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急性期脳保護療法の展望

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Academic year: 2021

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(1)● シンポジウム 1 脳梗塞急性期の診断・病態と治療. 急性期脳保護療法の展望 八木田佳樹. 要 旨  脳梗塞急性期治療において,微小循環障害や出血性変化を抑制しうる脳保護療法の開発が期待されている. 脳血管内皮を標的とした脳虚血発症前の介入により,良好な転帰が得られることは多くの研究により示されて いる.しかし脳虚血発症後の介入により有効性を発揮しうる脳保護薬の開発は楽観視できないのが現状であ る. 我 々 は 脳 虚 血 急 性 期 の 血 管 内 皮 機 能 障 害 の 分 子 メ カ ニ ズ ム を 検 討 し, 内 皮 型 一 酸 化 窒 素 合 成 酵 素 (endothelial nitric oxide synthase; eNOS)機能不全がその原因の一つである可能性を報告してきた.脳血管内皮に おいて eNOS が産生する NO は脳血流維持や抗血栓作用など脳内の恒常性維持に重要な役割を担う.しかし機 能不全をきたした eNOS はスーパーオキシドの産生源となり,酸化ストレスを亢進させることにより組織損傷 を拡大させる.このような問題点を一つ一つ明らかにしていくことが脳梗塞急性期における脳保護療法の開発 につながるものと考えている. (脳循環代謝 26:45∼49,2015). キーワード : 脳微小循環,血管内皮,内皮型一酸化窒素合成酵素. はじめに. 急性期脳保護療法について.  脳梗塞急性期治療においては虚血発症早期に閉塞血.  脳保護療法には大きく分けて,虚血侵襲が加わった. 管を再開通させることが最も高い治療効果につなが. 神経細胞や脳組織の障害を緩和しようとする神経保護. る.この目的のために遺伝子組み換え組織プラスミノ. と,脳血流の低下を抑制して虚血自体を軽減しようと. ゲン・アクティベータ(rt-PA)静注による血栓溶解療法. する血管保護の考え方がある.血管保護による脳保護. や血栓回収による脳血管再開通療法が施行される.こ. 療法には rt-PA 静注療法などと併用することで,出血. れらの治療法は診療システムの整備や新たなデバイス. 性合併症を抑制しようというコンセプトも考えられ. の開発を通して,近年治療成績の向上が期待されてい. る.フリーラジカルスカベンジャーであるエダラボン. る.一方で脳血管再開通療法は治療開始時間の制限や. は神経血管ユニットの崩壊を抑制し,出血性合併症を. 禁忌のために全ての症例でその効果が得られるわけで. 軽減することが報告されている1).また脳虚血急性期. はない.一般的治療法としては抗血栓療法がこれまで. に血管透過性を亢進させる VEGF に対する中和抗体を. も急性期症例に広く適応されてきたが,時に出血性合. 投与することで,rt-PA 静注療法に伴う出血性合併症. 併症を併発し症状の増悪をきたす例も存在する.この. 発症抑制効果も報告されている2).このほか微小循環. ため脳虚血による組織障害を緩和し,あるいは出血性. 保護も重要な治療標的である.虚血による血管内皮機. 合併症のリスクを軽減するような脳保護療法の開発が. 能障害や灌流圧低下による微小循環障害は虚血巣を進. 待たれている.. 展させ,虚血中心部より辺縁部へ梗塞巣を拡大させ る.このようなことからとくに血管内皮を標的として. 川崎医科大学脳卒中医学 〒 701-0192 岡山県倉敷市松島 577 TEL: 086-462-1111 FAX: 086-464-1128 E-mail: [email protected]. 治療介入を行い,脳保護効果を得ることを目指す考え 方は脳虚血急性期の新たな治療法開発につながるもの と期待できる.. ─ 45 ─.

