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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 経 済 学 ) 山 口    力

     学位論文題名

Fiscal Competition inaFederal State     with Mobile Populations

   (人口移動を伴う連邦体系における租税競争)

学位論文内容の要旨

  本研究は,地方政府の税源と地方公共財供給に関して,どのように分権化するのが 効率的であるかを,これまでの地方公共財の理論を展望しつつ,経済学的に分析した ものである。

  近年,地方財政論において,家計の地域問移動度合いが重要であることが示されて いる。特に,家計が地域問を完全に自由に移動可能である場合,長期的に地域間の住 民の効用が等しくなるという「移住均衡条件」の下に地方政府が代表的住民の効用最 大化を行うことは,あたかも他地域の住民の効用最大化を行ったかのように,社会的 に最適な資源配分をもたらす。これは,行政区域外に便益のスピルオーバーを生じさ せるような地方公共財にも適応する。すなわち,地域間を自由に移動する住民の下で は,地方政府は居住者と同様に他地域の住民に及ぼすであろう外部効果を内部化する インセンティヴを持つ。しかしながら、こうした結果は,家計の地域問移動が不完全 である場合成立しない。本研究では,家計の地域間移動度合いがどのように地方分権 及び地方政府の政策に影響を与えるか,また,地方分権の効率性を高めるためにどの ような中央政府の介入が容認されるべきかを明らかにすることを目的としている。

  第1章では,本研究において基本となる分析モデルを示し,地方財政論におけるこ れまでの進展をレビューする。地方政府間の競争によって地方公共財の供給が最適に なるというTieboutの「足による投票」仮説は,理論的な観点からは独創的な考えで あるものの,実際の地方財政制度において適用できるというわけではない。特に,全 ての家計が同質で,地域問を完全に自由に移動できるという仮定は非常に強すぎるも のと考えられる。本章での目的は,地方政府による分権的な意思決定が地域間を移動 する家計の移動度合いに応じてどのように変化するのか,また,均衡に歪みが生じた 場 合 ,中 央政府 による所 得再分配 政策が有 効である ことを示 すことであ る。

  第2章は,代表的住民の効用を最大化する好意的(benevolent)政府ではなく,住民 の効用と同様に自らの私利私欲をも高めようとするより現実に近いと思われるりヴ アイアサン型政府(Leviathan)が,地方公共財を分権的に供給する際に,家計の地域間 移動度合いに応じてどのように政策を変更するか,また,その政策変更が住民の厚生 を高めるかに関して分析している。住民移動が高まることにより,リヴァイアサン政 府の私的消費は増加する一方で,家計の私的財消費及び公共財供給水準が減少するこ とが示される。これは,地方政府間の地域間人口分布に関する競争に起因している。

っまり,政府の私的消費を高めることや,地方公共財に対する支出額を増加させるこ とは,住民の可処分所得を引き下げることから当該地域から別の地域への移住を促す ことになる。すなわち,地域間の人口移動が激しい状況において,リヴァイアサン型 の政府が私的消費を増加させることは過密人口を解消する戦略的な政策手段となり

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得るので ある。 したがっ て,高い家計の地域間移動性は地方政府が好意的な場合は有 効に機能 するも のの,リ ヴァイアサン型政府である場合,政府の無駄な出費を増加さ せ , 住 民 の 厚 生 を 低 下 さ せ る 有 害 な も の と な り 得 る こ と が 示 さ れ る 。   第3章 では, 第2章 のモデル に行政 区域外に 便益の スピルオ ーバーを 生じさ せる公 共財を導 入する ことで家 計の地域問移動度合いの上昇が再び有効となることを示す。

家計の地域間移動が不完全な場合,リヴァイアサン型の政府は私的消費のみならず公共財 に対する支出額をも減少させ,結果的に公共財が過少供給されることになる。そこで,中 央政府が 介入す ることで 効率性が改善される状況を考える。本研究では,地方政府が 最初に行 動をし ,その政 策を観測した上で中央当局が所得移転を行い,最後にこれら の政 府 の 行動 を 観 測し た 上 で家計 が地域間 を移動し 居住地 を決定す るとい う3段 階 ゲームを 分析ツ ールとし て採用し ている(Decentralized leadership game)。このよ うな中央 政府の 行動は, 家計の地域間移動度合いに依存することなく,地方政府の公 共財を過 少に供 給する誘 因を打消すように機能する一方で,同時に地方政府の私的消 費も上昇させることになる。

