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松 本 克 美

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(1)

論 説

使 用 者 の 損 害 賠 償 義 務 と 労 災 保 険

損 益 相 殺 ・ 賠 償 者 の 代 位 ・ 不 当 利 得 制 度 に よ る 使 用 者 減 責 論 の 批 判 ‑ 1

松 本 克 美

目 次

一 問 題 の 所 在

二 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 と の 損 益 相 殺

三 使 用 者 に よ る 労 災 保 険 給 付 金 の 代 位 取 得

四 賠 償 額 確 定 後 に 給 付 さ れ た 労 災 保 険 金 に 対 す る 不 当 利 得 返 還 請 求

問 題 の 所 在

8?

一 七 万 人 ︒ 我 が 国 に お い て 一 年 間 に 業 務 上 災 害 を 蒙 っ た り 業 務 上 疾 病 に 罹 患 し た 者 の 数 で あ る ( 一 九 九 四 年 ) ︒ そ の

(1)

う ち 死 亡 者 は 二 三 〇 一 人 ︒ こ う し た 労 災 職 業 病 (以 下 ま と め て 単 に 労 災 と 言 う ﹀ は 従 来 労 災 が 多 発 し て き た 危 険 な 鉱 山

(2>

や 建 設 現 場 ︑ 交 通 運 輸 業 等 の 職 場 に 限 ら ず ︑ 今 や ﹁ 過 労 死 ﹂ に 顕 著 な よ う に ︑ あ ら ゆ る 職 種 に 拡 大 し て い る ︒ 労 災 の

普 遍 化 で あ る ︒ し か も 労 働 過 程 で の こ の よ う な 災 害 疾 病 が ︑ 被 災 者 自 身 や 残 さ れ た 遺 族 の 生 活 自 体 を 破 壊 し て し ま う

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場 合 も 多 い ︒ そ し て こ の よ う な 労 働 過 程 に お け る 個 人 の 生 命 ・ 身 体 ・ 健 康 の 侵 害 を 契 機 と し た 生 活 の 再 生 産 の 阻 害

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神 奈 川 法 学 第30巻 第3号

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が ︑ そ の 結 果 に お い て の み な ら ず 原 因 に お い て も 社 会 自 体 の 再 生 産 を 阻 害 し て い く 現 実 に 我 々 は 眼 を 向 け ね ば な ら な

い ︒ な ぜ な ら 社 会 は 各 人 の 労 働 に よ っ て 成 り 立 っ て い る の に ︑ そ の 他 な ら ぬ 労 働 に よ っ て 各 人 の 生 活 が 破 壊 さ れ て い

く の だ か ら ︒ か く し て 労 災 の 事 前 防 止 と 発 生 し た 被 害 の 完 全 救 済 は 現 代 日 本 社 会 の 切 実 な 課 題 の 一 つ と な っ て い る ︒

さ て こ の よ う な 労 災 に つ い て の 我 が 国 に お け る 被 害 者 救 済 の た め の 法 制 度 と し て は ︑ 労 働 基 準 法 (昭 和 二 二 年 四 月 七

日 法 律 第 四 九 号 ) 上 の 使 用 者 の 労 災 補 償 責 任 制 度 (労 基 法 七 五 条 以 下 ) ︑ 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 (昭 和 二 二 年 四 月 七 日 法

律 第 五 〇 号 ) に 基 く 保 険 給 付 制 度 ︑ そ し て 民 事 賠 償 責 任 制 度 (使 用 者 の 安 全 配 慮 義 務 違 反 を 理 由 と す る 債 務 不 履 行 責 任 .

(4)(5)

民 法 四 一 五 条 ︑ 不 法 行 為 責 任 ・ 民 法 七 〇 九 条 以 下 ) が 存 在 す る ︒ 問 題 は こ れ ら 相 互 の 関 係 で あ る ︒

こ の う ち 労 災 補 償 と 労 災 保 険 ︑ 労 災 補 償 と 損 害 賠 償 と の 関 係 に つ い て は 労 基 法 上 明 文 の 規 定 が あ り ︑ そ れ ぞ れ ︑ 労

(6)

災 保 険 給 付 が な さ れ た 場 合 に は 労 災 補 償 責 任 は 消 滅 す る 旨 (労 基 法 八 四 条 一 項 ) ︑ ま た ︑ 使 用 者 が 労 災 補 償 義 務 を 履 行

(7)

し た 場 合 に は 同 一 事 由 に つ い て は ︑ そ の 価 額 の 限 度 で 損 害 賠 償 責 任 を 免 れ る 旨 (同 条 二 項 ) が 定 め ら れ て い る ︒

(8)

さ て 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 と の 関 係 は ど う か ︒ い わ ゆ る 第 三 者 行 為 災 害 の 場 合 (労 災 の 直 接 の 原 因 が 使 用 者 以 外 の 第 三

(9)

者 に あ る 場 合 ) に は ︑ 労 災 保 険 法 は 次 の よ う な 定 め を お い て い る ︒ す な わ ち 労 災 保 険 を 給 付 し た 政 府 は そ の 給 付 の 価

額 の 限 度 で ︑ 保 険 給 付 を 受 け た 者 が 第 三 者 に 対 し て 有 す る 損 害 賠 償 請 求 権 を 取 得 し (労 災 保 険 法 = 一条 の 四 第 一 項 ) ︑

ま た 逆 に ︑ 保 険 給 付 を 受 け る べ き 者 が 第 三 者 か ら 同 一 の 事 由 に つ い て 損 害 賠 償 を 受 け た と き は ︑ 政 府 は ︑ そ の 価 額 の

限 度 で 保 険 給 付 を し な い こ と が あ る (同 二 項 ) ︒ 他 方 で 第 三 者 が 加 害 者 で な い 使 用 者 行 為 災 害 の 場 合 に は 労 災 保 険 法

は 当 初 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 と の 関 係 に つ い て の 明 文 の 規 定 を お い て い ず ︑ そ の 解 釈 は 判 例 ・ 学 説 に 委 ね ら れ て い た ︒

そ の 結 果 ︑ 判 例 は ︑ こ の 問 題 に も 労 基 法 八 四 条 二 項 を 類 推 適 用 し ︑ 労 災 保 険 の 給 付 が な さ れ た 場 合 に は 同 一 事 由 に つ

い て は ︑ そ の 価 額 の 限 度 で 使 用 者 は 損 害 賠 償 責 任 を 免 れ る と し (大 阪 高 判 昭 二 九 ・ 九 ・ 二 九 高 民 七 巻 一 〇 号 七 八 〇 頁 ︑ 東

(3)

(431}

使用者の損害賠償義務 と労災保険

89

(10)

京 高 判 昭 三 一 ・ 三 ・ 二 一二 高 民 九 巻 二 号 九 三 頁 等 ) ︑ ま た 学 説 の 多 数 も こ の よ う な 結 論 を 支 持 し て き た ︒

(11)

と こ ろ が 一 九 六 〇 年 の 労 災 保 険 法 改 正 に よ る 長 期 傷 病 補 償 給 付 に お け る 年 金 制 導 入 と と も に ︑ 労 災 保 険 金 の 年 金 化

(12)

は 拡 大 の 一 途 を た ど り ︑ こ こ に ︑ 損 害 賠 償 と 労 災 保 険 の 調 整 問 題 に も 新 た な 局 面 が 生 ず る こ と に な っ た ︒ 年 金 化 す る

こ と に よ り ︑ 被 災 者 側 が ま だ 受 給 し て い な い 労 災 保 険 の い わ ゆ る ﹁ 将 来 分 ﹂ の 調 整 問 題 で あ る ︒

労 災 保 険 と 損 害 賠 償 と の こ の 将 来 分 の 調 整 問 題 に つ き ︑ 最 高 裁 は 後 述 の よ う に ︑ 第 三 者 行 為 災 害 及 び 使 用 者 行 為 災

害 の 双 方 に お い て ︑ 被 災 者 側 が 労 災 保 険 金 を 現 に 受 領 し て い る 分 に つ い て は 同 一 項 目 間 で の 損 益 相 殺 を 肯 定 し た が ︑

将 来 分 に つ い て は 控 除 を 否 定 し た (後 述 二 ( 一 ) 参 照 ) ︒ こ の 点 に つ い て は ︑ 最 高 裁 を 支 持 す る 学 説 も あ る が ︑ 他 方

で ︑ こ れ で は 将 来 分 に つ い て の 調 整 問 題 が 残 さ れ た こ と に な る と し て ﹁ 完 全 調 整 ﹂ の 立 場 か ら 立 法 的 解 決 を 要 求 す る

意 見 や そ れ に 反 対 し 調 整 を 否 定 す る 意 見 も 表 明 さ れ た (後 述 二 (二 ) 参 照 ) ︒ そ の 後 ︑ 一 九 八 〇 年 の 法 改 正 に よ り ︑ こ

の 問 題 に つ い て は ︑ 第 一 に ︑ 使 用 者 は 前 払 い 一 時 金 の 限 度 で 損 害 賠 償 義 務 の 履 行 の 猶 予 を 得 る こ と が で き ︑ そ の 間 に

労 災 保 険 給 付 が な さ れ た と き は 損 害 賠 償 責 任 を 一 部 免 れ る ︑ 第 二 に ︑ 労 働 者 が 使 用 者 か ら 損 害 賠 償 を 受 け た と き は ︑

(13)

一 定 の 価 額 の 限 度 で 保 険 給 付 を し な い こ と が で き る 旨 の 中 間 的 解 決 が は か ら れ 現 在 に 至 っ て い る ︒

