研究ノート
「利潤計算原理」を読む⑵
井 上 善 弘
Ⅰ は じ め に
本稿は,岩田巖教授の主著『利潤計算原理』の第一編「利潤計算原理」を精読する 試みの第 回目である。今回は,前稿!に引き続いて,「利潤計算原理」の第一章「簿 記・会計における照合の計理」をテキストに沿って詳細に検討していく。
第一章では,「利潤計算原理」における岩田教授の理論展開の前提となる考え方が 明らかにされている。すなわち,岩田教授が考える,会計及び簿記の定義とそれらに おいて行われている照合の意味内容がそれである。なかでも,照合には「計算と計算 の照合」と「計算と事実の照合」という本質的に異なる つの種類が存在すること,
会計の本質的特徴は「計算と事実の照合」にあるとの主張は,「利潤計算原理」にお ける岩田教授の理論展開の根底をなす。それゆえ,第一章は「利潤計算原理」全体を 理解する上で極めて重要な位置を占めていると言える。また,会計と簿記との間の関 係,単式簿記と複式簿記との相違点等,岩田教授独自の見解が披瀝されている点でも 興味深い。以下では,第一章における教授の主張を重要なテーマ毎に順を追って検討 することにしたい。
!
井上( )を参照されたい。Ⅱ 会計の本質的特徴〜「計算と事実の照合」〜
比較と照合の相違点
まず,岩田教授は,これからの理論展開における核となる概念である「照合」のも つ意味を,「比較」と関連づける形で明らかにする。教授は簿記及び会計における照 合について,「ここに問題となる照合とは,一般的にいえば,計算の正確性を確かめ るため,二つの数字をくらべてみて,これが合うか合わないかを吟味する手続であっ て,合わない場合には,その原因を調査して,記録を訂正することである。」( 頁)
と定める!。ここでは, つのことが重要であると考えられる。 つは,照合が計算の 正確性を確かめるための手続であることである。 つは,照合には,単に二つの数字 をくらべてそれらが一致するか否かを確かめる手続だけではなく,不一致の場合には その原因を調査し,かつ記録を訂正する手続が含まれることである。つまり,照合に は,記録を正しいものに訂正するという役割が含意されているのである。
これに対して,照合との関連において比較はどのような特徴をもつと言えるのか。
岩田教授は,「比較といってもその仕方はいろいろあるが,二つの数字をくらべて,
その差を求める意味の比較にかぎってみると,ここでは,通常二つの数字の間に,は じめから較差があることが予想されているのであり,その大いさ(ママ)の意義をさ ぐろうとするのがその目的である。」( 頁)という。例えば,一会計期間における 収益総額と費用総額を比較する場合,また期末時点での資産総額と負債総額を比較す る場合は,その較差(差額)である当期純損益ないし純資産額を算定することにその 目的があると言える。岩田教授が比較という概念と関連づけるやり方で照合の意義を 論じているのは,比較とは異なり,照合が「差異の有無によって,計算記録の正否を 吟味する手続で検算立証の手段にほかならない」( 頁)ことを強調せんがためであ ると考えられる。
!
前稿と同様に,『利潤計算原理』からの引用は頁のみを示す。会計の定義
続いて,岩田教授は,教授の考える会計の定義を示す。但し,教授の定義は,あく までも「会計の技術的な側面に着眼した」( 頁)定義であることに留意しなければ ならない。すなわち,教授による会計の定義は,会計情報の受け手を意識した定義で はなく,会計情報が産出される(とりわけ利潤が算定される)プロセスが満たすべき 要件に焦点を当てた定義と言える。岩田教授による会計の定義を的確に理解すること が,「利潤計算原理」における教授の主張を追跡する上で肝要であることは論を俟た ない。岩田教授は,会計を次のように定義する。
「 会計とは一経済単位に属する財産について,その変動を継続的に記録し,財 産変動の結果と原因を対照する手続である。」( 頁)
上記の定義から,会計が つの手続から構成されていることがわかる。すなわち,
財産変動に係る「結果の計算」・「原因の記録」・「結果と原因の対照」の つの手続で ある。なお,後の理論展開から推測されるように,ここにおける「財産」には,積極 財産たる資産と消極財産たる負債の両方が含まれるものと考えられる。それでは,こ れら つの手続に関する教授の所論についてやや詳しく検討をすすめていくことにす る!。
!
