研究ノート
「利潤計算原理」を読む⑸
井 上 善 弘
Ⅰ は じ め に
本稿は,岩田巖教授の主著『利潤計算原理』の第一編「利潤計算原理」を精読する 試みの第五弾である。今回は,「利潤計算原理」の第四章「利潤計算における二元性 の歪曲」の内容を岩田教授の行論に従い詳細に検討していく。
前章である第三章「利潤計算手続の顚倒」において,岩田教授は,「財産法と損益 法という,二つの異なる利潤計算の不可分にして必然的な結合関係こそ,企業会計に おける利潤計算の本質的な計算構造である。」( 頁)と述べ,企業会計における利 潤計算手続のあるべき姿とは,財産法と損益法とを対等な地位において組合せ,平行 的に適用する利潤計算の二元的構造であるとの主張を展開した。そして,複式簿記と いう記録形式がこの利潤計算の二元的構造を的確に認識する上での妨げとなっている ことを,具体例を示しながら論証した⑴。
第四章「利潤計算における二元性の歪曲」では,利潤計算の二元的構造(本質的な 構造)に関する認識を妨げるもうひとつの要因として,企業における財産構成の複雑 化の問題が取りあげられる。もっとも,財産構成の複雑化は,利潤計算の本質的な構 造に関する認識を妨げているというよりむしろ,利潤計算の本質的な仕組みであると ころの財産法と損益法の二元的構造の成立を制約し,その二元性を歪曲させている。
これが,第四章で岩田教授が最も主張したかった論点である。教授は,第四章におい
( ) 井上( )を参照されたい。
て,財産構成の複雑化が利潤計算の二元性を歪曲させている有様を,棚卸資産会計と 設備資産会計を例に挙げて説明している。以下では,第四章における岩田教授の主張 とその論拠について具に検討していくことにする。
Ⅱ 棚卸資産会計における二元性
棚卸資産の数量計算の方法〜継続記録法と棚卸計算法〜
岩田教授は,棚卸資産会計において利潤計算の二元的構造が歪曲されていることを 指摘する際に,棚卸資産の評価基準や評価方法ではなく,それらの前提をなす棚卸資 産の物量計算(数量計算)の方法に着目する。それは,棚卸資産の会計処理において は,棚卸資産の払出数量または現在量を算定する物量計算の方法こそが資産の種類や 企業の事情により制約を受けており,そのことが棚卸資産会計における二元的構造を 歪曲させている原因である⑵,との認識に基づく。
周知のとおり,売上原価を算定する基礎となる払出数量の把握方法には,継続記録 法と棚卸計算法がある。まず,継続記録法について,岩田教授は次のごとく説明す る。
「継続記録法というのは,帳簿を設けて,資産の種類,規格,寸法別に物品受払 の都度その数量を記録し,帳簿の上で一期間の払出量を集計する方法である。
したがって期末の残存量も,受払記録の差として帳簿上これを算定する。そこ でこれを帳簿棚卸(Book Inventory)ということもある。この方法によると払 出毎に数量を個別的に記帳するから,期末ばかりでなく,また期中のいつで も,受払数量の差としてその時々の残高を帳簿上決定することができる。その ために,これは常時棚卸とか恒久棚卸(
Perpetual Inventory
)とよばれることも ある。この方法は,棚卸資産管理のために,倉庫が設けられ,受入,払出,貯( ) これに対して,棚卸資産の評価基準について,岩田教授は「評価基準の基本的なもの として,たとえば時価主義とか原価主義があげられるが,これらは損益法にも財産法に も共通の基準であって,この点からここに問題とする関係をつきとめることはできない のである。」( 頁)と述べている。但し,たとえば,損益法と時価主義との具体的な結 びつき等の具体例は示されていない。
蔵について適当な管理が行われていないと,これを実施することが困難であ る。むしろ倉庫を通して,つねに物品の受払が行われる仕組みになっているこ とが,この方法の前提条件であるといってよい。けだし払出量を確実に記録す るには,倉庫からの出口でこれをとらえるのが,もっとも容易であり且つ便利 だからである。」( 〜 頁)
継続記録法は,棚卸資産の受入時だけでなく,払出時においてもその数量を記帳す るため,残高数量(在庫量)を帳簿上常に把握できるという特徴をもっている。この 方法では,帳簿上いつでも手持数量が明らかにされているので,在庫管理上有効な基 準を提供するとされる(武田( ), 頁)。
他方,棚卸計算法について,岩田教授は次のように説明する。
「 これに対して,棚卸計算法というのは,棚卸資産を受入れたときは,その都 度受入量を帳簿に記録するが,払出したときはこれを記録せず,放置しておい て,期末にいたって残存する現物を実際に点検調査して,現在量を決定する方 法である。そこでこれを実地棚卸(
Physical Inventory
)ということがある。払 出量は帳簿に記載された受入量の合計から棚卸量を差引いてこれを計算する。だから一期間の総払出量は一括して把握されるのみであって,期中の個々の払 出量は明らかにされない。」( 頁)
棚卸計算法の場合,棚卸資産を払出したときにこれを記録しないため,在庫量を帳 簿上明らかにすることはできない。期中における払出数量は,実地棚卸の結果として 決定された期末棚卸数量を基に次の式で算定される(桜井( ), 頁)。
払出数量=期首棚卸数量+当期受入数量−期末棚卸数量
岩田教授は,継続記録法ないし棚卸計算法の会計学的性質を,それらと損益法ない し財産法との関係を基に次のごとく整理している。
