修
士 論
文概
要 書Summary of Master’s Thesis
Date of submission: 02 / 28 / 2013 (MM/DD/YYYY) 専攻名(専門分野)
Department 表現工学 氏 名
Name 鄭 守志
指 導 教 員 Advisor
長 幾朗 印 Seal 研究指導名
Research guidance
メディアデザイン 研究
学籍番号 Student ID
number
5111E008CD-6
研究題目 Title
香りを伴ったデジタルサイネージの表現に関する研究
A Study on Visual Representation Method Accompanying with Fragrance
概要
本論文は、デジタルサイネージに香りを付加する事による効果と可能性について述べたものである。近年のデジ タル家電の普及は、メディアや広告の概念を大きく変えようとしている。特に、スマートフォン等のモビリティ(携 帯性、移動性)に優れたメディアデバイスは、屋外や市街における情報の送受信を可能とした。これらは、リアル タイムな、いわゆる実時間における情報提示とも言える。企業や機関からの情報発信は、いわゆる広告や広報とし て捉えられてきたが、これらの概念においても従来の供給者と需要者という関係は変わりつつある。駅や街頭で見 掛けるインタラクションを伴ったデジタルサイネージも、そのひとつの事例である。これらの変化に伴い、自動販 売機等も、これらの機能を兼ね備えたインタラクションを伴ったタッチパネルや表示に変わりつつある。
キーワード:香り, デジタルサイネージ, 嗅覚, 感性
Keywords: fragrance, digital signage, sense of smell, emotion
1. は じ め に
デジタルサイネージ(Digital Signage)とは、平面 ディスプレイにより映像や情報を、デジタル技術を 用いて発信する広告媒体である。内蔵記憶装置を備 えているため、迅速なコンテンツの更新が容易であ り、インターネット等を介した送受信が可能である。
しかしながら、公共空間におけるデジタルサイネー ジは、通行者や視聴者の滞留時間が短い事もあり、
適正な視認性、および情報提示が必要である。
本研究では、これらの表現に「香り」を新たな表現 要素として付加する事により、認知性を高め、これ らの情報提示のひとつの未来が見えるのではないか と考えた。インターネットやそのメディアは、外出 先や車中においても利用し得るようになりつつある。
このような状況において、企業はより一層分かりや すく、よりインパクトのある情報を伝えられるかに 腐心している。近年、街頭や駅構内等の各所にデジ タルサイネージは設置されており、情報が常時配信 されている。しかし、立ち止まってみる人は数少な い。いかにして、これらの認知性を高めることがで きるだろうか。このような課題を基に本研究ではデ ジタルサイネージに香りを付加する事による認知度 とコンテンツの印象の変化について検証した。
2. 香 り と 五 感
ヒトの五感は、視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚で あり、これらの中でも視覚、聴覚、味覚、触覚は、
一旦「考える脳」を経由し「感じる脳」に届けられ るが、嗅覚は唯一「感じる脳」に直結した機能を有 している。これにより、瞬時の気分転換を可能にし、
他の感覚に比して感情への訴求効果が大きく、反応
も早い等の特徴を備えている。視覚情報である文字、
計算、分析力が「考える脳」に届くことに対して、
嗅覚の情報は「感じる脳」に伝達される。したがっ て、嗅覚は人間の感情に働きかける機能が迅速かつ 強いとも言える。嗅覚は 目に見えないものだが、
ヒトの感情に働き掛け強 い刺激を与える感覚であ る。香りによって記憶が 蘇る、懐かしさを感じる 事も出来よう。今まで忘 れていた事を香りにより 思い起こす事は、誰しも が一度は体験した事であ ろう。
嗅覚と味覚の研究利用 域は、他の感覚領域に比 して未だ十分確立し得ていない分野であり、また嗅 覚には個人差が存在するため、その表現や方法論に ついても未だ十分には判明していない。
3. 香 り の 構 成
香りは化学物質の刺激により引き起こされ、気化され た香り分子が鼻粘膜の粘液中に溶け込む事により、香 り分子が鼻毛に付着し電気信号に変わり、大脳辺緑系 に至り感覚を啓発している。このように五感の中で唯 一嗅覚が大脳新皮質を経由せず直接大脳辺緑系に届き、
直接感覚を働きかける根拠となっている。
