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「利潤計算原理」を読む⑷

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(1)

研究ノート

「利潤計算原理」を読む⑷

井 上 善 弘

Ⅰ は じ め に

本稿は,岩田巖教授の主著『利潤計算原理』の第一編「利潤計算原理」を精読する 試みの第四弾である。今回は,「利潤計算原理」の第三章「利潤計算手続の顚倒」を 詳細に検討していく。前稿で指摘したように,第二章「企業会計における利潤の照合」

では,岩田教授が「利潤計算原理」において構想する利潤計算手続の模範となる型が 明らかにされた。それは,計算上の貸借対照表と事実上の貸借対照表の比較表を基礎 にした利潤差異分析表にもとづく利潤計算である。ところが,現実の企業会計におい て利潤計算が行われる実際のプロセスは,教授の構想する利潤計算手続のあるべき姿 と大きく異なっている。岩田教授は,その主たる原因ないし理由のひとつとして,複 式簿記が企業会計の記録形式として採用されていることを指摘する。第三章では,企 業会計における利潤計算手続のあるべき姿が,複式簿記によって顚倒かつ隠蔽されて いるとの教授の主張が展開される。以下では,第三章における教授の主張を主たるテ ーマ毎に順を追って検討していくことにする。

( ) 井上( c)を参照されたい。

( ) 岩田教授は,第一章の掉尾( 頁)において,「実際上はとにかくとして,少なくと も理論的には会計と簿記とは区別しておかねばならない。会計から観念的に簿記形式を 剝ぎとっておくということは,当面の課題を究明するために必要なのである。かくして はじめて,損益計算書と貸借対照表との間に秘められた,計算関係を解明する鍵が求め られるのである。」と述べて,第三章の議論の伏線としていた。井上( b)を参照さ れたい。

(2)

Ⅱ 財産法と損益法の必然的な結合関係

財産法と損益法の特徴と限界

第三章において,はじめて,利潤計算の方法としての財産法と損益法という概念に ついて言及がなされる。もっとも,岩田教授が構想する財産法とは第二章で説明され た事実上の貸借対照表をベースに行われる利潤計算であり,また,損益法とは損益計 算書(計算上の貸借対照表)をベースに行われる利潤計算のことを指す。それゆえ,

小規模の金融業を前提としたきわめて簡単な計算例を通してではあったものの,教授 の構想する財産法と損益法のアウトラインは,すでに第二章で示されていたことにな る。第三章での,あるべき利潤計算手続に関する教授の解釈や説明も,以上の前提の 下で進められることに留意する必要がある。なお,財産法と損益法のより詳細な説明 は,それぞれ第 章と第 章でなされることになる。

まず,岩田教授は損益法と財産法の通説的な理解について,「損益法の計算は費用 と収益を比較して利潤を決定するものであって,この計算の過程は損益計算書に示さ れる。これに対して財産法は,財産と資本の比較で利潤を決定する計算で,これを行 うものが貸借対照表である。企業の利潤はこの二方面から平行的に算定されるので あって,しかも両者の利潤はつねに一致すべきものであるというのである。」( 頁)

と説明する。そして,こういった理解が,「きわめて皮相な説明であり,浅薄な解釈 にすぎない。」とした上で,自らの構想する損益法と財産法の特徴を次のように説明 する。

「 まず第一に損益法と財産法は本質的に異なる利潤計算であって,両計算の結 果は必ずしも一致するとは限らない。さらにまたこの二つの計算は,単純に貸 借対照表と損益計算書に分かれて行われるというよりは,むしろもっと複雑な 関係でからみあっているのである。」( 頁)

岩田教授の構想する損益法による利潤計算で算定されるのは形式上の利潤であり,

財産法の下での利潤計算で算定されるのは実質上の利潤である。したがって,両計算

(3)

の結果は通常一致しない。また,岩田教授の構想する二元的な利潤計算構造の骨子 は,計算上の貸借対照表と事実上の貸借対照表の比較表にもとづく利潤差異分析表に よる利潤差異の分析と,その分析結果(個別差異)の損益計算書への反映である。そ の意味で,単純に貸借対照表と損益計算書に分かれて行われているわけではない。以 上のことは,第二章において簡単な計算例を用いて説明された。第三章では,より一 般的な形で,財産法と損益法の特徴と限界,及び両者の必然的な結合関係が縷々説明 されることになる。

