弾性体の構成式について説明する.さらに,シリカ充填ゴムにお ける分子鎖のからみ点数の変化を許容する非アフィンモデルへの一般化を行う.次に, 2変数漸近展開理論に基づく均質化法の基本的な考え方を述べた後,ゴムの構成式を 更新ラグランジュ法に基づく均質化理論(54, 55)に導入することにより,微視的関係式 及び巨視的平衡式を導出し,その有限要素表示式を示す.

2.1

ゴム単相の構成式

2.1.1

分子鎖網目理論

高分子とは,非常にたくさんの原子 (多くの場合は炭素原子) が共有結合によって連 結したもので,図 2.1(a) に示すような長い鎖にたとえることができる.この繰り返し の構成単位をモノマーという.そして,個々の (炭素) 原子は,原子同士の結合を軸と してその周りで互いにほぼ自由に回転することができるため,全体として曲がりくねっ た,様々な形態をとることができる.例えば,図 2.1(a) に示す分子鎖の連続する三つ の炭素原子に注目すると,共有結合による連鎖であるから,結合長さ l = 1.54˚A,結合 角 θ = 70.53◦と確定している(31).これに対して,第 4 番目の炭素原子の結合は,l と θを一定に保ちながら,第 2 結合を軸に回転可能となり,その位置は,回転角の関数と して表されるポテンシャルエネルギによって決まる.このような考え方で高分子材料

(11)

Fig.2.1 Concept of hierarchical structure of polymeric material(32),

(a)molecular chain, (b)segment, (c)structure of network, (d)macroscopic continuum. の微視的構造を忠実に考慮したモデルを構築し,高分子材料の挙動を表現することが 原理的には可能である.しかしながら,実際の適用に当たっては多くの時空的な制約 が加わるため,モノマーを直接扱わず,セグメントという最小構成単位で粗視化した 分子鎖網目モデル(32)が用いられる. 分子鎖網目理論では,高分子材料は図 2.1(c) に模式的に示すように,分子間の化学 的結合あるいは物理的結合により接合点において連結された鎖が,ランダムに配向し た網目構造を有していると仮定している.さらに,(i) 接合点は原子の揺らぎ周期に対 して長時間的には平均位置が変化せず,接合点周りの摂動は無視できる,(ii) 二つの接 合点を両端に持つ分子鎖の端−端ベクトル (end-to-end vector) は,それが埋め込まれ ている材料の連続体と共変形をするとの仮定を置く.このようなモデルをアフィンモ デルという.図 2.1(b) に示すように,二つの接合点間の分子鎖は「1 本の分子鎖」と 定義され,それは導入した最小構成単位である「セグメント」から成る.モノマーの 数が十分多ければスケーリング則によって鎖の巨視的な性質は変わらない(34).ここで 導入した「セグメント」が「モノマー」とどう対応するかは議論の対象とせず,ここ では現象論的に最小単位のセグメントを導入している.「1 本の分子鎖」の形態が非ガ ウス統計分布(35)に従うとすると,二つの接合点を結ぶ方向にストレッチ λ を加えた

(12)

Fig.2.2 Molecular chain network model, (a) three chain model, (b) four chain model, (c) eight chain model.

場合に生じる応力 σ は次式で表すことができる(33) σ = kBT NL−1 ( λ N ) (2.1) ここで,N は 1 分子鎖あたりのセグメント数,kBは Boltzmann 定数,T は絶対温度で ある.また,関数L(x) は次式で定義される Langevin 関数である. L(x) = d dx { ln ( sinh x x )} = coth x− 1 x (2.2) 網目の全体的な応答特性は,個々の鎖の寄与を考えることにより得ることができるが, その取り扱いは数学的に極めて困難なものとなる.そこで,網目構造の応答モデルを 得るために簡便な平均化手法が提案されている. James及び Guth(36)は単位体積あたり n 本の鎖を含む網目は直行する 3 本の軸方向 に n/3 ずつの鎖が配置されたものと相当であると仮定した,図 2.2(a) に示す 3 鎖モデ ルを提案した.Wang 及び Guth(37)はこの 3 鎖モデルを等 2 軸変形に適用した.同様 に,Treloar(38)は,図 2.2(b) に示す 4 鎖網目モデルの概念(39)をゴム弾性に適用するこ とを提案したが,主ひずみ空間における対称性を表現することができないことが示さ れている(40).Arruda 及び Boyce(40)は図 2.2(c) に示す 8 鎖モデルを提案し,これらの 網目モデルの中で最も広範な変形モードに適用できることを示した.本研究では,8 鎖 モデルを基礎としてゴム粘弾性体の構成式を定式化する.

(13)

2.1.2

ゴム粘弾性体の構成式

図 2.2(c) で示される8鎖モデルはゴム超弾性体の変形応答を記述するのに用いられ ている.超弾性体とは負荷を受け大きく変形した後,完全に除荷すると元の状態に戻 る弾性体である(41).しかしながら,実際の分子鎖は周囲の分子鎖からの摩擦に起因す る粘性も持ち合わせている.そこで,ゴムの粘弾性挙動を記述するために,図 2.3 に 示すような粘弾性8鎖モデルとダンパーで構成されるモデルを構築する. β γ α A B D

Fig.2.3 Revised eight chain model.

周囲の分子鎖からの摩擦を表現するために,図 2.2(c) に示す8鎖モデルの各単鎖に, 図 2.3 挿入図に示す粘性抵抗をもつバネ・ダンパーの標準モデルを導入した新たな 8 鎖 モデル A が提案されている(42).ここで用いた粘性抵抗は,後に説明する管模型(48) よって表される.ここで,初めに8鎖モデル A の構成式を記述する.式 (2.1) より,単 分子鎖の二つの接合点を結ぶ方向にストレッチ λcを加えた場合,図 2.3 挿入図に示す システムにストレッチ λcを加えた場合に生じる応力 σcは次のように表せる. σc = CαRNαλcL−1 ( λc ) + CβR λc λγ L−1 ( λβ ) (2.3) ここで CαR = nαkBT,CβR = nβkBT,Nα,Nβは分子鎖のセグメント数で √ , √ は分子鎖の限界伸びを表す.nα,nβは構成要素のバネ α,β に含まれる分子鎖の数を 表す.また,図 2.3 に示す単分子鎖の各要素のストレッチを λα,λβ,λγ とし,λα = λc である.その他の添え字 α,β,γ についても,図 2.3 に示す要素 α,β,γ と対応して

