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細胞内腫瘍抗原に対する新規抗体療法の開発 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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学 位 論 文 題 名

博 士 ( 医 学 )    野 口 卓 郎

細胞内腫瘍抗原に対する新規抗体療法の開発

学位論文内容の要旨

【背景と目的】細胞表面に発現する腫瘍抗原に対する抗体療法は、現在臨床現場で応用されてお り、その効果も広く認められている。その作用機序には、がん細胞への直接的な細胞増殖シグナ ル抑制作用が挙げられるが、抗原抗体免疫複合体のFc 領域を介した造血細胞による抗体依存性細 胞傷害や補体による補体依存性細胞傷害も知られている。また、腫瘍抗原が免疫複合体としてFc 受容体経由で抗原提示細胞に取り込まれることで、抗原提示細胞が活性化を受け、CD8 陽性T 細 胞への抗原提示(クロスプレゼンテーション)が促進され結果的に抗腫瘍効果が誘導されること も明らかとなってきている。このように、生体内で受動的に形成された腫瘍抗原と抗原特異的抗 体とによる免疫複合体は、がん治療における幅広い応用性を期待させるが、多くの腫瘍抗原は細 胞表面に発現を認めず、細胞内に局在しており、従来これらは、抗体療法の対象としては不適切 と考えられてきた。NY‑ESO‑1 はがん精巣抗原で、精巣を除いた正常組織で発現を認めないもの の、様々な組織由来の腫瘍組織の20‑30 %程度で発現を認めるため、臨床応用が期待される腫瘍抗 原のーっである。NY‑ESO‑1 はがん患者において高い免疫原性をもち、腫瘍抗原特異的免疫療法 の理想的な標的抗原として考えられているが、細胞膜ーの結合配列を含まず、局在は細胞内であ るため、従来、抗体療法の対象とは考えられていなかった。一方で、がん患者における血清中抗 NY‑ESO‑1 抗 体 濃 度 と NY‑ESO‑1 特 異 的CD8 陽性 T 細 胞の 頻度 の相 関や 、 in vitro 実験 系で NY‑ESO‑1 と抗体との免疫複合体が効率的にクロスプレゼンテーションされることが示されてい る。こうした背景は、何らかの手段で細胞を破壊することにより、細胞内抗原の放出を促進する ことで、生体内で十分な免疫複合体を形成することができれば、抗腫瘍免疫が誘導される可能性 を示唆するものである。

そこで、本研究において、細胞内発現腫瘍抗原のモデル抗原として、NY‑ESO‑1 を用い、細胞内 腫瘍抗原対する抗体療法を確立するとともに、免疫複合体からの免疫系を介した腫瘍縮小効果に ついての検討を行った。

【材料と方法】マウスはBALB/c 、BALB/cnuInu 、C.B‑17 SCID 、Fc 受容体ッ鎖欠損BALB/c を用 いた。細胞株はトランスフェクション法によ り樹立されたNY‑ESO‑1 発現マウス大腸癌細胞株 CT26 (CT26‑NY‑ESO‑1) 、 肉 腫 細 胞 株 CMS5a (CMS5a‑NY‑ESO‑l) 、 MAGE‑A4 発 現 CT26 (CT26‑MAGE‑A4) を 用 い た 。 NY‑ESO‑1 お よ び MAGE‑A4 に 対 す る 抗体 を 各ハ イブ リド ーマ より精製した。細胞株のNY‑ESO‑1 の発現をウェスタンブロットおよびフローサイトメトリーに よる 細胞 内染 色法により確認した。上 記細胞株を動物内に皮下接種し、NY‑ESO‑1 もしくは MAGE‑A4 に対する抗体療法の腫瘍縮小効果を、細胞破壊を目的とした抗癌剤と併用し観察した。

併用する抗癌剤として、5‑FU とドキソルビシンを用いた。経時的に、所属リンパ節と腫瘍浸潤リ ンパ球を回収し、腫瘍特異的CD8 陽性T 細胞の サイトカイン産生応答およぴメモリーフェノタ

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イ プ を 、 ま た 、 樹 状 細 胞 の 活 性 化 マ ー カ ー の 発 現 状 況 を 、 そ れ ぞ れ フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー に て 検 討 し た 。 抗 体Fc領 域 の 関 連 性 を 、Fab化 抗NY‑ESO‑1抗 体 とFc受 容 体 ッ 鎖 欠 損BALB/cを 用 い て 検 討 し た 。CT26‑NY‑ESO‑1に 対 す る5‑FU治 療 後 に 投 与 し た ヒ 卜 抗NY‑ESO‑1抗 体 の マ ウ ス 生 体 内 で の 腫 瘍 局 所 へ の 集 積 を 病 理 学 的 に 評 価 し た 。

