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(1)

「学部卒業研究」

ミューオン寿命測定のための

同時計測と偶発的同時計測の研究

東京工業大学 理学部 物理学科

柴田研究室

眞田 塁

平成

25

3

4

(2)

要旨

ミューオンの崩壊は弱い相互作用の代表的な現象の1つである。本研究では、宇宙線ミ ューオンをプラスチック・シンチレータ中に止め、µ− → e−+ ¯νe+νµµ+ → e++νe+ ¯νµe−e+ による信号を測定することにより、ミューオンの寿命の測定を行った。時間 スペクトルのバックグラウンドを減らすことを目的として、測定における同時計測と偶発 的同時計測について考察をし、測定方法と装置の改良を行った。TACのSTARTおよび STOPに使う信号のバックグラウンドを減らすためにいくつかの工夫をした。 まず、START信号を作る際の同時計測用のパルス幅を可能な限り狭くした。次に、veto カウンターを増やしてSTART信号を改良した実験装置による測定で得られたミューオ ンの寿命は、(2.04± 0.18)µsとなった。バックグラウンドの計数率は従来の片側読み出 しの装置の1/2に減らすことが出来た。ブロック型プラスチック・シンチレータの信号 を両側読み出しできるようにしてSTOP信号を改良した実験装置による測定で得られた ミューオンの寿命は、(2.09± 0.11)µsとなった。バックグラウンドの計数率は従来の装 置の1/8に減らすことが出来た。一方で、測定されるミューオン崩壊の計数率も減ってし まうという問題点があって、その原因解明は今後の課題である。 最後に、これらの装置によって求められた寿命からフェルミ定数 GF/(~c)3 をそれぞれ 計算すると、前者の装置では(1.21±0.09)×10−5/GeV2、後者の装置では(1.19±0.05)×

10−5/GeV2 という値が得られた。この値を用いてWeinberg角θW の正弦sin θW を計

算すると、前者の装置では(0.46± 0.02)、後者の装置では(0.46± 0.01)という値がそれ

(3)

目次

1章 序論 4 2章 ミューオンの崩壊およびミューオンと物質の相互作用 5 2.1 弱い相互作用 . . . 5 2.2 ミューオンの崩壊 . . . 6 2.2.1 フェルミ定数GF . . . 8 2.3 入射する粒子と物質の相互作用 . . . 9 2.3.1 ミューオンと物質の相互作用 . . . 9 2.3.2 電子と物質の相互作用 . . . 10 2.3.3 粒子の飛程 . . . 12 2.4 宇宙線 . . . 15 3章 実験に用いる装置 17 3.1 プラスチック・シンチレータ . . . 17 3.1.1 シンチレータ . . . 17 3.2 光電子増倍管 . . . 18 3.3 ミューオン寿命測定に用いるデータ収集系 . . . 19 3.3.1 Discriminator . . . 19 3.3.2 Coincidence . . . 20 3.3.3 FAN-IN / OUT . . . 20

3.3.4 Gate & Delay Generator . . . 20

3.3.5 TAC . . . 20 3.3.6 ADC . . . 20 3.3.7 MCA . . . 21 3.3.8 Scaler . . . 21 4章 実験の準備 22 4.1 Discriminator の種類の確認 . . . 22 4.2 同時計測・偶発的同時計測に用いる入力パルス幅の決定 . . . 22 4.3 TAC+ADCの時間較正 . . . 23 5章 偶発的同時計測の測定 26 5.1 2本の遮光した光電子増倍管による偶発的同時計測の測定 . . . 27 5.1.1 Discriminatorのスレッショルドを変化させた場合. . . 27

(4)

5.1.2 入力パルス幅を変化させた場合 . . . 30 5.1.3 信号の一方を1 µsだけdelayさせて同時計測した場合 . . . 36 5.2 ブロック型シンチレータに固定した2本の光電子増倍管による偶発的同時 計測の測定 . . . 38 5.3 TACに入力した場合の時間スペクトルのバックグラウンド測定 . . . 40 6章 ミューオンの寿命測定 43 6.1 測定方法 . . . 43 6.2 片側読み出し回路による測定 . . . 43 6.2.1 実験回路と装置 . . . 43 6.2.2 フィットの範囲の決定 . . . 47 6.2.3 実験結果 . . . 52 6.3 vetoカウンターを増やした回路による測定 . . . 54 6.3.1 実験回路と装置 . . . 54 6.3.2 実験結果 . . . 56 6.4 両側読み出し回路によるミューオンの寿命測定 . . . 58 6.4.1 実験回路と装置 . . . 58 6.4.2 実験結果 . . . 60 7章 結論 63 7.1 ミューオン寿命測定の結果の比較 . . . 63 7.2 実験値から求めたパラメータ . . . 64 8章 まとめ 65 8.1 本論文のまとめ . . . 65 8.2 今後の展望 . . . 66

(5)

1

序論

本研究では、弱い相互作用の代表的現象の1つであるミューオンの崩壊を観測すること により、ミューオンの寿命を測定する。ミューオンの寿命τµと質量の値が分かると、 フェルミ定数GF を求めることが出来る。このフェルミ定数GF は、素粒子物理の標準模 型における電弱統一模型のパラメータと直接に関係している。 本研究の目的は以下の通りである。 1. 弱い相互作用の理論と現象の理解 ミューオンの崩壊は、弱い相互作用の代表的な現象の1つである。本研究を通し て、弱い相互作用の理論と現象について理解する。 2. 測定における同時計測と偶発的同時計測についての理解と習得 ミューオンの寿命測定では、同時計測と偶発的同時計測が実験において大きな役割 を果たす。本研究を通して、測定における同時計測と偶発的同時計測について理解 し、習得する。 3. ミューオンの寿命測定の改良 本研究で行うミューオンの寿命測定は、東京工業大学の大学院実験科目「物理基本 実験」のテーマの1つであり、ミューオン崩壊の時間変化を時間スペクトルとして 測定する。現在行われている測定方法では、時間スペクトルのバックグラウンドイ ベント数のミューオンの崩壊数(=総イベント数バックグラウンドイベント数) に対する割合が大きく、求まる寿命τµ の誤差も大きい。本研究では、ミューオン の寿命測定の測定方法や装置を改良し、この割合を小さくする。更に、実験テキス トの改訂を行う。 本論文の構成は、次のようになっている。第1章では本研究の目的について述べる。第 2章ではミューオンの崩壊、物質の相互作用、宇宙線について簡単に述べる。第3章では 本研究に用いる装置類や、その特徴について述べる。第4章では実験の準備として、同時 計測に用いるパルス幅の決定とTAC+ADCの時間較正について述べる。第5章では偶発 的同時計測の計数率を求める式が様々な条件下でも成り立つかどうかを、実際の測定によ り確認する。第6章ではミューオンの寿命測定を異なる3台の装置でそれぞれ行い、寿命 を求める。第7章では、れぞれの装置で得られたミューオン崩壊の時間スペクトルを比較 し、得られた寿命からフェルミ定数GF, 弱荷g, WeinbergθW を計算する。第8章で は本論文の内容をまとめ、今後の展望について述べる。

(6)