⑴ 財産法の特徴と限界

まず,財産法がどのようなプロセスで利潤を計算するかについて,岩田教授は次の ごとく整理する。

「 財産法という利潤計算は,通常,一事業年度における期首と期末の正味財産 の比較によって,利潤を算定する方法であると説明される。すなわちまず期首 と期末における財産と負債を現実に調査して,その実際在高を決定し,その差 引計算によって,期首,期末の正味財産の実際在高をそれぞれ算定する。前者 は出資者の元入資本であり,後者はその持分を示す計数である。つぎにこの両 者を比較して持分が,元入資本を超過する部分を利潤とするのである。この計 算関係を一表に集約して示したものが貸借対照表(筆者のいわゆる事実上の貸 借対照表)である。」( 〜 頁)

財産法という利潤計算が,岩田教授の言う「事実上の貸借対照表」において計算表 示される利潤計算である,との主張がここでもなされている。財産法では,期末時点 において帳簿を離れた実際調査を行い,財産(資産)と負債の実際在高を決定すると ともに,両者の差額として期末時点での正味財産の実際在高を算定する。前期末に同 様の手続を用いて算定された正味財産の実際在高(期首の正味財産の実際在高)とそ れとを比較することで,当期の利潤を決定する。期末正味財産が期首正味財産を超過 する場合が利潤であり,その反対の場合が損失となる。

(4)

岩田教授は,この財産法の計算には,少なくとも二つの欠陥があることを指摘す る。結論を先に述べれば,「利潤に関する原因記録の欠如および資本と利潤の不完全 なる分離」( 頁)がそれである。前者は,財産法が「財産の期末現在高から遡及し て利潤を総括的に計算する」( 頁),あるいは「財産変動の結果から間接的に利潤 を決定しようとする」(同)方法であることからの,当然の帰結ではある。しかし,

第一章において,岩田教授は,「会計は,財産変動の結果と原因に関する記録集計の 手続であって,結果計算と原因記録とは,いかなる種類の会計にも共通な,必要欠く べからざる構成要素である。」( 頁)と明言していた。それゆえ,財産法は,利潤 という財産の変動に関する原因の記録を欠いており,それだけでは会計とはよべない こととなる。

後者は,期中において増資や減資等により資本それ自体が変動した場合,財産法に よる利潤計算では資本と利潤の分離が保証されないとするものである。換言すれば,

「期首の元入資本が,同時に期末の元入資本であるということ」( 頁)が,財産法 による利潤計算が成り立つ条件となるのである。後の第六章で財産法の意義を詳細に 説明する際に,岩田教授は,財産法の計算において期末正味財産と比較する対象は期 首の元入資本ではなく期末の元入資本であることを強調している。ここにおける期末 元入資本とは,「期首(または前期末)の正味財産と,期中における資本取引の結果 を集計したもの」( 頁)である。例えば,期中に増資及び減資があった場合には,

期末元入資本=期首正味財産(期首元入資本)−増資額+減資額となる。期末正味財 産と,こういった計算手続を経て算定された期末元入資本を比較することによって,

はじめて資本と利潤の分離が保証されることになる。

⑵ 損益法の特徴と限界

続いて,損益法による利潤計算のあらましについて,岩田教授は次のように説明す る。

「 損益法と呼ばれる利潤計算は,周知の通り費用と収益との比較によって営業 の成果を算定する方法である。収益費用の額は収入支出にもとづいて把握され

(5)

る。そもそも貨幣経済の下では,結局において費用は金銭の支出をともない,

収益は収入をもたらすものである。損益法はこの事実にしたがって,収入支出 の記録から費用たる支出と収益たる収入を選択集計して利潤を決定する。すな わち損益法は根底において収入−支出=現金という収支計算を基礎とするもの である。だから損益法においては費用として幾何の支出を行い,収益として幾 何の収入を得たか,しかしてその結果利潤として幾何の財産が存在するにい たったかの関係が計算表示されることになる。」( 頁)

損益法においては,収入支出の記録から費用たる支出と収益たる収入を選択集計し て利潤を決定する。すべての収入が収益と関連しているわけではないし,また,すべ ての支出が費用と関連しているわけではない。それゆえ,収入の記録から収益に関連 しているものを,支出の記録から費用と関連しているものを各々選択する必要があ る。損益法は,このように貨幣収支の原因分析をその基礎においている。

