秋田大学鉱山学部研究報告,第14号,1993年10月
論 文
ダンシル グ リシン修飾 シク ロデキス トリンの 生理活性物質 に対 す る分子認識セ ンサー能
清 田文 男*・石 川匡子*・秋 山葉子*・上野昭彦 **
Ho s t ‑ Gue s tSe n s o r ySys t e m o fDa ns yl ‑ Mo di 丘e dCyc l o d e xt r i nf o r De t e c t i n gBi o a c t i ve ‑ Co mpo und sbyDa n s ylFl uo r e s e n c e
FumioHAMADA*,KyokolsHIKAWA*
YokoAKIYAMA*,andAkihikoUENO**
Abstract
Dansy1‑modifiedβ‑,γ‑CyclodextrinS(1and2)havebeenpreparedasasensorfordetecting bioactive‑Organiccompoundssuchassteroidsandalkaloids.1showspuremonomerfluores‑ cencewhoseintensityisdecreaseduponadditionofguestspecies.However,2Showstwotypes ofpuremonomerfluorescence,thatis,oneisthesameforthecaseof1,theotheriswhose intensitiesisenhanceduponadditionofguestspecies. Thisguest‑inducedvariationinthe auorescenceintensitysuggeststhatthedancylglycinemoietyactsasaspacerwhichenablesthe cyclodextrintoform 1:1hostcomplexingbynarrowlngthelargeγ‑cyclodextrincavlty.The value△Ⅰ/IO,whereIandIOarefluorescenceintensitiesinthepresenceandabsenceofaguest and△Iislo‑Iisfluorescenceparameter.1exhibitshigherselectiveandsensitivemolecular recognitionabilityforsteroidsandalkaloidsexceptforlithocholicacidthandoes2.
1. は じ め に
従来,有機化合物 の物理化学的検 出方法 として, 紫外可視分光法,蛍光法,電気化学法 な どが用 い ら れているが, いずれ も検 出対象 となる化合物 自体 が 分光学的あ るいは電気化学的 な活性 を有す る必要が あった.一方,シクロデ キス トリンは D‑ブル コピラ ノー スを構成単位 とす る環状 オ ))ゴマ‑ であ り ドー ナツ形 をした有機 ホス ト分 子 として知 られ,水 溶液 中で 自らの空孔 に種 々のゲス ト分子 を取 り込み包接
1993年6月25日受理
*秋 田大学鉱 山学部物質工学科
DepartmentofMaterialsEngineeringandApplied Chemistry,MiningCollege,AkitaUniversity.
**東京工 業大学生命理工 学部生物工学科
DepartmentofBioengineering,FacultyofBioscien‑
ceandBiotechnology,TokyolnstituteofTechnoト Ogy.
19
化合物形成 を行 うこ とが知 られてい る(1). しか しシ クロデ キス トリンはそれ 自体 が分光学的 に不活性 で あ り, ゲス ト化合物 を取 り込み包接化合物 を形成 し て も光学的吸収や蛍光発生 な どの変化 は示 さず,化 合物検 出に適用 出来 る可能性 はなか った.そのため,
シクロデキス トリンの包接化合物形成 に関す る研究 は光学的活性 なゲス ト分子 を用 い包接形成に伴 う蛍 光 スペ ク トルあるいは吸収 スペ ク トルの変化 よ り検 討す るのが常道であった. しか しなが ら, シクロデ キス トリンに発色団 を化学的に修飾す るこ とで本来 的には光学的吸収や蛍光性 を示 さないシクロデ キス トリンが分光学的 に活性 にな り得 るこ とが考 え られ る.近 年,我々は シ クロデ キス トリンにナ フ タ レ ン(2),アン トラセ ン(3), ピレン(4),フェロセ ン(5),ス ピロピラン(6), ア ゾベ ンゼン (7)単位 を化 学的に修 飾 した修飾 シクロデ キス トリンを合成 しその包接挙動 につ いて検討 した. その結果, ゲス ト包接 に伴 い修 飾 シクロデ キス トリンの円二色性 あ るいは蛍光 スペ
20 清 田文 男 ・石川匡子 ・秋 LJ」菓 7日 上野昭彦
ク トルが変化す るこ とを報告 して きた. これ ら変化 の大 きさは個 々の ゲス ト分 子 に よ り異 な るこ とよ
り,修飾 シクロデキス トリンの分 子認識センサー と しての可能性 を意味す るものである.我々は蛍光 活 性 を有す るダンシル グ リシン修飾β‑シ クロデ キス トリン(1)を合成 し数々の生理活性 を有す るこ とで 知 られ るステロイ ド(8)に対 して高遠 択一高感度 セ ン サー を報告 した(9),(10).今 回さらにタンシル グ リシン 修飾 γ‑シクロデキス トリン(2)を合成 しステロイ ド に対す るセ ンサ一能及び1及び2の薬理 活性 を有す る植物塩基‑アルカロイ ド(8)に対 しての分子認識 セ ンサー能につ いて検 討 したので報告す る.
