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「利潤計算原理」を読む⑶

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研究ノート

「利潤計算原理」を読む⑶

井 上 善 弘

Ⅰ は じ め に

本稿は,岩田巖教授の主著『利潤計算原理』の第一編「利潤計算原理」を精読する 試みの第三弾である!。今回は,「利潤計算原理」の第二章「企業会計における利潤の 照合」をテキストに沿って具に検討する。第二章では,岩田教授が「利潤計算原理」

において構想する利潤計算手続の模範となる型が明らかとされる。それは,計算上の 貸借対照表と事実上の貸借対照表の比較表を基礎にした利潤差異分析表にもとづく利 潤計算である"。この利潤差異分析表を用いることで,企業会計において,会計の本質 的特徴である「計算と事実の照合」は,計算上の利潤と事実上の利潤との間,及び個々 の財産負債項目に関する帳簿残高と実際在高との間,という異なった つのレベルで 行われることになる。これら つの照合により,利潤に関する「結果と原因の対照」

が完全な形で行われるとともに,利潤の実質的な正確性が保証されることになる。岩 田教授の考える利潤計算手続の本質,あるいは,利潤計算手続のあるべき姿が披瀝さ れている点で,第二章もまた「利潤計算原理」において重要な位置を占めていると言 えよう。以下において,第二章における教授の主張を主たるテーマ毎に順を追って検 討していくことにする。

( ) 本稿と併せて,井上(

a)と井上( b)を参照されたい。

( ) 貸借対照表には「計算上の貸借対照表」と「事実上の貸借対照表」という異なる 種 類が存在するとするのが岩田教授独自の主張である。これらの意味内容については後述 する。なお,前者で算定表示されるのが「計算上の利潤」であり,後者で算定表示され るのが「事実上の利潤」である。

(2)

Ⅱ 財産変動に係る「結果と原因の対照」の目的

前章(第一章)において,岩田教授は,会計の本質的特徴である「計算と事実の照 合」は財産変動に係る結果と原因の完全な対照を保証するために行われる,と説い た。それでは,会計を構成する三つの要素のうちのひとつである,この財産変動に関 する「結果と原因の対照」は,そもそも,いかなる目的で行われるのか。岩田教授は,

この問題を経済単位としての消費経済と営利経済に分けて議論している。というの も,経済単位の種類によって財産変動に係る「結果と原因の対照」を行う目的が異な るからである。第二章は,財産変動に係る「結果と原因の対照」を行う目的について,

これを消費経済と営利経済に分けて議論することからはじまっている。

消費経済の会計における「結果と原因の対照」

まず,消費経済の会計についてはどうか。ここにおいて,消費経済とは,営利を目 的としない経済単位を指している。岩田教授は次のようにいう。

「 まず,消費経済の会計についてみるに,ここで結果と原因を対照せしめるの は,財産の管理を行おうとするためである。小にしては個人の世帯の会計か ら,大にしては国家の官庁会計にいたるまで,この種の目的のために,財産変 動の結果計算と原因記録が行われるのが普通である。この場合管理されるべき 財産は主として金銭であって,経済単位の規模の拡大にともない,ひろくその 他の財産の管理の対象となることはあるが,消費経済一般としては,付随的な 意義しかもたぬことが多い。」( 頁)

消費経済の会計において,財産変動の結果と原因を対照させるのは,財産,とりわけ 金銭を管理するためであるというのである。もっとも,経済単位の規模が拡大してく ると,消費経済の会計においても金銭以外の財産の管理が重要性を増すことになる。

しかし,岩田教授による消費経済の会計に関する説明は,営利経済の会計との比較を 主眼としているため,財産の中でも主として金銭を扱う経済主体を例に挙げている。

(3)

教授が挙げる例のひとつは,ごく普通の世帯の家計である。家計においては,「金 銭の管理が収支の均衡をはかる意味で行われる」( 頁)のである。それでは,金銭 の管理が,現金という財産の変動に関する「結果と原因の対照」を通してどのように 行われるのか。ここでも,「計算と事実の照合」が不可欠の手続となる。岩田教授は,

現金出納帳の帳簿残高と実際調査による現金在高との間の突合せにより両者の一致を 確かめることが,ここにいう「計算と事実の照合」に相当すると説明する。そして,

両者が一致しない場合には,「その原因を調査して,記録の誤謬,脱漏を訂正し,帳簿 残高を実際在高に一致せしめるのである。これによって実際の事実と,その由って来 る原因との完全なる対照が行われ,収支状況に関する反省の有効な資料が求められ る。」( 頁)と説明する。このように,家計において,金銭たる財産の変動につき その結果と原因を対照させるのは,収支状況に関する判断に役立つ有効な資料の提供 を通して収支の均衡をはかる,という意味で金銭の管理を行うためであると言える。

