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松 本 明日香 ・ 小 川 一 美 ・ 松 尾 貴 司

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(1)

問題と目的

近年,日本の高等教育では大学生の多様化が進 行しており,それに対応して,大学には学士課程 教育における質保証がより一層求められるように なっている(畑野・溝上,2013)。大学を卒業し た者が大学教育を通じて何を獲得したかを,大学 が指標として示し,その指標に基づいた力を獲得 すべく教育を行っていくことが求められているの である。つまり,教員が何を教えるかといった教 育内容に軸をおいた教育課程編成のあり方から,

学生が何を身に付けることができるかといった,

学習成果に軸をおいた教育課程編成への転換が行 われている(山田,2013)。

学士課程教育における学習成果の基準として,

様々な指標が示されているが,そのひとつに「学 士力」がある(文部科学省,2008)。学士力の内 容は4分野13項目にまとめられており,具体的に は,「知識・理解」,「汎用的技能」,「態度・志向 性」,「総合的な学習経験と創造的思考力」がある。

大学教育の学習成果が,実際の大学教育4年間を 通じてどのように変化したかを縦断的に検討する ことは意義深いといえる。

上記のように,学習成果には様々な指標,種類 が存在するが,その1つとして,自分の専攻する 学問に対して適応的に学んでいるかという,学習 への適応がある。半澤(2009)は,大学への適応 要旨

本研究では,心理学科の学生を対象にして,専攻学問に対する価値と,コミュニケーション力,授業外学習時間 の大学4年間の変化を検討した。分析の結果,専攻学問に対する価値のうち,興味価値,利用価値,私的獲得価値 は,入学時が最も高いことがわかった。また,この3つの価値は,3年次に低下するが,卒業時に再度高まること が示された。特に,利用価値は,卒業時において,入学時と同等まで上昇していた。次に,4年間の授業外学習時 間を,心理学に関する授業外学習時間とその他の授業外学習時間に分け,4年次に各学年での時間を回想させたと ころ,心理学に関する授業外学習時間は4年次が最も長く,その他の授業外学習時間は,3年次が最も長かった。

さらに,コミュニケーション力は,「解読と察知」,「課題達成場面の記号化」および「活性化と配慮」において入 学時に比べ3年次に高まること,3年次と卒業時の比較では,上記3つに加え,「感情統制」においても差がみら れ,卒業時の方が高いことが示された。

キー・ワード:専攻学問に対する価値,課題価値,授業外学習時間,コミュニケーション力

心理学を学ぶことが専攻学問に対する価値と授業外学習時間 およびコミュニケーション力に与える影響

※1

松 本 明日香 ・ 小 川 一 美 ・ 松 尾 貴 司

Theeffectsofstudyingpsychologyonthevalueofsubjectmajors, out-of-classlearningtime,andcommunicationskills AsukaMatsumoto,KazumiOgawaandTakashiMatsuo

※1 本研究の一部は日本社会心理学会第59回大会で 発表された。

(2)

の中でも学業適応の重要性を指摘している。溝上

(2006)は,大学での学びが将来にどう役立つの か分からず,大学での学習に意欲がわかないといっ た,昨今の大学生の,大学での学びに対する消極 的な姿勢を挙げ,問題視している。自分の所属す る大学の学びや,専攻する学問に対し意義を見出 し,適応的に学ぶことは,大学で身に付けるべき 力の獲得を支える最も重要な要素といえ,学習成 果の中でも根幹をなす重要な指標であるといえる。

本研究では,「大学での学びへの適応」という 観点から,専攻学問に対する価値を取り上げ,入 学から卒業までの変化を検討する。専攻学問に対 する価値は,専攻学問に対し,どのような価値を 求めるのか,どのような価値評定をしているのか というものであり,Eccles& Wigfield(1985)

の課題価値から派生した概念である(松本・小川,

2018)。従来の課題価値は,特定の教科や課題,

科目に対する価値を問うものがほとんどであった が,松本・小川(2018)は,特定の教科や科目に 対してではなく,「専攻学問」という複合的な学 びに対する価値も存在することを指摘し,専攻学 問に対する価値の構造の確認を行っている。その 結果,専攻学問という複合的な学びに対する価値 であっても,従来の課題価値と同様の下位概念で 構成されることが示された。具体的には,興味価 値,利用価値,私的獲得価値,公的獲得価値の4 つの下位概念である。興味価値とは,自分の専攻 学問に対する価値は,充実感や満足感を喚起する 学問であるという価値である。“楽しいから学ぶ”

という認識である内発的動機づけと類似している ものの,興味価値は“取り組むことが楽しい”と いう認識を表しており,概念的に異なるものであ る(伊田,2001)。続いて,利用価値は職業的な 目標に関連した価値であり,自分の専攻学問は,

将来の職業的な目標の達成に寄与する学問である,

という価値づけである。そして,私的獲得価値は,

自分の専攻学問は,自分自身が望ましいと考えて いる自己像の獲得に繋がる学問であるという価値 である。最後に,公的獲得価値は,自分の専攻学 問を学ぶことは,他者からみて望ましいと認知さ れ て い る , と い う 価 値 で あ る 。 松 本 ・ 小 川