岩田教授による会計の定義は,師である太田教授による定義を参考にしているという( 頁)。太田( )では,「会計とは金銭または金銭価値の出納・増減を記録・計算 し,事実と原因を対照する事務であって,いわゆる帳合の法である。」(太田( ),
頁)と説明されている。また,太田( )では,「一般的に見て会計は金銭または金 銭価値の収支を記録計算し,結果と原因とを対照する業務であるということができる。」
とした上で,脚注において「ここにいう会計は最も広義なものである。会計はもと合計 の字義であるというが,単に計算するだけではなく,計算と結果とを対照する意味があ る。」(太田( ), 頁)と説明されている。後で指摘するように岩田教授の会計思 考においては財産変動に係る「結果と原因の対照」が重要な位置を占めていると考えら れるが,それは,師である太田教授の考え方を継承しているものと思われる。
会計の構成要素
⑴ 「結果の計算」
まず,「結果の計算」である。結果の計算とは,「財産が受入,払出,その他いろい ろの原因によって変動せしめられた結果もたらされた現在の状態,すなわち財産の現 在高を算定すること」( 頁)を意味し,会計学にいう「財産在高計算」に相当する
( 頁)。但し,ここにいう結果計算により算定される財産の現在高は,当該財産の 実際の在高と必ずしも一致するわけではない。それは,後述するように,財産変動に ついては,それを「通常は,財産の受入引渡といったような,明瞭に確認することの できる具体的な事実だけを手掛りとして記録する」( 頁)からである。
⑵ 「原因の記録」
次は,「原因の記録」である。原因の記録とは,「財産在高に変動をひきおこした一 切の原因を記述すること」( 頁)を指す。この種の原因が簿記や会計学にいう「取 引」を指すことは言うまでもない。岩田教授は,取引は「いやしくも財産在高に対し て,量的にも質的にも変化を生ぜしめるすべての事実を含むのである」( 頁)と強 調する。この意味の取引の内容を記述することが,ここでいう「原因の記録」を意味 する。但し,取引をこのように解釈すると,期中における取引の記録では,財産変動 の原因のすべてを記述することはできないことになる。それは,先ほども述べたよう に,財産変動の記録は,通常,明瞭に確認することのできる具体的な事実だけを手掛 りとして行われるからである。こういった理由により,会計には次に説明する「結果 と原因の対照」という手続が必要不可欠となる。もちろん,「結果と原因の対照」を 行う前提として,「結果の計算」と「原因の記録」が必要であることはいうまでもな い。岩田教授は,「会計は,財産変動の結果と原因に関する記録集計の手続であって,
結果計算と原因の記録とは,いかなる種類の会計にも共通な,必要欠くべからざる構 成要素である。」( 頁)と明言している。
⑶ 「結果と原因の対照」
最後に,「結果と原因の対照」である。これについて,岩田教授は,「結果と原因を
対照せしめて,財産変動の顚末を表示するもの」( 頁)であり,より具体的には「財 産は現在これだけあるが,どういうわけで,これだけ残るにいたったか,財産の現状 とその由ってきたるところを説明することである」( 頁)とする。結果と原因の対 照を通して財産変動の顚末を明らかにするためには,「一切の変動は洩れなく把握さ れ,正しく記録されていることが必要」( 頁)となる。
ところが,繰り返しになるが,財産変動の記録は,通常,明瞭に確認することので きる具体的な事実だけを手掛りとして行われる。逆言すれば,「現実には財産変動が あったとしても,手掛りとなる具体的な事実が確認されなければ記録しない」( 頁)
のである。例えば,現に使用中の有形固定資産(土地を除く)について,その使用に 伴う価値の減少(財産変動)を期中において費用として認識し記録することは売却等 の場合を除いて通常行われない。したがって,「原因の記録」は必ずしも財産変動の すべてを捕捉しているわけではなく,それゆえ「結果の計算」は必ずしも財産の現実 の状態を示すとはかぎらないのである。そこで,財産変動の継続的な記録に加えて特 別な手続が必要となる。この特別な手続の意味内容について,岩田教授は次のように 説明する。
「 この特別な手続というのは,定期的に,または適当な時期に,帳簿からはな れて,財産の現実の状態を直接調査して,その実際の在高を確定し,記録にも とづいて計算された在高と照合することである。この場合,両者が符合すれば,
