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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 西 村 愛 子

    学位論文題名

Vegetation dynamlCSafterpeatminingon     SarobetSuMir  コrthE

    ヽ  .e,n|  !rnJapan

(北海道サロベツ湿原における泥炭採掘跡地の植物群集動態)

学位論文内容の要旨

    ミズ ゴ ケ泥 炭地は、特 異な生物相 を有した生 態系であり 、北半球冷 温帯域に広 範に分布 するが、そ の面積は、 耕地化や採掘という人為撹乱により大きく減少してい る。その ため、泥炭 地生態系の 復元が、欧州や北米で試みられつっある。しかし、撹 乱前後の 物理的・化 学的環境の 劇的な変化と、環境要因問の時間・空間スケールを介 した相互作用のため、復元手法には多くの問題点が指摘されている。日本においても、

泥炭地は 広範に分布 し、泥炭採 掘も行われているが、その復元に関する研究は見られ ない。そ こで、本研 究は、北海 道サロベツ泥炭採掘地において、永久調査区を用いた モニタリングと窒素施肥実験により、(1)クロノシークエンス法および永久調査区方 を併用す ることによ り遷移パタ ーンを実証 する、(2)物理的要因 として水位を、化学 的要因と して水質を 取り上げ、 それらと群集構造との対応関係を得ることで群集発達 に関与す る主要な環 境要因を特 定する、(3)採掘後に 増加傾向に あった窒素に対する 植物の応答を検証することを主な目的として行った。

    サロ ベ ツ湿 原では、1970年 から毎年数 ヘクタール の泥炭採掘 が行われて いる。

そこで、1970年から1994年の間 で採掘年代 の異なる8年代の 採掘跡地と対照区として 未採掘地に、それぞれ調査区を設置し2002年から6年間に渡ルモニタリングを行った。

測定項目 は、植物群 集構造とし て総植被率、出現種の各被度を、環境要因として地下 水位変化と地下水中の栄養塩量を植物成育期間中に測定した。地下水の化学特性とし,

ては、pH、 電気伝導度 、全窒素、 全リン、茄 よび9種 類のイオン を選んだ。これらの 植物群集 と環境との 対応関係と 年変動パターンを一般化線形混合モデル、正準対応分 析等の多 変量解析を 用いて解析 した。さらに、窒素による富栄養化が植物群集の発達 過程に与える影響を検証するために、採掘跡地にある4群集(裸地・ミカヅキグサ群集

・ヌマガヤ群集・ミズゴケ群集)に対して、窒素濃度の変えた施肥実験を行い、3年間 に渡り群 集の変化を 調査した。 実験終了時に、植物体地上部を刈り取り、バイオマス を 測 定 し た 。 こ れ ら の 結 果 を も と に 窒 素 濃 度 へ の 植 物 の 応 答 を 評 価 し た 。     未採 掘 地の 植物群集は 、イポミズ ゴケとホロ ムイスゲの 優占度が高 いミズゴケ 群集であ った。採掘 跡地の地下 水中の栄養塩類は、未採掘泥炭地に比べてNH4+、K+、

(2)

全窒 素の濃度が高く富栄養化傾向を示していた。放棄年数が経過すると、これらのイ オン 濃度は減少傾向が見られるが、未採掘地における栄養塩濃度よりは高かった。さ らに 、採掘地により水位が異なっており、高い水位の地域ほど、栄養塩類は少ない傾 向にあった。

    植被率 ・種 数は 放棄年 が進 むに っれ 増加し たが 、い ずれ も未採 掘地より低い状 態で あった。採掘地において遷移初期段階にある裸地では、ミカヅキグサの侵入と優 占が 認められた。放棄からの経過年が15年よりも短い採掘地では、ミカヅキグサの優 占度 が調査期間を通じ増加していたが、25年以上経過した採掘地ではミカヅキグサの 優占 度は低下傾向となった。これらのことから、採掘跡地には、まずミカヅキグサが 侵入 し、25年程度で衰退していくことが明らかとなった。ミカヅキグサの衰退に呼応 して、イネ科のヌ,マガヤとヨシの優占度が高くなる傾向が認められ、ミカヅキグサ群 集はヌマガヤ・ヨシ群集ヘ推移していくことが示された。傾向化除去対応分析からは、

