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一般論文 医療薬学 45(10) (2019) 抗菌薬 TDM ガイドライン改訂版の発刊によるバンコマイシンの使用動向の変化とその効果に関する検討 * 中村安孝, 原林六華, 櫻井紀宏, 矢野翼, 山田康一, 永山勝也, 掛屋弘 1 2 大阪市立大学医学部附属病

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(1)

45(10) 576―583 (2019)

〒545-8586 大阪市阿倍野区旭町1-5-7 

抗菌薬TDMガイドライン改訂版の発刊によるバンコマイシンの 使用動向の変化とその効果に関する検討

中村安孝*1,原林六華1,櫻井紀宏1,矢野 翼1,山田康一2,永山勝也1,掛屋 弘2 大阪市立大学医学部附属病院薬剤部1,大阪市立大学大学院医学研究科臨床感染制御学2

Efficacy and Safety of Vancomycin in Treatment based on the TDM Guideline for Antibiotics 2016

Yasutaka Nakamura*1, Rika Harabayashi1, Norihiro Sakurai1, Tsubasa Yano1, Koichi Yamada2, Katsuya Nagayama1 and Hiroshi Kakeya2

Department of Pharmacy, Osaka City University Hospital 1,

Infection Control Science, Graduate School of Medicine, Osaka City University 2 Received April 19, 2019

Accepted August 10, 2019

 The Therapeutic Drug Monitoring (TDM) Guidelines for Antibiotics (the “Revised guidelines”) were revised in June 2016. The Revised guidelines are followed to determine dosage and provide treatment at Osaka City University Hospital.

The current study investigated VCM administration before and after the guidelines were revised as well as their effec- tiveness and safety. The period from January to December 2015 before the guidelines were revised (“before Revision”) and the period from January to December 2017 after the guidelines were revised (“after Revision”) were compared. One hundred and six patients received VCM therapy before Revision, and 184 received VCM therapy after Revision. Initially, 17.4% of patients had the recommended serum VCM level of 10–15 µg/mL, but that increased to 41.7% as a result of a pharmacistʼs involvement; 72.8% of patients had serum VCM below 10 µg/mL after Revision. Acute kidney injury (AKI) was evaluated based on the Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) criteria. The incidence of AKI was 12.3% before Revision and 5.4% after Revision, so it was significantly lower before Revision. The 30-day survival rate was 94.6% before Revision and 95.3% after Revision, so the rate did not differ significantly.

When VCM therapy was administered in accordance with the Revised guidelines, the initial serum trough level of VCM was lower than 10 µg/mL in most patients, and VCM slightly affected the kidneys. Most patients had a serum VCM of 10–15 µg/mL as a result of a pharmacistʼs intervention, suggesting that the serum VCM level did not affect prognosis.

 Key words ―― vancomycin, TDM Guideline for Antibiotics 2016, guideline for antibiotic therapeutic drug monitoring, acute kidney injury

緒  言

バンコマイシン塩酸塩(vancomycin hydrochloride:

VCM) は, メ チ シ リ ン 耐 性 黄 色 ブ ド ウ 球 菌

(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA) やコアグラーゼ非産生ブドウ球菌および腸球菌な どの耐性化したグラム陽性菌感染症の治療薬とし て広く使用され,様々な感染症で第一選択薬とし て推奨されている.1-3)VCMは有効血中濃度域が

狭く,腎臓より未変化体で排泄されることから,

pharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)の 特性に基づいた投与設計を行い,治療薬物血中濃 度モニタリング(therapeutic drug monitoring: TDM) を行う必要がある.4, 5)これに対して,日本化学療 法学会と日本TDM学会により2012年に「抗菌 薬TDMガイドライン6)」が発刊されTDMに関 して明確な指針が示された.初回のVCMトラフ

値は10~15 µg/mLを目標とし,重篤な感染症の

(2)

場合などにおいては患者状態を十分把握し腎毒性 を考慮したうえで,15~20 µg/mLに設定すると された.その後,より実用化を目的として,2016年 に「抗菌薬TDMガイドライン改訂版7)(改訂版)」