記録の正確だったことが証明されたことになる。だが一致しなければ,これは 誤記脱漏があった証拠である。この場合には喰違う原因をつきとめて,記録の 不備を訂正しなければならない。かようにして帳簿上計算された在高を,実際 の在高に引直すとともに,原因記録の脱漏を修正するのである。ここにはじめ て原因と結果の完全な対照が成立せしめられることになる。かように実際の在 高と計算上の在高を突合せることは,結果と原因を正しく対照せしめるために 是非必要な手続であって,会計の欠くべからざる特徴である。」( 頁)
上で引用した箇所は,第一章のハイライトとさえ言える,会計の本質的特徴につい
てのそれを含んだ,岩田教授による重要な主張である。それゆえ,その説くところを 逐一確認していきたい。まず,ここにいう「特別な手続」は,棚卸資産に係る実地棚 卸を含むが,けっしてそれに限定されるわけではない。つまり,ここにおける財産の 直接調査とは,「現金,債権,有価証券等その他の流動資産から,有形無形の固定資 産にいたるまでの,一切の財産および負債について現実の状態を実際に調べて,在高 を確定すること」( 頁)を指す。もちろん,実際調査の方法は財産あるいは負債毎 に様々であり,例えば,売掛金等の債権に関しては,得意先ないし債務者に対する確 認を通して実際の在高が確定されることになる。
こういった実際調査によって財産または負債の実際在高が確定されると,次に,そ れと当該財産または負債の帳簿残高との間の照合が行われる。岩田教授は,財産また は負債について,その帳簿残高と実際在高との間の照合を,計算の結果と実際の事実 との照合を意味するものとして,「計算と事実の照合」( 頁)と呼ぶ。この「計算 と事実の照合」により,帳簿残高が実際在高に修正されるとともに,原因記録の脱漏 が修正され,その結果として,財産変動に係る原因と結果の完全な対照が実現するこ ととなる。すなわち,「計算と事実の照合」によって「結果計算の正しさと原因記録 の洩れのないことが立証され,結果と原因の完全な対照が保証されることになる」
( 頁)のである。
会計の欠くべからざる特徴
岩田教授は,「計算と事実の照合」,すなわち前頁の引用文にある「実際の在高と計 算上の在高を突合せること」こそが「会計の欠くべからざる特徴」であると明言する。
それでは,なぜ,「計算と事実の照合」が会計の本質的特徴であると言えるのだろう か。
筆者は次のように考える。「計算と事実の照合」は,財産変動に係る結果と原因の 完全な対照を保証するために行われる。会計を構成する つの手続のうち,「結果の 計算」と「原因の記録」は確かに「いかなる種類の会計にも共通な,必要欠くべから ざる構成要素である」( 頁)と言える。しかしながら,繰り返しになるが,「原因 の記録」は必ずしも財産変動のすべてを捕捉しているわけではない。それゆえ「結果
の計算」は必ずしも財産の現実の状態を示すとはかぎらない。財産変動の記録(原因 の記録)は,通常,明瞭に確認することのできる具体的な事実だけを手掛りとして行 われるからである。
会計は本来,企業の経済実態(経済活動)を表す鏡のようなものである。そうする と,「結果の計算」が企業の実態を適切に表すべく,帳簿残高を実際在高へと引き直 す必要がある。また,「結果計算は原因記録をともなってはじめて会計となる」(
頁)のである。ゆえに,同時に,実際在高をもたらした原因の追加的な記録が必要で ある。そのためには,実際調査により財産または負債の実際在高を確定した上で,当 該財産または負債の帳簿残高と実際在高との照合が不可欠となる。つまり,「計算と 事実の照合」は会計にとって不可欠であり,会計のプロセスから「計算と事実の照合」
を取り除くことはできないのである。
Ⅲ 会計と簿記との間の関係
簿記における照合の性格
岩田教授は,会計の本質的特徴は「計算と事実の照合」であると主張した。これに 対して簿記においては「計算と計算の照合」が行われるという。この「計算と計算の 照合」というのは,「記録された数字の集計額と集計額との突合」( 頁)を指し,
その代表的なものは複式簿記における試算表の表尻の突合である。すなわち,岩田教 授は「一切の取引を二重に記帳した結果,元帳のすべての勘定口座の借方記入額と貸 方記入額を試算表に集合して,その借方合計と貸方合計を照合し,一致の有無によっ て,元帳記入の正否を確かめることが,複式記入では必ず行われるが,この突合が,