(2018)は,専攻学問に対する価値は,大学教育

に対する「かまえ」として,大学教育を通じた知 識や力の獲得に対し重要な役割を果たすと述べて おり,大学における学習成果の一側面である批判 的思考力との関連や(松本・小川,2018),大学 生活充実度との関連が示されている(松本・小川・

斎藤,2017)。したがって,専攻学問に対する価 値が,大学教育における専門的な学びを通じて変 化するかを検討することで,専攻学問への適応の 過程を探ることができる。

また,同時に,大学での学びに対する「かまえ」

としての専攻学問に対する価値が影響を与える学 習成果の諸側面に関しても検討する。先にも述べ たように,松本・小川(2018)は学習成果の中で も,学習に関する汎用的なスキルとしての批判的 思考力との関連を検討している。批判的思考力は,

学習成果の学習に関する側面の中でも,質的な側 面であるといえるが,量的な側面に関しては検討 が行われていない。本研究は,学習成果の学習に 関する指標の量的な側面として,学習時間を取り 上げる。学習時間は,学習の「量」を示す代表的 な変数である(梅本・矢田,2014)。最近の大学 生の学習時間は年々短くなっており,その対策と して予習・復習などの自律的な学習時間を積極的 に増加させる必要性が問われている。文部科学省

(2012)は,大学生にとって必要だとされている 総学習時間は約8時間程度であるにもかかわらず,

実情としては4.6時間程度に留まっており,非常 に少ないことを問題視している。そのため,本研 究では授業外学習時間を,自身の専攻する学問に 関する学習時間と,その他の学習時間に分け,検 討する。授業外学習時間のうち,専攻学問に関す る学習時間は学部での学習に対する直接的な学習 成果の指標となるが,大学は教養科目や資格取得 に関する科目など,専攻学問以外の授業も受講が 可能であり,また就職試験等に向けた自学習も存 在する。これらを区別し測定することで,専攻学 問に対する価値が学習時間に与える影響を,より 詳細に検討することが可能となる。

また,松本他(2017)は,学習に関する力以外 の学習成果の側面として,大学生活に対する満足 感や充実度との関連を検討している。しかし,学 習成果の重要性が指摘されているものの,対人関

(3)

係に関する力との関連が未検討である。文部科学 省(2008)の「学士力」,経済産業省(2007)の

「社会人基礎力」など大学での学習成果に関する 概念において,対人関係に関する力は,「コミュ ニケーション・スキル」や「チームワーク,リー ダーシップ」,「チームで働く力(チームワーク)」

として,大学生が獲得すべき重要な力だとされて いる。心理学研究においても,大学生の対人関係 に関する力の獲得の重要性はこれまでも指摘され てきた。相川・髙本・杉森・古谷(2012)は,チー ムでの活動における他のメンバーとの情報交換や 援助行動などの対人的な活動をチームワークとし,

獲得の重要性を述べている。太幡(2016)は,大 学生に対しチームワーク能力育成のためのトレー ニングを実施しており,コミュニケーションやチー ムワークに関するスキルの獲得に関する取り組み を,大学生に対し行う必要性を指摘している。

相川他(2012)は,チームワークの構成要素と して「コミュニケーション」,「チーム志向」,「バッ クアップ」,「モニタリング」,「リーダーシップ」

の5つの下位能力を仮定している。その中でも

「コミュニケーション」能力は,他の下位能力の 基礎となる能力であるとされており,「コミュニ ケーション」に関する力は,チームワークを発揮 するにあたり,土台として身に付けるべき力であ ると考えられる。本研究では,大学教育を通じて 身に付けるべき力の対人関係的な側面として,コ ミュニケーションに関する力を取り上げる。コミュ ニケーションに関する力を示すものとして,「コ ミュニケーション能力」,「コミュニケーション・

スキル」,「コミュニケーション力」といったいく つかの言葉が存在するが,その構成概念や定義は あいまいである(小川・矢崎・斎藤,2009)。社 会人基礎力(経済産業省,2007)や学士力(文部 科学省,2008)などで,大学生が獲得すべき力と して取り上げられ,また,企業も,大学生の採用 時に必要な力として「コミュニケーション能力」

を上げている(日本経済団体連合会,2018)。し かし,これらコミュニケーションに関する力は概 念的にあいまいであり,具体的にどのような力で あるのかを明確にする必要がある。小川他(2009),

斎藤・小川・矢崎(2010),小川・矢崎・斎藤・

磯野・大西(2011)は,コミュニケーションに関 する力の概念化および測定を目的とし,学生と社 会人などに調査を行い,コミュニケーション力尺 度を作成している。

コミュニケーションに関する力を測定する尺度 は,前述した相川他(2012)や小川他(2011)を はじめとし,様々な尺度が存在するが,本研究で は小川他(2011)のコミュニケーション力尺度を 使用する。コミュニケーションの目的は,認知と 感情の「交換」であり,必ず自分と他者が存在す るため,コミュニケーション力には他者に適切に 伝える力,他者から発信されたものを適切に受け 取り理解する力,自分と他者との関係やその場の 状況を意識し,その場に沿って自分や他者,状況 をコントロールする力が含まれている(小川,