(14)

いる.ただし, λc= λβλγ (2.4) である.一方,変形前の体積を基準にした単位体積あたりの仕事に相当するひずみエ ネルギー密度関数 W を用いると,応力 σcは次式のように表せる(43). σc= λc ∂W ∂λc (2.5) 式 (2.3),式 (2.5) より恒等的に次式が成り立つ. ∂Wc ∂λc = CαRNαL−1 ( λc ) + CβR 1 λγL −1 ( λβ ) (2.6) 8鎖モデル(40)の場合,主ストレッチを λ 1,λ2,λ3とすると,分子鎖のストレッチは λc= √ 2 1+ λ22+ λ23) /3と表すことができるので, ∂λc ∂λi = λi 3λc (2.7) の関係が成り立つ.式 (2.5)-(2.7) より,8 鎖モデル A の主ストレッチ方向の応力 σA iストレッチ λiは次の関係で与えられる. σAi = λi ∂W ∂λi = λi ∂W ∂λc ∂λc ∂λi = 1 3 { CαRNαL−1 ( λc ) +CβR 1 λγ L−1 ( λβ )} λ2 i λc (2.8) ここで,図 2.3 の8鎖モデル B の主ストレッチ方向の応力 σBi と弾性ストレッチ λ′iは 次のように表せる(40). σBi = 1 3 { CαBRNαBL−1 ( λcB NαB )} λ2 i λcB (2.9) CR αB = nBkBT,n = nα+ nβ+ nB,n は単位体積中に含まれる鎖の数を表す.一般に, ゴム粘弾性体の変形は体積変化が小さいとしてそれを無視する場合が多い.そこで本 研究では,非圧縮性ゴム粘弾性体を取り扱うものとし,非圧縮性を満たすために静水 圧 p を用いる.この時,式 (2.8) , (2.9) を用いると,非圧縮性ゴム粘弾性体の構成式は 次式のように表せる. σi = σAi + σ B i − p (2.10)

(15)

また,構成式 (2.10) の速度形式は,Kirchhoff 応力の Jaumann 速度S∇ijとひずみ速度テ ンソル ˙εkl,粘性ひずみ速度テンソル ˙εpklを用いて,次のように表すことができる. Sij = 1 3 [{ CαR ( ζ L λc ) +C R β λγ ( ζ′ λγ L′ λc )} AijAkl/Amm + { LCR α λc + L CR β λc } {δikAjl+ Aikδjl} ] ˙ εkl C R βNβ˙λγ λ2 γ 3Amm ( L′+ λβζ ) Aij + 1 3 [{ CαBRNαB ( ζ′′ NαB L′′ λcB )} A′ijA′kl/A′mm + L ′′CR αB NαB λcB { δikA′jl+ A′ikδjl }] ( ˙εkl− ˙εpkl)− ˙pδij (2.11) 式 (2.11) の具体的な導出方法については [付録A] を参照されたい.ここで,Aij左 Cauchy-Green 変形テンソル,L = L−1(λc/ ),L = L−1(λβ/),L′′ = L−1 cB/ NαB),ζ = L2/(1− L2csch2L),ζ′ = L′2/(1− L′2csch2L′),ζ′′= L′′2/(1− L′′2csch2L′′)である.また,添え字に図 2.3 と対応したものを付した.本研究ではペナ ルティ法を用いることにより,非圧縮性を近似的に満足させる. 次に粘性抵抗を表現する,要素 β,γ の扱いについて説明する.ここでは,要素 B, Dも要素 β,γ と同様の動きをすると仮定して取り扱う.ある時刻に変形勾配が F と なるような負荷あるいは変形を受けているゴムの変形を考える.その時の変形勾配 F を次式で定義する(44) F = ∂x ∂X (2.12) ここで,X は物体点の基準配置,x は現在の配置を表す.ゴムにおける基準配置は分 子鎖がランダムに配向した等方性状態である.図 2.4 に示すように,変形勾配 F は弾 性部分 Fβ と粘性部分 Fγ に次式のように分解できる. F = FβFγ (2.13) Fγ は完全な除荷状態で応力解放配置を表す.また,変形勾配 F は弾性ストレッチ Vβ回転 R,粘性ストレッチ Uγ を用いて次の形で表現される. F = VβRUγ (2.14)

(16)

F

F

γ

F

β

F

β-1 Reference Configuration Relaxed Configuration Current Configuration

Fig.2.4 Concept of viscoelasitc decomposition of deformation gradient.

回転 R を弾性部分と粘性部分に分け, R = RβRγ, (2.15) 極分解定理(45, 46)に従うと,次式の関係を得る. Fβ = VβRβ = RβUβ (2.16) Fγ = RγUγ = VγRγ (2.17) 実際,回転は弾性か粘性かは特定することはできない.しかしながら,ここでは Rβ = I, R = Rγ (2.18) とすることによって,次式の関係を得る. Fγ = VγR = RUγ (2.19) つぎに,速度勾配 L を考える. L = ∂v ∂x = d + w = ˙F F −1 = ˙FβFβ−1+ FβF˙γFγ−1Fβ−1 (2.20)

(17)

ここで,v は変位速度,d は変形速度テンソルで L の対称部分,w はスピンテンソル で L の反対称部分である.また,d と w をそれぞれ弾性成分と粘性成分の和である とすると,次の表現が得られる. d = dβ+ dγ, w = wβ + wγ (2.21) dβ + wβ = ˙FβFβ−1, dγ+ wγ = FβF˙γFγ−1Fβ−1 (2.22) 応力解放配置の速度勾配 Lpは,次式で与えられる. Lγ = ˙FγFγ−1 = ˜dγ+ ˜wγ (2.23) 式 (2.1) より,要素 β の応力 σβとストレッチ λβのは,次の関係で与えられる. σβ = CβRNβλβL−1 ( λβ ) (2.24) ただし, σβ = σγ (2.25) σγは要素 γ にかかる応力である.式 (3.1) より,弾性ストレッチ λβは分子鎖一本のス トレッチ λcを用いて,次のように表される. λβ = λc λγ (2.26) 粘性ストレッチ λγは次のように表現される. λγ = ∫ t 0 ˙λγdt (2.27) ˙λγ |t=t+∆t = λγ|t=t · ˜|dγ| (2.28) 粘性変形速度 ˜dγ は負荷あるいは除荷配置のどちらの場合においても一般的に次の ように表現されるべきであると考える(44, 47) ˜ dγ = ˙γγN (2.29) ここで,˙γγは粘性せん断ひずみ速度,N は方向を示すテンソルである.粘性流れの駆

動応力 (driving stress) σγ は Cauchy の応力 σγ を用いて次のように表される.

