第 3 章 直鎖状数珠繋ぎ構造をもつシリカ充填ゴムの粘弾性変形挙動 23
3.3 シリカ粒子の配置形態の基礎的検討
3.3.1 解析モデル
Table 3.2 Parameters of rivised eight chain model (Gel phase, Affine model).
Gel phase 1
CαR(=nαkBT) CβR= (nβkBT) CBR(=nBkBT) Nα Nβ NB
0.6483 0.20 0.10 8.4 8.4 8.4
Cˆ1A C2A mA Cˆ1D C2D mA
5.0×105 −0.50 3.2 3.0×105 −0.50 4.8
Gel phase 2
CαR(=nαkBT) CβR= (nβkBT) CBR(=nBkBT) Nα Nβ NB
0.4283 0.42 0.10 8.4 8.4 8.4
Cˆ1A C2A mA Cˆ1D C2D mA
5.0×105 −0.50 3.2 3.0×105 −0.50 4.8
Gel phase 3
CαR(=nαkBT) CβR= (nβkBT) CBR(=nBkBT) Nα Nβ NB
0.2183 0.65 0.10 8.4 8.4 8.4
Cˆ1A C2A mA Cˆ1D C2D mA
5.0×105 −0.50 3.2 3.0×105 −0.50 4.8
x
2x
10
L0
y2 y1
0 Unit cell
(a) 0 c bunching structure model
x
2x
10
L0
y2 y1 0
30c Unit cell
(b) 30 c bunching structure model
x
2x
10
L0
y2 y1
0 Unit cell
45c
(c) 45 c bunching structure model 0 c
Fig.3.5 Simulation models of silica filled rubber.
くなるにつれ,ユニットセルも横に広がった形状となっている.
解析には,周期的微視構造を有する材料全体を表現する座標系xiと微視構造を表現 する座標系yiの二変数を用い,変位を漸近展開する均質化理論(57)に基づき定式化し
た有限要素法(54)を用いる.本研究で直接用いる均質化理論,並びに,有限要素方程 式の具体形,計算手順の詳細については2.4,2.5,文献[5,15]を参照されたい.
巨視的に一様な単軸変形を与えるものとして,巨視座標系のx2方向にu˙ = 100[mm/min]
の一定な変形速度で,最大伸びがλ2 = 1.5になるまで引張変形を与えた後除荷を行い,
1サイクルの変形挙動を解析する.ゴムの非圧縮性を満足させるためのペナルティ定
数はp˙ = 100とする.シリカ粒子の剛性は,ゴム材の剛性に比べて十分大きいと考え,
ゴムマトリクス部とゲル相の計算の安定性と結果にほとんど影響を与えない値として,
縦弾性係数E = 100[MPa], ポアソン比ν = 0.3とした.材料の温度は変形過程を通し て一定でT = 296[K]とした.
3.3.2 0
◦数珠繋ぎ構造モデルの解析結果
N o m in al S tr es s Σ
n22[M P a]
Stretch λ
2
Experiment with Gel phase 1 with Gel phase 2 with Gel phase 3
1 1.2 1.4
0 1 2 3
Fig.3.6 Comparison of nominal stress-stretch relations of silica-filled rubber by simulation and experiment (0◦ bunching structure model).
図3.6に,0◦モデルにおいて界面ゲル相の物性をGel phase 1からGel phase 3まで3 パターンに変えて解析を行った結果を,実験から得られたシリカ充填ゴムの公称応力-ストレッチ関係と比較して示す.今回実験におけるカップリング剤含有率µは,最も 一般的に用いられるµ= 8[wt%]とした.ここで,実験データはシリカ含有率20% の
シリカ充填ゴムの引張試験結果であるのに対し,本章で用いるシリカ充填ゴムの解析 モデルのシリカ含有率は30% と,シミュレーションの方が高い応力を示しやすい条件 であることに注意されたい.いずれのモデルにおいても応力が大きく上昇し,λ2 = 1.5 に達する前に計算不能となった.本モデルのようにシリカ粒子が縦に連結した条件で は,界面ゲル相に非常に大きな変形が集中するため変形後期ではゲル相のメッシュが 潰れ,計算不能となる.計算停止直前のλ2 = 1.43までの解析結果を実験データと比較 すると,当然ではあるが粒子を直列に連結して界面ゲル相の硬化が顕著に表れるよう にした本モデルではいずれも実験値より高い値を示している.また本モデルでは,こ れまでのシリカ充填ゴムの界面相モデル(29),ネットワークモデル(30)では再現できな かった,実験結果にみられる変形後期(λ2 = 1.35〜1.50)での応力上昇挙動(3次関 数的な負荷曲線)の傾向を再現可能となっている.