(2) 図1 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. A. C. 6h 24h 48h. B. 7d. C. 6h. 24h 48h 7d. p-eNOS. eNOS b-actin. 2 p-eNOS/eNOS. p-eNOS/eNOS. 2. 1 * 0. C. *. *. 6h 24h 48h *. 0. 7d. *. eNOS/b-actin. eNOS/b-actin. C. 6h. 24h 48h 7d. 8. 8 6. *. 4 2 0. 1. C. 6h. 24h 48h. 6 4. 0. 7d. *. 2 C. 6h. *. 24h 48h 7d. 図 1.脳虚血後の eNOS 脱リン酸化の亢進(文献 6 より改変 引用) A:局所脳虚血後,大脳皮質の虚血中心部における eNOS 蛋白 の発現とリン酸化の推移.虚血 24 時以降で eNOS 蛋白発現は 亢進するが,リン酸化は大きく低下する.B:虚血による組織 損傷を免れる周辺領域ではリン酸化が保たれたまま eNOS 発 現が亢進している. * :P<0.05(虚血前と比較). メリットを有している可能性がある.また脳虚血発症. 血管内皮を標的とした治療法. 直後に eNOS を活性化させる Rho-kinase 阻害薬を投与 することで,血管内皮保護効果,微小循環保持を介し.  我々はこれまでに高血圧などの血管危険因子を有す. て脳保護効果を得ることができる5).しかし,実臨床. る場合,脳実質内小血管の内皮機能障害が存在し,病. では発症後一定時間を経過し,すでに脳梗塞が一部生. 態増悪に関与していることを示してきた.脳小血管の. じている脳に対して治療を行うことが多い.梗塞巣で. 内皮細胞において血管の恒常性を維持するのに重要な. 脳血管内皮機能を担う eNOS はどのような状態になっ. 働きをしているのが内皮型一酸化窒素合成酵素. ているのであろうか? eNOS を標的とする治療法を. (eNOS)で あ る. 高 血 圧 自 然 発 症 ラ ッ ト(SHR)で は. 考える上で,この情報は不可欠なものであるが,これ. eNOS 機能不全が生じており,脳血管閉塞による梗塞. までこの点についての詳細な検討はほとんどない.. サイズが通常より大きくなる.しかし降圧治療により. 虚血脳における eNOS 機能不全. eNOS 機能を維持できれば,脳血管閉塞による梗塞巣 の拡大進展を阻止しうることを見出している3).また シロスタゾールは高血圧による eNOS リン酸化の低下.  脳虚血により損傷を受けた脳組織において,eNOS. を抑制し,eNOS 機能を維持することで,虚血性脳組. 蛋白の発現は亢進することが以前より知られていた.. 織損傷を軽減する効果を有していた4).血管内皮機能. これは虚血に対する生体の防御的反応ではないかと考. 改善効果を有する薬剤を投与することで脳梗塞発症リ. 察されていた.しかし我々の検討では脳虚血巣におい. スクを抑制しうることは臨床的にも多くの報告があ. て eNOS 蛋白の発現は確かに増加しているものの,そ. る.このような脳梗塞予防のための治療法は,同時に. のリン酸化は大きく低下しており eNOS 機能不全の状. たとえ脳虚血が発症しても組織損傷が軽くなるような. 6) 態に陥っていることが示唆された(図 1) .そればか. ─ 46 ─.