(18)

連合流れ則によって粘性変形速度が偏差駆動応力方向に発生すると仮定すると N は 次式のようになる. N = σ ∗′ γ 2 τ∗ (2.31) ここで,( )′は偏差成分を表し,τ∗は N を単位の値として定義するために導入した量 で,次のように表すことができる. τ∗ = [ 1 2σ ∗′ γ · σ∗′γ ]1 2 (2.32)

Doi·Edwards(48)は,高分子鎖で起こる特異な粘弾性現象を説明するために,de Gennes(49)

によって提案された管模型 (tube model) を分子鎖に適用した reptation (爬行) 理論を 示した.図 2.5 に示す管模型では,周囲の分子鎖との摩擦を,分子鎖の主鎖と直交方 向の運動の制限と捉え,分子鎖の主鎖方向への運動は自由であるがその垂直方向への 運動は周囲の分子鎖にあまり影響を与えない程度の距離 a,長さ L の管内で拘束され ていると仮定している.外力を加えると管は変形し,管の直径方向,軸方向ともにま ず a の距離内にあるセグメントの配向分布の緩和が短時間のうちに起こる.一方,軸 方向には reptation 運動により分子鎖は最初のゆがんだ形状の管から徐々に抜け出し, 完全に抜け出したとき,すなわち分子鎖が管に沿って長さ L だけ移動したとき応力は 完全に緩和する.このような周囲の分子鎖との摩擦によって,実際の分子鎖網目構造 では図 2.6 に示すような緩和現象が生じていると考えられる.

Bergstr¨om·Boyce は reptation 理論を基に,与えられた有効せん断応力 τ∗に対する

a

a

(19)

Undeformed Network

Deformed Network Deformed and Relaxed Network

Fig.2.6 Relaxation behavior of polymer chain.

粘性せん断ひずみ速度 ˙γγを次のように導出した(3).分子鎖の変位を ˆu = a1 √ ϕ(t)する時,緩和時間 t と分子鎖長 l(t) の関係は l(t) = l0+ a1 √ ϕ(t) (2.33) と表される.ここで l0は初期分子鎖長,ϕ(t) は reptation 理論による緩和時間である. 粘性ストレッチ λγは次式のように表される. λγ(t) = l(t) l0 = 1 + a2ta3 (2.34) ここで a2 > 0,0.5 < a3 < 1.0である.時間微分を取ると,次のようになる. ˙λγ = a2a3ta3−1 (2.35) 式 (2.34),(2.35) よりクリープ速度は次式のように表される. ˙λγ = a4(λγ− 1) a5 (2.36) ここで,a4 > 0,a5 =−1 である.しかし,クリープ速度は駆動応力に依存するとさ れるので,粘性せん断ひずみ速度を以下のように表した. ˙γγ = ˆC1[λγ− 1]C2τ∗m (2.37) ここで, ˆC1,C2,m は材料定数であり,一般にひずみ速度に依存する.

(20)

Physical Linkage

Initial State of Molecular Chain Deformed State of Molecular Chain

Fig.2.7 Concept of deformation of molecular chain accompanies decrease in physical linkage.

2.1.3

非アフィン分子鎖網目モデル

ゴムは高分子鎖がランダムに結合した網目構造を有し,網目の接合点として振る舞 う絡み点は分子間の共有結合による化学架橋点と,それに比べ結合力の弱い分子間力 によって結合している物理架橋点に分類できる.系の中で絡み点数が多いということ は,絡み点間の分子鎖長さが短い,すなわち 1 分子鎖当たりの平均セグメント数 N が 小さいことに対応する.図 2.7 にゴムの網目構造の変形を概念図で示す.変形過程にお いて分子鎖が滑り出すと,図 2.7 の点線で示す結合力の弱い物理架橋点が消滅し,か らみ点数が変化することが実験的に示唆されており(50),(51),対応した非アフィン分子 鎖網目モデルが提案されている(52),(53).網目構造の変形で絡み点数が減少することに よって,1 分子鎖あたりの平均セグメント数 N は増加する.絡み点間の分子鎖を「1 本」とカウントしているため,図 2.8 に模式的に示すように絡み点が解消すると単位体 積中の分子鎖数 n(= nα+ nβ+ nB)は減少し,伸長可能性の向上と剛性の低下をもた らす. 本研究では,セグメント数 N が分子鎖ストレッチ λcに依存すると仮定して, N (λc) = N0+ f (λc) (2.38) N= nαNα+ nβNβ+ nBNB = constant (2.39) = CR α kBT , = CR β kBT , nB = CR αB kBT (2.40)

(21)

Junction point

Junction point

1 2 1

(a)Before (b)After

Fig.2.8 Schematic view of extinction of junction point by decrease in physical linkage.

とする.ここで,Nnは系全体の総セグメント数,N0は初期セグメント数であり,総

セグメント数 Nnは材料に固有の数値である.また f (λc) は λcの 2 次多項式で表し,

f (λc) = a0+ a1λc+ a2λ2c (2.41)

とする.a0,a1,a2は定数である.

次にその f (λc)の具体的な関数の決定方法について説明する.まず第一回目のサイ クルでは,負荷時のからみ点数が変化し,除荷時はそれが変化しないとして,式 (2.10) を用いたシミュレーション結果と実験結果の差が小さくなるように,λc関数の係数を 同定する.一旦除荷した後,再負荷時においては,からみ点数の変化は不可逆なもの とし,本シミュレーションでは再負荷時において前回のサイクルで到達した最大スト レッチより小さい変形領域では平均セグメント数 N は変化しないものとした.すなわ ち 1 回目のサイクルの除荷と 2 回目のサイクルの再負荷の N の値は同一とした.さら に変形が進み,前回のサイクルで経験した最大ストレッチを超えると,再び式 (2.38) により N が変化するものとする.