2

ミューオンの崩壊およびミューオンと物質の相互

作用

2.1

弱い相互作用

今日、自然界には4つの基本的な相互作用(重力、電磁相互作用、強い相互作用、弱い 相互作用)があると考えられている。これらの相互作用は、クォークやレプトンの間で媒 介粒子を交換することによって働くものであり、重力は重力子(未発見)、電磁相互作用は 光子、強い相互作用はグルーオン、弱い相互作用は ボソンまたはZ0ボソンにより媒 介される。現代の素粒子原子核物理の標準模型は、電磁相互作用と弱い相互作用について 記述する電弱統一理論と、強い相互作用について記述する量子色力学とによって、形成さ れている。 弱い相互作用は、原子核のβ崩壊の研究により、発見された。β崩壊によって放出され るβ線、すなわち電子の持つエネルギーを測定すると連続分布をしており、その他の粒子 が放出されている兆候は見られなかった。従って、β崩壊ではエネルギー保存が破れてい るように見えた。現在では、このβ 崩壊における電子のエネルギーの連続分布性は、電子 の他にエネルギーを持ち去るニュートリノが放出されているためであることが分かってい る。β− 崩壊の素過程は、以下のようである。 n→ p + e−+ ¯νe (1) この現象を理論的に説明するために、1935年にE. Fermiは弱い相互作用の理論を提唱し た。この理論は、時空4次元空間の一点において、4個のフェルミ粒子が直接に相互作用 をするとしたものである。それを図に表すと、図1のようになる。これを4-フェルミ相 互作用という。 β 崩壊の時に放出される電子とニュートリノの角度相関実験によって、弱い相互作用の 型にはベクトル型と軸性ベクトル型が必要だという事が分かった。また、角度分布の測定 より、軸性ベクトル型の結合定数はベクトル型の結合定数の1.25倍であり、互いに異符 号である事が分かった。これを、V-A相互作用という。フェルミ相互作用の理論は、原子 核によるµ−の捕獲や、ミューオンの自然崩壊にも適用でき、これらの相互作用の型はい ずれもV-Aである事が確認されている。これを弱い相互作用の普遍性という。 今日では、弱い相互作用は、フェルミの提唱した4個のフェルミ粒子が直接に相互作用 をすることによるものではなく、質量が極めて大きなW ボソンやZ0 ボソンの交換によ るものであると理解されている。それを図に表すと図2のようになる。実際に、 ボ ソンやZ0ボソンは1983年に発見されている。

(7)

図1 4-フェルミ相互作用で表現した、中性子のβ崩壊のファインマン図。中性子から 陽子と電子と反電子ニュートリノに直接崩壊する。 図2 現在の弱い相互作用の理論で表現した、中性子のβ崩壊のファインマン図。W− ボソンを媒介して、電子と反電子ニュートリノに崩壊する。

2.2

ミューオンの崩壊

ミューオンの崩壊は、弱い相互作用の代表的な現象の一つである。ミューオンは物質の 基本的な構成粒子であるレプトンの一種であり、電荷を持つスピン1/2の素粒子である。 弱い相互作用により、ミューオンは同じレプトンである電子ないし陽電子と2個のニュー トリノに崩壊する。 µ− → e−+ ¯νe+ νµ µ+→ e++ νe+ ¯νµ (2) ミューオンの崩壊は、ベクトルボソンであるWボソンを媒介とする反応である。ここで

(8)

は、W ボソンは仮想粒子として生成され、その到達距離は非常に短い。これらの崩壊を 図に表すと、図3のようになる。 時刻tまでに崩壊したミューオンの数Ndecay(t)は、元のミューオンの数をN0、ミュー オンの寿命をτµとすると、 Ndecay(t) = N0− N0e−t/τµ = N0(1− e−t/τµ) (3) という式で表される。第二項は、崩壊せずに残っているミューオンの数である。これを両 辺tで微分すると、ミューオン崩壊の時間変化の式が得られる。 dNdecay dt = N0 τ e −t/τµ (4) 本研究で行う実験では、ミューオン崩壊の時間スペクトルをこの式でフィットすることに より、ミューオンの寿命τµを求める。 ミューオンの崩壊により生成される電子ないし陽電子の持つエネルギーEeのスペクト ルN (Ee)dEeは次式で表される。 N (Ee)dEe = G2 F 12π3(~c)6(mµc 2 )2Ee2(3 4Ee mµc2 )dEe (5) ここで、Ee は生成された電子ないし陽電子のエネルギー (MeV)である。生成される電 子·陽電子の持つエネルギーの最大値は、ミューオンの質量の半分である52.83 MeVで あるから、この式が成り立つのは0 < Ee < 52.83の範囲である。従って、生成される電 図3 ミューオンの崩壊過程を表すファインマン図。(左) 負の電荷を持つミューオン がW を媒介して、電子と反電子ニュートリノとミューニュートリノに崩壊している。 (右) 正の電荷を持つミューオンがW+ を媒介して、陽電子と電子ニュートリノと反 ミューニュートリノに崩壊している。

(9)

子ないし陽電子のエネルギースペクトルは図4のようになる。平均エネルギーは37 MeV である。 E_e (MeV) 0 10 20 30 40 50 60 N(E_e) (x10^(-19)) 0 20 40 60 80 100 120 図4 ミューオンの崩壊により生成される電子ないし陽電子のエネルギースペクトル。 生成される電子ないし陽電子の平均エネルギーは、37 MeVである。 2.2.1 フェルミ定数GF V-A理論により、ミューオンの崩壊幅Γは次式のように書ける。 Γ = ~ τµ = G 2 F 192π3(~c)6 · (mµc 2 )5· (1 + ϵ) (6) ここで、ϵは、輻射補正などの高次の過程や位相空間の影響を考慮する為の補正項である。 この式より、ミューオンの質量と寿命τµ の実験値が分かれば、フェルミ定数GF を 求めることが出来る。フェルミ定数GF は、素粒子物理の標準模型に置ける電弱統一模型

のパラメータと直接に関係している。Particle Data Group [3] によると、ミューオンの

質量と寿命τµの実験値は、

mµ= 105.65836668(38) MeV/c2 (7)

τµ = 2.19703± 0.00004 µs (8)

である。

(10)

遷移行列は、 Mfi ∝ g · 1 Q2c2+ M2 Wc4 · g → g2 MW2 c4 (Q 2 → 0) (9) と表され、低エネルギーでは、最右辺のように近似できる。ここで、gは弱荷、MW はW ボソンの質量、Q2 4元運動量の自乗である。 この時、弱い相互作用の結合強度は、フェルミ定数GF によって表すことが出来る。弱 荷gとフェルミ定数GF の関係は、 GF 2 = πα 2 · g2 e2 · (~c)3 M2 Wc4 (10) と書ける。ただし、α = 7.297× 10−3 は微細構造定数である。フェルミ定数GF と、既 知の値としてボソンの質量MW = (80.385± 0.015) GeV/c2をこの式に代入すると、弱 荷gの値を決定する事が出来る。 素電荷e = 1.602× 10−19 Cと弱荷gの関係は、 e = g sin θW (11) である。従って、弱荷gの値が分かれば、電弱混合角 (Weinberg角)θW を決定すること ができる。

2.3

入射する粒子と物質の相互作用

2.3.1 ミューオンと物質の相互作用 ミューオンや陽子など、電子に比べて質量の大きい荷電粒子が物質中に入射すると、物 質中の原子と電磁相互作用を行う。それらの荷電粒子は、電子を励起、電離し、自らは運 動エネルギーを失って減速する。荷電粒子が原子を電離することにより、密度あたりの厚 さdxの物質中で失うエネルギー(エネルギー損失)はBethe-Blochの式で表される。 −dE dx = D Z Az 2 1 β2 ( ln [ 2mc2β2γ2 I ] − β2+ δ 2 ) (12) ここで、β = v/cγ = 1/√1− β2Z は物質の原子番号、Aは物質の質量数、zは入射 粒子が持つ電荷である。D = e 4n 4πϵ2 0mc2ρ A Z ≃ 0.3071 MeVcm 2/gn = ρ ( Z A ) NA は電 子密度、ρは物質の密度、NAはアボガドロ数、I は物質の原子の平均励起エネルギーで ある。δは密度効果と呼ばれ、高々数パーセントの補正項である。 粒子の入射する物質がポリビニルトルエンを主成分とするプラスチック・シンチレー

タの場合、それぞれの値は D ≃ 0.3071 MeVcm2/gZ/A = 0.54141I = 64.7eV

(11)