2.実 験
2.1 ダンシル グ リシン修飾β‑シクロ デキス トリン (1)の調製 :
Ⅳ,〃 ジ メチル ホルムア ミ ド60mlとダ ン シル グ リシン1.0g (3.24mmol) との混合物 を約‑10oC に冷却 し, その混合物 に ジンクロ‑ キシル カルボジ
イ ミド0.75g(3.63mmol)を添加 し,30分 間撹拝 し
トリン糊 1.1g (0.95mmol)を加 え,更に30分 間撹 持 した. 反応液 を室温に戻 し,一晩撹拝 を続けた.
反応液 を濃縮 し, 多量のアセ トンを加 え,得 られた 沈澱 を単匪 した.沈澱物 をアセ トンにて洗浄 してか ら水 を加 え,水不溶部 を除 き,水可溶部 を集め た.
この水可溶部 を濃縮 し, アセ トンで再 び沈澱 させ, 乾燥後 メチルアル コールで洗浄 しメチルアル コー ル 可溶部 を除いた. メチルアル コー ル不溶部 を少量の 水 に溶解 し,CM‑セ フ ァデ ックス カラム (2.5×40 cm)に通導 した.最初 に不純物が溶出 し, その後 目 的生成物が洛 出 した. これ を集めて濃縮 し, アセ ト ンで再 沈 し目的物110mg (Yield:9%)を得 た.
Rf‑0.5(1‑ブ タノー ル/ェ タノ‑ル/水‑5:4:3) IR (KBr)二3350,2930,1705,1665,1575,1550,1413, 1365,1330,1232,1155,1080,1030,945,850(cm【1),
lH‑NMR(DMSO‑d6)6:3.2‑3.75(44H,br,CH2 andシクロデ キス トリンーH)2.84(6H,S,NMe2),4.5 (6H,m,06H),4.85(7H,S,CIH),5.65‑5.9(14H,br, 02H andO3H),7.26(1H,d,Ar‑H),7.60(2H,br,Ar
‑H),8.28(1H,d,Ar‑H),8.45(1H,d,Ar‑H),Found:
C,46.63;H,6.08;N,2.23;S,1.93%.Calcd.forC56 H87037N3S・H20:C,46.47;H,6.25;N,2.91;S,2.
22%.MS(FAB):1424([M+H]+)
ダンシル グ リシ ン修飾 γ‑シ ク ロデ キス トリ ン (2)の調製 :
化合物 (1)の調製法 に準ず る.Yield:22%.
Rf‑0.39(1‑ブ タノー ル/ェ タノール/水‑5:4:3) IR (KBr):3350,2930,1670,1572,1550,1412,1330, 1240,1155,1080,1027,940,852,788,758(cm 1),1H
‑NMR(DMSO‑d6 :D20‑4:1)
6:3.25(6H,S,NMe2),3.4‑4.2(50H,br,CH2andシ
andO6H),5.2‑5.35(8H,br,CIH),7.65(1H,d,Ar‑ H),7.98(2H,q,Ar‑H),8.45(lH,d,Ar‑H),8.62(1H, d,Ar‑H),8.86(1H,d,Ar‑H),Found:C,46.86;H, 6.10;N,2.60;S,2.35%.Calcd.forC62H950。2N。S:
C,46.94;H,6.04;N,2.65;S,2.02%.MS(FAB):
1586([M +H]+)
2.2 ステ ロイ ド,アル カ ロイ ドに対 す る 分子認識 セ ンサ ー能の測定 :
蛍光光度計は島津RF‑500型 を使用.蛍光 強度の 測定 は以下の条件 で実施 した.温度 は25oC,励起波 長 は370nmに設定. ホス ト濃度 は2.12×106Mか
V)) までの物 を使用 し, ゲス ト濃度 は リ トコー ル酸 の場合 を除 きゲス ト化合物 の ジメチルスルホキシ ド 溶液 を0.1mMとなるように添加 した.