香り物質は 20 万種とも 40 万種とも言われるが、種類 が多いだけでなく、その濃度によっても感じ方は変化 する。アロマオイルとして用いられるエッセンシャル オイルは、主としてイランイランなどのオリエンタル
図-1 香りの経路
系、ジャスミンなどのフローラル系、レモンなどのか んきつ系、ペパーミントなどのハーブ系、ティートリ ーなどの樹木系、クローブなどのスパイス系と樹脂系 の 7 種に分類されている。また視覚刺激である色彩と 嗅覚刺激である香りを融合した研究は非常に数少ない が、香りの甘さの強度評定と色彩の濃度との相関を検 討した研究は多く、例えばレモンの香りは黄色が明る いほど正しく知覚され易い事が報告されている。
4.香 り を 付 加 し た デ ジ タ ル の 提 案
本研究では、デジタルサイネージに香りを付加する 事により表れる関心度と想像力の拡張の有無を検証す るために下記の実験を行った。
実験 1 では、デジ タルサイネージに表 示した化粧品広告に おいて、①動画のみ 提示、②動画・音と 共に香りを提示し、
想像した香りと実際 の香りによる商品に 対する感情の変化と 関心度の変化を評価 した。本実験では、
大型ディスプレイで の表示をショーウィンドウと想定し、無臭の実験環境 において、香りの付加の有無のそれぞれについて商品 に対するイメージや印象の変化について測定した。
また実験2では、電子書籍の鑑賞時に香りを付加し読 後感や想像力の拡張について測定した。①映像のみ提 示②映像・音を提示③動画・音・香りをそれぞれ提示 し、その差を測定した。これらの実験においては、被 験者(10名)に広告商品に対する印象がいかに変化した か、その行動観察とアンケートを行った。
5. ま と め 香りを同量と速度 を 変 え て 放 出 し て いるにも関わらず、
人 に よ っ て は 香 り が 薄 い の で 分 か り づらい、あるいは香 り の 量 を 増 や し た ら強く感じるという 意見もあり、嗅覚や 香りに対する個人差 が存在する事が分か
る。以下、これらの結果をまとめてみた。
1) 香りに対する関心度には個人差があるが、香りを 付加することによってより関心度は高まる事が 判明した。
2) おおよその被験者が、香りが付加された際に対象 に対するイメージが変わると回答している。
3) 電子書籍の場合では、香りを付加する事により、
ストーリーや場面の想像が喚起されると回答し ている。
このように香りは今後の商品や企業のブランディ ング、マーケティングにさらに活用されるであろう。
そして言語や音声によるコミュニケーションに留ま らないため、福祉施設や公衆環境の管理や保全への 応用が期待される。デジタルサイネージの設置環境 や広告手法に関するさらなる研究を予定したい。
香りは言語では伝え難い表現の要素として用いる 事が可能であろう。新たなコミュニケーションツー ルとして、香りは様々な場面で活用し得るのではな かろうか。香りを付加したデジタルサイネージは、
コンテンツの場面ごとに香りが視聴者の五感を喚起 し、豊かなコンテンツとして利用し得ることを示唆 している。
また一つは、電子書籍などに香りを付すことによ り、読書効果や情景の喚起などの効果について示唆 を得た。このような表現や効果は、アウトドアなど での体験の喚起や教育や学習における効果も期待で きよう。またこのように、事物が有する香りに留ま らず、本来は無臭である状況や情景や臨場感に関わ らない抽象的な表現においても効果を持つものと考 えられる。
さらに近年では携帯端末等に対応した装着型ディ フューザーも開発されているが、これらの環境に即 したサービスと香りの連携も課題となろう。例えば、
商品販売のウェブサイトや e メールなどの文章や用 語に関連した香りを発する事も、これらの伝達を強 化する効果があろう。また絵画などの本来香りを有 していない対象への香り付加の効果についても、さ らに実験や検証が必要であろう。
参考文献
1)ライアル・ワトソン「匂いの記憶」光文社、2000 2) 外池光雄「におい・香りの情報通信」フレグランスジ
ャーナル社、2007
3) 都甲潔「感性の科学」朝倉書店,pp23-84,2006 4) 東洋大学大学院, 2009
5) フレグランスジャーナル社「におい・香りの情報 通信」外池光雄,2007
6)塩 田 清 二 「 < 香 り > は な ぜ 脳 に 効 く の か 」 NHK 出,p43,2012
7) 片岡郷「アロマのある空間」日経 BP コンサルテ ィング, pp131-149,2010
8) 羽鳥冬子「使い切り・組み合わせ事典」マイナ ビ,p11, 2011
図-1 映像の変化に伴い香りが変化す る実験
図-3 タブレット操作に伴い香り が発生する実験風景