博 士 ( 歯 学 ) 佐 伯 典 彦
学 位 論 文 題 名
ラット抜歯創治癒過程におよぼす Bisphosphonate の 全身ならびに局所投与による影響について
学位論文内容の要旨
【緒言】
近年,Bisphosphonates (BPs)は強カな骨吸収抑制剤として,骨粗鬆症,Paget s Diseaseや 悪性腫瘍における高カルシウム血症の治療薬として臨床的に使用されて いる .歯 科領 域に おい ては ,実験 的歯 根吸収抑制に関する報告や,実験的歯周炎 によ る骨 吸収 の抑 制に 関す る報告 など の基礎的研究がなされている.しかしなが ら, それ らの 研究 のほ とん どが, 全身 投与による実験であり,局所の骨吸収の抑 制の みな らず ,全 身の 骨吸 収の抑 制や 副作用などのりスクを伴うものである.口 腔領 域に おけ る歯 周疾 患な どによ る局 所的 な骨 吸収 に対 してBPsの 局所投与によ る有 効性 につ いて 明ら かに するこ とは ,その適応範囲の拡大にもっながり臨床的 にも意義のあることと思われる.
一 方, 抜歯 創は その 治癒 過程の 比較 的初期に活発な破骨細胞性骨吸収が起こる こと が知 られ てお り,BPsの 骨組 織へ の基 本的 な影 響を 検索す る場 合,抜歯創は 有用 な検 索部 位で ある と考 えられ るが ,そのような検索はほとんどみられない.
そ こで 本実 験で は,BPsを 全身 的な らび に, 局所 的に 投与し ,ラ ットの抜歯創 治癒 過程 にお けるBPsの 基本 的な 影響 を明 らか にす る目 的で, 脛骨 および抜歯創 治癒 過程 を病 理組 織学 的, 組織計 量学 的,免疫組織化学的および電顕的に検索し た。
【 材 料 と 方 法】
生 後 約6週齢 ,体 重120‑‑130gのWistar系 雄性 ラッ トを 用い ,以 下の3群に わけ
(1)生 理食 塩水 を投 与し た対 照群 (C群 ) (2) BPs全身 投与 群(G群)
(3) BPs局所 投与 群(L群 )
各群5匹用 い, エー テル 麻酔 下で 以下 の処 置を 行っ た.G群には背部皮下へBPs を1.25mg/kgB.W.を0.5ml投与 した.L群には,ラット上顎左側口蓋粘膜下に,BPs (896Ltmol/l)を30pr,l局所注射した.C群には上顎左側口蓋粘膜下に生理食塩水を 30LL1投 与し た. 各群 とも 投与48時間後に,エーテル麻酔下にて,上顎左側第1臼 歯 を抜 去し た.
通 法 に 従 い パ ラ フ イ ン 包 埋 し た 標 本 は , ヘ マ ト キ シ リ ン ・ 工 オ ジ ン 染 色 (HE), ア ザ ン ・ マ ロ リ ー 染 色(AM)お よ び 酒 石 酸 耐 性 酸 性 フ オ ス フ ァ タ ー ゼ 染 色(TRACP), 抗5−bromo−2 deoxyuridine免 疫 染 色(BrdU)を 施 し た . 1.病理 組織 学的 検索 :抜 歯後1,3,5,7,14日後に各5匹ずつ,エーテルの吸入 に より 安楽 死さ せた .各 群と も,上顎骨,脛骨を取り出し,抜歯窩の治癒過程に
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生を中心に,組織学的,組織計量学的,免疫組織化学的,および電顕的に検索 し,その結果を検討したところ,以下の結論を得た.
1. BPs投与群では,全身投与群,局所投与群とも,抜歯創の治癒過程に遅延
が認められた.
2.脛骨骨幹部の破骨細胞においてBPs全身投与群では,形態的変化がみられ
たが,BPs局所投与群では,変化はみられなかった,
3. BPs投与群では,治癒過程における抜歯窩中隔歯槽骨の破骨細胞性骨吸収
が減少する傾向を示し,抜歯窩底部の骨新生の障害が認められたが,抜歯
窩外側の骨膜性骨新生の障害は認められなかった.
4.組織計量学的にも,BPs投与群では対照群に比べ,中隔歯槽骨部の破骨細
胞数は減少し,抜歯窩底部の骨新生量は減少していたが,抜歯窩外側の骨
膜性骨新生量には変化がみられなかった.
