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腎臓において血圧概日リズムを制御している分子の探索

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Academic year: 2021

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(1)

腎臓において血圧概日リズムを制御している分子の探索

(要約)

日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系内分泌代謝内科学専攻

村田 悠輔 修了年

2017

年 指導教員 相馬 正義

(2)

1

【背景】

様々な生物学的現象の観察から、生物が一日のリズム持つことが知られてき た。睡眠周期、心拍、血圧なども、概日リズムを示している。

18

世紀にフラン スの天文学者である

de Marian

はオジギソウが日中は葉を開き、夜は葉を閉じ る運動が恒常暗においても持続することを示し、生物現象を支配する生体内時 計の存在の可能性を報告した1。一日のリズムは概日リズム(

Circadian rhythm

と呼ばれ、地球上の生物現象の概日リズムの周期は概ね約

24

時間である。

概日リズムを形成するうえで、主となるペースメーカーが哺乳類においては 視交叉上核(

Suprachiasmatic nucleus

SCN

)に存在することが明らかとなり、

これを中枢時計と呼び、概日リズムの自律発振の中心となっている2。多くの 末梢臓器にも生体内時計が存在し、これらの時計は中枢時計のコントロールを 受けながら、それぞれの臓器に最適な時を刻んでいる。

最近、生体内時計の時を刻む分子機構が明らかとなってきた。この概日リズ ムを司る蛋白をコードする遺伝子群を時計遺伝子と呼ぶ。生体内時計は

Brain and muscle arnt-like 1

BMAL1

Circadian locomotor output cycles kaput

CLOCK

Period

PER

Cryptochrome

CRY

)がコア蛋白として働くメ インループから構成されている。細胞内において

CLOCK

BMAL1

が二量体を 形成して転写因子として働きプロ―モーター内の

E-box

配列(

CACGTG

)に結 合することで、多くのターゲット遺伝子の発現を促進する。ターゲット遺伝子 の中には

Per

Cry

等の別の時計遺伝子も含まれている。転写、翻訳が増加し

PER

CRY

蛋白は核内へ移行し、

BMAL1

CLOCK

を抑制する。その後

PER

CRY

は多段階リン酸化を経て時間をかけて分解される。これにより

PER

CRY

により

BMAL1

CLOCK

の抑制が解かれ、再び

CLOCK

BMAL1

による遺伝 子発現の促進が始まり、時計が一周する。このメインループのほかに、

Nuclear

(3)

2

receptor subfamily 1 group D member 1

NR1D1

)、

Retinoic acid receptor-related orphan receptor

ROR

D-site of albumin promoter binding protein

DBP

E4 promoter binding protein 4

E4BP4

)が関与するサブル ープも存在している。

NR1D1

RRE

AGGTCA

)配列に結合して、ネガティ ブフィードバックを経てメインループを抑制する一方で、

DBP

D-box

TTATGTAA

)配列に結合することでポジティブフィードバックを経て、メイ

ンループを促進する(図

1

。生体内時計は様々な末梢臓器に存在しており、様々 な生理現象の概日リズム形成に関わっている。

1.

生体内時計の分子機構3

血圧には日内変動が見られ、その異常が心血管合併症と相関することはよく 知られている。血圧の日内変動と生体内時計の関連性は容易に想像できるが、

その機序は明らかになっていない。腎臓は糸球体における濾過と、尿細管にお

(4)

3

ける電解質、水の再吸収、排泄、さらにはレニン

-

アンギオテンシン系における 血管収縮作用、

Na

の再吸収促進など血圧調整において極めて重要な役割を果た し、その機能が血圧の概日リズム形成に関わっていると考えられる。腎臓にお ける血圧に対する役割と、概日リズムの関係も多数報告されている。正常の腎 臓では夜間よりも日中に電解質の排泄量や尿の産生量が多く、

Na

K

Cl

排泄 に概日リズムがあることが知られており4、そのリズムの破綻と高血圧とその 心血管合併症との関連が示唆されている5

【研究目的】

様々な生物現象のリズムは生体内時計に制御されていると考えられる。血圧 の日内変動と生体内時計遺伝子の発現は密接に関与していると考えられるが、

そ の 関 連 性 は 明 ら か に さ れ て い な い 。 今 回 、 高 血 圧 自 然 発 症 ラ ッ ト

Spontaneously Hypertensive Rat

SHR/Izm

)を用いて腎臓における遺伝子 発現を解析し、発現が変動している遺伝子と生体内時計の関連性について検討 した。

【方法、結果】

Gene Set Enrichment Analysis

GSEA; BROAD INSTITUTE

)データベー スを用いて、転写開始点から上流または下流

2000bp

に生体内時計のメインルー プ の 中 心 と な る 時 計 蛋 白 で あ る

BMAL1/CLOCK

の 結 合 配 列 で あ る

E-box(CACGTG)