(22)

2.2

均質化法による微視組織のモデル化

2.2.1

漸近展開理論に基づく均質化手法

本節では,2 変数漸近展開理論に基づく均質化法の基本的な考え方を簡単に述べた のち,ゴム材の構成式を更新ラグランジュ法に基づく均質化法(54, 55)に導入すること により,微視的関係式及び巨視的平衡式を導出する. 図 2.9 に示すような全体構造 X の任意点の近傍において,局所的に周期性をもつ 微視構造 Y が存在する材料を仮定し,構造物全体を表現する座標系 xi(i = 1, 2, 3)yi = xi/ηの関係を満足する微視構造を表現する座標系 yiの 2 変数を導入する.ここ で,η は微視的周期構造内の基本単位領域のスケールを表す.現変形状態における物 体の体積を Ω,表面積を S,外部表面の一部 St上に作用する表面力を P とし,残りの 外部表面 Suに一定の変位速度を与える.このとき,更新ラグランジュ法を用いると, 仮想仕事原理式は下記のように表せる(56)V ( ˙ Sji+ σmjvi,m ) δvi,jdV =St ˙ PiδvidS (2.42) ただし, ˙Sijは Kirchhoff の応力速度を表す.一方,式 (2.11) の構成式は下記の関係式 (56) ˙ Sij = Sij −Fijklε˙kl,

x

unit cell

Y

X

y = x /

h

S

u

S

t

P

y

i i i i W

(23)

Fijkl = 1 2(σljδki+ σkjδli+ σliδkj + σkiδlj) (2.43) を用いることによって,次のような形に統一的に示すことができる. ˙ Sij = Lijklε˙kl (2.44) 一方,微視領域内の任意点の変位速度 v はスケールパラメータ η により,次のよう に漸近展開できる. v = v (x, y) = v0(x, y) + ηv1(x, y) + η2v2(x, y)· · · (2.45) 式 (2.45) をひずみ速度と変位速度の関係式 ˙ εij = 1 2 ( ∂vi ∂xj +∂vj ∂xi ) (2.46) に代入し,次式が得られる. ˙ εij = 1 η˙e 0 ij(v) + ˙E 0 ij(v) ˙e 1 ij(v) + η [ ˙ Eij1 (v) + ˙e2ij(v) ] · · · , ˙ekij(v) = 1 2 ( ∂vik ∂yj + ∂v k j ∂yi ) , E˙ijk (v) = 1 2 ( ∂vik ∂xj + ∂v k j ∂xi ) (2.47) 次に,式 (2.44),(2.45),(2.47) を式 (2.42) に代入し,η について同じ次数の項を整理 すると,以下の式が得られる. 1 η2 ∫ Ω ( Lijkl˙e0ij(v) ∂δvi ∂yj + σmj ∂v0 i ∂ym ∂δvi ∂yj ) dV = 0 (2.48) 1 η ∫ Ω { Lijkl [( ˙ Ekl0 (v) + ˙e1kl(v) )∂δv i ∂yj + ˙e0kl(v)∂δvi ∂xj ] +σmj [( ∂v0 i ∂xm + ∂v 1 i ∂ym ) ∂δvi ∂yj + ∂v 0 i ∂ym ∂δvi ∂xj ]} dV = 0 (2.49) ∫ Ω { Lijkl [( ˙ Ekl0 (v) + ˙e1kl(v) )∂δv i ∂xj + ( ˙ Ekl1 (v) + ˙e2kl(v) )∂δv i ∂yj ] (2.50) +σmj [( ∂v0 i ∂xm + ∂v 1 i ∂ym ) ∂δvi ∂xj + ( ∂v1 i ∂xm + ∂v 2 i ∂ym ) ∂δvi ∂yj ]} dV =St ˙ PiδvidS

(24)

一方,Y-periodic 条件を満たす関数 Ψ (y) に対して, lim η→0+ ∫ Ω Ψ ( x η ) dΩ→ 1 |Y | ∫ Ω ∫ Y Ψ (y) dY dΩ, (2.51) lim η→0+ηS Ψ ( x η ) dS 1 |Y | ∫ Ω ∫ S Ψ (y) dSdΩ (2.52) が成立する(57).ここで,|Y | は微視領域の体積である.式 (2.51) を用い,式 (2.48) か ら次式が得られる. 1 |Y | ∫ Ω {∫ Y [ ∂yj ( Lijkl ∂v0 k ∂yl + σmj ∂v0 i ∂ym )] δvidY + ∫ S ( Lijkl ∂vk0 ∂yl + σmj ∂v0i ∂ym ) njδvidS } dΩ = 0 (2.53) δviが任意であるため,式 (2.53) から次式が得られる. ∂yj ( Lijkl ∂v0 k ∂yl + σmj ∂v0 i ∂ym ) = 0 (2.54) ( Lijkl ∂v0 k ∂yl + σmj ∂v0 i ∂ym ) nj = 0 (2.55) Guedesら(57)の命題 1 に基づき,式 (2.54),(2.55) から,次式を得る. v0 = v0(x) (2.56) 式 (2.56) より,変位速度の漸近展開式 (2.45) の第一項 v0は巨視的な座標系 x にのみ 依存することが分かる.次に,式 (2.49) に対し,式 (2.51),(2.52) を用いると,次式を 得る. ∫ Y (Lijkl+ σljδik) ∂v1 k ∂yl ∂δvi ∂yj dY =−Y (Lijkl+ σljδik) ∂v0 k ∂xl ∂δvi ∂yj dY (2.57) 式 (2.57) は v0に対して線形であるので,v1 と ˙E0は次式に示す関係が存在する(57). v1 = χ ˙E0(v) (2.58)

(25)

ただし,χ は特性変位関数と呼ばれる Y-periodic を満足する関数で,それぞれは下記 の式の解である. ∫ y [ Lijpm 1 2 ( ∂χkl p ∂ym +∂χ kl m ∂yp ) + σmjδpi ∂χkl p ∂ym ] ∂δvi ∂yj dY =Y (Lijkl+ σljδki) ∂δvi ∂yj dY (2.59) さらに,式 (2.51) において,可容変位速度 δv は任意に選ぶことができるので,δv = δv (x)とし,式 (2.58) を用いることにより,次式が得られる. ∫ Ω [ LHijklE˙kl0 (v) + τijklH ∂v 0 k ∂xl ] ∂δvi ∂xj dΩ =St ˙ PiδvidS, LHijkl= 1 |Y |Y [ Lijkl− Lijpq 1 2 ( ∂χkl p ∂yq +∂χ kl q ∂yp )] dY, (2.60) τijklH = 1 |Y |Y ( σljδki− σmj ∂χkl i ∂ym ) dY 以上から,微視構造について解くべき特性変位関数 χ は,微視構造の形態と材料定 数のみに依存し,全体構造のひずみ,応力などから独立して求解されることが分かる. 一方,全体構造について解くべき巨視的平衡方程式 (2.60) は均質化された巨視的特性 量などが特性変位関数より求められるため,微視構造と独立して求解することが可能 となる.