家計は自分の金を自分で使うケースであるが,岩田教授は,等しく営利を目的とし ない消費経済であっても,他人のものを委託されて使う場合は,結果と原因を記録計 算して両者を対照せしめる意味が家計の場合とは異なると指摘する。ここでは,使途 を定めて財産の運用を委託された場合を想定している。岩田教授は,こういった財産 の委託受託関係において,会計が受託者のアカウンタビリティ(Accountability)を区 分確定する機能をはたすと主張する。

「 受託者は財産受入から払出までの間において,委託された財産が如何に運用 保全されたかの顚末を説明する責任(Accountability)を負うものであるが,会 計はこのアカウンタビリティを区分確定する機能をはたすのである。たとえば 金銭の委託をうけて運用する場合,受託者は出納帳を設けて収支を記入する が,借方に増加額を記入することは,受入れた現金に関して,受託者がアカウ ンタビリティを負うことを確定することである。また,正当な事由により支払 が行われた場合,貸方に減少額を記入することは,支払われた額に関する限り 受託者がアカウンタビリティを解除されたことを意味する。」( 〜 頁)

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現金出納帳の借方記入によりアカウンタビリティの設定を,他方で,その貸方記入 によりアカウンタビリティの解除を,それぞれ会計は行っているのである。それでは,

この場合,財産変動に関する「結果と原因の対照」はどのようなやり方でなされるの か。岩田教授は,なおもアカウンタビリティの区分確定という観点から,次のごとく 説明する。

「 出納帳において貸借の残高があるかぎり,この部分に関するアカウンタビリ ティは,なお受託者が負うているのである。だが,ここで現金の実地棚卸が行 われ,この実際在高と帳簿残高との一致が認められる場合には,残高に関して も,受託者のアカウンタビリティは解除されることになる。帳簿残高と実際在 高が符合するということは,記録計算が洩れなく正確であったことを示すとと もに,受託者が保管の任務を果し,現金の保全が完全であったことを立証する ものだからである。だが,もし帳簿残高と実際在高とに差異がみとめられる場 合には,受託者はその原因を究明して申開きをする責任があり,事情によって は賠償の責を負うことになるかもしれない。」( 頁)

ここでは,帳簿残高と実際在高との間の照合,すなわち,「計算と事実の照合」が,

受託者のアカウンタビリティの解除に関して重要な役割をはたしていることになる。

両者が一致すれば受託者のアカウンタビリティは解除される。差異があれば,受託者 はその原因を究明しなければならない。また,両者が一致すれば,委託された財産

(現金)に関する結果と原因の完全な対照が保証されたことになる。結局,財産の委 託受託関係においては,「結果と原因の対照」は,受託者のアカウンタビリティ(と りわけ,残高に関するアカウンタビリティ)の解除の是非を決定するために行われる と言える。

家計のごとく自分の金を自分で使うケースと,財産の委託受託関係にみられるよう な他人のものを委託されて使う場合とでは,「結果と原因の対照」の手続に関連して もうひとつ異なる意味合いがある。それは,後者の場合,「結果と原因の対照」の手 続は,「受託者以外の者によって行われるか,受託者自身が行うにしても,独立の立

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場から監査が行われるのでなければ,信憑性がない」( 頁)ということである。こ のことは,営利経済の会計において行われる「結果と原因の対照」の手続については なお一層当てはまると言える。

営利経済の会計における「結果と原因の対照」

それでは,営利経済の会計,すなわち企業会計において,財産変動の「結果と原因 の対照」たる手続は,いかなる目的で行われるのか。岩田教授は,まず,消費経済の 会計と比較した場合,企業会計はそもそも「計算さるべき結果の内容において根本 的な差異があり,したがってまたこれと対照さるべき原因の範囲についても,おのず から相違が生ずる」( 頁)と説明する。そして,企業会計における結果計算の内容 について,「企業会計において,財産変動の結果として計算されるのは利潤である。

もっと正確にいえば,利潤に相当する財産の在高である。」( 頁)とする。また,

企業会計において原因として記録されるのは,「利潤の由来,すなわち,費用収益と 呼ばれる特殊の財産収支の事由である。」( 頁)と喝破する。

こういった岩田教授の思考は,教授による会計の定義,すなわち,「会計とは一経 済単位に属する財産について,その変動を継続的に記録し,財産変動の結果と原因を 対照する手続である」( 頁)との定義を,営利を目的とする企業会計に当てはめた 結果として得られたものである。企業会計に関していえば,この定義にいう原因と対 照さるべき財産とは利潤であり,原因とは利潤をもたらした費用収益を指すのであ る。また,利潤もまた財産であるとすると,結果として「利潤計算もまた一種の財産 在高計算であること」( 頁)になる。岩田理論では,「会計の対象は財産である」と する考え方が徹頭徹尾貫かれていると言えよう!