(3) 図2 急性期脳保護療法の展望. Non-reduced Low temp ① ② ③ ④① ② ③ ④ Di. 6h. eNOS. Mo Di. 24h. NO. L-Arginie. 脳血管保護. Mo Di. 48h. 単量体化. Mo. O2-. Di. 7d. 脳損傷拡大. Mo. 図3. ①MCA core, ②MCA peripheral ③ACA area, ④contralateral 図 2.脳虚血後の eNOS 単量体化の亢進(文献 6 より改変引用) 局所脳虚血後 6 時間の時点では単量体化の進行は明らかではないが,その後単量体の eNOS 分子が検出され るようになる.eNOS は二量体で機能して NO を産生するが,単量体では NO を産生することはできず,O2‒ を産生し,酸化ストレスを生じる.. 脳虚血 eNOS分子. 脱リン酸化. 単量体化. NO. NO. NO NO NO. O2-. ONOO-. 図 3.脳虚血後に生じる eNOS 機能不全(文献 7 より改変引用). りではなく単量体で存在する eNOS 分子が増加してお. される.以上から脳虚血後に eNOS を標的として治療. り,eNOS uncoupling の状態であることが明らかと. 介入を考える場合,虚血病巣内の eNOS の状態を勘案. なった(図 2).eNOS は二量体で機能し,血管内皮に. 7) する必要があるといえる(図 3) .. おける NO 産生を行うものであり,単量体では NO を. 急性期の降圧療法と NO. 産生することはできず,代わりに O2‒ を産生すること になる.O2 は NO と反応することで ONOO となり, ‒. ‒. ニトロ化や酸化ストレスによる蛋白機能障害を引き起.  血管内皮を標的とする治療介入を急性期に行う場. こし,eNOS 機能障害もさらに進展させる.我々の検. 合,血圧低下を伴うことも懸念材料の一つになってい. 討でも,脳虚血巣の小血管におけるニトロ化の進行を. る.脳虚血急性期の降圧は是か非かという問題は,脳. 観察している.このような状態で eNOS 機能を賦活す. 卒中急性期治療における重要な未解決問題の一つと考. ることは逆に組織損傷の拡大を引き起こすことが懸念. えられている.急性期の過度な血圧上昇は予後不良と. ─ 47 ─.

(4) 脳循環代謝 第 26 巻 第 2 号. 関連する因子と考えられている一方で,急性期からの. 3) Oyama N, Yagita Y, Sasaki T, Omura-Matsuoka E, Tera-. 降圧薬の介入は機能予後悪化につながるという報告も. saki Y, Sugiyama Y, Sakoda S, Kitagawa K: An angioten-. ある .このような中で脳卒中急性期症例を対象とし. sin II type 1 receptor blocker can preserve endothelial. てニトログリセリン貼付剤を用いた降圧療法の安全性. function and attenuate brain ischemic damage in spontane-. 8). ously hypertensive rats. J Neurosci Res 88: 2889–2898,. と有効性を評価した ENOS 研究が報告された9).対象. 2010. 全体では,ニトログリセリンを用いた急性期降圧は安. 4) Oyama N, Yagita Y, Kawamura M, Sugiyama Y, Terasaki. 全であるが,転帰を改善するものではなかった.しか. Y, Omura-Matsuoka E, Sasaki T, Kitagawa K: Cilostazol,. し発症後 6 時間以内に投与を開始した群では,有意な. not aspirin, reduces ischemic brain injury via endothelial. 転帰の改善がみられた.また別の報告では発症 4 時間. protection in spontaneously hypertensive rats. Stroke 42:. 以内にやはりニトログリセリンを投与することで有意. 2571–2577, 2011. な転帰改善がみられたとされている .ニトログリセ. 5) Yagita Y, Kitagawa K, Sasaki T, Terasaki Y, Todo K,. リンは eNOS を介さず,非酵素的に代謝され NO にな. Omura-Matsuoka E, Kaibuchi K, Hori M: Rho-kinase. る.このため uncoupling を引き起こしている危険性の. activation in endothelial cells contributes to expansion of. ある eNOS を賦活することなく,NO を供給すること. infarction after focal cerebral ischemia. J Neurosci Res 85:. 10). 2460–2469, 2007. で微小循環を保護している可能性がある.このような. 6) Yagita Y, Kitagawa K, Oyama N, Yukami T, Watanabe A,. 戦略で既存の薬剤で脳保護効果を得られる治療法が開. Sasaki T, Mochizuki H: Functional deterioration of endo-. 発されれば実臨床に対する貢献は大きいものと考えら. thelial nitric oxide synthase after focal cerebral ischemia. J. れる.. Cereb Blood Flow Metab 33: 1532–1539, 2013 7) 八木田佳樹:eNOS を標的とした治療.In:最新臨床. おわりに. 脳卒中学(上),日本臨床社,大阪,2014, pp 407–411 8) Sandset EC, Murray GD, Bath PM, Kjeldsen SE, Berge E;.  脳小血管における eNOS の状態は虚血前後で大きく. Scandinavian Candesartan Acute Stroke Trial (SCAST). 変わる.このため eNOS を標的とする治療法を考える. Study Group: Relation between change in blood pressure. 場合,脳虚血病態のどの時点で介入するのかでその役. in acute stroke and risk of early adverse events and poor outcome. Stroke 43: 2108–2114, 2012. 割も大きく異なる.このような点を踏まえて脳保護療. 9) ENOS Trial Investigators, Bath PM, Woodhouse L, Scutt P,. 法の開発に挑戦していくことで,展望は開けるものと. Krishnan K, Wardlaw JM, Bereczki D, Sprigg N, Berge E,. 考えている.. Beridze M, Caso V, Chen C, Christensen H, Collins R, El Etribi A, Laska AC, Lees KR, Ozturk S, Phillips S, Pocock. 文 献. S, de Silva HA, Szatmari S, Utton S: Efficacy of nitric. 1) Yamashita T, Kamiya T, Deguchi K, Inaba T, Zhang H,. oxide, with or without continuing antihypertensive treat-. Shang J, Miyazaki K, Ohtsuka A, Katayama Y, Abe K:. ment, for management of high blood pressure in acute. Dissociation and protection of the neurovascular unit after. stroke (ENOS): a partial-factorial randomised controlled trial. Lancet 385: 617–628, 2015. thrombolysis and reperfusion in ischemic rat brain. J. 10) Ankolekar S, Fuller M, Cross I, Renton C, Cox P, Sprigg N,. Cereb Blood Flow Metab 29: 715–725, 2009 2) Kanazawa M, Igarashi H, Kawamura K, Takahashi T,. Siriwardena AN, Bath PM: Feasibility of an ambulance-. Kakita A, Takahashi H, Nakada T, Nishizawa M, Shimo-. based stroke trial, and safety of glyceryl trinitrate in ultra-. hata T: Inhibition of VEGF signaling pathway attenuates. acute stroke: the rapid intervention with glyceryl trinitrate. hemorrhage after tPA treatment. J Cereb Blood Flow. in Hypertensive Stroke Trial (RIGHT, ISRCTN66434824).. Metab 31: 1461–1474, 2011. Stroke 44: 3120–3128, 2013. ─ 48 ─.

