博 士 ( 薬 学 ) 飯 沼 喜 朗
学 位 論 文 題 名
放 線 菌 由 来 マク ロ リド Labilomycin の 生 合成 に関 する 研究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【序論】
Labilomycin(1)は、土壌由来の放線菌Streptomyces albosporeus subsp. 1abjlomyceticus よ り 抗菌 物質と して単離 された22員環ポリ エンマ クロリド である。1は 、リボソ ーム内 の elongation factor‑Tu、amino acyl t‑RNIA、およびGTPの複合体形成を阻害することにより、
原核生物の蛋白質合成阻害作用を示すことが明らかになっている。また、安定同位体による標 識化合物の取り込み実験により、1は他の放線菌由来のポリケチド化合物では見られない特異 な取り込みパターンを持つことが分かっている。一般に、ポリケチド化合物の分岐メチル基は メチ オニン またはプ ロピオ ン酸のメ チル基炭 素に由 来するが 、1の7位およぴ11位のメチル 基は酢酸のメチル基炭素に由来することが明らかになっており、生合成の観点からも興味深い 化合物である。
本研 究 で は、1の 生 合成 経 路 を明 ら か にす る 目 的で 、SaめDspDreusの ゲノムDNAより1 の生合成遺伝子クラスターのクローニングを行った。
【結果および考察】
Labilomycin (1)@撻造狃窓
研究を開始した当初、1の糖鎖は6‑deoxy‑2,4‑di‑〇一methyl‑ D‑galactose (labilose)であるこ とが明らかとなっていたが、その他の立体化学については、5'<t、13位、および21丶一丶24位の 相対 立 体 配置 がNOESYス ペク トルから 推定さ れている のみで あったた め、JBCA (J‑based configuration analysis)法を 用いて1の相 対立体配 置につ いて解析 を行っ た。2006年に Parmeggianiら のグル ープは、1とelongation factor‑Tu,およびGTPとの共結晶のX線結晶 解析に より1の絶対立 体配置 を明らか にしたが、本研究にてJBCA法により推定した相対立体 配置はこれと一致する結果であった。また、本研究では、S albospo reusから1の関連化合物 として、1の26,27‑dihydro体(2)、および14,15,26,27‑ tetrahydro体(3)を単離し、2D NMR を 中 心 と し た ス ペ ク ト ル デ ー タ の 解 析 に よ り2と3の 平 面 構 造 を 明 ら か に し た 。 Labilomycin(i)生金成遺伝壬雛堕2里ニ三:1グ
放 線菌由来マクロリドの炭素鎖は、一般にI型polyketyde synthase (PKS)とよばれる多機 能 蛋白質に より生合 成され ると考え られている。I型PKSの場合、1回の炭素鎖の伸長に必須 である{3‑ketoacyl synthase (KS)、acyltransferase (AT)、およびacyl carrier protein (ACP)と いったドメインと、ポリケチド鎖の修飾に関与するP‑ketoacyl reductase (KR)、dehydratase (DH)、 およびenoylreductase (ER)な どのドメインが1つのモジュールを形成し、これが1つ ま た は 複数 集 ま って1つ のPKSを形 成 し てい る 。1の 炭 素鎖 はI型PKSによ り生合 成される と 推定され たため、 既知のKSの配列か らデザインした縮重プライマーを用いてPCRを行い、