発刊された.改訂版では初回のVCMトラフ値は

10~15 µg/mLを目標とし,初回のVCMトラフ値

15~20 µg/mLを達成するための投与設計は安全

性が検証されていないため推奨されていない.ま た,これまで腎機能の評価指標として血清クレア チニンからCockcroft-Gault式などから算出したク レアチニンクリアランスを用いてVCMの初期投 与量を行っていたが,改訂版では初期投与量を推 算糸球体濾過量(estimated glemerular filtration rate:

eGFR;mL/min/1.73m2)で層別化した体重換算に よる初期投与設計が提示されている.さらに,こ の初期投与設計については,今後の臨床的検証が 必要であると記載されている.大阪市立大学医学 部附属病院(大阪市大病院)では,改訂版の発刊 を機に院内のマニュアルの改訂や講習会での周 知,感染制御部および病棟担当薬剤師は改訂版に 準じて投与量を提案することで,改訂版に則した 治療がされている.そこで今回,改訂版の発刊前 後におけるVCM投与の状況を把握するとともに,

有効性と安全性について検討したので報告する.

方  法

1.調査対象

当 院 に お い て2015年1月 ~2015年12月,

2017年1月~2017年12月の期間において,VCM

(バンコマイシン塩酸塩点滴静注用0.5 g「MEEK」)

を3日間以上投与した症例を対象とした.ただし,

18歳未満,透析,eGFRが30未満,発熱性好中 球減少症の症例は除外した.改訂版は2016年6 月に発刊されており,これを機に大阪市大病院で は改訂版に準じて投与量の提案を開始している.

そこで,2015年1月~2015年12月に投与された 症例を改訂版発刊前(GL改訂前)とし,2017年 1月~2017年12月に投与された症例を改訂版発 刊後(GL改訂後)とした.

2.調査項目と評価

対象症例の患者背景として,年齢,性別,体重,

感染症名,TDMへの薬剤師の介入率について調査 した.また,検査値は,アラニンアミノ基転移酵素

(alanine aminotransferase: ALT;IU/L),アスパラ ギン酸アミノ基転移酵素(aspartate aminotransferase:

AST;IU/L),C反 応 性 蛋 白(C-reactive protein:

CRP;mg/dL),eGFR,アルブミン(albumin: Alb),

血清クレアチニン(serum creatinine: SCr;mg/dL),

ヘモグロビン濃度(hemoglobin: Hb;g/dL),血 小板数(platelet: PLT;×104/µL),総ビリルビン

(total bilirubin: T-Bil), 白 血 球(white blood cell:

WBC;×102/µL),バイタルサインとして,体温

(℃)について調査した.クレアチニンクリアラン ス(creatinine clearance: Ccr;mL/min)は,Cockcroft-

Gaultの式より算出した.

3.VCM の使用動向と血中濃度

VCMの使用動向の変化として,体重あたりの 初期投与量(mg/kg/回)および体重あたりの2日 目の投与量(mg/kg/日)をそれぞれで算出し,両 群間を比較するとともに,抗菌薬TDMガイドラ イン改訂版にある推奨投与量と比較した.また,

VCMの総投与量,投与期間,初回血中濃度と2 回目の血中濃度について調査し,両群間を比較し た.初回濃度については,VCMの濃度別に10 µg/mL未満,10~15 µg/mL,15~20 µg/mL,20 µg/mL 以上に分類して集計し比較した.

4.各検査値と VCM 投与終了後の評価

各検査値についてVCM投与前後における推移 を比較した.VCM投与前は,投与開始日とし,

VCM投与後は終了日の値を収集した.1日に複 数回の測定がある場合は最高値を用いて検討し た.また,VCM投与終了理由およびVCM終了 30日 後 の 生 存 に つ い て も 確 認 し た. た だ し,

WBCが検出限界以下(< 1×102/µL)の場合は1× 102/µLとして算出した.

