第 6 章 ミューオンの寿命測定 43
6.3 veto カウンターを増やした回路による測定
6.3.1 実験回路と装置
図44のような回路を持つ実験装置を組む。図45はこの回路のプラスチック・シンチ レータの配置図で、図46は実際に使用する実験装置である。vetoカウンターの役割を果 たすプラスチック・シンチレータを1枚から3枚に増やしてブロック型プラスチック・
シンチレータをコの字型に覆う。従来の実験装置では、ブロック型プラスチック・シンチ レータの側面を抜けた宇宙線ミューオンの信号もSTART信号になっていた。この側面に 板状プラスチック・シンチレータをvetoカウンターとして設置することにより、完全に 立体角を覆えてはいないが、今まで識別できなかった側面を抜けて行く宇宙線ミューオン の信号も測定して、vetoを取れるようになる。これより、ブロック型プラスチック・シン チレータの内部に止まった宇宙線ミューオンの信号をより正確に測定することが出来る。
従来のミューオン寿命測定で測定されるミューオン崩壊の計数率Rµ (Hz)は10−3 の オーダーであり、TACのSTART信号は 0.8 Hz 程度である。従って、このSTART信 号の計数率のほとんどは、vetoカウンターの無い側面を抜けて行った宇宙線ミューオン の信号であると考えられる。この装置では、4つの側面の内、2つの側面を抜ける宇宙線 ミューオンを識別できるようになったので、TACに入力するSTART信号の計数率はお よそ半分、つまり0.4 Hz 程度になると考えられる。これより、時間スペクトルのバック グラウンドも 1/2 程度になると考えられる。
表15 図44の回路のそれぞれの信号におけるパルス幅。
信号 パルス幅 (ns)
#1 10.0
#2 6.0
#3,4,5 70.0
#1∩#2∩(#3∪
#4∪
#5) 10.0
図 44 図34の回路について、vetoを取る板状プラスチック・シンチレータの数を 3 つに増やした回路。3 つのプラスチック・シンチレータからの信号をOR 出力し て、coincidence moduleに入力するveto信号としている。TACのStart信号として
#1∩
#2∩ (#3∪
#4∪
#5)を入力し、Stop信号として#2を入力している。
図45 図44に用いるプラスチック・シンチレータの配置図。PMTの感光面に対して 平行に切った断面を表している。
図46 vetoカウンターを3つに増やしたミューオン寿命測定の実験装置。
6.3.2 実験結果
実験の結果、得られたミューオン崩壊の時間スペクトルは図 47 のようになった。
フィットの範囲は 1.0 µs ∼ 20 µs である。フィットにより得られたミューオンの寿命は τµ= 2.04±0.18µs、1ビンのバックグラウンドはn0 = (2.65±0.40)/(0.48µs)となった。
得られたバックグラウンドを計数率RBG に変換すると、RBG = (1.7±0.3)×10−3Hz である。この実験におけるSTART信号とSTOP 信号の計数率RST ART、RST OP と予 測されるバックグラウンドの計数率Raccは表16のようになった。RST ART の値を見る と、確かに0.4 Hz 程度となっている。
得られたミューオンの寿命 τµは、文献値 τµ = 2.20µs[3]と誤差の範囲で一致してお り、得られたバックグラウンドの計数率RBGは、予測されるバックグラウンドの計数率 Racc と誤差の範囲で一致している。従って、ミューオン崩壊による時間スペクトルが得 られたと言える。
フィット範囲1.0 ∼20µsにおけるミューオンの崩壊数 (総イベント数−総バックグラ ウンド数)を調べると、(280±16)個であった。すなわち、ミューオン崩壊の計数率Rµ は、(4.3±0.2)×10−3 Hzである。RBGと比較すると、Rµ :RBG ∼5 : 2であるから、
確かにバックグラウンドの計数率も、従来の装置による測定のバックグラウンドに比べて 1/2 程度になっている。
表16 3つのvetoカウンターを用いた片側読み出し回路によるミューオン寿命測定の START信号とSTOP 信号の計数率RST ART、RST OP と予測されるバックグラウン ドの計数率Racc。
計数率 (Hz) RST ART 0.41±0.06
RST OP 253.1±1.6 Racc (2.0±0.4)×10−3
µ s) Time (
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
Counts per channel
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
図47 vetoカウンターを3つに増やした片側読み出し回路による、崩壊時間が20µs 以内のミューオン崩壊イベントを測定した場合の時間スペクトル。フィッティング範囲 は1.0∼20µsで、寿命τµ = 2.04±0.18µs、バックグラウンドnBG= 5.5±0.8/µs。