3.結 果 と 考 察
γ‑シクロデ キス トリンはβ‑シ クロデ キス トリン と比較 してその分子サ イズは大 き くそのため包接挙 動 は両者の間で 多 くの場合, 異なる挙動 を示す こと が知 られてい る.既 に,我々は ピレン修飾 γ一シクロ デキス 巨 )ンがゲス ト非存在の場/飢 ま二量体 として 存在 しゲス ト添加 に よ り1対1包接化合物形成 を行 うこ とをモ ノマー蛍光 あ るいはエ キシマー蛍光 スペ ク トルの変化 よ り報告 してい る(4). ダンシル グ リシ ン修飾β‑シクロデキス トリン (1)の10%ジメチル スル ホキシ ド溶液 での 1‑ボルネ オ‑ ルの添加 あ る いは無添加 での蛍 光 スペ ク トル変化 をFig.1に示 す. スペ ク トル強度 はゲス ト無添加 で535nmで最
タンシル グ リシン修 飾 シ クロデ キス トリンの生理 活性物質 に対す る分 子認識 セ ンサ一能
450 500
havelen与th/nn
Fig.1 Fluorescencespectra of1(2.25Ⅹ106M)in a lO% dimethylsulfoxideaqueoussolution in the absence and presence of1‑borneol. Excitation wavelengtbwas370nm.
̲ = i ‑ 二
一二 三Fig.2 Induced‑nttypeofcomplexationofmod泊ed cyclodextrinwithapendantmoiety acting asa hydrophobiccapforinclusionofaguestmolecular (G)inthecyclodextrincavity.
大値 を示 し 1‑ ボルネオ‑ ルの添加 量増加 に伴 い減 少 してい るこ とが判 る. この こ とは, ダンシル部分 がゲス ト包接 に伴 いシクロデキス トリン疎水性 空孔 内か ら親水性 の空孔外へ と疎水性残基 として機能 し なが ら放 出 され るこ とを意味 してお り,我 々は この ような包接挙動 を適合誘導 (Induced‑BtType)壁 として報告 してい る(Fig.2)(ll). また蛍光強度の変 化の現象は酵素 あ るいは ミセルlPの疎水性環境下 で ダンシル単位 の蛍光 強度 が増大す る事実 と一致 して いる(12).
ここでゲ ス ト非 存在 での化 合 物 1の蛍 光 強度 を Io,ゲス ト添加時の蛍光強度 をⅠ,IOとⅠの差 を△Ⅰと するならば△Ⅰ/IO(‑K)は分子認識能の感度評価 因 子 として用 いるこ とが出来 る.
Fig.3に10種 の ステ ロイ ドに対す る化合 物 及 び
0064
(%)oIJlV
21
7 8 GueSl
Fig.3 Thesensitivityfactor△Ⅰ/Io(%)of1(2.21Ⅹ106
M)(□)and2(2.26Ⅹ106M)(覗)forvarioussteroidal guests.
2の K を示 した.化合物 1はケ ノデオキシコー ル酸 (10), ウル ソデオキシ‑ル酸 (ll)にたい してそれ ぞれKが41.9及 び63.3%と高 い値 を示 した. しか しこれ らステロイ ドと 1個 の水酸基の位 置が異 なる デオキシコール酸 (8)に対 しては5.9%と低 い感度 を示 したにす ぎない.水酸基の 1個少 ない リトコー ル酸(9)は溶解性が低 いこ とか ら0.01mmolの濃度 で使用 したに も拘 らず14.8%と高 い感度 を示 した.
また水酸基が さ らに1個 多い コール酸 (12)に対 し てはほ とん ど感度 は示 さなか った. この こ とよ りゲ ス ト分子の極性 の増加が感度 の低下 に影響 している こ とが考 え られ る.2あ るいは 3個 の水酸基 を有す るケ トステ ロイ ド群 にはほ とん ど感度 を示 さなか っ た.水酸基 を有 しないプ ロゲステロン (3)は6.7%
と幾分高 い感度 を示 した.化合物2の場合,デ オキ シコー ル酸, ウル ソデ オキシ コー ル酸 に対 しては 1 の場合 と同様 高い選択性 を示 した. しか しその感度 は14.8及 び20.5%を示 し低下 した.しか しなが ら リ
トコール酸の場合,0.01mmol濃度添加 で感度が19.
5%と1の場合 に比較 して高い値 を示 し,他 のステロ イ ドの場合 と逆の結果 を示 し興味深 い.
