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情報学分野の参照基準 ‐情報処理学会一般情報教育委員会調査を基に‐

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資料論文

情報学分野の参照基準

‐情報処理学会一般情報教育委員会調査を基に‐

Defining Informatics

- On the Basis in the Information Processing Society of Japan for General Education Board Survey –

立田ルミ*1 Lumi Tatsuta

Email: [email protected]

キーワード:情報学、情報学教育、情報学教育の質保証

Keywords: Informatics, Informatics Education, Quality Guarantee of the Informatics Education

本稿は、情報学の定義および獲得すべき基本的な知識を資料としてまとめたものである。こここで は、先ず現在作成されている情報学の参照基準について述べ、その中で情報処理学会の一般情報教 育委員会が過去に発表した一般情報処理教育の内容、および今後の一般情報教育のあるべき姿につ いて述べる。一般情報教育委員会では、高等学校で「情報」が必履修化される以前から、コンピュ ータサイエンスの立場から一般情報教育の内容を検討してきた。ACM(Association for Computing Machinery)から出されたコンピュータサイエンスのカリキュラムを参考にして、一般情報教育のシ ラバスなどが検討された。その後2000年頃からコンピュータとネットワークの利用が広がるととも に、情報教育の内容が変化してきた。その変化も踏まえて、情報処理学会では情報学の参照基準を 決めて公表し、今後の情報学教育の在り方を検討しているところである。

This paper defines information science and provides a summary of basic knowledge to be acquired. First, the referential criteria for information technology that are currently being created are described, followed by the details concerning general information processing education that were previously released by the Information Processing Education Committee of the Information Processing Society of Japan (IPSJ) along with a discussion of what the future of general information education should be. The Information Processing Education Committee had been discussing general information processing education details from the perspective of computer science since before information science classes became compulsory in high schools.

Using the computer science curricula released by the Association for Computing Machinery (ACM) as a reference, general information processing education syllabi, etc. were discussed.

Thereafter, with the spread of computer and network use from around 2000, information education contents started to change. Taking these changes into account, the Information Processing Education Committee determines and releases referential criteria for informatics and examines the future of informatics education.

―――――――――

*1: 獨協大学 情報学研究所

(2)

1. はじめに

高等学校を卒業した生徒の約55%が大学または短大 に進学する現在、文部科学省が、①大学設置基準およ び設置審査による事前の質保証、②大学入試における 主要科目試験による質保証、③確固たる学問分野の枠 組みによる学術の継承、について日本学術会議に審議 依頼したのは、平成205月であった。

これを受けて、日本学術会議では平成205月に「大 学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を設置し た。平成211月には、「質保証枠組み」「教養教育・

共通教育」「大学と職業の接続」の3分科会が設置さ れた。同年の2月から3月にかけて、イギリスにおけ る「分野別質保証」に関する実情調査を行い、11月に は東京大学で「大学教育の分野別質保証を考える」シ ンポジュウムが開催されている。学術会議の結果、平

22(2010)年722日に「回答 大学教育の分野別

質保証の在り方について」が学術会議から文科省に提 出された。1

これを受けて、30分野に分かれた参照基準について、

平成269月までに策定するように審議が依頼された。

これらの結果として、平成236月に「理工農系にお ける分野別参考基準の検討に関して留意していただき たいこと」が作成され、情報学を定義する情報学分野 の参照基準として、現在、日本学術会議で審議されて いる。

情報学では、東京大学大学院情報理工学系研究科の 萩谷昌巳教授が代表者となっており、情報処理学会の 参照基準委員会で、情報学の参照基準の最終段階に入 ったところである。(2)(3)筆者は20153月に京都大学 で行われた情報処理学会全国大会開催中に、一般情報 処理委員会幹事として参照基準の委員会に出席した。

また、201597日に行われた一般情報教育委員会 にも萩谷教授が参加され、情報学の参照基準について 説明され、質疑応答が行われた。

この参照基準は、日本学術会議法で決められている

「わが国の科学者の内外に対する代表機関」としての 位置づけを持つ日本学術会議が、情報学の学士課程教 育を「あるべき姿」を述べた文書であり、各大学や、

そこで教育に従事する教員に活用してもらうための参 照基準である。これらは、大学だけでなく、認証評価 機関、関連学協会、企業、初等中等教育、海外の諸機 関でも利用されることを目的としている。