5.急性腎障害と redneck 症候群の発生率と 30 日生存率

急性腎障害 (acute kidney injury: AKI)の発生率

(3)

について調査した.AKIの判定方法は,AKI(急 性腎障害)診療ガイドライン2016 8)からKidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO) 診 断基準9)に基づきカルテ内から調査可能である,

① SCrが0.3 mg/dL以 上 の 上 昇(48時 間 以 内 ) または,②SCrが1.5倍以上の上昇(基礎値が判 明している場合あるいは,7日以内に上昇と推定 される場合)した場合とした.また,red neck症 候群および30日生存率についても調査を行った.

6.統計学的処理

統計処理としては,Student's t-test,カイ2乗検

定,Welch's test,ウィルコクソンの符号順位検定,

Mann-Whitney U-testを用いてそれぞれ適正な方法 で実施した.VCMの初回および2回目の血中濃 度の到達の有無の比較にはカイ2乗検定を用い た.統計処理には,4Stepエクセル統計 第4版((有)

オーエムエス出版,東京)を使用し有意水準は 5%

未満とした.

7.TDM に関する大阪市大病院の運用方法 大阪市大病院のTDMに関する運用は,改訂前

後において同一の方法であり,感染制御部を兼任 している薬剤師が病棟担当薬剤師に対してTDM に関する指導を行ったうえで,各病棟でのTDM 実施患者に対して解析から提案までを行った.た だし,経験の浅い薬剤師や難渋する症例に対して は,常に感染制御部を兼任している薬剤師が相談 応需し,適正な治療が推進できる体制を整えた.

8.倫理的配慮

本研究は,人を対象とする医学系研究に関する 倫理指針に基づき個人情報保護に最大限留意し,

大阪市大病院における臨床試験倫理委員会(許可 番号:4309)の承認を得て行った.

結  果

1.患者背景

対象症例となった患者背景について表 1に示 した.患者数は,GL改訂前が100人(男68人,

女32人),GL改訂後が162人(男95人,女67人)

であり,症例数はGL改訂前106症例,GL改訂 後が184症例であった.ただし,同一患者から複

  GL改訂前 GL改訂後 P

患者数(人) 100 162

症例数(件) 106 184

年齢(歳) 63.3 ± 15.2 62.4 ± 17.0 0.654 a)

性別(男 / 女) 68 / 32 95 / 67 0.162 b

体重(kg) 58.0 ± 15.5 57.8 ± 12.0 0.939 c)

SCr(mg/dL 0.76 ± 0.29 0.72 ± 0.29 0.362 a)

eGFR(mL/分/1.73m2 88.0 ± 45.0 89.5 ± 42.4 0.784 a)

Ccr(mL/min ) 86.7 ± 37.4 92.5 ± 44.6 0.244 c)

TDMへの薬剤師の介入率(%)   98.1 100 0.132 b)

感染症名** GL改訂前(件)

(n = 117)

GL改訂後(件)

(n = 198) P

皮膚・軟部組織感染 31 47

0.116 b)

菌血症(カテーテル感染含む) 25 37

呼吸器感染 19 18

中枢神経系感染  8 19

腹腔内感染  7 10

骨・関節感染  4 10

尿路感染  6  3

肝・胆道感染  2  6

心内膜炎  1  1

不明 14 47

*表記は平均±標準偏差,**感染症名は複数疾患あり.a) Student's t-test,b)カイ2乗検定,c Welch's test.

SCr: serum creatinine, eGFR: estimated glemerular filtration rate, Ccr: creatinine clearance, TDM: therapeutic drug monitoring.

