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日本内科学会雑誌第106巻第6号

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Academic year: 2021

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はじめに

 2011 年と 2014 年に「産婦人科診療ガイドラ イン―婦人科外来編」が発刊され,今回が 3 回 目の改訂版となる.本ガイドラインは日本産科 婦人科学会と日本産婦人科医会が合同で作成 し,29 名の作成委員(学会側推薦 14 名,医会 側推薦15名)と協力者1名による体制でスター トした.作成委員会は計7回開催し,引き続き, 評価委員会が 3 回開催され,そこで議論された 意見を再度作成委員会内で検討し,加筆修正を 加えた.その後,3 回のコンセンサスミーティ ングを開催し,会員からの意見を集約し,作成 委員会で再度加筆修正した.その後,日本産科 婦人科学会雑誌に全てのCQ&A案を公開し,会 員からの意見を求めた.  「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来 編」は 4 つの項目から構成されている.「感染 症」には12のCQ(clinical question)が,「腫瘍」 には 28 のCQが,「内分泌・不妊」には 27 のCQ が,「女性医学」には 28 のCQが網羅されてお り,全て合わせると 95 のCQから構成されてい る.そのうち,タイトル自体を変更したのが15 項目(16%),Answerを変更したものは71項目 (75%)に及ぶ.解説は全て最新情報に変更し ている.さらに新規のCQが 10 項目取り上げら れ,時代の要請に答えられるようなCQを追加し た(表 1).本書は,現時点でコンセンサスが得 られ,適正と考えられる標準的婦人科外来での 診断・治療法の方向性を示すことを目的として おり,可能な限り,アクションにつながる内容 としている.日本産科婦人科学会から発刊され ている「産婦人科研修の必修知識」とダブルス タンダードにならないように逐次調整を行いな がら作成を心がけた.  また,薬の処方の記載方法も変更し,従来の 記載方法では,例えば,「メテルギン錠Ⓡ0.125 mg 3錠 分3 5日間」としていたものを,本 書の記載方法では,「メテルギン錠Ⓡ0.125 mg 

産婦人科診療

ガイドライン

―婦人科外来編2017

Key words 2017年診療ガイドライン,婦人科編,外来編 〔日内会誌 106:1171~1176,2017〕 小林 浩 奈良県立医科大学産婦人科学教室 Hiroshi Kobayashi

Department of Obstetrics and Gynecology, Nara Medical Uni-versity, Japan.

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1回1錠 1日3回 5日間」のように統一した. また,各Answer末尾( )内には推奨レベル (A,BあるいはC)が記載されている.解説中に はAnswer内容に至った経緯などが文献番号と ともに記載され,最後にそれら解説の根拠と なった文献が示されている.各文献末尾にはそ れら文献のPMIDとエビデンスレベル(I,II,あ るいはIII)が示されており,瞬時に文献検索が 可能となった.  本書の目的は,現時点でコンセンサスが得ら れ,適正と考えられる標準的婦人科外来での診 断・治療法を示すことである.本書の浸透によ り,以下の4点が期待される.1)いずれの産婦 人科医療施設においても適正な医療水準が確保 されること,2)産婦人科医療の安全性の向上, 3)人的ならびに経済的負担の軽減,4)医療従 事者・患者の相互理解助長,である.