(5) 急性期脳保護療法の展望. Abstract Brain protection in acute ischemic stroke Yoshiki Yagita Department of Stroke Medicine, Kawasaki Medical School, Okayama, Japan Preservation of the microcirculation and inhibition of hemorrhagic transformation are the promising strategy of brain protection in the acute cerebral ischemia. It is well established that the pre-ischemic endothelial nitric oxide synthase (eNOS) condition is closely related to cerebral ischemia severity. However, there were few reports about postischemic alterations in the eNOS regulatory system. We evaluated the eNOS phosphorylation and monomerization, and found functional deterioration of eNOS after cerebral ischemia. It is serious issue of the brain protection in the acute phase of ischemia. The endothelial dysfunction after cerebral ischemia may be one of main therapeutic target in acute cerebral ischemia. Key words: cerebral microcirculation, endothelium, eNOS. ─ 49 ─.

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図 2  L-Arginie  eNOS  NO  単量体化 O 2 -  脳血管保護 脳損傷拡大 図 2. 脳虚血後の eNOS 単量体化の亢進(文献 6 より改変引用) 局所脳虚血後 6 時間の時点では単量体化の進行は明らかではないが,その後単量体の eNOS 分子が検出され るようになる.eNOS は二量体で機能して NO を産生するが,単量体では NO を産生することはできず,O 2 ‒ を産生し,酸化ストレスを生じる.図3  脳虚血 NO  脱リン酸化 NO  eNOS 分子 NO  NO  O

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