2012)。 コミュニケーション力尺度 (小川他,

2011)は,下位尺度として「課題達成場面の記号 化」が存在するなど,働く上でのコミュニケーショ ンを強く意識して作成された尺度である。河井

(2014)は,大学生活や就職活動,最初の配属先 で成功を収めていた人は,大学生活を振り返った 際,「豊かな人間関係」を重視していた者が多かっ たことを示しており,働く上でのコミュニケーショ ンも含めた,コミュニケーションに関する力につ いて検討することは意義深いと考えられる。また 小川(2012)は,働く上でのコミュニケーション 力は,プレゼンテーションや交渉,客などとのコ ミュニケーションだけではなく,職場の仲間との 日常的なやりとりにおいても求められる力である とし,コミュニケーション力とは,課題達成的な 場面でのみ必要とされるものではなく,社会情緒 的な場面でも重要になる力だと述べている。小川 他(2011)の定義するコミュニケーション力は,

就業場面や,それだけでなく社会情緒場面におい ても必要である力であり,大学生が身につけるべ き力の,対人関係に関する側面として適切な力だ と考えられる。

以上より,本研究は,大学4年間を通じた専攻 学問に対する価値,授業外学習時間,コミュニケー ション力の変化を検討することを目的とする。ま た,専攻学問に対する価値は,学習成果の諸側面 に影響を与えることが想定されるため,専攻学問

(4)

に対する価値と,授業外学習時間およびコミュニ ケーション力との関連も探索的に検討することと する。

方 法※2 調査1

2015年度に愛知淑徳大学心理学部に入学した学 生を対象に,3度の調査を実施した。

調査対象者

(1)入学時調査 2015年4月にパソコン上で回 答を求める形式の調査を実施した。回答者は199 名(男性44名,女性155名)であった。

(2)3年次調査 2017年5月に,講義内で質問 紙を配布し調査を実施した。回答者は182名(男 性36名,女性146名)であった。

(3)卒業時調査 2019年1月に,パソコン上で 回答を求める形式の調査を実施した。回答者は 129名であった(男性26名,女性103名)。

なお,全てに回答した学生は123名であった。

分析に使用した調査項目

分析に使用した調査項目は,以下の通りであっ た。

(a)専攻学問に対する価値 専攻学問に対する 価値を測定するため,中西・伊田(2006)の総合 動機づけ尺度より,課題価値に該当する16項目を 抜き出し使用した。中西・伊田(2006)の尺度に おいて,教科名が記載されていた部分を心理学に 変更し,心理学に対する考えを答えるように求め た。「心理学の勉強のことを考えると,わくわく することがある」といった項目からなる興味価値,

「心理学の力を身に付けることは将来のためにな る」といった項目からなる利用価値,「心理学の 勉強をすると自分がもっと成長できると思う」と いった項目からなる私的獲得価値,「心理学の勉 強ができると,人より優れていると感じる」といっ た項目からなる公的獲得価値の,4つの下位尺度

(各4項目)で構成されていた。各項目について

「1 全くあてはまらない」から「7 非常に当て

はまる」の7件法で回答を求めた。

専攻学問に対する価値尺度は,入学時,3年次,

卒業時全てで測定を行った。

(b)コミュニケーション力 コミュニケーショ ン力を測定するため,小川他(2011)のコミュニ ケーション力観尺度24項目を用いた。本尺度は,

「自分の主張を要領よくまとめて説明することが できる」といった7項目からなる課題達成場面の 記号化,「相手のしぐさから意見や考えを読み取 ることができる」といった7項目からなる解読と 察知,「ユーモアを交えながら話をすることがで きる」といった6項目からなる活性化と配慮,

「相手の意見が気に入らなくてもそれを態度に出 さない」といった4項目からなる感情統制の,4 つの下位尺度で構成されていた。各項目について,

「1 全くあてはまらない」から「7 非常にあて はまる」の7件法で回答を求めた。

コミュニケーション力観尺度は,3年次と卒業 時に測定を行った。

(c)授業外学習時間心理学に関する授業外学 習時間,心理学以外の内容に関する授業外学習時 間を1週間単位で回想し記載するよう求めた。卒 業時に,1年次から4年次それぞれの1週間あた りの学習時間を0.5時間単位で尋ねた。

調査2

2016年度に愛知淑徳大学心理学部に入学した学 生を対象に,2度の調査を実施した。

調査対象者

(1)入学時調査 2016年4月にパソコン上で回 答を求める形式の調査を実施した。回答者は226 名(男性38名,女性188名)であった。

(2)3年次調査 2018年5月に,講義内で質問 紙を配布し調査を実施した。回答者は219名(男 性38名,女性181名)であった。

分析に使用した調査項目

コミュニケーション力を測定するため,調査1 と同様に,コミュニケーション力観尺度(小川他,

2011)を用いた。入学時,3年次共に測定を行っ た。なお,調査2のデータは,コミュニケーショ ン力の入学時から3年次の変化を分析することを 目的に使用するため,専攻学問に対する価値と,

1,2年次の授業外学習時間も同時に測定したが,

※2 本研究は,愛知淑徳大学大学院心理医療科学研 究科倫理委員会の審査・承認を受けて実施された

(承認番号:2016-02-r01)。

(5)