1.新規CQの解説

 10 の新規CQに関して,その要点のみを以下 に示す.  C:(実施すること等が)考慮される CQ218  マイクロ波子宮内膜アブレーションを 行う際の留意点は? Answer  1.過多月経の制御のために保存的治療(薬 物治療)が無効で子宮摘出術が考慮される際の 代替療法として行う.(B).  2.以下のような条件を満たす場合に行う.  ①妊孕性温存を希望しない女性に行う.(A)  ②子宮内膜悪性病変を除外する.(B)  ③子宮筋層が最低 1 cm以上確保されている. (A)  ④子宮腔全体にマイクロ波アプリケーターが 到達できる.(A) 解説  2012年4月から子宮鏡下子宮内膜焼灼術が保 険適用となり,マイクロ波子宮内膜アブレー ション(Microwave Endometrial Ablation:MEA) も保険適用になった.子宮内膜が破壊され,妊 孕性が損なわれるため,「①妊孕性温存を希望し ない女性に行う」ことが必須である.MEAを実 施する前には子宮内膜がんなどの悪性疾患など を除外するため,細胞診,組織診や画像診断を 行うことが求められる「②子宮内膜悪性病変を 除外する」.通常の設定ではマイクロ波アプリ ケーター表面から最大 6 mm程度の組織が壊死 に陥るため,子宮筋層が最低1 cm以上確保され ていることが必要である「③子宮筋層が最低 1 cm以上確保されている」. CQ228  家族性腫瘍について問われた場合の 対応は? Answer  1.婦人科関連家族性腫瘍として遺伝性乳が ん卵巣がんおよびリンチ症候群などを念頭にお き,少なくても第 2 度近親者まで家族歴を聴取 CQ218 マイクロ波子宮内膜アブレーションを 行う際の留意点は? CQ228 家族性腫瘍について問われた場合の対応は? CQ308 体重減少性無月経の取り扱いは? CQ309 女性アスリートの診療上の留意点は? CQ316 先天性の子宮形態異常の取り扱いは? CQ319 排卵障害を有する不妊症に対する 排卵誘発法の注意点は?(ARTを除く) CQ325 悪性腫瘍に罹患した女性患者に対する 妊孕性温存について尋ねられたら? CQ407 パートナーからの暴力・虐待を 疑った時の対応は? CQ416 更年期以降の女性の生活習慣病の リスク評価は? CQ425 女性下部尿路症状(LUTS)(頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁,排尿困難,膀胱痛)の 初期対応は?

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する.(C)  2.家族性腫瘍を疑った場合は必要に応じて 遺伝カウンセリング,遺伝学的検査の選択肢を 提示し,対応可能な施設へ紹介する.(B) 解説  婦人科領域における代表的な遺伝性腫瘍とし て,遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)症候群とリンチ症 候群(Lynch syndrome)(別名:遺伝性非ポリ ポ ー シ ス 大 腸 癌:hereditary nonpolyposis col-orectal cancer(HNPCC))が挙げられる.HBOC の患者に対し,リスク低減外科的手術(リスク 低減卵管卵巣摘出術Risk-reducing salpingo-oo-phorectomy:RRSO) や リ ス ク 低 減 化 学 予 防 chemopreventionとして経口避妊薬(oral contra-ceptive:OC)の有用性に関する知識も習得すべ きである.リンチ症候群はDNAミスマッチ修復 遺伝子(DNA mismatch repair gene:MMR)の 変異を原因として,大腸がんや子宮体がん(子 宮内膜がん),卵巣がん,胃がん,胆道がん,腎 盂・尿管がん,小腸がん,脳腫瘍などの関連腫 瘍が発症することが知られている. CQ308 体重減少性無月経の取り扱いは? Answer  1.身長と体重から,重症度を評価する.(A)  2.神経性食欲不振症を疑ったときは専門と する医師に紹介する.(B)  3.内分泌学的検査により障害部位を確認す る.(B)  4.標準体重の90%までの体重回復を目指す. (B)  5.長期の低エストロゲン状態のときは,骨 量を測定し,ホルモン補充療法を行う.(B)  6.排卵誘発は妊娠を希望し,全身状態が改 善したときに行う.(B) 解説  最近のやせ志向を反映し,日常臨床でもやせ た女性に遭遇する頻度が高く,続発無月経の 12%が体重減少性無月経である.神経性食欲不 振症では精神的な問題が合併しているため,摂 食障害を専門にしている心療内科,内科,精神 科医に紹介することが望ましい.内分泌学的検 査により障害部位を確認する.長期にE2が低値 であると骨量の減少を来たすため,骨量を測定 し,ホルモン補充療法を行う.E2 低値,LH・ FSH低値となっている体重減少性無月経に対し て排卵誘発を行う場合には,クロミフェンは無 効であり,ゴナドトロピン製剤を用いる. CQ309 女性アスリートの診療上の留意点は? Answer  1.無月経を主訴に受診した場合,エネルギー 不足や骨粗鬆症を念頭に診察を行う.(A)  2.エネルギー不足に伴う視床下部性無月経 の場合,摂取エネルギー量の増加または/かつ運 動による消費エネルギー量減少によるエネル ギー不足の改善を図る.(A)  3.1 年間,2 の治療を行っても月経が再開し ない場合は,ホルモン療法を考慮する.(C)  4.摂食障害が疑われる場合は,専門医に紹 介する.(B)  5.月経困難症や月経前症候群,無月経等に 対する治療は,試合・練習日程に配慮して行う. (C)  6.月経周期によるコンディションを考慮し, 試合日程に合わせた月経周期の調節を行う. (C)  7.処方に際しては,最新の世界アンチ・ドー ピング規程禁止表国際基準をアスリート自らが 確認するよう伝える.(B) 解説  産婦人科医の立場から女性アスリート支援の 取り組みが広がりつつある.①女性アスリート の三主徴(female athlete triad:FAT)として, 無月経,摂食障害,骨粗鬆症がある.三主徴の 発症率は,バレエ,新体操,陸上長距離などの 低体重が求められる競技では,それ以外の競技