筆 者 は ︑ 既 に い く つ か の 論 稿 に お い て ︑ 従 来 の 調 整 問 題 に つ い て の 多 く の 見 解 が ︑ 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 と が 重 複 す

る こ と を 前 提 と し て い る そ の こ と 自 体 に 問 題 が あ る と し て ︑ こ れ を 批 判 し ︑ 完 全 調 整 と は 正 反 対 の 完 全 併 存 論 を 提 起

(14>

し て き た ︒ 本 稿 に お い て は ︑ こ の よ う な 筆 者 の 見 解 に 対 す る 疑 問 や 批 判 へ の 応 接 も 兼 ね つ つ ︑ 第 一 に こ の 問 題 の 出 発

点 で あ る 損 益 相 殺 に よ る 調 整 の 可 否 ︑ 第 二 に 明 文 上 は 明 ら か に さ れ て い ず 裁 判 で 争 わ れ た 問 題 と し て 損 害 賠 償 を 履 行

し た 使 用 者 に よ る 労 災 保 険 金 の 代 位 取 得 の 問 題 ︑ 第 三 に 未 だ 正 面 か ら 議 論 さ れ て は い な い が ︑ 現 実 の 訴 訟 で 問 題 と な

っ て い る ︑ 控 除 さ れ な か っ た 将 来 分 の 労 災 保 険 金 を 被 災 者 が そ の 後 受 領 し た 場 合 に ︑ 既 に 損 害 賠 償 債 務 を 履 行 し た 使

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90 用 者 が そ の 労 災 保 険 金 相 当 額 を 不 当 利 得 し て 返 還 請 求 で き る か と い う 問 題 を 論 ず る こ と に す る ︒

な お 結 論 を 先 取 り す れ ば ︑ こ れ ら 損 益 相 殺 ︑ 賠 償 者 の 代 位 ︑ 不 当 利 得 返 還 請 求 に よ る 損 害 賠 償 と 労 災 保 険 の ﹁ 調

整 ﹂ を 認 め る な ら ば ︑ そ れ は ︑ 本 来 被 災 者 の 保 護 と 福 祉 の 増 進 の た め に 使 用 者 の 民 事 責 任 の 有 無 と は 独 自 に 支 給 さ れ

る べ き 労 災 保 険 金 に よ っ て ︑ 他 な ら ぬ 安 全 配 慮 義 務 違 反 に よ り 損 害 賠 償 責 任 を 負 う べ き こ と が 確 定 し た 使 用 者 が そ の

損 害 賠 償 義 務 を 一 部 免 れ ︑ 減 責 さ れ る こ と を 認 め る こ と に な り ︑ こ れ は 妥 当 な 法 的 解 決 と は 言 え な い の で は な い か と

い う の が 本 稿 の 基 本 的 モ チ ー フ で あ る ︒

神 奈 川 法 学 第30巻 第3号

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注(1)労働省編﹃平成七年版労働白書﹄三九三頁以下参照︒それによれば︑一九九四(平成六)年における業務上災害による休業四日

以上の死傷者は一七万六〇四七人︑一九九三(平成五)年における休業四日以上の疾病件数は九六三〇件とされている︒従ってこ

の統計には休業四日未満の労災職業病は含まれていないことや企業ではおうおうにして労災を健康保険で処理したりするいわゆる

﹁労災隠し﹂が行われること(この点を指摘するものとして我が国の労災民事訴訟のパイオニア的弁護士として活躍を続けている

岡村親宜﹃労災職業病﹄新日本新書・二六頁以下・一九八二年)︑﹁全貌は闇に埋もれている﹂と言われるいわゆる外国人の﹁不法

就労者﹂の労災(五島正規・古谷杉郎﹃いのちの差別外国人労働者の労災・医療﹄社会新書二二〇頁・一九九三年)等があるこ

とを考えれば︑その実態はさらに深刻なものと考えられよう︒

(2)業務に起因する過労による脳疾患及び心臓疾患について︑労災保険を受ける前提としての業務上認定請求件数は︑一九八九年か

ら九三年の五年間で実に二七六七件︑このうち業務上と認定された件数は四四一件である(岡村親宜﹁過労死の救済と救済立法論

労働省脳・心臓疾患検討プロジェクト委員会報告批判﹂労働法律旬報=二五一・五二号五六頁表‑参照・一九九五年)︒これ

まで過労死につき業務上認定された事例においてその職種は船員︑トラックやタクシーの運転手︑警備員︑消防署職員︑旅行添乗

員︑市役所職員︑税務署職貝︑教師︑医者等多岐にわたっている(上記岡村六〇頁の表3参照)︒なお過労死については︑岡村親

宜﹃過労死と労災補償﹄(労働旬報社・一九九〇年︒本書の書評として拙稿・労働の科学一九九一年一月号五四頁)︑川人博﹃過労

(5)

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使用者の損害賠償義務 と労災保険

91

死と企業の責任﹄(労働旬報社・一九九〇年)︑﹁特集ll癌と過労死﹂季刊労働法一六六号(}九九三年)等参照︒筆者もこの問

題について小論を書いたことがある(拙稿﹁さよなら過労死社会‑1生存権から生活権へ﹂神奈川大学評論七号八〇頁・一九九〇

年)︒そこで引用した岡村親宜弁護士談によれば︑我が国の過労死の実態は毎年数万人以上︑過労死予備軍は数十万人以上と推定

されている︒

(3)労災が﹁被災労働着とその遺家族の人間生活を破壊し︑貧困の中へ投げ込んでいる﹂実態につき︑前掲岡村﹃労災職業病﹄三二

頁以下︑我が国最大の職業病の一つであるじん肺についての実態調査かちじん肺に罹患した﹁労働者世帯の生活保護世帯化﹂を指

摘する野沢浩﹃労働過程の過失と貴任﹄(一九四頁・財団法人労働科学研究所・一九八八年)︑じん肺罹患者の家族による手記であ

る武藤ピサ子・全国じん肺裁判原告団・弁護団編著﹃涙がこぼれそうでーじん肺患者の妻と子供達の手記﹄(東研出版・一九八

八年等)参照︒また過労死はその死に至る前の長時間労働の日常の段階で既に労働者とその家族の生活を或る意味で破壊している

点につき︑中生加康夫﹃﹁過労死﹂と妻たち吐(風媒社・一九八九年)参照︒

(4)戦後の労災補償・保険制度の前史をなす工場法(明治四四年三月二八日公布・法律第四六号・施行は大正五年九月一日)や︑労

働者災害扶助法(昭和六年四月二日・法律第五四号)︑労働者災害扶助責任保険法(同年同日・法律五五号)等については︑労働

省労働基準局労災補償部編﹃労災補償行政史﹄(労働法令協会・一九六一年)の第一編戦前編︑中脇晃﹁労働災害補償法制に関す

る 一 考 察 ー 戦 前 編 ﹂ 商 学 論 集 四 七 巻 三 号 ︑ 吉 田 美 喜 夫 ﹁ わ が 国 に お け る 労 災 補 償 の 発 展 ﹂ 窪 田 隼 人 教 授 還 暦 記 念 論 文 集 ﹃ 労 働 災

害補償法論﹄一一五頁以下(法律文化社・一九八五年)等参照︒戦前の法制度︑それらをめぐる諸理論と戦後のそれとの連続と断

絶は一つの理論史的検討課題だが︑ここではそれに触れる余裕はない︒また我が国の民法典ではなぜドイツのように雇傭契約にお

ける安全配慮義務(閃貯︒ゆo﹁伽q8爵6騨)が明文で規定されなかったのかという興味深い問題の検討として︑白羽祐三﹃安全配慮義

務法理とその背景﹄(中央大学出版部・一九九四年)︒筆者もこれらの問題をかつて修七論文﹁我が国における安全保護法理の形成

と展開﹂(早稲田大学大学院法学研究科・一九八一年)で検討したが︑いずれ更に検討を加え論文として公表する予定である︒(5)この問題についての概観として︑西村健一郎﹃労災補償と損害賠償﹄二一七頁以下二粒社・一九八八年)︒本書はその主張の

当否はともあれ︑この問題についての我が国の必読文献である︒なお比較法的にみると︑我が国のように労災保険制度とは別に︑

労災補償制度があり︑更に使用者に対して労災に関する民事賠償責任が追求できる法制度は極めて特殊なものである︒ドイツ︑ア

メリカでは労災保険給付以外に使用者の賠償責任を追求することは認められておらず︑フランスでも労災が使用者の許しがたい過

(6)

%

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失(貯暮Φ凶口①×2ω聾σ一①)がある場合を除き原則として民事責任の追求はできない︒イギリスでは労災保険給付と民事賠償責任の

