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「利潤計算原理」を読む⑺

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(1)

研究ノート

「利潤計算原理」を読む⑺

井 上 善 弘

Ⅰ は じ め に

本稿は,岩田巌教授の主著『利潤計算原理』の第一編「利潤計算原理」を精読する 試みの第七弾である。今回は,「利潤計算原理」の第六章「財産法の構造」の内容を 岩田教授の行論に従い具に検討していく。岩田教授の構想する財産法については,

すでに第三章(「利潤計算手続の顚倒」)においてそのあらましが説明されていた。第 六章は,財産法による利潤計算のプロセスが具体的な例を用いながら詳細に説明され る。また,財産法の下で構想される損益計算書の作成手続についても詳述されること になる。

岩田教授の構想する財産法の計算においては,収益費用の把握や損益計算書の作成 も含めて,一貫して資本計算(財産−負債=資本)の考え方が通奏低音として流れて いる。また,岩田教授が会計の本質的特徴である考えている「事実と計算の照合」が 立論の基礎に存在している。さらに,複式簿記が財産法の計算において重要な構成要 素であるとの主張や,複式簿記の特質及び複式簿記の下で作成される試算表の機能に 関する教授独自の見解など,第六章には興味深い内容が多く含まれている。第六章は

「利潤計算原理」において極めて重要な位置を占める章と言える。

それでは,まず,財産法による利潤計算のプロセスに関する教授の思考を具にみて いくことにする。

( ) 井上( )を参照されたい。

( ) 本章で議論の対象となる試算表は,すべて決算整理前残高試算表である。

巻 第 号 年 月

(2)

Ⅱ 財産法による利潤計算

期末元入資本の算定〜複式簿記と財産法の関係(その )〜

財産法は,期末正味財産から期末元入資本を控除することによって当期の純損益を 計算する。ここにおいて,期末正味財産から控除するのは,期

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元入資本であって,

期首の元入資本(期首正味財産)ではない。それは,期中において増資や減資といっ た資本取引が行われている場合があるからである。期中において資本取引が行われて いる場合,それらが利潤計算に及ぼす影響を排除する必要がある。資本と利潤を区別 するためである。そこで,期首元入資本から増資額を減算するとともに,減資額を加 算することが必要となる。その結果として得られるのが期末元入資本である

岩田教授は,財産法は期末元入資本に関する情報を複式簿記から提供されることで はじめて成立するという。岩田教授の構想する財産法の利潤計算において複式簿記は 重要な構成要素であると言うのである。

「 元入資本は期首(または前期末)の正味財産と,期中の資本取引の結果を集 計したものである。前者はもとより実際調査によって確定されたものである が,後者は帳簿上の記録にもとめるほかはない。すなわち期首の元入資本(正 味財産)から出発し,期中の資本取引を個別的に記録集計して,はじめて期末 の元入資本が算定されるのである。だから,財産法の計算は財産負債の棚卸評 価のみを基礎として行われ,簿記の記録は必要がないというのは正しくない。

簿記は,例外はあるにしても,原則としては財産法の計算における重要な構成 要素である。」( 頁)

期中の資本取引による影響を排除することで,財産法の計算において資本と利潤を 分離することができる。この期中における資本取引に係る情報を提供してくれるのが 複式簿記である。それゆえ,複式簿記は財産法の計算における重要な構成要素となる

( ) 期末正味財産−期末元入資本=当期純損益

( ) 期首元入資本−増資額+減資額=期末元入資本

(3)

のである。このように,「複式簿記は,元入資本の算定という任務を担って,財産法 の計算に参加する」( 頁)ことになる。

それでは,複式簿記はどのような形で財産法の計算に参加するのか。期末元入資本 に関する情報を複式簿記はどうやって財産法に提供するのか。これらに関する岩田教 授の思考は,複式簿記およびその下で作成される試算表の機能に関する教授独自の見 解を基礎にしている。岩田教授は,複式簿記は財産法の計算に必要な期末元入資本を 二つの方向から算定するという。当然とはいえ,期末元入資本は,まず,総勘定元帳 における資本に関わる諸勘定の残高(貸方残高)の合計額として算定される。

「 財産法の計算に必要な元入資本が,複式簿記では資本勘定において記録集計 されることはいうまでもあるまい。この勘定には前期末に確定された正味財産 が繰越され,当期中に発生した資本取引は,その都度ここに記帳されるからで ある。資本勘定は個人企業の場合は簡単で,一勘定またはせいぜい二勘定に分 けられるだけであるが,株式会社では複雑であって,株式資本金,各種の資本 剰余金および利益剰余金の勘定に分類され,それぞれそれに該当する取引が分 けて記入される。元入資本はこれらの諸勘定の残高を合計したものである。」

