博 士 ( 歯 学 ) 水 山 和 典
学 位 論 文 題 名
審美性矯正ワイヤーの水中浸漬による 影響とコーテイング処理に関する研究
学位論文内容の要旨
【緒言】
繊 維 強 化 型 プ ラ ス チ ッ ク 審 美 性 矯 正 ワ イ ヤ ー ( 以 下 、FRPワ イヤ ー) はガ ラス 繊維 に 生 体 親 和 性 に 優 れ たCa0―P20s―Si02―AJ203ガ ラ ス 、 マ ト リ ッ ク ス 材 にPMMA樹 脂 を 用 い て 外形 約0.5 mmに 引抜 成形 し た審 美性 に優 れる 線材 料で ある 。こ れま での 室温 乾 燥 条 件 に よ るFRPワ イ ヤ ー の 研 究 で は 、 ワ イ ヤ ー 外 径 を 変 え ずに 繊維 の体 積分 率を 変 化 さ せ る こ と でTi−Ni系 ワ イ ヤ ー からCo−Cr系 ワイ ヤー まで の広 い範 囲の 矯正 カが 発 揮 で き る こ と を 明 ら か に し て き た 。 本 研 究 で は 、 最 大30日 問 まで の水 中浸 漬がFRP ワ イ ヤ ー の 機 械 的 特 性 に 及 ば す 影 響 を調 べ、 さら に吸 水に よる 機械 的特 性の 劣化 を防 ぐ た め 、 ワ イ ヤ ー 表 面 へ の コ ー テ ィ ング 処理 の材 料と 方法 を検 討す るこ とを 目的 とし た。
【試料および方法】
1.試料
ワ イ ヤ ー 材 料 と し て 繊 維 体 積 分 率50% のFRPワ イ ヤ ー を 用 い た 。 コ ー テ ィ ン グ 材 と し て 、 シ リ コ ー ン ゴ ム 、 フ ッ 素 樹 脂 お よ びBis―GMAの3種 類 を選 択し た。 コー ティ ン グ 方 法 に は デ ィ ッ プ 法 を 用 い 、Bis−GMAに はさ らに ワイ ヤー 長軸 に対 して 垂直 方向 に 手 指 圧 に よ り 回 転 さ せ る ロ ー ル 法 、お よび ロー ル法 とデ ィッ プ法 を組 み合 わせ たロ ー ル ア ン ド デ ィ ッ プ 法 ( 以 下 、R&D法 ) も 用 い た 。 デ ィ ッ プ 法 の引 上速 度は 手動 引上 では1.5〜2cm/min、機械引上 ではlcm/minと6cm/minとした。
2.実験方法
水 中 浸 漬 試 験 は 水 温37℃ に10,20,30日 問 お よ びJIS規 格Kー6911に 準 拠 し た 水 温 100℃ での1,2,3時 間の 浸漬 を行 った 。機 械的 特性 試験 と して 、クロス^ッ ドスピード lcm/min、 標 点 間 距 離14mm、 最 大 た わ み2mmの 設 定 で3点 曲 げ 試 験 を 行 っ た 。 機 械 的 特 性の 浸漬 によ る影 響を 、た わみ1 mmでの負荷時 荷重値(Deactivating load: PD)と除荷 時荷重値(Activating load: PL)から算出した荷重維持率=PD/PLX100(めを用いて、定量的 に 評 価 し た 。FRPワ イ ヤ ー と コ ー テ ィ ン グ 材 と の 界 面 の 接 着 状 態を 観察 する ため 、光 学 顕 微 鏡 お よ びSEMで コ ー テ ィ ン グ ワ イ ヤ ー 断 面 を 観 察 し た 。 ま た 、 最 大 た わ み2mm の 状 態 を 再 現 し た 治 具 に 試 験 後 の ワ イ ヤ ー を 装 着 し 、SEMで 最 大引 張応 力集 中部 近傍 を観察した。
【結果】
I.未処理ワイヤーの37℃水中浸漬試験
浸 漬10日 目 以 降 で の 未 処 理 ワ イ ヤ ー は 、 た わ み1.5 mmを 越 え た 領 域 で 急 激 な 荷 重 降 下 を 示 し た 。 荷 重 維 持 率 は 、 浸 漬 前 で は80% 以 上 で あ っ た が 、 浸 漬10日 目 で10% 以 下 に 低 下 し 、30日 目 ま で 同 様 で あ っ た 。SEM像 で は 、 浸 漬 前 に はFRP構 造 の 破 壊 は 観 察 さ れ な か っ た が 、 浸 漬30日 目 の も の で は ガ ラ ス 繊 維 の 破 断 お よ ぴ ガ ラ ス ― マ トリックス界面問の剥離が認 められた。
―533ー
n.