すなわち計算と計算の照合である。」( 頁)とする。貸借平均の原理に従い,仕訳 帳から元帳への転記の正確性を検証するために作成される合計試算表における表尻の 突合がそれである。もちろん,岩田教授がここで説明している合計試算表は決算整理 前(修正前)の合計試算表を指している。決算整理後の合計試算表に表示される数字 は,帳簿記録から離れた実際調査の結果が反映されたものであり,そこにおける表尻 の突合を「計算と計算の照合」とはよべないからである。換言すれば,「計算と計算 の照合」において照合される二つの要素はいずれも帳簿記録の結果でなければならな
い。したがって,「計算と計算の照合」は,会計の本質的特徴である「計算と事実の 照合」とは明らかに性格を異にする照合といえる。
岩田教授は,こういった「計算と計算の照合」は,それを帳簿金額の集計の突合で あると解するかぎり,複式簿記の元帳ばかりでなく,単式簿記の帳簿においても行わ れるという。教授は簿記の記録形式としての「勘定形式」を例にとり,そこで「計算 と計算の照合」が行われる様子とそれがもつ意味を次のように説明する。
「…,一定の項目の変動を記録集計する場合,その増加と減少を混同しないよう に,場所を分けて変動の事由とともに記録し,増加と減少との差,すなわち残 高を減少側に書き加えて,減少側の合計を増加側の合計に等しくするというこ とである。こういう記録の仕方に勘定形式の特徴はあると思う。
(中略)
ところでこうした形式で記録するということは,一体どういうことを意味す るかというに,それは,要するに計算の正否を明らかにするために,計算と計 算の照合を行うことにほかならない。すなわち増加と減少との差引計算の結果 たる残高の正確性を確かめるために検算を行うことである。いうまでもないこ とだが残高を減少額の合計に加えれば,その総計は増加額の合計に等しかるべ きである。この関係にもとづいて両者の合計を照合し,一致するかどうかに よって残高計算の正否を確かめるのである。」( 頁)
岩田教授は,このような「計算と計算の照合」は複式簿記の元帳勘定だけではなく,
単式簿記の現金出納帳や債権債務を記入する帳簿でも行われるが,それらの場合の照 合と試算表の照合とでは,検査すべき目標が異なることを強調する。すなわち,「前 者では,残高計算の正否が問題であり,後者では,二重記帳の正確性が問題であっ て,目指すところがちがっている。」( 頁)というのである。そして,複式簿記と 単式簿記の差異を,そこにおける照合の対象が全体か部分かという観点から次のよう に説明している。
「…,両者を区別する重要な差異の一つは「計算と計算の照合」が部分的に孤立 して行われるか,全体的に行われるかの点にあるようである。すなわち単式簿 記では,個々の勘定または帳簿において,単独にこの照合が行われるのみであ る。これに反して複式簿記においては,勘定全体についてこの照合が総括的に 行われるのである。むしろ複式簿記とは計算と計算の照合が一勘定のみではな く,全体の勘定について可能となるがごとく,取引を二重に記録する簿記であ るといっても差支えない。」( 頁)
そもそも複式簿記において,取引を二面的に記録するのは,「計算と計算の照合」を 元帳勘定全体について実施するためである。「計算と計算の照合」が勘定全体で行わ れるというところに,単式簿記には存在しない複式簿記固有の特徴がある。岩田教授 は,複式簿記の特徴をこのように説明するのである!。
会計と簿記とを峻別する必要性
これまでの説明から,会計の特徴は「計算と事実の照合」にあり,他方で簿記のそ れは「計算と計算の照合」にあることがわかった。要するに,「会計が計算と事実を 照合することによって,原因結果の対照の完全性を保障せんとするに対して,簿記は 計算と計算の照合によって,記録計算の正確性を確保しようとするのである。」(
頁)と岩田教授は主張する。教授は,こういった思考をさらに敷衍させて,「会計が 実質的な内容を有する記録計算であるに対して,簿記はむしろ無内容に近い形式的な 記述の仕方にすぎない。会計は簿記の内容であり,簿記は会計の形式である。」(
頁)と喝破する。
ところが,岩田教授は,会計が必ず簿記の勘定形式を用いなければならない理由は
!