問題は,収益に関連する収入であっても当年度に属する収益とならないもの(次期 以降の収益となるもの),あるいは,費用に関連する支出であっても当年度に属する 費用とならないもの(次期以降の費用となるもの)があることである。また,未だ収 入がなくとも当年度の収益とすべきもの,あるいは,未だ支出がなくとも当年度に属 する費用とみなすべきものもある。つまり,過去の収入と支出を基礎として収益と費 用を把握する限り,損益法では,「事実上その年度に属する収益費用と収入支出にも とづいて捕捉した収益費用との間に過不足を生じ,そこに計上された利潤は必ずしも 正確な額を示さない」( 頁)ことになる。つまり,損益法の欠陥は「利潤の期間区 分が正しく行いえない」( 頁)ところにあるのである。もっとも,「生産手段の費 消と生産物の給付という,物的事実を基礎に収益費用の発生を認識」( 頁)すると いう収益費用の認識基準の転換によって,損益法はこういった欠陥を是正しようとし ている。しかしながら,岩田教授は,損益法のみでは「期間利潤の徹底的な区分を行 うことはできない。というのは,収益費用の発生を直接認識し,洩れなくこれを計上 することは,実際上不可能だからである。」( 頁)と結論づけるのである。

(6)

財産法と損益法の相互補完関係

財産法と損益法には,それぞれ,利潤計算の方法として重要な欠陥があることがわ かった。財産法の欠陥は,利潤に関する原因の記録が欠けていることと,資本と利潤 の分離が保証されえないところにある。損益法の欠陥は,期間利潤の区分を正確に行 いえないところにある。岩田教授は,こういった欠陥を有する財産法と損益法ではあ るが,「両者は適当にこれを組合わせれば,相互に相手の欠陥を是正しあい弱点を除 去しあって,完全な利潤計算となるのである。財産法と損益法はいずれも一本立ちが できないのであって,結合されてはじめて利潤計算として成立することになる。だか ら,二つの異なる利潤計算があるのではなくて,利潤計算はひとつしかないといった 方がむしろ正確であるかもしれないのである。」( 頁)と主張する。その上で,財 産法の欠陥を損益法が,また,損益法の欠陥を財産法がどのように相互に補完しあう かについて説明を加えていく。

まず,財産法の欠陥のうち,利潤に関する原因の記録が欠けている点に関しては,

これを「損益法の計算における原因記録をとり入れることによって補塡することがで きる。」( 頁)とする。それは,そもそも損益法においては,「収入支出計算を基礎 として収支の事由が克明に調査され,利潤の由ってきたる原因がくわしく分析されて いる」 頁)ためである。次に,財産法のみでは資本と利潤の分離が保証されえない 点に関しては,期末の正味財産から控除すべき期末元入資本の額について,これを損 益法における計算上の貸借対照表に求めることによって解決を図る。計算上の貸借対 照表において,「資本の変動による収入支出が集計されて,期末の元入資本として記 載されている」( 頁)ためである。財産法の下で算定された期末正味財産からこの 期末元入資本を控除することで,資本と利潤を正しく分離することが可能となる。

他方,損益法の欠陥である,期間利潤の区分を正確に行いえない点については,損 益法で算定された利潤を財産法で算定された利潤に修正することで対応を図る。ここ では,財産法の下で(事実上の貸借対照表の下で)算定された利潤こそがその年度に 属する正しい利潤であることが前提となっている。すなわち,財産法が,「期末現在 の財産負債を事実について調査するものであって,帳簿に記録されていない費用の前 払未払,収益の未収前受による債権債務および保有財産の実際在高もことごとくこれ

(7)

を計上する。したがってここで算定された利潤は,その年度に属する正しい利潤で あって,収益費用の繰上繰下計算による誤謬を含まない。」( 頁)と岩田教授は主 張するのである。第二章(第三節)で説明されていたように,財産法による利潤と損 益法によるそれとの差異(利潤差異)は,計算上の貸借対照表(損益法)と事実上の 貸借対照表(財産法)の比較表を基礎にした利潤差異分析表の上で,個別差異に分析 され,その結果が利潤に関する原因記録(収益あるいは費用)として損益計算書に追 加記入される。これにより,損益法による利潤は,期間利潤の正確な区分がなされた その年度に属する正しい利潤へと修正されるとともに,当該利潤(結果)をもたらし た原因が損益計算書で完全な形で表示されることになる。

以上みてきたように,岩田教授は,財産法と損益法が相互に欠陥を補うことで,教 授の構想するあるべき利潤計算が可能となるというのである。このあるべき利潤計算 とは,要するに,「利潤に相当する財産の在高を資本のそれから厳密に分離するとと もに,その由ってきたる原因を洩れなく計上して,その期の利潤に関する財産変動の 結果と原因を正しく対照せしめる」( 頁)ことにより達成されるものをいう。そし て,岩田教授は,「財産法と損益法という,二つの異なる利潤計算の不可分にして必 然的な結合関係こそ,企業会計における利潤計算の本質的な計算構造である。」(