を持つ遺伝子を検索し、

1032

個の遺伝子が抽出された。次に

DNA

マイクロアレイを用いて

5

週齢の

SHR/Izm

Wister Kyoto Rat

WKY/Izm

)の腎臓における遺伝子発現を検討した。

1032

個の

E-box

配列を 持つ遺伝子のうち、

SHR/Izm

の腎皮質、髄質で発現が

2

倍以上増加または

50%

(5)

4

以 下 に 減 少 し て い る 遺 伝 子 で 、 さ ら に 脳 卒 中 易 発 症

SHR(Stroke-Prone Spontaneously Hypertensive Rat

SHRSP/Izm)

の腎皮質、髄質でも同様の発 現 変 化 が み ら れ た も の は 、

Nr1d1

Phosphoribosyl pyrophosphate amidotransferase

Ppat

Fragile X mental retardation, autosomal homolog 1

Fxr1

B-cell lymphoma 6

Bcl6

Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A3

Hnrnpa3

Nucleophosmin

Npm1

Neuronal pentraxin 1

Nptx1

)、

Pleiomorphic adenoma gene-like 1

Plagl1

)、

Phospholipase B domain containing 1

Plbd1

Transducin (beta)-like 1X-linked

Tbl1x

Tripartite motif containing 46

Trim46

Thyrotroph embryonic factor

Tef

)の

12

伝子であった。これらの遺伝子は腎臓において高血圧に関連し生体内時計に概 日リズムが制御されている遺伝子であると考えられた。

次にマウス尿細管上皮細胞(

TCMK-1

)に対してデキサメサゾン

0.5

μ

M

添加すると、時計遺伝子として知られている

Period1(Per1)

の遺伝子発現の概日 リズムが形成された。さらに

Bmal1

Nr1d1

Cry1

においても検討したところ、

Bmal1

Nr1d1

ではデキサメサゾン添加

4

時間後、

28

時間後、

44

時間後に

mRNA

発現のピークを示し、

Cry1

では

4

時間後、

28

時間後、

48

時間後にピークを示 す振幅であり概日リズムが形成された。これによりデキサメサゾン刺激により 尿細管培養細胞である

TCMK-1

細胞においてデキサメサゾンにより生体内時計 遺伝子の

mRNA

発現変動が誘導されることが示され、

TCMK-1

細胞に対するデ キサメサゾン刺激は腎尿細管の生体内時計研究において有用なツールであるこ とが明らかとなった。

TCMK-1

細胞をデキサメサゾンで刺激し、

4

時間おきに

48

時間後まで

mRNA

をリアルタイム

PCR

で定量し、

GSEA

および

DNA

マイ クロアレイの結果から得られた

12

個の遺伝子のうちすでに生体内時計遺伝子と して知られている

Nr1d1

を除く

11

遺伝子について、概日リズムが形成される

(6)

5

のか検討を行ったところ、

Ppat

では時計遺伝子と同様にデキサメサゾン刺激後、

28

時間でピークを形成し、その後発現減少をして、

44

時間で再び発現増加をし ており、

Hnrnpa3

では

16

時間、

24

時間、

44

時間でピークを形成し、

Per1

比較的近似した振幅を示した。

Npm1

では

Per1

と同様に、

28

時間での発現増 加がみられた。

Fxr1

では

24

時間で上昇し、その後減少した後、

44

時間でピー クとなり、

Per1

に近似しており、概日リズムの形成が示唆された。次にこれら の変動の統計学的有意性を検討するために周期回帰分析を行った。まず、周期 関数へのフィッティングを試みたが、

Plbd1

Tbl1x

Trim46

Npm1

はフィッ ティングができなかった。残りの

7

遺伝子のなかで

Fxr1

Ppat

のみが

p<0.05

の有意な回帰を示し、デキサメサゾン負荷にて周期性を持った

mRNA

日内変動 が誘導されていることが示された。

PPAT

FXR1

の尿細管細胞内での局在を明らかにするために。

TCMK-1

細胞 を抗

PPAT

抗体、抗

FXR1

抗体を使用し、免疫染色を行った。

PPAT

は尿細管 の核と細胞質に、

FXR1

は細胞質に染色された。次に腎での局在を明らかにする ため、

5

週齢の

WKY/Izm

SHR/Izm

腎臓を使用し、免疫染色を行った。

PPAT

は近位尿細管、遠位尿細管の核と細胞質に局在し、

FXR1

は近位尿細管、遠位尿 細管の細胞質に局在していた。

【まとめ】

生体内時計の研究は生体内時計遺伝子の概日リズムを評価するために個体か ら数時間間隔で

mRNA

を得なければならず、動物モデルを用いるとしてもその 数が非常に多くなり、手技的、経済的に困難な研究となる。それゆえ、

in vitro

の系において生体内時計を評価する系を確立することは生体内時計研究を加速 すると考えられた。すでに培養マウス線維芽細胞にデキサメサゾン負荷を行う

(7)

