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社会的敗北ストレス誘発性うつ様症状に対する波長特異的光線治療の分子基盤形成

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Academic year: 2021

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̶ 85 ̶ 目  的 日本におけるストレス社会を背景に発症するうつ病 の治療において,人工太陽光を用いた光療法が行われ ているが,その作用機序は不明な点が多い。太陽光は, 紫外線,可視光線,赤外線など様々な波長を含む光線 であり,皮膚においてビタミン D の産生に関わるな ど欠かすことのできない自然の恵みである。しかしな がら,紫外線の曝露は,皮膚のしわ・たるみを表現型 とする光老化の原因となり,また,280 nm ∼ 600 nm の領域にわたる光線は波長特異的に分類される光線ア レルギーを引き起こすことが報告されている1)。一方, 近赤外線を利用した医療機器が,しみの治療として使 用されている。このように太陽光に含まれる様々な波 長光線は,波長特異的な作用を有していると考えられ ている。 近年,厚生労働省より,豪雪地帯および寒冷地域に おいてうつ病罹患率との相関性が認められることが報 告されており,天候は情動へ影響することが示唆され ている。一般に,晴天の日は気分が清々しく,雨の日 は気分が塞がるといった天候により情動の変化が生じ るが,実際に,気圧がうつ様行動を促進することが報 告されている2)。一方,天候は気圧のみならず太陽光 が地表に届く割合も変化させる。気象庁によると,地 表に届く紫外線量は,快晴の時に比べ,くもりの場合 は約 60%,雨の場合は約 30% の量になると報告され ている。したがって,太陽光が情動行動に影響を与え ることが十分に考えられる。しかしながら,その波長 特異的な中枢神経への影響を検討した例はほとんどな い。最近,表皮細胞において紫外線曝露により β エ ンドルフィンが産生され,中枢神経に作用し,紫外線 依存症を引き起こすことが明らかとされており3),光 線による皮膚を介した中枢への影響が提唱されてい る。本研究では,太陽光に含まれる紫外線(UVA) に起因する皮膚を介した中枢神経への影響を明らかと し,うつ様症状に対する紫外線の作用を解明すること を目的とした。 方  法 5 週齢雄性 C57BL6J マウスを 1 週間飼育環境に順化 させた後,Golden らの方法4)に準じて社会的敗北ス トレスを 10 日間与え,うつ様モデルを作製した(Fig-ure 1)。リタイア雄性 ICR マウス(Agressor)のホー ムケージにて C57BL6J マウスを 5 分間接触させるこ とにより社会的敗北ストレス負荷をかけた。ストレス 負荷後,C57BL6J マウスを ICR マウスのホームケー ジ間にて飼育し,24 時間知覚ストレス負荷も行った。 モデルマウスを対照群,イミプラミン(30 mg/kg) 投与群,紫外線(375 nm, 200 mJ/cm2)照射群に分け, 5 days/week を 1 クールとし,薬物及び紫外線照射を 4 クール行った。 [ストレス科学分野]ストレスマネジメント

社会的敗北ストレス誘発性うつ様症状に対する

波長特異的光線治療の分子基盤形成

水野 晃治

東京薬科大学生化学教室 (ストレス科学研究 2019, 34, 85-88) 研究助成金:680,000 円 Figure 1 社会的敗北ストレス doi.org/10.5058/stresskagakukenkyu.34.85