2.2.2

有限要素均質化方程式

本節では,漸近展開均質化法の適用により得られた微視的関係式 (2.59) 及び巨視的 平衡式 (2.60) を有限要素法により近似表示する. まず,前節にて導出した微視的関係式 (2.59) のマトリックス表記を以下に示す. ∫ Y ( δ ˙εT,y+ δqT,y(q))dY =Y ( δ ˙εTL + δqTQR)dY (2.61) ここで L = D− F である.各マトリックスは次のように表せる. ε = ( ε11 ε22 ε33 12 23 31 )T , χ,y = ( χ11 ,y χ22,y χ33,y χ12,y χ23,y χ31,y ) , χij,y = ( χij(11) χij(22) χij(33) χij(12) χij(23) χij(31) )T , χkl(ij) = 1 2 ( ∂χkli ∂yj + ∂χ kl j ∂yi ) ,

(26)

q = ( v1,1 v2,2 v3,3 v1,2 v1,3 v2,1 v2,3 v3,1 v3,2 )T , Q =                 σxx 0 0 σxy σxz 0 0 0 0 σyy 0 0 0 σyx σyz 0 0 σzz 0 0 0 0 σzx σzy σyy σyz 0 0 0 0 σzz 0 0 0 0 σxx σxz 0 0 sym. σzz 0 0 σxx σxy σyy                 , R =           1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1/2 0 1/2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1/2 0 1/2 0 0 0 0 1/2 0 0 1/2 0           T , χ,y(q) = (

χ11,y(q) χ22,y(q) χ33,y(q) χ12,y(q) χ23,y(q) χ31,y(q)

) , χij,y(q) = ( χij(11) χij(22) χij(33) χij(12) χij(13) χij(21) χij(23) χij(31) χij(32) )T , v = ( v1 v2 v3 )T , F =           2σxx 0 0 σxy 0 σxz 2σyy 0 σxy σzy 0 2σzz 0 σzy σzx (σxx+ σyy) /2 σzx/2 σzy/2 sym. (σzz+ σyy) /2 σxy/2 (σxx+ σzz) /2           . さらに,要素内の任意の点における変位速度 v 及び特性変位関数 χ をそれぞれ,要 素の節点の変位速度 d 及び特性変位 χ(d) と形状関数 Ψ との線形結合によって,次の ように表示する.形状関数 Ψ の具体形について,[付録 B] を参照されたい.

(27)

v = Ψ ˙d, ˙d = ( ˙dT1 ˙dT2 · · · ˙dTN )T , ˙dTN = ( ˙ dN1 d˙N2 d˙N3 ) , χ = Ψχ(d), χ = ( χ11 χ22 χ33 χ12 χ23 χ31 ) , χij = ( χij1 χij2 χij3 ) , χ(d) = ( χ11(d) χ22(d) χ33(d) χ12(d) χ23(d) χ31(d) ) , χij(d) = ( χij(d)1T χij(d)2T · · · χij(d)NT )T , χij(d)NT = ( χij(d)N 1 χ ij (d)N2 χ ij (d)N3 ) . ここで, ˙dTN,χij(d)NT はそれぞれ,要素内 N 番節点の変位速度成分,特性変位成分で ある.また,要素内のひずみ速度 ˙ε,変位速度勾配 q,特性変位の偏微分 χ,y は節点変 位速度 d 及び特性変位 χ を用いてそれぞれ次のように表すことができる. ˙ε = B ˙d, q = E ˙d, χ,y = Bχ(d), χ,y(q) = Eχ(d) (2.62) ここで,B,E は形状関数 Ψ を用いて表されるマトリックスであるが,その具体形に ついては [付録 B] を参照されたい.式 (2.62) を式 (2.61) に代入することにより,微視 構造における一つの要素に対する微視的方程式が得られ,次のようになる. δ ˙dT [∫ Y ( BTLBχ(d)+ ETQEχ(d))dY Y ( BTL + ETQR)dY ] = 0 (2.63) このとき,任意の δ ˙d に対し式 (2.63) が成立するためには,次式が常に成立しなければ ならない. [∫ Y ( BTLB + ETQE)dY ] χ(d) = ∫ Y ( BTL + ETQR)dY (2.64) つづいて,巨視的平衡式に移る.次式に巨視的平衡式 (2.60) のマトリックス表示式 を示す. ∫ Ω ( δεTLHε + δqTτHq)dV =St δvTP dS,˙ LH = 1 |Y |Y ( L− Lχ,y)dV, (2.65) τH = 1 |Y |Y ( Q− Qχ,y(g))dV

(28)

ここで, ˙P,χ,y(g)の具体形を以下に示す. ˙ P = ( ˙ P1 P˙2 P˙3 )T , χ,y(g)= ( χ11

,y(q) χ22,y(q) χ33,y(q) χ12,y(q) χ,y(q)13 χ21,y(q) χ23,y(q) χ31,y(q) χ32,y(q)

) また,χ,y(g)は節点の特性変位 χ(d)gを用いて,次式で表せる. χ,y(g)= Eχ(d)g, χ(d)g = ( χ11(d) χ22(d) χ33(d) χ12(d) χ13(d) χ21(d) χ23(d) χ31(d) χ32(d) ) 次に,巨視的平衡式 (2.65) に式 (2.62) を代入することにより,全体構造における一 つの要素に対する巨視的平衡式が得られ,次のようになる. δ ˙dT [∫ Y ( BTLHB + ETτHE)dV ˙dSt ΨTP dS˙ ] = 0, LH = 1 |Y |Y ( L− LBχ(d))dV, (2.66) τH = 1 |Y |Y ( Q− QEχ(d)g)dV このとき,式 (2.66) が任意の δd に対して成立するには,次式が常に成立する必要が ある. K ˙d = ft, K = ∫ Ω ( BTLHB + ETτHE)dV, (2.67) ft = ∫ St ΨTP dS˙ この式は要素の剛性方程式を表している.これを各要素について求め,全ての節点に ついて重ね合わせると全体の構造剛性方程式を得ることができる.得られた構造剛性 方程式に境界条件を導入し,未知節点変位速度と未知節点力速度を決定する.それら からひずみ速度や応力速度などの各量が求められる.

