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博士(地球環境科学)山田雅仁

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Academic year: 2021

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博士(地球環境科学)山田雅仁

     学位論文題名      ーI

    Micro ― meteorological study on frost damage of He7nerocallis esculen 勿 in Sarobetsu Mire , Hokkaido , Japan

(北海道サロベツ湿原におけるゼンテイカの霜害に関する微気象学的研究)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  サ ロ ベ ツ 湿 原 で は 、1960年 代 に サ ロ ベ ツ 川 流 域 の 農 地 へ の 融 雪 洪 水 を 防 ぐ た め に 放 水 路 が 施 工 さ れ た 。 そ の 結 果 、 高 層 湿 原 部 へ の サ サ の 侵 入 を 指 標 と し た 、 湿 原 の 乾 燥化 が 報 告 さ れた

( 高 桑 ・ 伊 藤1986)。 湿 原 の 乾 燥 化 は 、 表 層 泥 炭 の 熱 伝 導率 の 低 下 を も たら し 、 晴 天 静夜 の 気 象 条 件 によ っ て 、 顕 著な 気 温 の 低 下が 懸 念 さ れ る。 実 際 ア メ リ カ・ フ ロ リ ダ 州で は、泥 炭地 の農地 化 に よ る 排 水 工 事 に よ っ て 、 地 下 水 位 の 低 下 と 泥 炭 表 層 の 乾 燥 化 を も た ら し 、 晴天 静 夜 に 地 表面 温度 の顕著 な低下 が報告 され た(Chen et al.1979)。

  北 海 道 ・ サ ロ ベ ツ 湿 原 で は 、 晴 天 静 夜 に は6月 に も か か わ らず 降 霜 が 発 生す る 場 合 が ある 。 降 霜 が 発 生 す れ ぱ 、 耐 凍 性 の 弱 い 植 物 は 、 霜 害 を 受 け る 可 能 性 が あ る 。 サ ロ ベ ツ 湿 原 で は 、6月 に ゼ ン テ イ カ(llemeroca艢 蝕 胤 細 闘 の 霜 害 が 発 生L虎 報 告 例 が あ る ( 梅 田1978) 。 霜 害 が 発 生 し た 原 因 は 、 地 下 水 位 の 顕 著 な 低 下 の た め で あ る と 説 明 さ れ た が 、 そ れ ら の 因果 関 係 が 明 確に 説明 されて いない 。

  晴 天 静 夜 の 気 温 鉛 直 分 布 は 、 植 生 に 覆 わ れ て い る 場 合 : 植 生 高 付 近 で 最 低 気 温 が 生 じ る 。

(eIgIM0nteithandUnSworth1991)。Geigeぺ1961) は 、 耐 凍性 の 弱 い 器 官 が偶 々 そ の 低 温域 に 存 在 し て い た 場 合 に 霜 害 の 危 険 が 高 く な る 可 能 性 を 指 摘 し た 。 一 方 、 自 然 植 生 の場 合 に は 同 じ植 物 種 で も 、 同 一 局 所 個 体 群 の 中 で さ え、 成 長 段 階 が等 し い と は 限ら な い 。 自 然 植生 を 対 象 に 、耐 凍 性 の 弱 い 器 官 の 高 さ と 植 物 群 落 を 含 む 気 温 鉛 直 分 布 に 注 目 し 、 霜 害 の 関 係 を 報 告 し た 研 究 例は なかっ た。

  湿 原 に お け る 晴 天 静 夜 の 低 温 現 象 は 、 地 下 水 位 だ け で な く 、 大 気 条 件 にも 支 配 さ れ る。 ま た 地 下 水 位 の 低 下 に よ る 湿 原 の 低 温 化 を 実 測 に よ り 明 ら か に す る に は 実 験 の 場 所の 確 保 な ど 困難 が 多 い 。 っ ま り 表 層 泥 炭 の 熱 特 性 や 植 物 群 落 の 構 造 を 考 慮 に 入 れ た 土 壌 ― 大 気 境 界 層 熱 拡 散 モ デ ル を 構 築 し て 、 大 気 条 件 を 変 え ず 地 下 水 位 だ け を 変 化 さ せ る 数 値 実 験 が 現実 的 な 方 法 と言 える 。

