硫化処理したInAs(111)およびInSb(001)表面の構造 および電子状態の研究
著者 市川 祐永
雑誌名 静岡大学大学院電子科学研究科研究報告
巻 21
ページ 114‑116
発行年 2000‑03‑31
出版者 静岡大学大学院電子科学研究科
URL http://hdl.handle.net/10297/1536
氏名・(本籍
)
市川
砧
永 (神奈川県)
学位 の種類
博
士
(工 学)
学位記番号
工博甲第
181
号学位授与の日付 平 成 H年 3月 24日 学位授与の要件
学位規則第4条第 1項 該当 研究科・専攻の名称
電子科学研究科
電子材料科学
学位論文題目
硫化処理 したInAs(111)および
m勁
(ool)表面の構造および 電子状態の研究論 文 審 査 委 員 (委員長)
教 授 田 部 道 晴
教 授 福 田 安 生 教 授
藤
安
洋
助教授
伊ケ崎
泰
宏 教 授
中 村 高 遠
論 文 内 容 の 要 旨
Ⅲ‐
V族化合物半導体の中で最 も狭いバ ンドギャップを有する
hAsおよび
Lsbはその混晶 とともに赤
外領域の光デバイスヘの応用が考えられている。 しか しなが ら、その作製においては光デバイスの性 能劣化 をもたらす表面準位の低減が一つの課題 となる。(NH4)2SX溶 液を用いた硫化処理法はⅢ―
V族化合物半導体における表面準位密度を低減する優れたパ ッシベーション
(不活性化
)法として多 くの研 究がなされている。表面準位は表面構造 と密接な関係があるので、硫化処理 した表面の原子 レベルで の構造や化学状態を調べることは電子状態を調べることともに、そのパ ッシベーション効果を理解す る上で重要な意味を持つ。本研究 においては、(NH4)2SX溶 液処理 した
InAs(lH)および
LSb(ool)表面の構造を低速電子回析法
(LEED)、Auger電 子分光法
(AES)、走査 トンネル顕微鏡法
(STM)、 X線光 電子回析法 (XPD)を 用いて、表面における原子の化学状態 と占有および非占有電子状態を光電子分光 法 lPES)お よび逆光電子分光法
(IPES)を用いて詳細 に調べ、以下のことを明 らかにした。
1。 (NH4)2SX処理hAs(lH)表面
(NH4)2SX溶 液を用いて硫化処理 した
nttlnAs(Hl)A表面 を約
380℃までアニールすることにより、
硫化処理Ⅲ…
V族化合物
(lH)表面において初めて
(2×2)‐S構造が確認 された。一方、硫化処理
(lH)B表面 における
LEEDパターンは硫化処理
GaAs(Hl)B表面 において従来報告 されているの と同様、
1×‑114‑
1の
みが得 られる。
xPsスペク トルより、硫化処理後および
20℃未満でアニール した
(lH)B表面にお いて、
sはInおよびAsの 両方 と結合 しているが、それより高い温度でアニール した
(lH)B表面および S吸着
(lH)A表面においては、
sはInとのみ結合 していること力群
J明した。また、s吸着
(lH)Aおよび
(Hl)Bのいずれの表面においても、高温では
Sは三配位 または四配位で
hと結合 していることが示 さ れた。価電子スペク トルより、S吸着
(lH)B¨(1×1)表面の構造は
S原子が表面のAsサ イ トを置換 した
ものであることが示唆 された。
一方、
(111)A‐ (2×2)―S表面においては、清浄表面 に比べて
hの非占有 ダングリングボン ド準位の 密度が減少 していることが明 らかになった。 この表面における
hの化学状態は、バルク成分の他 に
3つの表面成分が存在するのに対 し、Asの 化学状態はバルク成分のみが存在する。Л
M観察によりこ の表面 においては
2×2の周期のハニカム状の突起
(prOtrllsion)が観察 されている。また、
XPD測定か
らSが表面第
1層よりも深いサイ トを占めることと、
SがAsサ イ トをほとんど置換 していないことが示 された。
s2sXPDパターンの運動学的解析 に基づ き、
(111)A― (2×2)―S表面に対 して
1つの有力な構造 モデルを堤案 した。このモデルは第
1および第
3層の
hと第
2層のSが結合距離0.27nmで ハニカム状 に結 合 した もので、 (lH)A―
(2×2)…S表 面 に対す る
PES、IPESお よびЛ
Mの実験結果 をほぼ満足する。角 度分解
PESにより、
(lH)A¨(2×2)‐S表面 における占有電子のバ ン ド構造 を実験的に明 らかにした。
PESス
ペ ク トル よ り、(1■)A¨(2×2)‐Sお よび (lH)B‐(1×1)…Sの いず れの表面 において も下方へ のバ ン ドの 曲 りが約0.2eVだ