タ中でのミューオンの運動エネルギーT とエネルギー損失−dE/dx の関係を図5 に示

す。図5を見ると、ミューオンの持つ運動エネルギーがT ∼ 200 MeVの時、エネルギー

損失は最小値で−dE/dx ∼ 2 MeV/cmを取る事が分かる 。

図5 プラスチック・シンチレータ内に入射したミューオンの持つ運動エネルギーT

と、その時のエネルギー損失−dE/dxのグラフ。ミューオンの持つ運動エネルギーが

T ∼ 200 MeVである時、エネルギー損失は最小となり、−dE/dx ∼ 2 MeV/cm

ある。 2.3.2 電子と物質の相互作用 電子や陽電子が物質中に入射する場合、エネルギー損失の原因は電離だけではない。物 質中の原子核の電場から制動を受けることにより、エネルギーを光子の形で放射する制動 放射による損失も考慮する必要がある。これは、ミューオンや陽子などと違って電子の質 量が小さいことがその原因である。従って、Bethe-Blochの式だけでは、物質中における 電子のエネルギー損失を求めることはできない。

The National Institute of Standards and Technology (NIST)のESTAR データベー

ス[9]によって作成した、ポリビニルトルエンを主成分とするプラスチック・シンチレー

タ内における電子の持つエネルギーT とその時のエネルギー損失−dE/dx の関係を図6

に示す。図6を見ると、電子の持つ運動エネルギーがT ∼ 1 MeVの時、エネルギー損失

は最小値で−dE/dx ∼ 2 MeV/cmを取ることが分かる 。

(12)

図6 プラスチック・シンチレータ内に入射した電子の持つ運動エネルギーTと、その

時のエネルギー損失−dE/dxのグラフ。電子の持つ運動エネルギーがT ∼ 1 MeV

ある時、エネルギー損失は最小となり、−dE/dx ∼ 2 MeV/cm である。

(13)

2.3.3 粒子の飛程 荷電粒子が物質中に侵入してから停止するまでに進む距離を飛程と呼ぶ。入射粒子の質 量が電子に比べて大きい場合、飛程は次の式を用いて計算できる : R(T0) = ∫ T0 0 ( −dE dx(T ) )−1 dT (13) ただし、T0 は物質に入射した時の荷電粒子の運動エネルギーである。荷電粒子の運動エ ネルギーT と全エネルギーEと静止質量のエネルギーM c2 の間の関係 T = E− Mc2 (14) を用いると、 β2 = T M c2( T M c2 + 2) (M cT2 + 1)2 (15) と書ける。これより、Bethe-Blochの式は dE dx(T ) = D Z Az 2 ( (M cT2 + 1)2 T M c2( T M c2 + 2) ln [ 2mc2 I T M c2( T M c2 + 2) ] − 1 + δ 2 ) (16) のように、β に依存する形からT に依存する形に変形する。この式を用いて、(13)式か らミューオンの飛程を計算する。 プラスチック・シンチレータ内でのミューオンと電子の飛程は、それぞれ図8と図9の ようになる。電子の飛程はBethe-Blochの式から単純に計算する事は出来ないので、図6

−dE/dx MeV/cmT MeV のグラフのデータを用いて、(13)式から飛程を計算し

た。図8を見ると、プラスチック・シンチレータの厚さが10 cm程度の場合、60 MeV

までの運動エネルギーを持つミューオンをプラスチック・シンチレータ内に静止させられ

ることが分かる。図10はミューオンと電子の飛程の比較図である。運動エネルギーが0

MeVから100 MeVまでの範囲では、ミューオンの飛程よりも電子の飛程の方が長いこ

(14)

図8 Bethe-Bloch の式を用いて計算した、プラスチック・シンチレータに入射した

ミューオンの持つ運動エネルギーT MeVと、そのエネルギーを持つ時のミューオンの

飛程R cmのグラフ。

図9 プラスチックシンチレータに入射した電子の持つ運動エネルギーT MeVと、そ

のエネルギーを持つ時の電子の飛程 R cmのグラフ。−dE/dx MeV/cmT MeV

(15)

図10 ミューオンの飛程(赤線)と、電子(黒線)の比較図。電子の飛程の方がミュー オンよりも長いことが分かる。

(16)

2.4

宇宙線

宇宙線とは、宇宙空間から飛来する粒子(放射線)のことである。現在観測されている 宇宙線では最もエネルギーの高いもので1020 eV以上に及び、その起源ははっきりとは解 明されていない。 地球大気に入射する宇宙線を一次宇宙線と呼ぶ。一次宇宙線は陽子を主成分とする高エ ネルギーの原子核である。この宇宙線は、大気中の窒素原子核や酸素原子核などと衝突し て破壊や粒子生成を繰り返すことにより、図11のように、中間子など多くの新たな粒子 をシャワー状に発生させる。これを空気シャワー現象と呼び、生成された新たな粒子を二 次宇宙線と呼ぶ。 二次宇宙線の中には、核衝突現象により生成された中間子が大気中を飛行している間に 自然崩壊して生成する粒子も含まれる。この空気シャワー現象により、宇宙線を構成する 粒子は次々に変化して行く。宇宙線が地表に到達するまでに、一次宇宙線のほとんどは大 気中での衝突により減少する。そのため、地表に到達する宇宙線のほとんどは二次宇宙線 である。地表に降り注ぐ宇宙線ミューオンは、π中間子やK 中間子が次のように崩壊す ることによって、生成したものである。 π+ → µ++ νµ (17) π− → µ−+ ¯νµ (18) K+ → µ++ νµ (19) K− → µ−+ ¯νµ (20) そのフラックスは、1 cm2 辺りに毎分およそ1個である。本研究では、この宇宙線ミュー オンをプラスチック・シンチレータ内で静止させることにより、ミューオンの寿命τµ を 測定する。用いるプラスチック・シンチレータの上面の面積は144 cm2 なので、約2.4 Hzの計数率で宇宙線ミューオンが実験装置を通過していることになる。その内の一部が、 プラスチック・シンチレータ内で静止する。

(17)

図11 空気シャワー現象の概略図。宇宙空間から飛来した一次宇宙線が、地球大気中 の原子との衝突・破壊により、ハドロンを生成する。この過程を繰り返す事により、二 次宇宙線がシャワー状に広がる。

(18)

3

実験に用いる装置

3.1

プラスチック・シンチレータ

本研究では、宇宙線ミューオンの検出器として、シーアイ工業製のプラスチック・シン チレータを使用した。使用するプラスチック・シンチレータの寸法には、表3.1に書いた ように2種類がある。板状プラスチック・シンチレータは、主に宇宙線ミューオンが通過 したかどうかを確かめるために用いる。ブロック型プラスチック・シンチレータは、主に 宇宙線ミューオンを内部に静止させ、ミューオン崩壊により放出される電子の信号を確認 するために用いる。 表1 ミューオンの寿命測定に用いる、シーアイ工業製のプラスチック・シンチレータ の寸法。板状のものとブロック型のものがある。 プラスチック・シンチレータの種類  寸法 (縦 ×× 厚さ) 板状プラスチック・シンチレータ 8 cm × 18 cm × 1 cm ブロック型プラスチック・シンチレータ 8 cm × 16 cm × 10 cm 3.1.1 シンチレータ シンチレータ([6]) とは、荷電粒子が入射した時に、光を放出する物質のことである。 シンチレータ物質内に荷電粒子が入射すると、荷電粒子はシンチレータ内の電子を電離・ 励起させながらエネルギーを失って行く。この時に励起された電子が基底状態に戻る時 に、光を放出する。この光をシンチレーション光という。シンチレーション光の数は、入 射荷電粒子がプラスチック・シンチレータ内で失ったエネルギーに比例する。 シンチレータはその材料から、無機シンチレータと有機シンチレータに分けられる。そ れぞれの特徴は、表2のようになる。 入射粒子のエネルギーを正確に知りたい場合は、発光量の多い無機シンチレータが用い られる。入射粒子がシンチレータ内に入射したタイミングを正確に知りたい場合や、信号 をトリガーに用いる場合は、応答速度の速い方が良いので、有機シンチレータが用いられ る。本研究では、2つの信号の時間差から極めて短時間であるミューオンの寿命を測定す る。従って、応答速度が速いシンチレータを使用する必要があるので、実験で用いる装置 には、有機シンチレータの一種であるプラスチック・シンチレータを用いる。 プラスチック・シンチレータ([7])は、ポリビニルトルエンなどの有機物質に、2∼3 % の蛍光物質を加えたものである。プラスチック・シンチレータ内で放出されたシンチレー ション光は波長が短く、プラスチック内ではほとんど伝播する事が出来ない。しかし、シ