「 この両者の性質を比較してみるに,継続記録法はまず払出量を把握して,し かる後現在量を帳簿の上で計算するのである。だから棚卸方法としては計算上 の残高すなわちゾル・ベスタントの計算であって,損益法に属する手続であ る。これに反して棚卸計算法は現物の実地調査によりイスト・ベスタントを直 接決定し,その上で帳簿の受入記録との比較から払出量を間接に計算するので ある。それ故これは財産法系統の手続であるということができる。かくて両者 は会計学的性質をまったく異にする方法である。」( 〜 頁)
継続記録法の下で帳簿上把握される残高数量は,計算上当然存在すべき在高,すな わちゾル・ベスタント(Sollbestand)である。岩田教授がこういった帳簿をベースに した会計処理の方法を損益法に属する,あるいは損益法系統の手続と位置付けている ことに留意する必要がある。他方,棚卸計算法の下で把握される残高数量は,実際に 存在する在高,すなわちイスト・ベスタント(Istbestand)である。岩田教授がこの ような現物の実地調査をベースにした会計処理の方法を財産法に属する,あるいは財 産法系統の手続と位置付けていることについてもまた,留意が必要である。
棚卸資産会計における数量計算のあるべき形態
岩田教授は,棚卸資産会計の根底にある数量計算においては,継続記録法と棚卸計 算法とを結合し,それらを平行して実施することが本来あるべき姿であると主張す る。言い換えれば,損益法系統の手続(継続記録法)と財産法系統の手続(棚卸計算 法)の二元的構造こそが,棚卸資産の数量計算におけるあるべき形態であるとするの である。こういった主張は,継続記録法と棚卸計算法それぞれの特徴,つまりそれら 方法の各々がもつ長所と短所から導きだされている。以下で,そのことを確認するこ とにしよう。
継続記録法は,「物品の受入ばかりでなく,払出についても口別に受払の事由が記 録される」( 頁),つまり,継続記録法には「棚卸資産変動の原因が個別的に明示 される」(同頁)という特徴(長所)がある。他方で,棚卸計算法では,棚卸資産の 受入の記録はなされるが,払出の記録はなされない。すなわち,棚卸計算法は,「原
因記録の一半を欠くという意味で,数量計算として不完全であるといわねばならな い。」(同頁)のである。それゆえ,期中における棚卸資産変動の原因記録に関しては,
継続記録法にこれを求めることになる。
ところが,棚卸資産変動の原因に関する記録を行う継続記録法に関しても,原因分 析という観点からすれば完全とはいえない。というのも,継続記録法が「棚卸資産の 変動を入口と出口でとらえるのみであって,貯蔵中の変動は顧慮しない」(同頁)た めである。棚卸資産の数量計算の方法として継続記録法のみに依存する場合,横領や 盗難等による貯蔵中の変動(減少)分は,帳簿の上で把握されていないため,すべて 期末帳簿残高に含められることになる。それゆえ,棚卸資産の数量計算を継続記録法 のみに頼ることもまたできない。棚卸資産変動原因の分析を完全なものとするために は,棚卸計算法の助けを借りなければならないのである。この辺りの事情について岩 田教授は次のように説明する。
「すなわち,継続記録法による帳簿残高を棚卸計算法によって決定された実際在 高と比較して,符合するかどうかを確かめるのである。両者が一致すれば,保 管中に変動がなかったことであり,喰違えば変動があった証拠である。通常は 帳簿残高より実際在高が少ないことが多いが,この差額は貯蔵中に生じた減耗 であって,棚卸差損とよばれている。継続記録法の帳簿残高をこの減耗分と実 際在高とに区分してはじめて,変動原因の分析が完全に行われたことになる。」
( 〜 頁)
かくして,棚卸資産の変動(数量変動)に関する原因の分析を完全ならしめるため には,棚卸資産の数量計算のあり方として,継続記録法と棚卸計算法とを結合し,そ れらを平行して実施することが必要となる。それゆえ,棚卸資産の数量計算において は,損益法系統の手続(継続記録法)と財産法系統の手続(棚卸計算法)の二元的構 造こそがあるべき姿であるということになる。
棚卸資産会計における二元性の歪曲
ところが,棚卸資産の数量計算における二元的構造は,実際上,棚卸資産の種類と か,企業の事情によって成立しないことが少なくない。岩田教授は,この辺りの事情 を,商業をいとなむ企業と工業をいとなむ企業にわけて説明している。
⑴ 商業の場合
岩田教授は,まず,商業をいとなむ企業の場合,「棚卸資産会計の中心をなすもの は,商品売上損益の算定であろう。」( 頁)と指摘した上で,売上損益の計算には 二つの形態,「売上損益を取引毎に区分して算定する口別計算(Partierechnung)と一 定の期間を単位として綜合的にこれを決定する期間計算(Periodenrechnunng)」(同頁)
があるとする。そして,ここでは,期間計算を例にとり,まず,期間計算における棚 卸資産の数量計算のあるべき姿を説明する。それは,損益法の計算(継続記録法)と 財産法の計算(棚卸計算法)の平行的な実施に他ならない。売上損益を正しく計上す るためにこれら二つの方法の併用が必要な理由について,岩田教授は次のごとく説明 する。
「なぜかというと,損益法の計算を用いるだけでは,貯蔵中に商品の減耗があっ ても,これは期末現在高に含まれたまま次期へ繰越される。したがって次期の 売上利益がそれだけ減殺される結果になる。また,財産法の計算だけによれ ば,この種の減耗額は売上原価に含められて,売上高から控除されることにな り,売買取引の成果を純粋に示さないことになる。いずれにしても正しい計算 とはならないのであって,この意味でつねに両者は平行して行われねばならな い。」( 頁)