頁)と結論付けるのである。

Ⅲ 複式簿記による本質的利潤計算手続の顚倒

複式簿記の下での決算手続の特徴

ここで,今一度,岩田教授の構想する,企業会計における利潤計算手続のあるべき 姿を整理してみたい。期末現在の財産負債の実際調査にもとづいて作成される事実上 の貸借対照表と,帳簿から未修正のまま誘導される計算上の貸借対照表の 種の貸借 対照表を作成する。前者で計算表示されるのが実質上の利潤であり,後者で計算表示 されるのが計算上の利潤である。そして,両表の比較表を基礎にした利潤差異分析表 を作成し,そこで,計算上の利潤と実質上の利潤の較差である利潤差異を,それをも たらした原因である個別差異に分解する。個別差異は,利潤を増加させる要因(収益 あるいは費用戻入)とそれを減少させる要因(費用あるいは収益戻入)に区分され,

(8)

それらは,帳簿から未修正のまま誘導された損益計算書に追加記入される。その結 果,修正された損益計算書で計算表示される利潤は,事実上の貸借対照表におけるそ れと同様に,実質上の利潤を意味することになる。

ところが,現実の企業会計において利潤計算が行われるプロセスは,岩田教授の構 想するあるべき利潤計算手続の姿と,「およそ趣を異にしている」( 頁),それどこ ろか,「むしろ計算の進行する方向はちょうどその正反対である。」( 頁)とさえ言 える。それは,複式簿記が企業会計の記録形式として用いられることに由来してい る。複式簿記の下での利潤計算手続について,岩田教授は以下のように説明する。

「 複式簿記による決算においては,勘定整理から貸借対照表および損益計算書 に相当する綜合勘定への集合にいたるまで,すべて貸借平均の理をつらぬいて 複式記帳を行うため,利潤計算の手続はつぎのように組替えられる。まず第一 に,実際の棚卸評価によって確定された財産負債の実際在高のうち,その金額 が当該項目の帳簿残高と相違するものだけを選んで,勘定整理の資料とする。

いわゆる決算整理事項がこれである。それからこの整理資料をもって個々の科 目の勘定残高を直接に修正する。すなわち各勘定科目毎に,帳簿残高と実際在 高との差額を決定して,個別的に勘定残高を訂正し,これを実際在高に一致せ しめるのである。

(中略)

この整理がすべて完了してから,財産,負債および資本の勘定残高を一表に 集合すれば,貸借対照表が成立するが,これは帳簿を源泉としながら実は事実 上の貸借対照表である。ここに集合された勘定残高は単なる計算上の残高では なく,すでに修正されて実際在高になっているからである。かくて複式簿記で は財産法の貸借対照表が帳簿から誘導されることになる。すなわち複式簿記に よる決算は事実上の貸借対照表を財産目録にもとづいて作成し,これと帳簿か ら誘導された未修正の計算上の貸借対照表を比較して利潤差異を分析し,その 結果をもって損益計算書を修正するという前述のプロセスをとるのではない。

それとはちょうど逆に個々の勘定科目毎に,差異の個別的分析を行い,これを

(9)

勘定へ記入してしまってから,その後で貸借対照表が作成されることになる。

損益計算書もまず未修正の収益費用項目を集合して作成しておいてから必要の ある場合には後で追加修正するのではなく,整理修正を済してから作成するの である。かくて決算手続の過程は,本来あるべき過程に対してまったく顚倒し た関係にある。」( 〜 頁)

企業会計における実際の利潤計算手続が,岩田教授の考えるあるべき利潤計算手続 のプロセスとまったく顚倒した関係にあるのは,上記引用文の冒頭にあるように,企 業会計が記録形式として採用する複式簿記の決算では「勘定整理から貸借対照表およ び損益計算書に相当する綜合勘定への集合にいたるまで,すべて貸借平均の理をつら ぬいて複式記帳を行うため」に他ならない。複式簿記による決算手続では,資産負債 の実際調査により確定された実際在高とそれに対応する帳簿残高が異なる場合,帳簿 残高は実際在高へと修正される。その際,修正のための仕訳,すなわち,決算修正(整 理)仕訳(複式記帳)は仕訳帳でなされ,その結果が元帳における該当する勘定口座 へと転記される。したがって,この時点で,元帳における資産負債の各勘定残高はす べて実際在高を示すことになる。また,資産負債の各勘定残高の修正と並行して,関 連する収益費用項目もまた修正されることになる。そして,修正された資産負債の諸 勘定残高にもとづいて貸借対照表(岩田教授のいう「事実上の貸借対諸表」)が,修 正済の収益費用の諸項目をもとに損益計算書が作成される。両表で計算表示される利 潤は一致し,それは実質上の利潤を意味する。