本論文では分析対象としなかった。

結 果

専攻学問に対する価値およびコミュニケーション 力の信頼性の確認

専攻学問に対する価値尺度は,松本・小川・斎 藤(2015;2018)において確認的因子分析が実施 されており,中西・伊田(2006)と同様の構造で あることが示されている。 また, 松本・小川

(2018)では,30項目の伊田(2001)の課題価値 尺度を,専攻学問に対する価値の測定に使用して いるが,その際も,従来の課題価値と同様に,興 味価値,利用価値,私的獲得価値,公的獲得価値 の4つ下位尺度から構成されることが示されてい る。そのため,本研究でも,調査1のデータを用 いて,中西・伊田(2006)と同様の4項目ずつで,

興味価値,利用価値,私的獲得価値,公的獲得価 値得点を算出し,・係数と共にTable1に示した。

コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 観 尺 度 は , 小 川 他

(2011)や小川(2012)で,因子分析の結果,課 題達成場面の記号化,解読と察知,活性化と配慮,

感情統制の4つの下位尺度で構成されることが示 されている。そのため調査1,2のデータを用い て,先行研究通り,課題達成場面の記号化7項目,

解読と察知7項目,活性化と配慮6項目,感情統 制4項目で得点を算出し,・係数と共にTable3に 示した。

専攻学問に対する価値の学年進行による変化 専攻学問に対する価値の,学年進行による変化 を検討するため,下位尺度ごとに,一元配置分散 分析(実験参加者内)を実施した。平均値,標準 偏差をTable1に示した。その結果,全ての価値

において,調査時期の有意な効果がみられた(興 味価値:F(2,240)=28.124,p<.001,partial・2

=.190;利用価値:F(2,240)=13.202,p<.001, partial・2=.099;私的獲得価値:F(2,240)=

15.244,p<.001,partial・2=.113;公的獲得価 値 :F(2,240)=6.110,p<.001, partial・2= .013;Figure1)。TukeyのHSD法による多重比 較の結果,以下のことが示された。興味価値は,

入学時が,3年次,卒業時に比べ有意に得点が高 かった。つまり,心理学を学ぶことで,充実感や 満足感が喚起されるといった価値は,入学時が最 も高く,学年が上がると低下することが示された。

次に,利用価値は3年次に比べ,入学時,卒業時 の得点が有意に高かった。つまり,心理学は将来 の職業実践に活かすことができるといった価値は,

3年次で一度低下するものの,卒業時には入学時 と同程度まで回復することがわかった。私的獲得 価値は,入学時が3年次,卒業時に比べ有意に得 点が高く,また卒業時は,3年次に比べ有意に得 点が高かった。つまり,心理学は,望ましい自己 像の獲得に繋がるといった価値は,入学時に最も 高く,次いで卒業時が高く,3年次が最も低かっ

M SD α M SD α M SD α

⯆࿡౯್ 5.90 (0.878) .887 5.32 (1.001) .887 5.45 (1.055) .878

฼⏝౯್ 5.75 (0.913) .791 5.36 (1.052) .837 5.66 (0.963) .862

⚾ⓗ⋓ᚓ౯್ 5.62 (0.867) .766 5.16 (1.149) .868 5.37 (1.023) .843 බⓗ⋓ᚓ౯್ 3.48 (0.876) .620 3.75 (1.014) .630 3.77 (1.025) .576

2015ᖺᗘධᏛ

1ᖺ㸦ධᏛ᫬㸧 3ᖺ㸦5᭶㸧 4ᖺ㸦༞ᴗ᫬㸧

Table1 調査時期ごとの専攻学問に対する価値の平均値,標準偏差,α係数

Figure1 専攻学問に対する価値の学年による変化。

(6)

た。最後に公的獲得価値は,入学時が,3年次,

卒業時に比べ有意に得点が低かった。つまり,心 理学を学ぶことは他者から見て望ましい,という 価値は,入学時が最も低く,3年次で上昇し,卒 業時まで維持されることがわかった。

授業外学習時間の学年進行による変化

授業外学習時間の学年進行による変化を検討す るため,心理学に関する授業外学習時間,心理学 以外の内容に関する授業外学習時間ごとに一元配 置分散分析(実験参加者内)を行った。なお,学 習時間に関しては対数変換を行い以後の分析を実 施した。対数変換前の平均値,標準偏差をTable2 に示した。分析の結果,いずれにおいても時期の 有意な効果が見られた(心理学に関する授業外学 習時間:F(3,378)=58.536,p<.001,partial・2

=.317;心理学以外に関する授業外学習時間:

F(3,378)= 7.653,p<.001,partial・2=.057;

Figure2)。TukeyのHSD法による多重比較の結 果,心理学に関する授業外学習時間では,4年次

の授業外学習時間が,1から3年次に比べ有意に 長いことが示された。心理学以外に関する授業外 学習時間では,3年次の授業外学習時間が,1,

2年次に比べ有意に長いこと,4年次に比べ有意 に長い傾向であることが示された。また,1年次 の授業外学習時間は,2年次に比べ有意に短いこ とも示された。

コミュニケーション力の学年進行による変化 コミュニケーション力の学年進行による変化を 検討するため,下位尺度ごとに学年による効果を 検討した。なお,コミュニケーション力は,入学 時,3年次,卒業時すべての時点で測定したデー タがなかったため,入学時と3年次の比較は調査 2のデータを,3年次と卒業時の比較は調査1の データを用い検討を行った。調査時期ごとの平均 値,標準偏差をTable3に示した。対応のあるt検 定を行った結果,以下のことが示された。入学時 と3年次の比較では,解読と察知において有意差 がみられ(t(216)=3.669,p<.001,r=.24),