併存が認められているが︑一九七八年の℃①禦︒︒oロ報告は︑両者の完全な調整を提言している︒またニュージーランドでは一几七

二年の事故補償法(ZΦをNΦ巴磐O>oo己Φ葺∩oヨ℃Φコω碧一〇ロ>9お謡)以来︑労災補償は無過失責任に基く事故補償の一般法に統

合され︑民事訴権は廃止されている︒以上の諸外国での制度の紹介・検討に関する比較的近時の論稿として︑西村健一郎﹁西ドイ

ツの労災補償(下)﹂労働法学研究会報=]=五号三六頁以下(一九八〇年)︑同﹁ドイツ労災保険における事業主等の民事責任﹂

民商法雑誌六八巻一暑二三頁以下(一九七三年)︑保原喜志夫﹁フランスの労災補償(2ご労働法学研究会報=壬二七号二〇頁以

下(一九八〇年)︑岩村正彦﹃労災補償と損害賠償iーイギリス法・フランス法との比較法的考察﹄(東京大学出版会・一九八四

年)︑林弘子﹁アメリカにおける労災補償と民事損害賠償(上)﹂労働法学研究会報一二七九号三九頁以下(一九七九年)︑樋口範

雄﹁60一一讐Φ﹁巴ωo霞8菊巳Φと日米不法行為法損害の重複填補の調整あるいは無調整﹂学習院大学法学部研究年報二〇号二

九八五年)︑浅井尚子﹁ニュージランド事故補償法とその運用実態﹂加藤雅信編著﹃損害賠償から社会保障へ﹄(三省堂.一九八九

年)等参照︒これらの比較法的検討を通じて今後の立法政策論が展開される場合でも︑我が国の現行制度間の関係を使用者の損害

賠償責任の軽減という方向で位置づけるのか︑被害者の完全救済の観点から捉えるのかは︑根本的な前提問題と言えよう︒本稿は

このような問題の検討を試みるものである︒

(6)なお︑筆者はかつて﹁労災保険制度は使用者の労災補償責任を責任保険的にカバーするものとして創設されたため︑労災保険給

付がなされた場合には︑それに相当する労災補償責任は消滅する旨︑労基法が明文で定めている﹂と指摘した(拙稿﹁車の両輪ー

1民賠と労災保険﹂労災補償制度問題研究会編﹃労災があぶないわたしたちの提言﹄二三〇頁(東研出版・一九九〇年︒本書

の書評として野沢浩・神奈川大学評論七号九三頁・一九九〇年)︒これに対して宮島教授は︑同書の他の執筆者の論述とともに︑

この点は﹁いずれも法の趣旨にそった理解でもなければ理論的でもない﹂と批判されている(宮島尚史﹃労災給付論﹄二二三頁・

学習院大学研究叢書20・第}法規・一九九一年)︒確かに労災保険制度は労基法上の補償責任の純粋な責任保険として創設され

たわけではなく︑この点は労災保険給付の受給権者が使用者でなく︑被災者やその遺家族である点にも明白に現れている︒また︑

労働省による前掲﹃労災補償行政史﹄もこの間の事情を次のように説明している︒﹁この法律の性格については︑法案作成の過程

において︑この法律を労働基準法による使用者の災害補償についての責任保険とするか︑又は︑労働者を直接対象として労働基準

法とは一応別個の労働者保険とするかにつき議論があったが︑占領軍当局の示唆もあり︑結局︑労働者を直接対象とする労働者保

(7)

(435) 使 用 者 の 損 審賠 償 義務 と労 災保 険

 

険にすることに決定された︒﹂(同書三〇七頁)︒従って︑労災保険を安易に責任保険とすることが被災者救済を阻害する法理論と

なり得る危険性もある中で(完全調整論者にはこのような傾向がある)︑このように労災保険が労災補償責任の純粋な責任保険で

ないことを強調するのが宮島教授の趣旨であるとすれば︑その限りでは全くその通りであり︑筆者も同意見である︒しかしにもか

かわらず︑労災保険制度が﹁労働基準法とは一応別個﹂ではあっても︑それが結果的に輪使用者の労災補償責任を責任保険的にヵ

バ⁝する﹂性格を有するものとして創設されたことは否定できないのではなかろうか︒この点を沼田稲次郎は端的に次のように指

摘する︒﹁個別資本の脆弱さによって労働者保護の実効が失われる可能性があるので︑使用者の補償責任を担保する必要が生ずる︒

﹃労働者災害補償保険法﹄は︑そのような使用者の責任保険にほかならない︒﹂(沼田﹃労働法論上巻﹄四二頁・法律文化社・一

九六〇年)︒その他﹁労災保険法は︑当初は労基法の使用者の責任の内容を肩代わりするものとして出発した﹂という松岡三郎の

指摘(同﹃安全衛生・労災補償労働基準法H﹄二一頁・ダイヤモンド社・一九八〇年)︑労災保険法は︑個別使用者の﹁この労

基法上の使用者の法定補償責任を︑保険制度を利用することによって集団としての使用者の責任の拡大・徹底をはかる制度として

担保し︑労災保険法上の給付がおこなわた場合には︑使用者は労基法hの法定補償責任を免れるととした﹂という岡村親宜の指摘(水野勝.岡村親宜・畠中信夫﹃労災・職業病・通勤災害補償法制と企業責任﹄一八五頁・総合労働研究所・一九七八年)︑﹁労

災保険法を︑労基法の災害補償の責任保険的性格と社会保障的性格という二面性を担うものとして︑率直に捉える必要性が生じて

いる﹂とする遠藤昇三教授の指摘(同﹁労働保険の保険関係﹂前掲窪田隼人教授還暦記念論文集﹃労働災害補償法論﹄一三八頁・

法律文化社.一九八五年)等参照︒なお使用者の損害賠償責任との関係での労災保険の責任保険的性格については︑後述二(三)

参照︒

(7)これらの規定をめぐる解釈論は︑当初は主として戦後の労働法学において労災補償責任の本質論という理論的問題とのかかわり

で論じられることになった(吾妻光俊︑慶谷淑夫︑松岡三郎︑窪田隼人︑安屋和人等)︒そしてこのような労災補償責任の本質論

がその後一九六〇年代に発展する使用者の労働契約ヒの安全保護義務・安全配慮義務違反による民事賠償責任論展開への理論史的

契機となるのである(この点につき拙稿門戦後日本における安全配慮義務論の理論史的検討労災責任論の展開過程とのかかわ

りを中心にーー﹂(一)(二)(三)早大法研論集三八︑四〇︑四三号・一九八六︑八七年︑とりわけ四〇号二七六頁以下参照)︒

なお当初民法学においては︑労災補償と損害賠償との関係をめぐる議論は余り行われていない︒これは一面で労災補償が市民法で

ある民法に対置される社会法たる労働法ヒの独自の制度として︑或いは民法の過失責任主義とは異なる特別立法に基く無過失責任

(8)

神 奈 川 法 学 第30巻 第3号

94

(436)

の立法として︑いわば民法との﹁断絶﹂の上に捉えられたことの理論的反映があったと考えられる(この点につき︑前掲吉田美喜

夫﹁わが国における労災補償の発展﹂=一九頁は︑﹁戦後初期の学説では︑団結権の法認が実現したことから︑災害補償を市民法

への批判・修正の上に成立する労働法上の問題と捉える傾向が強かった︒また︑災害補償を災害のてん補とみる場合も︑個別使用

者の責任の明確化を意識して︑不法行為理論の社会法的な発展段階のものとして捉えられた︒﹂とする)︒また労災における使用者

の民事責任を追求する訴訟が行われにくかった(過失の立証の困難の他に︑使用者を相手取って訴訟をすることの困難︑一般的権

利意識の問題等︒この点については︑拙稿﹁時効規範と安全配慮義務時効論の新たな胎動﹂神奈川法学二五巻二号三六以

下・一九八九年参照)等の実践的問題にも起因するものと思われる︒

(8)この点についての近時の論稿として前掲西村︑宮島の他に︑片岡舜﹁他の制度との調整﹂窪田隼人教授還暦記念論文集﹃労働災

害補償法論﹄二八三頁以下(法律文化社・一九八五年)︑村田輝夫﹁損害賠償と労災補償給付の調整﹂早大法研論集三七号(一九

入六年)︑宮川博史㎜労災保険と民事賠償の調整﹂塩崎勤編﹃現代民事裁判の課題(8)﹄九〇七頁以下(新日本法規出版.皿九九

〇 年 ) ︑ 水 野 勝 ﹁ 労 災 補 償 制 度 の 理 論 的 課 題 ‑ 補 償 と 予 防 の 統 一 的 把 握 の 視 点 か ら ー ー ・﹂ 学 会 誌 労 働 法 七 九 号 五 頁 以 下 ( 一 九 九

一年)︑山田誠一﹁﹃重複填補﹄問題の理論と現実(1)(2)﹂NBL五〇八︑五〇九号(一九九三年)︑大場敏彦﹁労災保険給付

と損害賠償﹂法学志林九〇巻二号二九九三年)等︒なお後掲二注(4)(5)(7)(8)も参照︒

(9)なお労災の原因が︑労働過程で用いられた器具・施設の欠陥や︑その使用方法の誤用等にある場合には︑そのような欠陥ある製

造品を提供したり︑十分な用法の説明を尽くしていなかった製造者や販売者等の責任(すなわち使用者以外の第三者の責任)も問

題になるが︑そのことから直ちに︑そのような欠陥ある製品を労働過程で使わせ或いは十分な安全教育等をしていなかった使用者

の安全配慮義務違反(ないし不法行為上の注意義務違反等)の責任が免責・減責されるわけではなかろう︒この場合の使用者の責

任 と 製 造 業 者 等 の 責 任 の 関 係 に つ い て は ︑ 拙 稿 柵 製 造 物 責 任 と 労 働 災 害 ‑ 我 が 国 に お け る 判 決 例 の 分 析 ー ー ﹂ 神 奈 川 法 学 二 七 巻

二・三号一六九頁以下(一九九二年)で若干の検討を行った︒(10)前掲西村﹃損害賠償と労災保険﹄二一九頁︒(11)一九六〇年の労災保険法改正においては︑じん肺等の長期の療養が必要な職業病に罹患した者への長期的な保護の必要性の議論

が契機となり︑じん肺法等の特別法の成立と同時に︑労災保険法自体における一部年金化の導入がはかられ︑また労災保険財源に

一部国庫負担が導入された︒この改正の経緯については︑前掲労働省労働基準局労災補償部﹃労災補償行政史﹄四六〇頁以下が詳

(9)

