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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 浦 口 あ や

    

学 位 論 文 題 名

    Plastic responsestolight in shoot morphology and life history traits for shade‑tolerant canopy species of Acer

(カエデ属高耐陰性高木における当年枝形態と

    

生 活 史 特 性 の 光 に 対 す る 反 応 )

学位論文内容の要旨

  高耐陰性の高木樹種は,森林の不均―な光環境のなかで生存・成長し,成熟に至る.そ ういった樹木の示すさまざまな反応は,限られた光資源を獲得・利用する上で重要な役割 を果している.当年枝は,葉を配置して同化産物を生産する場であると同時に,将来の足 場作りを担っており,当年枝の形態の調節は種の生産・成長戦略を表している.しかし,

当年枝形態の調節がどのような機構でなされているか,どのような生活史特性と対応して いるのか,その理解は十分でなかった.本研究では,当年枝の形態的特徴とその光に対す る反応を個体レペルでの反応と対応づけることで,高耐陰性高木の生産・成長・繁殖戦略 を理解することを目的とした.

  調査は,冷温帯林を代表するする種である,カエデ属樹種を対象に行なった,当年枝形 態の調査 は,イタヤカエデ(Acer mono),オオモミジ(Acer amoenum),ペニカエデ(Acer rubrum),サ卜ウカエデ(Acer saccカaMm)を対象に行なった.前ニ種については北海道大学 苫小牧研究林で,後二種については北米東部マサチュ―セッツ州ハ―パ―ド大学演習林で それぞれ調査した.個体レベルの調査は,苫小牧市に位置する国有林に設けられた200mx 200mの 永 久 調 査 区 に お い て , イ タ ヤ カ エ デ と オ オ モ ミ ジ を 対 象 に 行 な っ た .   当年枝形態に関する調査は,林冠下とギャップ下に生育する樹高3―5mの稚樹を対象と した.樹冠全体から当年枝を選び,当年枝長・当年枝角度・葉身長‐葉柄長を測定した.

葉位による葉の長さおよび形態の違い・当年枝あたりの葉面積と葉配置効率を求めた.各 形質は,その機能(葉の配置・伸長成長)と構築資源を通して密接に関連している.オオモ ミジでみられたシュ―ト形態は,葉身を少い支持コス卜で配置することを可能にすると同 時に,光に対する伸長成長の反応には不利に働くと示唆できた.それに対し,イタヤカエ デ.ベニカエデ・サトウカエデの当年枝形態は,葉の配置に支持コストを多く必要とする かわりに,伸長成長の上では有利なものだった,これらニつの特徴は,各形質問の関連か ら,二者択―的であると結論した.

  個体レベルでの反応は,調査区に生育するイタヤカエデとオオモミジの全個体を対象と して行なった.直径成長・生死の調査は1996年から2年毎に行なった.個体の開花状況は     ―1473―

(2)

2000年から2003年まで毎春,全当年枝に対する繁殖当年枝の割合を双眼鏡を使って観察 し,0から8の開花度区分で表した.個体の光指数として,他個体によって覆われていな い樹 冠の割 合を用い ,0か ら4の区分で記録した,成長と開花の光への反応をAICによる モデル選択をもちいて調べた,両種とも,明るい環境では成長が増加し,開花度も上がっ ていた.

  検出された個体レベルの反応の大きさとそれによってもたらされる生活史特性を明らか にするために,3通りの光環境下における個体の生涯をシミュレートし,光環境間で比較 した,イタヤカエデの成長の光への反応は,光環境問で生涯種子生産量に大きな差を生み だした.また,繁殖の光への反応によって成熟に至る確率に大きな違いがもたらされ,も っとも明るい環境下の個体以外では,高い確率で成熟する前に死亡した,―方のオオモミ ジは,成長・繁殖ともに光への反応が検出されたにもかかわらず,光環境間の生涯種子生 産量・成熟に至る確率は同程度だった.また,ニ種の繁殖開始までにかかる時間は大きく 異 な り , オ オ モ ミ ジ は 比 較 的 暗 い 環 境 に お い て も 成 熟 に至 る こ とが わ か った .   高耐陰性高木において,当年枝レベルと個体レペルの問で光環境との関係に2タイプの 対照的な対応がみられた.一つのタイプは,葉の配置効率を優先した当年枝形態をもち,

当年枝および個体レベルの光に対する反応は小さいが,林冠下においても繁殖を行なう.