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より,パフォーマンスに影響がみられているア スリートでは,月経周期の調節を行うことが記 載されている.実際に我々がアンチ・ドーピン グ薬を全て理解し,説明することは困難である が,日本アンチ・ドーピング機構のホームペー ジやGlobal DRO JAPANのサイトから医療用医薬 品および一般用医薬品の検索が可能である. CQ316 先天性の子宮形態異常の取り扱いは? Answer  1.以下の項目について問診する.(A)  無月経  月経困難症と月経後の腹痛  月経後の出血  流早産の既往や不妊  2.子宮の形態評価のために以下の検査を適 宜行う.(B)  腟鏡診・内診(または直腸診)  経腹および経腟(または経直腸)超音波  子宮卵管造影  MRI  子宮鏡  3.以下の所見の有無を評価する.(B)  骨盤内腫瘤や子宮内膜症  尿路系の異常  4.不妊症・不育症に対する子宮形成手術の 適応は慎重に判断する.(B) 解説  妊孕性の評価,妊娠や分娩に与える影響の予 測,手術適応の決定,術式の選択などを正確に 評価することにより,実臨床での不適切な診療 の回避につながる.原発無月経,閉塞性の子宮 形態異常に伴う月経モリミナの有無,交通性の 子宮形態異常に起因する月経後の持続的不正出 血,子宮の形態異常など構造異常による反復す る流産や不妊の有無を問診する.双角子宮と中 隔子宮の鑑別診断法あるいは弓状子宮の定義を 併する器質的な病変として,月経血の貯留や骨 盤内への逆流に起因する骨盤内腫瘤や子宮内膜 症,腎の低形成にも配慮すべきである. CQ319  排卵障害を有する不妊症に対する 排卵誘発法の注意点は?(ARTを除く) Answer  1.排卵障害の種類を明らかにし,治療法を 選択する.(A)  2.単一排卵を目標とする.(B)  3.卵胞発育をモニタリングする.(B)  4.16 mm以上の卵胞が 4 個以上存在した場 合,治療周期をキャンセルする.(C)  5.過排卵となった場合は卵巣過剰刺激・多 胎妊娠・正所性異所性同時妊娠の発生に注意す る.(B) 解説  ゴナドトロピン製剤の定義を統一した.我が 国で用いられているFSH成分を含んだ注射製剤 には,(1)閉経後の女性の尿から精製したFSH とLHの両方を含有するhMG製剤,(2)hMG製剤 からLH成分を除去してFSHのみにした尿由来 FSH製剤(uFSH製剤),(3)遺伝子組換え型FSH 製剤(rFSH製剤)がある.これら 3 種類の製剤 の総称として,本ガイドラインでは,従来に倣っ て「ゴナドトロピン製剤」という用語を用いる. なお,海外では「FSH製剤(FSH preparations)」 という総称が用いられている. CQ325  悪性腫瘍に罹患した女性患者に対する 妊孕性温存について尋ねられたら? Answer  1.妊孕性温存の適否について,日本産科婦 人科学会の見解などにしたがって,原疾患担当 医と検討する.(A)  2.受精卵・卵子の凍結保存などを希望する 患者に対しては,対応可能な生殖医療施設など