  そ こ で 本 研 究 の 目 的 を 、1) ゼ ン テ イ カ 霜 害 発 生 の 状 況 を 接地 微 気 象 学 的な 立 場 か ら 明ら か に す る こ と 、2) ゼ ン テ イ カ 霜 害 発 生 時 の 接 地 微 気 象現 象 を 数 値 モデ ル で 十 分 な 精度 で 再 現 す るこ と 、3) 構 築 し た 数 値 モ デ ル を 用 い て 湿 原 環 境 の 変化 、 特 に 地 下水 位 の 低 下 が ゼン テ イ カ 霜 害発 生 に 及 ば す 影 響 を 明 ら か す る こ と と し 、 最 後 に 得 ら れ た 成 果 に 基 づ き 、 湿 原 生態 系 の 保 全 管理 に対 し、, 接地微 気象学 の分 野から 提言新 〒なう 。

  本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め に 次 の よ う に 、2001か ら2003年 ま で の4月 か ら7月 に か け て 、 現地 観測を行なった。気温と地温は、それぞれ地上0.05,0.1,0.2,0.3,0.5,1.5,3.Om高及び地 下0,0.025,O.05,0.1,0.15,0.2,O.5m深で計測し、10分毎に記録した。風速・風向を10分毎に

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記録し た。地下水位と0.05,0.1,0.15mの体積含水率を計測した。ゼンテイカの花芽の高さは、花 芽 形成 後 、毎 日6:00と18:00に 記録 し た。 霜害 の判定方 法は、花茎の伸長停止及び 花芽の色が 緑色か ら褐色に変化したことを目視 観測した。

  また 数値モデルは次のような構成 により構築した。計算領域 を泥炭層、大気境界層に分けた。

大 気境 界 層は 植生 層と 大気 層 を含 む。 泥炭 層は 、 地表 面か ら0.5m深ま で、植生層 は地表面か ら0.3mまで、大気層は0.3mか ら1000mまで選んだ。格子点 の離散化は、コントロール ・ボリュー ム 法を用いた(Patanker 1980)。上部及び下部境界条件は 、初期値で固定した。地表 面は地表面 熱収支 武によって、タイムステップ毎に計算した。またタイムステップは60秒とした。本数値モデ ル の特 徴 は、1)地 表 面か ら地 上Imの 問の 格子 点を15点 選択し、この範囲の気温の 鉛直分布を 詳細に 表現することができること、2)植生層を0.05m刻みで6層に分割し、群落多眉モデルを用 い たこ と 、3) 泥炭 層 の地 下水 位と 体 積含 水率 の鉛 直分 布 の関 係に つい てHayward and Clymo (1982)の 実 験 デ ー タ を も と に 作 成 し た 、Granberg et al (1999)の 式 を 改 良 し た 。   ゼン テ イカ の霜 害は 、3年間 の観 測 期間 中、 花茎伸長 期間中に北海道上空を寒気 が通過し、

か つ 晴 天 静 夜 と な っ た2001年6月15日 、2002年6月5日 、2003年6月5日 の 各 年 に1回 観 測され た。っまり一晩だけの突発的 な低温現象によってゼンテ イカに霜害が出現することがわか っ た。 こ れら の低 温現 象は 、周辺植生高とほぼ等しい地 上20―30cm高に最低気温が 出現した。