( ) 貸借平均の理ないし貸借平均の原理に関しては,「複式簿記においては,個々の取引 は つの面から分析され,勘定記入原則にもとづいて,ある勘定の借方と他の勘定の貸 方に必ず同じ金額だけ記入される。その結果,すべての勘定の借方の合計額と貸方の合 計額とは当然一致するはずである。これを貸借平均の原理(principle of equilibrium)と いう。貸借平均の原理は複式簿記の基本原理である。」(森川( ), 〜 頁)との 説明がわかりやすい。岩田教授は,ここにおける取引の つの面からの分析(仕訳)が 決算整理事項や綜合勘定(残高勘定及び損益勘定)への振替にまで適用されることによっ て,企業会計における利潤計算手続のあるべき姿が,複式簿記によって顚倒かつ隠蔽さ れていると言うのである。

(10)

残高試算表

資 本 金

借 入 金

貸 付 金 貸付金利息

借入金利息

(第七表)

複式簿記による利潤計算手続の例示

岩田教授は,複式簿記による利潤計算手続を,第二章で本質的な利潤計算手続のプ ロセスを示すために利用した計算例を用いて説明していく。いずれの手続を利用して も計算結果が変わらないことを示すためである。まず,下に示す残高試算表( 頁,

第七表)は,第二章で用いた収支計算表( 頁,第一表)と項目の表示順序を除き 全く同じ内容である

この残高試算表に表示されている項目に関する実際調査の結果が以下の通りであっ たとする。これもまた第二章で用いられた計算例( 頁)と同じである。

一 預金実際在高(通帳残高) 円。

帳簿残高に対して 円増加したのは,預金利子が追加記入されたためであ るとする。

二 現金の実際在高 円。

三 貸付金の実際在高 円。

帳簿残高 円の中, , 円は回収不能であるとする。

四 借入金利息の前払高 円。

五 貸付金利息の未収高 円。

( ) この残高試算表と収支計算表が全く同じものであることについて,岩田教授は,「取 引がすべて現金取引であるかぎり,複式簿記の元帳残高を集合した試算表は,現金出納 帳の記録を元帳同様の科目に分類集計した収支計算表と,なんら異なることはないから である。」( 頁)と説明している。

(11)

現  金 預  金 貸 付 金 未収利息 前払利息 借入金利息 経  費 貸倒償却

76,000 10,300 79,000 900 1,000 6,000 2,500 1,000

176,700

資 本 金 借 入 金 未払経費 貸付金利息 預金利息

100,000 50,000 500 25,900 300

176,700

305,000 229,000 修正後残高試算表

現  金 預  金 貸 付 金 未収利息 前払利息

76,000 10,300 79,000 900 1,000

167,200

資 本 金 借 入 金 未払経費 利 益 金

100,000 50,000 500 16,700

167,200 貸 借 対 照 表

借入金利息 経  費 貸倒償却 利 益 金

6,000 2,500 1,000 16,700

26,200

貸付金利息 預金利息

25,900 300

26,200 損 益 計 算 書

現  金

20,000

300 10,000 預  金

100,000 資 本 金

30,000 80,000 借 入 金

2,000

500 経  費 150,000 70,000

② 1,000 貸 付 金

25,000

900 貸付金利息

7,000 ⑤ 1,000 借入金利息

300 預金利息

② 1,000 貸倒償却

500 未払経費

900 未収利息

⑤ 1,000 前払利息

六 借入金の実際在高 円。

七 経費の未払高 円。

これら整理事項により,複式簿記によって修正記帳を行う関係を示すと以下 のようになる( 頁。但し,一部変更)。

(12)