(437)

使用者の損害賠償義務 と労災保険

95

しい︒

(12)このような労災保険法の年金化動向につき︑桑原昌宏﹃労働災害と日本の労働法﹄(法律文化社・一九七一年)}六八頁以下︑

中脇晃﹁労働者災害補償法制に関する一考察1ー戦後編(一)(二)(三)﹂福島大学商学論集四八巻四号︑四九巻二号︑五〇巻三

号(一九八〇ー八二年)等参照︒なお労災保険の年金化と国庫負担導入︑適用事業所の拡大等は︑我が国の労働法学会にいわゆる

﹁労災保険の社会保障化﹂論争を激しくまき起こしていくことになる︒この点については︑荒木誠之﹃労災補償法の研究i法理

と制度の展開﹄一一四三頁以下総Am労働研究所・一九八一年)二四三頁以下︑高藤昭︑西村健一郎﹁労災補償の社会保障化﹂恒藤武

二編﹃討論労働法﹄二九四頁以下︑三=頁以下(世界思想社・一九七入年)︑山田耕造﹁労災補償制度の法的性格﹂沼田稲次

郎時本多淳亮"片岡舜編﹃シンポジューム労働者保護法﹄一九六頁以下(青林書院・一九八四年)等参照︒実はこれらの論争の理

論史的前提をなすのが労基法上の労災補償責任の本質論であった(前注7参照)︒

(13>改正後の現行労災保険法六四条は次のように規定する︒﹁第一項労働者又はその遺族が障害補償年金若しくは遺族補償年金又は障害年金若しくは遺族年金(以下この条において﹁年

金給付﹂という︒)を受けるべき場合(当該年金給付を受ける権利を有することとなった時に︑当該年金給付に係る障害補償年金

前払}時金若しくは遺族補償年金前払一時金(以下この条において﹁前払一時金給付﹂という︒)を請求することができる場合に

限る︒)であって︑同一の事由について︑当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から民法その他の法律による

損害賠償(以下単に﹁損害賠償﹂といい︑当該年金給付によっててん補される損害をてん補する部分に限る︒)を受けることがで

きるときは︑当該損害賠償については︑当分の間︑次に定めるところによるものとする︒

一事業主は︑当該労働者又はその遺族の年金給付を受ける権利が消滅するまでの間︑その損害の発生時から当該年金給付に係

る前払一時金給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該前払一時金給

付の最高限度額に相当する額となるべき額(次号の規定により損害賠償の責めを免れたときは︑その免れた額を控除した額)の限

度で︑その損害賠償の履行をしないことができる︒

二前号の規定により損害賠償の履行が猶予されている場合において︑年金給付又は前払一時金給付の支給が行われたときは︑

事業主は︑その損害の発生時から当該支給が行われた時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した

額が当該年金給付又は前払一時金給付の額となるべき額の限度で︑その損害賠償の責めを免れる︒

(10)

神 奈 川 法 学 第30巻 第3号

96

第二項労働者又はその遺族が︑当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から損害賠償を受けることができる

場合であって︑保険給付を受けるべきときに︑同一の事由について︑損害賠償(当該保険給付によっててん補される損害をてん補

する部分に限る︒)を受けたときは︑政府は︑労働者災害補償保険審議会の議を経て労働大臣が定める基準により︑その価額の限

度で︑保険給付をしないことができる︒ただし︑前項に規定する年金給付を受けるべき場A口において︑次に掲げる保険給付につい

ては︑この限りでない︒

一年金給付(労働者又はその遺族に対して︑各月に支給されるべき額の合計額が労働省令で定める算定方法に従い当該年金給

付に係る前払一時金給付の最高限度額(当該前払一時金給付の支給を受けたことがある者にあっては︑当該支給を受けた額を控除

した額とする︒)に相当する額に達するまでの間についての年金給付に限る︒)

二障害補償年金差額一時金及び第十六条の六第一項第二号の場合に支給される遺族補償一時金並びに障害年金差額一時金及び

第二十二の四第三項において読み替えて準用する第十六条の六第一項第二号の場合に支給される遺族一時金

三前払一時金給付﹂

なお︑一九八〇年の法改正の経緯とそれをめぐる問題点については前掲宮島﹃労災給付論﹄第]五章参照︒(14)拙稿﹁車の両輪民賠と労災保険﹂労災補償制度問題研究会編﹃労災があぶないわたしたちの提言﹄二三〇頁以下(一九

九〇年)︑同[労災保険と損害賠償の完全併存の実現﹃重複控除﹄論を超えて﹂季刊労働法一五八号四九頁以下(一九九

一年)︑同﹁使用者の損害賠償債務の履行と労災保険法に基づく保険給付請求権の代位取得﹂ジュリスト別冊﹃社会保障法判例百

選・第二版﹄一五〇頁(一九九一年)︒なお労災保険の問題ではないが︑搭乗者傷害保険条項に基づく死亡保険金の損害賠償額か

らの控除を否定した最判平七・一・三〇の判例評釈でも︑完全併存論の基本的視点を主張した(拙稿.法学教室一九九五年七月口万

八六頁)︒

二 労 災 保 険 金 と 損 害 賠 償 の 損 益 相 殺 の 可 否

(438)

(1)

こ こ で は 労 災 に つ い て 使 用 者 が 負 う べ き 損 害 賠 償 か ら の 労 災 保 険 金 の 控 除 の 問 題 を 論 ず る ︒

(11)

(439) 使 用 者 の 損 害賠 償 義 務 と労 災保 険

97

( 一 ) 判 例

1 第 三 者 行 為 災 害 後 記 最 高 裁 判 決 以 前 の 下 級 審 判 決 の 多 数 は 将 来 分 は 非 控 除 と す る 非 控 除 説 に た ち ︑ そ の 論 拠 と

し て は ︑ 将 来 の 年 金 給 付 の 不 確 定 性 (福 岡 高 判 昭 四 六 ・ 六 ・ 二 一 判 時 六 五 三 号 = 一 頁 ) ︑ 将 来 の 給 付 の 控 除 が 被 災 者 に

分 割 弁 済 の 不 利 益 を 強 い る こ と に な り ︑ 加 害 者 に 対 す る 恩 典 化 に つ な が る こ と (東 京 地 判 昭 四 九 ・ 二 ・ 一 四 交 民 集 七 巻

一 号 } 八 四 頁 ) な ど が 挙 げ ら れ て い る ︒ ま た 少 数 な が ら 存 在 す る 控 除 説 の 根 拠 と し て は ︑ ﹁ 衡 平 の 原 則 ﹂ (札 幌 高 判 昭 四

(2)

六 . 一 . 一 八 判 時 六 二 四 号 四 四 頁 ) や ﹁ 公 平 の 理 念 ﹂ が 挙 げ ら れ て い る ︒

こ の よ う な 中 で 最 高 裁 は 次 の よ う に 労 災 保 険 金 の 既 受 領 分 控 除 ︑ 将 来 分 非 控 除 説 を 採 用 し た (最 高 裁 昭 和 五 二 年 五

月 二 七 日 民 集 三 一 巻 三 号 四 二 七 頁 ) ︒

﹁ 厚 生 年 金 法 四 〇 条 及 び 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 (昭 和 四 八 年 法 律 第 八 五 号 に よ る 改 正 前 の も の ) 二 〇 条 は ︑ 事 故 が 第 三

者 の 行 為 に よ っ て 生 じ た 場 合 に お い て ︑ 受 給 権 者 に 対 し ︑ 政 府 が 先 に 保 険 給 付 又 は 災 害 補 償 を し た と き は ︑ 受 給 権 者

の 第 三 者 に 対 す る 損 害 賠 償 請 求 権 は そ の 価 額 の 限 度 で 当 然 国 に 移 転 し ︑ こ れ に 反 し て 第 三 者 が 先 に 損 害 の 賠 償 を し た

と き は ︑ 政 府 は そ の 価 額 の 限 度 で 保 険 給 付 を し な い こ と が で き ︑ 又 は 災 害 補 償 の 義 務 を 免 れ る も の と 定 め ︑ 受 給 権 者

に 対 す る 第 三 者 の 損 害 賠 償 義 務 と 政 府 の 保 険 給 付 又 は 災 害 補 償 の 義 務 と が ︑ 相 互 補 完 の 関 係 に あ り ︑ 同 一 事 由 に よ る

損 害 の 二 重 填 補 を 認 め る も の で は な い 趣 旨 を 明 ら か に し て い る ︒

そ し て ︑ 右 の よ う に 政 府 が 保 険 給 付 又 は 災 害 補 償 を し た こ と に よ っ て ︑ 受 給 権 者 の 第 三 者 に 損 害 賠 償 請 求 権 が 国 に

移 転 し ︑ 受 給 権 者 が こ れ を 失 う の は ︑ 政 府 が 現 実 に 保 険 金 を 給 付 し て 損 害 を 填 補 し た と き に 限 ら れ ︑ い ま だ 現 実 の 給

付 が な い 以 上 ︑ た と え 将 来 に わ た り 継 続 し て 給 付 さ れ る こ と が 確 定 し て い て も ︑ 受 給 権 者 は 第 三 者 に 対 し 損 害 賠 償 の

(12)

%

神 奈 川法 学 第30巻 第3号

{440)

請 求 を す る に あ た り ︑ こ の よ う な 将 来 の 給 付 額 を 損 害 額 か ら 控 除 す る こ と を 要 し な い と 解 す る の が ︑ 相 当 で あ る ︒ ﹂