表 1 患者背景

(4)

数回対象となった症例は,前回投与終了時から少 なくとも1カ月以上の間隔があることから,それ ぞれ別の症例として検討した.年齢はGL改訂前,

GL改訂後それぞれで63.3 ± 15.2(平均 ± 標準 偏差)歳,62.4 ± 17.0歳であり,体重は58.0 ± 15.5 kg,57.8 ± 12.0 kgで あ っ た. 検 査 値 は,

SCr,eGFR,Ccrに両群に差は認められず,TDM

への薬剤師の介入率についてもGL改訂前が

98.1%,改訂後が100%であり,両群に差はなかっ

た.感染症名はGL改訂前,GL改訂後それぞれ において,皮膚・軟部組織感染症が31症例,47 症例,菌血症(カテーテル感染含む)が25症例,

37症例であり,その他の感染症を含めて9つの 感染症に分類されたが,両群間に統計学的な有意 差は認められなかった.

2.GL 改訂前後における VCM の投与量の比較 VCMの投与量の比較については表 2に示した.

改訂版におけるeGFRの90~120 mL/min/1.73m2 の推奨される負荷投与量は25 mg/kgであり,GL 改訂前の16.8(11.7 – 25.4)〔中央値(範囲)〕mg/kg からGL改訂後の21.3(9.7 – 42.7)mg/kgへ有意 に増量が確認されており(P = 0.005),改訂版の 推奨投与量に近似した.また,1日投与量につい て は,eGFRの 層 別 が90~120 mL/min/1.73m2以 下の全てにおいて統計学的に有意差が確認され た.eGFRが80~90 mL/min/1.73m2では推奨投与 量25 mg/kg/日に対してGL改訂前は29.1(11.0 –

40.7)mg/kg/日と多く,GL改訂後は23.7(12.0 – 31.1)mg/kg/日と推奨投与量より少なかった.ま た,eGFRが60~80 mL/min/1.73m2以下の層にお いては,改訂版の推奨投与量よりもGL改訂前が 全て高い値を示していた.GL改訂後はGL改訂 前と比べると投与量が少なくなっているものの改 訂版の推奨投与量に近い値を示した.

3.VCM の総投与量と投与期間および初回測定 時の血中濃度

VCMのGL改訂前とGL改訂後の使用動向の 変化について表 3に示した.GL改訂前の総投与 量は,15,000(3,750 – 71,500)〔中央値(範囲)〕

mg,GL改訂後が14,500(2,500 – 107,500)mgで あり,投与期間はそれぞれ10(4.0 – 44)日,11(4.0

– 52)日であった.初回測定時の血中濃度はGL

改訂前が10.9(3.0 – 32.5)µg/mLであり,GL改 訂後が7.6(2.5 – 38.6)µg/mLであった.また,

VCMの血中濃度別の比較において(図 1),GL 改訂前後の初回血中濃度が20 µg/mL以上であっ た割合はそれぞれ10.4%と3.3%(P = 0.012)で あり,2回目の血中濃度は24.7%,5.5%(P < 0.001)

改訂後のほうが有意に低かった.10 µg/mL未満 がGL改 訂 前 で38.7% に 対 し てGL改 訂 後 が 72.8%(P < 0.001)とGL改訂後で10 µg/mL未 満となる症例が多かった.また,改訂版で目標と されている10~15 µg/mLは,初回血中濃度にお いては,改訂前後でそれぞれ35.8%,17.4%(P

eGFR

(mL/分/1.73m2

ガイドライン a) GL改訂前 GL改訂後

P c)

負荷投与

(mg/kg) n 初回投与量

(mg/kg/回) n 初回投与量

(mg/kg/回)

120 30 15 16.7(12.4 – 33.3) 29 24.0(10.8 – 31.6) 0.097

90~120 25 31 16.8(11.7 – 25.4) 43 21.3(9.7 – 42.7) 0.005

80~90 15 11 14.9(5.6 – 21.9) 22 15.6(6.0 – 33.3) 0.285

eGFR

(mL/分/1.73m2

1VCM投与量

mg/kg/日) n 1日投与量 b

(mg/kg/日) n 1日投与量 b

(mg/kg/日) P c)