(19)

表2 無機シンチレータと有機シンチレータの特徴の比較。実験に用いる場合、測定に 適する特徴を持つシンチレータを選ぶ必要がある。 シンチレータの種類  無機シンチレータ 有機シンチレータ 応答速度 遅い 速い 発光量 多い 少ない 加工 難しい 容易 代表例 NaI シンチレータ プラスチック・シンチレータ ンチレーション光が蛍光物質に吸収されることにより、プラスチック内を長距離伝播でき る可視光が放出される。この可視光を検出する。プラスチック・シンチレータ内にミュー オンまたは電子が入射した場合のエネルギー損失や飛程に付いては、第2章で述べた通り である。 図12 プラスチック・シンチレータの主成分の例である有機物質ポリビニルトルエン の構造式。化学式は [CH3C6H4CHCH2]nである。

3.2

光電子増倍管

シンチレータからの光は微弱なので、そのままでは検出することができない。通常、微 弱なシンチレーション光を検出するためには、信号を検出可能な大きさまでに増幅する光

(20)

電子増倍管を用いる。 光電子増倍管とは、光を電気信号に変換し、更に増幅する装置である。光電子増倍管の 光電面に光が入射すると、光電効果により電子が放出される。その電子を、ダイノードと 呼ばれる電極を複数経由して増幅する事により、最終的に検出可能な大きさの電気信号に 変換する。出力される電気信号の大きさは、最初に入射した光子の数に比例する。入射し た光パルスの時間特性は、20∼50 ns の遅延を経て、同じ時間特性を持った電気信号とし て出力される。 本研究では、プラスチック・シンチレータからのシンチレーション光を、ライトガイド を通して光電子増倍管に導き、増幅した電気信号に変換したものを検出する。使用する光 電子増倍管は2種類あり、浜松ホトニクスの R7724とH7195 である。管径は60.0 mm である。それぞれの特性は表3のようになっている。 表3 実験に使用する光電子増倍管(R7724, H7195)の特性。 型番  R7724 H7195 推奨印加電圧 (最大印加電圧) −1750 V (−2000 V) −2000 V (−2700 V) パルス上昇時間 2.1 ns (typical) 2.7 ns (typical) 電子走行時間 29 ns (typical) 40 ns (typical) 電子走行時間の拡がり 1.2 ns (typical) 1.1 ns (typical) R7724 は本来のパルスの約 0.5 µs から3 µs の間に渡って分布するアフターパルスを 出力するので、ミューオンの寿命測定には適さない。そのため、ミューオン崩壊により生 成される電子の信号を検出するブロック型シンチレータには、H7195を用いる。

3.3

ミューオン寿命測定に用いるデータ収集系

光電子増倍管から出力されるアナログ信号をデジタル処理するために、NIM モジュー ルによる計測回路を組む。第5章、第6章で行う実験では、以下で解説するデータ収集系 を用いる。図13に全体の写真を示す。 3.3.1 Discriminator

Discriminator と し て 、テ ク ノ ラ ン ド 社 の N-TM 405 8CH Discriminator

(Non-Updating) を使用した。これは、入力した信号の波高が設定したスレッショルド (閾

値)を越えた時のみ、任意に設定したパルス幅でデジタルパルスを出力する装置である。

本研究では、光電子増倍管から入力されたアナログ信号から、低い波高を持つノイズを排

(21)

出力パルスの出し方によって、updating discriminator と non-updating discriminator

の区別があるが、それについては第4章で述べる。

3.3.2 Coincidence

Coincidenceとして、テクノランド社の N-TM 103 3CH 4-Fold Coincidenceを使用し

た。これは、2 個以上のデジタルパルスが時間的に重なって入力された場合、すなわち、 複数のデジタルパルスが同時計測された場合のみ、任意に設定したパルス幅でデジタル パルスを出力する装置である。veto (anti-coincidence)をかける事ができ、同時計測され た信号の中でも、veto 端子に入力したパルスと同時に計測された場合は出力しないとい う操作が可能である。本研究では、宇宙線ミューオンがブロック型プラスチック・シンチ レータ内で静止した時の信号を出力するのに利用する。同時計測に要する最小のパルス幅 については、第4章で述べる。 3.3.3 FAN-IN / OUT 入力した複数の信号をOR出力するモジュールとして、PHILLIPS SCIENTIFIC社の

MODEL 740 QUAD LINEAR FAN-IN/FAN-OUTを使用した。本研究では、3つの板

状プラスチック・シンチレータで宇宙線ミューオンの veto を取る時に、ブロック型プラ

スチック・シンチレータを貫通した宇宙線ミューオンの信号を出すために利用する。

3.3.4 Gate & Delay Generator

Gate & Delay Module として、テクノランド社の N-TM 307 2CH Gate and Delay Generator Type2を使用した。これは、START端子に入力した信号を、任意の幅に変更

し、任意に遅延させられるモジュールである。本研究では、パルサーからの信号の一方を

任意にdelayさせる事によって、測定されたチャンネル数と時間の対応関係を求めるため

の時間較正に利用する。

3.3.5 TAC

Time to Amplitude Converter (TAC) として、ORTEC 社の Model 566 Time to Amplitude Converter を使用した。これは、START端子に入力した信号とSTOP端子 に入力した信号の時間間隔を波高に変換したアナログパルスを出力する装置である。本研 究では、静止したミューオンが崩壊し、電子を放出するまでの時間差を測定するのに利用 する。

3.3.6 ADC

Analog to Digital Converter (ADC) として、Laboratory Equipment 社の ADC500

(22)

装置である。本研究では、TACから出力された、時間差を波高に変換したアナログパル

スをデジタル値(チャンネル数)に変換するために利用する。

3.3.7 MCA

Multi-Channel Analyzer (MCA) として、Laboratory Equipment 社の MCA510 を 使用した。これは、入力されたデジタル信号をチャンネル毎に積算する装置である。本研

究では、デジタル値(チャンネル数)の積算により、ミューオン崩壊の寿命の時間スペク

トルを得るために利用する。

3.3.8 Scaler

Scaler として、N-OR 425 8CH 100MHz Visual Scaler を使用した。これは、入力し た信号をカウントするモジュールである。本研究では、光電子増倍管からの信号をカウン トして測定時間で割ることにより、計数率の測定に利用する。

図13 本研究で用いるデータ収集系。左からHV電源、Discriminator、Coincidence、

(23)

4

実験の準備

4.1

Discriminator

の種類の確認

Discriminator はその出力信号の出し方によって、updating タイプと non-updating

タイプがある。前者のタイプは、設定したスレッショルド以上の波高を持つ入力信号が入 力されている限り、出力信号を出し続けるものである。後者のタイプは、設定したスレッ ショルド以上の波高を持つ入力信号が入力され続けていても、あらかじめ設定したパルス 幅で1つのパルスを出力するものである。本研究では、同時計測と偶発的同時計測が重要 であるから、1つの信号のパルス幅が広くならず、任意に設定できる後者のタイプの方が 適している。実験で使用するDiscriminatorがどちらのタイプであるかを実際に確認した ところ、non-updating タイプであった。

