論文内容要旨
論文題名 腋臭症術後合併症に関する後ろ向き診療録調査 掲載雑誌名 日本美容外科学会会報
専攻名 外科系 形成外科学 野村 美佐子
内容要旨 腋臭症に対する剪除法は直視下に汗腺を切除できるため最も効果的な治療法の1つ であるが,合併症も多く報告されている.術後早期合併症と臨床所見との関連性を調べるため,
われわれが過去に剪除法を行った患者の診療録をもとに調査分析を試みた.2006 年 4 月から 2020年3月までの14年間で当院または関連施設で剪除法を受けた患者188名(376腋窩)を対 象として調査したところ,合併症発生率は15.4%であった.内訳は血腫が最も多く,次いで創哆 開,皮膚壊死の順であった.男女間で発生率に有意差は認められなかったが,右腋窩の発生率 は左側に比べて有意に高かった.20 歳以下の若年患者における発生率は年長患者に比べて有意 に低かった.手術内容との関りでは,片側ずつ手術した場合と左右同時に手術した場合で,合 併症発生率に統計学的有意差は認められなかった.手術時期に関しては,気温の高い春夏(5-10 月)と低い秋冬(11-4 月)に分けて調べたところ,秋冬に手術を受けた方が合併症は有意に少 なかった.調査期間中,8名の後期研修医と2名の専門医が手術を担当していたが,両者間で合 併症発生率に有意差は認められなかった.腋臭症に対する剪除法において,術後合併症を引き 起こす要因は執刀医側の手技的因子と患者側因子に分けられる.前者に関しては,過剰な皮下 剥離や皮膚挫滅,止血操作,固定の過不足が考えられる.今回の調査で後期研修医と専門医の 合併症発生率に有意差はなく,手術経験との関連性は乏しいと考えられた.患者側の要因でも っとも重要なものは安静度である.事実,合併症は左より右腋窩に多く発生しており,患者の ほぼ全員が右利きであることを考えると,利き腕側に合併症が起こりやすいと言える.術後の 安静が難しい環境にある患者に対しては,左右時期をずらして手術を行う事で合併症の発生率 を左右同時に手術した場合と同等に抑え込むことができると考えられた.また,20 歳以下の患 者の合併症発生率は他の年代層に比べて顕著に低かった.同居している家族が術後のケアをす ることで創部の安静を保つことができた結果と考えられ,創部安静には家族のサポートが重要 と考えられた.また,休暇の多い秋冬に手術を受けることで安静をより長く保ち,合併症発生 率を抑えることができると考えられた.腋臭症に対しては剪除法がもっとも安価で,効果的,
永続的治療法である.術後合併症を予防するためには精確な手術操作や適切な圧迫固定など手 技も重要であるが,合併症が利き腕に発生しやすいこと,保護者のケアが得られる若年患者の 発生率が低いことなどを考えると,手技的因子よりも患者側の因子(患部の安静)が合併症発 生により深く関わっている可能性が示唆された.今回の結果を念頭に置き,「高い効果を維持し つつ術後合併症をいかに減らして安全性の高い手術を行うか」がわれわれの課題と考える.