け増 加 してい る こ とが判 明 した。̲2.(NH4)2SX処
理
hSb(001)表面
(NH4)2SX処 理
hSb(001)表面においては、他の硫化処理Ⅲ―
V族化合物表面 とは異な り、
6〜7MLにも達する厚い硫化物層が形成 される。s原 子は処理後の表面において
hおよびSbの いずれの原子 とも 結合 しているのに対 し、
310℃以上でアニール した表面 においては
In原子 とのみ結合 している。処理 表面 を
340℃でアニールすることにより、
(2× 1)表面が現れる。硫化処理 よる表面の非占有 ダングリ
ングボン ド準位の減少が認められた。
硫化処理 したⅢ‐
V族化合物
(lH)表面の構造お よび電子状態 を詳細 に解析 した例 は少ない。硫黄 パ ッシベーション処理されたInAs(lH)お よび
LSb(ool)表面の詳細な研究結果は光デバイスや、今後 注 目されるであろう
InAS/GaAs(Hl)Aヘテロエビタキシャル構造の作製のための基礎的な知見を与え
る。
‑115‑
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
Ⅲ…
V族化合物半導体の中で最 も狭いバ ン ドギャップと高い電子移動度 を有する
LAs、hSbは新 しい 光デバイスや高速デバイスヘの応用を期待 されている。 しか しながら、それらの応用においてデバイ スの性能劣化 をもたらす表面準位の低減や表面の安定化が重要 となる。これまでに
(N解)2Sx溶 液 を 用いた表面の硫化がⅢ‐
V族化合物半導体 における表面準位密度を低減 し、デバイス性能 を向上 させ ることが報告 されてきた。 しか しなが ら、硫化 した
InAs(lH)、 hSb(001)表面の構造や電子状態につ いての研究はない。本研究では種々の表面分析機器を用いてそれらの表面構造や電子状態を調べた。
本論文では第
1章に本研究の背景 と研究 目的を第
2章には実験方法 と各種測定機器の原理 を述べてい る。第3章 では
(NH4)2Sx溶液処理 した
hAs(Hl)A、 InAs(Hl)B表面の構造 と電子状態について述べ ている。本章では以下の結果が得 られている。
(1)イオウは
hのみ と結合 し、
A表面では
(2×2)構 造 をとり、
B表面では
(1×1)構造をとる。
(2×2)表面構造はイオウ処理Ⅲ¨
V族化合物半導体表面では初 めて見出された構造である。(2)B表 面ではAsの 占有 ダングリングボン ドが消失することから、イオ ウは
Asと置換すると考えられる。(3)A面 では
hの化学状態は3種類あ り、イオウと結合 した もの、
3配位 した もの、金属結合 したものが存在する。
B面では
1種類の
hが存在 し、バルクの状態 に対応す る。Asは 表面 に存在せずバルク中のみ存在する。 (4)A面 では
hの非占有 ダングリングボン ド密度が イオウ処理 により減少 した。
(5)イオウ処理により、両表面 ともバ ン ドカ洵
.2eV深くなった。第4章 で は走査 トンネル顕微鏡
(瓢M)を用いて
hAs(Hl)A‐(2×2)S表 面 を観察 し、表面構造 を
x線光電子回折
法 (XPD)を 用いて、バ ン ド構造をシンクロン放射光を用いる電子分光で調べた結果について述べてい る。本章では以下の結果が得 られている。
(1)STMにより、ハニカム状の像が観察 された。
(2)イオ ウと
Inからなるハニカム構造モデルを用いた、
XPDパターンのシミュレーション結果 と実験結果はよ く一致 した。
(3)3つの表面準位が存在することを明 らかにした。第5章 では
(NH4)2Sx溶液処理 した
hSb(001)表面の構造 と電子状態について調べた結果 を述べている。本章では以下の結果が得 られて いる。
(1)イオウは
hとのみ結合 し、
(2×1)構造をとる。
(2)イオウと
hの結合状態は2種類存在する。
(3)表
面
6‑7層は主 として
hsから成 る。
(4)イオウ処理 により
hの非占有 ダングリングボン ド密度が 減少する。第6章 は以上の結果を総括 している。
以上の成果はⅢ‐
V族化合物半導体表面のパ ッシベーシ ョンの機構 を解明する上で基礎的な知見 を 与える。又、上記表面上で種々の薄膜 を形成する場合の形成過程 を解明する上でも基礎的な知見を与
えるものであ り、本論文は博士
(工学
)を授与するのに充分であると認める。
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