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日本産マツノネクチタケの分類と生態 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 徳 田 佐 和 子

学 位 論 文 題 名

日本産マツノネクチタケの分類と生態 学位論文内容の要旨

  ミヤマトンビマイ科マツノネクチタケ属に属する木材腐朽菌マツノネクチタケの種複 合体:Heterobasidion armosum s.l.(広義)は、北半球広域に分布し、針葉樹を中心と した林木に著しい根株腐朽被害およぴ枯死被害をもたらすもっとも重要な樹木病原菌の ひとっである。そのため、海外では古くから本菌の生態や防除に関する集中的な研究が すすめられてきた。しかし、日本産のものについては分類学的検討や被害実態の把握す ら十分になされず、知見が不足した状態にある。本研究は日本産マツノネクチタケの特 徴を包括的に把握することを目的とし、標本収集と野外調査、屋内実験により、国内に 分布するマツノネクチタケ 属3種の分類学的位置づけ、トドマツ人工林でみらかったマ ツノネクチタケ被害の特徴、被害地における同菌個体群のジェネット分布と伝播法、お よ ぴ 北 海 道 で 推 奨 さ れ る マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ 被 害 の 軽 減 法 を 明 ら か に し た 。

1)日本およぴ東アジアに 産するマツノネクチタケ属菌3種(マツノネクチタケ、レン ガタケ、南方系未同定種)について、分子系統解析と形態比較により分類学的位置づけ を 明 ら か に し た 。 日 本 産 マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ は 比 較 的 病 原 性 が 弱 い と さ れ る 且 par wpor urnであったが、ヨーロッパのものとはやや異なる形態的特徴を有し、系統樹 上では異なるサブクレードに属していた。従来H. insura嵒とみなきれてきたレンガタ ケは形態的特徴が且血s班 観あタイプ標本と異なっており、形態およぴ塩基配列が既知 の種のいずれとも一致しなかったことから、新種脇紐伽恆戯めロば嵒岨聶昆なsp.nov.と して記載した。日本の南部と中国に分布 する未同定種については新種脇ぬmぬ轟轟ぬ 鮒珊めs .m8p.no■として記載し、和名をカラナシレンガタケとした。分子系統解析か らは、本菌が国内産の他の2種よりもオーストラリア周辺に分布する且霞瑚H偬r』泣eと 近縁であることが明らかとなった。

2)北海道東部にある68年生トドマツ人工 林において激しい根株腐朽被害が発生した ため、病原菌 分離菌株のDNA解析と菌叢の 形態観察を行い、腐朽被害の原因がマツノ ネクチタケで あることを明らかにした。国内で発生した同菌の被害をDNA解析により 確認したのは 本研究が初めてである。30X 35mのプロット内にあったトドマツ伐根57 本のうち27本(47%)に根株腐朽被害が確 認され、マツノネクチタケ被害はこれら27 本のうち14本(52%)に発生していた。本菌によるトドマツの腐朽は、心材が黄色昧を 帯びた淡オレンジ色〜淡褐色に腐朽し、材に菌糸が詰まった細長い空隙が発達して繊維 状を呈するもので、腐朽部は根株だけにとどまらず樹幹上方へむかって拡大していた。

被害が著しいトドマツでは樹幹内部が空洞となり、辺材部にまで腐朽が及んでいた。一 方、被害地のトドマツは衰退せず、順調な肥大成長を続けていたことから、日本のマツ ノネクチタケはトドマツ生立木に対して強い腐朽カを持つ一方、枯死をもたらすような 強い病原性は 持たないことが示唆された。