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社会的敗北ストレス誘発性うつ様症状に対する波長特異的光線治療の分子基盤形成 ̶ 86 ̶ うつ様行動は,オープンフィールド試験により評価 した(Figure 2)。40 cm × 30 cm のオープンフィール ド内に ICR マウスの入った直径 6 cm のケースを設置 した。オープンフィールド内にて C57BL6J マウスを 5 分間自由歩行させ,ICR マウスへの接触時間(interac-tion zone 滞在時間)および回避時間(avoid zone 滞 在時間)を測定した。不安行動は,高架式ゼロ迷路試 験により評価した(Figure 3)。高架式ゼロ迷路は, 直径 60 cm のリング状の高架に 4 分の 1 周ごとに壁 を設置し,opened arm と closed arm を作製した。高 架 式 ゼ ロ 迷 路 内 に 5 分 間 マ ウ ス を 自 由 歩 行 さ せ, opened armおよびclosed arm内の滞在時間を測定し, 不安状態を評価した。 結果・考察 社会的敗北ストレス負荷により回避行動の増加した マウスに対し,イミプラミン投与および紫外線照射を 行ったところ,イミプラミン投与群において ICR マ ウスに対する接触時間および回避時間は対照群と同様 であった。一方,紫外線照射群において,ICR マウス への接触時間は対照群と同様であったが,回避時間は 有意に抑制された(Figure 4)。接触時間に対する回 避時間の比も抑制されたことから,375 nm の紫外線 照射は,社会的敗北ストレスにおける攻撃者への恐怖 を緩和するものと考えられる。 社会的敗北ストレスにより不安様行動を示したマウ スに対し,イミプラミン投与および紫外線照射を行っ た。各処理群における典型的な行動の軌跡を Fig-ure 5A に示した。図のように対照群において,高架 式ゼロ迷路におけるマウスの open field への侵入はほ とんど認められなかった。一方,イミプラミン投与群 および紫外線照射群において,高架式ゼロ迷路におけ るマウスの open field への侵入が認められた。各処理 群における軌跡を DuoMouse_1.37 により解析したと ころ,イミプラミン投与群および紫外線照射群におい て,対照群と比較して open field の滞在時間は有意に 増加し,close field の滞在時間は有意に減少した(Fig-ure 5B)。また,各マウスにおける open field 滞在比 率も有意に増加した(Figure 5C)。このことから,イ ミプラミン投与および紫外線照射は社会的敗北ストレ スに対する不安様行動を抑制することが示された。 得られた結果の社会貢献性・新規性・独創性 紫外線は,UVA(320-400 nm),UVB(290-320 nm), UVC(220-290 nm)に大別される。このうち,UVC はオゾン層に吸収されほとんど地上には届かない。ま た,地上に届く紫外線のおよそ 95% は UVA であり, 残り 5% が UVB であり,地球環境研究センターの報 告5)から計算すると一日当たりのエネルギー量は, UVA は お よ そ 48000 mJ/cm2で あ り,UVB は 3600  mJ/cm2であると考えられる。UVA および UVB は, 共に活性型ビタミン D の合成に寄与する。しかしな がら,過剰な UVA の曝露は,皮膚の炎症や硬化,免 疫抑制作用を引き起こし,UVB は DNA 障害性を有 しており,過剰な UVB 曝露は皮膚の炎症や発がん作 用を示すことが知られている6)。精神神経科学におい ては,Fell らの報告のように,紫外線依存症は UVB が表皮細胞から β エンドルフィンの分泌を促すこと に起因するとされている3)。本研究では,社会的敗北 ストレス誘発性うつ様モデルに対し,UVA(375 nm) 200 mJ/cm2の連日照射により,うつ様行動ならびに Figure 3 高架式ゼロ迷路試験 Figure 2 オープンフィールド試験

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ストレス科学研究 Vol.34(2019)

̶ 87 ̶

Figure 4 うつ様行動に対する UVA の効果

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社会的敗北ストレス誘発性うつ様症状に対する波長特異的光線治療の分子基盤形成 ̶ 88 ̶ 不安様行動が抑制された。この照射条件は,一日の太 陽光の照射エネルギー量に対し,極めて低いエネル ギー量であり,このエネルギー量でうつ様行動および 不安様行動を改善したことは,副作用の低い精神疾患 治療の新規デバイス開発に大きく寄与するものと考え られる。一方,太陽光に含まれる UVA 以外の波長光 線が,うつ様行動ならびに不安様行動に与える影響は 明らかとなっていない。他の波長光線がうつ様行動に 与える影響を解明することにより,現在,精神科領域 で行われている人工太陽光による治療方法をより効果 的なものに改善できるものと考えられる。 文 献 1) 大塚藤男,皮膚科学第 10 版.金芳堂,2016.

2) Sato, J., Itano, Y., Funakubo, M., et al., Low barometric

pressure aggravates neuropathic pain in guinea pigs. Neurosci Lett 503, 152-156, 2011.

3) Fell, G. L., Robinson, K. C., Mao, J., et al., Skin beta- endorphin mediates addiction to UV light. Cell 157, 1527-1534, 2014.

4) Golden, S. A., Covington, H. E., 3rd, Berton, O., et al., A standardized protocol for repeated social defeat stress in mice. Nat Protoc 6, 1183-1191, 2011.

5) 佐々木政子,絵とデータで読む太陽紫外線―太陽と賢く 仲良くつきあう法―.独立行政法人国立環境研究所, 2006.

6) de Jager, T. L., Cockrell, A. E., Du Plessis, S. S., Ultravio-let light induced generation of reactive oxygen species. Adv Exp Med Biol 996, 15-23, 2017.

Figure 4 うつ様行動に対する UVA の効果

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