ヌマ ガヤ・ヨシ群集は、安定した群集ではなく、今後異なる群集に推移するものと判 断で きたが、ミズゴケ群集ヘ向かう傾向は認められなかった。さらに、採掘地におけ るミ ズゴケの定着は限られた採掘年代の地域でのみ認められ、全体としては、ミズゴ ケ湿原への回復の可能性は低かった。

    採掘跡 地で ミズ ゴケの 定着 がみ られ た地域 では 、平 均地 下水位 が高い傾向があ ったが、採掘後30年経過した地域ですら未採掘地のミズゴケ量には達していなかった。

一方 、ヌマガヤ・ヨシ群集の発達は、平均水位よりも水位変動により強く規定されて いた。

    正準対 応分 析か らは、 採掘 跡地 内で は、平 均水 位や 水位 変動幅 といった物理的 要因 が群集構造に強い影響を与えているが、未採掘地と採掘跡地における群集構造の 相違 は、第一にpHや全窒素のような化学的要因の相違に起因し、ついで水位が関与し てい ることが示された。これらのことは、採掘跡地へのミズゴケの侵入には、水位が 直接 的に関与し、高い水位を維持することが必要不可欠であることを示している。さ らに 、未採掘地に見られるミズゴケ群集を形成する際には、化学的要因が水位よりも 重要となることが示唆された。

    植被が 高い 地域 では窒 素施 肥量 に対 する植 物の 応答 が顕 著で、 施肥濃度を増加 させ るにっれ、植被率や種数は減少した。さらに、ミカヅキグサ群集とミズゴケ群集 では 、施肥量の増加にっれ被度も減少した。未採掘地のミズゴケ群集では、維管束植 物、 特に、ホロムイスゲのバイオマスは施肥量が多いほど高くなった。ミズゴケは、

未採掘地、採掘跡地ともに、窒素施肥によルバイオマスを減少させた。採掘跡地では、

ミカ ヅキグサ群集において窒素施肥により、優占種であるミカヅキグサが減少し群集 構造 をもっとも変化させていた。したがって、採掘跡地では、窒素量を増加させると ミズ ゴケが減少し、イネ・スゲ類が優占し、富栄養化が進めばミズゴケ泥炭地の再生 はより困難となることが示唆された。

    以上のことから、撹乱地内という局所スケールでの群集発達規定要因としては、

水位 とその変動が群集を発達させる直接要因として重要であるが、非撹乱地を含めた 広域 スケールでは、栄養塩類、特に、窒素量がミズゴケ定着を規定する重要な要因と     −1078宀

(3)

なることが示された。水位は、直接的に栄養塩濃度と植物定着を規定し、さらに、間 接的に栄養塩濃度の操作を介してミズゴケ定着を促進あるいは阻害していると考えら れた。これらのことから、スケール依存的な要因が直接的・間接的に群集発達に関与 していることが明らかとなり、今後の撹乱地における生態系の保全と修復に応用でき る展望を得ることができた。

(4)

学位論文審査の要旨 主査   准教授   露崎史朗 副査   教授   田中俊逸 副査   教授   大原   雅

副査   教授   原口   昭(北九州市立大学      国際環境工学部)

    学位論文題名

Vegetation dynamlCSafterpeatminingon     SarobetSuMir  〇rthernJapan     ヽ  .e.n|

(北海道サロベツ湿原における泥炭採掘跡地の植物群集動態)

    ミズ ゴ ケ湿 原 は、 特 異な 生 物相 を 有し た 生態 系 で あり、北半 球冷温帯域 に広範に分 布するが、 その面積は 、人為撹乱 により大き く減少して いる。その ため、湿原 生態系の復 元が、欧州 や北米で試 みられつっ ある。しか し、撹乱前 後の物理的 ・化学的環 境の劇的な 変化と、環 境要因間の 時間・空間 スケールを 介した相互 作用のため に、復元手 法には多く の問題点が 指摘されて いる。日本 においても 、ミズゴケ 湿原は広範 に分布し、 ミズゴケか らなる泥炭 の採掘も行 われている が、その復 元に関する 研究は見ら れない。そ こで、本研 究は、北海 道サロベツ 泥炭採掘地 において、 永久調査区 を用いたモ ニタリング と窒素施肥 実験を継続的に行い、以下の知見を得た。