  第4章 では, 私的財で かつ連邦 体系全 体ヘスピ ルオー バーを生じさせるような非純 粋公共財 を分権 的にコン トロールする場合,中央政府による地域間所得移転のみでは 最適な資 源配分 が達成さ れないことを示す。ここで言う非純粋公共財の例としてエネ ルギーが 挙げら れる。自 動車を利用するためのエネルギー消費は私的財であると同時 にその使 用を通 して排気 物質を社会全体に生じさせることから純粋公共財でもある。

政府の再 分配政 策が効率 的に機能しない理由は,直接エネルギーの私的消費量を観測 した上で中央政府が所得移転をしたとしても,この所得移転は公共財(大気汚染)に対 する各地 域の貢 献に応じ たピグー税とはならないからである。そこで,各地域の技術 や選 好 の 違い を 反 映し た ネ ットの 大気汚染 に対する 貢献を 表明させ る1つの手法 と して排出 権取引 市場とエ ネルギー市場を導入することが有効であることを示す。市場 原理に基 づぃた 排出権及 びエネル ギーの 地域間取 引を許 容したう えで地 域の供給 す る排出権 許可に 応じて再 分配政策することは,大気汚染に対するネットの外部不経済 に応じた ピグー 税と等し くなる。この場合中央政府の再分配政策は,地方が非純粋公 共財の外 部性を 内部化す る誘因を与えることから,パレート最適な資源配分を達成し 得ることを保証する。また,この結果は住民の地域間移動度合い.の程度に依存せず,

一般的に成立する。

  第5章 では, 資本課税 の国家聞 による 租税競争 をモデ ルに導入することで,中央政 府の所得 再分配 政策が各 国家に租税競争に関する財政的外部性のみならず,公共財に 関する外 部効果 をも内部 化する誘因を与え,パレート最適な資源配分をもたらすこと を示す。 資本課 税競争の 激化が非効率な資源配分となるのは,税上昇により資本が他 国ヘ流出 すると 各国が推 測し,税源である資本を自国に流入させようと税率の引き下 げを行う 税率変 更の外部 効果に起因している。すなわち,ある政府は他の政府に及ぼ す自国の税率変更による資本(税源)変化を考慮しないため,囚人のジレンマの様に,

公共財供 給コス トを過大 に推測することになる。しかしながら,中央当局が介入し,

国家間の 再分配 政策を行 うことは,各国の資本移動に関する推測を修正することにな り,結果的に国家間の資源配分を最適なものへと導くことになる。本章での分析は「地 球温暖化 に関す る京都議 定書」にも適用可能である。京都議定書批准国の温暖化物質 肖IJ減目標(租税率)を観測した上で,各国に排出権を与えることは,排出権取引を通し た所得再 分配政 策と等し く,京都議定書の提案は地球温暖化対策に関して有効に機能 するであろう。

  最後に, 第6章におい て,各章 での分 析結果か ら結論 付けられる効率的な地方分権 制度のあり方と今後の研究課題が述べられる。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   板 谷 淳 一 副 査   教 授   小 野   浩

副 査  助 教 授  佐 野 博 之 ( 小 樽 商 科 大 学 商 学 部 ) 副 査  助 教 授  赤 井 伸 郎 ( 兵 庫 県 立 大 学 経 営 学 部 )

     学位論文題名

Fiscal Competition inaFederal State     with Mobile Populations

   (人口移動を伴う連邦体系における租税競争)

  本論文は、地 方政府が非協力的に行動する地方分権型社会において、不完全な人口移動(第5章は 資本移動)しか 行われないとき.公共財供給が効率的に行われるのか否か、行われないときには、中 央政府の事後的 な所得再分配政策によって効率的な資源配分が達成可能かどうかを統一的な視点から 理論的に検討し ている。特に,家計の地域問移動度合いがどのように地 方分権及び地方政府の政策 に 影響 を与 える か, また ,地 方 分権 の効 率性を高めるためには、 中央政府はどのような介入政策 を行うべきかと いう問題を検討している。.