(29)

3

直鎖状数珠繋ぎ構造をもつシリカ充

填ゴムの粘弾性変形挙動

3.1

ゴムマトリクス部のモデル化

T ru e S tr es s σ2 2 [M P a] Stretch λ Experiment Simulation 1 2 3 4 0 2 4 6

Fig.3.1 Comparison of true stress-stretch relations by simulation and experiment.

未充填ゴムにおける実験結果,ならびにそれを再現するようにパラメータフィッティ ングしたシミュレーションでの結果を図 3.1 に示す.図 3.1 において,実験結果は変形 速度 ˙u = 100[mm/min] で最大ストレッチが λ = 4.0 になるまで 2 回繰り返し変形を与 えた未充填ゴムのデータである.実際のゴムの変形応答にみられる除荷時の応力軟化 挙動や再負荷時の応力回復挙動を再現するため,シミュレーションは実験と同条件の

(30)

2回繰り返し変形で,2.3 節で説明したからみ点数変化を許容する非アフィン変形を 8 鎖モデル A 内の要素 α のみに適用し,要素 β や,8鎖モデル B のからみ点数は変化し ないものとした.フィッティングにより得られた材料定数を表 3.1 に示す.構成式中の 総セグメント数 N(= nαNα+ nβNβ+ nBNB)は N= 1.95× 1027である.また,材

料の温度は変形過程を通して一定で 296[K] とした.

Table 3.1 Parameter of rivised eight chain model (Rubber matrix).

Rubber matrix CR α(= nαkBT ) CβR= (nβkBT ) CBR(= nBkBT ) NB 0.219 0.25 0.10 14.0 14.0 14.0 ˆ C1A C2A mA Cˆ1D C2D mA 5.0× 105 −0.50 3.2 3.0× 105 −0.50 4.8

3.2

ゲル相のモデル化

3.2.1

ゲル相物性見積もり実験

toluene rubber silica filled rubber

mesh cage

gel and silica

press

Fig.3.2 Overview of experimental procedure of evaluation of gel phase.

これまでゲル相の物性は実験的に明らかにされていないが,カップリング剤の影響 によりからみ点数が増加していると示唆されていることから,本研究ではゲル相にお ける 1 分子鎖当たりのセグメント数 N が未充填ゴムに比べ少なくなっていると仮定し, それ以外の材料定数については未充填ゴムと同等として解析を行ってきた.ここでは,

(31)

Gel phase Unfilled rubber T ru e S tr es s σ [M P a] Stretch λ 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 0 1 2

Fig.3.3 Comparison of true stress-stretch relations for gel phase and unfilled rubber.

住友ゴム工業株式会社の新たな実験により見積もられたゲル相の物性を導入する.本 項ではその実験手順について簡単に説明する. 図 3.2 に実験手順の概要を示す.まず初めにカップリング剤とシリカ粒子のみを未 充填ゴムに混ぜ合わせ作成したシリカ充填ゴムを,ゴムの良溶媒であるトルエンに浸 せきさせ,不溶分として残ったゲル相とシリカ粒子のみを抽出する.そして,取り出 した粒子とゲルをプレスした後,温度分散を測定することによりゲルのガラス転移温 度 Tgを測定する.ガラス転移温度 Tgはゴム中の硫黄量に応じて変化する特性がある ことから,測定したガラス転移温度 Tgの移動量により,ゲル相がどの程度の架橋密度 に相当するかについて見積もりを行った.そして,見積もった硫黄量を添加し作成し たゴムについて引張実験を行った.図 3.3 に見積もりを行った硫黄量を添加し作成し たゴムと未充填ゴムに変形速度 ˙u = 100[mm/min] で最大ストレッチが λ = 2.0 になる まで 2 回繰り返し変形を与えた時の真応力ーストレッチ関係を示す.これより,ゲル 相は未充填ゴムに比べ硫黄量が増加しているため硬化していることがわかる.

3.2.2

アフィンモデルによるゲル相のモデル化

3.2.1項のゲル相物性見積もり実験では λ = 2.0 以上の試験は難しくデータが取れな いが,シリカ充填ゴムの内部ではシリカ粒子を繋ぎとめるゲル相に大きな変形が集中 していることが示唆されており,λ = 2.0 以降の挙動も非常に重要であると考えられ

(32)

Experiment Gel phase 1 Gel phase 2 Gel phase 3

T

ru

e

S

tr

es

s

σ

2 2

[M

P

a]

Stretch λ

1 2 3 4 0 5 10 15 20 25

Fig.3.4 Comparison of true stress-stretch relations of three gel phase models and experiment. る.そこで本節では変形初期においてはこの実験結果にできるだけ従うようにしつつ, 変形後期のゲル相の応力上昇挙動が異なる 3 種類のモデル化を行った.各モデルのパ ラメータを表 3.2 に示す.図 3.4 はゲル相物性見積もり実験結果と,作成した 3 つのゲ ル相モデルでの λ = 4.0 までの応答である.図のように実験により見積もられるヒス テリシスロスは極めて小さいため,変形過程には 8 鎖モデル A,B ともに変形中の分 子鎖のセグメント数変化を許容しないアフィン変形を適用している. 先述のようにゲル相はゴムマトリクス部に比べ硬い相となっていることが示唆され ており,ゴム(ゲル)が硬い物性であるということは分子鎖同士がより複雑に絡まり あい分子鎖の絡み点数が多い状態であると考えられる.2.1.1 節で説明した分子鎖網目 理論に基づくと,分子鎖の絡み点数が多いということはすなわち 1 分子鎖当たりの平 均セグメント数 N が小さいことに対応する.よってゲル相のセグメント数 Nsはゴム マトリクス部のセグメント数 N = 14.0 に対して Ns = 8.4とした.またゲル相はシリ カ充填ゴム作成時に添加するカップリング剤の影響によってゴムが特性変化した物質 であると考えられるが,ゲル相を構成する内部の分子鎖自体に変化はなく系全体の分 子鎖の総セグメント数はゴム部と同じであるということを考慮し,ゲル相の総セグメ ント数 N(= nαNα+ nβNβ+ nBNB)はゴムマトリクス部と同じ N= 1.95× 1027と してモデル化を行った.

