博 士 ( 地 球 環境 科 学 ) 上 野晃 生
学位論文題名
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(Pseudomonas aeruginosa WatG 株添加の土壌マイクロコズム中での 石油の分解と分子生物学的手法を用いた
微生物群集構造変化の解析に関する研究)
学位論文内容の要旨
1.はじめに
微生物によるBioremediationには,Biostimulation(BS)とBioaugmentation(BA)がある。目的に合っ た微生 物があ り,適切 な使用 法が確 立され ている のであ ればBAの 方がよ り有効であると考えら れてい る。全 国に鉱物 油汚染地域が多数存在することや,夕ンク,夕ンカー事故などの不可避的 な 鉱 物 油 汚 染 の 可 能 性 か ら , 実 用 可 能 な B」 法 の 開 発 が 求 め ら れ て い る 。 Ae甜 あM伽ロ ざ ロ ピn伽 伽WhtG株( 以下WhtG) は鉱物 油を唯 一の炭 素源とす る無機 液体培 地
(MSM)中で,ガソリン,灯油,軽油,潤滑油を分解し,軽油の場合は,2週間の培養でその成分の ほぼ全 てを分 解する。 申請者は,石油汚染土壌を対象とするBA技術の開発を目指しているが,本 研究で は,WatGの 石油汚 染土壌浄化への利用性と,効率的な利用法の検討を行なうために,土壌 マイク ロコズ ムでの軽 油分解能と土壌微生物群集構造を調べた。また,長年原油で汚染された風 化実汚染土壌に対するW甜Gを用いたBAも検討した。
2.研究方法
2.1土壌中での軽油分解実験
石 油によ り汚染 された ことの ない水 田土壌2gを試験 管に入 れ,通気 性のあるシリコ栓を付け た。土壌は必要に応じ121gCで30分のオートクレーブ処理を2回行なった。土壌の重さに対し1%f重 量 比)に なるよ うに軽 油を加 え,LB培 地で一 晩前培養したWatGを加えた。軽油,WtG水分を加え た後,土壌をよく撹拌し,20゜Cで1週間,暗所で静置培養した。内部標準物質としてn−ドデカンを加 え,ジク口口メタン:工夕ノール混合溶液(M,体積比)を用いて,土壌マイク口コズムから全油分 を抽出した。その後,ガスク口マトグラフイー(GLC)により残留油分を定量した。土壌マイクロコ ズムとして,水田土壌の他,草地土壌,園芸用の目土も用いた。
2.2土壌からのパイオサーファクタントの抽出
土壌マイクロコズムからのパイオサーファクタントの抽出は,既報に基づき行なった。得られ た粗抽出物をク口ロホルム:メタノール:酢酸(65:15:2;体積比)混合溶液の系による薄層クロマトグ ラフイーによって分離した。プリムリンにより全脂質を,a‐ナフトール法によって糖脂質を検出し た。
23微生物群集構造解析
土壌 微生 物群 集 構造 解析 は変性剤濃度勾配ゲル 電気泳動法(lDGGE)により行 なった。実験え日 目 に各土壌マイクロコ ズムにLB培地とWatGを添加 し,20QCで2日間,暗所で静 置し,0日目サンプ ルとした。0日目のサンプリング後,土壌重量に対し1ゲ。(重量比)になるように軽油を加え,よく撹 拌後,20gC暗所で静置した。実験12日,0日,3日,7日,14日,28日,60日,150日目に土壌をサンプリン グ し, 残留 油分 の 定量 と, 土壌DNAの抽 出を 行 なっ た。 土壌 より 抽 出し たDNAを鋳型にPCRを行 な い, 細菌 の16S rRNA遺伝 子のV3領域を増幅した 。PCR産物を20‑50%の変性剤 濃度勾配を有する 6%ポリ アク リル ア ミド ゲル にほぽ同量になるよう に載せ,電気泳動を行なっ た。SYBR GreenIに よ るゲ ル染 色後 ,DGGEバン ドをゲルから切り出し ,DNA塩基配列を決定した。 得られた塩基配列 は ,GenBank内にあるBLASTを用い,データベース と照合した。ゲル上のDGGEパ ンドバターンは,
無 加重 平均 距離 法(UPGMA)を 用 いた クラ スタ ー 解析 に供 し, サン プ ル間 の土 壌微生物群集変化 を調べた。ま た,BS,BAを行なった土壌か ら内在性菌の単離を行ない,その軽油分解能を調べた。
2.4.風化実汚染土壌中で の石油分解