  従来 の地 方財 政論 の多 くの 理 論的 な研 究では,家計が地域間を 完全に自由に移動可能であるこ と を仮 定す る結 果, 長期 的に 地 域間 の住 民の効用が等しくなると いう「移住均衡条件」が成立す る 。各 地方 政府 は、 この 均衡 条 件を 制約 として代表的住民の効用 を最大化するように私的消費お よ び地 方公 共財 の供 給量 (あ る いは 地方 税率)を選択する。各地 方政府は、他地域の地方政府を 競争相手とする 非協カゲームをプレイすることになるが、実現する均衡 では社会的に最適な資源配 分 が達 成さ れる 。さ らに ,他 地 域に 便益 がスピルオーバーするよ うな地方公共財が存在する場合 で も、 住民 の完 全移 動を 前提 と した 地方 分権は社会的な最適化を もたらすことが知られている。

  しか しな がら ,こ のよ うな 結 果は ,家 計の地域間移動が不完全 である場合成立しない。本論文 で は、 家計 の地 域間 移動 度合 い の変 更、 すなわち、住民の完全移 動の仮定を外した場合に上で述 べ た結 論が どの よう な影 響を 受 ける かを 、さまざまなモデル設定 のもとで検討して,さらに、パ レ ート 最適 が達 成さ れな い場 合 、効 率的 な資源配分を実現するた めの中央政府の役割を検討して いる。

  第1章 では ,本 論文 の基 本と なる 理論 モデ ルを 提示 し, 地 方財 政論 におけるこれまでの進展を レ ビ ュ ー す る 。 地 方 政 府 間 の 競 争 に よ っ て 地 方 公 共 財 の 供 給 が 最 適 に な る と い う チ ボ ー (Tiebout)の 「足 による投票」仮説はモデル・ビルディングにおけ る可能な選択枝のひとっではあ る が、 現実 の地 方財 政制 度を 分 析す る際 には必ずしも適切な仮定 とは言い難い。特に,全ての家 計 が同 質で 地域 間を 完全 に自 由 に移 動で きるとぃう仮定は非常に 強すぎるものと考えられる。本 章 では ,地 方政 府に よる 分権 的 な意 思決 定が、地域間を移動する 家計の移動度合いに応じてどの よ うに 変化 する のか ,そ して , 家計 の地 域間移動が不完全である 場合,中央政府による所得再分 配 政 策 が 効 率 的 な 資 源 配 分 を 達 成 す る た め の 手 段 と し て 有 効 で あ る こ と を 示 し た 。     第2章は ,代 表的住民の効用を最大化する正直な(benevolent)政府ではなく,住民の効用に加 え て自 らの 利益 (た とえ ば、 地 方政 府の 官僚の利益や効用)の最 大化を目的とするりヴァイアサ     ‑ 98一

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ン型政府(Leviathan)を想定する。このような設定のもとで、地方公共財を分権的に供給する際 に,家計の地域間移動度合いに応じてどのように政策変更を行うと、住民の厚生が改善されるか を分析している。本章の分析によれば、住民移動が高まることにより,リヴァイアサン政府の私 的消費は増加する一方で,家計の私的財消費及び公共財供給水準が減少することが示された。つ まり、リヴァイアサン型政府は,政府の無駄な出費を増加させ,住民の厚生を低下させる有害な ものとなり得る傾向があることが示した。

    第3章で は, 第2章の モデル に、 行政 区域 外に 便益 がス ピル オー バーするような地方   公共財を導入した。家計の地域間移動が不完全な場合,リヴァイアサン型の政府は私的消費   および公共財の過少供給が起こることが示された。そして,このような状況に対して中央政   府が どの ように介入すれば効率性が改善されるかを検討した。本論文では,地方政府が   最初 に行 動をして,次に、中央当局は地方政府がとる政策を観察した上で所得移転政策   を行 い, 最後 に、 家計 が地域 間を 移動 し居住地を決定するという3段階ゲームを考察し   てい る。 このような中央政府の所得移転政策は,家計の地域間移動度合いに依存するこ   とな く, 地方政府の公共財を過少に供給する誘因を打消すように機能する一方で,同時   に地方政府も私的消費を増加させることが示された。