6

と、生体内時計遺伝子発現の振幅が再現されることが報告されている6。さら に、培養細胞に高濃度ウマ血清を負荷しても同様に生体内時計遺伝子の発現振 幅が誘導されることも報告されている7。これらは末梢時計の振幅を再現する ものと考えられている。本研究では、マウス尿細管上皮細胞(

TCMK-1

)にデ キサメサゾン

0.5

μ

M

を負荷することで生体内時計遺伝子である

Per1

Cry1

Nr1d1 mRNA

の振幅を誘導することに成功した。これにより、この

TCMK-1

細胞に

0.5

μ

M

デキサメサゾン負荷系が

in vitro

での腎臓末梢時計研究における 有用なツールとして確立された。

本研究において、

TCMK-1

0.5

μ

M

デキサメサゾン系を用いて

11

の候補遺伝 子について振幅誘導を試みたところ、

Fxr1

Ppat

2

つの遺伝子において、そ の振幅の誘導に成功した。この

Ppat

Fxr1

は高血圧モデルラットの腎臓におい て発現が大きく変動しており、

E — box

を持ち、デキサメサゾン負荷により、そ の発現振幅が誘導された。さらに免疫染色により

PPAT

は尿細管の核と細胞質 に、

FXR1

は尿細管の細胞質に発現していることも確認された。これらの結果は、

この

2

つの蛋白が腎臓末梢時計により制御され、血圧概日リズム形成に関わる 可能性のある候補であることを示している。

FXR1

は脆弱

X

症候群における原因遺伝子と考えられている

Fragile X mental retardation gene 1

FMR1

)と同じ遺伝子ファミリーに属している。

FXR1

FMR1

FXR2

と相互作用する

RNA

結合蛋白であり、核局在化シグナ ルと核排出シグナルを有していることから、細胞質、核の往復が出来ると推測 されている8, 9, 10, 11

FXR1

の具体的な機能ははっきりわかってはいないが、

心筋や骨格筋に特異的なアイソフォームが存在しており、

FXR1

発現の異常が骨 格筋の異常を引き起こすと報告されていることから12、筋組織の発達に重要な 役割を果たしている可能性が示唆されるが、

FXR1

が腎臓や血圧調節に関連して

(8)

7

いるという報告はない。しかし、マウスの血管平滑筋の細胞質に発現し、他の タンパク質と相互作用して、細胞の成長や増殖を制御しているという報告があ 13、本研究において

SHR/Izm

SHRSP/Izm

の腎臓にて発現低下し、さらに 尿細管細胞質に発現していることから、同じ中胚葉起源の尿細管細胞質に発現 し、尿細管細胞の増殖や成長に関与することも考えられる。

PPAT

にコードされる蛋白質は、プリンヌクレオチド代謝において、ホスホリ ボシルピロリン酸を

5-

ホスホリボシルアミンに変換するうえで作用するアロス テリック酵素である。プリン代謝経路においてリボース

-5-

リン酸からホスホリ ジルピロリン酸を経て、中間体であるイノシン酸を合成し、イノシン酸からグ アニン、アデニンを合成する経路と、尿酸に分解する経路に分かれる14

PPAT

はプリン代謝経路における

De novo

経路を制御しており15

PPAT

の合成が促 進されると、プリン体から分解される尿酸が増加する。プリン体の生合成及び 分解は全身の細胞で行われている。本研究において、

WKY/Izm

に比べ、

SHR/Izm

SHRSP/Izm

腎臓において発現上昇がみられ、

PPAT

は尿細管細胞の細胞質、核

に局在していた。尿酸はそれ自体が抗酸化作用をもつが、強い血管傷害性も有 しており、動脈硬化の独立した危険因子となる。

本研究は生体内時計に制御され、血圧調節に関連する分子を配列解析、発現 解析、培養細胞実験にて絞り込む新しい試みである。しかしながら候補分子で ある

FXR1

PPAT

が実際にどのような機序で血圧調節に関わるのか、現在は明 らかではない。今後、細胞でのノックアウト、ノックイン実験、実験動物での 同様の研究などで明らかにすることが必要と考えられる。これらの分子の腎臓 における血圧調整の機序を解明することは、血圧概日リズム形成の機序を解明 することに繋がると考えられ、さらに、これらの分子は時間生物学的な新しい 治療ターゲットにもなりうると考えられる。

(9)

8

【参考文献】

(1) Marian. J. J. d. O. d. Observation botanique. Historie de I’Academie Royale des Science, 1729: 35-36.

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(10)

9

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