第 5 章 偶発的同時計測の測定 26
5.3 TAC に入力した場合の時間スペクトルのバックグラウンド測定
本研究で行うミューオンの寿命測定では、時間スペクトルにおけるバックグラウンドが どの程度になるかを予測することが重要である。この節では、偶発的同時計測の計数率の 式から、時間スペクトルのバックグラウンドが計算できるかどうかを調べるための実験を 行った。
この測定を行うために、図31のような回路を組んだ。TACのSTART信号として、板 状プラスチック・シンチレータに設置したPMT1とPMT2 の同時計測によるパルスを 入力し、STOP信号としてプラスチック・シンチレータが付いていない遮光した光電子 増倍管 PMT3のパルスを入力する。ここで、PMT1とPMT2のプラスチック・シンチ
レータは 12 cm 程度離して平行に並べてあるので、得られる同時計測のパルスは2つの
プラスチック・シンチレータを通過する宇宙線ミューオンのものである。また、PMT3は PMT1 とPMT2 から離れた所に設置しているので、START信号とSTOP信号は互い に独立な信号である。従って、TACとADCにより得られる時間スペクトルは、START 信号とSTOP信号の偶発的同時計測によるものである。この時間スペクトルを測定した。
TACの設定は10 µs とした。この測定で偶発的同時計測が起こりうる範囲は、測定可能 なSTART信号とSTOP信号の間隔の最大値である10 µsである。つまり、START信 号が入力されてから10 µs 以内に STOP信号が入った場合に偶発的同時計測が起こる。
従って、PMT1 とPMT2 の計数率をR1 (Hz), R2 (Hz)とすると、この測定における偶 発的同時計測の計数率Racc (Hz)は、(21)式のパルス幅の項を10 µs (10 ×10−6 s)に置 き換えた
Racc ≃R1 ·R2·(10×10−6) (24) という式で書くことができる。この式から得られるRaccは、TACを用いて測定される時 間スペクトルのバックグラウンドの計数率と等しいと考えられる。
約18時間(65000秒)の間測定をすると、偶発的同時計測による時間スペクトルは図31 のようになった。また、測定開始と同時に65000秒の間測定したSTART信号とSTOP 信号の計数率R1, R2 と、(24)式から求めた時間スペクトルのバックグラウンドの計数率 の予測値Racc は表11のようになった。図31の時間スペクトルを0.01 µsから10 µsの 範囲で定数n0 によりフィットをすると、n0 = 2.18±0.42 ( /0.4808·µs)となった。こ れをバックグラウンドの計数率RBG に変換すると、RBG = (6.43±1.34)×10−4 (Hz) となった。実験により求められたRBGと、(24)式から求めた計算値Raccを比較すると、
誤差の範囲で一致していることが分かる。従って、(24)式による偶発的同時計測の計数率 の計算値は、時間スペクトルのバックグラウンドの予測値として用いることが出来ると言 える。これより、TACとADCを用いた時間スペクトルの測定においても、偶発的同時 計測の計数率の式が成り立つことが確認できた。
図31 2本の独立した光電子増倍管からの信号をそれぞれTACのSTARTとSTOP に入力し、時間スペクトルのバックグラウンドを測定するための回路図。測定する時間 スペクトルの範囲は 10µsである。
表11 時間スペクトル測定と同時に65000秒間測定したSTART信号とSTOP信号 の計数率R1,R2の実験値と、(24)式から求めたRaccの値。
計数率 (Hz) R1 0.715±0.003 R2 85.66±0.04 Racc (6.12±0.03)×10−4
µ s) Time (
0 2 4 6 8 10
Counts per channel
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
図32 TACのSTART信号とSTOP信号として互いに独立な信号を入力して、約18 時間(65000秒)測定して得られた時間スペクトル。黒線は定数値としてフィットした もの。