2. 情報学

ここで情報学と呼んでいるのは、「情報によって世界 に意味・価値を与え秩序をもたらすことを目的に、情 報の生成・収集・表現・記録・認識・分析・変換・伝 達に関わる原理と技術、および情報によって社会的な 価値うぃ創造する原理を探求する学問である。」と定義 されている4情報学を構成する諸分野は、単に情報を 扱う情報処理学会や電子情報通信学会情報・サイエン スソサイエティ、情報システム学会、だけでなく、情 報と対象、情報と情報の関連を調べることにより、情 報が定義する意味や価値、情報がもたらす秩序を探求

している。それ故、情報学の探求する原理には社会的 な価値を創造する「社会情報学」も含まれている。こ の「社会情報学」が入ったことで、参照基準が非常に 広範囲となっている。

また、情報処理技術者試験を行っているIPA(情報処 理推進機構)とのすり合わせを行って、参照基準を決め ている。

このように、情報学は多くの分野から成り、文系と 理系にまたがった学問であると定義されている。

2.1 情報処理学会との関かわり

情報処理学会でJ07カリキュラムを検討した2007 に、以前のコンピュータサイエンス分野だけでなく、5 分野(コンピュータ科学、情報システム、ソフトウェ アエンジニアリング、コンピュータエンジニアリング、

インフォメーションテクノロジ)に分けて、各々の分 野で必要な情報専門教育を定義した。そして、一般情 報教育は5分野の基礎的なもので、学部学科を問わず、

大学全体として共通的に必要となる情報教育と定義し た。(5)

情報技術の初期である 1930 年代は、まだコンピュー タそのものの開発がされていない状況で、理論的な側 面が強かった。第 2 次世界大戦での利用を考慮して、

1940 年代にコンピュータが開発されたが、軍用として は利用されなかった。その後、開発されたコンピュー タを主にロケットを飛ばすための科学技術計算に利用 することになり、アルゴリズムの問題や計算可能性の 問題などが研究された。

コンピュータが計算するための機械ではなく商用に 利用されるようになった 1950 年代からは、情報システ ムをいかに構築するかという応用技術の問題が研究さ れるようになった。

さらにネットワーク技術と結びついて、様々な分野 に研究が広がった。また、現在ではセンサーの技術と 結びついて、様々な研究が行われている。

2.2 J07プロジェクト

情報処理学会では、平成 19 年(2007)度文部科学省の

「先導的大学改革推進委託事業」として補助金の交付 を受けて、「学部段階における情報専門教育カリキュラ ムの策定に関する調査研究」報告書を平成 20 年(2008)3 月に出した。(5)これは、全 724 ページに亘る大作で、前 述の5つのセクションと一般情報処理教育委員会の委 員が数回の合宿を行って作りあげたものである。この プロジェクトは J07 プロジェクトと呼ばれ、筆者も J07 プロジェクト連絡委員会の委員であった。これは、文 部科学省の補助金を得たプロジェクトである。委員長 は早稲田大学の筧捷彦教授であり、現在も調査研究活 動が続いている。

この標準カリキュラムを策定するに当たって、アメ リカの IEEE の CS(Computer Science)部門と前述の ACM が 2001 年に発表された CC2001 ものを参考にしている。

CC2001 では、CS 以外に IS (Information System)、SE (Software Engineering)、CE (Computer Engineering)、

IT (Information Technology)の 4 領域が追加されてい

(3)

る。これらの 5 領域に対して、2001 年以降プロジェク ト委員会が作られ、これらの 5 領域の標準のカリキュ ラムが検討され、細部に亘るカリキュラムが策定され、

前述の報告書が出された。

これらのカリキュラム策定では、後述のような知識 体系(Body of Knowledge :BOK)を定義し、対象とする 領域で扱われる知識項目と内容を体系的に整理してい る。さらに知識体系を示すだけでなく、いくつかのカ リキュラムの例を示している。知識項目のうち、その 領域を専攻する学生に必ず学習させなければならない ものをコア(Core)として指定している。コアとして、

最低履修時間も決めており、そこで取り扱うトピック スを決め、学習成果としての目標が掲げられている。

科目例としては、先修ユニットや講義項目、講義計 画例、カバーするコアユニットが挙げられている。さ らに、教科書や参考書が挙げられている。この教科書 や参考書を見ると、CC2001 の翻訳そのものではないこ とが分かる。