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を紹介する.(B)  3.がん化学療法が行われる場合,GnRHアナ ログ製剤を投与する.(C) 解説  近年の癌治療の進歩により治癒可能な悪性疾 患(血液腫瘍,固形腫瘍)が増えており,本CQ で示した質問などが実臨床で起こっている. 2014 年 4 月 17 日には,日本産科婦人科学会か ら「医学的適応による未受精卵子および卵巣組 織の採取・凍結・保存に関する見解」が報告さ れた.GnRHアナログ製剤による卵巣保護作用は 乳がんで示されているに過ぎず,乳がん以外の 疾患では証明されていないという問題点も指摘 されている. CQ407  パートナーからの暴力・虐待を 疑った時の対応は? Answer  1.配偶者暴力相談支援センターや警察に関 する情報を提供する.(B)  2.被害者の生命または身体に重大な危害が 差し迫っていると推定した場合は,積極的に警 察等に通報する.(A)  3.同伴者には席を外してもらい,被害者を 診察する.(B) 解説  2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害 者の保護等に関する法律」(DV法)が施行され, 2004 年に改正されたDV法において配偶者から の暴力は,身体に対する暴力だけでなく,精神 的・性的暴力も含むとされた.ここで述べるパー トナーとは,法律婚と事実婚の民法で定める対 象者のみならず,法的根拠のない恋愛関係にあ るカップルも指す.主な相談先として,配偶者 暴力相談支援センター,警察もしくは各区市町 村の相談窓口や福祉事務所が各々の役割を担っ ている.出産後における子供への虐待との関連 も示唆されており,被害者を早期発見するうえ で,第一線に立つ産婦人科医の役割は大きい. CQ416  更年期以降の女性の生活習慣病の リスク評価は? Answer  1.生活習慣病の家族歴,今までの検査値異 常,喫煙の有無,妊娠時や若年時の合併症の有 無を聴取し,血圧・身長・体重を測定しリスク を評価する.(A)  2.脂質異常症のリスクを有する場合は,血 清脂質検査と絶対リスク評価からカテゴリー分 類を行う(本ガイドラインCQ417 参照).(B)  3.高血圧症のリスクを有する場合は,診察室 血圧の他に家庭血圧測定を行い評価する.(B)  4.糖尿病のリスクを有する場合は,血糖値 とHbA1cを測定し診断する.(B)

 5.慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD) のリスクを有する場合は,蛋白尿とeGFRを測定 しCKDのステージ分類を行う.(B)  6.脂質異常症,高血圧症,糖尿病,CKDのう ち 1 つでも異常が認められた場合は,他の疾患 の評価も行い管理する.(B) 解説

 生活習慣病(lifestyle related disease)とは, 「食習慣,運動習慣,休養,喫煙,飲酒等の生活 習慣が,その発症・進行に関与する疾患群」と 定義されており,特に更年期以降の未病対策と して重要であるが今まで十分取り上げられてい なかった.本ガイドラインCQ417の「動脈硬化 性疾患予防ガイドライン 2012 年版」も参照さ れたい. CQ425  女性下部尿路症状(LUTS)(頻尿,夜間 頻尿,尿意切迫感,尿失禁,排尿困難, 膀胱痛)の初期対応は? Answer  1.病状と病歴の聴取,身体所見,尿検査を 行う.(A)  2.表2に示した症状があるときは,専門とす る医師への紹介を考慮する.(B) 診療ガイドライン at a glance

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 3.残尿を疑う場合には残尿測定を行う.(B)  4.婦人科疾患が原因と考えられる場合には, その治療を優先する.(B)

 5.質問票や排尿記録(排尿日誌)により症

 国際禁制学会(International Continence Soci-ety:ICS)は,2002 年の用語基準において,頻 尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁,排尿困難, 膀胱痛などの症状に対して下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の用語を使用す ることを定めた.LUTSを蓄尿症状,排尿症状, 排尿後症状の 3 種類に分類して整理してある. 蓄尿症状のうち,尿失禁については本ガイドラ インCQ426およびCQ427,過活動膀胱(尿意切 迫感,頻尿,夜間頻尿,切迫性尿失禁)に対し てはCQ428 に記載されている. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:小林 浩;講演 料(バイエル),寄附金(アステラス製薬,セルスペク ト) 1. 排尿症状(尿勢低下,腹圧排尿など) 2. 排尿後症状(残尿感と排尿後滴下など) 3. 尿閉,腎機能障害 4. 肉眼的血尿,反復する血尿 5. 結石 6. 発熱を伴う膿尿 7. 膀胱痛・会陰痛 8. 排尿直後の残尿が50 mL以上 9. 神経疾患

参照

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