5.電顕的には,BPs投与群の抜歯窩中隔歯槽骨の破骨細胞は対照群に比し,
ruffled borderの発 達 が 不 良 で , 骨 吸 収 機 転の 障 害が 認め られた .
以上.BPsを全身的ならぴに局所的に投与した場合,抜歯窩の治癒は遅延するこ
とが明らかになったが,治癒の遅延には,BPsによる破骨細胞の微細構造的変化
に基づく骨吸収の障害が大きな要因となっていることを示唆するものと思われ
学位論文審査の要旨
学位論文題名
ラット抜歯創治癒過程におよぼすBisphosphonate の 全身ならびに局所投与による影響について
審査は、提出論文とそれに関連した学科目について、申請者に対して各審査委員が 口 頭試 問 によ り 行い 、 各審 査委 員の報告を 元に主査が その結果を まとめた.
近年、Bisphosphonates (BPs)は強カな骨吸収抑制剤であり、臨床でも使用されてい る。しかし、全身投与でしか使用されておらず、局所の骨吸収の抑制のみならず、全 身の骨吸収の抑制や副作用などのりスクを伴うものである。口腔領域における歯周疾 患などによる局所的な骨吸収に対してBPsの局所投与による有効性について明らかにす ることは、その適応範囲の拡大にもっながり臨床的にも意義のあることと思われる。
本研究では、BPsを全身的ならびに、局所的に投与し、ラットの抜歯創治癒過程におけ るBPsの基本的な影響を明らかにする目的で、脛骨および抜歯創治癒過程を病理組織学 的 、 組 織 計 量 学 的 、 免 疫 組 織 化 学 的 お よ び 電 顕 的 に 検 索 し た 。
【材料と方法】
生 後 約 6週 齢 のWistar系 雄 性 ラ ッ ト を 用 い 、 以 下 の3群 に わ け た 。
(1)生理食塩水を投与した対照群(C群)
(2) BPs全身投与群(G群)
(3) BPs局所投与群(L群)
各群5匹 用い、エー テル麻酔下で以下の処置を行った。G群には背部皮下へBPsを 1.25 mg/kgB.W.を0.5ml投 与した。L群には、 ラット上顎 左側口蓋粘 膜下に、BPs (896mmol/l)を30ml局所注射した。C群には上顎左側口蓋粘膜下に生理食塩水を30ml 投与した。各群とも投与48時間後に、エーテル麻酔下にて、上顎左側第1臼歯を抜去 した。
通法に従いパラフイン包埋した標本は、H―E染色、アザン・マロリー染色および酒石 酸耐性酸性フオスファターゼ染色(TRACP)、抗5―bromo・2 deoxyuridine免疫染色 (BrdU)を施した。
1.病理組織学的検索:抜歯後1、3、5、7、14日後に各5匹ずつ、エーテ´レの吸入によ り安楽死させた。各群とも、上顎骨、脛骨を取り出し、抜歯窩の治癒過程における骨 組織の動態と脛骨の経時的変化を病理組織学的に検索した。
2.組織計量学的検索:抜歯窩の形態学的変化を定量的に把握するため、抜歯後14日目 までの、脛骨骨幹部破骨細胞数、抜歯窩内破骨細胞数、破骨細胞核数、抜歯窩底部骨 新生量および抜歯窩外側の骨膜性骨新生量を計測した。
昇
男
稔
隆
畑
後
田
大
向
脇
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
3.免疫組織化学的検索:抜歯窩底部およぴ外側の骨膜性骨新生部のBrdU陽性細胞数の 計測をした。
4.電顕的検索:組織学的検索と同様に、抜歯窩を含む上顎骨を摘出し、中隔歯槽骨表 面に出現した破骨細胞を中心に電顕的に観察した。
【結果と考察】
脛骨骨幹部においてC、L群は、破骨細胞数に有意差は認められなかった。一方、G 群は3、5日 目でC、L群に比べて有意に多〈の破骨細胞がみられたが、破骨細胞は全 般に小型で不整形あるいは扁平なものが多〈みられた。本実験で行った口蓋粘膜下へ のBPsの局所投与は、口腔内の投与部位以外には強い影響を与えないものと考えられ た。