北海 道石 狩市 望 来か ら, 長年 原油 に 汚染された風化土壌(全油 分4%)を採取し,BSとWatGに よる BAを行なった。実験0日目 ,1週間目,1ケ月目,2ケ月 目の土壌をサンプリングし,平板培養法によ る細 菌コ ロニ ー の測 定と ,GLCに よる 残留油分の測定を行なった 。また,DGGEによりBS,BA土壌 マイ クロ コズ ム 中の 微生 物群 集構 造 を解析した。また,DGGEバ ンドパターンを基に,UPGMAを用 いたクラスター解析を行な った。
3.結果と考察
水 田土 壌 を用 いた 場合 ,WatG添加 後1週間 でBAの未 滅 菌土 壌で50%,滅 菌土 壌で46%の軽 油の 減少があり,対照群 やBSの場合(共に15%)と比ベ有意差が見られた。草地土壌,園芸用の目土を用 いて もWatGは軽 油分解能 を示した。また,WatGと軽油 を添加した土壌マイクロコ ズム中にのみパ イオサーファクタントであるラムノ脂質(Rhl)が検出された。
150日 間継 続し たBAとBSに よる 軽油 分 解の程度は, 軽油添加後14日目まではBAの方が高かった が,28日目以降は両 者に有意差はなかった。一方,微生物群集構造解析の結果から,L13培地の添加 によ り,BS土壌 とBA土壌 の双方で土壌内在性菌の増殖 が認められ,軽油添加後に ,BS土壌とBA土 壌のパンドバターンが大きく異なること,BS土壌では,Acinetobacter,Pseudomonas,Mycobacterium, Rhodococcus属などに 属す既知のn‐アルカン分解 菌に相同な菌に由来するパ ンドが軽油添加7日目 以降に出現し,BA土壌(未滅菌)ではWatG以外のパンドは少数(3本程度)であることなどが分かった。
更に,BA土壌(未滅 菌)中のWatGのパンド強度は,実験開始28日後から顕著に減少し,150日後にほ ぼ消失した。しかし,BA土壌(滅菌)では,この問のWatGバンド強度はほぽ一定であった。また,B,S 土壌 から 単 離し た内在性 菌1株は,液体培養において 軽油分解能を示したが,B」 壮壌から単離し た2株ではそれが認められなかった。
以 上の 結 果か ら,WatGは 土壌 中で も軽 油分 解 能を 示す こと が分 かった。また ,軽油分解には W酊Gが分 泌 する バイオサ ーフんクタントであるラムノ 脂質(R亅d)の関与が示唆 された。一方で WatGによるRh1の生産Iま 土壌微生物群集構造を 大きく変えることが予想された。微生物群集構造 解析 は,BA土壌 (未滅菌 ),BS土壌における軽油分解 にそれぞれWatG内在性菌の 関与を示してい るが ,後 者 につ いて はBS土 壌か ら単 離し た1株が軽油 分解能を示したことからも それが裏付けら れる 。し か し,BA土 壌か ら 単離 した2株 は軽油分解能 を示さなかったので,BAに おけるWAtGと内 在性菌の協調は明確 ではない。BA土壌(未滅菌) における28日目以降のWatGバンドの減少は,WatG の添 加に よ って 変動した 土壌微生物群集構造が原状に 復帰しうることを示す一方 で、WatGの追添 加によるBAの効率化を示唆している。
長 年風 化 した 原油 汚染 土 壌で は、WatGの添加効果 は2ケ月間でもほとんど見ら れず,平板培養 およ びDGGEの結 果か ら,WhtGは2ケ月 後 には土壌消失 することが分かった。この 結果は,風化に よ り 生 成 す る 有 毒 成 分 や 内 在 性 菌 に よ りWatGの 増 殖 が 抑 制 さ れ る 可 能 性 を 示 し て い る 。
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以上の結果から,汚染直後の土壌など風化過程を経ていない石油汚染土壌の浄化の場合には WatGを用いたBAは有効だが,長年の風化過程を経た汚染土壌には効カはないことがわかった。後 者の場合には,内在性菌を用いたBSとBAとの併用など新たな方法の開発が必要である。DGGEに よる経時的な土壌微生物群集構造の解析はBAの有効性の検証,さらには異なる土壌における効 率的なBioremediation法の開発手段としての利用が期待される。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 助教授 奥山英登志 副 査 教 授 森 川 正 章 副 査 教 授 荒 木 義 雄 副 査 助 教授 山 崎健 一