120 40 15 32.5(15.8 – 60.2) 29 34.4(21.7 – 56.6) 0.322

90~120 30 31 32.5(18.9 – 48.8) 43 28.7(10.6 – 43.2) 0.018

80~90 25 11 29.1(11.0 – 40.7) 22 23.7(12.0 – 31.1) 0.032

60~80 20 21 26.5(17.9 – 41.6) 53 20.0(13.3 – 50.2) 0.006

50~60 15 13 25.8(14.0 – 44.1) 14 15.6(11.5 – 44.6) 0.010

30~50 12.5 15 17.7(10.9 – 28.5) 23 13.5(8.9 – 24.5) 0.006

中央値(範囲).a) 抗菌薬TDMガイドライン改訂版で推奨されている投与量,b) 1VCM投与量は投与開始2日目の1日量から算 出した,c) Mann-Whitney U-test. VCM: vancomycin hydrochloride, eGFR: estimated glemerular filtration rate.

表 2 VCMの投与量の比較

(5)

< 0.001)で差があったが,2回目の血中濃度はそ れぞれ36.5%,41.7%(P = 0.423)で統計学的な 有意差は認められなかった.

4.VCM 投与前後での検査値の推移

今回調査した検査値について表 4に示した.

CRPはGL改訂前については,投与前が10.1 ± 8.2

(平均 ± 標準偏差)mg/dLから投与後が4.6 ± 5.2 mg/dLへ(P < 0.001),GL改訂後では投与前が 10.1 ± 9.0 mg/dLから投与後が4.2 ± 4.8 mg/dLへ それぞれ統計学的に有意に低下した(P < 0.001).

WBCは,GL改訂前の投与前が108.8 ± 65.9/µL から投与後が77.3 ± 37.5/µL(P < 0.001)へGL

改訂後の投与前が113.1 ± 78.5/µLから投与後が 83.3 ± 51.6/µL(P < 0.001)へ,体温についても GL改訂前の投与前が37.6 ± 1.0から投与後が 37.2 ± 0.7(P < 0.001)へGL改訂後の投与前が 37.5 ± 0.9か ら 投 与 後 が37.1 ± 0.9(P < 0.001)

へ有意に低下が認められた.また,SCrは,改訂 前後ともに投与前後での変動は認められなかった が,eGFRに つ い て は,GL改 訂 前 の 投 与 前 が 88.0 ± 45.0 mL/min/1.73m2か ら 投 与 後 が80.2 ± 39.2 mL/min/1.73m2へ低下が認められた(P = 0.008)

が,GL改訂後については統計学的に有意な差は 認められなかった.GL改訂後においてALT,AST が,T-bilはGL改訂前後において統計学的な有意 eGFR

(mL/分/1.73m2 n GL改訂前 n GL改訂後 P a)

VCM初回

血中濃度

(µg/mL

120 15 9.6(6.6 – 29.1) 29 7.4(2.6 – 17.4) 0.036

90~120 31 10.5(5.5 – 19.0) 43 8.4(3.5 – 38.6) 0.003

80~90 11 10.3(3.0 – 18.0) 22 8.0(4.5 – 17.5) 0.215

60~80 21 10.8(5.3 – 30.1) 53 6.5(2.5 – 24.2) < 0.001

50~60 13 11.1(4.9 – 25.9) 14 8.1(2.8 – 23.4) 0.089

30~50 15 12.0(6.9 – 32.5) 23 8.0(3.8 – 23.3) 0.008

全体 106 10.9(3.0 – 32.5) 184 7.6(2.5 – 38.6) < 0.001

採血までの日数(日) 106 4.0(2.0 – 6.0) 184 3.0(2.0 – 7.0) 0.046 2回目の血中濃度(µg/mL) 85 14.1(4.6 – 38.9) 163 11.0(3.1 – 49.1) < 0.001 採血までの日数(日) 85 7.0(3.0 – 15.0) 163 6.0(3.0 – 11.0) 0.225 投与期間(日) 106 10(4.0 – 44) 184 11(4.0 – 52) 0.212 VCM総投与量(mg 106 15,000(3,750 – 71,500) 184 14,500(2,500 – 107,500) 0.383 中央値(範囲).a Mann-Whitney U-test. VCM: vancomycin hydrochloride, eGFR: estimated glemerular filtration rate.