4.2

同時計測・偶発的同時計測に用いる入力パルス幅の決定

本研究では、偶発的同時計測によるイベントを減らすことが最も重要である。異なる2 本の光電子増倍管(PMT1とPMT2とする)からの信号について、同時計測をした時の 偶発的同時計測による計数率Racc (Hz)は、次の(21)式で与えられる。 Racc= R1· R2· (h1+ h2− 2h3) (21) ここで、R1 [Hz]とR2 [Hz]はそれぞれPMT1とPMT2の信号の計数率、h1 (s)とh2 (s)はそれぞれPMT1とPMT2のDiscriminator 出力信号のパルス幅、h3 (s)は同時計 測に必要な最小のパルス幅である。(21)式が成り立つならば、偶発的同時計測の計数率 は、光電子増倍管からの信号の計数率R1、R2 だけではなく、Coincidence moduleに入 力する信号のパルス幅h1、h2にも依存する。そこでまず、オシロスコープを用いて、以 下のように同時計測に必要な最小パルス幅h3 を決定し、その後に最適なh1とh2を決定 した。 パルス・ジェネレータを用いて、PMT1からの信号のパルス幅h1 を10 nsに固定し、 PMT2からの信号のパルス幅h2 を10 ns に設定する。図14のように、常に 2つのパ ルスの中心が同じ位置に来るように調整し、オシロスコープでCoincidence module か らの出力、すなわち同時計測がされているかを確認しながらh2 の幅を小さくして行く。 Coincidence moduleからの出力が無くなった時の h2 の値が、同時計測に必要な最小パ ルス幅h3 となる。 実際に実験装置を用いて確認をすると、Discriminatorの最小出力幅である3 nsまでは Coincidence moduleの出力を観察できたので、h3 を3 nsと決定した。これより、プラ スチック・シンチレータ内での宇宙線ミューオンが通過する位置やタイミングによる時間

(24)

図14 同時計測に必要な最小パルス幅の確認方法。オシロスコープで確認をしながら、 徐々にPMT2の信号のパルス幅を小さくして行く。同時計測によるパルスが現れなく なる境目が、求める同時計測の最小パルス幅である。 差を考慮に入れて、安全を取ってh1 を10 ns、h2を6 nsに設定した。 第5章と第6章で行う実験では、ここで決定したパルス幅を用いて、同時計測を行う。

4.3

TAC+ADC

の時間較正

ミューオンの寿命測定では、ミューオンが静止した時の信号をSTART信号、ミュー オン崩壊により生成された電子の信号をSTOP信号として、その時間差を測定すること により、ミューオン崩壊の時間スペクトルを得る。時間差を波高に変換したアナログ信 号がTAC (Time to Amplitude Converter) から出力される。その信号がADC (Analog to Digital Converter) に入力され、波高に対応するチャンネル数がデータとして取得さ れる。ミューオンの寿命を求めるためには、この得られたチャンネル数を時間に変換する

必要がある。この節では、TAC とADCで得られる時間スペクトルについて時間較正を

行う。

図15 のように測定回路を組む。一定のタイミングで信号を出すパルサーからの信号を

2つに分けて、一方をTAC に入力するSTART信号とする。もう一方をGate & Delay

Generatorに入力し、信号を任意に delayさせたものをTAC に入力するSTOP信号と

する。TACから出力される信号の波高は、Gate & Delay Generatorにより任意に設定

した時間差と対応する。その時間スペクトルのピークのチャンネル数が、任意の時間差に 対応する値である。 TAC の入力可能な最大時間差を20 µsに設定した時の時間較正を行う。START信号 とSTOP信号の時間差を4, 8, 12, 16 µsに設定して、それぞれ3分間時間スペクトルを 測定し、そのピークにおけるチャンネル数の値を調べた。得られた時間スペクトルは図 16、時間差とチャンネル数の対応表は表4のようになった。 横軸をチャンネル数 Channel (ch)、縦軸を時間Time (µs) として一次関数でフィット

(25)

図15 時間較正に用いる測定回路。TACのSTART信号はパルサーからの

Discrim-inator を通した信号にし、STOP 信号はGate&Delay Generatorによって任意に

Delayさせた信号にして、任意の時間差に対応するチャンネル数を測定する。

Channel (ch) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

Counts per channel (x10^5)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 図16 TACに入力する信号の時間差を、それぞれ4, 8, 12, 16 µsとして測定した時 間スペクトル。左から、時間差が 4, 8, 12, 16 µs 時に相当するピークである。 すると図17のようになり、時間スペクトルより得られるチャンネル数と時間の時間較正 の式として、 Time = (4.797± 0.008) × 10−3 · Channel + (−0.15 ± 0.02) (22) が得られた。 第5章で行う実験と第6章で行う実験では、(22)式を用いてTAC+ADCの時間較正 を行う。

(26)

表4 TACに入力したSTART信号とSTOP信号の時間差 (µs)と時間スペクトルの ピークにおけるチャンネル数 (ch) の対応表。 時間差 (µs) 4 8 12 16 チャンネル数 (ch) 867 1698 2530 3369 Channel (ch) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 s) µ Time ( 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 図17 ミューオン寿命測定に用いるTACについて、20 µsで設定した時のパルサーを 用いた時間較正のグラフ。フィットによる時間較正の式は、Time = (4.797± 0.008) × 10−3· Channel + (−0.15 ± 0.02)となった。

(27)

5

偶発的同時計測の測定

この章では、偶発的同時計測の計数率の式 Racc= R1· R2· (h1+ h2− 2h3) が本当に成り立っているかどうかを測定により確認する。確認する事項は、以下の通りで ある。 1. 計数率R1, R2 に対する依存性 2. 入力パルス幅h1, h2 に対する依存性 3. 同時計測をする信号の一方を任意にdelayさせた時に成り立つか 4. プラスチック・シンチレータの有無に関わらず成り立つか 5. 時間スペクトルにおけるバックグラウンドの予測 PMT1, 2と同時計測の計数率R1, R2, Rcoin は、Scalerを用いて信号の計数を100秒 間測定し、得られた値から計算したものを用いる。図18は、本章で行う測定の流れ図で ある。 図18 本章で行う偶発的同時計測に関する測定の流れ図。

(28)

5.1

2

本の遮光した光電子増倍管による偶発的同時計測の測定

5.1.1 Discriminatorのスレッショルドを変化させた場合 偶発的同時計測による計数率の、R1, R2 に対する依存性を確認するための実験を 行った。 2本の遮光した光電子増倍管(H7195) PMT1, PMT2について、図19のような回路を 組む。この時、モジュールにおけるパルス幅は、表のように設定する。 図19 2本の独立した光電子増倍管からのアナログパルスによる、偶発的同時計測の

回路図。Discriminator3, Discriminator4, Coincidenceからの出力信号の計数を、そ

れぞれ Scaler1,2,3で測定する。

表5 図19の測定回路における、各モジュールでの出力パルス幅。Discriminator1,2

で一度パルスを整形してから、Discriminator3,4 で同時計測に最適なパルス幅にして

いる。

モジュール Discri1,2 Discri3 Discri4 Coincidence

出力パルス幅 (ns) 70 10 6 10 PMT1 からのアナログパルスを Discriminator1 に通して、最大出力パルス幅であ る70 ns のデジタルパルスに変換する。この信号を更に Discriminator3 に通して、第 4 章で決定した同時計測に用いるパルス幅 10 ns のデジタルパルスとして出力する。 ここでパルスを Discriminator に2 回通した理由は、乱れたアナログパルスを1 段階 目の Discriminator で一度整形し、2 段階目の Discriminator でパルス幅を調整する ためである。同様にして、PMT2 からのアナログパルスについても、Discriminator2、 Discriminator4を通す事によって、第4章で決定した同時計測に用いるパルス幅 6 ns の

(29)