【 結 果 】CT26‑NY‑ESO‑1、CMS5a‑NY‑ESO‑lのNY‑ESO‑1の 発 現 を 細 胞 表 面 に 認 め ず 、 細 胞 内 に 認 め た 。In vitroで5‑FU処 理 さ れ たCT26‑NY‑ESO‑1よ り 、NY‑ESO‑1が 培 養 上 清 中 よ り 放 出 さ れ る こ と をELISAに て 確 認 し た 。 ま た 、invivoでCT26‑NY‑ESO‑1へ の 抗NY‑ESOー1抗 体 の 腫 瘍 局 所 へ の 集 積 は5‑FUと の 併 用 に よ り 著 明 に 増 加 し て い た 。CT26‑NY‑ESO‑1担 癌 BALB/cマ ウ ス に 対 し 、5‑FUと 抗NY‑ESO‑1抗 体 の 併 用 療 法 を 行 っ た と こ ろ 、5‑FU単 独 投 与 群 に 比 し 、 有 意 な 腫 瘍 縮 小 効 果 の 増 強 を 認 め 、 抗 体 単 独 投 与 群 で は 無 治 療 群 と 効 果 に 差 を 認 め な か っ た 。 併 用 療 法 の 増 強 効 果 は 、 抗 原 と 抗 体 の 特 異 性 に 依 存 し て い た 。CMS5a‑NY‑ESO‑l担 癌 BALB/cマ ウ ス に 対 し て も 、 ド キ ソ ル ビ シ ン と 抗NY‑ESO‑1抗 体 の 併 用 に よ り 、 抗 腫 瘍 効 果 の 増 強 を 認 め た 。BALB/cnu′nuとCD8陽 性 細 胞 除 去 抗 体 を 用 い た 実 験 よ り 、 併 用 療 法 の 増 強 効 果 がCD8 陽 性T細 胞 依 存 性 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 併 用 療 法 群 に お い て は 、5‑FU単 独 治 療 群 に 比 し 、NY‑ESO‑1特 異 的CD8陽 性T細 胞 に お け るIFNッ お よ びTNFa産 生 の 上 昇 と エ フ ェ ク タ ー

/ メ モ リ ー フ ェ ノ タ イ プ の 増 加 を 認 め た 。 そ し て 、NY‑ESO‑1特 異 的CD8陽 性T細 胞 の 誘 導 に 相 関 し て 、 樹 状 細 胞 活 性 化 マ ー カ ー の 上 昇 を 認 め た 。 併 用 療 法 の 腫 瘍 縮 小 増 強 効 果 は 、Fab化 抗 NY‑ESO‑1抗 体 ま た は Fc受 容 体 ッ 鎖 欠 損 BALB/cを 用 い た 場 合 に は 消 失 し た 。