し たが っ てゼ ンテ イカ の霜 害は、花芽の位置が地上10―40cmに集中していた。ゼン テイカは、

気 温が0℃以下になっただけ では、霜害を受けることiま なく、―2℃以下の気温が30分以ヒ継続 した領 域に花芽が存在していた場合 に霜害が発生したことがわ かった。そのためゼンテイカの霜 害 には 花 芽の 位置 に対 する 上限高度が存在した。一方ゼ ンテイカは、花芽が形成さ れてから、

花 芽の 高 さが 約15cmに なる までは、自分自身の葉に覆わ れていたため、霜害を免れ ることがで きた。 っまルゼンテイカの霜害には 、花芽の位置に対して下限 高度が認められた。また低温の程 度 とそ の 継続 時間 につ いて は、実験室による耐凍性の実 験では別々のパラメータと して扱われ ていた が、本研究のような野外における自然現象では、ひとっのパラメータとして扱うことが可能 である という知見が得られた。さらに最低気温の出現する高さが周辺植生高よりも高くなるレイズ ドミニ マム現象が湿原において初め て確認された。またゼンテ イカは、葉が地上部に出現してか ら、花 芽形成までの間は、霜害を受 けることがなかった。

  次 に2002年6月5日 の 霜 害 日 を 対 象 に し て 、 構 築L虎 数 値モ デル を 用い て、 気温 の推 移 を 予 測し た 。そ の結 果、 地上10cmに 最低 気温 が出 現 し、 植生 群落 の 存在 が地表面付 近の気温低 下を促 進することを、数値モデルに よって確認することができ た。また地表面の熱収支武を計算 して、 閉じていることを確認した。 数値モデルの再現性の精度 を計算したところ、地上1.5mでは 1.1℃ 程度 の誤 差で 再 現す るこ とが で きた 。本 研究では 評価の難しい地上Im以下を 密に計算し た | こ も か か わ ら ず 、 過 去 の 研 究 報 告 と 同 等 以 上 の 精 度 で 再 現 さ せ る こ と が で き た 。   上記 の 気象 条件 を用 いて 、地下水位の変動をさせて、 ゼンテイカの霜害に大きな 影響を与え る 地上20cmの 気温 を評 価し た 。そ の結 果、 平均 し て地 下水 位がlcm低下 するごとに0.7℃の割 合で低 下した。さらに上記の気象条 件では、泥炭が乾燥履歴を 持っていたために、そうでない条 件 と比 較 して0.7℃ 低 下して いた。また地下水位を2cm低 下させると、ゼンテイカの 霜害範囲が 13cm上 昇 した 。っ まり1一2cm程度の地下水位変動によっ て、ゼンテイカの霜害範囲 が大きく変 動する ことがわかった。

  以上 の 結果 から 、サ ロベ ツ湿原の晴天静夜の最低気温 には、地下水位が大きく影 響しており 湿 原 生 態 系 を 維 持 す る た め に は 、 地 下 水 位 の 管 理 が 重 要 で あ る こ と が 明 ら か と なっ た 。

213 ‑

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授 教授 助教授

小野 平川 大原 石川 浦野 冨士田

有 五 一 臣     雅 信 敬

慎 一(農学研究科)

裕 子

     ( 北方生 物圏 フイールド科学センター)

副査   所長   高橋英紀(北海道水文気候研究所)

    学 位 論 文 題 名

    Micro‑meteorological study on frost damage of He7nerocallis esculen勿 in Sarobetsu Mire, Hokkaido, Japan

( 北 海 道 サ ロ ベ ツ 湿 原 に お け る ゼ ン テ イ カ の 霜 害 に 関 す る 微 気 象 学 的 研 究 )

    北 海 道 ・ サ ロ ベ ツ 湿 原 に お い て 、 晴 天 静 夜 に 発 生 す る 接 地 気 層 内 の 低 温 現 象 が 、 湿 原 生 態 系 に 与 え る 影 響 を 調 べ る た め に 、 ゼ ン テ イ カ(llemerocaDis escul en ta)を 対 象 と し て 、 そ の 霜 害 発 生 状 況 を 明 ら か に す る こと 、及 び 地下 水 位 の 低 下 が 低 温 現 象 に 与 え る 影 響 を 数 値 実 験 に よ り 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 研 究 を 行 な っ た 。