課題達成場面の記号化および活性化と配慮では有 意傾向であった (課題達成場面の記号化:t

M SD max min

1ᖺ 3.34 (3.470) 21.0 0.0 2ᖺ 3.53 (3.812) 25.0 0.0 3ᖺ 3.94 (4.999) 48.0 0.0 4ᖺ 8.05 (9.317) 60.0 0.0 1ᖺ 1.75 (2.445) 14.0 0.0 2ᖺ 3.39 (8.341) 60.0 0.0 3ᖺ 4.43 (9.904) 60.0 0.0 4ᖺ 3.94 (9.257) 60.0 0.0 1ᖺ 5.10 (5.349) 34.5 0.0 2ᖺ 6.94 (9.758) 62.0 0.0 3ᖺ 8.40 (12.137) 70.0 0.0 4ᖺ 12.05 (14.807) 86.0 0.0

2015ᖺᗘධᏛ n=129

ᤵᴗእ Ꮫ⩦᫬㛫 㸦ᚰ⌮Ꮫ㸧

ᤵᴗእ Ꮫ⩦᫬㛫 㸦ࡑࡢ௚㸧

ᤵᴗእ Ꮫ⩦᫬㛫 㸦ྜィ㸧

Table2 授業外学習時間の学年進行による変化

0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20

1ᖺ 2ᖺ 3ᖺ 4ᖺ

ᚰ⌮Ꮫ ᚰ⌮Ꮫ௨እ

Figure2 授業外学習時間の学年による変化。

授業外学習時間

M SD α M SD α M SD α M SD α

ㄢ㢟㐩ᡂሙ㠃ࡢ

グྕ໬ 4.22 (0.808) .851 4.32 (0.887) .846 4.46 (0.791) .832 4.74 (0.846) .808 ゎㄞ࡜ᐹ▱ 4.96 (0.844) .893 5.13 (0.870) .887 5.28 (0.718) .851 5.44 (0.774) .858 άᛶ໬࡜㓄៖ 4.05 (1.092) .889 4.15 (1.106) .870 4.31 (1.099) .892 4.69 (1.094) .863 ឤ᝟⤫ไ 4.98 (0.938) .839 4.91 (1.071) .849 5.03 (0.981) .836 5.19 (1.044) .828

2016ᖺᗘධᏛ㸦ㄪᰝ2㸧 2015ᖺᗘධᏛ㸦ㄪᰝ1㸧 ධᏛ᫬㸦4᭶㸧 3ᖺḟ㸦5᭶㸧 3ᖺ㸦5᭶㸧 4ᖺ㸦༞ᴗ᫬㸧 Table3 調査時期ごとのコミュニケーション力の平均値,標準偏差

(7)

(217)=1.883,p=.061,r=.13;活性化と配慮:

t(217)=1.728,p=.085,r=.12)。 つまり, 解 読と察知,課題達成場面の記号化および活性化と 配慮は,3年次の方が入学時に比べ得点が高くな ることが示された。感情統制は,調査時期による 差がみられなかった (t(218)=1.144,ns,r= .08)。

続いて,3年次と卒業時については,全ての下 位尺度において有意差がみられ,3年次よりも卒 業時で得点が高かった(課題達成場面の記号化:

t(119)=3.821,p<.001,r=.33;解読と察知:

t(119)=3.022,p=.003,r=.27;活性化と配慮:

t(119)=4.354,p<.001,r=.37; 感 情 統 制 : t(121)=2.213,p=.029,r=.20)。

専攻学問に対する価値と授業外学習時間およびコ ミュニケーション力の関連の検討

卒業時の専攻学問に対する価値と,大学を卒業 する際の学習成果の関連を検討するため,正準相 関分析を実施した。

卒業時の専攻学問に対する価値を第1群,4年 次の授業外学習時間(心理学に関する授業外学習 時間,心理学以外に関する授業外学習時間)を第 2群とした正準相関分析を実施した結果,第1正

準変量までが有意であった(Table4)。第1正準 変量では,第1群において,興味価値,私的獲得 価値,利用価値の順に高い係数を示し,公的獲得 価値は低い値を示した。第2群では,心理学に関 する授業外学習時間,心理学以外に関する授業外 学習時間の順に高い係数を示した。つまり,専攻 学問を学ぶことは面白く,将来の職業に活かせ,

よりよい自己像の獲得に貢献するという価値を持っ ていると,授業外学習時間が長くなること,特に 心理学に関する授業外学習時間が長くなることが わかった。

続いて,卒業時の専攻学問に対する価値を第1 群,卒業時のコミュニケーション力(課題達成場 面の記号化,解読と察知,活性化と配慮,感情統 制)を第2群として正準相関分析を行った結果,