続いて岩田教授は,「費用」・「収益」・「利潤」といった重要な概念に関する定義付 けをしながら,利潤計算の本質に関する持論を次のように展開する。

( ) 企業会計において財産変動に関する「結果と原因の対照」が行われる目的について,

岩田教授は明確な形では言及していない。しかし,この後の理論展開から判断して,そ れが「利潤の実質的正確性の保証」であると考えて間違いないと思われる。

(6)

「 業務のために財産を費消することを費用といい,その対価として財産を取得 することを収益という。利潤とは,かかる費用収益の活動を通じて得た財産の 増加高にほかならない。この種の特定の性質を有する財産変動を選択して,そ の変動原因を分析記録するとともに,変動の結果を算定するのが利潤計算であ る。すなわち費用として財産を喪失し,収益として財産を取得した結果,利潤 として幾何の財産を増殖せしめたかを計算捕捉することである。したがって利 潤計算は,利潤に相当する財産の在高計算である。ただ収支計算が金銭という 特定財産の在高計算であるに対して,利潤計算は不特定なる財産の在高計算で ある点が相違するのみである。」( 〜 頁)

費用収益の認識測定に関する諸問題は,後の章で論じられることになるためここで は言及しない。上記の引用で重要な点は,利潤計算が「利潤に相当する財産の在高計 算」であること,またそれが「不特定なる財産の在高計算」であることの指摘であろ う。当然とはいえ,「不特定なる財産の在高計算」であるところに,利潤計算が収支 計算とは異なる複雑な様相を呈する所以があるのである。

Ⅲ 企業会計における利潤の照合

利潤の形式的照合

営利経済の会計,すなわち企業会計においても,消費経済の会計と同様に,財産変 動に係る「結果の計算」・「原因の記録」・「結果と原因の対照」という つの手続がな される。しかしながら,企業会計においては,企業に属する通常の財産に加えて,利 潤という「不特定なる財産」の変動に関してもこれら つの手続が行われることにな る。それゆえ,「結果と原因の対照」を完全なものとするために,利潤に関しても,「計 算と事実の照合」が不可欠となる。ところが,利潤は「不特定なる財産」であるため,

通常の特定なる財産のようなやり方で「計算と事実の照合」を行うことはできない。

岩田教授は,「企業会計において,利潤に関する財産変動の結果の計算と原因の記 録が行われるとすれば,それは具体的にはどんな形態をとって現れるのであろうか。

とくに,利潤に関する計算と事実の照合は,どういう仕方で行われるのであろう

(7)

支出 収支計算表 収入

借 入 金 利 息

貸 付 金 利 息

現 金 在 高

(第一表)

か。」( 頁)と問題提起をしたうえで,簡単な計算例を設けてこれらの問題を解明 していく。ここでは,小規模の金融業を前提にして,当該企業の期末時点での収支計 算表が以下の第一表( 頁)のごとくであったとする!

上記の収支計算表を基礎に利潤を計算するにはどうすればよいのか。岩田教授は,

「この収支計算表の原因記録を調査して,費用たる支出と収益たる収入の額を選択し 集計比較するのである」( 頁)と説明する。本例においては,費用たる支出は「借 入金利息( , 円)」と「経費( , 円)」であり,収益たる収入は「貸付金利息

( , 円)」のみである。よって,利潤は, , 円−( , 円+ , 円)= , 円として算出されることになる。これらの項目を一表に集計することで下記の第二表

頁)として損益計算書が導かれる。

先ほど引用したように,岩田教授は,「業務のために財産を費消することを費用と いい,その対価として財産を取得することを収益という」( 頁)と定義している。

つまり,費用は財産の減少を伴い,収益は財産の増加をもたらすことになる。本例に

( ) 小規模の金融業を前提にするのは,ここで考察対象とする企業においては,棚卸資産 や固定資産がほとんど存在しないこと,あるいは重要性が低いことを仮定せんがためで あると考えられる。なお,収支計算表について岩田教授は,「出納帳の原因記録を科目 に分類集計して,簡明に金銭収支の原因と結果を対照せしめたものが,いわゆる収支計 算表である」( 頁)と説明している。