各種コーティングワイヤーの37℃水中浸漬試験シリコーン ゴムおよ びフッ素 樹脂によ るコーテ ィングワイヤーは浸漬
10
日目以降 すでに未処理ワイヤーとほぼ同様なヒステリシス挙動を示し、荷重維持率も浸漬初期 から低下 し、浸漬30
日目では 約30
%であ った。SEM像 からコー ティング膜 の剥離やFRP
ワイヤー表 面の一部 露出が認められた。しかし、Bis―GMAコーティングワイヤー では 浸 漬30日 目ま で 良好 な 弾 性回復を 示し、荷 重維持率 も浸漬30日目 まで50
%以 上を維持 した。ワ イヤー断 面像から シリコー ンゴムコ ーティング では15
〜152Hmと 不均一な コーティ ング膜の 剥離が、 フッ素樹 脂では膜 厚が2〜33pmと薄 いため一 部 にワイヤー表面の露出が観察されたが、Bis
−GMAでは表面全体を均一な厚さで完全に 被覆していた。m
.BisーGMAコーティングワイヤーの水中浸漬試験1
.コーティング方法依存性コーティン グ効果を 短期間で判定するために以下100℃浸漬試験を行い、最適試料 作成条件を 求めた。 ロール法 で作製し たコーテ ィングワイヤーでは100℃浸漬1時間 目にすでにたわみ1.5 mm付近から、ディップ法では1.8mm付近から急激な荷重降下を 呈したが、
R&D
法では浸 漬3時間目 まで良好 な弾性回 復を示した。荷重維持率におい ても、浸 漬1
時間目 からロー ル法とデ ィップ法 では約5%ま で急激な低 下を示し たの に対し、R&D法 では浸漬3
時間目ま で約60
〜80% を維持し、良好なコーティング効果 を示した。ワイヤ一断面像から、ロール法で作製したワイヤーでは表面の微細な凹凸 にもコーティング材が浸透していたが、凸部の完全な被覆は困難であった。ディップ 法およびR&D
法ではコーティング膜がワイヤー外周をほば均一に円形に被覆していた。2
.引上速度依存性引 上速 度
6cm/min
では 膜 厚が 約274pmと厚 く、機械 的特性も 膜厚の影 響による荷 重値の上 昇を示し たが、引 上速度lcm/min
で は膜厚が 約119肛mと薄 くなり、機 械的 特性も未処理ワイヤーと同等であった。3
. 37℃浸漬時間依存性100
℃浸漬試験 で得られ た最適条件で作製したコーティングワイヤーについて37℃ 浸漬試験を 行った結 果、浸漬30
日目まで 良好な弾 性回復を示した。荷重維持率にお いても未処理ワイヤーに比較して、コーティングワイヤーでは60
〜80%と高い値を示 した。最大 引張応力 集中部近 傍では浸 漬前、浸 漬30
日目ともワイヤー表面全体をコ ーティング材が被覆し、ガラス繊維の露出およびコーティング膜の亀裂や剥離は認め られなかった。【考察】
最大30日間 の浸漬試 験により 、
FRP
ワイヤ ーは浸涜 初期から 曲げ荷重と 弾性の低 下を示した 。SEM
像よル ガラス繊維の局所的な破断およびガラス―マトリックス界面 間での剥離 が観察さ れたことから、機械的特性低下の原因としてFRPワイヤーの吸水 に よ る 影 響 が 考 え ら れ た た め 、 コ ー テ ィ ン グ の 必 要 性 が 生 じ た 。コーティン グ材とし てシリコーンゴム、フッ素樹脂および
Bis
−GMAの3種類を検討 し、操作性、膜厚と均一性、および低感水性の点からBis―GMAが最も優れていた。ま た、・コーティング方法ではワイヤー表面との優れた機械的密着性を示すロール法と均 一なコー ティング 膜を得ら れるディ ップ法( 引上速度lcm/min)
を組み合わ せたR&D
法 が ワ イ ヤ ー 表面 と 水 とを 隔 離 する こ とが で き たた め に最 良 の 結果 を 示し た 。100
℃および37℃ 水中浸漬試験のいずれもワイヤーの機械的特性への影響は定性的 に類似し、 変化に要 する時間が異なっていた。これは100℃の高温では吸水効果が加 速され、短時間で吸水飽和に達するためと考えられ、コーティング処理の優劣を短期 間に判断できる上で有効であった。SEM
像では未処理のFRP