学位 論文 題名
Studies on oleun .tionin ` petr n degrada
Pseud07nonas aerug 銘卿 Str む nWatG 一addedS 皿血CrocoSmS andtheirbaCterialCOmmunltyChangeanalySiS bymoleCularbiolO 酉 CalapproaCh
(Pseudomonas aerugZ 勿DS ロWatG 株添加の土壌マイクロコズム中での 石油の分解と分子生物学的手法を用いた
微生物群集構造変化の解析に関する研究)
微生 物によるBioremediationにはBiostimulation (BS)とBioaugmentation (BA)がある。
目 的に 合っ た 微生 物が あり 、適 切な 使用 法が 確立 され てい るの であれぱBAの方がより 有 効で ある と 考え られ る。 鉱物 油は2003年2月に施行 された土壌汚染対策法の対象には 含 まれ てい ないが、全国に多数存在する鉱物油汚染地 域やタンク事故などによる不可避 的 な鉱 物油 汚 染の 可能 性か ら、 実用 可能なBA法開発の必要性は明らかである。2005年3 月 に経 済産 業省、環境省が共同で「微生物によるバイ オレメディエ―ション指針」を告 示 し た こ と か ら 、 今 後 、 鉱 物 油 分 解 菌 を 使 っ たBAの 実 施 が 見 込 ま れ る 。 Pseudomonas aeruginosa WatG株 (以下WatGという )は、鉱物油を唯―の炭素源とす る 無 機 液 体 培 地(MSM)中 で 、 ガ ソ リ ン 、 灯 油 、 軽 油 な ど を 分 解 し、 軽油 の場 合Jよ2 週 間の 培養 で その 成分 のほ ぼ全 てが 分解 され る。 しか し、WatGが土壌環境で石油分解 能を発 揮するか否か|幸不明であった。申請者tよ、WatGによる石油汚染土壌を対象とし たBAの 実用 化 を目 指し 、土 壌中 でのWatGによ る石 油分 解機 構の 解明を目的にして、土 壌 マイ コロ コ ズム 中で のWatGに よる 軽油 分解 能を 検証 し、 土壌 微生物群集構造を調べ た 。ま た、 風 化し た石 油汚 染土 壌を 用い 、WatGの 実用 的な 利用 についても検討した。
土壌 マイ ク ロコ ズム の実 験に は主 に水田土壌を用いた。1%の軽油を加えた水田土壌 にWatGを添 加し たBAで は、1週 間で 未滅 菌土 壌 では54% 、滅 菌土 壌で は49%の 分解 が あ り、WatGは 土壌 中で も軽 油を 分解 する こと が分 かっ た。 また 、芝生土壌や園芸用土 壌など 異なる土壌でもWatGは軽油分解能を示した。
申請 者は 、WatGによ る軽 油の 分解 が予 め滅 菌し た土 壌よ りも 未滅菌土壌で高くなる ‑ 1603ー
理由 が、WatGと土壌内在性菌との協 調関係に起因していると予想し、軽油分解実験後、
土壌 から バイオサーファクタン卜で あるラムノ脂質の抽出を試みた。その結果、軽油と WatGを添 加し た土 壌マ イク ロコ ズ ムか らの み、 ラム ノ脂 質が 検出された。ラムノ脂質 がP. aerug加甜 ロにより分泌されるバイオサーファクタントであることも合わせて、申請 者はWatGによ る軽 油分 解へ のラ ム ノ脂 質の 関与 と、 ラム ノ脂 質を介したWatGと土壌内 在性 菌の 協調関係の存在を予想して いる。土壌環境からのラムノ脂質を抽出したという 事例は過去に報告がない。