(8)

即して言えば,費用(借入金利息及び経費)として , 円の財産を費消し,収益(貸 付金利息)として 円の財産を取得した結果,純額として財産が 円増加 するのである。

しかしながら,岩田教授は,上記の損益計算書(第二表)で表された利潤について,

「帳簿記録にもとづく費用と収益の比較によって算定されたものであって,帳簿上の 利潤,計算上の純益にすぎない。換言すれば,収益としてこれだけ財産が増加し,費 用としてこれだけ財産が減少したと記録されてあるから,これだけ財産が利潤として 増加しているは!!!という意味のいわゆる利潤の当在高,独逸語でかりに表現すれば

Sollgewinn

である。」( 頁。但し,傍点は引用者。)と説明する。そこで,この損益

計算書における計算上の利潤が現実に存在するかどうかについて,つまり,利潤に相 当する財産の増加が実際に生じているかどうかについて確かめる必要がある。そし て,損益計算書で示された計算上の利潤とこの実際上の利潤を照合することで,換言 すれば,利潤に関する「計算と事実の照合」を行うことで,利潤に関する財産変動の 結果と原因の完全な対照が保証されることになる。

ところが,現金や棚卸資産等といった特定の財産の場合とは異なり,利潤に関して

「計算と事実の照合」を行うことは容易ではない。それは,「利潤に対応するものは不 特定の財産であって,この現金が利潤であるとか,この債権が純益であるというよう に,具体的に指示しうる性質のものではない」( 頁)からであり,また,「利潤と して取得した財産は,営業活動の元本となる企業財産のなかに混入し,不可分な関係 で存在する」( 頁)ためである。

損益計算書

借 入 金 利 息 貸 付 金 利 息

(第二表)

(9)

岩田教授は,期末において企業に属する一切の財産の在高を求め,これを確定した うえで,その中から利潤として増加せしめられた財産の在高を検出するというアプロ ーチを採る。そこで,まず第一表の収支計算表から企業財産の期末在高を求めると,

現金 円,貸付金 円及び預金 円が見て取れる。よって,財産の 期末在高が合計で 円となる。ここから,利潤として増加せしめられた財産の 在高を検出することになる。このプロセスに関する岩田教授の説明は,以下のように,

よどみがなく,かつ簡明である。

「 一体期末における財産在高は,通常その一部は借入金として外部から借入れ られ,一部は資本金として元入されたものであって,これに相当する財産は業 務運営の成果として,取得されたものではない。そこでまず期末の財産在高か らその時の負債在高を控除する。そうすると期末の正味財産が決定されるが,

これは企業主の企業財産に対する持分を示す額である。つぎにこの正味財産か ら企業主が元入した資本の額を控除する。しかるときになお残余財産があれ ば,この財産部分は企業主の元入によるものでもなければ,債権者から借入れ たものでもないのであって,これこそが企業が利潤として取得した財産であ る。かくして,利潤に相当する財産在高は,期末の財産から期末の負債および 資本の合計を差引くことによって決定されるのである。」( 頁)

第一表の収支計算表には,資本金は 円,借入金は 円と記載されて いる。よって,上記の引用文に示された手続によれば,利潤は次のように計算される ことになる。

(現金 円+預金 円+貸付金 円)−(資本金 円+借入金

円)=利益金 これを変形すると,

現金 円+預金 円+貸付金

=資本金 円+借入金 円+利益金 この計算過程を一表に示したものが次の第三表の貸借対照表( 頁)となる。

(10)

この貸借対照表(第三表)で示された利潤と,先ほどの損益計算書(第二表)の利 潤を照合すると,両者が完全に一致していることがわかる。そうすると,これにより,

損益計算書における計算上の利潤が現実に存在すること,つまり,利潤に相当する財 産の増加が実際に生じていることが確かめられたことになるのであろうか。答えは否 である。岩田教授は,その理由を次のように説明する。

「 一体この貸借対照表は実際の事実を代表するものではなく,収支記録を基礎 として作成された計算上の貸借対照表である。この種の貸借対照表による利潤 は事実上の利潤ではなくして,計算上の利潤にすぎない。これは損益計算書の 利潤とまったく同じ性質のものである。したがってこの種の照合によって一致 することが確かめられたからといって,利潤の現実性は決して保障されたこと にならないし,利潤に関する原因分析の完全性は立証されたことにもならない のである。」( 頁)

岩田教授は,ここにいう,損益計算書(第二表)の利潤と貸借対照表(第三表)の 利潤との照合は「計算と計算の照合」であって「計算と事実の照合」ではないという。

それは,両者がいずれも収支記録(帳簿記録)を基礎としているからである。結局,

この場合の照合は,利潤の形式的照合ということができるのである!