(傍 点 引 用 者 ︒ 以 下 同 様 ) ︒

2 使 用 者 行 為 災 害 後 記 最 高 裁 判 決 以 前 の 下 級 審 判 決 は 非 控 除 説 と 控 除 説 に 立 つ も の と が 対 立 し て お り ︑ 非 控 除 説

の 論 拠 と し て は ︑ 被 害 者 保 護 の 精 神 (名 古 屋 地 判 昭 四 五 ・ 三 ・ 三 〇 交 民 集 三 巻 二 号 五 〇 四 頁 ) ︑ 労 災 補 償 と 損 害 賠 償 の 法

的 性 質 の 相 違 (福 島 地 裁 会 津 支 判 昭 四 入 ・ 九 ・ 一 交 民 集 六 巻 五 号 一 五 = 頁 ) ︑ 将 来 の 年 金 給 付 の 不 確 定 . 不 安 定 (福 島 地

裁 若 松 支 判 昭 四 八 ・ 九 二 三 交 民 集 六 巻 五 号 一 五 = 頁 ) 等 が 挙 げ ら れ ︑ 控 除 説 の 論 拠 と し て は ︑ 労 基 法 八 四 条 二 項 の 類

推 適 用 (高 松 地 裁 丸 亀 支 判 昭 四 五 ・ 二 ・ 二 七 交 民 集 三 巻 一 号 三 三 三 頁 ) ︑ 労 災 保 険 の 責 任 保 険 的 性 格 (名 古 屋 高 判 昭 五 二 .

一 二 一= 判 時 八 五 七 号 七 五 頁 ) ︑ 遺 族 補 償 と 被 災 者 の 逸 失 利 益 と の 実 質 的 な 同 質 性 (東 京 高 判 昭 五 二 . 五 . 三 一 判 時 八 六

(3)

二 号 三 三 頁 ) ︑ 衡 平 の 原 則 (東 京 地 判 昭 四 八 ・ 九 ・ 一 四 判 時 七 二 五 号 六 五 頁 ) 等 が 挙 げ ら れ て い た ︒

さ て こ の よ う な 中 で 最 高 裁 は 使 用 者 行 為 災 害 に つ い て も 将 来 分 非 控 除 説 を 貫 く こ と に な っ た (最 判 昭 和 五 二 年 一 〇

月 二 五 日 民 集 三 一 巻 六 号 八 三 六 頁 ) ︒ ﹁労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 に 基 づ く 保 険 給 付 の 実 質 は ︑ 使 用 者 の 労 働 基 準 法 上 の 災 害 補 償 義 務 を 政 府 が 保 険 給 付 の 形

式 で 行 う も の で あ っ て ︑ 厚 生 年 金 保 険 法 に 基 づ く 保 険 給 付 と 同 様 ︑ 受 給 権 者 に 対 す る 損 害 の 損 補 の 性 質 を も 有 す る か

ら ︑ 事 故 が 使 用 者 の 行 為 に よ っ て 生 じ た 場 合 に お い て ︑ 受 給 権 者 に 対 し ︑ 政 府 が 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 に 基 づ く 保 険

給 付 を し た と き は 労 働 基 準 法 八 四 条 二 項 の 規 定 を 類 推 適 用 し ︑ ま た ︑ 政 府 が 厚 生 年 金 保 険 法 に 基 づ く 保 険 給 付 を し た

と き は 衡 平 の 理 念 に 照 ら し ︑ 使 用 者 は ︑ 同 一 の 事 由 に つ い て は ︑ そ の 価 額 の 限 度 に お い て 民 法 に よ る 損 害 賠 償 の 責 を

免 れ る と 解 す る の が ︑ 相 当 で あ る ︒ そ し て ︑ 右 の よ う に 政 府 が 保 険 給 付 を し た こ と に よ っ て ︑ 受 給 権 者 の 使 用 者 に 対

す る 損 害 賠 償 請 求 権 が 失 わ れ る の は ︑ 右 保 険 給 付 が 損 害 の 墳 補 の 性 質 を も 有 す る 以 上 ︑ 政 府 が 現 実 に 保 険 金 を 給 付 し

(13)

て 損 害 を 愼 補 し た と き に 限 ら れ ︑ い ま だ 現 実 の 給 付 が な い 以 上 ︑ た と え 将 来 に わ た り 継 続 し て 給 付 さ れ る こ と が 確 定

...............

但 し て い て も ︑ 受 給 権 者 は 使 用 者 に 対 し 損 害 賠 償 の 請 求 を す る に あ た り ︑ こ の よ う な 将 来 の 給 付 額 を 損 害 賠 償 債 権 額 か

ら 控 除 す る こ と を 要 し な い と 解 す る の が ︑ 相 当 で あ る ︒ ﹂

使 用 者 の損 害 賠 償 義 務 と労 災保 険

99

( 二 ) 学 説

1 調 整 論 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 と の 調 整 を 認 め る 立 場 で あ り ︑ こ の う ち ︑ 最 判 の よ う に 同 一 事 由 の 既 受 領 分 に つ い

て の み 控 除 を 認 め る 立 場 ( 一 部 調 整 論 ) と 将 来 分 に つ い て も 控 除 を 認 め る 立 場 (完 全 調 整 論 ) と が あ る ︒

( 1 ) 第 三 者 行 為 災 害 こ の 点 に つ い て は ︑ か つ て 学 説 は 判 例 と 同 じ く 将 来 分 非 控 除 説 に 立 つ も の が 殆 ど で あ る と

さ れ ︑ そ の 理 由 と し て は ︑ 第 三 者 は い ず れ に せ よ 被 害 者 か 政 府 に 損 害 賠 償 を 支 払 う の だ か ら ︑ 被 災 者 へ の 損 害 賠 償 を

命 じ ら れ て も 格 別 の 不 利 益 は な い こ と ︑ 被 災 者 保 護 を 目 的 と し た 労 災 保 険 法 の 精 神 ︑ 控 除 を 認 め る と 被 災 者 に 分 割 弁

(4)

済 の 不 利 益 が 生 ず る こ と 等 が あ げ ら れ て い る ︒

し か し ︑ 近 時 は 被 災 者 の 二 重 取 り 防 止 と 使 用 者 と 被 災 労 働 者 の 利 害 の 公 平 な 調 整 と い う 観 点 か ら 控 除 説 を 支 持 す る

(5)

見 解 も 提 唱 さ れ て い る ︒

(6)

( 2 ) 使 用 者 行 為 災 害 学 説 は 将 来 分 非 控 除 説 と 控 除 説 と に 別 れ て い る ︒ 非 控 除 説 の 論 拠 と し て 挙 げ ら れ て い る

の は ︑ 労 災 保 険 法 の 被 災 者 保 護 の 精 神 ︑ 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 の 法 的 性 質 の 相 違 ︑ 特 に 権 利 発 生 原 因 (労 災 保 険 は 業 務

上 災 害 ・ 疾 病 に つ い て 加 害 者 の 故 意 ・ 過 失 に か か わ り な く 支 給 さ れ る の に 対 し て ︑ 損 害 賠 償 は 加 害 者 の 故 意 ・ 過 失 に 基 づ く ) ︑

権 利 主 体 の 相 違 (労 災 保 険 の 場 合 は 被 災 者 及 び 法 定 さ れ た 順 位 に 基 づ く 遺 族 で あ る が ︑ 損 害 賠 償 の 場 合 は 被 災 者 及 び 相 続 人 )

(7)

が あ る こ と ︑ 将 来 の 年 金 給 付 の 不 確 定 性 ︑ 被 災 者 に お け る 分 割 弁 済 の 不 利 益 の 発 生 等 で あ る ︒ ま た ︑ 控 除 説 の 論 拠 と

(14)

神 奈 川 法 学 第30巻 第3号 ヱ00

(442)

し て は ︑ 労 災 年 金 に よ り 受 け る 利 益 と 賠 償 の 対 象 と な る 逸 失 利 益 の 実 質 的 同 一 性 ︑ 非 控 除 だ と 事 業 主 に 労 災 保 険 料 と

賠 償 額 の 二 重 の 負 担 が 生 じ 労 災 保 険 の 保 険 メ リ ッ ト が 失 わ れ る こ と ︑ 既 受 領 分 だ け 控 除 さ れ る と 事 業 主 は 労 災 民 事 訴

(8)

訟 を 遅 延 さ せ る こ と に よ り 自 ら の 負 担 を 軽 減 さ せ ら れ る 等 の 理 由 が 挙 げ ら れ て い る ︒

(9)

こ の よ う な 調 整 論 者 の 中 に は 立 法 論 と し て も 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 の 完 全 調 整 を 実 現 す べ き と 説 く 者 が あ り ︑ こ れ は

(10)

労 働 大 臣 の 私 的 諮 問 機 関 で あ る 労 働 基 準 法 研 究 会 が 一 九 八 八 年 八 月 五 日 に 提 出 し た 中 間 報 告 に も 反 映 さ れ て い る ︒

2 調 整 否 定 論 両 制 度 の 異 質 性 か ら 調 整 を 否 定 す る 説 で あ る ︒

既 に 有 泉 亨 教 授 は 一 九 七 〇 年 の 段 階 で ︑ 労 災 保 険 は 今 日 業 務 上 災 害 に つ い て 労 働 者 に 生 じ た 損 害 を 直 接 に 保 険 す る

﹁ 損 害 保 険 に 近 い も の ﹂ と な っ て お り ︑ ま た ﹁ 保 険 料 は 労 働 者 を 使 用 す る た め の コ ス ト と し て は 賃 金 と 性 質 を 異 に し

