学 位 論 文 題 名
博 士 ( 理 学 ) 肖 楠
Study on Antifreeze Proteins from Cold Adapted Fungi and Diatoms ( 低 温 適 応 菌 類 及 び 藻 類 由 来 の 不 凍 夕 ン バ ク 質 に 関 す る 研 究 )
学位論文内容の要旨
菌類 や藻類は 低温環境 に適応す る物質の ーつとして 不凍夕ン パク質を細胞 外に 分泌する ことが報 告されて いる。不 凍夕ンパク 質は過冷 却状態の水中に発 生す る氷結晶 に結合し 、その成 長を抑制 することで 、水溶液 の凝固点を降下す る能 カを持つ 生体物質 である。 更に、不 凍夕ンパク 質は凍結 に至った溶液中の 無数 の氷結晶 が自発的 に互いに 結びっく 再結晶化を 抑制する ことができる。不 凍夕 ンパク質 は生物種 に依存し て多様な 構造を有す ると報告 されてきた。すな わ ち 、不 凍 夕 ンパ ク 質は 魚 類 にお い ては5種 類 、昆虫 類におい ては4種類、 植 物 に おい て は3種類 以上の アミノ酸 配列及び 高次構造 が異なる タイプに分 類さ れて いる。本 研究は、 はじめに 菌類及び 藻類の不凍 夕ンパク 質が約70%もの高 いア ミノ酸配 列の相同 性を示す ことに着 目した。類 似性の高 い不凍夕ンパク質 が生 物界に跨 って存在 するとい う知見は 過去に得ら れておら ず、それらの生化 学お よび生理 学的機能 にも未知 な点が多 いと考えら れた。特 に、本研究の開始 以前 は雪腐病 菌すなわ ち積雪下 で越冬性 を持つ作物 に対して 病原性を示す担子 菌類の一種Typhびノaノぷカikariennsisからのみ菌類不凍夕ンパク質が単離されて いた 。担子菌 類以外の 菌類が不 凍夕ンパ ク質を有し ているか 否かは全く不明で あった。
本論 文 の 前半 で は、多様 な分類群 に属する145種の低温 適応菌類 について、
それ ぞれを―1℃下にお いて培養 し、菌体外に不凍物質が放出されるか否かの解 析結 果につい て詳述し た。試供 した全て の分類群に ついて、 菌体外における不 凍活 性を見出 し、担子 菌以外に 、卵菌、 サカゲッボ カビ、接 合菌、子嚢菌にお いて 不凍物質 (不凍夕 ンパク質 を含む) を生産する 菌類が存 在することを世界 で初めて明らかにした。
また 、菌類に おける不 凍夕ンバ ク質の多 様性を明ら かにする ために、南極 産の 子嚢菌イロtarctomyces psychrotrophicusの培養液を出発物質とした不凍夕 ンバ ク質の精 製と生化 学的性質 の解析を 行い、担子 菌由来の 不凍夕ンパク質と 比較 した。そ の結果、 子嚢菌由 来の不凍 夕ンパク質 は担子菌 由来のタンバク質 と 比 べ、 分 子 量、N末端の アミノ酸 配列、ア ミノ酸組 成、分子 の糖鎖修飾 、不 凍活 性が大き く異なる ことを明 らかにし た。子嚢菌 由来の不 凍夕ンパク質の機 能的 特徴は凝 固点降下 が低く、 子嚢菌の 菌糸成長に 十分な氷 の再結晶化を阻害 する 活性を示 した。子 嚢菌は菌 糸が凍結 しても死滅 しないた め、菌糸の凍結抑 制よ りも、氷 の再結晶 化抑制効 果が主要 な機能であ ると考え られた。担子菌由 来の 不凍夕ン バク質の 機能の特 徴として 、子嚢菌由 来の不凍 夕ンパク質より10 倍以 上高い凝 固点降下 を示し、 菌体環境 の凍結抑制 として働 くことが示唆され た。 このよう にして、 新たな菌 類由来不 凍夕ンパク 質の発見 に至り、菌類にお いて 不凍夕ン バク質は 多様性を 示すこと を明らかに した。こ こで、糖鎖修飾さ れた タンパク 質をコー ドする遺 伝子を特 定すること が困難で あったため、イ,
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psychrotrophノCUSの卜ランスクリープトーム解析を行い、子嚢菌不凍夕ンパク 質 を コ ー ド す る2種 の 候補 遺伝 子を 同定 した 。候 補遺 伝子 はN末 端ア ミノ 酸配 列 、分 子量、 アミ ノ酸 組成 、糖 鎖修 飾の予想部位が培養液より精製された不凍 夕 ンバ ク質と 一致 した 。同 配列 を担 子菌由来の不凍夕ンパク質のものと比較し た 結果 、約25%の 類似 性を 示す こと が判明し、子嚢菌由来の不凍夕ンバク質は 新規分子種であることが裏付けられた。