デジタルパルスとして出力する。これらのデジタルパルスをCoincidence moduleに入力 し、同時計測を行うことにより、2本の光電子増倍管の偶発的同時計測の計数率が測定で きる。 この回路において、Discriminator1とDiscriminator3のスレッショルドを−50, −100, −150, −200, −250 mVにそれぞれ変えて、3時間(10800秒)の間、光電子増倍管からの 計数率と偶発的同時計測の計数率を測定した。これにより、2本の光電子増倍管からのパ ルスの計数率 R1、R2 を変化させた時の偶発的同時計測の計数率の依存性が得られた。そ れぞれのスレッショルド Vthにおける、光電子増倍管の計数率 R1, R2、同時計測した計 数率Rcoin、(21)式から計算した偶発的同時計測の計数率Raccは表 6の通りである。そ のグラフは図20のようになった。 表6 スレッショルドを変更したそれぞれの場合における、光電子増倍管からのパルス の計数率と同時計測の計数率と偶発的同時計測の計数率の式による計算値の表。 Vth (mV) R1 (Hz) R2 (Hz) Rcoin (×10−3 Hz) Racc (×10−3 Hz) −50 4678.2± 0.2 961.2± 0.1 50.0± 0.8 44.966± 0.005 −100 1023.3± 0.1 703.57± 0.09 13± 4 7.200± 0.001 −150 699.58± 0.09 559.26 ± 0.08 6.7± 0.3 3.91245± 0.0008 −200 587.59± 0.08 470.42 ± 0.07 2.1± 0.2 2.7642± 0.0006 −250 488.77± 0.08 400.64 ± 0.07 2.1± 0.2 1.9582± 0.0004 図20を見ると、Rcoin の値は、誤差の範囲には収まっていないが、計算値であるRacc に近い値になっていることが分かる。これより、偶発的同時計測の計数率の式のR1, R2 に対する依存性はほぼ成り立っていることが確認できた。

(30)

-Vth (mV) 0 50 100 150 200 250 300 Counting Rate (Hz) -3 10 -2 10 -1 10 図20 2本の独立した光電子増倍管の信号を、−250 mVから−50 mVまでの異なる スレッショルドで測定した同時計測による計数率(黒点)と、それぞれの光電子増倍管 の計数率から計算した偶発的同時計測の計数率(赤点)の比較。それぞれのスレッショ ルドにおける計数率の値はほぼ一致している。

(31)

5.1.2 入力パルス幅を変化させた場合 次に偶発的同時計測による計数率の h1, h2 に対する依存性を確認するための実験を 行った。計測回路は図19の回路を用いた。 まず、h1を変化させた場合について、偶発的同時計測の測定を行った。Discriminator 1 とDiscriminator 2 のスレッショルドを−10 mV で固定し、Discriminator 4 の出力 パルス幅を 6 ns に固定した状態で、h1 を10, 20, 30, 40, 50 ,60 ns にそれぞれ変化さ せた時の計数率を測定した。h1 = 10, 20, 30 ns の時は1800秒間、h2 = 40, 50, 60 ns の 時は3600秒間測定した。この時、PMT1とPMT2 の計数率はそれぞれR1 ∼ 1580 Hz, R2 ∼ 145 Hz でほぼ一定であった。 (21)式におけるパルス幅の項 h1+ h2− 2h3 ns (以下のグラフと表では、この項をまと めてWidth と呼ぶことにする)に対する R1, R2, Rcoin のそれぞれの計測値と、(21)式 から計算したRaccの値は表7のようになった。横軸を h1+ h2− 2h3 (ns)、縦軸を計数

率 (Hz) として、R1, R2, Rcoin をプロットすると図21のようになり、Rcoin とRacc

プロットすると図22のようになった。

表7 h1 を変化させた場合の、(21)式におけるパルス幅の項 h1+ h2− 2h3 ns (=

Width) に対するR1, R2, Rcoinのそれぞれの計測値と、(21)式から計算したRacc

の値。

Width (ns) R1 (Hz) R2 (Hz) Rcoin (×10−3 Hz) Racc (×10−3 Hz)

10 1551.5± 0.7 143.8 ± 0.2 1.9± 0.7 2.230± 0.003 20 1626.9± 0.7 146.3 ± 0.2 5.6± 1.2 4.760± 0.007 30 1567.0± 0.7 142.2 ± 0.2 5.6± 1.2 6.69± 0.01 40 1559.7± 0.9 141.1 ± 0.3 11± 2 8.81± 0.02 50 1580.3± 0.9 142.6 ± 0.3 11± 2 11.3± 0.2 60 1583.4± 0.9 143.8 ± 0.3 19± 7 13.7± 0.3 R1 とR2 の値はほぼ一定であるが、統計的なばらつきにより、全く同じ値にはなって いない。従って、パルス幅の項以外の計数の値も測定ごとに微妙に変化しているので、図

22にプロットしたRcoinとRaccの比較から、単純にRaccの変化はパルス幅h1の変化に

よるものであると言うことはできない。そこで、(21)式を次のように変形する。 Racc R1· R2 = h1+ h2− 2h3 (23) (23)式の右辺と左辺をそれぞれ横軸と縦軸とすると、正比例のグラフが得られる。そこ で、横軸をh1+ h2− 2h3 ns、縦軸を Rcoin/(R1· R2) nsとした時に、各測定点が正比例

(32)

Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Counting Rate (Hz) -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 1 10 2 10 3 10 4 10 図 21 h1を変化させた場合の、それぞれのパルス幅の項における PMT1の計数率 R1(黒点)とPMT2の計数率R2(青点)と偶発的同時計測による計数率Rcoin(赤点)の 値。R1とR2は、R1∼ 1550 Hz, R2∼ 450 Hzでほぼ一定である。 の直線に乗るかどうかを見ればよい。得られた測定点をプロットしたものは図23のよう になった。図中の黒線は正比例のグラフである。この図を見ると、各点は誤差の範囲で正 比例の直線に乗っていることが分かる。これより、(21)式におけるRacch1 に対する 依存性は成り立っていると言える。

(33)

Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Counting Rate (Hz) -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 図22 h1を変化させた場合の、それぞれのパルス幅の項における(21)式から計算し た偶発的同時計測の予測値Racc(黒点)とPMT1とPMT2の信号による偶発的同時計

測の計数率Rcoin(赤点)の値。Rcoin は、図21のデータと同じものである。Rcoin は

Raccと誤差の範囲で一致している。 Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Racc/(R1*R2) (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 図23 2本の光電子増倍管の計数率と入力パルス幅h2を6 nsで一定にして、入力パ ルス幅h1のみをそれぞれ10 nsから60 nsまで変えて測定した同時計測の計数率と2 本の光電子増倍管の計数率の積の比(赤点)とRacc/(R1· R2)(黒線)の比較。赤点は、 誤差の範囲でグラフ上に乗っていることがわかる。

(34)

次に、上記とは対称的に、h2 を変化させた場合について、偶発的同時計測の測定を 行った。Discriminator 1 とDiscriminator 2 のスレッショルドを −10 mV で固定し、 Discriminator 3の出力パルス幅を 10 ns に固定した状態で、h2 を6, 16, 26, 36, 46, 56 ns にそれぞれ変化させた時の計数率を測定した。h2 = 6, 16, 26 ns の時は1800秒間、 h2 = 36, 46, 56 ns の時は3600秒間測定した。この時、PMT1とPMT2の計数率はそれ ぞれR1 ∼ 1550 Hz, R2 ∼ 145 Hz でほぼ一定であった。 (21)式におけるパルス幅の項 h1+ h2− 2h3 [ns]に対するR1, R2, Rcoin のそれぞれの 計測値と、(21)式から計算したRacc の値は表8のようになった。h1 を変化させた場合 と同様にして、横軸を h1+ h2− 2h3 (ns)、縦軸を計数率 (Hz) として、R1, R2, Rcoin を プロットする図24のようになり、RcoinとRaccをプロットすると図25のようになった。 表8 h2 を変化させた場合の、(21)式におけるパルス幅の項 h1+ h2− 2h3 ns (=

Width) に対するR1, R2, Rcoinのそれぞれの計測値と、(21)式から計算したRacc

の値。

Width (ns) R1 (Hz) R2 (Hz) Rcoin (×10−3 Hz) Racc (×10−3 Hz)