1の 生 産株 で あ るS albosporeusの ゲ ノムDNAからKS遺伝 子をサブ クロー ニングし た。こ の 遺 伝 子 断 片 は mRNAと し て 発 現 し て い る こ と が 、RT‑PCRに よ り 確 認 さ れ た 。 また、シアノバクテリア、粘液細菌、桿菌の生産するポリケチドの中には、酢酸のメチル基 炭 素に由来 するCiユ ニットを 持っもの が報告 されてい る。こ れらのCiユニットの付加には 3‑hydroxy‑3‑ methylglutaryl‑CoA synthase (HCS)に類似した酵素が関与していることが報 告 されてい たため、1の メチル化 にもHCSが関与 している ことが 考えられ た。そ こでHCS遺 伝子を増幅させる縮重プライマーを用いて、HCS遺伝子のサブクローニングを試みたところ、
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既知のHCS遺伝 子と相同性の高い遺伝子断片が単離された。
S albosporeusのFosmidゲ ノ ムラ イブ ラリ ーを 、こ れら のKSおよ びHCS遺伝 子の 配列 を基 にデ ザインしたプライマーを 用いてPCRスクリー三ングし た結果、これら2種の遺伝子 配列を含むクローンくFosmid‑lOF)が見い出された。Fosmid‑lOFのインサート遺伝子(36kbp) をショットガンシーケンス法により解析した結果、1の生合成に関与すると予想される遺伝子 のうち、2回のポリケチド鎖の伸長と、post‑modificationに関与すると考えられる領域が含ま れていることが明らかになった。
Labilomycin (1)生金成遺伝壬Q鰹蚯
クローニングした遺伝子が1の生合成遺伝子である確証を得るため、KS遺伝子の破壊株を 作製し表現系を調べた結果、1の生産能を失っていることが明らかになった。従ってクローニ ングしたKSと、それに連続する遺伝子群は1の生合成遺伝子の一部であると考えられたため、
先に述べた配列の上流およぴ下流の配列を 含むFosmidをゲノムライブラリーより取得し、シ ヨットガンシーケンス解析を行った。配列 の明らかになった約l10kbpの領域のうち、1の生 合成 に関 与し てい ると 推定 さ れる 約96kbpの領域は、4つのPKS (Lab A‑D)を 含む14個のオ ー プ ン リ ー デ ィ ン グ フ レ ー ム か ら 構 成 さ れ て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 1のPKSにはATドメ インが組み込まれておらず、単独の酵素として別途に存 在しているこ とが 明ら かに なっ た。 しか し 、17個のモジュー ルから構成される1の4つのPKSには、ポリ ケチド鎖の伸長、メチオニン由来炭素によるメチル化、およびマクロラクトン化に必要な、AT ドメイン以外の全てのドメインが存在する ことが示された。モジュール16には、生合成に関 与し てい ない と推 定さ れるKSおよ びACPド メイ ンが それ ぞ れ1個ずつ存在し たためシーケ ンスを解析した結果、活性型のKSで保存さ れている2つのヒスチジンが 、それぞれセリンま たはアスパラギンに置き換わっていること が明らかになった。同様に、不活性型のACPの場 合 も 、 活 性 型 で 保 存 さ れ て い る ア ミ ノ 酸 残 基 の 変 異 が 確 認 さ れ た 。 . また最近、KRドメイン中央部のシーケン スから、経験的に生合成される水酸基の絶対立体 配置を推定できることが報告されている。 すなわち、KRの中央に位置する特定のアミノ酸が アスパラギンである場合は、1位のカルボニル基を基準としてD体の2級 アルコールが生合成 され、それ以外のアミノ酸の場合はL体の2級アルコールが生合成されると推定できる。1が 生合 成さ れる 過程 で、5位、13位 、21位、23位、および33位の水酸基は、そ れぞれモジュ ール15、11、7、6、お よび1のKRによ り生合成されるが、これらのシーケン スから推定さ れる 絶対 立体 配置 は、X線結 晶解 析に より 明ら かに され た1の 絶対立体配置 と一致した。