効率のよい生産が林冠下での成長と繁殖を可能にしていることが示唆できる.もう―つの タイプは,光に反応した可塑的な伸長成長に有利な当年枝形態をもち,個体レベルでの反 応も大きく,林冠において繁殖を行なう.その当年枝形態はギャップ形成などの機会を生 かし て林冠に到達する上で有利に働くと予測できる,当年枝形態から推測された種の生 産 ・ 成 長 戦 略 は , 種 の 繁 殖 開 始 条 件 を 満 た す 上 で 不 可 欠 な も の で あ っ た .   これまでに,葉の生理的特性や樹冠形態などの機能的な形質と,耐陰性や到達サイズと いった種の特性を表す性質との関係について多くの研究がなされてきた.耐陰性の低い,

もしくは到達樹高の大きい樹種は生育環境によらず,より明るい環境に適した葉や樹高成 長に適した樹冠形態を示すことが知られている.本研究で対照的な当年枝形態・生活史特 性を示したオオモミジとイタヤカエデであるが,その葉の生理的特性は類似しており,樹 冠形態にも違いは認められない.両種が生涯に経験する光環境に違いがなく,また最終的 に似た樹高まで到達することと関係しているのだろう.しかし,光環境の変動するような 長期的な生育条件のもとでの分化は,今までの先行研究のアプロ―チでは明らかにし得な かったものである.本研究によって,当年枝形態が,高耐陰性高木において,その種の特 性を示すもう―つの重要な性質,繁殖開始条件と密接に関係する形質であることが明らか になった.

1474

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

甲 山 隆 司 原    登志彦 露 崎 史 朗 工 藤    岳

     学位論文題名

    Plastic responses to light in shoot morphology and lifehiStorytraitSf6rShade ‐tolerantCanopySpeCieSOfAC ぞァ      ( カ エ デ 属 高 耐 陰 性 高 木 に お け る 当 年 枝 形 態 と      生活史特性の光に対する反応)

高 耐 陰 性 の 高 木 樹 種 は 、 森 林 の 不 均 一 な 光環 境 の なか で 生 産・ 成 長 し 、成 熟 に 至る 。 こ れ ら 樹 種 の 示 す 反 応 は 、 限 ら れ た 光 資 源を 獲 得 ・利 用 す る上 で 重 要 な役 割 を 果し て い る 。 当 年 枝 は 、 葉 を 配 置 し て 生 産 活 動 する 唯 一 の場 で あ ると 同 時 に 、将 来 の 足場 作 り の 機 能 を 担 っ て お り 、 当 年 枝 の 形 態 の 調節 は 種 の生 産 ・ 成長 戦 略 を 反映 し て いる 。 し か し 、 当 年 枝 形 態 の 調 節 機 構 の 理 解 は いま だ 十 分で は な い。 本 研 究 では 、 当 年枝 の 形 態 的 特 徴 と そ の 光 に 対 す る 反 応 を 個 体 レベ ル で の反 応 と 対応 づ け る こと で 、 高耐 陰 性 高 木 の 生 産 ・ 成 長 ・ 繁 殖 戦 略 を 統 一 的 に 理 解 す る こ と を 目 的Iと し て い る 。 本 研 究 は 、 冷 温 帯 林 を 代 表 す る す る種 で あ る、 カ エ デ属 樹 種 を 対象 に 行 なっ た 。 当年 枝 形 態 の 調 査 は 、 北 海 道 大 学 苫 小 牧研 究 林 のイ タ ヤ カエ デ 、 オ オモ ミ ジ と、 北 米 東部 マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 ハ ー バ ー ド 大 学演 習 林 のベ ニ カ エデ 、 サ ト ウカ エ デ の稚 樹 を 対象 と し 、 ま た 個 体 レ ベ ル の 調 査 は 、 苫 小 牧 市 に 位 置 す る 国 有 林 に 設 け た4 haの 永 久 調 査 区 に お け る イ タ ヤ カ エ デ と オ オ モ ミ ジ の 個 体 群 を 対 象 に 行 な っ た 。 林 冠 下 と ギ ャ ッ プ 下 に 生 育 す る 稚 樹の 樹 冠 全体 か ら 当年 枝 を 選 び、 当 年 枝長 ・ 当 年枝 角 度 ・ 葉身 長 ・ 葉柄 長 を 測定 し 、 葉位 に よ る葉 の 形 態 の違 い ・ 当年枝 あたりの 葉面積 ・ 葉 配 置 効 率 を 求 め た 。 各 形 質 は 、 その 機 能 と構 築 資 源を 通 し て 密接 に 関 連し て い た。