10 1551.6± 0.7 143.8 ± 0.2 1.9± 0.7 2.230± 0.003 20 1548.2± 0.7 150.9 ± 0.2 4.4± 1.1 4.673± 0.007 30 1563.9± 0.7 147.3 ± 0.2 5.8± 1.3 6.91± 0.01 40 1468.9± 0.9 135.8 ± 0.3 9.4± 2.3 7.98± 0.02 50 1625.1± 1.0 150.7 ± 0.3 12± 3 12.2± 0.2 60 1625.1± 1.0 150.7 ± 0.3 16± 3 14.7± 0.3 h2 を変化させた場合も、R1 とR2 の値は統計的なばらつきによって全く同じ値には なっていないので、単純に図 25 から (21) 式の h2 に対する依存性を評価することは 出来ない。そこで、h1 を変化させた場合と同様に、横軸を h1 + h2 − 2h3 ns、縦軸を Rcoin/(R1· R2) ns としてプロットした偶発的同時計測の計数率とPMT1とPMT2の計 数率の積との比Rcoin/(R1· R2)が、(23)式に従って正比例の直線に乗るかどうかを見れ ばよい。各測定点をプロットすると図24のようになり、確かに誤差の範囲で正比例の直 線に乗っていることが分かる。これより、(21)式におけるRacch2 に対する依存性は 成り立っていると言える。 以上の実験から、(21) 式における偶発的同時計測の計数率 Racc のパルス幅の項 h1+ h2− 2h3に対する依存性は成り立つことが確認できた。

(35)

Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Counting Rate (Hz) -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 1 10 2 10 3 10 4 10 図 24 h2を変化させた場合の、それぞれのパルス幅の項における PMT1の計数率 R1(黒点)とPMT2の計数率R2(青点)と偶発的同時計測による計数率Rcoin(赤点)の 値。R1とR2は、R1∼ 1550 Hz, R2∼ 450 Hzでほぼ一定である。 Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Counting Rate (Hz) -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 図25 h2を変化させた場合の、それぞれのパルス幅の項における(21)式から計算し た偶発的同時計測の予測値Racc(黒点)とPMT1とPMT2の信号による偶発的同時計

測の計数率Rcoin(赤点)の値。Rcoin は、図24のデータと同じものである。Rcoin は

(36)

Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Racc/(R1*R2) (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 図26 2本の光電子増倍管の計数率と入力パルス幅h1を10 nsで一定にして、入力パ ルス幅h2のみをそれぞれ6 nsから56 nsまで変えて測定した同時計測の計数率と2 本の光電子増倍管の計数率の積の比(赤点)と、Racc/R1R2(黒線)の比較。赤点は誤差 の範囲で実線上に乗っていることがわかる。

(37)

5.1.3 信号の一方を1 µsだけdelayさせて同時計測した場合 更に、光電子増倍管からの信号の一方を1 µsだけdelayさせても偶発的同時計測の計 数率の式が成り立つかどうかを確認するための実験を行った。これは一点だけ確認すれば 十分なので、パルス幅がh1 = 40 ns、h2 = 6 nsの場合に、図 27のようにしてPMT 2 の信号を1µsだけdelayさせてPMT 1の信号と同時計測した時の計数率を、1800秒間 測定した。PMT1 とPMT2の計数率 R1, R2、同時計測による計数率Rcoin、(21)式か

ら計算した偶発的同時計測による計数率Raccの値は表9の通りである。RaccRcoin を

プロットすると、それぞれ図28の赤点と青点のようになった。図28を見ると、一方を

delayさせた同時計測による実験値は、偶発的同時計測の計算値と誤差の範囲で一致して

いる。従って、一方の信号をdelayさせてから同時計測をした場合でも、偶発的同時計測

の計数率の式(21)は成り立っていると言える。

図 27 2 本の遮光した光電子増倍管からのアナログパルスの一方を、Delay Box

によって delay させてから同時計測する時の回路図。Discri2 と Discri4 の間で、

Delay Box を用いてPMT2の信号を1µs だけdelayさせている。Discriminator3,

Discriminator4, Coincidence からの出力信号の計数を、それぞれScaler1, 2, 3で測

定する。

表9 h1 = 40 ns、h2= 6 nsの場合の、R1, R2, Rcoinのそれぞれの計測値と、(21)

式から計算したRaccの値。

R1 (Hz) R2 (Hz) Rcoin (×10−3 Hz) Racc (×10−3 Hz)

(38)

Width (ns) 0 10 20 30 40 50 60 70 Counting Rate (Hz) -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 図28 入力パルス幅をh1= 40 ns, h2= 6nsとしてPMT1の信号を1µs だけdelay させて同時計測した時の計数率 (赤点)と、偶発的同時計測の計数率の式から計算した 予測値 (青点)の比較図。 黒点はh1 を変化させた時に測定した偶発的同時計測の計 数率。

(39)

5.2

ブロック型シンチレータに固定した

2

本の光電子増倍管による偶発

的同時計測の測定

ここまでは、プラスチック・シンチレータに接続していない全く独立な2本の光電子増 倍管について、偶発的同時計測による計数率の式が成り立つかどうかを確認して来た。こ の節では、1個のプラスチック・シンチレータに接続されている2本の光電子増倍管につ いても同様に式が成り立つかどうかを確認するための測定を行った。 図29のような回路を組む。ブロック型シンチレータに固定した2本の光電子増倍管の 信号の内、パルス幅が10 nsの方を1 µsだけdelayさせて、delayさせていない6 nsの信 号と同時計測する。信号をdelayさせずに同時計測した場合、ブロック型プラスチック・ シンチレータを通過した宇宙線ミューオンの計数が得られるはずである。この一方の信号 をdelayさせて同時計測することにより、偶発的同時計測の計数率のみを測定できるよう になる。パルス幅をh1 = 10 ns, h2 = 6 ns に固定し、スレッショルドVth−25, −50, −75, −100, −125 mV にそれぞれ設定して、6時間 (21600秒)の間、PMT1とPMT2 の計数率R1, R2 と偶発的同時計測の計数率Rcoinを測定した。この実験値と偶発的同時 計測の式より計算した計数率Raccは表 10のようになった。横軸をスレッショルド、縦 軸を計数率としてRcoin とRaccをプロットすると、図30のようになった。図30を見る と、同時計測による実験値は、偶発的同時計測の計算値と誤差の範囲でほぼ一致してい る。従って、プラスチック・シンチレータがある場合でも、偶発的同時計測の計数率の式 (21)は成り立っていると言える。 図29 両側読み出しが可能なブロック型シンチレータの両側に固定した2本の光電子 増倍管の信号の内、パルス幅が10 nsの方を1 µs だけdelayさせて、同時計測する 回路。

(40)

表10 スレッショルドVthを25mVずつ変化させた場合のR1, R2, Rcoinのそれぞれ の計測値と、(21)式から計算したRaccの値。 Vth (mV) R1 (Hz) R2 (Hz) Rcoin (×10−3 Hz) Racc (×10−3 Hz) -25 859.5± 0.3 905.3 ± 0.3 7.781± 0.003 9.2± 0.9 -50 422.0± 0.2 524.4 ± 0.2 2.213± 0.001 1.8± 0.4 -75 259.0± 0.2 355.9 ± 0.2 0.9216± 0.0007 0.93± 0.30 -100 160.0± 0.1 238.9 ± 0.1 0.3822± 0.0003 0.37± 0.13 -125 125.1± 0.1 207.0 ± 0.1 0.2589± 0.0002 0.23± 0.10 -Vth (mV) 0 20 40 60 80 100 120 140 Counting Rate (Hz) -5 10 -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 図30 ブロック型シンチレータに固定した2本の光電子増倍管の信号の内、パルス幅 が10 nsの方を1 µs だけdelayさせて同時計測した時の計数率(黒点)と、それぞれ の光電子増倍管の計数率から計算した偶発的同時計測の計数率(赤点)の比較。それぞ れのスレッショルドに置ける計数率の値はほぼ一致している。

(41)

5.3

TAC

に入力した場合の時間スペクトルのバックグラウンド測定

本研究で行うミューオンの寿命測定では、時間スペクトルにおけるバックグラウンドが どの程度になるかを予測することが重要である。この節では、偶発的同時計測の計数率の 式から、時間スペクトルのバックグラウンドが計算できるかどうかを調べるための実験を 行った。 この測定を行うために、図31のような回路を組んだ。TACのSTART信号として、板 状プラスチック・シンチレータに設置したPMT1とPMT2 の同時計測によるパルスを 入力し、STOP信号としてプラスチック・シンチレータが付いていない遮光した光電子 増倍管 PMT3のパルスを入力する。ここで、PMT1とPMT2のプラスチック・シンチ レータは 12 cm 程度離して平行に並べてあるので、得られる同時計測のパルスは2つの プラスチック・シンチレータを通過する宇宙線ミューオンのものである。また、PMT3は PMT1 とPMT2 から離れた所に設置しているので、START信号とSTOP信号は互い