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33種 類 の 手 法 ( 体 細 胞 不 和 合 性 試 験 、RAPD解 析 、 マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト 解 析 ) を 併 用 し て 、 被 害 地 に お け る マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ の ジ ェ ネ ッ ト 分 布 と そ の 遺 伝 的 多 様 性 を 調 査 し た 。 国 内 に お け る 同 菌 の ジ ェ ネ ッ ト 分 布 調 査 は 本 研 究 が 初 め て で あ る 。68年 生 ト ド マ ツ 人 工 林 被 害 地 に 設 定 し た60 X100mの プ ロ ッ ト 内 に あ っ た 被 害 木 伐 根33本 各 々 か ら 分 離 さ れ た マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ33菌 株 は 、 そ れ ぞ れ1^‑15本 の 被 害 木 に 感 染 し た8個 の ジ ェ ネ ッ ト に 識 別 さ れ た 。 特 定 の1菌 株 か ら な る1ジ ェ ネ ッ ト だ け は 遺 伝 的 に 他 の も の と 大 き く 異 な っ て お り 、3手 法 す べ て で 一 致 し て 識 別 さ れ た 。 し か し 、 残 り32菌 株 は 非 常 に 近 縁 で あ り 、 手 法 に よ り 異 な っ た 識 別 結 果 が 得 ら れ た 。 マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ ( 広 義 ) で こ れ ほ ど 近 縁 な ジ ェ ネ ッ ト 群 が 被 害 地 か ら 識 別 さ れ た 事 例 は こ れ ま で 報 告 さ れ て い な い 。 ま た 、 径 が51mお よ ぴ50mに 達 し た2個 の ジ ェ ネ ッ ト は 同 菌 の ジ ェ ネ ッ ト と し て は 世 界 最 大 で あ り 、 成 長 速 度 か ら 推 定 し た 齢 は100年 以 上 と み な さ れ た 。 ジ ェ ネ ッ ト の 特 徴 と 観 察 さ れ た 同 菌 の 生 態 か ら 、 被 害 地 の マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ は 主 に 根 系 の 接 触 部 を 通 じ て 栄 養 繁 殖 ( 菌 糸 成 長 ) に よ る 感 染 拡 大 を 行 っ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 被 害 地 の マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ は 、 も と も と1個 も し く は 数 個 の 子 実 体 で っ く ら れ た 担 子 胞 子 に 由 来 し て お り 、 人 工 林 が 造 成 さ れ る 以 前 の 天 然 林 だ っ た 頃 に こ の 場 所 に 定 着 し た 後 、 残 さ れ た 被 害 木 伐 根 も し く は 感 染 し た 生 残 木 か ら 人 工 林 に 引 き 継 が れ 、 主 に 菌 糸 成 長 に よ っ て 隣 接 木 問 を 広 が っ た も の と 考 え ら れ た 。

4) 日 本 の マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ は マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ ( 広 義 ) の う ち 、 ユ ー ラ シ ア 大 陸 に 広 く 分 布 す るH.  par vり 凹 脚 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 宿 主 の 衰 退 や 枯 死 が 起 こ ら な い 日 本 で は 同 菌 の 被 害 を 初 期 段 階 で 見 っ け る こ と が 難 し い 。 し か し 、 ト ド マ ツ 被 害 木 は 特 徴 的 な 腐 朽 型 を 呈 す る の で 、 ト ド マ ツ 人 工 林 が 高 齢 級 化 し 収 穫 が 行 わ れ つ っ あ る 現 在 が 被 害 地 を 見 っ け る よ い 機 会 で あ る と 考 え ら れ る 。 被 害 が み っ か っ た 場 合 、 海 外 で 行 わ れ て い る 胞 子 分 散 を 対 象 と し た 防 除 は 基 本 的 に 不 必 要 で 、 そ の か わ り 、 栄 養 繁 殖 に よ る 伝 播 を 断 っ こ と を 目 的 と し た 施 業 が 推 奨 さ れ る 。 例 え ば 、 徹 底 し た 皆 伐 、 被 害 木 伐 根 の 除 去 、 抵 抗 性 樹 種 へ の 樹 種 転 換 、 広 葉 樹 を 交 え た 混 交 林 化 、 低 密 度 植 栽 な ど が 適 当 で あ ろ う 。 日 本 の マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ は 子 実 体 形 成 を 行 う こ と が ま れ で 栄 養 繁 殖 に 強 く 依 存 し て い る の で 、 い っ た ん 林 地 か ら 感 染 源 を な く し 、 ト ド マ ツ 同 士 の 根 系 の 接 触 機 会 を 減 ら せ ば 、 そ の 林 分 に お け る マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ 被 害 は 確 実 に 軽 減 さ れ る も の と 考 え ら れ る 。 一 方 、 現 在 の 北 海 道 で は 、 森 林 資 源 の 平 準 化 や 森 林 の 持 つ 多 面 的 な 機 能 の 発 揮 を 目 的 と し て 、 長 伐 期 化 、 択 抜 や 小 面 積 の 孔 状 皆 伐 、 複 層 林 化 な ど が 広 く す す め ら れ て い る 。 , し か し 、 こ れ ら の 施 業 は 、 マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ に 感 染 し た 生 立 木 を 林 内 に 長 く 残 す こ と と な り 、 罹 病 木 と 健 全 木 の 接 触 機 会 が 増 え て 次 世 代 林 へ の 被 害 の 引 継 ぎ や 林 分 内 で の 感 染 拡 大 に っ な が る お そ れ が あ る の で 、 同 菌 の 被 害 地 で は 避 け る べ き で あ る 。