複式簿記による決算手続を経て作成された上記の貸借対照表は,第二章で作成され た本来の利潤計算手続を経て作成された事実上の貸借対照表( 頁,第四表)と全 く同一である。また,損益計算書も利潤差異分析表の結果にもとづき修正された損益 計算書( 頁,第六表)と同じである。したがって,いずれの利潤計算手続を利用 しても計算結果が変わらないことがわかった。もちろん,複式簿記による決算手続で は,貸借対照表はひとつしか作成されないし,帳簿から未修正のまま誘導された損益 計算書に決算修正事項が追加記入されることもない。帳簿残高と実際在高が異なる場 合の,帳簿残高の実際在高への修正は,複式記帳(仕訳帳における決算修正仕訳)を 通して元帳の各勘定口座で行われる。そして,修正済の帳簿残高は修正後残高試算表 において集計される。この修正後残高試算表から,資産・負債・資本の諸項目は貸借 対照表へ,収益費用の諸項目は損益計算書へと分かれていくことになる。両表で計算 表示される利潤は同一であり,実質上の利潤を表す。

財務表の上での決算修正記入にもとづく利潤計算

岩田教授は,次に,修正前残高試算表から計算上の貸借対照表と損益計算書(修正 前)を導出し,両財務表の上に直接,決算修正記入を加えていくことで利潤(実質上 の利潤)を計算表示する方法を例示している。整理事項を含め計算資料はすべて上記 の例と全く同じであると仮定すれば,財務表の上での決算修正記入にもとづく利潤計 算は以下のようになる( 頁,第八表。但し,一部変更)。

例えば,整理事項一に関して,預金勘定の帳簿残高( , 円)と実際在高( , 円)との差額( 円)は,計算上の貸借対照表の借方の預金勘定に追加記入される とともに,損益計算書(修正前)の貸方に預金利息として新たに記入される。また,

整理事項七に関しては,経費の未払高( 円)が計算上の貸借対照表の貸方に新た に未払経費として記入される一方で,損益計算書(修正前)の経費勘定の借方に追加 記入される。他の整理事項に関しても同様の修正記入が行われる。先述したように,

複式簿記による決算手続では,帳簿残高と実際在高が異なる場合の,帳簿残高の実際 在高への修正は,複式記帳(仕訳帳における決算修正仕訳)を通して元帳の各勘定口 座で行われる。それに対して,次頁の第八表では,決算修正仕訳が計算上の貸借対照

(13)

現  金 預  金 貸 付 金

借入金利息 経  費

76,000 10,000 80,000

7,000 2,000

175,000

資 本 金 借 入 金

貸付金利息

100,000 50,000

25,000

175,000 残 高 試 算 表

借入金利息 経  費 利 益 金

7,000 2,000 16,000

25,000

貸付金利息 25,000

25,000 未 修 正 の 損 益 表

現  金 預  金 貸 付 金

76,000 10,000 80,000

166,000

資 本 金 借 入 金 利 益 金

100,000 50,000 16,000

166,000 計 算 上 の 対 照 表

借入金利息 経  費 貸倒償却

利 益 金 6,000 2,500 1,000 9,500 16,700

26,200

貸付金利息 預金利息

25,900 300

26,200 修 正 後 の 損 益 表

現  金 預  金 貸 付 金 前払利息 未収利息

76,000 10,300 79,000 1,000 900

167,200

資 本 金 借 入 金 未払経費 利 益 金

100,000 50,000 500 16,700

167,200 事 実 上 の 対 照 表 借入金利息

経  費

②貸倒償却 

④経  費  利 益 金

7,000 2,000 1,000 500 16,000

27,200

貸付金利息

①預金利息 

③貸付金利息 

⑤前払利息  25,000

300 900 1,000

27,200 未修正の損益表の修正記入

現  金 預  金 貸 付 金

①預金利息 

③未収利息 

⑤前払利息  76,000 10,000 80,000 300 900 1,000

168,200

資 本 金 借 入 金

②貸倒償却 

④未払経費  利 益 金

100,000 50,000

1,000 500 16,700

168,200 計算上の対照表の修正記入

(第八表)

(14)

表と損益計算書(修正前)の上で直接行われていると言える。それゆえ,第八表の事 実上の貸借対照表及び修正後の損益計算書で計算表示される利潤もまた,複式簿記に よる決算手続から得られる利潤と同じとなる。

かくして,この方法では,複式簿記による利潤計算手続では修正前残高試算表に潜 在していた計算上の貸借対照表及び修正前の損益計算書が,顕在化することになる。

また,計算上の貸借対照表から事実上の貸借対照表が導出されるプロセス,損益計算 書の利潤が形式上の利潤から実質上の利潤へと修正されるプロセスが明らかにされ

Ⅳ 小

第一章において,岩田教授は,会計の本質的な特徴が「計算と事実の照合」にある ことを主張した。ここでは,教授の考える本質的な利潤計算手続と,複式簿記による 利潤計算手続のそれぞれにおいて,「計算と事実の照合」がどのような形で行われて いるかを確認する。そうすることで,本章の主題である,複式簿記によって本来ある べき利潤計算手続が顚倒される有様を,整理した形で示したい。