1.92 1.46 1.00 2.38 2.84 3.30
(a)Gel phase1 λc
(b)Gel phase2 (c)Gel phase3
Fig.3.7 Distribution of morecular chain stretchλc (0◦ bunching structure model).
計算停止直前のλ2 = 1.43における分子鎖ストレッチλcの分布を図3.7に,引張方 向応力σ22の分布を図3.8に示す.0◦モデルにおいてはシリカ粒子が直線的に連結され ており,剛性の高いシリカ粒子はほとんど変形しないためユニットセルモデルの中心 軸付近では系全体に与えた引張変形がゲル相に集中し,シリカ粒子同士を縦に連結し ているゲル相において分子鎖ストレッチλcが非常に大きくなっている.またユニット セルモデルの周期性のため2つの粒子に挟まれた粒子の側面部分のゴムマトリクス部 では系全体の延伸に伴い粒子から圧縮変形を受けるが,ゴムは体積一定を満たしなが ら変形するためその分縦に伸び,他のゴム部分に比べると大きな分子鎖ストレッチλc
23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa]
(a)Gel phase1 (b)Gel phase2 (c)Gel phase3 Fig.3.8 Distribution of tensile stress σ22 (0◦ bunching structure model).
を生じている.また8鎖モデルの幾何学関係から,図3.4の横軸に示したゲル相モデ ル全体の引張変形λとλcの間には
λc=
√ 1 3
( 1
λ2 + 1 +λ2 )
(3.1) の関係が成り立つ.したがって図3.7において最も分子鎖ストレッチの大きい部分では λc= 3.30となっているが,これをゲル相モデル全体の引張変形λに換算するとλ= 5.68 に相当する.このためシリカ粒子を縦に連結しているゲル相には図3.4に示した以上 の引張変形が加わっており,図3.8のように非常に大きな応力を生じる.
λ2 = 1.43までの引張方向応力σ22分布の変化を図3.9に示す.いずれのゲル相物性
を導入したモデルにおいても,(a)→(c)の間は粒子同士を繋ぎ止めているゲル相の応 力上昇が比較的なだらかであるのに対し,(c)→(e)にかけては急激に上昇している.
これは,ゲル相に分子鎖ストレッチλcの増大とともにセグメント数Nsの変化を生じ ないアフィン変形を適用しているためであり,変形後期に非常に強い配向硬化を示す.
このようなシリカ粒子間のゲル相で生じる顕著な応力上昇が,図3.6で示した変形後 期での3次関数的な応力上昇挙動をもたらしたと考えられる.またいずれの場合も粒 子を数珠繋ぎ状に繋ぎ止めていたゲル相が系の延伸とともに細長く引き伸ばされ,あ る程度の距離をあけて粒子を繋ぎ止めるネットワーク形状となっている.
(a)λ=1.10 (b)λ=1.20 (c)λ=1.30 (d)λ=1.40 (e)λ=1.43 Gel phase 1
(a)λ=1.10 (b)λ=1.20 (c)λ=1.30 (d)λ=1.40 (e)λ=1.43
Gel phase 2
(a)λ=1.10 (b)λ=1.20 (c)λ=1.30 (d)λ=1.40 (e)λ=1.43
Gel phase 3 23.27
11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa]
23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa]
23.27 11.56 -0.15 34.98 46.69 58.40 σ22[MPa]
Fig.3.9 Change in distribution of tensile stressσ22under tension (0◦bunching structure model).
3.3.3 30
◦数珠繋ぎ構造モデルの解析結果
(a) Nominal stress-stretch relations (b) Hysteresis loss
Hysteresis loss [J/m3 ]
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
Nominal Stress Σn22[MPa]
Stretch λ2 Experiment with Gel phase 1 with Gel phase 2 with Gel phase 3
1 1.2 1.4
0 1 2 3
Fig.3.10 Comparison of (a) Nominal stress-stretch relations and (b) Hysteresis loss of silica-filled rubber by simulation and experiment (30◦bunching structure model).