ワイヤー表面にはガラス繊維の露出が認められたのに対し、コーティングワイヤーの表面にはコーティング膜のみが観察され、ワイヤーの露出は 認められなかった。これにより、ワイヤーの吸水が低下し、機械的特性の劣化が減少 したものと考えられた。
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これより、Bis −GMA コーティングは水中浸漬の影響を低減する上で非常に有効であ ったと考えられた。
【結論】
FRP ワイヤーの機械的特性に及ぼす水中浸漬の影響を調ベ、機械的特性の低下を防 ぐため種々のコーティング処理を試み、その効果について検討した結果、FRP ワイヤ ー表面へのBisGMA コーティング処理により吸水による機械的特性の低下を改善する ことが可能となり、臨床応用を実現する上で極めて有効な手段であると考えられる。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
審美性矯正ワイヤーの水中浸漬による 影響とコーテイング処理に関する研究
審 査 は 主 査 、 副 査 全 員 が 一 同 に会 して 口頭 でな され 、初 めに 本論 文の 要旨 の説 明 を 求 め 、 申 請 者 か ら 以 下 の よ う な 内 容 に つ い て の 論 述 が な さ れ た 。
繊 維 強 化 型 プ ラ ス チ ッ ク 審 美 性 矯 正 ワ イ ヤ ー (FRPワ イ ヤ ー ) は ワ イ ヤ ー 外 径 を 変 え ず に 繊 維 の 配 合 率 を 変 化 さ せ るこ とで 、室 温乾 燥条 件下 では 金属 ワイ ヤ ーの 広範 囲 な 矯 正 カ を 発 揮 で き る こ と が 調 べ ら れ て い る 。 本 研 究 は 、FRPワイ ヤー の より 臨床 に 則 し た 条 件 で あ る 水 中 浸 漬 の 影 響を 調べ ると とも に、 吸水 によ る特 性劣 化 を防 ぐた め 、 ワ イ ヤ ー 表 面 へ の コ ー テ ィ ン グ 材 料 、 方 法 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。
【 試料 およ び方 法】
1.試 料
ワ イ ヤ ー 材 料 と し て 繊 維 体 積 分 率50% のFRPワ イ ヤ ー を 用 い た 。 コ ー テ ィ ン グ 材 と し て 、 シ リ コ ー ン ゴ ム 、 フ ッ 素 樹 脂 お よ びBis―GMAの3種 類 を 選 択 し た 。 コ ー テ イ ン グ 方 法 に は デ ィ ッ プ 法 を 、Bis―GMAに は さ ら に ロ ー ル 法 、 お よ び ロ ー ル 法 と デ イ ッ プ 法 を 組 み 合 あ わ せ た ロ ー ル ア ン ド デ ィ ッ プ 法 (R&D法 ) も 用 い た 。 2.実 験方 法
水中 浸漬 は37℃に10,20,30日 間お よび100℃ に1,2,3時間 の浸漬を行った。機械的 特 性 試 験 と し て 、 最 大 た わ み2 mmま で の3点 曲 げ 試 験 を 行 っ た 。 機 械 的 特 性 へ の 影 響 を 、 た わ み1 mmで の 負 荷 時 荷 重 値 と 除 荷 時 荷 重 値 か ら 算 出 し た 荷 重 維 持 率 で 定 量 評 価 し た 。 界 面 の 接 着 状 態 を 光 学 顕 微 鏡 、SEMで 観 察 し た 。 ま た 、 最 大 た わ み2mm を 再現 した 治具 にワ イヤ ーを 装着 し、SEM観 察し た。
【 結果 】
I. 未処 理ワ イ ヤー の37℃浸 漬試 験
未 処 理 ワ イ ヤ ー の 荷 重 維 持 率 は 浸 漬 前 で は80% 以 上 で あ っ た が 、 浸 漬10日 目 で 10% 以 下 に 低 下 し 、30日 目 ま で 同 様 で あ っ た 。SEM像 で は 、 浸 漬30日 目 以 降 の もの では ガラ ス繊 維の 破断 およ び界 面剥 離 が認 めら れた 。
n.各 種コ ーテ ィ ング ワイ ヤー の37℃浸 潰試 験