しかしながら,棚卸資産の数量計算におけるあるべき姿は,実際上の売上損益計算 においては実現することがしばしば困難なのである。つまり,棚卸資産の数量計算に おける継続記録法と棚卸計算法の平行利用は,企業の事情により困難な場合が多いの である。岩田教授は,この辺りの事情を次のように説明する。
「取扱商品の種類が多く,また倉庫の施設が充分でないため,帳簿棚卸を実施す ることが困難なところでは,棚卸計算法だけで賄うのである。また継続記録法 を採用する企業でも,手持商品が多量であるため,期末に一度に実地棚卸を行 うことが不可能であるとして,期中に分散して行うこともある。これは財産法 と損益法の不完全な結合である。総うじて商業における棚卸資産会計では,財 産法の計算が支配的であって,損益法は附随的であり,完全な二元的関係は成 立していないことが多いようである。」( 頁)
商業の場合,棚卸資産会計において損益法と財産法の二元的構造が成立し難いの は,ひとつには,「取扱商品の種類が多く,また倉庫の施設が充分でない」ことで損 益法系統の手続である継続記録法を実施できないことに起因している。この場合,棚 卸資産の数量を計算する方法としては,財産法系統の手続である棚卸計算法のみに頼 らざるを得ない。また,仮に,継続記録法を採用する企業でも,「手持商品が多量で ある」場合には,実地棚卸を期中に分散して行うこともある。期末に一度に実地棚卸 を行った結果とこのような循環棚卸を行った結果は必ずしも一致するわけではない。
ゆえに,「財産法と損益法の不完全な結合である」ということになる。
⑵ 工業の場合
それでは,工業の場合はどうか。岩田教授は,工業の棚卸資産会計における損益法 と財産法の二元的関係の実際的な有様について,製品,原材料,仕掛品に分けて論じ ている。まず,製品については,次のように説明する。
「ここ(=工業,引用者)では原価計算が普及発達しており,倉庫制度も大体整 備されているから,売上原価の計算は継続記録法を基礎として行われるのが普 通である。これに対して期末に一括して製品の実地棚卸を行うか,または少な くとも期中に分散してこれを行い,貯蔵中の減耗を計上するところが多い。だ から工業では計算の二元的関係は,その組合わせが完全か不完全かは別とし て,多かれ少なかれ成立しているようである。」( 頁)
先述したように,損益法系統の手続である継続記録法を採用するには,「倉庫を通 して,つねに物品の受払が行われる仕組みになっていること」( 頁)が前提条件で あった。原価計算制度が発達し,倉庫制度も整備されている工業に関しては,継続記 録法を実施する前提が整っているといえるのである。また,製品の場合,利潤計算(損 益計算)における重要性に鑑みて,これと平行して実地棚卸(あるいは循環棚卸)が 実施される。つまり,財産法系統の手続である棚卸計算法が実行されるのである。そ れゆえ,製品に関しては,損益法と財産法の二元的関係は多かれ少なかれ成立してい ることになる。
次に,原材料についてはどうか。岩田教授は,「原材料も主要原材料については,
通常帳簿棚卸と実地棚卸をあわせて行うが,補助材料やその他重要ならざるものは,
棚卸計算法だけで処理することが少なくない。これは材料の重要性からみて多額の費 用をかけて,両方法を併用するまでもないという経済的理由からである。」( 頁)と 説明している。主要原材料に関しては製品の場合と同様,損益法と財産法の二元的関 係は成立しているものの,補助材料やその他重要性の乏しいものについては財産法系 統の手続である棚卸計算法が一元的に採用されるというのである。両者を分けるメル クマールは,会計処理(この場合は,払出数量または現在量の算定)対象の利潤計算 における重要性ということになる。利潤計算における相対的な重要性の乏しい対象に 関しては,会計処理の経済性が考慮されるというわけである。
最後に,仕掛品について,岩田教授は,注文生産における個別計算(個別原価計算)
の場合と,市場計算(見込計算)における綜合計算(総合原価計算)の場合とに分け て次のように説明している。
「個別計算の場合には,仕掛品原価は指図書別に集合された直接費に間接費を配 賦して帳簿上これを算定する。(中略)通常は帳簿において集計された原価が 仕掛品の現在高として計上されるのである。ところが綜合計算の場合はこれに 反して,仕掛品原価は実地棚卸を基礎として決定せざるを得ない。期末の仕掛 品現在量を現場で実地に調査し,これを適当な方法で「評価」するのである。」
( 頁)
仕掛品の期末現在高を決定するに際して,個別原価計算の場合は継続記録法に,総 合原価計算の場合は棚卸計算法にそれぞれ頼るほかないというのである。それゆえ,
「仕掛品評価の決定については,個別計算では損益法系統の計算のみが適用され,綜 合計算においては,財産法系統における計算だけが適用されることになる。」( 頁)
ということになる。つまり,工業における仕掛品に関しては,損益法と財産法の二元 的関係は成立していないことになる。
Ⅲ 設備資産会計における二元性
設備資産会計における財産法と損益法の関係
岩田教授は,次に,設備資産会計における二元性,すなわち,設備資産会計におけ る「財産法と損益法との組合わせ関係」( 頁)に目を転じる。そして,設備資産会 計に関しても,「その会計処理を立入って考察してみると,その根底には形態こそま るで異なるけれども,一種の継続記録法と棚卸計算法の対立が横たわっていることを 発見するのである。」( 頁)と喝破する。
設備資産という表現で,岩田教授は土地を除く有形固定資産を想定しているものと 思われる。設備資産は,長期間にわたりこれを使用するために保有しており,棚卸資 産のごとく仕入・販売等のために頻繁に受払されるものではない。それゆえ,数量計 算の方法である継続記録法や棚卸計算法は,一見すると,設備資産とは関連性が全く 無いようにも考えられる。しかしながら,岩田教授は設備資産の会計処理の根底には