30◦モデルにおいて界面ゲル相の物性をGel phase 1からGel phase 3まで3パター ンに変えた解析から得られた(a)公称応力―ストレッチ関係,(b) ヒステリシスロスを 実験データと比較して図3.10に示す.30◦モデルの構造では,全体のストレッチλ2の 増加に応じてシリカ粒子は左右に位置をずらすことが可能なため,ゲル相への応力集 中が0◦モデルに比べて少なくなる.そのためメッシュが計算途中で潰れることはなく,
1サイクルの計算が可能であり,応力上昇挙動が実験結果に近づいた.ただし変形の 集中するゲル相にアフィン変形を適用しているため,ヒステリシスロスは実験結果と 比べてどの場合も小さくいずれのモデルもほぼ同じ値を示している.
最大ストレッチλ2 = 1.50における分子鎖ストレッチλcの分布を図3.11に,引張方 向応力σ22の分布を図3.12に示す.30◦モデルにおいても0◦モデルのときと同様,シリ カ粒子間の距離が最小となる中心軸付近のゲル相に変形が集中し顕著な応力上昇を生 じている.30◦モデルの場合では粒子の側面のゴムマトリクス部の分子鎖ストレッチλc
は非対称となり,大きく延伸したゲル相側の変形が顕著となる.また(a)→(c)とゲル 相の物性が軟らかいものになるにつれて粒子を繋ぎ止めている部分の分子鎖ストレッ
チλcは大きくなるが,図3.4で示したように変形抵抗が小さいため応力σ22は小さく なる.
1.70 1.35 1.00 2.05 2.40 2.75
(a)Gel phase1 λc
(b)Gel phase2 (c)Gel phase3
Fig.3.11 Distribution of morecular chain stretchλc (30◦ bunching structure model).
17.11 8.57 0.04 25.64 34.17 42.71 σ22[MPa]
(a)Gel phase1 (b)Gel phase2 (c)Gel phase3 Fig.3.12 Distribution of tensile stress σ22 (30◦ bunching structure model).
3.3.4 45
◦数珠繋ぎ構造モデルの解析結果
(a) Nominal stress-stretch relations (b) Hysteresis loss
Hysteresis loss [J/m3 ]
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
Nominal Stress Σn22[MPa]
Stretch λ2 Experiment with Gel phase 1 with Gel phase 2 with Gel phase 3
1 1.2 1.4
0 1 2 3
Fig.3.13 Comparison of (a) Nominal stress-stretch relations and (b) Hysteresis loss of silica-filled rubber by simulation and experiment (45◦bunching structure model).
図3.13に45◦モデルの解析結果を示す.45◦モデルの構造では,30◦モデルの場合よ りもさらに全体のストレッチλ2の増加に応じてシリカ粒子は左右に位置をずらすこと が可能なため,系全体の応力上昇はさらに緩やかとなった.そのため実験結果とかな り近い応答を示している.ただしヒステリシスロスは実験結果と比べてどの場合も小 さくほぼ同じ値を示しており,30◦モデルの場合と同程度である.
最大引張時(λ2 = 1.50)における分子鎖ストレッチλcの分布を図3.14に,引張方 向応力σ22の分布を図3.15に示す.これまでに説明した0◦モデル,30◦モデルの解析結 果と同様,45◦モデルの場合でもシリカ粒子同士を繋ぎ止めているユニットセルの中心 軸付近のゲル相に変形が集中し顕著な応力上昇を生じている.また30◦モデルの場合 と同様,粒子の片側側面部分のゴムマトリクス部が上下の粒子により引張変形を受け ることで変形集中部のゲル相と同程度の分子鎖ストレッチλcを生じている.この部分 の応力σ22は30◦モデルに比べて高くなっているが,やはり粒子を連結している部分の ゲル相の配向硬化が顕著であり系の応力上昇を担っているのは主としてゲル相である.
1.54 1.27 1.00 1.81 2.09 2.36
(a)Gel phase1 λc
(b)Gel phase2 (c)Gel phase3
Fig.3.14 Distribution of morecular chain stretchλc (45◦ bunching structure model).
6.75 3.37 -0.01 10.13 13.51 16.89 σ22[MPa]
(a)Gel phase1 (b)Gel phase2 (c)Gel phase3 Fig.3.15 Distribution of tensile stress σ22 (45◦ bunching structure model).