な い ﹂ か ら ︑ 保 険 給 付 と 損 害 賠 償 は 必 ず し も 調 整 し な け れ ば な ら な い も の で は な く ︑ ﹁特 に 民 法 に よ る 遺 族 の 損 害 賠

償 請 求 権 と 労 災 保 険 に よ る 給 付 と の 間 に 大 き な 食 い 違 い が 認 め ら れ る 遺 族 補 償 給 付 に つ い て は そ の 調 整 を 断 念 し て も

(11)

よ い の で は あ る ま い か ﹂ と 指 摘 し て い た ︒

ま た ︑ 岡 村 親 宜 弁 護 士 は ︑ 使 用 者 の 労 災 補 償 義 務 と 損 害 賠 償 と の 調 整 を 規 定 し た 労 基 法 八 四 条 二 項 の 立 法 趣 旨 は ︑

燗 被 災 者 の 二 重 の 利 益 排 除 で は な く ︑ 衡 平 の 原 則 上 労 災 職 業 病 と い う 同 一 事 由 に よ る 使 用 者 の 二 重 の 不 利 益 防 止 に あ

る の で あ る か ら ︑ 労 災 保 険 給 付 金 の 場 合 ︑ 使 用 者 に 二 重 不 利 益 が 発 生 し な い か ら ︑ 使 用 者 災 害 の 場 合 の 既 受 領 分 労 災

(12)

保 険 給 付 金 の 損 益 相 殺 は 許 さ れ な い ﹂ と す る ︒

更 に ︑ 桑 原 昌 宏 教 授 も ︑ 我 が 国 で は ﹁ 労 働 者 の 生 命 と 健 康 の 価 値 と 尊 厳 ﹂ が 強 く 保 護 さ れ る 要 請 が あ り ︑ 二 重 填 補

も 許 さ れ る と し ︑ こ の 見 地 か ら ﹁ 部 分 的 で あ れ ︑ 調 整 で き る と す る 現 行 法 お よ び 最 高 裁 判 例 も 再 検 討 す る の も ひ と つ

(13)

の 考 え 方 で あ る ﹂ と し て ︑ 調 整 否 定 論 を 示 唆 し て い る ︒

(15)

(443) 使 用 者 の 損 害 賠 償 義 務 と労 災保 険

101

水 野 勝 教 授 は ︑ ﹁ 労 災 保 険 は ︑ い わ ば 労 基 法 の 責 任 保 険 的 機 能 を 担 う も の ﹂ だ が ︑ そ の ﹁ 機 能 的 重 複 は そ こ ま で が

限 度 で あ る ﹂ と し ︑ 労 災 保 険 と 損 害 賠 償 は ﹁ 性 格 を 異 に す る ﹂ か ら ﹁ 本 来 は ︑ 併 給 が 認 め ら れ る 筋 合 の も の で あ る ﹂

(14)

と す る ︒ そ の 際 ︑ 使 用 者 側 の 保 険 メ リ ッ ト ・ 二 重 負 担 論 に つ い て は ︑ 使 用 者 が 拠 出 す る 労 災 保 険 料 は ﹁ 企 業 間 競 争 の

も と で も 経 営 上 必 要 な コ ス ト と し て 処 理 さ れ ︑ 最 終 的 に は 商 品 価 格 に 上 乗 せ さ れ て 一 般 消 費 者 に 転 化 さ れ る 性 質 ﹂ の

も の で あ り ︑ 損 害 賠 償 と は ﹁ 実 質 上 の 負 担 者 を 異 に す る ﹂ と し ︑ ﹁ 以 上 の よ う な 両 者 の 差 異 を 看 過 し て 二 重 負 担 ・ 保

険 メ リ ッ ト の 剥 脱 の 回 避 と い う 観 点 か ら 完 全 調 整 を 説 く こ と は ︑ 保 険 メ リ ッ ト の 過 大 重 視 で あ り ︑ 労 災 予 防 の イ ン セ

(15)

ン テ ィ ブ と い う 視 点 か ら み て も 支 持 で き な い ﹂ と す る ︒

そ し て 宮 島 尚 史 教 授 は ︑ 労 災 に お け る 損 害 賠 償 が ﹁ 原 状 の 回 復 ﹂ を 理 念 と す べ き こ と ︑ 他 方 で 労 災 保 険 が ﹁ ﹃ 原 状

回 復 ﹄ に と ど ま ら ず そ れ を こ え て そ の 文 字 通 り の 人 間 中 心 の 生 活 へ の 全 面 保 障 ﹂ の 実 現 を 図 る べ き と い う ﹁ 二 つ の 柱

(16)

の 発 想 を あ ら た め て 確 立 す る こ と ﹂ の 重 要 性 を 指 摘 し ︑ 立 法 論 と し て は ︑ 両 制 度 の 調 整 を 否 定 し ︑ 労 災 保 険 と 損 害 賠

(17)

償 と の 重 複 控 除 を 認 め る こ と を ﹁ 論 外 ﹂ と し ︑ ま た ︑ 解 釈 論 と し て は ︑ 最 高 裁 が 将 来 分 を 非 控 除 と し て い る の は ﹁ 当

(18V然﹂とする︒

(19)

ま た 民 法 学 に お い て も ︑ 石 田 喜 久 夫 教 授 が 前 掲 の 有 泉 説 を 支 持 し て い る 他 ︑ 四 宮 和 夫 教 授 は ︑ 労 災 保 険 給 付 と 損 害

賠 償 と の 調 整 に つ き 新 た な 規 定 を 設 け た 前 掲 労 災 保 険 法 六 四 条 に つ き ︑ ﹁ こ の 規 制 は ︑ I I 被 害 者 の 二 重 利 得 ︑ (保 険

料 を 負 担 す る ) 使 用 者 の 二 重 負 担 の 防 止 ︑ に 主 眼 が 置 か れ て お り ‑ー 1 労 災 保 険 給 付 の 社 会 保 障 的 性 格 に 対 す る 十 分 な

(20)

配 慮 を 欠 く の で は な い か ﹂ と し て ︑ こ れ を 批 判 し ︑ 近 時 平 井 宜 雄 教 授 も こ れ を 受 け て ︑ 労 災 保 険 給 付 は ﹁ 社 会 保 障 的

(21)

色 彩 ﹂ を も ち ︑ ﹁ 控 除 に つ い て 消 極 的 に 解 す る べ き で あ る ﹂ と し て い る ︒

(16)

神 奈 川 法 学 第30巻 第3号

zo2

{444}

(三 ) 私 見

筆 者 は こ れ ま で ︑ 損 害 賠 償 と 労 災 保 険 給 付 が 併 存 し た か ら と 言 っ て ︑ 被 災 者 に ﹁ 不 当 な 二 重 利 得 ﹂ や ﹁ 不 当 な 二 重

負 担 ﹂ が 生 じ て い る の で は な く ︑ む し ろ ︑ 被 災 者 の 完 全 な 生 活 保 障 と 被 害 の 完 全 回 復 に 一 歩 で も 近 付 く た め に は ︑ 保

(22)

険 と 賠 償 の 完 全 併 存 こ そ が 実 現 さ れ る べ き で あ る こ と を 強 調 し て き た ︒ 損 害 賠 償 の 制 度 理 念 で あ る 生 じ た 被 害 の 原 状

回 復 と の 関 連 で 言 え ば ︑ 逸 失 利 益 の 賠 償 や 慰 謝 料 と い う 名 目 で 損 害 賠 償 の 札 束 が 幾 ら 積 み 上 げ ら れ て も ︑ 失 わ れ た 生

命 ・ 身 体 ・ 健 康 は 元 に 戻 ら な い の で あ る ︒ ま た 労 災 保 険 制 度 の 理 念 で あ る 被 災 者 の 生 活 保 障 に つ い て も ︑ 保 険 金 が 幾

ら 支 給 さ れ て も 将 来 の 生 活 に 即 し た 完 全 な 保 障 が 満 足 さ れ る も の で は な い の で あ る ︒ 賠 償 金 と 労 災 保 険 金 の 併 存 が 何

か 被 災 者 に と っ て 本 来 得 る べ き で な い 不 当 な 利 得 が 生 じ て い る か の よ う に 観 念 す る の は ︑ 金 銭 の 支 給 を も っ て 本 来 は

な し 得 な い 原 状 回 復 や 生 活 保 障 が あ た か も 完 全 に 実 現 さ れ て い る か の よ う に 思 い 込 む ま さ に 金 銭 賠 償 ︑ 金 銭 給 付 の 物

神 化 に 他 な ら な い ︒

ま た 使 用 者 の 二 重 負 担 に つ い て 言 え ば ︑ 前 掲 の 有 泉 ︑ 水 野 両 教 授 が 指 摘 す る よ う に ︑ 労 災 保 険 料 は 使 用 者 が 経 営 に

伴 い 当 然 負 担 す べ き コ ス ト し て 計 算 可 能 な こ と の 他 ︑ 使 用 者 行 為 災 害 に お い て は そ も そ も 使 用 者 が 安 全 配 慮 義 務 を 尽

(23)

く し て い れ ば 労 災 は 生 ぜ ず 損 害 賠 償 責 任 と い う 負 担 を 負 う こ と も な い こ と ︑ 使 用 者 は 労 災 に あ う 危 険 の 中 で 労 働 者 に

労 働 さ せ ︑ そ の 労 働 に よ っ て 自 ら 利 益 を 得 て い る の だ か ら ︑ そ の 中 か ら 労 災 保 険 料 を 出 資 す る の は 当 然 の こ と を 忘 れ