第1正準変量までが有意であった(Table5)。第 1正準変量では,第1群において,私的獲得価値,

利用価値,興味価値の順に係数が高く,公的獲得 価値は相対的に低い係数であった。第2群では,

課題達成場面の記号化,解読と察知の順に高い係 数であり,次いで感情統制,活性化と配慮の順に 高い値であったが,後者2つは相対的に低い値を 示した。専攻学問を学ぶことはより良い自己像の 獲得に繋がると感じ,将来に活かすことができ,

λ df 䃦2 p 1⩌ λ1 ➨2⩌ λ1

λ1 .344 8 17.969 .021 ⯆࿡౯್ -.952 ᚰ⌮Ꮫ -.981 λ2 .144 3 2.570 .463 ฼⏝౯್ -.761 ᚰ⌮Ꮫ௨እ -.604

⚾ⓗ⋓ᚓ౯್ -.793 බⓗ⋓ᚓ౯್ -.121

෕㛗ᛶಀᩘ .532 ෕㛗ᛶಀᩘ .043

ᤵᴗእᏛ⩦᫬㛫

Table4 専攻学問に対する価値と授業外学習時間の正準相関係数および構造係数

λ df 䃦2 p ➨1⩌ λ1 ➨2⩌ λ1

λ1 .533 16 54.376 .000 ⯆࿡౯್ -.517 ㄢ㢟㐩ᡂሙ㠃 ࡢグྕ໬ -.873 λ2 .252 9 13.144 .156 ฼⏝౯್ -.658 ゎㄞ࡜ᐹ▱ -.692 λ3 .200 4 5.045 .283 ⚾ⓗ⋓ᚓ౯್ -.937 άᛶ໬࡜㓄៖ -.330

λ4 .009 1 .009 .923 බⓗ⋓ᚓ౯್ -.284 ឤ᝟⤫ไ -.401

෕㛗ᛶಀᩘ .415 ෕㛗ᛶಀᩘ .240 䝁䝭䝳䝙䜿䇷䝅䝵䞁ຊ

Table5 専攻学問に対する価値とコミュニケーション力の正準相関係数および構造係数

(8)

学ぶこと自体がおもしろいという価値を持ってい ると,課題達成場面における記号化のスキルや,

他者の考えや意見の解読,その場の状況の察知に 関するスキルが高いことが分かった。

考 察

心理学部生の専攻学問に対する価値,授業外学習 時間およびコミュニケーション力の学年進行によ る変化

本研究では,心理学部に4年間所属し,心理学 を学ぶことで,専攻学問に対する価値や,授業外 学習時間,コミュニケーション力がどのように変 容するかを検討したところ,専攻学問に対する価 値は,興味価値,利用価値,私的獲得価値,公的 獲得価値の全てで,調査時期による変化が見られ た。具体的には,以下のような結果であった。

まず,専攻学問の学習内容は充実感や満足感を 喚起できるという価値である興味価値や,専攻学 問を学ぶことによってより良い自己像が獲得でき るという価値である私的獲得価値は,入学時に最 も高く価値づけられていた。また,私的獲得価値 は,入学時から3年次にかけて一度下がるが,卒 業時には,入学時ほどの高さではないものの,価 値が向上することがわかった。一方,興味価値は 3年次に低下した後,有意に向上はしなかった。

次に,専攻学問の学びは将来に活かすことができ るという価値である利用価値は,3年次で一度低 下するものの,卒業時に,入学時と同等まで再度 高まることが示された。興味価値,利用価値,私 的獲得価値は共通して,入学時に高いことがわかっ たが,この入学時の価値の高さは,本来の「課題 価値評定」ではなく,「課題価値希求」であると いえる。伊田(2001)は,学習者がこれからの学 習内容にどのような価値を求めるかという,課題 価値希求と,現在学んでいる学習への価値評定で ある課題価値評定の2つの存在を提示し,これら は高い相関関係にあることを示している。「心理 学」という学問は,高校卒業までに本格的に学ぶ 機会は極めて少ないと考えられ,心理学の本質的 な学びが入学前からスタートしているとは考えに くい。したがって,入学時の価値は,「心理学に

どのような価値を求めているか」という,欲求や 期待の高さと言い換えることができ,入学時が最 も高かったのは,期待が非常に高かったことの表 れであると考えられる。

しかし,興味価値,利用価値,私的獲得価値は,

3年次に一度低下した。千島・水野(2015)は,

大学生活への期待に関して「時間的ゆとり」,「友 人関係」,「行事」,「学業」の4領域があり,その 全てにおいて現実とのギャップがあることを示し ている。半澤(2007)は,「入学前に抱いていた 大学における学業イメージや期待と,大学入学後 に経験している学業との間の,現在におけるズレ によって生じた否定的な違和感」を学業に対する リアリティショックと定義づけ,大学の講義の内 容や教員に対するリアリティショックと,所属学 部・学科に対する違和感や,学業は自分にとって 重要ではないという感覚,授業についていけない という感覚の間に大きな関連があると述べている。

また,半澤(2009)は,そのリアリティショック への対処として,専門科目以外の活動の重視があ るとしている。開講科目が自分の期待と異なった ため,現段階では専門科目以外に積極的に取り組 もうとする学生が一定数存在すると考えられる。