(33)

Table 3.2 Parameters of rivised eight chain model (Gel phase, Affine model). Gel phase 1 CR α(= nαkBT ) CβR= (nβkBT ) CBR(= nBkBT ) NB 0.6483 0.20 0.10 8.4 8.4 8.4 ˆ CA 1 C2A mA Cˆ1D C2D mA 5.0× 105 −0.50 3.2 3.0× 105 −0.50 4.8 Gel phase 2 CR α(= nαkBT ) CβR= (nβkBT ) CBR(= nBkBT ) NB 0.4283 0.42 0.10 8.4 8.4 8.4 ˆ C1A C2A mA Cˆ1D C2D mA 5.0× 105 −0.50 3.2 3.0× 105 −0.50 4.8 Gel phase 3 CR α(= nαkBT ) CβR= (nβkBT ) CBR(= nBkBT ) NB 0.2183 0.65 0.10 8.4 8.4 8.4 ˆ CA 1 C2A mA Cˆ1D C2D mA 5.0× 105 −0.50 3.2 3.0× 105 −0.50 4.8

3.3

シリカ粒子の配置形態の基礎的検討

3.3.1

解析モデル

実際のシリカ充填ゴムは,シリカ粒子をランダムに分散した状態で含有するが,本 節ではシリカ粒子の配置がシリカ充填ゴムの機械的特性に及ぼす基本的な影響を検討 するために,平面ひずみ条件下でシリカ粒子が直鎖状に繋がった周期構造を対象とす る.均質化法におけるミクロ構造の単位ユニットセル中に,2 個のシリカ粒子が界面ゲ ル相によって連絡された直鎖状の構造を有する解析モデルを図 3.5 に示す.図では界 面ゲル相を水色で示している.直鎖状に配置したシリカ粒子の周囲の界面ゲル相の力 学特性,ならびに粒子の配置が全体の変形挙動に与える影響のみを抽出するため,全 てのモデルにおいてユニットセル内のシリカ粒子径は全て同じとし,シリカ粒子含有 率は 30 %,ゲル相割合は 12.54 % に統一し,2 つのシリカ粒子の配置を 0◦から 45ま で変化させた 3 つの解析モデルを作成した.そのため,直鎖状 (0)からの傾きが大き

(34)

x

2

x

1

0

L0 y2 y1 0 Unit cell

(a) 0cbunching structure model

x

2

x

1

0

L0 y2 y1 0 30c Unit cell

(b) 30cbunching structure model

x

2

x

1

0

L0 y2 y1 0 Unit cell 45c

(c) 45cbunching structure model

0c

Fig.3.5 Simulation models of silica filled rubber.

くなるにつれ,ユニットセルも横に広がった形状となっている.

解析には,周期的微視構造を有する材料全体を表現する座標系 xiと微視構造を表現

(35)

た有限要素法(54)を用いる.本研究で直接用いる均質化理論,並びに,有限要素方程 式の具体形,計算手順の詳細については 2.4,2.5,文献 [5,15] を参照されたい. 巨視的に一様な単軸変形を与えるものとして,巨視座標系の x2方向に ˙u = 100[mm/min] の一定な変形速度で,最大伸びが λ2 = 1.5になるまで引張変形を与えた後除荷を行い, 1サイクルの変形挙動を解析する.ゴムの非圧縮性を満足させるためのペナルティ定 数は ˙p = 100 とする.シリカ粒子の剛性は,ゴム材の剛性に比べて十分大きいと考え, ゴムマトリクス部とゲル相の計算の安定性と結果にほとんど影響を与えない値として, 縦弾性係数 E = 100[MPa], ポアソン比 ν = 0.3 とした.材料の温度は変形過程を通し て一定で T = 296[K] とした.

3.3.2

0

数珠繋ぎ構造モデルの解析結果

N

o

m

in

al

S

tr

es

s

Σ

n 2 2

[M

P

a]

Stretch λ

2 Experiment with Gel phase 1 with Gel phase 2 with Gel phase 3

1 1.2 1.4

0 1 2 3

Fig.3.6 Comparison of nominal stress-stretch relations of silica-filled rubber by simulation and experiment (0 bunching structure model).

図 3.6 に,0モデルにおいて界面ゲル相の物性を Gel phase 1 から Gel phase 3 まで 3 パターンに変えて解析を行った結果を,実験から得られたシリカ充填ゴムの公称応力-ストレッチ関係と比較して示す.今回実験におけるカップリング剤含有率 µ は,最も 一般的に用いられる µ = 8[wt %] とした.ここで,実験データはシリカ含有率 20 % の

(36)

シリカ充填ゴムの引張試験結果であるのに対し,本章で用いるシリカ充填ゴムの解析 モデルのシリカ含有率は 30 % と,シミュレーションの方が高い応力を示しやすい条件 であることに注意されたい.いずれのモデルにおいても応力が大きく上昇し,λ2 = 1.5 に達する前に計算不能となった.本モデルのようにシリカ粒子が縦に連結した条件で は,界面ゲル相に非常に大きな変形が集中するため変形後期ではゲル相のメッシュが 潰れ,計算不能となる.計算停止直前の λ2 = 1.43までの解析結果を実験データと比較 すると,当然ではあるが粒子を直列に連結して界面ゲル相の硬化が顕著に表れるよう にした本モデルではいずれも実験値より高い値を示している.また本モデルでは,こ れまでのシリカ充填ゴムの界面相モデル(29),ネットワークモデル(30)では再現できな かった,実験結果にみられる変形後期(λ2 = 1.35∼1.50)での応力上昇挙動(3 次関 数的な負荷曲線)の傾向を再現可能となっている. 1.92 1.46 1.00 2.38 2.84 3.30 (a)Gel phase1 λc

(b)Gel phase2 (c)Gel phase3

Fig.3.7 Distribution of morecular chain stretch λc (0 bunching structure model).