ま た、1の 生合 成遺 伝子 クラ ス ター には 、HMG‑cassetteと よば れる 、ACP、KS、HCS、 およ ぴ2つ のenoyl‑CoA hydrataseくECH)から構成される遺伝子群が存在する ことが分かっ た。この遺伝子群は数種の微生物代謝産物の生合成遺伝子に存在し、ポリケチド鎖に酢酸のメ チル基炭素を付加させる働きをもつことが 報告されている。これらの遺伝子群は1の7位およ び 11位 へ の 酢 酸 の メ チ ル 基 炭 素 の 付 加 に 関 与 し て い る と 推 定 さ れ る 。 HMG‑cassetteの下 流には、チトクロムP450および配糖化酵素の遺伝子が存 在し、それぞ れ12位と32位 の酸 化、 およ ぴ23位 へのlabiloseの配 糖化 に関 与していると 推定される。
【まとめ】
放線菌&albo・即° reHsの生産する抗生物質labdomycin(1)の生合成遺伝子群のクローニン グを行い、遺伝子破壊株の表現系解析から、クローニングした遺伝子群が1の生合成に関与し ていることを確認した。遺伝子解析の結果から、1のポリケチド鎖はATがモジュールに組み 込ま れて いな いタイプの4つのPKSにより伸長され、4つ目のPKSくLabD)の末端に存在する thioesterase(TE)ドメインによルマクロラクトン化を受けた後、酸化および配糖化などの修 飾を 受け て生 合成されると推定した。また、7位および11位のメチル基は、HMG‐cas8ette により生合成されると推定した。
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学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 准教授 講師
小林 有賀 松本 久保田
学 位 論 文 題 名
淳一 寛芳 健一 高明
放線菌由来マクロリドLabilomycin の生合成に関する研究
LabilomycIn(1) は 、 土 壌 由 来 の 放 線 菌SfrepfomルeSa´6〇SporeuSより 単 離 さ れ た22員 環 ポ リ エ ン マ ク ロ リ ド で 、 リ ボ ソ ― ム 内 の 伸 長 因 子 (EF‐Tu) 、 ア ミ ノ ア シ ルtRNA、 お よ びGTPの 複 合 体 形 成 を 阻 害 す る こ と に よ り 、 原 核 生 物 の 蛋 白 質 合 成 阻 害 作 用 を 示 す こ と が 明 ら か に な っ て い る 。 ま た 、 標 識 化 合 物 の 取 り 込 み 実 験 に よ り 、 他 の 放 線 菌 由 来 の ポ リ ケ チ ド 化 合 物 で は 見 ら れ な い 特 異 な 取 り 込 み パ タ ー ン を 持 つ こ と が 明 ら か に な っ て お り 、 生 合 成 の 観 点 か ら 興 味 深 い 化 合 物 で あ る 。
本 研 究 で は 、1の 生 合 成 経 路 を 明 ら か に す る 目 的 で 、 本 放 線 菌 の ゲ ノ ムDNA よ り1の 生 合 成 遺 伝 子 群 を ク 口 一 ニ ン グ し た 。
Labilomycin (1)生 盒 成 遺 伝 壬 雛Q2旦 ニ 三 ≧2
既 知 の1型 ポ リ ケ チ ド 合 成 酵 素 (PKS) の 配 列 か ら デ ザ イ ン し た 縮 重 プ ラ イ マ ー を 用 い てPCRを 行 い 、1の 生 産 株 で あ る 本 放 線 菌 の ゲ ノ ムDNAか ら ケ ト ア シ ル 合 成 酵 素 (KS) ド メ イ ン の 遺 伝 子 を ク ロ ― ニ ン グ し た 。 ま た 、1の メ チ ル 化 に HMG‑CoA合 成 酵 素 (HCS)に 類 似 し た 酵 素 が 関 与 し て い る こ と が 推 定 さ れ た た め 、HCS遺 伝 子 を 増 幅 さ せ る 縮 重 プ ラ イ マ ー を 用 い てPCRを 行 い 、 既 知 の HCS遺 伝 子 と 相 同 性 の 高 い 遺 伝 子 断 片 を ク ロ ― ニ ン グ し た 。 サ ブ ク ロ ー ニ ン グ し たKSお よ びHCS遺 伝 子 の 配 列 を 基 に プ ラ イ マ ― を デ ザ イ ン し 、 本 放 線 菌 の ゲ ノ ム ラ イ ブ ラ リ ― をPCRで ス ク リ ― ニ ン グ し た 結 果