情報学の参照基準は、J07 プロジェクトの報告書を基 軸として決められている。

3. 獲得すべき基本的な知識と理解

ここでは、情報学で獲得すべき基本的な知識と理解 について述べる。

3.1 情報学に固有の知識体系

参照基準では、情報学に固有の知識体系として、下 記のような5つに分類している。4

(1) 情報一般の原理

(2) コンピュータで処理される情報の原理

(3) 情報を扱う機械および機構を設計し実現するため の技術

(4) 情報を扱う人間と社会に関する理解

(5) 社会において情報を扱うシステムを構築し活用す るための技術・制度・組織

これらの知識体系について、次節で詳細を説明する。

3.2 情報一般の原理

情報学を学ぶものは、「情報の意義」情報が物理力で はなく意味作用(意味のもつ働きや影響力)を通じて 世界を変化させ、そこに価値と秩序を与えることを認 識しなければならない。さらに、各種の情報を普遍的 に理かいするためには、コンピュータなどの電子機械 が扱う情報と、人間の認知活動を踏まえた社会的コミ ュニケーションに現れる情報との間の関係(共通点と 相違点)を把握することが求められる。

(1) 情報と意味

生物が生存するための選択行動のベース、社会価値 の創造、情報と秩序

(2) 情報の種類

生命情報、社会情報、機械情報 (3) 情報と記号

類似記号、指標記号、象徴記号 (4) 記号の意味解釈

人間を含む生物個体、人間の社会的組織、コンピュ

ータなどの電子機械 (5) コミュニケーション

自律的な閉鎖系、半自律的な暫定的閉鎖系、排他的 な解放系

(6) 社会的価値の創造

個々の選択行動が、試行錯誤や生存競争を通じて社 会的な共通の選択肢に発展、これまでにない有益な選 択肢が創造される

このためには、「基礎情報学、サイバネティクス、認 知科学、生命哲学を学ぶことが求められる」、としてい る。

この部分について教育するのは、非常に難しい問題 で、今後さらに教材研究やカリキュラム体系が必要と なるであろう。

3.3 コンピュータで処理される情報の原理 情報学を学ぶものは、コンピュータで処理可能な形 式化された情報に関して、その生成・収集・表現・記 録・認識・分析・変換・伝達に関わる原理を理解する ことが求められる。このためには次のよう項目を理解 しなければならない。

(1) 情報の変換と伝達

情報量の概念、情報の量子化(離散化)、標本化、情 報圧縮、符号、暗号

(2) 情報の表現と記録

文字、数値、画像、音声などの各種データの記録方 式、

信号処理、パターン認識、機械学習、データマイニン グ、

データ構造、データの型、信号処理 (3) 情報の認識と分析

(4) 計算

計算モデル、アルゴリズムの設計、計算可能性、計 算量、確率的計算、分散計算、並列計算、量子計算 (5) 各種の計算・アルゴリズム

基本アルゴリズム(探索・整列・木構造・グラフ、

数値計算、シミュレーション最適化、計算幾何、自動 推論、自然言語処理

このためには、これらの基礎となる数学、論理学、

自然科学を学ぶことが求められている。

3.4 情報を扱う機械および機構を設計し実現する ための技術

情報学を学ぶものは、情報を扱う機械および機構(コ ンピュータの設計・実装)のための技術を理解するこ とが求められる。さらに情報を扱う機械および機構を 自ら作ろうとするものは、その技術を使いこなせるよ う身につけることが求められる。

(1) ハードウェアに関する技術

半導体、ゲート、VLSIを含む素子の技術、ディジタ ル回路の技術(演算回路、制御回路、メモリ)、コンピ ュータアーキテクチャ(命令セットアーキテクチャ、

各種の並列アーキテクチャ)

(2) 入出力装置に関する技術

インタフェース(ネットワークを含む)、入力装置(ポ

(4)

インティングデバイス、センサー、二次記憶装置)、出 力装置(ディスプレイ、アクチュエータ、二次記憶装 置)