    第4章で は, 私的 財で かつ 他地 域へ のスピルオーバーを生じさせるような準公共財が   存在 する とき,地方政府がそれぞれ独自に(すなわち、分権的に)に規制や環境政策を   通じ てそ の消費量をコントロールしている状況を考えた。ここで言う準公共財の例とし     て、自動車を利用するためのガソリン消費が考えられる。ガソリンは私的財であると同   時に その 使用 を通 して 発生し た排 気物 質が 社会 全体 の厚 生を 損な うような純粋公共財     (public bad)でもある。本章は、このような状況では中央政府による地域間所得移転     政策だけでは社会全体の最適な資源配分が達成できないことを示しただけでなく、新た     な政策提案を行っている。その政策とは、中央政府が排出権市場及びエネルギーの地域     間取引を許容したうえで、地方政府が供給する排出権許可に応じた間接的な再分配政策     であり、さらに、この政策は住民の地域間移動度合いの程度に依存せず,パレート最適     な資源配分を達成することを示した。

    第5章で は, 資本 課税 の国 家間 によ る租税競争をモデルに導入することで,中央政府     の所得再分配政策が各国家に租税競争に関する財政的外部性に加えて公共財による外部     効果の同時に内部化する誘因を与え,パレート最適な資源配分をも.たらすことを示した。

  本章での分析は、「地球温暖化に関する京都議定書」の厚生分析に対して重要な示唆を与     える。京都議定書批准国の温暖化物質削減目標(租税率)を観察した上で,各国に排出権     を与えることは,排出権取引を通した上述の所得再分配政策と同じ効果をもっと考えら   れる。

    最 後に ,第6章に おい て, 各章 での 分析結果が示唆する望ましい地方分権制度のあり     方と今後の研究課題が述べられている。

    本論文は以下の点で評価できる。

    (1)当該分野の先行研究では分析されていない様々なケース、たとえば、住民の移動     が 不 完 全 な ケ ー ス や り ヴ ァ イ ア サ ン 政府 を取 り上 げ、 分権 的な 財政 シス テム の中     で も 中 央 政 府 の 役 割 が あ る こ と を 明 確に し た こ と は 、 評 価 に 値 す る 。特 に、 第2     章 お よ ぴ 第3章 で 扱 っ た り ヴ ァ イ ア サ ン ・ モ デ ル で は 、 人 口 移 動 の程 度 が資 源配     分 に ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か に つい て一 定の 結果 を示 して おり 、興 味深 い。

    (2)従来の地方財政論の研究では、地方分権の文脈の中で中央政府の役割は限定的で     あ る 場 合 の 方 が 望 ま し く 、 積 極 的 な 中央 政府 の政 策介 入は かえ って 経済 的な 効率     を 損 な う と 主 張 す る 研 究 が 大 半 を 占 める が、 本論 文で は、 住民 の移 動が 不完 全な     ケ ー ス で は 中 央 政 府 の 積 極 的 介 入 政 策 を 支持 す る 点 で 大 変 ユ ニ ー ク で あ り 興 味     深い。

    (3)住 民移 動が 高ま るこ とに より ,リヴァイアサン政府の私的消費は増加する一方     ‑ 99−

(5)

(4

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で,家計の私的財消費及び公共財供給水準が減少することが示される。特に、人 口移動の程度が政府による社会的に無駄な支出に与える効果を分析している点 は新しいだけでなく、大変示唆に富む結果である。

5章は、pollutionとしての公害をテーマとしているが、これまでのいくっかの 先行研究を融合して、いままで注目されてこなかったいくっかの効果を新たに導 出 し て い る た め 、 モ デ ル と し て も 価 値 が あ る と 思 わ れ る 。 本論文の第3章は査読付きレフェリー雑誌Journal of Applied Economicsに掲 載されている。

ただし、口頭試問では次のような問題点や課題も指摘された。

(1)2‑3章でのりヴァイアサン政府の分析が、第1章とっながっていないため、2‑3章   章の結果がどのくらいりヴァイアサン政府の問題とかかわっているのかが必ずし   でない点が残念である。

(2)5章の論文は、pollutionとしての公害をテーマとしているが、使われているモデ   ルは通常の公共財モデルにかなり近い。公害を分析対象とするのであれば、公害特有   の性質を組み込んだようなモデル上の工夫が必要である。

以上のように山口力氏から提出された博士号請求論文を上記4人の委員が詳細に検討お よび議論を重ねた結果、当委員会は当該の博士号請求論文の内容及び水準が博士号(経済 学)を授与するに十分なものであるという結論に至った。

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