表 3 VCMの血中濃度と投与期間および総投与量

図 1 VCMの血中濃度別の比較

VCM < 10 µg/mL, 10 µg/mL ≦ VCM < 15 µg/mL, 15 µg/mL ≦ VCM < 20 µg/mL, 20 µg/mL ≧ VCM. VCM: vancomycin hydrochloride.

(6)

差が認められているが,いずれも値は改善傾向を 示していた.

5.急性腎障害と redneck 症候群の発生率

KDIGO診断基準に基づいて判定した結果(

5),GL改訂前は12.3%に対してGL改訂後は5.4%

と統計学的に有意にGL改訂後のほうがAKIの 発生率が低かった(P = 0.038).また,red neck 症候群はGL改訂後において1件確認されたが,

GL改訂前は1例も確認されなかった.

6.30 日生存率

GL改訂前は95.3%に対してGL改訂後は94.6%

と両者に有意差は認められなかった(P = 0.790)

表 6).

考  察

改訂版が発刊されVCMの使用動向の変化とそ の効果に関する検討を行った.本来であれば,改 訂版の推奨投与量と同一の症例のみを抽出するべ きであるが,体重あたりの投与量設定となってい るため完全に一致する症例を抽出することは困難 であり,後ろ向き研究の限界であると考える.し かし,VCMの用法用量は,GL改訂後に初回負 荷投与量が推奨される症例において,初回の投与 量がGL改訂前に比べて増加しており,維持量も ガイドラインが推奨する投与量に近似する傾向が 認められた.大阪市大病院では病棟担当薬剤師お よび感染制御部の医師を通して,改訂版に則して 用法用量を提案してきたことや腎機能別に初期投 与量が設定され利便性の高いことから,GL改訂 後では改訂版が示す投与方法に近似したと考えら

GL改訂前 GL改訂後

投与前 投与後 P a) 投与前 投与後 P a)

CRP(mg/dL) 10.1±8.2 4.6±5.2 < 0.001 10.1±9.0 4.2±4.8 < 0.001

WBC(/µL 108.8±65.9 77.3±37.5 < 0.001 113.1±78.5 83.3±51.6 < 0.001 体温(℃) 37.6±1.0 37.2±0.7 < 0.001 37.5±0.9 37.1±0.9 < 0.001

SCr(mg/dL 0.76±0.29 0.87±0.44 0.080 0.72±0.28 0.78±0.32 0.160

eGFR(mL/分/1.73m2 88.0±45.0 80.2±39.2 0.008 89.5±42.4 86.6±57.3 0.093

ALT(IU/L) 41.2±42.4 47.8±70.3 0.805 51.4±141.2 32.5±41.8 0.032

AST(IU/L 38.3±36.4 42.5±44.5 0.690 44.4±102.8 29.6±27.9 0.008

T-bil mg/dL) 1.08±1.89 1.05±3.05 < 0.001 0.86±1.26 0.68±1.17 < 0.001

Alb(mg/dL) 2.7±0.6 2.7±0.6 0.079 2.8±0.7 2.8±0.7 0.646

Hb(g/dL 10.4±1.6 10.3±1.4 0.056 10.6±2.0 10.4±2.0 0.045

PLT(104/µL) 25.6±15.8 27.5±18.8 0.149 27.2±14.2 29.1±13.6 0.070

表記は平均±標準偏差.a)ウィルコクソンの符号順位検定.VCM: vancomycin hydrochloride, CRP: C-reactive protein, WBC: white blood cell, SCr: serum creatinine, eGFR: estimated glemerular filtration rate, ALT: alanine aminotransferase, AST: aspartate aminotransferase, T-Bil: total bilirubin, Alb: albumin, Hb: hemoglobin, PLT: platelet.