、 こ れ ら 2種 の 遺 伝 子 配 列 を 含 む ク ロ ― ン ( Fosmid‑lOF)を 単 離 し た 。 Fosmid‑lOFの イ ン サ ー ト 遺 伝 子 (36kbp)の 配 列 を シ ョ ッ ト ガ ン シ ― ケ ン ス に よ り 解 析 し た 結 果 、1の 生 合 成 に 関 与 す る と 考 え ら れ る 遺 伝 子 の う ち 、2回 の ポ リ ケ チ ド 鎖 の 伸 長 と 、post‑modificationに 関 与 す る と 考 え ら れ る 領 域 が 含 ま れ て い る こ と を 明 ら か に し た 。
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Labilomycin (ユ2 生金盧遺伝壬Q 鰹極
クロ―ニングした遺伝子の破壊株は、1 の生産能を失っていることが分か ったため、ク口一ニングした遺伝子群は1 の生合成遺伝子の―部であると推 定した。ゲノムライブラリ―より Fosmid‑lOF のインサ―ト遺伝子の上流およ び下流の配列を含む Fosmid を取得し、 1 の生合成に必要と考えられる全ての 遺伝子をクローニングした。シ―クエンス解析の結果、1 )ク口―ニングし た 1 の生合成遺伝子群は、 4 つのPKS を含む14 個のオープンリ―ディングフレ ームを含むこと、2 )17 個のモジュールから構成される1 の 4 つのPKS には、
ポリケチド鎖の伸長、メチオニン由来炭素によるメチル化、およびマクロラ クトン化に必要な、アシル基転位酵素(AT) ドメイン以外の全てのドメインが 存 在す るこ と、3 ) 1 の PKS には AT ドメインが組み込まれておらず、単独の 酵素として別途に存在していること、 4 )モジュール16 には、アミノ酸配列 から生合成に関与していないと推定される KS およびACP ドメインが 1 個ずつ 存在すること、 5 )経験則に基づきケト還元酵素ドメインの遺伝子配列から 推定される 5 個の水酸基の絶対立体配置は、 X 線結晶解析により明らかにさ れた1 の絶対立体配置と―致すること、6 ) 1 の生合成遺伝子群には、酢酸の メチル基炭素の付加に関与していると推定される、 HMG カセットとよばれる 遺伝子群が存在すること、7 ) HMG カセットの下流に、それぞれ酸化修飾お よび配糖化に関与すると推定されるチトクロム P450 および配糖化酵素の遺 伝子が存在することを明らかにした。
本研究では、放線菌S .a 伯osporeus の生産する抗生物質|abilomycin (1 )の 生合成遺伝子群のク口一ニングに成功し、1 のポリケチド鎖はAT がモジュー ルに組み込まれていない4 つのPKS により伸長され、チオエステラ―ゼドメイ ンによルマクロラクトン化を受けた後、酸化および配糖化を受け、HMG カセ ッ トに より 7 位 および 11 位 のメ チル基が生合成されることを見い出した。
本研究は、遺伝子レベルで研究されていない1 の生合成経路について新た な知見を種々見い出すことにより、1 の生合成工学的研究を可能にしたとと もに、 HMG カセットが関与すると考えられる渦鞭毛藻ポリケチドの特異な生 合成経路の解明の足がかりを築いたものと評価できる。微生物の生産する有 用二次代謝産物の生合成遺伝子を遺伝子工学的手法により有効利用する研究 は、今後ますます発展が期待されることから、本研究は天然物化学の分野で 優れた研究成果を上げたものといえ、博士(薬学)の学位を受けるに値する業 績と判断された。
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