(24)

て は な ら な い ︒

更 に ︑ 二 重 負 担 論 と の 係 わ り で 完 全 調 整 論 者 は 労 災 保 険 に つ い て 使 用 者 が 保 険 料 を 負 担 す る 根 拠 を ︑ 労 災 保 険 の 給

(25)

付 に よ っ て 使 用 者 が 責 任 を 免 れ る 点 に 求 め ︑ こ れ を 保 険 メ リ ッ ト (保 険 利 益 ) と 捉 え て い る ︒ 確 か に 八 〇 年 の 法 改 正

以 前 で あ っ て も 資 力 の な い 使 用 者 が 損 害 賠 償 義 務 を 履 行 し な い 場 合 に も 被 災 者 に は 労 災 保 険 が 支 給 さ れ た が ︑ こ れ は

(17)

(445) 使 用 者 の 損 害 賠 償 義務 と労 災保 険

果 た し て 使 用 者 の 損 害 賠 償 責 任 を 免 責 し た り 減 責 し た り す る こ と を 目 的 と し た 制 度 な の だ ろ う か ︒ む し ろ 被 災 者 に 対

す る ﹁ 迅 速 か つ 公 正 な 保 護 ﹂ と ﹁ 労 働 者 の 福 祉 の 増 進 ﹂ を 制 度 理 念 と す る 労 災 保 険 法 に お い て は ︑ 労 災 保 険 の 責 任 保

険 的 な 性 格 も 第 一 に 被 災 者 の 生 活 保 障 に あ る の で あ っ て ︑ 賠 償 資 力 の 担 保 は 二 次 的 な も の に す ぎ ず ︑ 資 力 の な い 使 用

者 が 損 害 賠 償 責 任 を 結 果 と し て 果 た さ な い こ と が あ る と し て も ︑ そ れ は い わ ば 反 射 的 結 果 と 解 す べ き で は な い か ︒ つ

ま り 労 災 保 険 は 本 来 ︑ 賠 償 金 を 支 払 う 代 わ り に 保 険 金 を 支 払 え ぱ 足 り る と い う 制 度 で は な し に ︑ 使 用 者 は 保 険 料 も 賠

償 金 も 双 方 支 払 う べ き で あ り ︑ 仮 に 使 用 者 側 に 資 力 が な く 賠 償 金 が 支 払 え な く て も ︑ 少 な く と も 労 災 保 険 給 付 は 被 災

者 の 生 活 保 障 と し て 保 障 さ れ る 点 に 制 度 の 意 義 が あ る と 捉 え る べ き で は な い か ︒ こ の よ う に 労 災 保 険 の 責 任 保 険 的 性

格 は 必 ず し も ﹁ 完 全 調 整 論 ﹂ の 論 拠 に 直 結 す る の で は な く ︑ む し ろ ﹁ 完 全 併 存 論 ﹂ の 論 拠 と し て 位 置 付 け る こ と が で

(26)

き る の で あ る ︒ 八 〇 年 の 労 災 保 険 法 改 正 に お け る ﹁ 調 整 ﹂ 規 定 の 導 入 は こ の よ う な 労 災 保 険 の 被 災 者 保 護 の た め の 特

殊 な 責 任 保 険 的 性 格 を ︑ 使 用 者 の 減 責 機 能 を も た ら せ る 方 向 で 歪 曲 し た も の と し て 批 判 さ る べ き で あ る ︒

な お 以 上 の よ う な ﹁ 完 全 併 存 論 ﹂ に た っ た 場 合 ︑ 第 三 者 行 為 災 害 の 場 合 も ︑ 第 三 者 は 損 害 賠 償 責 任 に つ い て 究 極 の

責 任 者 で は あ る が ︑ そ れ が 労 災 で あ る 以 上 ︑ 労 災 保 険 が 支 給 さ れ て 当 然 で あ り ︑ 使 用 者 行 為 災 害 の 場 合 と 同 様 本 来 控

(27)

除 を 否 定 す べ き こ と に な ろ う ︒

( 四 ) 私 見 へ の 批 判 と 反 論

さ て ︑ こ の よ う な 私 見 に つ い て は ︑ 次 の よ う な 疑 問 や 批 判 が あ る ︒

娚 第 語 ) こ の 轟 に た っ た 場 A 駄 冗 八 〇 年 の 法 改 正 に よ る 調 整 製 の 存 在 を ζ つ と ら え る か が 賭 と な る と い う も の で あ る ︒ 完 全 併 存 の 実 現 を 理 念 と す る 筆 者 の 見 解 か ら 言 え ば ︑ 前 述 の よ う な 両 者 の 調 整 規 定 を 導 入 し た 八 〇 年 の

(18)

神 奈 川 法 学 第30巻 第3号 104

(446)

法 改 正 は 当 然 批 判 の 対 象 と な る ︒ そ も そ も 完 全 併 存 論 は ︑ 入 ○ 年 の 法 改 正 を 超 え て 更 に 法 改 正 に よ り 完 全 調 整 を す べ

(29)

し と の 労 基 研 ﹁ 中 間 報 告 ﹂ に 見 ら れ る よ う な 考 え 方 に 対 す る ア ン チ テ ! ゼ た る 立 法 論 と し て 展 開 し た も の で あ る ︒ 現

行 法 の 解 釈 論 と し て は ︑ 完 全 併 存 の 理 念 か ら し て 調 整 の 範 囲 を 明 文 で 認 め ら れ た 場 合 以 外 に は 拡 大 し な い と い う 厳 格

(30)

な 限 定 解 釈 を す る こ と に な る ︒

第 二 に ︑ 現 状 の 不 十 分 な 損 害 賠 償 額 と 労 災 保 険 額 を 前 提 に し た 場 合 に ︑ む や み に 両 者 を 調 整 す る こ と に は 否 定 的 だ

が ︑ だ か ら と い っ て 一 般 に 生 命 ・ 健 康 侵 害 の 場 合 の 損 害 賠 償 額 が ﹁ 青 天 井 ﹂ で よ い の か は 疑 問 で あ る と い う 批 判 で

(31)

あ る ︒ 筆 者 の 趣 旨 は 積 極 的 に ﹁ 青 天 井 ﹂ の 賠 償 額 を 認 め る べ き だ と 言 っ て い る の で は な い (青 天 井 と い う 言 葉 が 無 制 限

な と い う 意 味 で あ る と す れ ば ︑ ﹁ 無 制 限 な 賠 償 額 ﹂ を 命 ず る こ と は そ も そ も 観 念 で き な い で あ ろ う ) ︒ 生 命 ・ 健 康 ・ 身 体 と い

っ た 本 来 金 銭 に は 換 算 で き な い も の に 対 す る 損 害 で あ っ て も ︑ 金 銭 で 賠 償 す る 以 上 ︑ 個 々 の 裁 判 に よ る 恣 意 を 防 ぐ た

め に も 何 ら か の 算 定 方 式 に 基 く 一 定 額 の 賠 償 額 と な ろ う ︒ し か し ︑ か つ て 西 原 通 雄 教 授 が 明 快 に 指 摘 さ れ た よ う に ど

ん な に 緻 密 な 算 定 方 式 に よ っ て も そ の よ う な 賠 償 額 算 定 が フ ィ ク シ ョ ン に 基 く も の で あ る こ と を 我 々 は 忘 れ て は な ら

(32)

な い の で は な か ろ う か ︒ 賠 償 金 と 労 災 保 険 の 併 存 支 給 に よ り ﹁ 二 重 の 利 得 ﹂ が 生 ず る か の よ う に 観 念 す る の は ︑ こ の

(33)

よ う な フ ィ ク シ ョ ン を 実 体 化 す る 誤 っ た 観 念 論 で あ る こ と を 批 判 す る の が 筆 者 の 趣 旨 で あ る ︒

第 三 に ︑ 調 整 を 完 全 に 否 定 し た 場 合 に は ︑ 一 般 の 不 法 行 為 ・ 債 務 不 履 行 に 対 す る 賠 償 額 を 上 回 る 補 償 額 を 認 め る こ

と に な る が ︑ 業 務 災 害 の 場 合 に つ い て な ぜ こ の よ う な 結 果 が 認 め ら れ る か の 根 拠 に 欠 け る の で は な い か と い う 批 判 で

(34)

あ る ︒ ま ず 注 意 し な け れ ば な ら な い の は 論 者 の 大 場 氏 自 身 が 指 摘 す る よ う に 完 全 併 存 論 に よ っ て あ り 得 る 結 果 は コ

般 の 不 法 行 為 ・ 債 務 不 履 行 に 対 す る 賠 償 額 を 上 回 る 補 償 額 ﹂ な の で あ っ て ︑ ﹁ 一 般 の 不 法 行 為 ・ 債 務 不 履 行 に 対 す る

賠 償 額 を 上 回 る 賠 償 額 ﹂ で は な い と い う 点 で あ る ︒ 賠 償 額 と し て は 使 用 者 が 一 般 の 不 法 行 為 ・ 債 務 不 履 行 に 比 べ て 特

(19)

(447}

使用者の損害賠償義務 と労災保険

lQ5

別 に 過 大 な 賠 償 額 を 負 う わ け で は な い の で あ る ︒ そ し て こ の 場 合 ﹁ 補 償 額 ﹂ が 一 般 の ﹁ 賠 償 額 ﹂ を 上 回 る の は ︑ 賠 償

金 と は 別 に 被 災 者 の 生 活 保 障 と 福 祉 の 増 進 を め ざ し た 労 災 保 険 制 度 か ら 労 災 保 険 金 が 支 給 さ れ る か ら で あ っ て ︑ こ れ