「一種の継続記録法と棚卸計算法の対立が横たわっている。」と言うのである。以下で は,岩田教授のこの見解を,教授による行論に従い説明していくことにする。
継続記録法を基礎とする設備資産の会計処理〜償却法〜
岩田教授は,まず,減価償却について以下のごとく説明する。
「これ(=減価償却,引用者)は周知の通り設備資産の取得原価を,使用開始か ら廃棄にいたるまでの各事業年度に,規則的に一部ずつ費用(償却費)として 計上するとともに,繰越価額を減じていって残存価格になるまでこれを継続す
る手続である。この場合規則的に償却費を計上するには,使用期間の経過に準 拠せしめるものと,設備の利用度または生産量に比例せしめるものとがある。
前者は年数法,後者は比例法とよばれている。年数法は設備の耐用年数を予定 し,年数の経過に応じて償却費を計算するのであり,比例法は設備の総利用 量,総運転時間または総生産量を予想し,各年度における実際量にしたがって 償却費を算定するのである。」( 〜 頁)
減価償却に関する通説的な理解であり,教授独自の見解であるというわけではない。
減価償却の手続が設備資産の取得原価ないし帳簿価額を基礎にした費用計算であるこ とは明らかである。先ほども指摘したように,岩田教授は帳簿をベースにした会計処 理の方法を損益法に属する,あるいは損益法系統の手続と位置付けている。それゆ え,減価償却は損益法に属する計算ということになる。岩田教授は次のように言う。
「 ところでこの償却法はまず設備の原価または簿価から毎期の負担額を計算し て,費用に振替えるのである。期末の在高を棚卸評価して,これと簿価との差 額を費用とするのではない。これはすなわち償却法が損益法に属する計算であ るということにほかならない。財産法系統の計算ではないのである。このこと は年数法ばかりでなく比例法の減価償却についても同様である。したがってこ の点からみれば,今日の設備資産会計は一般に損益法によって支配されている というべきであろう。」( 頁)
設備資産に対する減価償却の手続(償却法)が実地調査を基礎にした財産法系統の 計算ではなく,帳簿を基礎にした損益法系統の手続であると解釈することは,岩田教 授による財産法と損益法に関する理論の立場からは当然のことと思われる。
先ほども指摘したように,岩田教授は,設備資産の会計処理の根底には「一種の継 続記録法と棚卸計算法の対立が横たわっている。」と言う。継続記録法は損益法系統 の手続である。それでは,減価償却の手続と,同じく損益法系統の計算である継続記 録法とはいかなる意味で関連性を持つと言えるのであろうか。岩田教授は,償却法と
継続記録法の関連性の源を,設備資産に対する廃棄法の存在に求めている。まず,岩 田教授による廃棄法の説明に耳を傾けることにする。
「現在設備資産に適用される償却法は,いわゆる廃棄法(Retirement Method)と いう方法から派生したものである。廃棄法とは設備資産を取得してから廃棄す るにいたるまで,その取得原価をそのまま繰越していって,廃棄したときにそ の全額を費用におとす方法である。現物取得とともに,帳簿上これを資産に計 上し,使用中現物が存続するかぎり資産として繰越し,廃棄によって現物が消 滅するときに資産から費用に振替えるのである。したがってこの方法は棚卸資 産における継続記録法と本質的に何ら異なるところはない。」( 頁)
棚卸資産会計における継続記録法は,棚卸資産の払出の際にも数量を把握するた め,払出の都度,払出した資産の原価を費用(売上原価)に振替えることが可能であ る。岩田教授は,設備資産会計における廃棄法が設備資産の廃棄時(消滅時)に当該 資産の取得原価を費用に振替える点と,棚卸資産会計における継続記録法が棚卸資産 の払出時(消滅時)に当該資産の原価を費用に振替える点との間に,同質性を見出し たのである。
次に,設備資産の会計処理方法が廃棄法から償却法へと展開(発展)してきた事情 に関して,岩田教授は次のように説明する。
「 廃棄法によれば,廃棄時に取得原価を一度に費用とするのであるから,規模 の大きい高価な設備については,費用の負担が期間的に甚だしく不均衡となる ことはいうまでもない。そこで費用の期間的負担を平均せしめるように廃棄法 の改良が行われた。すなわち使用中の各年度に原価を一部ずつ費用として負担 せしめるのである。設備が廃棄されるのは,使用期間中に廃棄の原因が次第に 累積した結果であるから,廃棄年度のみが費用を負担すべきではなく,使用中 の各年度も一部を負担すべきが至当であるという理由によるのである。こうし ていわゆる償却法(Depreciation Method)は成立したのであった。」( 頁)
廃棄法の有する問題点(「費用の負担が期間的に甚だしく不均衡となる」点)を改 良すべく,償却法が採用されるようになったのである。岩田教授は,このように償却 法が廃棄法から派生した方法であること,そして廃棄法が継続記録法と本質的に異な るところがないことから,「償却法の背後には設備資産全体に対する継続記録法が横 たわるのである。」( 頁)と結論付ける。
また,岩田教授は,償却法がこれとは別の意味で継続記録法を基礎としているとも 主張する。それは,年数法における年数,比例法における利用量の計算において継続 的な記録が必要とされるとの謂いなのである。