【 考 察 】CT26‑NY‑ESO‑1に 対 す る5‑FUと 抗NY‑ESO‑1抗 体 の 併 用 療 法 に よ り 、 腫 瘍 縮 小 効 果 の 増 強 を 認 め た 機 序 は 、 生 体 内 で 形 成 さ れ た 免 疫 複 合 体 のFc領 域 とFc受 容 体 を 介 し て 樹 状 細 胞 に 取 り 込 ま れ 、 効 率 的 な ク ロ ス プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を 経 て 、 腫 瘍 特 異 的CD8陽 性T細 胞 が 誘 導 さ れ て い る も の と 推 測 さ れ た 。 ト ラ ン ス レ ー シ ョ ナ ル リ サ ー チ の 位 置 づ け か ら 、 本 研 究 で は 、 現 在 臨 床 現 場 で 抗 体 療 法 と 併 用 し て 広 く 用 い ら れ て い る 抗 癌 剤 を 、 細 胞 内 抗 原 の 放 出 を 目 的 と す る 治 療 法 と し て 採 用 し た が 、 今 後 、 放 射 線 療 法 、 局 所 凍 結 療 法 と い っ た 腫 瘍 細 胞 死 を 直 接 的 に 誘 導 す る 他 の 治 療 法 と 細 胞 内 腫 瘍 抗 原 特 異 的 抗 体 と の 併 用 療 法 の 効 果 の 検 討 も 期 待 さ れ る 。 今 回 、 他 の サ ブ ク ラ ス に 比 べ 抑 制 型Fcv受 容 体 へ の 結 合 親 和 性 の 高 い マ ウ スIgGlで 抗 腫 瘍 効 果 免 疫 応 答 観 察 さ れ た の は 、 興 味 深 い 結 果 と な っ た 。5‑FU投 与 の 有 無 で 樹 状 細 胞 に お け る 活 性 型 / 抑 制 型 Fcッ 受 容 体 比 は 変 化 し な か っ た が 、 他 の 造 血 細 胞 に お け る 同 比 やFcv受 容 体 以 下 の シ グ ナ ル が 変 化 し た 可 能 性 を 検 討 す る こ と と 、 各Fcy受 容 体 欠 損 マ ウ ス を 用 い た 動 物 実 験 や 既 存 のIgGlか ら 他 の サ ブ ク ラ ス ヘ ク ラ ス ス イ ッ チ し た 抗 体 を 用 い た 比 較 検 討 実 験 を 行 う こ と に よ り 、 細 胞 内 抗 原 に 対 す る 抗 体 療 法 の 最 適 化 が 図 ら れ る こ と が 期 待 さ れ た 。 本 モ デ ル で は 、NY‑ESO‑1に 対 し 、 ヒ ト 同 様 に 内 因 性 液 性 免 疫 の 誘 導 を 認 め た が 、 そ の 濃 度 は 外 因 性 に 投 与 し た 場 合 に 比 べ る と 、 は る か に 低 い 濃 度 で あ り こ 治 療 効 果 を 得 る た め に は 、 早 期 に 高 い 抗 体NY‑ESO‑1血 中 濃 度 を 維 持 す る こ と が 肝 要 と 推 測 さ れ た 。

【 結 論 】 今 回 の 研 究 で 、 細 胞 内 腫 瘍 抗 原 に 対 す る 抗 体 療 法 が 、 抗 癌 剤 と の 併 用 に よ り 腫 瘍 縮 小 効 果 の 増 強 と 予 後 の 改 善 に 寄 与 す る こ と が 示 さ れ た 。 そ の 作 用 機 序 は 、 生 体 内 で 形 成 さ れ た 免 疫 複 合 体 を 介 し た 抗 原 特 異 的CD8陽 性T細 胞 の 誘 導 で あ っ た 。 今 後 、 本 研 究 の 概 念 に 基 づ ぃ た 、 臨 床 応 用 が 進 む こ と を 期 待 す る 。

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醯 ー ,

学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査

教授 教授 教授 教授

志 田 壽 利 趙    松 吉 西 村 孝 司 平 野    聡

学 位 論 文 題 名

細胞内腫瘍抗原に対する新規抗体療法の開発

  本研究は、がん免疫療法における細胞内腫瘍抗原に対する抗体療法の新規概念を提唱し た ものであ る。学位審査は4名の審査員により非公開で行われ、申請者の発表後、質疑応 答が行われた。

  西村教 授より 、CD4除去環境下でも抗腫瘍効果が維持された背景と、免疫複合体が補完 すると予想される樹状細胞からの産生されるサイトカインについて質問があった。申請者 は、活 性化マー カーの上昇に相関してIL‑12産生が、またCD4陽性T細胞の補完という観点 では、I型IFN産生などが、より促進している可能性を挙げた。続いて、用いている抗体が、

MHC class1上のNY‑ESO‑1 epitopeと、TCRとのinteractionを阻害する可能性について質 問があった。申請者は、用いた抗体はNY ES0‑171‑90を認識し、またNY‑ES()‑1 MHC class I epitopeはNY ES0‑181‑88であり、in vitroの機序としては、質問の可能性を否定できない が、MHC classIと複合体を形成したNY‑ESO‑1 classl epitopeを抗体が認識しうる可能性 と 、 実 際 に 得 ら れ て い る 腫 瘍 増 殖 観 察 結 果 か ら 、 否 定 的 で あ る 旨 回 答 し た 。