次 に申 請者は、土壌中での軽油分 解と微生物の関わりの詳細を知るために、16§rRNA 遺 伝 子を ター ゲッ 卜と したPCR一 変性 剤濃 度勾 配ゲ ル電 気泳 動法 (PCRIDGGE)を 用い た 微 生物 群集 構造 解析 を行 ない 、BS土 壌とBA土 壌で はDNAバ ンド パ ター ンが 大き く異 なる こと を見 出し た。 この 土壌 微 生物 群集 構造 の変 動の 主要 因がラムノ脂質などWatG の分 泌物 に起 因し てい るの では な いか と考 察し てい る。 さら にBS及びBA土壌で出現し たDNAバン ドの 塩基 配列 を決 定し 、BS土壌では門‐アルカン分解菌としての報告がある イC所PfDみ舛妍、AP脇m伽田、姆CDみ伽胞Pf淵、勵DあcDぱ甜などに属す菌、BA土壌では 5托門Dケ叩カDm弸甜や〔瓰加Dみ卯ケ甜mなどに属す菌が出現し、菌の出現のパタ―ンが、栄養 物や 軽油 の添 加な どに よっ ても 影 響を 受け るこ とを 明ら かに した。しかし、BSとBAの 土 壌 に共 通し て出 現す るDNAバン ドは なか った 。一 方、WatGのパ ン ドの みに 注目 した 場合 、滅 菌土 壌で はWatGの バン ド は維 持さ れる が、 未滅 菌土 壌ではバンドが消失する ので 、加 えたWatGが内 在性 菌と 競 合し 、や がて 消失 して いく としている。Waぬのこの 性質はBAを行う上での利点の1っと考えられる。
申 請者 はBAとBSによ る軽 油分 解 の機 構を さら に詳 細に 調べ るため、それぞれの土壌 から内在性菌の単離を試み、BA土壌から2株(単離株NとO)、BS土壌から1株(単離株J) を取 得し た。 単離 株N、Oと も単 独 では 軽油 分解 能を 示さ ない が、それぞれをWatGと共 存さ せた 場合 、単 離株NはWatGに よる 軽油 分解 を促 進し 、Oは 阻害した。ー方、単離株 Jは 単独 で 軽油 を分 解し た。 申請 者はPCRlDGGEの結 果も 合わ せて 、BS土 壌とBA土 壌で は 軽 油 分 解 に 関 与 し て い る 内 在 性 菌 は 全 く 異 な る こ と を 明 ら か に し て い る 。 長 年風 化し た原 油汚 染土 壌に は むし ろBSが有 効で あり 、WatGによるBA効果はなかっ た。 平板 培養 法お よびPCR‐DGGEの結 果、2ケ月 後に はWatG集 団が消失していた。この 結果 は、 風化 によ り有 毒な 成分 が 生成 され たか 、も しく はWatGと競合する菌が既に多 数存 在し てい るた めに 、WatGが 生 育( 結果 的に 原油 成分 の分 解)するには、困難な土 壌 環 境で あっ たと 考察 して いる 。し か し、 申請 者は 風化 汚染 土壌 にMSMを添 加す るこ とで 原油 分解 菌の 集積 を施 した 土 壌を 風化 汚染 土壌 に接 種す ることにより、有意なBA 効果を認めている。
申請者|よ本研究を次の様にまとめている。1)Wa焔は土壌中でも軽油分解能を示す。
加え て、 未滅 菌土 壌で は、 滅菌 土 壌よ りも 軽油 分解 率が 高か ったことから、WatGと土 壌内 在性 菌(例えば単離株N)との協調が示唆される。2)土壌中での軽油の分解にWatG が分 泌す るラ ムノ 脂質 の関 与が 示 唆さ れる 。3)PCR‐DGGEの 結果から、BS土壌とBA土 壌は 全く 異な る微 生物 群集 構造 を もつ 。こ れは 、添 加し たWatGが生産する抗生物質能 を有 する ラムノ脂質やピオシアニン に起因していると考えられる。4)PCR‐DGGEの結果 から、添加したWa.tGは、単離株Oのような土壌内在性菌との競合により、最終的には消、
失す る。4)WatGに よるBAは 、風 化さ れていない汚染土壌には有効だが、長年の風化過 程を 経た 土壌 では 、BSが有 効で あ る。 申請 者は 、汚 染土 壌の 内在性菌を同じ土壌の汚 染浄 化に 利用することがより効果的 であろうと考え、汚染現場の石油分解菌を迅速に取 ー1604―
得 し、 これ を同 じ 汚染 現場(原地)におけるBAの接種菌として用いる「Autochthonous bioaugmentation( 原 地 性 バ イ オ オ ー グ メ ン テ ― シ ョ ン ) 」 技 術 を 提 唱 し た 。 審査員 一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として 誠実かつ熱心であり、
大学院課 程における研鑽や取得単位なども併せ、申請者が博士(地球環境)の学位を受け るのに十 分な資格を有するものと判断した。
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