( ) 第一表(収支計算表)から第二表(損益計算書)と第三表(貸借対照表)が導出され る過程を説明している第二章第二節のタイトルが「利潤の形式的照合」であることが,

これを物語っている。

貸借対照表

(第三表)

(11)

また,岩田教授は,第三表の貸借対照表のように帳簿記録にもとづいて作成される 貸借対照表を「計算上の貸借対照表」と名づけ,後述する実際調査にもとづいて作成 される貸借対照表である「事実上の貸借対照表」と明確に区別している。貸借対照表 には「計算上の貸借対照表」と「事実上の貸借対照表」という異なる 種類が存在す るというのが岩田教授独自の主張であり,これら 種の貸借対照表は教授の説く利潤 計算原理の中核をなす概念と言える!

利潤の実質的照合

それでは,利潤に関する「計算と事実の照合」はどのような方法で行われるのか。

そのために,利潤としての財産の実際上の増加高(事実上の利潤)をどうやって確か めればよいのか。事実上の利潤を算定する際の基礎となるのは,やはり,期末におけ る企業の財産在高である。しかし,計算上の利潤を算定する場合とは異なり,財産の 帳簿残高ではなく実際調査にもとづく実際在高が参照される。岩田教授は,次のよう に説明する。

「…事実上の利潤を算定する場合は,期末現在の財産と負債をできるかぎり実際 の事実,現実の状態によってこれを確定するのである。つまり帳簿からはなれ て現物について実際の調査を行うことである。実地棚卸の可能な項目はこれに よるが,不可能な項目については,それぞれ,その種類によって適当な実際調 査の方法に訴えるほかはない。要は帳簿の記録に頼らないということである。

(中略)たとえば金銭については現金の手元在高を勘定し(Account)預金につ いては銀行の通帳や証書を調べるとか,または銀行に確認を求め,貸付金に対 しては借用証書を点検するとか,貸付先に確認をもとめ,また貸付先の支払能

( ) 田中教授は,岩田理論の特徴について,「岩田氏は,よく論文に「二つの…」という 標題を使ったこともあって,いわゆる二元論者だったと誤解されることがある。しかし,

天と地というような統一されていない二つの契機で説明するような,二元論者ではな かった。反対に,事物を諸契機の対立と統一で説明するという,弁証法的二元論者で あった。このことはあまり知られていない。」(田中( ), 頁)と述べている。岩 田理論を理解する上で重要な示唆を与える言であると思われる。

(12)

力についても調査を行い,借入金に対しては証書の控を検査するとか,債権者 の確認をもとめて,できるかぎり実際の事実として存在する在高を確定する。

さらにまた,帳簿に記載されている項目ばかりでなく,記載されていない財産 または負債についてもその有無を調べて計上することも必要である。」( 頁)

岩田教授は,こういった実際調査によって確定した財産負債の明細を記載した表こ そが本来の意味での財産目録であり,これを集約して貸借対照表を作成すると,教授 の言うところの「事実上の貸借対照表」が成立するとする。そして,この「事実上の 貸借対照表」で算定される利潤こそが「事実上の利潤」であると言うのである。教授 は,期末現在の財産負債を実際調査した結果として以下の事実( 頁)が判明した ものと仮定して,事実上の利潤を算定するプロセスを示している。

一 預金実際在高(通帳残高) 円。

帳簿残高に対して 円増加したのは,預金利子が追加記入されたためであ るとする。

二 現金の実際在高 円。

三 貸付金の実際在高 円。

帳簿残高 円の中, , 円は回収不能であるとする。

四 借入金利息の前払高 円。

五 貸付金利息の未収高 円。

六 借入金の実際在高 円。

七 経費の未払高 円。

上記の実際調査の結果をもとに財産目録が作成され,これを集約すると,以下に示 す第四表( 頁)として事実上の貸借対照表が調整される。

岩田教授は,この第四表の貸借対照表(事実上の貸借対照表)における利潤( , 円)こそが,「事実上の利潤であって,これを損益計算書における計算上の利潤と照 合することこそ,真の意味における事実と計算の照合である。この照合によって両者

(13)

の符合が確かめられたとき,はじめて損益計算書の正確性が証明されたことになるの である」( 頁)と喝破する。つまり,損益計算書(第二表)における利潤と事実上 の貸借対照表(第四表)における利潤との照合こそが,利潤に関する「計算と事実の 照合」であり,この照合によって損益計算書の正確性が,ひいては利潤の実質的正確 性が保証されたことになるのである!。また,この照合こそが,利潤の実質的照合にほ かならない"