  副査趙教 授より 実験群のn数の設定について質問があった。申請者は、一つの動物実験 の全体数が40‑50匹程度、腫瘍径観察群をn二ニ5、腫瘍増殖経過観察中の免疫解析としてn=3‑4、 対照群設定を5一6群とし、初期設定した後、実際に担癌後、治療開始時に腫瘍が確立されて いなぃマウスを除外し、実験を試行した旨回答した。そのため、各実験でn数に若干の差が あることを説明した。次に、今後、PETなどを含めたimaging^の応用について質問を受け た。申請者は、腫瘍径の差が出る前に、腫瘍細胞における代謝レベルですでに各治療間で 差が出ている可能性は考慮すべきであり、本研究においても内部で議論が行われたことを 回答した。結果的に、扱う腫瘍のサイズが非常に小さぃことによって信号強度の解析が困 難 に な る こ と を 懸 念 し て 、 本 研 究 で は 検 討 が 保 留 と さ れ た 経 緯 を 説 明 し た 。

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  副 査 平 野 教 授 よ り5‑FU投 与 法(bolusか 持 続 か ) と 治 療 効 果 の 関 連 性 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は 、 本 研 究 に お い て は 、 免 疫 複 合 体 を 経 た 抗 腫 瘍 免 疫 増 強 作 用 の 観 点 か ら 、 持 続 投 与 に よ る 骨 髄 抑 制 の 遷 延 を 懸 念 し 、 持 続 投 与 の 検 討 を 行 わ な か っ た こ と と 、 抗 癌 剤 使 用 目 的 の 位 置 づ け を 細 胞 内 抗 原 の 放 出 と し て い た こ と に よ り 、 一 定 間 隔 に よ る 単 回bolus 投 与 を 基 軸 と し て 、 本 研 究 の プ ロ ト コ ー ル に 至 っ た 旨 回 答 し た 。 次 に 、CT26‑NY‑ESO‑1モ デ ル に お け る 、2サ イ ク ル で 終 了 し て い る 治 療 を さ ら に 増 や す こ と で 、 期 待 さ れ る 抗 腫 瘍 効 果 の 増 強 つ い て の 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は2サ イ ク ル 終 了 後 に は 、 併 用 治 療 群 に お い て は 抗 腫 瘍 免 疫 の 優 位 性 はNY‑ESO‑1特 異 的 免 疫 か ら 別 の 腫 瘍 抗 原 で あ るAH‑1に 移 行 し て お り (antigen‑spreading)、 さ ら にNY ESO‑1を 標 的 と し た 治 療 法 を 行 う 意 義 は 乏 し く 、AH‑1 な ど の 別 の 抗 原 を 標 的 と し た 抗 腫 瘍 免 疫 を 増 強 す る こ と が 肝 要 で あ る 旨 回 答 し た 。

  最 後 に 、 志 田 よ りNY‑ESO‑1発 現 腫 瘍 担 癌 患 者 に お い て 、NY‑ESO‑1に 対 す る 自 然 発 生 的 な 免 疫 応 答 、 特 にCD8陽 性T細 胞 応 答 の 程 度 に つ い て 質 問 を し た 。 申 請 者 は 、 患 者 サ ン プ ル を 用 い た 解 析 に お い て 、 内 因 性 の 抗NY‑ESO‑1液 性 免 疫 応 答 と ま た 、 内 因 性 抗 NY‑ESQ‑1CD8陽 性T細 胞 応 答 が 相 関 し て い る こ と を 回 答 し た 。 次 に 、 今 後 の 臨 床 応 用 の 展 望 つ い て の 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は 、 共 同 研 究 者 が 既 にGMPグ レ 冖 ド ヒ ト 抗NY‑ESO‑1抗 体 の 開 発 に 着 手 し て お り 、 本 概 念 に 基 づ ぃ た 臨 床 試 験 を 早 期 に 始 め る 予 定 で あ る こ と を 回 答 し た 。

  今 回 の 研 究 に よ り 、 細 胞 内 腫 瘍 抗 原 に 対 す る 抗 体 療 法 は 、 抗 原 の 放 出 を 目 的 と し た 抗 癌 剤 と 併 用 す る こ と に よ り 抗 腫 瘍 効 果 を 増 強 す る こ と が 示 さ れ た 。 多 く の 細 胞 内 局 在 腫 瘍 抗 原 に 対 す る 特 異 的CD8陽 性T細 胞 を 誘 導 す る 受 動 的 免 疫 療 法 と し て 、 本 研 究 の 概 念 が 臨 床 的 に 応 用 さ れ る こ と が 期 待 さ れ た 。

  審 査 員 一 同 は こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 大 学 院 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 、 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る と 判 定 し た 。

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