計算停止直前の λ2 = 1.43における分子鎖ストレッチ λcの分布を図 3.7 に,引張方 向応力 σ22の分布を図 3.8 に示す.0モデルにおいてはシリカ粒子が直線的に連結され ており,剛性の高いシリカ粒子はほとんど変形しないためユニットセルモデルの中心 軸付近では系全体に与えた引張変形がゲル相に集中し,シリカ粒子同士を縦に連結し ているゲル相において分子鎖ストレッチ λcが非常に大きくなっている.またユニット セルモデルの周期性のため 2 つの粒子に挟まれた粒子の側面部分のゴムマトリクス部 では系全体の延伸に伴い粒子から圧縮変形を受けるが,ゴムは体積一定を満たしなが ら変形するためその分縦に伸び,他のゴム部分に比べると大きな分子鎖ストレッチ λc

(37)

23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa]

(a)Gel phase1 (b)Gel phase2 (c)Gel phase3

Fig.3.8 Distribution of tensile stress σ22 (0 bunching structure model).

を生じている.また 8 鎖モデルの幾何学関係から,図 3.4 の横軸に示したゲル相モデ ル全体の引張変形 λ と λcの間には λc= √ 1 3 ( 1 λ2 + 1 + λ 2 ) (3.1) の関係が成り立つ.したがって図 3.7 において最も分子鎖ストレッチの大きい部分では λc= 3.30となっているが,これをゲル相モデル全体の引張変形 λ に換算すると λ = 5.68 に相当する.このためシリカ粒子を縦に連結しているゲル相には図 3.4 に示した以上 の引張変形が加わっており,図 3.8 のように非常に大きな応力を生じる. λ2 = 1.43までの引張方向応力 σ22分布の変化を図 3.9 に示す.いずれのゲル相物性 を導入したモデルにおいても,(a) → (c) の間は粒子同士を繋ぎ止めているゲル相の応 力上昇が比較的なだらかであるのに対し,(c) → (e) にかけては急激に上昇している. これは,ゲル相に分子鎖ストレッチ λcの増大とともにセグメント数 Nsの変化を生じ ないアフィン変形を適用しているためであり,変形後期に非常に強い配向硬化を示す. このようなシリカ粒子間のゲル相で生じる顕著な応力上昇が,図 3.6 で示した変形後 期での 3 次関数的な応力上昇挙動をもたらしたと考えられる.またいずれの場合も粒 子を数珠繋ぎ状に繋ぎ止めていたゲル相が系の延伸とともに細長く引き伸ばされ,あ る程度の距離をあけて粒子を繋ぎ止めるネットワーク形状となっている.

(38)

(a)λ=1.10 (b)λ=1.20 (c)λ=1.30 (d)λ=1.40 (e)λ=1.43 Gel phase 1 (a)λ=1.10 (b)λ=1.20 (c)λ=1.30 (d)λ=1.40 (e)λ=1.43 Gel phase 2 (a)λ=1.10 (b)λ=1.20 (c)λ=1.30 (d)λ=1.40 (e)λ=1.43 Gel phase 3 23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa] 23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa] 23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa]

Fig.3.9 Change in distribution of tensile stress σ22under tension (0bunching

(39)

3.3.3

30

数珠繋ぎ構造モデルの解析結果

(a) Nominal stress-stretch relations

(b) Hysteresis loss

H y st er es is l o ss [ J/ m 3 ] 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 N o m in al S tr es s Σn 2 2 [M P a] Stretch λ2 Experiment with Gel phase 1 with Gel phase 2 with Gel phase 3

1 1.2 1.4

0 1 2 3

Fig.3.10 Comparison of (a) Nominal stress-stretch relations and (b) Hysteresis loss of silica-filled rubber by simulation and experiment (30bunching structure model).

30モデルにおいて界面ゲル相の物性を Gel phase 1 から Gel phase 3 まで 3 パター ンに変えた解析から得られた (a) 公称応力―ストレッチ関係,(b) ヒステリシスロスを 実験データと比較して図 3.10 に示す.30◦モデルの構造では,全体のストレッチ λ2の 増加に応じてシリカ粒子は左右に位置をずらすことが可能なため,ゲル相への応力集 中が 0モデルに比べて少なくなる.そのためメッシュが計算途中で潰れることはなく, 1サイクルの計算が可能であり,応力上昇挙動が実験結果に近づいた.ただし変形の 集中するゲル相にアフィン変形を適用しているため,ヒステリシスロスは実験結果と 比べてどの場合も小さくいずれのモデルもほぼ同じ値を示している. 最大ストレッチ λ2 = 1.50における分子鎖ストレッチ λcの分布を図 3.11 に,引張方 向応力 σ22の分布を図 3.12 に示す.30モデルにおいても 0モデルのときと同様,シリ カ粒子間の距離が最小となる中心軸付近のゲル相に変形が集中し顕著な応力上昇を生 じている.30◦モデルの場合では粒子の側面のゴムマトリクス部の分子鎖ストレッチ λc は非対称となり,大きく延伸したゲル相側の変形が顕著となる.また (a) → (c) とゲル 相の物性が軟らかいものになるにつれて粒子を繋ぎ止めている部分の分子鎖ストレッ

Table 3.1 Parameter of rivised eight chain model (Rubber matrix).
Table 3.2 Parameters of rivised eight chain model (Gel phase, Affine model). Gel phase 1 C α R (= n α k B T ) C β R = (n β k B T ) C B R (= n B k B T ) N α N β N B 0.6483 0.20 0.10 8.4 8.4 8.4 Cˆ 1 A C 2 A m A Cˆ 1 D C 2 D m A 5.0 × 10 5 −0.50 3.2 3.0 × 10 5
図 3.6 に,0 ◦ モデルにおいて界面ゲル相の物性を Gel phase 1 から Gel phase 3 まで 3  パターンに変えて解析を行った結果を,実験から得られたシリカ充填ゴムの公称応力-ストレッチ関係と比較して示す.今回実験におけるカップリング剤含有率 µ は,最も 一般的に用いられる µ = 8[wt %] とした.ここで,実験データはシリカ含有率 20 % の
Table 3.3 Parameter of rivised eight chain model (Gel phase, Non affine model).
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