ところが,財産負債の実際在高をもとに事実上の貸借対照表を作成し,そこにおいて 事実上の利潤を算定すればすべてが事足りるわけではない。利潤に係る財産変動に関 する結果と原因の完全な対照がまだ行われていないからである。計算上の貸借対照表

(第三表)における利潤( , 円)と事実上の貸借対照表(第四表)における利潤

( , )との差異を分析し,「この差異が如何なる原因から生じたかをつきとめて,

損益計算書に補足計上し,利潤に関する財産変動に関して,結果と原因を完全に対照 せしめねばならない」( 頁)のである。岩田教授は,両表における利潤の差異を,

次に示す第五表の利潤差異分析表( 頁。但し一部変更。)を用いて分析する。

( ) 事実上の貸借対照表(第四表)における利潤は,損益計算書(第二表)における利潤 だけではなく,計算上の貸借対照表(第三表)における利潤とも照合される。この後す ぐに説明する利潤差異分析表では,計算上の貸借対照表と事実上の貸借対照表の比較を 基礎とする分析が行われる。

( ) 事実上の貸借対照表の導出と,それと損益計算書との比較を論じた第二章第三節のタ イトルが「利潤の実質的照合」であることが,これを物語っている。

貸借対照表

未 払 経 費

前 払 利 息

未 収 利 息

(第四表)

(14)

上記の利潤差異分析表は,収支計算表から導かれた計算上の貸借対照表(第三表)

と,財産負債の実際調査にもとづき作成された事実上の貸借対照表(第四表)との比 較表となっている。この種の比較貸借対照表によって利潤差異分析が可能となる理由 について,岩田教授は次のように説く。

「 利潤差異はいうまでもなく,計算上の利潤と事実上の利潤との較差である。

後者は事実上の貸借対照表の結果であって,換言すれば個々の財産負債の実際 在高にもとづいて計算されたものである。これに対して前者が損益計算書の結 果であると同時に,計算上の貸借対照表の結果でもあることは前述の通りで あって,したがってこれは財産負債の帳簿残高から計算されたものにほかなら ない。かようにして,事実上の利潤が財産負債の実際在高から計算され,計算

利潤差異分析表

科目 計算上の貸借対照表 事実上の貸借対照表 利潤差異 借方 貸方 借方 貸方 借方 貸方 差異科目 ・・・・・・・

・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ 預 金 利 息 貸 付 金 ・・・・・・・ ・・・・・・・ 貸 倒 償 却 前 払 利 息 ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ 借入金利息 未 収 利 息 ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ 貸付金利息 資 本 金 ・・・・・・・ ・・・・・・・

借 入 金 ・・・・・・・ ・・・・・・・

未 払 経 費 ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・

潤 ・・・・・・・ ・・・・・・・

(第五表)

(15)

上の利潤が,財産負債の帳簿残高から決定されたものであるとすれば,この二 種の利潤の差異は財産負債の実際在高と,それぞれこれに対応する帳簿残高と の差額の集計に等しいはずである。それ故,利潤差異は財産負債を構成する 個々の項目の実際在高と,それぞれこれに対応する個々の項目の帳簿残高との 個別的な差異に分解して示すことができる。」( 〜 頁)

約言するならば,計算上の利潤と事実上の利潤との較差である利潤差異(全体とし ての差異)は,財産負債を構成する個々の項目の実際在高(事実上の貸借対照表に表 示)と帳簿残高(計算上の貸借対照表に表示)との差異(個別的な差異)に分解する ことができるというのである。次に重要な点は,個別的な差異の各々が利潤を増加さ せる原因となるものか,利潤を減少させる原因となるものかという点である。これを 判断する際の拠り所として,岩田教授は以下の原則( 頁)を提示する。

㈠ 財産の帳簿残高が実際在高より大なる場合,その差異は費用である。

㈡ 財産の帳簿残高が実際在高より小なる場合,その差異は収益または費用戻入で ある。

㈢ 負債の帳簿残高が実際在高より大なる場合,その差異は収益である。

㈣ 負債の帳簿残高が実際在高より小なる場合,その差異は費用または収益戻入で ある。

上記の つの原則の意味するところを逐一確認していくことにしたい。これら つ の原則に共通する点は,当然とはいえ,帳簿残高を実際在高に修正する点にある。

まず,㈠に関しては,財産の帳簿残高を実際在高に修正するために,当該財産の帳 簿残高を減少させる必要があり,それゆえ当該財産勘定への貸方記入がなされること になる!。これに対応する借方記入としては,理論上,「資本の減少」・「収益の消滅」・