(3) オペレーティングシステム

オペレーティングシステムの種類(モノリシック、

マイクロカーネル、仮想機械)、オペレーティングシス テムの基本機能(メモリ管理、プロセス管理、デバイ ス管理、ファイルシステム)、ネットワーク機能(プロ トコルスタック、TCP/IP、分散システム、クラウド)

(4) ミドルウェア

DBMS、トランザクション、ネットワークサービス、

WWW

(5) プログラミング言語

低水準言語、高水準言語、文法、意味、パラダイム (6) 言語処理系

字句解析、意味解析、最適化、コード生成 (7) プログラムの実行法式

トランスレータ/コンパイラ、インタプリタ/仮想 マシン

さらに、これらの基礎となる数学、論理学、自然科 学を学ぶことが求められている。

3.5 情報を扱う人間と社会に関する理解

情報学を学ぶものは、社会におけるコミュニケーシ ョンの特性について理解することが求められる。特に、

情報技術であるメディアの歴史的な発展にともなって、

社会におけるコミュニケーションが変貌し、知の様態、

知識の記録と継承、社会意識・心理の生成、社会組織 の在り方、社会的意思決定のプロセスに多大な影響を 及ぼしてきたことを把握する必要がある。以下は、コ ンピュータが介在するコミュニケーションである。

(1) コミュニケーションの原理

(2) コミュニケーションと社会システムの特徴 (3) 情報を基盤にした文化

これらの基礎として、メディア論、コミュニケーシ ョン論、社会学を学ぶことが求められている。

3.6 社会において情報を扱うシステムを構築し活 用するための技術・制度・組織

情報学を学ぶものは、社会の基盤となっている情報 システムを構築し、効果を得るための技術に加えて、

情報システムを取り巻く制度や情報システムを導入す る組織に関する知識を有していることが求められる。

(1)情報システム開発の技術

要求工学、システム工学、情報システム記述のため の技術、ソフトウェア工学、プログラミング技術、情 報システム品質保証のための技術、プロジェクトマネ ジメント

(2) 情報システムの効果を得るための技術

情報システムの企画・構想のための技術、情報シス テムの利用技術、情報システムの利用技術、情報シス テムの運用・保守・管理の技術、企業・組織に関わる 技術。安全・安心なシステムを構築する技術(情報セ キュリティを含む)

(3) 情報システムを伴う社会的なシステム

社会制度、法制度、企業・組織の役割と体制、業務 の遂行

(4) 情報システムと人間のインタフェースに関する原 理と設計方法

人間の認知特性、ユーザインタフェース設計、対話 手法、可視化

これらに関連する参照学問領域として、経営学、経 済学、認知科学、認知心理学、人間工学、システム工 学、コミュニケーション学、管理科学、数理と論理を 学ぶことが求められている。

3.7 参照基準作成に当たって参考にされた情報学 の知識体系

上記の参照基準を作成するに当たって、J07プロジェ クトで作成した知識体系が参考にされた。というより、

J07の中心メンバーが参照基準を作成しており、これに 加えて社会情報学の専門家が委員会のメンバーとなっ ている。

J07 では、次の 5 分野に関する知識体系を整備してい る。

(1) CS (Computer Science)の知識体系

離散構造、プログラミングの基礎、アルゴリズムの 基礎、アーキテクチャと構成、オペレーティングシス テム、ネットワークコンピューティング、プログラミ ング言語、ヒューマンコンピュータインタラクション、

マルチメディア表現、グラフィックスとビジュアル・

コンピューティング、インテリジェントシステム、情 報管理、社会的視点と情報倫理、ソフトウェア工学、

計算科学と数値計算

これらの項目に対して、細目が決められている。例 えばマルチメディア表現の場合、

情報のディジタル表現、文字コード、標本化、量子 化、圧縮の原理とアルゴリズム、マルチメディア機器、

オーサリング、となっており、それぞれに対してコア として最低履修時間がどの位か、トピックは何か、学 習成果は何かが書かれている。

さらに科目例として「マルチメディア表現論」が書 かれており、そこでは先修ユニット、講義項目、講義 計画例、カバーするコアユニット、教科書・参考書が かかれている。

(2) IS (Information System)の知識体系

情報システムの基礎、情報システムの理論と実際、情 報技術、システム開発、情報システムの配置と管理 ここでも、それぞれに対してコアとして最低履修時 間がどの位か、トピックは何か、学習成果は何かが書 かれている。さらに、開講学年も指定されている。