岩田教授の構想する本質的な利潤計算手続においては,まず, 種の異なる貸借対 照表が作成される。ひとつは,財産負債の実際調査にもとづき作成される事実上の貸 借対照表である。この事実上の貸借対照表において,財産負債の実際在高が一覧表示 される。もうひとつは,帳簿から未修正のまま誘導的に作成される計算上の貸借対照 表である。計算上の貸借対照表は,費用たる支出と収益たる収入を損益計算書に集合 させた結果残る,いわば残余項目として,収益費用ならざる収支項目と現金残高を集 合させたものであり,そこには財産負債の帳簿残高が一覧表示される。両表とも,財 産と負債の差額,つまり借方残高として利潤が計算表示されるが,計算上の貸借対照

( ) 逆言するならば,以上のことは,複式簿記が岩田教授の構想する利潤計算手続のある べき姿を隠蔽していることの証左であると言える。中村教授は,「利潤計算原理」にお いて展開されている岩田学説について,「岩田教授が,一方では複式簿記(具体的には 試算表)に独自の機能を認めながら(財産法のもとでは資本計算表,損益法のもとでは 収支計算表という機能),他方で複式簿記を目のかたきにしている(財産法・損益法の 独自な機能をおおいかくしてしまうため)ことは皮肉である。」(中村( ), 頁)と 評している。

(15)

表における利潤は形式上の利潤であり,事実上の貸借対照表におけるそれは実質上の 利潤である。

岩田教授の構想する本質的な利潤計算手続では,「計算と事実の照合」は,両表の 比較表を基礎にした利!!!!!!!!!!!!!!行われる。すなわち,利潤差異分 析表の上で,財産負債の項目毎に帳簿残高(計算)と実際在高(事実)が照合される。

照合の結果,両者に差異がある場合には,帳簿残高を実際在高に引き直すとともに,

当該差異を個別差異として認識する。個別差異は,その性質により,費用(あるいは 収益戻入)と収益(あるいは費用戻入)に区別され,損益計算書に追加記入される。

その結果,損益計算書において利潤たる財産変動の結果と原因の完全な対照が実現す ることになり,損益計算書における利潤は,事実上の貸借対照表におけるそれと同 様,実質上の利潤を意味することになる。結局,岩田教授の考えるあるべき利潤計算 手続では,事実上の貸借対照表と損益計算書(修正後)のいずれもが,帳簿から誘導 的に作成されるわけではない。前者は財産負債の実際調査をもとに作成され,後者は 利潤差異分析表の上で組織的に行われる「計算と事実の照合」の結果を受けて作成さ れるのである。

一方で,複式簿記による利潤計算手続では,実地棚卸を通して確定された財産負債 の実際在高のうちで,その金額が当該項目の帳簿残高と異なるものだけを選んで,そ れを決算整理事項とする。この整理資料に基づき,帳簿残高と実際在高が異なる勘定 科目については,仕訳帳における決算修正仕訳(複式記帳)を通して,これを実際在 高に一致させる。また,資産負債の各勘定残高の修正と並行して,関連する収益費用 項目もまた修正されることになる。すなわち,複式簿記による利潤計算手続では,「計 算と事実の照合」は,決算修正仕訳(複式記帳)を通して,元

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!!!!!!!!行われるのである。そして,修正済の帳簿残高は修正後残高試算表 において集計され,この修正後残高試算表から,資産・負債・資本の諸項目は貸借対 照表へ,収益費用の諸項目は損益計算書へと分かれていくことになる。それゆえ,複 式簿記による利潤計算手続では,貸借対照表(岩田教授の言う「事実上の貸借対照 表」)と損益計算書(岩田教授の言う「修正後の損益計算書」)のいずれもが,帳簿か ら誘導的に作成されることになる。

(16)