「費用の発生」が想定可能である。しかし,ここでは利潤を増加又は減少させる原因

( ) ここにおける財産とは,積極的財産,つまり資産を指す。

(16)

を探求しているため,「資本の減少」は考察の対象からは除かれる。また,「収益の消 滅」は収益の取消しを意味するが,重要性が乏しいとの判断で原則には含められてい ないものと思われる。したがって,この場合,帳簿残高と実際在高との差異は費用で あるとみなされる。第五表の利潤差異分析表では,貸付金がこの場合に該当し,帳簿 残高と実際在高との差異は,貸倒償却として追加的に費用計上される。

次に,㈡に関しては,財産の帳簿残高を実際在高に引き直すために,当該財産の帳 簿残高を増加させる必要があり,それゆえ当該財産勘定への借方記入がなされること になる。これに対応する貸方記入として,理論上,「資本の増加」も想定可能である が,ここでは利潤を増加又は減少させる原因を探求しているため,「資本の増加」は 考察の対象からは除かれる。そこで,この場合,帳簿残高と実際在高との差異は収益 又は費用の戻入であるとみなされる。第五表の利潤差異分析表では,預金,前払利息 及び未収利息がこの場合に該当する!。預金に関しては,帳簿残高と実際在高との差異 は,預金利息として追加的に収益計上がなされる。また,前払利息に関しては,帳簿 残高と実際在高との差異は,借入金利息に係る費用の戻入として処理される。さら に,未収利息に関しては,貸付金利息として追加的に収益計上がなされる。

さらに,㈢に関しては,負債の帳簿残高を実際在高に合わせるために,当該負債の 帳簿残高を減少させる必要があり,それゆえ当該負債勘定への借方記入がなされる ことになる。これに対応する貸方記入として,理論上,「資本の増加」も想定可能で あるが,ここでは利潤を増加又は減少させる原因を探求しているため,「資本の増加」

は考察の対象からは除かれる。また,「費用の消滅」も理論上は想定可能であるが,

「収益の消滅」の場合と同様,重要性が乏しいとの判断で原則には含められていない ものと思われる。そこで,この場合,帳簿残高と実際在高との差異は収益であるとみ なされる。なお,第五表の利潤差異分析表では,この場合に該当する例は示されてい ない。

最後に,㈣に関しては,負債の帳簿残高を実際在高に合わせるために,当該負債の 帳簿残高を増加させる必要があり,それゆえ当該負債勘定への貸方記入がなされる

( ) 前払利息と未収利息に関しては,帳簿残高は「 」であると考える。

(17)

損益計算書

借 入 金 利 息 貸 付 金 利 息

預 金 利 息

貸 倒 償 却

(第六表)

ことになる。これに対応する借方記入として,理論上,「資本の減少」も想定可能で あるが,ここでは利潤を増加又は減少させる原因を探求しているため,「資本の減少」

は考察の対象からは除かれる。そこで,この場合,帳簿残高と実際在高との差異は,

費用または収益戻入であるとみなされる。第五表の利潤差異分析表では,未払経費が この場合に該当し,帳簿残高と実際在高との差異は,経費として追加的に費用計上さ れる!

第五表の利潤差異分析表に記載されている差異科目(収益 項目,費用戻入 項目,

費用 項目)を第二表の損益計算書に追加的に記入・整理すると,第六表( 頁)と して以下に示す損益計算書が導出される。岩田教授によれば,この損益計算書(第六 表)は,利潤に係る原因分析の不備が訂正された,「利潤の結果と原因の完全なる対 照表」( 頁)としての性格を有していることになる。

先ほど述べたように,貸借対照表には「計算上の貸借対照表」と「事実上の貸借対 照表」という異なる 種類が存在するというのが岩田教授独自の主張であり,これら 種の貸借対照表は教授の説く利潤計算原理の中核をなす概念と言える。これら 表 の相違点について,岩田教授は次のようにまとめている。

( ) 未払利息の帳簿残高は「 」であると考える。

(18)

「…,企業会計においては,貸借対照表はひとつあるだけではない。二つの貸借 対照表が存在する。すなわち,一は収支計算表から,費用収益以外の残余項目 を集計して得られる第三表として示した計算上の貸借対照表であり,他は財産 目録を基礎とした第四表にみるような,事実上の貸借対照表がこれである。両 者は外見的にはきわめて類似した形態を示しているが,会計上の性質は決して 同一ではない。それは成立の源泉を異にするからである。一は帳簿記録の集計 であって,いわば圧縮された収支計算表である。これに反して他は事実調査の 結果であって財産目録の集約である。」( 頁)