(3) SE(Software Engineering)の知識体系

コンピュータとソフトウェアの基礎、確率・統計、

離散数学、プログラミング基礎、論理と計算理論、オ ペレーティングシステム基礎・データベース基礎、ネ ットワーク基礎、工学基礎、ソフトウェア構築、モデ ル化と要求開発、ソフトウェア設計、検証と妥当性確 認、形式手法、ソフトウェアプロセスと品質、ヒュー マンファクター、発マネージャー

上記の項目を見ても分かるように、ここでの知識体

(5)

系は、多岐に亘っている。先修ユニット、講義項目、

講義計画例、カバーするコアユニット、教科書・参考 書がかかれている。

(4) CE(Computer Engineering)の知識体系

アルゴリズム、コンピュータのアーキテクチャと構 成、回路および信号、データベースシステム、ディジ タル論理、ディジタル信号処理、組込みシステム、ヒ ューマンコンピュータインタラクション、テレコミュ ニケーション、オペレーティングシステム、プログラ ミング、社会的な観点と職業専門人としての問題、ソ フトウェア工学、VLS-VLSI の設計および製造、離散数 学、確率・統計

先修ユニット、講義項目、講義計画例、カバーする コアユニット、教科書・参考書が示されている。

(5) IT(Information Technology)の知識体系

IT 基礎、ヒューマンコンピュータとインタラクショ ン、情報保障と情報セキュリティ、情報管理、技術を 統合するためのプログラミング、ネットワーク、プロ グラミング基礎、プラットフォーム技術、システム管 理とメンテナンス、社会的な観点とプロフェショナル としての課題、Web システムとその技術、となっている。

先修ユニット、講義項目、講義計画例、カバーする コアユニット、教科書・参考書が示されている。さら に、開講学年も指定されている。

以上、5 分野の大項目だけを見ても、重なっている部 分が多いし、項目名の中をみるとさらに重なっている 部分が明瞭になってくる。

このようなJ07プロジェクトでは、一般情報教育は、

大学生にとって必要最小限の情報教育であり、専門教 育を受ける上でも必要なものであるとされている。こ の内容については、情報処理学会の一般情報教育委員 会でGEBOK(General information Education Body Of

Knowledge)として決めている。(6) さらに、そのカリキュ

ラムに準じる教科書として、オーム社から『情報とコ ンピュータ』および『情報とネットワーク社会』が出 版された。(7)(8)

これらの内容と、現在行われている一般情報教育の ギャップを埋めるべく、委員会では現在も調査研究活 動を進めているところである。

3.8 一般情報教育の枠組み

一般情報処理教育は、次のようなコア科目(○)お よびコア時間と選択科目となっており、トピックスと 学習目標が定められている。(6)