アル カ ロイ ドに対 す る K につ い てFig.4及び 5 に示 した.Fig.4においては化合物1,Fig5におい ては2の場合 につ いて示 してい る.1の場合,蛍光 ピ ー クは535nm,2の場合,540nmにて測定 した.化 合物 1はキニー ネ, キニ ジンに対 して高い感度 を示 した.他 のアルカロイ ドに対 してはほ とん ど感受性 を示 さなか った.包接化合物形成の メカニズムは ト ボルネオ‑ル をゲス ト分子 とした場合 と同様 な形態 で進行 しているこ とが判 る.即 ちゲス ト添加 に よ り 蛍光強度 は減少 している.一方,化合物2では非常
22 清 田文 男 ・石川匡子 ・秋 山菓子 ・上野昭彦
。d 5 g 。L # o"0
progeslerOn(3) corticosterone(4) Cortisone(5)
prednisolone(6) hydrocortisone(7) deoxycholicacid(8)
.tが C が 'coo"H.^、、q g COO" I.が 。 貯 ooH lilocholicacid(9) Chenodeoxycholicacid(I0) ulSOdeoxycholicacid(1I)
Cholicacid(12)
13 14 15 18
Guest
Fig.4 Thesensitivityfactor△Ⅰ/IO(%)of1(2.25Ⅹ106
M)forvariousalkaloidalguests.
に弱 い感度 を示 し選択性 も弱 いこ とが明 らか となっ たがナル コナ ン(16), ロベ リン(17)の場合,Kが 負の値 を示 した. この こ とは, ゲス ト包接 に伴 い蛍
(十bomeol
13 11 16 17 18 19
GlleSL
Fig.5 Thesensitivityfactor△Ⅰ/IO(%)of2(3.49Ⅹ10 6
M)forvariousalkaloidalguests.
光強度が増加 したことを意味す る.即 ち, タンシル 部分 が広す ぎる γ‑シクロデキス トリン空孔 を狭 く す るようなスペーサー として機能 しゲス ト分子 とダ
タンシルグリシン修飾シクロデキス トリンの生理活性物質に対する分子認識センサ一能 23
'H H′ノ
quinine(i3)
00l"川q
quinidine(I4) slrychnine(15)
̲‑‥ニ‥‥̲/ :‑ Oll
0 lobeli
n e
(I7)OCH3
narcoline(16)
CHZCOCGHSCIもO CIも0
OH yohimbine'HCJ(I9)
̲二二二 一 二 二
Fig.6 Induced‑Bttypeofspaceregulation by the appendedmoietyforinclusionofaguestmolecular (G)inthecyclodextrincavity.
ンシル基 が共 に空孔 内に入 り込 む とい うメカニ ズム で進行 して い るこ とが推 定 され る.(Fig.6)この現 象 はW ang等 の ダ ン シル誘 導体 で も観 察 され て い る(13).
4.結 論
ダ ンシル修 飾 シ クロデ キス トリンの ス テ ロイ ド, アル カ ロ イ ドに対 す るセ ンサ ー 能 は β‑シ クロデ キ ス トリン誘 導体 の場 合 に お いて よ り高 い選 択性 と感 度 を示 した.しか し,ダ ン シル修 飾γ‑シ クロデ キ ス トリンの場合 , ア ル カ ロ イ ドに対 して感 度 が4%以 下 と低 い値 を示 してお り, ケ ノデ オ キ シ コー ル酸 , ウル ソデ オ キ シ コー ル酸, リ トコー ル酸 な どの感 度 の大 きい ス テ ロ イ ドの検 出に際 し, アル カ ロイ ドの 混在下 で も測定 の可能 性 を意 味 して い る.蛍 光 を用 いる本検 出法 は光 吸収 や 電気化 学 的手 法 に よる検 出
OCl13
papayerine'HCl(IS)
法 と比較 して,高感 度 を実現 す るこ とが で きるの で, ゲ ス ト希 薄 溶液 で可能 で あ る. 更 に, ダ ン シル修 飾 シ クロデ キス トリンは, ゲ ス ト化合 物 の分 子形状や 大 きさを測定 ない し推定 す るこ とが 出来 る と考 え ら れ る.
参 考 文 献
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(6) F.Hamada,M.Fukushima,T.Osa,andA.Ueno,
24 潰 踊文男 ・石川匡子 ・秋 山葉子 ・上野昭彦
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Murai,I.Am.Chem.Soc.,110,4323(1988). (12) W.Rettig,Angew.Chem.,Int.Ed̲Engl.,25,971
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