<企画論文>関西経済の先を読む
著者
?林 喜久生
雑誌名
産研論集
号
42
ページ
1-2
発行年
2015-03-23
URL
http://hdl.handle.net/10236/13349
-1 - 地域経済の変動の独自性が高まってきており、関西はアジア諸国との関係が深いことやバラ ンスの取れた産業構造を有すること等により他地域との景気変動パターンの違いが存在する。 関西地域を営業基盤とする企業や地方自治体にとっては、この地域の景気動向を的確かつ早期 に把握することが、経営や政策運営にとって重要といえる。 こうした認識に基づいて今回の企画では、「関西経済の先を読む」 として、関西経済予測に おいて押さえておく必要のあるいくつかの重要なトピックスに焦点を合わせている。その意味 で、今回の企画は2008 年から 2010 年度にかけての産業研究所共同研究プロジェクト(研究代 表:根岸紳本学経済学部教授『関西経済の構造と景気指標』産研叢書No.35、日本評論社)に おける問題意識を受け継ぐものでもある。 今回の企画の大きな特徴として、関西全体と他地域・他国との相互依存関係とともに関西内 の地域間(具体的には各府県間)の相互依存関係及び関西内の各地域と他地域・他国との相互 依存関係に注目していることが挙げられる。関西の域内総生産(GRP)の半分を大阪府が占め、 残りの半分を兵庫県が占め、さらにその半分を京都府が占め、これまで関西経済の分析と言え ば、この3 府県の分析が中心であった。また、関西の貿易相手としてはアジアの中でも中国が 大きなウエイトを占め、中国との貿易関係に焦点を合わせることが多かった。しかし、「関西 経済の先を読む」にあたって、今企画の各論文の分析から浮かび上がってくるのは、滋賀県の 占める位置の重要性であり、韓国との貿易関係の重要性である。そして、関西とアジア諸国と の密接な貿易関係は、アジア諸国の多様なニーズに応えることのできる、地域全体としてバラ ンスの取れた産業構造があってこそということである。 根岸論文では、リーマンショックまでは関西に対して韓国の与える影響が大きかったことを 指摘している。また、根岸教授は関西の中では滋賀県が他府県に景気先行することを別論文で 明らかにしている(2013 年度 APIR 報告書第 2 章「景気の連動性:関西 2 府 5 県と韓国」)。稲 田・入江論文が指摘するように滋賀県は経済規模に比して製造業を中心に域際取引規模が大き く関西における地域間取引で重要な地位を占める。武者論文は滋賀県の輸出相手国として韓国 のウエイトが大きいことを輸送統計から明らかにしている。これらの分析からは、「韓国→滋 賀県→大阪府等の関西各府県」という景気連動関係が浮かび上がってくる。また、入江論文で は、いわゆるRAS 法を用いて関西各地域における生産技術構造の構造変化の検討を行い、関 西独自の高付加価値を生み出す産業構造への転換ができていないことを示している。さらに、 本企画では、「関西経済の先を読む」にあたって、ユニークで効率的で速報性のある景気指標 の可能性にも注目している。髙林・豊原論文では景気先行指標として「段ボール生産」が利用 できないか検討している。 本企画は5 本の論文から構成されている。以下、論文の概要を紹介しておこう。 企画論文
関西経済の先を読む
髙 林 喜久生
-2 - 産研論集(関西学院大学)39 号 2012.3 根岸論文(「関西景気指標の開発に関する一考察」)は、中国、韓国と日本あるいは関西の景 気の連動性が、近年、どのような関係にあるのか、景気指標(CI)の Granger 検定をもとに検 討し、リーマンショック以前は関西と韓国との連動関係が、それ以降は中国との連動関係が重 要であることを明らかにしている。また、CI は精度を落とさず、少ないデータ系列から作成 できることを示している。具体的に、今回、採用されたのは鉱工業生産指数、所定外労働時間 数、商業販売額(小売業)、有効求人倍率(除学卒)の4 系列である。 地域内の産業構造や、地域間の取引構造を包括的に捉えることのできる有力な統計資料とし て、地域間産業連関表がある。稲田・入江論文(「関西地域間産業連関表による域際取引構造 の分析」)では、アジア太平洋研究所によって開発された「2005 年版関西地域間産業連関表」 を用いて、関西2 府 5 県の域際収支を計測し、各県の特徴を示している。特に、経済規模の大 きな大阪府と、経済規模に比して域際取引規模の大きな滋賀県に着目して二県間の取引構造を 示し、関西内の各府県間の域際取引構造が大阪府を軸とした構造になっていること、関西内で 分業体制が確認できることなどを明らかにしている。 入江論文(「RAS 法による地域経済構造の比較分析」)では、地域ごとの産業構造の差異を 明らかにするという観点から、3 時点の各地域産業連関表を比較できるように部門統合したう えで、地域間比較を行っている。関西では平成7 年から 12 年にかけて、また 12 年から 17 年 にかけて、生産額・付加価値額ともに減少が続いているが、これは関西の各産業の中で、他地 域に比べて最も特化している産業である繊維製品部門のマイナスの寄与が大きいことを明らか にしている。またRAS 法を用いて各地域における生産技術構造の構造変化の検討を行い、関 西独自の高付加価値を生み出す産業構造への転換ができていないことを示している。 武者論文(「輸送統計からみる関西と東アジアの相互依存関係」)では「貿易統計」では正確 に把握できない、生産地・消費地を考慮された2 種類の「輸送統計」(「輸出入コンテナ貨物流 動調査」及び「国際航空貨物動態調査」)を利用し、関西の府県別の貿易動向を東アジア中心 に把握した。コンテナ貨物では、7 府県とも輸入相手先は中国が 50%超(滋賀県のみ 49.0%) と最も多いが、輸出では大阪府のみが中国を最大の相手先としている。大阪府、兵庫県につぐ 貿易量を持つ滋賀県は韓国を最大の輸出先としており、根岸論文の結果とも整合的である。航 空貨物はコンテナ貨物と比べ、東アジアとの取引は相対的に少なく、遠隔地との取引が多いこ とが明らかにされた(品目別では兵庫県の自動車部品や東大阪の電子部品の輸出が目立つ)。 国の景気の現状や先行きを把握する代表的指標としてCI が挙げられるが、同様に地域の景 気を把握する場合も地域のCI が用いられ、多くの都道府県で作成されている 。単独の経済指 標でありながら、地域の景気全般の動向を反映し、より簡便に入手でき、より速報性の高いデー タが存在すれば景気判断に資するであろう。髙林・豊原論文(「段ボール生産と景気変動に関 する一考察-関西経済を中心に-」)は、そのような可能性のあるデータとして「段ボール生産」 を取り上げている。同論文によれば、段ボール生産は全国、関西とも全体として短期的な景気 変動に先行していると判断することができること、段ボール生産は百貨店販売額を中心に大型 小売店販売額に先行していることが確認できる。すなわち条件付きであるが、段ボール生産は、 景気変動や個人消費に関する有力な先行指標になりうると判断することができると指摘してい る。 以上の企画論文が、関西経済予測に関心を持つ方々の興味を刺激し、研究発展の一助となれ ば、これに過ぎる喜びはない。