シ リ コ ー ン ゴ ム お よ び フ ッ 素 樹 脂 コ ー テ ィ ン グ ヮ イ ヤ ー は 浸 漬30日 目 に は 荷 重 維 持 率 が 約30% ま で 低 下 し た 。SEM像 か ら コ ー テ ィ ン グ 膜 の 剥 離 や ワ イ ヤ ー 表 面 の 一 部 露 出 が 認 め ら れ た 。 し か し 、BisーGMAコ ー テ ィ ン グ ワ イ ヤ ー で は 浸 漬30日 目
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夫
治
昇
文 進
理
村
畑
亘
中
大
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
まで 50 % 以上を維持した。ワイヤー断面像からシリコーンゴムでは15 〜152 皿m と不 均一な膜の剥離が、フッ素樹脂、では膜厚が2 〜33 皿m と薄いため一部にワイヤー表面 の露出が観察されたが、Bis −GMA では表面全体を均一な厚さで完全に被覆していた。
III .Bis −GMA コーティングワイヤーの水中浸漬試験 1 .コーティング方法依存性
コーティング効果を早期に判定するため以下100 ℃浸漬試験を行い、最適作成条件 を求 めた 。荷重 維持 率は 、ロ ール 法と ディップ法では浸漬1 時間目から約5% まで急 激な 低下 を示し たの に対 し、 R&D 法で は浸漬 3 時 間目 まで 約60 〜80 %を維持し、良 好な コー ティング効果を示した。断面像から、ロール法では凸部の不完全な被覆が 観察 され たが、 ディ ップ 法お よび R&D 法ではワイヤー外周をほぼ均一に円形に被覆 していた。
3 . 37 ℃浸漬時間依存性
100 ℃ 浸 漬 試 験 で得 られた 最適 条件 で作 製し たコ ーテ ィン グワ イヤ ーに つい て 37 ℃ 浸漬 試験を行った結果、浸漬30 日目まで荷重維持率は60 〜80 %と高い値を示し た。 最大 引張応 力集 中部 近傍 では 浸漬 前、 浸漬 30 日 目と もワ イヤ ー表面全体をコ ーティング材が被覆していた。
【考察】
浸 漬試 験によ り、 FRP ワイ ヤー は浸 漬初期 から 曲げ 荷重 の低 下を 示した。SEM 像 よル ガラ ス繊維 の破 断お よび 界面 剥離 が観察され、この原因としてFRP ワイヤーの 吸 水 に よ る 影 響 が 考 え ら れ た た め 、 コ ー テ ィ ン グ の 必 要 性 が 生 じ た 。 材 料と してシ リコ ーン ゴム 、フ ッ素 樹脂およびBis −GMA の3 種類を検討し、操作 性、 膜厚 と均一性、低感水性の点からBis ―GMA が最も優れていた。また、方法では ワイ ヤー 表面との優れた機械的密着性を示すロール法と均一な膜厚を得られるディ ップ法を組み合わせたR&D 法が最良であった。
100 ℃お よび 37 ℃ 浸漬 試験 とも 浸漬 劣化の傾向が定性的に類似していた。これは 100 ℃では吸水効果が加速され、短時間で吸水飽和に達するためと考えられ、コーテ イング効果を早期に判定する上で有効であった。
SEM 観察 では 、曲 げ試 験時 もワ イヤ ーの露出は認められず、吸水率の低下と機械 的特性劣化の減少に寄与したものと考えられた。
以 上よ り、Bis −GMA コーティングは水中浸漬の影響を低減する上で極めて有効で あることが示唆された。
以 上の 論述 に引き続き実験方法、結果、考察、展望及び関連分野についての質疑 応 答 を 行 い 、 申 請 者 は い ず れ に も 明 快 な 回 答 、 説 明 を 行 っ た 。 本 研究 は、 FRP ワ イヤ ーの 審美 性を 損な うことなく、浸潤環境下での機械的特性 劣下の低減を実現した。本方法の独創性は今後の矯正歯科臨床の発展に寄与すること 大である。よって、申請者は博士(歯学)の学位を授与される資格を有するものと認 めた。
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