(1) GE-GUI 科目ガイダンス:コア 1 時間

学内コンピュータ環境、ネットワーク環境、コンピ ュータ室利用規定、ネットワーク利用規定、情報倫理 規定

(2) GE-ICO 情報とコミュニケーション:コア 3 時間

○情報と人間のかかわり、○コミュニケーションの 基礎概念とモデル、○コミュニケーションのヒューマ ンコンピュータインタラクション、メッセージの理解、

ヒューマンインタラクション機器、グラフィカルユー ザインタフェース、3次元ユーザインタフェース (3) 情報のディジタル化:コア4時間

○符号化の原理、○数値・文字の符号化、○アナロ グ情報からディジタル情報へ、符号圧縮、情報理論 (4) コンピューティングの要素と構成:コア4時間

○コンピュータの構成、○論理回路と論理演算、○

ソフトウェアの構成要素、○コンピュータの動作原理、

論理代数と論理回路、オペレーティングシステム、プ ログラミング言語と言語処理方式

(5) アルゴリズムとプログラミング:コア7時間

○アルゴリズムとプログラム、いろいろなアルゴリ ズム、アルゴリズムの良し悪し、扱いにくい問題 (6) データモデリングと操作:コア5時間

○モデル化の考え方、○モデル化の特性、○モデル 化の実例、状態遷移モデル、グラフ、データ構造とア ルゴリズム

(7) 情報ネットワーク:コア7時間

○情報ネットワークでできること、○ネットワーク の構成、○インターネット、○ネットワークの仕組み、

○インターネットサービス (8) 情報システム:コア6時間

○情報行為と情報システム、○情報システム事例、

○企業活動と情報システム、○社会基盤としての情報 システム

(9) 情報システムとセキュリティ

○社会で利用される情報技術、○インターネット社 会における問題、○情報発信のマナー、○知的財産権・

個人情報・プライバシー、○情報セキュリティ、○パ ソコンのセキュリティ

(10) コンピュータリテラシー補講【先修条件】

コンピュータの基本操作、表計算によるデータ処理、

プレゼンテーション、電子メール、WWW による情報検索 以上のように、カリキュラムを詳細に設定している が、コア時間だけでも全体で 40 時間であり、1 コマ 1.5 時間で 15 コマ授業を行ったとしても 22.5 時間しかで きないので、半期 1 コマではとてもこなせない時間に なっている。

3.9 参照基準の活用

ここでは、参照基準の活用について述べる。

情報学の参照基準は、ここで述べられた基本理念や リソースを参考に、情報学の教育で学生に必要な能力 を身につけさせるために、目標とする具体的な学習成 果を明確にし、これらを実現する教育課程を編成する 参照となる基準である。

そして、大学の横断的なFD活動の中で、これらの参 照基準が活用されることを期待している。

さらに、今後各大学の取組を支援するために、各種 の学協会や大学横断的なFD 団体―たとえば大学ICT 推進協議会、私立大学情報教育協会など―、大学の認 証評価機関―たとえば大学基準協会―など、大学コミ ュニティを構成する幅広い関係機関と連携することが 重要であることが示されている。

また、新しい産業社会の構築と、そこでの新しい大 学教育の実現のために、社会全体の連携の必要性があ り、企業・産業界、労働界、政府、広く社会一般の人 たちが、手を携えて新しい社会の実現に向けて連携協

(6)

力することが重要であると示唆されている。

4. おわりに

今まで一般情報教育の親学問はあるのかと言われる ことも多かったが、今回情報学の参照基準が公表され たことにより、これで親学問がはっきりしたことにな る。しかし、数学のように長い歴史のある学問ではな いので、今後いろいろ検討を重ねることにより、参照 基準が明確になってくることと考えられる。今回の参 照基準の作成に当たり、理系と文系の様々な分野の専 門家が文章を作成したことは、参照基準の報告書が 様々な用語や文体で書かれていることから明らかであ る。ここで述べられている基準は、具体的になってい るものと、抽象的な言葉で述べられているものが混合 している。しかし、参照基準が公表されたことにより、

今後他の学問分野のように、小学校から大学までのカ リキュラムの検討がなされるだろう。

今後、情報学がどのように検討されるのかを情報処 理学会一般情報教育委員会の幹事として調査研究して ゆくつもりである。

謝辞

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費基金基礎研 究(C)大学における一般情報教育モデルの構築に関する研究 (25350210)および情報科学研究所研究助成によるものである。

参考文献・参考URL

(1) 日本学術会議、”大学教育の分野別質保証の在り方につ いて”,日本学術会議、pp1-pp79(2010.7)

(2) 萩谷昌己、”情報学を定義するー情報学分野の参照基 準 ” 、 情 報 処 理 学 会 、 情 報 処 理 、 Vol.55, No.7, pp734-743(2014.7)

(3) Hagiya Masami, “Defining Informatics across Bun-kei and Ri-kei”, Journal of Information Processing, Vol.23, No.4, pp537-530(July 2015).

(4) 日本学術会議情報学委員会、情報科学技術分科会、“大学 教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:情 報学分野”,pp1-pp36(2015.9)

(5) J07 プロジェクト連絡委員会,”学部段階における情報専 門教育カリキュラムの策定に関する調査研究 平成19年度文 部科学省「先導的大学改革推進委託事業」報告書”,情報処理 学会(2008.3)

(6) 情報処理学会一般情報教育委員会、”一般情報教育の知識 体系”

http://www.tiu.ac.jp/seminar/kawamurk/gebok/gebok_final.html

2015.9.10現在)

(7) 河村一樹、山口和紀、立田ルミ他、“情報とコンピュータ” オーム社(2011)

(8) 駒谷昇一、中西通雄他 “情報とネットワーク社会”、オー ム社(2011)

(2015929日受付) (2015年12月2日採録)

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