安平教授は,複式簿記と単式簿記の相違点について,「複式簿記と単式簿記のちがい は,記帳対象の種類が多いか少ないか,したがって,記帳手続が複雑かどうかというこ と自体にあるのではなく,記帳が例外なき二面的記入のルールによって行われているか どうか,記帳組織がそのような仕組みをもって構成されているかどうかという点にあ る。」(安平( ), 頁)と述べている。通説的見解と考えられる。これに対して,岩田教授の見解は,簿記において行われる「計算と計算の照合」の対象範囲の差異によっ て複式簿記と単式簿記の違いを説明している点で特徴的である。
ないとも言う。すなわち,「どんな形式であっても,財産変動の結果と原因を記録集 計および対照する手続であるかぎり,すべてこれを会計ということができる。」(
頁)とするのである。のみならず,教授は会計と簿記とを峻別する必要性をさえ強調 するのである。第一章の掉尾にあたる次の文章は,ある種謎めいた感じのする文章で はあるが,次章以降の内容を暗示するものとなっている。
「 実際上はとにかくとして,少なくとも理論的には会計と簿記とは区別してお かねばならない。会計から観念的に簿記形式を剥ぎとっておくということは,
当面の課題を究明するために必要なのである。かくして,はじめて,損益計算 書と貸借対諸表との間に秘められた,計算関係を解明する鍵が求められるので ある。」( 頁)
Ⅳ 小 結
本稿は,「利潤計算原理」の第一章「簿記・会計における照合の計理」をテキスト に沿って詳細に検討してきた。第一章では,「利潤計算原理」における岩田教授の理 論展開の根底をなす重要な主張がなされている。会計の本質的特徴が「計算と事実の 照合」にあるとの主張である。期中における取引の記録,換言すれば財産変動をもた らした「原因の記録」は,必ずしも財産変動のすべてを捕捉しているわけではない。
それは,財産変動の記録が通常,明瞭に確認することのできる具体的な事実だけを手 掛かりとして行われるからである。それゆえ,「結果の計算」は必ずしも財産の現実 の状態を示すとはかぎらない。そこで,財産の現実の状態を直接調査して,その実際 の在高を確定する必要がある。そして,期中における記録にもとづいて計算された在 高,すなわち帳簿残高と,この直接調査により確定された財産の実際在高とを比較す る。これが,「計算と事実の照合」である。「計算と事実の照合」により,帳簿残高は 実際在高に引き直されるとともに,財産変動に係る原因の脱漏が修正される。「計算 と事実の照合」は,財産変動に係る結果と原因の完全な対照を保証するために行われ るのである。
このように,岩田教授の会計思考においては,財産変動に係る「結果と原因の対照」
が重要な位置を占めていると考えられる。単に財産の現実の状態を把握することだけ では会計とはけっしていえない。それに加えて,財産の現実の状態,つまり結果をも たらした原因を明らかにする役割を会計は担っている。それゆえ,「結果と原因の対 照」が完全な形で保証されなければならない。そして,そのために,「計算と事実の 照合」が必要不可欠なのである。但し,「計算と事実の照合」を行うためには,「事実」,
すなわち財産の実際在高を実地調査により確定しなければならない。この財産の実地 調査ないし直接調査は,棚卸資産に係る実地棚卸を含むが,それに限定されるわけで はなく,あらゆる資産・負債について現実の状態を調べ,その実際在高を確定するこ とを意味する。岩田教授の会計思考においては,財産の実地調査もまた重要な位置を 占めていることに留意しなければならない。
他方,簿記においては,記録計算の正確性を確保するために,「計算と計算の照合」
が行われる。簿記における「計算と計算の照合」で照合される二つの要素はいずれも 帳簿記録の結果であり,会計において行われる「計算と事実の照合」とは明らかに性 格が異なっている。照合には「計算と計算の照合」と「計算と事実の照合」という本 質的に異なる つの種類が存在すること,そしてそれらを明確に区別すべきこと,以 上の認識は,この後の岩田教授の理論展開を理解するうえで肝要である。
なお,岩田教授は,第一章の最後で,会計と簿記とを峻別する必要性を説いてい る。これは,後の第三章において,複式簿記の複式記入という記録形式が利潤計算手 続の基本的関係に関する認識にとって重大な障碍となっている,との教授の見解を披 瀝するための布石となっている。「会計から観念的に簿記形式を剥ぎとっておく」こ との必要性を述べているのは,そのためである。(続)
参 考 文 献
井上( ):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑴」『香川大学経済論叢』第 巻第 号,
年 月, 〜 頁。
岩田( ):岩田巖『利潤計算原理』同文館, 年。
太田( ):太田哲三『会計学』千倉書房, 年。
太田( ):太田哲三『会計学通論』中央経済社, 年。
安平( ):安平昭二『簿記要論(改訂版)』同文館, 年。