抜 歯 創に お いてG群 の抜 歯後3日目では 、TRACP陽性 を示す破骨 細胞がみら れた が、C群に比ベ大型で不整形、扁平になる傾向が認められた。抜歯後3日目の中隔歯槽 骨にみられた破骨細胞は、電顕的にもruffled borderの発達はC群に比ペ、全般に不良 で、細胞に占める割合が少なく、指状突起は短く、突起間の空隙は狭〈平板状を呈し ていた。破骨細胞数はC群に比ベ有意に少なかった。また核数も増加する傾向を示し た。抜歯窩底部の梁状の新生骨の形成はほとんどみられなかった。抜歯窩外側の骨膜 はC群と同様に広範囲に肥厚し、頬側および窩底部では梁状の新生骨が認められ、頬側 根抜歯窩底部の新生骨量は、G、L両群では、経時的に増加する傾向を示すものの、そ の値はC群に比 し小さく、 抜歯後5日目の新生 骨面積は、G、L両群でC群の約30%で あり、有意差が認められた。抜歯窩底部および外側の骨膜性新生骨周囲にBrdU陽性細 胞がみられたが、C、G群に有意差はみられなかった。L群でもG群とほぼ同様の所見が みられた。抜歯窩内では骨新生に先立ち、抜歯により損傷された歯槽骨の骨質の吸収 除去が行われることにより、骨芽細胞による骨新生が進むと考えられ、BPs投与群で は、抜歯創の治癒過程の早期にみられるBPsによるruffledborderを中心とする微細構造 の変化 に基づく個々の破骨細胞の機能障害に起因する破骨細胞性骨吸収の阻害によ り、その後の、骨新生が遅延したと考えられた。
抜歯窩外 側の骨膜性骨新生部において、新生骨量は、C、G、Lの3群とも経時的に 同様の増加傾向を示し、有意差はみられなかった。抜歯窩外側の骨膜部では破骨細胞 による骨吸収に依存しない骨新生が生ずるものと考えられた。
抜歯窩底 部および外側の新生骨部のBrdU陽性細胞において窩底部の新生骨周囲の BrdU陽性細胞数は、G、L群においてはC群と比較してBrdU陽性細胞数に有意な差が認 められなかった。また、抜歯窩外側の骨膜性骨新生部における新生骨周囲のBrdU陽性 細胞の数はG、L群においてC群と比較して有意な差が認められなかった。このような 所見は、BPsの全身および局所投与による抜歯窩底部および抜歯窩外側の骨新生部に出 現する細胞の増殖能におよぼす直接的影響は少ないことを示唆するものと思われた。
【結語】
BPsを全身的ならびに局所的に投与した場合、抜歯窩の治癒は遅延することが明らか になったが、治癒の遅延には、BPsによる破骨細胞の微細構造的変化に基づ〈骨吸収の 障 害 が 大 き な 要 因 と な っ て い る こ と を 示 唆 す る も の と 思 わ れ た 。
各 審 査 委 員 が 行 っ た 主 な 質 問 事 項 は 以 下 の 通 り で あ る 。 1) BPsは ど の よ う に 破 骨 細 胞 の 活 性 を 抑 制 す る の か 。 2) BPsの作用機序はどういうものか。
3) BPs投 与 群 で 破 骨 細 胞 の 核 数 が 増 加 す る の は な ぜ か 。 4)抜歯後14日目で抜歯窩底部の骨新生量が同じになるのはどうしてか。
5)破骨前駆細胞、単核や多核の破骨細胞では、BPsの作用が違うのか。
6) BPs投与前と投与後に出現した破骨細胞ではBPsの作用は違うか。
7) 局 所 投 与 でBPsは ど の く ら い の 範 囲 に 拡 散 し て い る の か 。 8) 抗BrdU免 疫 染色 は 、な に を検索する ためにおこ なったのか 。
9) BPs投与を抜歯48時間前に設定したのはどうしてか。
10)本 研 究 結 果 の 臨 床 応 用 へ の 展 望 に つ い て
これ らの 質問 に対 して 、論 文申請 者か ら明 快な 回答 をら びに 説明が得られ、さらに 今 後 の 研 究 に つ い て も 明 確 な 方 向 性 を も っ て い る と 判 定 し た 。 審査 委員 は全 員、 本研 究が 学位論 文と して 十分 値し 、申 請者 が博士(歯学)の学位 を 授与 され る資 格を 有す るも のと認 めた 。