「…,償却法は年数または利用量の数量計算において,継続記録法に依存するの である。つまり予定耐用年数から経過年数を控除して未経過年数を計算し,予 定総利用量から実際利用量を差引いて,残存利用量を算定する継続記録計算が 償却法の根底にあるのである。」( 〜 頁)
かくして,設備資産の会計処理の根底に「一種の継続記録法と棚卸計算法の対立が 横たわっている。」との岩田教授の主張のうち,継続記録法に関しては以下のように 整理することができる。まず,設備資産の会計処理としての償却法は廃棄法から派生 したものであり,廃棄法が継続記録法と本質的に同じ考え方に立つものであることか ら,償却法は継続記録法を基礎にするとの結論を導き出す。また,償却法が年数また は利用量の計算において継続記録に依存することから,償却法が継続記録法に立脚す る方法であるとの主張を展開しているのである。
棚卸計算法を基礎とする設備資産の会計処理〜取替法〜
それでは,設備資産の会計処理のうち,棚卸計算法に立脚した方法とは何か。つま り,設備資産の会計処理の根底に「一種の継続記録法と棚卸計算法の対立が横たわっ ている。」との岩田教授の主張のうち,棚卸計算法に関してはどのような見解が披瀝 されているのであろうか。岩田教授は,設備資産会計において棚卸計算法を根底とす る会計処理があると主張する。再評価法(Revaluation Method)と取替法(Replacement
Method)がそれである。まず,再評価法について,岩田教授は次のように説明する。
「 歴史的にふりかえってみると,設備資産が企業財産の一部として出現した最 初の頃には,これは会計上棚卸資産と同様の取扱いをうけたと伝えられてい る。すなわちこの勘定の借方には取得原価および修繕維持費その他の設備に要 した費用を記入し,期末に現物を棚卸評価し,貸方へ記入して次期に繰越すの である。したがって貸借の差額は損失として損益勘定へ振替えられることにな る(設備に関して収益があったときは貸方へ記入されることもある。この場合は,ちょ うど混合勘定としての商品勘定と同様の取扱いである。)。これが再評価法である。」
設備資産に対して,棚卸資産と同様に「期末に現物を棚卸評価」する点こそが,再 評価法が棚卸計算法を根底とする会計処理であると解釈する所以である。もっとも,
棚卸資産会計における棚卸計算法とは異なり,設備資産の物量(数量)計算ではなく,
価値評価が行われることになる。設備資産の価値を再!評!価!した結果は,当該設備資産 の帳簿価額として次期に繰越されることになる。
それでは,この再評価法から「転化した」( 頁)とされる取替法とは設備資産に 対するどのような会計処理を言うのか。続いて,岩田教授は,設備資産に対する会計 処理方法としての取替法について以下のごとく説明する。
「この方法(=取替法,引用者)は設備に対して,充分に修繕維持の手当が行届 いているかぎり,つねに同一物が存在すると解釈し,期首と同一の資産が期末 にも存在するならば,あえて帳簿価額を修正する必要はないと考えるのであ る。そこで取替法によれば修繕が充分であるかぎり,期末の現物は期首の繰越 額(または取得原価)で評価されて次期へ繰越されるのである。この場合設備 勘定では,借方の前期繰越額と貸方の後期繰越額とは等しいから,借方に記入 された修繕維持の費用は,そっくり損益勘定へ振替えられる。換言すれば修繕 の費用は全部損失とし,設備原価はそのまま据置にするということである。」
( 〜 頁)
取替法が棚卸計算法を根底とする会計処理であるとする所以は,どこにあるのか。
岩田教授は,上の引用文中の「設備に対して,充分に修繕維持の手当が行届いている かぎり,つねに同一物が存在すると解釈」する点にそれを求めていると考えられる。
岩田教授は,「取替法も再評価法と同様に実地棚卸を基礎とする財産法系統の方法で あるが,実地棚卸はただ観念的に行うのみにすぎない。」( 頁)と言う。ここで,「観 念的に行う」とは,「設備に対して,充分に修繕維持の手当が行届いている」ことを 確認することを意味し,それを実地棚卸と位置付けているものと思考される。
ところで,取替法については,「企業会計原則」に次のような規定がある。
「 なお,同種の物品が多数集まって つの全体を構成し,老朽品の部分的取替 を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産については,部分的取 替に要する費用を収益的支出として処理する方法(取替法)を採用することが できる。」(「企業会計原則」注 )
上の規定にある,「同種の物品が多数集まって つの全体を構成し,老朽品の部分 的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産」は,会計学上,取替 資産とよばれている⑶。この取替資産に適用される取替法は,部分的取替に要する費用 を収益的支出,つまり期間費用(当期の費用)とし,固定資産としての機能が全体的 に維持されている限り当該資産の取得原価(または期首の帳簿価額)をそのまま次期 に引き継ぐという点で,減価償却(償却法)とは明らかに性格が異なる。取替法は,
鉄道会社のレールや枕木,電力会社の電柱や送電線等,同種小単位の項目が集合して ひとつの資産を構成している場合にのみ適用される方法と言える。
岩田教授は,次に,設備資産会計におけるこの取替法と修繕費の処理の関係に着目 し,両者が会計処理の方法として同質のものであると指摘する。
「…,取替法と本質的にすこしも異なるところのない会計処理が,今日の設備資
( ) 武田( )の 頁を参照のこと。
産会計においても,一般にひろく適用されていることを見落とすべきではな い。修繕費の処理がこれである。修繕費の整理の仕方はまさに取替法以外の何 者でもない。」( 頁)