  本 研 究 に よ り 、 日 本 産 マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ の 特 徴 が 明 ら か と な り 、 北 海 道 の 森 林 管 理 に 資 す る 情 報 提 供 と 施 業 へ の 提 言 が 可 能 と な っ た 。 さ ら に 、 現 在 、 国 外 で は 地 域 や 国 を 超 え て マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ ( 広 義 ) に 関 す る 横 断 的 な 研 究 が す す め ら れ て い る 。 同 属3種 が 分 布 す る 日 本 は 学 術 上 貴 重 な 場 所 で あ り 、 日 本 産 マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ に つ い て 調 査 し た 本 研 究 は 世 界 的 な 菌 類 研 究 の 発 展 へ も 大 き く 貢 献 す る も の と い え よ う 。

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学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査

准教授 教授 教授 助教

玉井 矢島 小池 宮本

学 位 論 文 題 名

    裕     崇 孝 良 敏 澄

日本産マツノネクチタケの分類と生態

  本 論 文 は 、 図14、 表6を 含 む 総 頁 数117頁 の 和 文 論 文 で あ り 、 他 に 参 考 論 文5編 が 添 えられて いる。

  マツノ ネクチタケの種複合体:Heterobas堪めロロロロ甜H皿8.1.は、北半球広域に分布し、

林 木に 著し い根 株 腐朽 およ ぴ枯 死被 害を もた らす 重要 な樹 木病 原菌 であ る。海外では古く か ら同 菌に 関す る 集中 的な 研究 が行 われ てき たが 、国 内で は分 類や 被害 実態の把握すら十 分 にな され てい な い。 本研 究は 日本 産マ ツノ ネク チタ ケの 特徴 を包 括的 に把握することを 目 的と し、 同菌 の 分類、被害、生態およぴ北海 道で推奨される被害軽減法を明らかにした。

  日本 産の マツ ノ ネク チタ ケ属 菌3種( マツ ノ ネクチタケ、レンガタケ、南方系未同定種)

に つい て、 形態 解 析と 分子 系統 解析 によ り分 類学 的位 置づ けを 明ら かに した。日本産マツ ノ ネ ク チ タ ケ は 互par廊Dr珊 で あ っ た が 、 ヨ ー ロ ッ パ 産 と は や や 異 なる 形態 的特 徴 およ ぴ 分子 系統 解析 上 の特 徴を 有し てい た。 従来 豆血8エH旨お とみ なさ れて きたレンガタケは 形 態的 特徴 が霞 血8班 .aあ タイ プ標 本と 異な り、 かつ 、既 知の 種と 一致 しなかったので、

新 種且 甜由 ロぬ ゐ8p.nov.と して 記載 した 。 未同定種については新種″.e甜珊勿8跚8p. nov.として記載し、和名をカラナシ レンガタケとした。