  ゼ ン テ イ カ の 霜 害 は 、3年 間 の 観 測 期 間 中2001年6月15日 、 2002年6月5 日 、2003年6月5日 の 各 年 に1回 観 測 さ れ た 。 こ れ ら の 霜 害 時 の 温 度 分 布 の 特 徴 は 、 周 辺 植 生 高 直 上 の 地 上20―30cmに 最 低 気 温 が 出 現 し た こ と で あ る 。 ゼ ン テ イ カ の 霜 害 は 、 花 茎 伸 長 期 に 発 生 し た こ と 、 霜 害 を 受 け た 個 体 は 、 花 芽 の 位 置 が 地 上10―40cmに 集 中 し た こ と 、 ま た 霜 害 を 受 け た 個 体 の 花 芽 の 高 さ は 、 気 温 が ―2℃ 以 下 と な る 継 続 時 間 が30分 以 上 継 続 し た 領 域 に 位 置 し た こ と が 明 ら か と な っ た 。

  次 に 植 物 群 落 構 造 を 組 み 込 ん だ 土 壌 ・ 接 地 境 界 層 熱 拡 散 モ デ ル を 構 築 し 、 2002年6月5日 の 霜 害 日 を 対 象 と し て 、 気 温 の 推 移 を 予 測 し た 。 そ の 結 果 、 地 上1. 5mの 気 温 は 、 既 存 の モ デ ル よ り も 高 い 精 度 ( 平 均 誤 差O.3℃ 、二 乗 平均 誤 差0.9℃ ) で 、 再 現 す る こ と が で き た 。 最 低 気 温 が 出 現 す る 位 置は 数値 モ デル で は 植 物 群 落 内 の 地 上10cmで あ っ た 。 最 低 気 温 出 現 高 さ が 実 測 と 異 な る 原 因 と し

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て は、 実測 時に は晴 天静 夜の 接地 気層に出現するレイズドミニマム現象(Oke , 1970) が発生していたためと考えられる。

   上記 の気 象条 件を 用い 、数 値実 験により地下水位を変動させて、地上20cm の 最低気温(T2 。)を評価した。その結果、地下水位が1cm 低下するごとに乃2 。は 約0 .7 ℃の割合で低下した。また表層泥炭は一度乾燥履歴を持っと、地下水位が 回 復し ても 泥炭 の体 積含 水率 が乾 燥以前の値に戻らないことが現地観測で明ら かとなった。その乾燥履歴が接地気温におよぼす影響を数値実験で調べた結果、

霜害発生日の地下水位で、乾燥履歴がある場合は、ない場合と比較して、乃2 。が 1 .2 ℃低下していた。さらに地下水位変動によるゼンテイカの霜害範囲への影響 を 求め たところ、地下水位を実測値より2cm 低下させた場合、霜害の上限が15cm 上 昇し た。 っま りわ ずか 1 −2cm 程 度の地下水位変動によって、ゼンテイカの霜 害範囲が大きく変動することがわかった。

   以上 、ゼ ンテ イカ の霜 害に 関す る現地観測及び数値実験の結果から、サロベ ツ 湿原 の湿 原生 態系 を維 持す るた めには、地下水位の低下と変動を抑制する地 域 管理 が重 要で ある こと が明 らか となった。これらの成果は冷温帯に分布する 泥 炭湿 原の 保全 管理 に重 要な 指針 を与えるとともに泥炭地開発にともなう局地 気候変化の予測を可能とした。

審査 員一 同は 、こ れら の成 果を高く評価し、また大学院課程における研鑽や取

得単 位な ども 併せ 、申 請者 が研究者として誠実かつ熱心であり、博士(地球環

境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

参照

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