取替法と修繕費の処理の関係を論じる前提として,改めて有形固定資産に関して行 われる支出には会計学上異なる性格を有する 種のもの,すなわち,資本的支出と収 益的支出があることを指摘する必要がある。資本的支出と収益的支出の定義と,それ ら区別する基準に関しては,次の説明が簡にして要を得ている。
「 資本的支出(capital expenditure)とは固定資産に係る支出であって,それが 固定資産原価を構成し,あるいは固定資産原価に加えられるべき支出をいう。
これに対し,収益的支出(revenue expenditure)とは固定資産に係る支出であっ て,支出期の費用(修繕費)として処理される支出をいう。
(中略)
企業が固定資産について支出した金額は,修理・改良その他どのような名称 で支出したかを問わず,その支出によって当該資産の耐用年数が延長した場 合,あるいは当該資産の価値が増加した場合,その耐用年数が延長した部分に 対応する金額,あるいは,その価値の増加した部分に対応する金額を資本的支 出とする。また,当該資産の単なる維持・管理にすぎないものは,収益的支出 とする。これが資本的支出と収益的支出との区分基準である。」(武田( ),
頁)
固定資産に係る支出が収益的支出(期間費用=修繕費)とされるのは,それが対象 資産の維持・管理のための支出であると判断される場合である。取替法は,老朽品の 部分的取替を通して固定資産を全体として維持するためになされた支出を収益的支出 として取り扱う。固定資産の維持・管理のための支出を当期の費用として計上する点 で取替法と修繕費の処理は共通の性質を有する。また,取替法は上記の区分基準に 則った会計処理であると理解することもできる。
しかしながら,岩田教授は,修繕費の処理こそが取替法の観念に基づくものと解釈 している。修繕費の整理が,「修繕費を費用とし,破損個所の原価は,そのまま設備 資産価額として据置く」仕方でなされることを指摘した上で,そういった整理がなさ れる理論的背景について,次のごとく説明する。
「こうした整理が行われるのは,技術上破損個所の原価を把握することが困難だ からでもあるが,それよりはむしろ,理論的には,修繕によって設備の原状ま たは原能力が元通りに恢復し,破損以前と同一の状態になったと考えるからで ある。すなわち同一の資産であるから,帳簿価額は動かすべきではないとする のである。これは廃棄法ではなく,まさに取替法の観念である。」( 〜 頁)
先ほども述べたように,設備資産の会計処理の根底には「一種の継続記録法と棚卸 計算法の対立が横たわっている。」と岩田教授は主張していた。継続記録法に関して は,償却法(減価償却)が廃棄法から派生した方法であること,及び,廃棄法が継続 記録法を基礎にするものであることから,「償却法の背後には設備資産全体に対する 継続記録法が横たわるのである。」( 頁)との結論を導き出したのであった。一方,
棚卸計算法に関しては,設備資産に係る修繕費の整理が取替法の観念に基づくもので あること,及び,取替法が棚卸計算法を根底とする設備資産の会計処理であることか ら,修繕費の整理という点で設備資産の会計処理の根底に棚卸計算法が横たわってい ると主張しているのである。
かくして,設備資産会計における二元性の実際上の有様,つまり,設備資産会計に おける損益法と財産法の関係について,岩田教授は次のごとく整理する。
「…設備資産会計においては,設備一単位としては廃棄法にもとづく償却法に よって処理されるが,その構成部分は廃棄法と対立する取替法によって処理さ れているのである。これは換言すれば,損益法の計算と財産法の計算とが,併 列的な関係においてではなく,全体と部分との関係において結合されているこ とにほかならない。」( 頁)
上記の主張は,設備資産会計においては,設備一単位(全体)に関しては継続記録 法を基礎にした「廃棄法−償却法」の流れ,すなわち損益法系統の手続が,設備の構 成部分に関しては棚卸計算法を根底とする「取替法−修繕費の処理」の流れ,すなわ ち財産法系統の手続が存在するとの謂いである。
Ⅳ 利潤計算の二元的構造を論じる意義
これまでみてきたことから理解できるように,「企業会計における利潤計算は本来 財産法と損益法との組合わせからなる二元的構造をもつものである」( 頁)とする のが岩田教授の主張である。岩田教授は,「本来財産の種類の如何を問わず,流動資 産たると固定資産たるとの区別なく,財産,損益両法の系統に属する計算を併用し相 互に補いあわしめてはじめて,正しい結果がえられる」( 頁)とまで主張する。
ところが,企業会計における利潤計算の現実の形態は,岩田教授の構想するあるべ き姿と大きく異なっている。それでは,企業会計における利潤計算のあるべき姿が
「財産法と損益法との組合わせからなる二元的構造」であると主張する意義はどこに あるのか。岩田教授は,次に,自らの構想する利潤計算の二元論が会計学にどういっ た点で貢献するかを,貸借対照表の本質を巡る学説の対立に関連付けて論じている⑷。
貸借対照表本質観の対立
岩田教授は,これまで貸借対照表の本質をめぐって相反する見方が対立してきたこ と,そこでは貸借対照表作成原則から個別項目の会計処理手続にいたるまで,事々に 意見が分かれており,そのことが会計学を混乱せしめてきたと主張する⑸。そして,貸 借対照表本質観の根本的なものとして次の二つの学説を指摘できるという。