岩田教授が構想する本質的な利潤計算手続に対して,複式簿記による利潤計算手続 が顚倒した関係にあるというのは,次のような意味においてである。

前者においては,まず,財産負債の実際調査にもとづき事実上の貸借対照表が,修 正前の残高試算表から誘導されて計算上の貸借対照表と損益計算書(修正前)が,そ れぞれ作成される。そして,これら二つの対照表の比較表にもとづく利潤差異分析表 の上で「計算と事実の照合」が組織的な形で行われ,両対照表間の利潤差異がそれを もたらした原因である個別差異に分解される。この個別差異が,損益計算書に追加記 入されることで修正後の損益計算書が得られる。要するに,財産法及び損益法にもと づいてまず財務諸表が作成され,利潤差異分析表によりながら,損益法にもとづき作 成された損益計算書が実質上の利潤を算定表示するように修正されるのである。

これに対して後者においては,実地棚卸により作成された決算整理資料にもとづい て,勘定科目毎に「計算と事実の照合」(帳簿残高と実際在高の照合)がまず行われ る。帳簿残高と実際在高が相違する勘定科目に関しては,複式記帳を通して,帳簿残 高が実際在高へと修正される。そして,この修正済の帳簿残高にもとづいて貸借対照 表と損益計算書が作成される。要するに,複式記帳を通して元帳においてまず帳簿残 高が実際在高に修正され,その後で,当該修正済の帳簿残高から誘導的に財務諸表が 作成される。つまり,前者とはちょうど正反対の順序で利潤計算手続が進行するので ある。

ところで,序章において,岩田教授はある問題(疑問)を提起していた。その問題 とは,会計学は損益計算書における利潤と貸借対照表におけるそれとの照合を水槽の 譬をひいて説明してきたが,それは適切な比喩といえるのか,という疑問であった これに対する教授の解答がこの第三章で示されている。つまり,「両表の照合は,形 式的には「計算と計算の照合」だが,内容的にはある意味で「計算と事実の照合」な のであって,ここに水槽の譬をもって説明する理由がある」( 頁)というのが,そ の解答である。もちろん,水槽の譬は,複式簿記による利潤計算手続(決算)を前提 にしている。

( ) 井上( a)を参照されたい。

(17)

複式簿記による利潤計算手続において,損益計算書の利潤と貸借対照表のそれとの 照合が形式的には「計算と計算の照合」であるというのは,次のような意味において である。複式簿記による利潤計算手続では,決算修正仕訳(複式記帳)を通して修正 された帳簿残高をもとに修正後残高試算表が作成され,そこから損益計算書と貸借対 照表が導出される。つまり,修正後残高試算表から,資産・負債・資本の諸項目は貸 借対照表へ,収益費用の諸項目は損益計算書へと分かれていくことになる。それゆ え,修正後残高試算表の借方合計と貸方合計の一致が確かめられている限り,損益計 算書の利潤と貸借対照表のそれとは必ず一致する。その意味で,両表間の照合は形式 的には「計算と計算の照合」であるということができる。

それでは,複式簿記による利潤計算手続における損益計算書の利潤と貸借対照表の それとの照合が内容的に「計算と事実の照合」とも言えるのは,どのような意味にお いてか。先述したように,複式簿記による利潤計算手続では,決算整理資料にもとづ いて勘定科目毎に計算(帳簿残高)と事実(実際在高)の照合がなされる。修正後残 高試算表に集計されるのは,この「計算と事実の照合」のプロセスを経た勘定科目(財 務諸表項目)である。そして,その修正後残高試算表からわかれて損益計算書と貸借 対照表が作成される。そうすると,損益計算書の利潤と貸借対照表のそれとの照合 は,すでに「計算と事実の照合」のプロセスを経た金額どうしの照合と言える。かく して,「複式簿記の下における対照表と損益表との照合は,二種の照合をかねそなえ たものであって,形式的照合であるとともに実質的照合であるといっていえないこと はないのである。」( 頁)という結論になる。

続く第四章「利潤計算における二元性の歪曲」では,利潤計算手続のあるべき姿,

ないし利潤計算の二元的構造に関する的確な認識を妨げる,複式簿記とは別のもうひ とつの要因として,企業における財産構成の複雑化の問題が取り上げられ,議論され ることになる。(続)

(18)

参 考 文 献

井上( a):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑴」『香川大学経済論叢』第 巻第 号,

年 月, 頁。

井上( b):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑵」『香川大学経済論叢』第 巻第 号,

年 月, 〜 頁。

井上( c):井上善弘「「利潤計算原理」を読む⑶」『香川大学経済論叢』第 巻第 号,

月, 頁。

岩田( ):岩田巖『利潤計算原理』同文館, 年。

中村( ):中村忠『財務会計論』国元書房, 年。

森川( ):森川八州男『精説 簿記論Ⅰ』白桃書房, 年。

参照

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