は 完 全 併 存 論 か ら い え ば 当 然 の 結 論 な の で あ る ( 一 部 調 整 論 か ら も 同 じ く 一 般 の ﹁ 賠 償 額 ﹂ を 上 回 る 結 果 と な ろ う ) ︒ 他

の 事 故 類 型 に あ っ て も ︑ そ の 制 度 趣 旨 か ら し て 民 事 賠 償 責 任 と は 別 個 独 立 に 保 険 金 等 を 支 給 す べ き 場 合 が あ れ ば ︑ そ

の 場 合 も 一 般 の ﹁ 賠 償 額 ﹂ を 超 え る ﹁ 補 償 額 ﹂ が 支 給 さ れ る こ と に な る が ︑ ま さ に そ こ に 制 度 の 趣 旨 が あ る の な ら

ば ︑ そ の よ う な 制 度 理 念 が 実 現 さ れ た と い う だ け で あ っ て 何 ら 問 題 は な い は ず で あ る ︒ す な わ ち 問 題 は 当 該 保 険 制 度

の 趣 旨 の 理 解 に か か わ っ て い る の で あ る ︒

注(1)通常︑損害賠償からの労災保険金の控除の問題は損益相殺の問題として論じられている︒損益相殺とは不法行為や債務不履行に

関する損害賠償請求権者が︑損害を生じたのと同一原因によって利益を受けたときは︑損害からその利益を控除する制度である︒

我が国の民法には明文の規定はないが︑蒙った損害の原状回復という損害賠償制度の目的及び公平の観点から当然認められる制度

であるとされている(奥田昌道﹃債権総論[増補版ご二=頁・悠々社二九九二年)︒但し︑近時﹁損益相殺﹂という概念に疑

問を呈し︑従来損益相殺の問題として扱われてきた問題は︑損害の金銭的評価の問題として︑或いは債務不履行や不法行為によっ

て債務者が第三者から金銭給付を受ける場合にそれを控除すべきかは︑当該法律関係の趣旨・目的によって決するべきであり︑

﹁損益相殺という概念を立て︑これに独立の地位を与えることは疑問である﹂とする論者もいる(平井宜雄﹃債権総論・第二版﹄

一〇六頁・弘文堂・}九九四年︑同﹃債権各論11不法行為﹄一四五頁以下・弘文堂・一九九二年)︒筆者もこの問題は本文で述べ

るように損害賠償と労災保険の制度趣旨によって解釈すべき問題であると考えるが︑損益相殺の概念自体が不要であるか否かは留

保したい︒

(2)これらの判例については︑西村健一郎﹃労災補償と損害賠償﹄二二三頁以下で簡潔な紹介がなされている︒

(20)

神 奈 川法 学 第30巻 第3号

cos

(448}

(3)前掲西村﹃労災補償と損害賠償﹄二二九頁以下参照︒

(4)谷水央﹁遺族年金﹂判例タイムズニ六八号二〇六頁以下二九七一年)︑中田明﹁商事判例研究﹂ジュリスト五六六号一〇七頁

以下(一九七四年)︑下森定﹁損益相殺‑労災保険﹂ジュリスト別冊・交通事故判例百選(第二版)=二二頁以下(一九七五

年)︑岩出誠﹁労働判例研究﹂ジュリスト五八四号一五四頁以下(一九七五年)︑門井摂夫﹁労災保険給付と損益相殺﹂労働法律旬

報九=二号五九頁以下(一九七九年)︒これらの学説につき︑前掲西村﹃労災補償と損害賠償﹄二二六頁以下︒

(5)西村健一郎﹁損害賠償と労災保険給付の控除﹂民商法雑誌臨時増刊号(4)四五二頁二九七八年)︑保原喜志夫﹁労災補償制

度と不法行為責任﹂ジュリスト六九↓号﹃損害賠償制度と被害者の救済﹄一六五頁二九七九年)︑加藤一郎﹁労働災害と民事賠

償責任﹂季刊労働法一一三号一一頁(一九七九)等︒

(6)学説について︑前掲西村﹃労災補償と損害賠償﹄二三四頁以下︑前掲拙稿﹁車の両輪‑民賠と労災保険﹂二三四頁以下等︒

(7)将来分非控除説に立つ論者としては︑前注3谷水の他︑千葉憲雄﹁被災労働者の生命と健康の代償﹂労働法律旬報八三九号三六

頁(一九七三年)︑藤原清吾﹁労災保険金・厚生年金の損益相殺﹂労働法律旬報几一三号六六頁(一九七六年)︑角田豊﹁労災保険

の法的性格と損害賠償﹂労働判例二三〇号]一頁二九七五年)︑大竹秀達﹁労災裁判にみる賠償額の実状﹂季刊労働法一一三号

四三頁(一九七九年)︑前掲荒木誠之﹃労災補償法の研究﹄一九六〜七頁︑時岡泰﹃昭和五二年度最高裁判決解説﹄三〇三頁(一

九八一年﹀︑村田輝夫﹁損害賠償と労災補償給付の﹃調整﹄早大法研論集三七号二四九頁(一九八六年)等︒(8)将来分控除説に立つ論者として︑前注3の岩井論文︑注4の第三者災害においても控除説に立つ論者の他に︑下森定・判例タイ

ムズ三三五号一〇〇頁(一九七六年)︑斉藤修・民商法雑誌七八巻六号{二三号(一九七八年)︑安西愈﹃労災保険と民事賠償調整

の実務﹄二七九頁以下(労働法令実務センター・一九八二年)︑岩村正彦﹁社会保障法と民法の交錯﹂ジュリスト八二八号一九七

頁(一九八五年)︑吉川吉衛﹁保障金と労災年金との調整﹂ジュリスト別冊﹃新交通事故判例百選﹄一六九頁(一九八七年)等︒

また︑大場敏彦﹁労災保険給付と損害賠償﹂法学志林九〇巻二号(一九九三年)三九頁以下は︑両者の調整は労基法上の災害補償

給付の価額の限度で︑また︑将来分については︑その確実な給付が制度的に保証されている限りで控除し得るとする(とくに六六

頁以下参照)︒

(9)﹁現行規定の問題点﹂を論ずる前掲・西村健}郎﹃労災補償と損害賠償﹄二五九頁以下︒

(10)労基研中間報告は﹁労災年金と民事賠償は一時金のときと同様に完全調整がなされるべきであり︑それを確実に行うための法律

(21)

(449)

使用者の損害賠償義務 と労災保険

14?

上のしくみを検討すべきである﹂とする(労働省労働基準局編﹃今後の労災補償法制のあり方労働基準法研究会(災害補償関

係)の中間的な研究内容について﹄一六頁(財団法人労災保険情報センター・一九八八年)︒ちなみに︑この研究会の災害補償関

係のメンバーは座長花見忠の他︑下井隆史︑菅野和夫︑諏訪康雄︑西村健一郎︑保原喜志夫︑山口浩一郎︑若菜允子の各氏であ

る︒

(11)有泉亨﹁労災補償と労災保険﹂学会誌労働法三六号二七頁以下(一九七〇年)︒

(12)岡村親宜﹁損害賠償﹂沼田稲次郎編﹃労働法事典﹄五八九頁(労働旬報社・一九八〇年)︒(13)桑原昌宏﹁労災保険と労災民事賠償の調整論の原点11‑英・米・加・日の歴史と現状﹂月刊いのち二七四号三五頁(一九八九

年)︒

(14 ) 前 掲 水 野 勝 ﹁ 労 災 補 償 制 度 の 理 論 的 課 題 ‑ 補 償 と 予 防 の 統 一 的 把 握 の 視 点 か ら ﹂ 学 会 誌 労 働 法 七 九 号 三 〇 頁 二 九 九 〇

年)︒

(15)同前水野三一頁︒なお︑筆者は水野教授の同報告がなされた労働法学会のシンポジウムの席上︑水野教授に対して完全併存論に

よって﹁予防が達成されるというのは︑それは結果論であって︑理論的な根拠としては︑それほど主たる根拠となり得るのだろう

か﹂と疑問を提示した︒これは完全併存による労災防止という論点につき︑﹁本来行政規制の任務であるところのことを損害賠償

に要求するものであり︑結果として損害賠償に過度の制裁的機能を期待することになるのではないかと思われる﹂とする西村健一

郎教授の指摘(同﹃労災補償と損害賠償﹄二六五頁)を意識した質問であった︒これに対して︑水野教授は﹁私は︑民事責任排除

論を否定するにあたって︑単に予防的な効果があるから併存を認めていくべきだと言っているのではなくして︑もともと補償と賠

償は性格が異なるのだからその限度で併存して当たり前なんだということを前提とした上で︑併存か排除かの選択肢の選択の際の

補強手段として予防的な効果というものも考慮に入れていくのだという説明をしたわけです︒まさに補完的な意味において︑予防

的な機能を前提として併給調整を原則として排除していこうということ﹂であると回答されている(学会誌労働法七九号一五九頁

以下参照)︒この点については筆者も同意見である︒また筆者自身は労災防止は西村教授の言うように﹁本来行政規制の任務﹂な

のではなく︑労働契約上の安全配慮義務に基く使用者の任務と考えており︑この観点からかつて労災領域における安全配慮義務論

を﹁権利・義務の措定を通じての事故防止規範の形成という視点かち捉え返す﹂ことの重要性︑それともかかわって労災領域での

﹁事故予防規範の主体形成とそのシステム﹂の構築が課題となっていることを指摘してきた(拙稿﹁安全保護義務論・序説権

参照

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