    サロ ベ ツ湿 原 では 、1970年か ら 毎年 数 ヘク タ ール の泥炭 採掘が行わ れて いる。そこ で、1970年から1994年の問で採掘年代の異なる8年代の採掘跡地と未 採掘地(対照区)に、それぞれ調査区を設置し2002年から6年間に渡ルモニタリン グと地下水 位変化と地 下水中の栄 養塩類量の 測定を行っ た。さらに 、富栄養化 が植物群集 の発達過程 に与える影 響を検証するために、4っの群集(裸地・ミカ ヅキグサ群集・ヌマガヤ群集・ミズゴケ群集)に対して、窒素濃度を変えた施肥 実験を行い 、3年 間に渡り群 集の変化を 調査し、窒素濃度への植物の応答を評価 した。

    未採 掘 地の 植 物群 集 は、 イ ボミ ズ ゴケ と ホロ ム イ スゲが高い 優占度を示 すミズゴケ 群集であっ た。採掘跡 地の地下水 中の栄養塩 類は、未採 掘泥炭地に 比べて富栄 養化傾向を 示し、放棄 年数の経過 に伴い栄養 塩類濃度は 減少傾向が

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見られた。さらに、採掘地により水位が異なり、高水位の地域ほど、栄養塩濃 度は低い傾向にあった。採掘跡地には、まずミカヅキグサが侵入し、25年程度 経過すると衰退していくことを示した。さらに、ミカヅキグサの減少に呼応し て、イネ科のヌマガヤとヨシの優占度が高くなり、ミカヅキグサ群集はヌマガ ヤ・ヨシ群集ー推移していくことが示された。しかし、ヌマガヤ・ヨシ群集は、

安定した群集ではなく、異なる群集に推移するものと予測されたが、ミズゴケ 群集へ向かう傾向は認められず、ミズゴケ湿原への回復は困難であると結論で きた。さらに、採掘地におけるミズゴケの侵入は、平均地下水位が高い地域に 限られていた。一方、ヌマガヤ・ヨシ群集の発達は、平均水位よりも水位変動 により強く規定されていた。よって、採掘跡地内では、平均水位や水位変動幅 と ぃ っ た 物 理 的 要 因 が 群 集 構 造 の 発 達 に 強 い 影 響 を 与 え て い る 。     一方、未採掘地と採掘跡地における群集構造の相違は、第一にpHや全窒 素のような化学的要因の相違に起因し、っいで水位が関与していることが示さ れた。これらのことは、採掘跡地へのミズゴケの侵入には、水位が直接的に関 与し、高い水位を維持することが必要不可欠であることを示された。さらに、

未採掘地に見られるミズゴケ群集を形成する際には、化学的要因が水位よりも 重要となることが示唆された。

    植被が高い地域では窒素施肥量に対する植物の応答が顕著で、施肥濃度 の増加にっれ、植被率や種数は減少した。さらに、ミカヅキグサ群集とミズゴ ケ群集では、施肥量の増加にっれ被度も減少した。未採掘地のミズゴケ群集で は、維管束植物、特に、ホロムイスグのバイオマスは施肥量が多いほど高くな った。ミズゴケは、未採掘地、採掘跡地ともに、窒素施肥によルバイオマスを 減少させた。採掘跡地では、ミカヅキグサ群集において窒素施肥により、優占 種であるミカヅキグサが減少し、群集構造をもっとも変化させていた。したが って、採掘跡地では、窒素量を増加させるとミズゴケは定着できず、イネ・ス ゲ類が優占し、富栄養化が進めばミズゴケ泥炭地の再生はより困難となること が示された。

    申請者は、以上の成果をもとに、局所スケールと地域スケールでの群集 発達規定要因が異なること、さらに、それらの規定要因間のスケール依存関係 を示すことができた。即ち、ミズゴケ湿原復元には、第一に、適切な水位の誘 導により植物の侵入を促し植被の形成を行い、ついで栄養塩の操作によルミズ ゴケ群集を誘導できる可能性を示すことができた。この成果は、撹乱地におけ る生態系の保全と修復に応用できるものであり、植物生態学研究を含めた地球 環境科学研究に大きく寄与するものと確信する。

    審査委員一同は、これらの成果を評価し、研究者として誠実かつ熱心で あり、大学院課程に韜ける研鑚や取得単位なども併せ、申請者が博士(地球環境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

参照

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