に独立な信号である。従って、TACとADCにより得られる時間スペクトルは、START

信号とSTOP信号の偶発的同時計測によるものである。この時間スペクトルを測定した。

TACの設定は10 µs とした。この測定で偶発的同時計測が起こりうる範囲は、測定可能

なSTART信号とSTOP信号の間隔の最大値である10 µsである。つまり、START信

号が入力されてから10 µs 以内に STOP信号が入った場合に偶発的同時計測が起こる。 従って、PMT1 とPMT2 の計数率をR1 (Hz), R2 (Hz)とすると、この測定における偶 発的同時計測の計数率Racc (Hz)は、(21)式のパルス幅の項を10 µs (10 ×10−6 s)に置 き換えた Racc ≃ R1 · R2· (10 × 10−6) (24) という式で書くことができる。この式から得られるRaccは、TACを用いて測定される時 間スペクトルのバックグラウンドの計数率と等しいと考えられる。 約18時間(65000秒)の間測定をすると、偶発的同時計測による時間スペクトルは図31 のようになった。また、測定開始と同時に65000秒の間測定したSTART信号とSTOP 信号の計数率R1, R2 と、(24)式から求めた時間スペクトルのバックグラウンドの計数率 の予測値Racc は表11のようになった。図31の時間スペクトルを0.01 µsから10 µsの 範囲で定数n0 によりフィットをすると、n0 = 2.18± 0.42 ( /0.4808 · µs)となった。こ れをバックグラウンドの計数率RBG に変換すると、RBG = (6.43± 1.34) × 10−4 (Hz) となった。実験により求められたRBGと、(24)式から求めた計算値Raccを比較すると、 誤差の範囲で一致していることが分かる。従って、(24)式による偶発的同時計測の計数率 の計算値は、時間スペクトルのバックグラウンドの予測値として用いることが出来ると言 える。これより、TACとADCを用いた時間スペクトルの測定においても、偶発的同時 計測の計数率の式が成り立つことが確認できた。

(42)

図31 2本の独立した光電子増倍管からの信号をそれぞれTACのSTARTとSTOP に入力し、時間スペクトルのバックグラウンドを測定するための回路図。測定する時間 スペクトルの範囲は 10 µsである。 表11 時間スペクトル測定と同時に65000秒間測定したSTART信号とSTOP信号 の計数率R1, R2の実験値と、(24)式から求めたRaccの値。 計数率 (Hz) R1 0.715± 0.003 R2 85.66± 0.04 Racc (6.12± 0.03) × 10−4

(43)

s)

µ

Time (

0 2 4 6 8 10

Counts per channel

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

図32 TACのSTART信号とSTOP信号として互いに独立な信号を入力して、約18

時間(65000秒)測定して得られた時間スペクトル。黒線は定数値としてフィットした

(44)

6

ミューオンの寿命測定

この章では、3つの異なる実験装置を用いて行ったミューオンの寿命測定の結果につい て述べる。

6.1

測定方法

本実験では、宇宙線ミューオンをブロック型プラスチック・シンチレータの内部に静止 させる。宇宙線ミューオンが静止した瞬間と、ミューオン崩壊が起こった瞬間の時間差を 測定することにより、ミューオン崩壊の時間変化を測定することが出来る。すなわち、宇 宙線ミューオンがブロック型プラスチック・シンチレータの内部に静止したと考えられる 信号をSTART信号、その数µs 後にブロック型プラスチック・シンチレータで検出され るミューオン崩壊による電子の信号をSTOP信号としてTACに入力することにより、そ の時間差を時間スペクトルとして測定すればよい。 このようにして得られた時間スペクトルを、(4)式にバックグラウンドの項n0を加えた dNdecay dt = N0 τ e −t/τµ+ n 0 (25) という式によってフィットすることにより、ミューオンの寿命τµ を求める。 以下では、この測定を 3台のそれぞれ異なる装置について行う。各信号の計数率は、 100秒間Scalerを用いて測定した信号の計数から求める。各 Discriminatorにおけるス レッショルドは、−50 mVに設定する。ブロック型プラスチック・シンチレータに設置 する光電子増倍管にはH7195を用い、板状プラスチック・シンチレータに設置する光電 子増倍管にはR7724を用いる。図33は本章で行うミューオン寿命測定の流れ図である。 点線部の入力パルス幅の決定は、既に第4章で行っている。

6.2

片側読み出し回路による測定

最初に、片側読み出しの実験装置でミューオン寿命測定を行った。 6.2.1 実験回路と装置 図34のような回路を持つ実験装置を組む。図35はこの回路のプラスチック・シンチ レータの配置図で、図36は実際に使用する実験装置である。図37は片側読み出し回路 に用いるブロック型プラスチック・シンチレータとライトガイドの寸法である。それぞれ の信号のパルス幅は表12の通りである。この回路においては、TACのSTART信号は #1∩#2∩#3を入力し、STOP信号として #2を入力している。前者の信号は、上側

(45)

図33 本章で行うミューオン寿命測定の流れ図。点線部は、既に第4章で説明している。 の板状プラスチック・シンチレータ#1とブロック型プラスチック・シンチレータ#2で は同時に計測されたが、下側の板状プラスチック・シンチレータ#3では同時に計測され なかった時の信号である。すなわち、#1を貫通して、ブロック型プラスチック・シンチ レータ#2の内部で静止した宇宙線ミューオンの信号である。後者の信号は、内部で静止 した宇宙線ミューオンが崩壊して生成した電子による信号である。この2つの信号の時間 差を測定することにより、ミューオン崩壊の時間スペクトルを測定する。 表12 第4章で決定した同時計測に最適なパルス幅を用いて新たに設定した、図34の 回路のそれぞれの信号におけるパルス幅。 信号 パルス幅 (ns) #1 10.0 #2 6.0 #3 70.0 #1∩ #2 ∩ ¯#3 10.0

図 1 4- フェルミ相互作用で表現した、中性子の β 崩壊のファインマン図。中性子から 陽子と電子と反電子ニュートリノに直接崩壊する。 図 2 現在の弱い相互作用の理論で表現した、中性子の β 崩壊のファインマン図。 W − ボソンを媒介して、電子と反電子ニュートリノに崩壊する。 2.2 ミューオンの崩壊 ミューオンの崩壊は、弱い相互作用の代表的な現象の一つである。ミューオンは物質の 基本的な構成粒子であるレプトンの一種であり、電荷を持つスピン 1/2 の素粒子である。 弱い相互作用により、ミューオンは同
図 5 プラスチック・シンチレータ内に入射したミューオンの持つ運動エネルギー T と、その時のエネルギー損失 − dE/dx のグラフ。ミューオンの持つ運動エネルギーが T ∼ 200 MeV である時、エネルギー損失は最小となり、 − dE/dx ∼ 2 MeV/cm で ある。 2.3.2 電子と物質の相互作用 電子や陽電子が物質中に入射する場合、エネルギー損失の原因は電離だけではない。物 質中の原子核の電場から制動を受けることにより、エネルギーを光子の形で放射する制動 放射による損失も考慮する必要があ
図 6 プラスチック・シンチレータ内に入射した電子の持つ運動エネルギー T と、その 時のエネルギー損失 − dE/dx のグラフ。電子の持つ運動エネルギーが T ∼ 1 MeV で ある時、エネルギー損失は最小となり、 − dE/dx ∼ 2 MeV/cm である。
図 8 Bethe-Bloch の式を用いて計算した、プラスチック・シンチレータに入射した ミューオンの持つ運動エネルギー T MeV と、そのエネルギーを持つ時のミューオンの 飛程 R cm のグラフ。
+7

参照

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