本 論文の後半では、336種の藻類について細胞外の不凍活性を調ベ、世界各 地 に生 息する 藻類 の不 凍活 性を 調ぺ た結果を記述した。解析の結果、約15%の 61種に ついて 不凍 活性 を見 出す こと ができた。現在までに、南極または北極の 約10種 の藻類 につ いて のみ 不凍 夕ン パク質の発現が報告されている。本研究で は 、 藻 類 由 来 不 凍 夕 ンバ ク質 の代 表例 とし て南極 の海 氷に 生息 する 珪藻 類の Na viculaぎノみピiei由来の不凍夕ンバク質に注目し、その氷結晶結合機能を解析 し て、 配列相 同性 の高 い担 子菌 由来 の不凍夕ンパク質の機能と比較した。その 結 果、 藻類の 不凍 夕ン パク 質は 氷の 再結晶化を抑制するだけではなく、高い凝 固 点降 下能を 有す るこ とを 明ら かに した。また、珪藻類および担子菌由来の不 凍 夕ン パク質 の凝 固点 降下 能は 類似 したpH依存性を示すこと、特に各々の生存 環 境のpH付近 にお いて 高い 能カ を発 揮することを明らかにした。更に、これら の 不凍 夕ンパ ク質 の氷 結晶 結合 様式 は時間依存的に変化することを見出し、そ の 理由 をこれ らの 不凍 夕ン パク 質が 氷結晶の湾曲表面に対しても結合するため と 考察 した。 この こと は、 低濃 度の 不凍夕ンパク質であっても、十分に長い時 間 を経 ること で凝 固点 を降 下さ せら れることを示唆している。珪藻類及び担子 菌 類由 来の不 凍夕 ンパ ク質 の凝 固点 降下能は生存環境における凍結抑制に寄与 す る と 考 え ら れ 、 低 濃 度 で も 十 分 な 効 果 を 示 す と 考 え ら れ る 。 総じ て本論 文は 、菌 類及 び藻 類に ついて過去に例のない膨大な細胞外不凍活 性の探索を行った結果について記、述した。特に、南極産の子嚢菌由来の新規不 凍 夕ン パク質 を単 離精 製す るに 至り 、その性質及び機能の解析に成功した。担 子 菌由 来の不 凍夕 ンパ ク質 との 間で 生化学的性質の比較を行い、菌類不凍夕ン パ ク質 は多様 性を 示す こと を明 らか にした。更に、アミノ酸配列相同性の高い 担 子菌 類と珪 藻類 由来 の不 凍夕 ンバ ク質の機能解析も行った。両者には高い不 凍 活性 及びそ の時 間に 依存 した 氷結 晶結合様式があることを見出し、菌類及び 藻 類 の 不 凍 夕 ン バ ク 質 の 生 理 的 機 能 を 考 察 す る ま で に 至 っ た 。
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学位論文審査の要旨
主 査 客 員 教 授 津 田 栄
副 査 客 員 教 授
副 査 教 授
( 連 携分 野 教 員 ) 扇 谷 悟
( 連 携分 野 教 員 ) 出 村 誠
( 生 命 科 学 院 )
副 査
客 員 准 教 授
星 野
保
( 連 携 分 野 教 員 )
学 位 論 文 題 名
Study on Antifreeze Proteins from Cold Adapted Fungi and Diatoms
( 低 温 適 応 菌 類 及 び 藻 類 由 来 の 不 凍 夕 ン パ ク 質 に 関 す る研 究 )
本学位論文は、一般に不凍タンパク質(
Antifreeze Protein:AFP )と呼 ばれている生体内氷結晶結合物質に関して、その菌類における多様性と構造機 能相関の研究成果を申請者が詳述したものです。
前半では、南極産の子嚢菌Antarctomyces psychrotrophicus の培養液を出発 物質とした菌類由来AFP の精製と生化学的性質の解析結果について記述し、
このAFP は担子菌由来のものと比べ、分子量、N 末端のアミノ酸配列、アミ ノ酸組成、分子の糖鎖修飾、不凍活性が大きく異なることを明らかにしていま す。更に、子嚢菌AFP は凝固点降下能カが低い一方で氷の再結晶化を強く阻 害す るこ と、担 子菌 由来
AFPは子 嚢菌 由来AFP より10 倍以 上高い凝固点降 下を有し菌体環境の凍結抑制として働くことを記述しています。このように新 たな 菌類 由来AFP を見出 すと 共に 、菌 類AFP が 多様性 を示 すことを初めて 明らかにしました。更に、トランスクリープトーム解析に基づぃた子嚢菌AF
Pコード 遺伝 子の 同定、 見出 された候補遺伝子が子嚢菌AFP の
N末端アミノ 酸配列、分子量、アミノ酸組成、糖鎖修飾の予想部位と一致することから、子 嚢菌由来AFP はこれまでに報告の無い新規分子種であることを初めて明らか にしました。
後半では、世界中から様々に集めた
336種もの藻類について細胞外のAFP 活性を調べ、世界各地に生息する藻類の不凍活性を調べた結果について記述し てい ます 。約15 %で ある
61種について
AFP活性を見出し、南極海氷に生息 する珪藻類のNa レメcula glac メei 由来AFP について、これが氷の再結晶化を抑 制するのみならず高い凝固点降下能を有することを初めて明らかにしました。
また、菌類AFP の氷結晶結合様式は時間依存的に変化し、低濃度であっても 氷結晶上に長時間存在することによって凝固点を降下させる働きを有すること を明らかにしました。
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本論文に詳述された研究成果は、申請者の主著論文として複数報の国際学会 誌に掲載され当該研究分野に大きな発展をもたらしました。よって本論文は北 海道大学博士(理学)の学位申請論文として審査に値するものと認めます。
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