さらに,半澤(2009)は,現時点での学びに対す る不満は将来の学びのためにしかたがないことで あるという「将来展望」の意識を持つ学生も存在 することを示している。したがって,本研究の対 象者も,入学した後にリアリティショックを体験 し,ゼミなどの本格的な研究活動が始まるまでの 間に,その対処方略として,専門科目以外の活動 に積極的に取り組んだり,「がまん」することで 将来の学びに備えていたりした可能性がある。そ のため,入学時より3年次の5月に調査した際に,

心理学に対する価値が低下していたと考えられる。

なお,本研究の対象学生が所属する学部は,3 年生からゼミが始まり,本格的に卒業研究のため の学びがスタートしていくというカリキュラムを 組んでいる。興味価値,利用価値,私的獲得価値 に共通して,最も得点が低かった3年次調査は,

ゼミが始まって間もない5月に実施されている。

自分の興味に応じた心理学の実践的な学びが本格 的に始まってすぐである5月においては,価値の

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得点が回復に向かっておらず,得点が低かった可 能性がある。利用価値,私的獲得価値に関しては,

卒業時に再度上昇していることから,3年生から の本格的な学びによって,将来の職業実践に専攻 学問の学びは活かすことができ,学ぶことでより よい自己像の獲得が可能であるという価値が再び 高まったと考えられる。

特に,利用価値に関しては,卒業時において唯 一入学時と同等まで価値の得点が回復しているが,

この価値に関しては,3年生の5月に実施される 集中講義である,「心理学とキャリア」の存在が 大きく影響していると予想される。「心理学とキャ リア」は対象学部の必修の集中授業であり,所属 学部のディプロマ・ポリシーやカリキュラム・ポ リシーなど,学部の目標を学生に再確認させる講 義型式の授業である。松本・小川・斎藤(2016)

は,「心理学とキャリア」の授業前後で専攻学問 に対する価値が変化するかを検討しており,授業 前に比べ価値が高まったことを示している。この 授業は,所属する学部での教育を通じ身に付ける べき力とは何か,そのためにはどうすればよいの かについての理解を促し,それらを自身のキャリ アにどう活用するのかについて考えることを目標 としている。つまり,今まで学んできた「心理学」

という学問の本質と,心理学を学んだ上で身に付 けることができる力を具体的に示し,将来のキャ リアへの活用を考えさせる講義であるといえる。

この講義の履修が「専攻学問を学ぶことは将来の 職業的目標に対しどの程度有効なのか」と感じて いる程度である利用価値の向上に大きく役立ち,

卒業時に高い値を示したと考えられる。

なお,専攻学問を学ぶことは,周りからみて意 義があると認識されているという価値である公的 獲得価値のみ,入学時に最も低く,3年次で上昇 し,卒業時まで変化しないという,興味価値,利 用価値,私的獲得価値とは異なる傾向を示した。

公的獲得価値は,他者から見た自身の専攻学問に 対する有用性であり,他者からの視点を重視した 価値である。したがって,心理学について具体的 な知識がない入学時においては,自身の専攻学問 の学びが他者からどのように見えているかがイメー ジしづらかったと考えられる。そのため,心理学

を学ぶにつれ,周りからみた自身の専攻学問の価 値を認識し,得点が向上したと考えられる。

続いて,学習時間については,心理学に関する 授業外学習時間が,4年次に最も長くなることが 示された。本研究の対象者は,3年,4年次にゼ ミが開講され,自身で研究テーマを考え,卒業論 文を提出することが卒業要件となっている。4年 生で卒業研究を本格的に進めるにあたり,能動的 に自分の研究を進める時間を十分に確保している ことが示された。なお,心理学以外の授業外学習 時間は3年次が最も長かったが,この結果に関し ては,就職活動が3年生からスタートするにあた り,資格取得のための学びや,就職試験のための 勉強時間を確保したためだと考えられる。

最後に,コミュニケーション力に関しては,感 情統制以外において,学年が上がると得点が向上 していた。小川・矢崎・斎藤(2012)より,対人 コミュニケーションに関する講義受講を通じて,

コミュニケーション力のうち課題達成場面の記号 化が向上することが示されている。また,小川・

松本・斎藤(2015)は,「心理学とキャリア」の 講義前と後で,課題達成場面の記号化,活性化と 配慮が向上していたことを示している。小川他

(2012)や小川他(2015)において,講義などに よって変容する力は記号化や活性化といった表出 スキルであり,解読や感情統制といった自己の内 的行動という側面の変容は生じにくい可能性が示 されている。本研究においても,感情統制は調査 時期による変化がみられず,整合した結果が得ら れたといえる。しかし,解読に関する側面は学年 が上がることで向上しており,「心理学」という,

人の心の動きやしくみに関して直接的に学ぶ学問 を4年間学ぶことで,通常は変化しにくい解読に 関する力も向上可能であることが示された。しか し,コミュニケーション力に関しては,入学時,

3年次,卒業時すべての時期を同一人物に測定で きておらず,入学時から3年次,3年次から卒業 時の変化のみの検討になったため,さらなる調査,

分析の必要がある。

専攻学問に対する価値と授業外学習時間およびコ ミュニケーション力の関連

卒業時の専攻学問に対する価値と,4年次の授

(10)