  北 海 道 東 部 の68年 生 ト ド マ ツ 人 工 林 で 激し い根 株腐 朽被 害が 発生 した ため 、分 離 菌株 のDNA解 析 と 形 態 観 察 を 行 い 、 原 因 が マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ で あ る こ と を明 らか にし た 。30 x35mの プ ロ ッ ト 内 に あ っ た ト ド マ ツ 伐 根57本 のう ち27本(47% )に 根株 腐朽 被害 が 確認 さ れ、 同菌 の被 害 木は これ ら被 害木 の52%を 占め てい た。 マツ ノネ クチ タケ被害木は心材 が 淡オ レン ジ色 〜 淡褐 色、 繊維 状と なり 、辺 材や 樹幹 部ま で腐 朽し てい た。腐朽被害が著 し くて もト ドマ ツ 被害 木が 衰退 しな かっ たこ とか ら、 日本 産マ ツノ ネク チタケは強い腐朽 カ を 持 つ 一 方 、 枯 死 を も た ら す よ う な 強 い 病 原 性 は 持 た な い こ と が 示 唆 さ れ た 。   体 細 胞 不 和 合 性 試 験 、RAPD解 析 お よ ぴ マイ クロ サテ ライ ト解 析を 併用 して 、上 記 被害 地 に お け る マ ツ ノ ネ ク チ タ ケ の ジ ェ ネ ッ ト 分 布 と そ の 特 徴 を 調 査 し た。60XlOOmの プロ ッ ト 内 に あ っ た 被 害 木 伐 根33本 か ら 分 離 さ れ た33菌 株 は 、8個 の ジ ェネ ット に識 別 され た 。 識 別 し や す か っ た1菌 株 を 除 く と 、 残 り32菌 株 は 非 常 に 近 縁 で あり 、手 法に よ り異 栓 った 識別 結果 が 得ら れた 。毘a瑚 鉛…8.1. でこれほど近縁なジェネット群が被害地から 識 別 さ れ た の は こ れ が 初 め て で あ る 。 ま た 、 径 が50m以 上 に 達 し た2個 の ジ ェ ネ ッ ト は

140 ‑

(4)

H. parviporurn

としては世界最大で、成長速度から推定された齢は100年以上であった。

被害地のマツノネクチタケは限られた感染源に由来したもので、人工林が造成される以前 の天然林に定着した後、被害木伐根もしくは感染した生残木から人工林に引き継がれ、主 に菌糸成長によって隣接木間を広がったものと考えられた。

  

日本産マツノネクチタケはH. annosum s.l.のうち、ユーラシア大陸に広く分布するE

par vipor um

であることが明らかとなった。トドマツ被害木の腐朽型は特徴的をので、各 地で収穫が行われている現在が被害地を見っけるよい機会といえる。被害地では、海外で 一般的な胞子分散を対象とした防除ではなく、栄養繁殖による伝播を断っことを目的とし た施業が推奨される。徹底した皆伐、被害木伐根の除去、抵抗性樹種への樹種転換、広葉 樹を交えた混交林化、低密度植栽などが適当であろう。日本産マツノネクチタケは栄養繁 殖に強く依存しているので、林地から感染源をなくし、トドマツ同士の根系の接触機会を 減らせぱ、確実に被害が軽減されると考えられる。一方、現在の北海道では、森林資源の 平準化や森林の持つ多面的機能の高度発揮を目的として、長伐期化、択抜や小面積の孔状 皆伐、複層林化などが広くすすめられている。しかし、これらの施業を行うと罹病木と健 全木の接触機会が増えて次世代林への被害の引継ぎや林分内での感染拡大にっながるので、

同菌の被害地では避けるべきである。

  

本研究により、日本産マツノネクチタケの特徴が明らかとなり、北海道の森林管理に資 する情報提供と施業への提言が可能となった。さらに、現在、国外では地域や国を超えて

H. annosum s.l.

に関する横断的な研究がすすめられている。同属3種が分布する日,本は学 術上貴重な場所であり、日本産マツノネクチタケにっいて調査した本研究は世界的な菌類 研究の発展へも大きく貢献するものである。よって、審査員一同は、徳田佐和子が博士(農 学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。

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