表 4 VCM投与前後での検査値の推移

GL改訂前 GL改訂後 P a)

急性腎障害発生率(%) 12.3(13/106)  5.4(10/184) 0.038

red neck 症候群発生率(%) 0(0/106) 0.54(1/184) 0.449

a)カイ2乗検定

表 5 急性腎障害とred neck 症候群の発生率

  GL改訂前 GL改訂後 P a)

30日生存(%) 95.3

101/106)

94.6

174/184) 0.790

a)カイ2乗検定

表 6 30日生存率

(7)

れる.しかし,改訂版では初回血中濃度の目標ト

ラフ値は10~15 µg/mLに設定されているものの,

今回の結果はGL改訂後10 µg/mL未満の症例は

72.8%がであった.増田ら10)は改訂版の初期投与

設計に対する検証を行っており,実際の投与量の ほうが改訂版の推奨する投与量よりも多いことか ら,改訂版に準拠した場合はトラフ値が10 µg/mL 未満となる可能性があることを示唆している.ま た,鈴木ら11)の報告では,トラフ値が10µg/mL 未満であったのは46.5%,粟屋ら12)は58.3%と 報告している.改訂版では負荷投与が推奨されて いるが,VCMは負荷投与量により投与後12時間 の血中濃度は負荷投与をしていない群と比べて

10 µg/mL以上となる割合は高くなるものの,36

時間後の血中濃度ではその割合に差がなくなるこ とが報告されている.13)GL改訂後では負荷投与さ れているが,1日投与量が少ないため,10 µg/mL 未満の症例が多くなったと考えられ,今後,ガイ ドラインの投与量について再検討の必要性が示唆 される.

AKIの発生率はGL改訂後よりもGL改訂前の ほうが有意に低い値であった.粟屋ら12)の報告 では,改訂版に準拠した場合の急性腎障害発生率

は0%であったと報告している.AKIのリスクは,

VCMのトラフ値が20 µg/mL以上では高まるとの 報告がされている.14-18)GL改訂前のVCM血中濃 度20 µg/mL以 上 は, 初 回,2回 目 が そ れ ぞ れ

10.4%,24.7%であったのに対して,GL改訂後

では,3.3%,5.5%と改訂前と比較して少ないこ とが確認されており,AKI発生率の低下の要因で あると考えられる.また,Red neck症候群はGL 改訂後において1例確認された.Red neck症候群 はヒスタミン遊離作用によって惹起され,19)投与速 度を遅くすることで対処が可能とされている.20)今 回の1例は,カルテ調査では点滴速度に問題は認 められなかったものの,VCM投与においては常 に注意が必要である.

GL改訂後のVCMの初回血中濃度は10 µg/mL

未満が72.8%と高い値を示しており,トラフ値が

10 µg/mL未満での治療は,低感受性株の発現リ

スクが上昇することや治療失敗に繋がるとの報告

もある.21, 22)GL改訂後は治療効果が得られにくい

可能性があるが,GL改訂後の病棟担当薬剤師の介 入率は100%であり,GLが推奨する10~15 µg/mL の割合は,初回の血中濃度が17.4%に対して2回 目の血中濃度は41.7%に上昇しており,目標値に 到達する症例が増加した.VCMの血中濃度を適 正に管理することにより,GL改訂後においても 各種検査値が改善され,GL改訂前と比較して生 存率に差が認められなかったと考えられる.ただ し,改訂版では,重症の感染症においては目標ト ラフ値として15~20 µg/mLと設定されているも のの,初回トラフ値から達成することは安全性に 関する検証がされていないため推奨せず,他剤へ の変更も考慮することが記されている.本検討の 研究限界として,単施設において実施された後ろ 向き観察研究であることから重症の感染症のみを 対象とした検討はできず,今後の課題であると考 えられる.

改訂版に則して治療が行われた結果,初回の血 中濃度トラフ値が10 µg/mL未満の症例が多く,

AKIの発生率は低値であり腎臓への影響は小さい と考えられる.また,有効性について明確にする ことは困難であったが,病棟薬剤師の介入もあり 2回目の血中濃度では10~15 µg/mLに到達した 症例が多く,少なくとも予後には影響しないこと が示唆された.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

引用文献

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(8)

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参照

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