業外学習時間,卒業時のコミュニケーション力の 関連を検討するため正準相関分析を行った結果,

以下のことが示された。

専攻学問に対する価値と授業外学習時間に関し ては,卒業時に興味価値,利用価値,私的獲得価 値が高いと,4年次の授業外学習時間が長いこと がわかった。特に,心理学に関する授業外学習時 間との間には高い関連が示された。専攻学問に対 する価値と批判的思考力の関連を検討した松本・

小川(2018)において,興味価値,利用価値,私 的獲得価値,公的獲得価値全てが高いと,批判的 思考力に正の影響を与えることが明らかにされて おり,特にその中でも興味価値,利用価値,私的 獲得価値は関連が強かった。つまり,興味価値,

利用価値,私的獲得価値の高さは,学習成果の中 でも,批判的思考力という学習に関する質的な側 面に影響を与えていたということである。藤木・

沖林(2008)は,大学教育を通してある程度の批 判的思考力は身につくものの,十分なものではな いということを指摘している。すなわち,批判的 思考力を身に付けることは難度が高いと考えられ,

能動的に大学教育に取り組まなければ身につかな いと考えられる。興味価値,利用価値,私的獲得 価値が高いことが批判的思考力に高い影響を与え ているのであれば,能動的に,自律的に学習に取 り組む時間も必然的に長くなると予想される。し たがって,学習成果のうち,学習に関する量的な 側面である授業外学習時間にも正の影響を与えて いたと考えられる。さらに,松本他(2018)にお いても,興味価値,利用価値,私的獲得価値の高 さが,大学生活充実度のうち,学業満足と正の関 連を示した。本研究は,これらの,専攻学問に対 する価値と学習成果の諸側面の関連を検討した先 行研究と整合する結果となったといえる。

専攻学問に対する価値とコミュニケーション力 に関しては,私的獲得価値,利用価値,興味価値 が高いと,課題達成場面の記号化や,解読と察知 も高くなることがわかった。課題達成場面の記号 化に関しては,小川他(2012)と整合した結果に なったといえる。つまり,学ぶことでよりよい自 己像を獲得でき,将来に学びを活かすことができ,

学ぶことで充実感を喚起できるという価値を卒業

時に高く持っている学生は,記号化に関する力が 高かった。私的獲得価値,利用価値,興味価値が 高い学生は,心理学の学びに対して自身への有用 性,職業への有用性を高く認識し,学びの内容自 体への面白さも実感している,意欲的に専攻学問 を学んだ学生だと考えられる。課題達成場面の記 号化は,効果的な資料の作成や必要な報告をする 際のスキルが含まれるなど,職業実践で非常に重 要となる力である。意欲的に専攻学問を学んだ学 生は,将来,就業する際に重要性の高い力である 課題達成場面の記号化の力の獲得にも意欲的であ り,そのスキルを身に付けたと実感して卒業した と考えられる。加えて,小川他(2012)が刺激さ れにくいと述べていた解読に関する力も,私的獲 得価値,利用価値,興味価値が高いと,高くなる ことが示された。人の心について学ぶ学問である 心理学に価値を高く持ち,4年間学び,講義だけ ではなく,心理学をテーマに,卒業研究に向けて 深く自律的な学びを経験することによって,人に 対する理解が深まり,人の行動を理解したり察知 したりする力である解読に関する力が高まったと 考えられる。

本研究のまとめと今後の課題

本研究は,心理学を4年間学ぶことにより,専 攻学問に対する価値や授業外学習時間,コミュニ ケーションに関する力が向上することを示した。

専攻学問に対する価値の高さは,自身が学んでい る学問に対して意義を見出していることの反映で あるともいえる。本研究の対象者は,入学後,期 待と現実のギャップといった理由から一時的に価 値が低下したと考えられるが,学びを深めていく ことで意義を再び見出し,適応的に学んでいくこ とができているといえる。また,ただ心理学に高 い価値を見出しているだけでなく,学習に関する 成果指標である授業外学習時間を自ら確保し学ん でいるということも示された。

さらに,学習に関する側面だけでなく,大学教 育を通じて身に付けるべき力の1つであるコミュ ニケーション力に対しても,心理学の学びは影響 を与えている可能性を示した。小川他(2012)な どで,大学教育によって向上することが示されて いる表出に関する力だけでなく,刺激されにくい

(11)

とされていた解読に関する力の向上にも貢献して いる可能性が示されたことは意義深いと考えられ る。ただし,これらの側面の変化が,4年間の大 学教育のどの部分によってもたらされるものなの かを検討することが今後の課題であるだろう。

また,コミュニケーション力に関しては,「どの 程度身についていると思うか」という自己評定で あり,コミュニケーション力が身についたと思っ ている程度を測定したに過ぎない。今後は,実際 のスキルとしてのコミュニケーション力を測定し,

検討する必要がある。また,本研究は心理学部生 のみを対象としており,専攻による特徴が結果に 影響を及ぼしている可能性が考えられる。つまり,

本結果が心理学という学問独自の効果なのか,ど のような学問でも同様なのかは明らかでないため,

他の学問分野に対しても調査を実施し,検討する 必要がある。

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参照

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