( ) これは,第三章において「ここに指摘した利潤計算の基本的構造は,計算手続として ははなはだ廻りくどいプロセスをとるのであって,複式簿記における決算手続の方がむ しろスムーズなのである。だから上述の見解は一応理論的には可能であるにしても,と くに取り立てて云々することは,かえって企業会計の認識を混乱せしめるばかりではな いか。それにもかかわらず,あえてこれを論述する必要があるとすれば,それは一体如 何なる理由によるかということである。」( 〜 頁)との教授の自問に対する回答であ る。
「…,その一は,貸借対照表は営業期末における財産と負債の在高の比較によっ て正味財産を算定し,この三項目を適当に分類することによって,一時点にお ける財産の存在形態と取得源泉(または帰属関係)の現状を対照表示する企業 財政の一覧表であるとする見方である。この本質観にもとづいて,債権者保護 その他の立場から,一定の貸借対照表目的が設定され,これに適合する作成原 則または会計処理の手続が導き出されるのである。
これに反して,もう一つの学説は貸借対照表を独立の意義ある財務表として ではなく,利潤計算の補助手段と解するものであって,当該期間の利潤算定に 無関係な残余項目の繰越表にすぎないと解釈するのである。すなわち一事業年 度の利潤を計算するには,その年度に属する収益とこれに対応する費用を集計 比較することが必要であるが,この場合利潤計算に無関係な項目が後に残るこ とになる。これは次年度以降の利潤計算には必要なものであるから,洩れなく 集計して次年度へ引き渡さなければならない。この繰越の役割をなすものこそ 貸借対照表である。したがってこれは毎期の利潤計算を正確ならしめるための 補助的な財務表にすぎない。だからこの見方にしたがえば,貸借対照表を独立 の財務表として直接作成する原則や手続は全く問題にならない。」( 〜 頁)
岩田教授は,これら二つの学説については,ドイツにおいて 年代の後半に シュマーレンバッハ(Schmalenbach)が前者を静態論(statische Auffassung)とよび,
後者を動態論(dynamische Auffassung)となづけて,はっきり区別してからひとびと の注意をひくようになったという( 頁)。教授は,続いて,自らの構想する二種の 貸借対照表,すなわち財産法における「事実上の貸借対照表」ないし損益法における
「計算上の貸借対照表」と,静態論ないし動態論との間の関係に着目する。
貸借対照表本質観と二つの貸借対照表
静態論と動態論は貸借対照表の本質に関して意見を対立させてきたとされるが,岩
( ) 貸借対照表を巡る混乱の具体的な内容については,第五章「貸借対照表論の混乱」で 説明されることになる。
田教授は,静態論と動態論は実際上各々異なる性質を持つ別個の貸借対照表を問題に してきたのではないかと推測する。すなわち,静態論は事実上の貸借対照表を,動態 論は計算上の貸借対照表を,それぞれ考察の対象にしてきたのではないかと言うので ある。
「 現実の貸借対照表は前述の通りこの二種の対照表が混在するものであるが,
主として流動資産の部分に見える財産法の対照表の露頭に着眼して,ここから 貸借対照表の本質を統一的に説明しようとするのが静態論である。これに反し て固定資産の部分に半身をのぞかせている損益法の対照表をとらえて,貸借対 照表の性格を一義的に規定しようとするのが動態論にほかならない。何となれ ば,静態論は貸借対照表をもって一時点の財政一覧表と解釈し,これを独立に 作成する原則および手続を問題とするのである。したがって静態論が念頭にお く貸借対照表は財産法の貸借対照表以外の何物でもない。これに対して動態論 が貸借対照表をもってその期の利潤に無関係な残余項目の繰越表と解して,単 独にこれを作成する方法を問題にしないのは,まさに損益法の対照表を考えて いるからにほかならない。観察の対象がまったく別物なのである。本質観が異 なるのはけだし当然のことであろう。」( 頁)
上でいう財産法の対照表が事実上の貸借対照表を,損益法の対照表が計算上の貸借 対照表をそれぞれ指していることは,言うまでもない。静態論は事実上の貸借対照表 を,動態論は計算上の貸借対照表をもっぱら考察の対象としてきたのである。仮に,
貸借対照表には事実上の貸借対照表と計算上の貸借対照表という全く性質の異なる二 種のものが存在することを理解していれば,貸借対照表の本質に関する両学説の意見 の対立は意味を失う。異なる性格を持つ別々の貸借対照表を考察の対象とすれば,意 見が対立するのは当然だからである。
かくして,利潤計算の二元的構造こそが企業会計のあるべき姿であるとの主張が有 する意義,つまり会計学に果たす貢献は,次のように整理される。
「 対立の根源が異なることに気づかないで,あたかも同一の対照表を問題にし ていると思込んでいたところに,紛糾の根本的な原因があったのである。これ は企業会計における利潤計算の二元的構造を見究めなかった結果である。複式 簿記のヴェールを剝ぎとって,利潤計算の基本的関係を裸にすることは,この 意味において必要なのである。結果においては,結局同じことになるにもかか わらず,複式簿記によるスムーズな計算過程とはちがって,はなはだ廻りくど いプロセスをとる利潤計算の手続を,本来あるべき正しい形態として,あえて 指摘した所以はここにある。複式簿記的決算手続にとらわれるかぎり,貸借対 照表問題を混乱せしめた根本原因をつかむことは困難であろう。」( 頁)
Ⅴ 小 結
第四章「利潤計算における二元性の歪曲」では,企業における財産構成の複雑化に よって利潤計算の二元性が歪曲される様子がその理由とともに説明された。岩田教授 は,「そもそも企業財産の会計処理は,その財産の性質により,また企業の事情によっ て,つよく制約されるものである。わけても財産の在高または費消高の決定について はとくにそうであって,随意に好む手続を選択適用することはできない。」( 頁)と の理解に立って,棚卸資産会計と設備資産会計を例に挙げ,それらにおいて財産法と 損益法の二元性が歪曲されている有様とその理由を説明した。