オ オ モ ミジ で み られ た シ ュー ト 形 態は 、 葉 身を 少 な い 支持 コ ス トで配 置するこ ゛とを 可 能 に し て い た が 、 光 に 対 す る 伸 長 成長 の 反 応に は 不 利に 働 い て いた 。 イ タヤ カ エ デ・

ベ ニ カ エ デ ・ サ ト ウ カ エ デ の 当 年 枝は 、 葉 の配 置 に 大き い 支 持 コス ト を 必要 と す るか わ り に 、 伸 長 成 長 の 上 で は 有 利 な 特性 を 示 して い た 。こ れ ら ニ つの 特 徴 は、 限 ら れた 同 化 産 物資 源 分 配の 背 反 的な 分 化 を反 映 し てい た 。

個 体 レ ベ ル で の 反 応 を 、 永 久調 査 区 に生 育 す る イタ ヤ カ エデ と オ オモ ミ ジ の全 個 体 の

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幹直径成長・生死および繁殖強度の経年観測の結果から解析した。成長と開花の光へ の反応をAIC によるモデル選択をもちいて解析した結果、両種とも、明るい環境では 成長が増加し、開花度も上がっていた。検出された個体レベルの反応の大きさとそれ によってもたらされる生活史特性を明らかにするために、3 通りの光環境シナリオに おける個体の生涯繁殖成功をシミュレートし、シナリオ間で比較した。イタヤカエデ の成長の光環境依存性は、生涯種子生産量に大きな差をうみだした。また、繁殖の光 への反応によって、個体が成熟にいたる確率にも大きな違いがもたらされ、もっとも 明るい環境下の個体以外では、高い確率で成熟前に死亡することが示された。一方、

オオモミジは、成長・繁殖の光環境依存性の影響は少なく、生涯種子生産量および個 体の成熟にいたる確率は光シナリオ問で同程度だった。ニ種の繁殖開始までにかかる 時間は大きく異なり、オオモミジは比較的暗い環境においても成熟に至ることができ た。

高耐陰性高木において、当年枝形態と個体レベルでの光環境との関係の問に2 種類 の反応特性がみられた。一っは、葉の配置効率を優先した当年枝形態をもち、当年枝 および個体レベルの光に対する反応は小さいが、林冠下においても繁殖を行なうとい う特性である。もうーっは、光に反応した可塑的な伸長成長に有利な当年枝形態をも ち、個体レベルでの反応も大きく、林冠に到達してから繁殖を行なうという特性であ る。当年枝形態から推測された種の生産・成長戦略は、種の繁殖開始条件を満たす上 で不可欠なものであった、。

これまでに、葉の生理的特性や樹冠形態などの機能的な形質と、耐陰性や到達サイズ といった種の特性を表す性質との関係については多くの研究がなされてきた。耐陰性 の低い、もしくは到達樹高の大きい樹種は生育環境によらず、より明るい環境に適し た葉や樹高成長に適した樹冠形態を示すことが認められてきた。本研究で対照的な当 年枝形態・生活史特性を示した高耐陰性カエデ属樹種問では、個葉レベルの生理的特 性は互いに類似し、樹冠形態にも違いは認められたい。しかし、本研究は、これらの 樹種問に存在する、光環境の変動するような長期的な生育条件のもとでの分化を明ら かにし、変動環境下で類縁種が共存するあらたなメカニズムを提示した。これは先行 研究のアプローチの限界と、個体生涯成功のシミュレーション解析という本研究の有 効性を示すものである。

申請者は、大学院博士課程において、長期的かつ詳細な野外調査と統計学的モデル選 択、個体ベ‐スシミュレーションといった手法を駆使してあらたな方向性を示した。

また、国内外の研究機関での共同研究にも積極的に貢献してきた。以上から、審査員

一同は申請者が博士(地球環境科学)の学位に相当する充分な資格を有するものと判

定した。

参照

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