Ⅳ 小

これまで,「利潤計算原理」の第二章「企業会計における利潤の照合」をテキスト に沿いながら具に検討してきた。岩田教授は,前章(第一章)において,教授の構想 する会計の定義を示すとともに,会計の本質的特徴が「計算と事実の照合」にあると 主張した。また,岩田教授は,この「計算と事実の照合」は会計を構成する つの手 続のうちの財産変動に係る結果と原因の完全な対照を保証するために行われる,と説 いていた。これを受けて,第二章では,岩田教授は,この財産変動に関する「結果と 原因の対照」がいかなる目的で行われるのかについて,経済単位としての消費経済と 営利経済に分けて論じている!

消費経済の会計の場合,財産変動の結果として計算されるのは財産,とりわけ金銭 であり,財産変動に関する結果と原因の対照が行われるのは,収支の均衡をはかると いう観点から金銭を管理するためである。財産たる金銭に係る結果と原因の完全な対 照は,現金出納帳の帳簿残高と実際調査による現金在高との照合,すなわち,金銭に 関する「計算と事実の照合」によって保証される。

一方,営利経済の会計,すなわち,企業会計の場合,財産変動の結果として計算さ れるのは利潤,より正確にいえば利潤に相当する財産の在高であり,原因として記録

( ) 笠井教授は,岩田理論の性格について「「原因と結果の対照」という側面は,「計算と 事実との照合」と共に,(岩田教授による−引用者注)二元的利潤計算構造論の理論的 性格を規定しているとみるべきであろう。」(笠井( ), 頁。)と説明している。

(19)

されるのは利潤の由来,すなわち,費用収益とよばれる財産収支の事由である。企業 会計の場合,財産変動に関する結果と原因の対照が行われるのは,利潤の実質的正確 性を保証するためであると考えられる。企業会計においては,利潤に相当する財産の 在高に関して結果と原因の対照が必要となる。これを完全な形で保証するためには利 潤に関する「計算と事実の照合」を行わなければならない。利潤に関する「計算と事 実の照合」は,計算上の貸借対照表(あるいは損益計算書)における利潤と事実上の 貸借対照表における利潤の照合として行われる。この照合こそが利潤の実質的照合で あり,これにより利潤の実質的正確性が保証されることになる。但し,利潤に関する 結果と原因の対照を完全なものとするために,計算上の利潤と事実上の利潤の差異

(利潤差異)の原因を解明しなければならない。利潤差異は,計算上の貸借対照表と事 実上の貸借対照表の比較表を基礎にした利潤差異分析表によって,利潤を増加させる 原因(収益あるいは費用の戻入)または減少させる原因(費用あるいは収益の戻入)と して個別的な差異に分解される。ここにおいても,個々の財産負債項目に関する帳簿 残高(計算上の貸借対照表に表示)と実際在高(事実上の貸借対照表に表示)との照 合として,「計算と事実の照合」が行われる。このように,企業会計の場合,「計算と 事実の照合」は,計算上の利潤と事実上の利潤との間,及び個々の財産負債項目に関 する帳簿残高と実際在高との間という異なった つのレベルで行われることになる。

第二章で示された例は,小規模の金融業を前提としたきわめて簡単な計算例であっ た。しかしながら,計算上の貸借対照表と事実上の貸借対照表の比較表にもとづく利 潤差異分析表による利潤計算は,岩田教授が「利潤計算原理」において構想する利潤 計算手続の模範となる型,あるいは利潤計算手続のあるべき姿を示すものと言える。

続く つの章(第三章・第四章)では,企業会計における利潤計算が実際上この模範 となる型から乖離していることと,その理由が説明されることになる。(続)

参 考 文 献

井上(

a):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑴」『香川大学経済論叢』第

巻第 号,

年 月, 頁。

井上(

b):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑵」『香川大学経済論叢』第

巻第 号,

(20)

月, 〜 頁。

岩田( ):岩田巖『利潤計算原理』同文館, 年。

笠井( ):笠井昭次「岩田理論の現代的意義(二)−「会計管理のための簿記」観を巡っ て−」『会計』第 巻第 号, 年 月, 〜 頁。

田中( ):田中章義「岩田巖氏における会計理論の形成(上)−静態論,動態論および有 機態論の対立−」『産業経理』第 巻第 号, 年 月, 〜 頁。

参照

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