棚卸資産会計に関しては,棚卸資産の払出量または現在量を算定する物量計算の方 法として,継続記録法と棚卸計算法に焦点が合わせられ,前者が損益法系統の手続,
後者が財産法系統の手続と整理された。棚卸資産の変動(数量変動)に関する原因の 分析を完全ならしめるためには,棚卸資産の数量計算のあり方として,継続記録法と 棚卸計算法とを結合し,それらを平行して実施することが必要となる。それゆえ,棚 卸資産の数量計算においては,損益法系統の手続(継続記録法)と財産法系統の手続
(棚卸計算法)の二元的構造こそがあるべき姿であることになる。
ところが,棚卸資産の数量計算における損益法と財産法の二元的構造は,実際上,
棚卸資産の種類とか,企業の事情によって成立しないことが少なくない。商業の場 合,棚卸資産会計において損益法と財産法の二元的構造が成立し難いのは,「取扱商
品の種類が多く,また倉庫の施設が充分でない」こと等のために損益法系統の手続で ある継続記録法を実施できず,財産法系統の手続である棚卸計算法のみに頼らざるを 得ないことに起因している。一方で,工業の場合,製品や主要原材料に関しては,損 益法と財産法の二元的関係は成立しているものの,補助材料やその他重要性の乏しい ものについては財産法系統の手続である棚卸計算法が一元的に採用される。両者を分 けるメルクマールは,会計処理(この場合は,払出数量または現在量の算定)対象の 利潤計算における重要性である。利潤計算において相対的に重要性の乏しい対象に関 しては,会計処理の経済性が考慮される。仕掛品に関しては,期末現在高を決定する に際して,個別原価計算の場合は継続記録法に,総合原価計算の場合は棚卸計算法に 各々頼っている。つまり,個別原価計算では損益法系統の手続のみが適用され,綜合 原価計算においては財産法系統における計算だけが適用されており,仕掛品に関して は損益法と財産法の二元的関係は成立していない。
次に,設備資産会計に関しては,設備資産の会計処理の根底には「一種の継続記録 法と棚卸計算法の対立が横たわっている。」との立場から,継続記録法を基礎とする 会計処理として償却法(減価償却)を,棚卸計算法を基礎とする会計処理として取替 法をそれぞれ位置付けている。
償却法(減価償却)は,設備資産の取得原価ないし帳簿価額を基礎にした費用計算 であるところから,損益法系統の手続とされる。また,償却法(減価償却)が廃棄法 から派生した方法であること,廃棄法は資産の消滅時に当該資産の原価を費用に振替 える点で棚卸資産会計における継続記録法と同質性を有することから,償却法は継続 記録法を基礎とした会計処理であるとの理解が導き出されている。
他方,取替法は,設備資産の現物を期末において棚卸評価する再評価法から転化し た方法であるところから,棚卸計算法を根底とする設備資産の会計処理として位置付 けられる。そして,設備資産に係る修繕費の処理の仕方が取替法の観念に基づくもの であることから,修繕費の処理という点で設備資産の会計処理の根底に棚卸計算法が 横たわっているとの解釈が導き出されている。
結局,設備資産会計における損益法と財産法の二元的関係に関しては,設備一単位
(全体)に関しては継続記録法を基礎にした「廃棄法−償却法」の流れ,すなわち損益法
系統の手続が,設備の構成部分に関しては棚卸計算法を根底とする「取替法−修繕費の 処理」の流れ,すなわち財産法系統の手続が存在する,との結論が導き出されている。
最後に,第四章では,利潤計算の二元的構造こそが企業会計のあるべき姿であると する岩田教授の主張が有する意義,つまり会計学に果たす貢献について説明がなされ ている。貸借対照表の本質を巡り静態論と動態論が意見を対立させてきた。両学説の 間では,貸借対照表作成原則から個別項目の会計処理手続にいたるまで,事々に意見 が分かれており,そのことが会計学を混乱せしめてきた。ところが,静態論と動態論 は実際上各々異なる性質を持つ別個の貸借対照表を問題にしてきたのである。すなわ ち,静態論は事実上の貸借対照表を,動態論は計算上の貸借対照表を,それぞれ考察 の対象にしてきた。それゆえ,貸借対照表の本質を巡り静態論と動態論の意見が対立 するのは当然であったし,それは無用の対立でもあった。利潤計算の本質的な構造,
すなわち,財産法と損益法の二元的な構造を的確に認識し,貸借対照表には事実上の 貸借対照表(財産法)と計算上の貸借対照表(損益法)という, 種の異なるものが 存在することを認識することで,貸借対照表の本質を巡る意見の対立の原因をつかむ ことができる。ここに,利潤計算の二元的構造を指摘し,それを分析することの意義 がある。岩田教授は,このように主張するのである。
続く第五章「貸借対照表論の混乱」では,貸借対照表の本質に係る静態論と動態論 の意見の対立がもたらした貸借対照表問題を巡る混乱について,その経緯や内容の説 明がなされることになる。(続)
参 考 文 献
井上( ):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑷」『香川大学経済論叢』第 巻第 号,
年 月, 〜 頁。
岩田( ):岩田巖『利潤計算原理』同文館, 年。
桜井( ):桜井久勝『財務会計講義(第 版)』中央経済社, 年。
武田( ):武田隆二『最新財務諸表論(第 版)』中央経済社, 年。