頁)

株式会社の場合,資本に関わる勘定は複数に分類されて存在する。ここにおける資 本の諸勘定の残高とは,それら勘定の残高を合計したものであり,資本に関する勘定 の性格からいって,貸方残高として算定されるものである。財産法の計算に必要な期 末元入資本は当該貸方残高として算定される。

それでは,期末元入資本を算定するもうひとつの方法とは何か。岩田教授は複式簿 記において作成される試算表に期末元入資本の算定のための基礎を求める。すなわ ち,

「 ところが複式簿記ではこの資本勘定と平行して,別に元入資本を算定するも のがもうひとつある。元帳の勘定残高を集計した試算表がすなわちこれであ

(4)

る。試算表は,従来の簿記学にしたがえば,仕訳帳から元帳への転記の成否を 吟味する検算表であり,筆者のいわゆる「計算と計算の照合」を行うものであっ て,実質的な意義をもった計算表ではないと説かれている。ところが試算表は 財産法との関連においては,単に形式的な検算表たるにとどまらず,利潤計算 上実質的な内容をもつ重要な機能を果たしているのである。その機能とはすな わち元入資本の算定ということにほかならない。貸借対照表が資本計算である のと同様に,試算表もまた資本計算なのである。」( 頁)

先述したように,ここに言う「試算表」は,決算整理前残高試算表を指している。

岩田教授は,この試算表に期末元入資本を算定する機能があると言うのである。元入

!

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の算定機能であるから,この試算表で行われている計算は資

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!

計算ということに なる。ところが,当然とはいえ,試算表には収益と費用の諸項目の勘定残高が含まれ ている。にもかかわらず,岩田教授は試算表で行われる計算をなぜ「資本計算なので ある」と言うのか。ここに,試算表の意味内容についての岩田教授独自の考え方が現 れてくる。それは,また,複式簿記の特質に関する岩田教授の思考にもとづいている。

まず,複式簿記の有する特質について,岩田教授は自らの立場を次のように披歴する。

「 通常の簿記学によれば,試算表はつぎの内容から成立すると説明されてい る。

財産+費用=資本+負債+収益

すなわちこの表は財産,負債,資本,費用および収益の五種の勘定残高の等 式を基礎とする平均表であるというのである。ということは,試算表以前にお いて換言すれば取引を記帳する当時において,すでに財産と費用,負債と収益 の区別がきまっているということである。なるほどある種の科目は取引の成立 とともに,費用または収益であることが認められる。しかし取引成立の当初に おいてはまだ費用,収益たることの判然としないものも決して少なくない。そ れは多数の科目が決算整理を必要とし,期末に修正をうけることからも明らか であろう。記帳の当初からこの区別がすでに定まっているかのように処理する

(5)

のは,複式簿記が無限に連続する継続記帳であって,一定の期間を区切って決 算を行うことを予定していないからである。」( 頁〜 頁)

岩田教授は,試算表の意味内容について説明する前に,その前提として複式簿記の 特質について論じる。すなわち,複式簿記は「無限に連続する継続記帳であって,一 定の期間を区切って決算を行うことを予定していない」と喝破するのである。複式簿 記が無限に連続する継続記帳であると考える根拠を,岩田教授は期中における保険料 の支払いに関する記帳を例に挙げて説明する。

「たとえば期の途中で一年分の保険料を支払った場合,これを保険料という費用 勘定に記入するのは,契約期間が経過すれば当然費用となる性質の支出である とみているためであり,その途中で決算を行うことは考えていないからであ る。もし契約期間の経過前に決算が行われることを予定するとすれば,保険料 支払額の全額を費用として処理することは誤りであろう。もしこれを費用とす ることを正当化したいと思えば,その唯一の根拠は,複式簿記をもって期間決 算を考えない記帳であると解する点にもとめるほかはない。」( 頁)

月末決算の会社を前提に,仮に期中である 月 日に向こう 年間の保険料

円(一月あたり 円)を現金で支払ったとする。この場合,通常,次 の仕訳がなされることになる。

(借)支払保険料 (貸)現金

当然とはいえ,上記の保険料のうちの か月( 月 日〜 月 日)分に相当す 円が当期の費用となり,残りの か月分( , 円)は次期の費用となる べきものである。しかしながら,複式簿記では,上記の仕訳が示しているように,支 払った保険料の全額を費用(支払保険料)として記帳する。岩田教授は,こういった 点を捉えて複式簿記を「期間決算を考えない記帳」あるいは「無限に連続する継続記

(6)

帳」であるとみなすのである。

ところが,複式簿記が財産法の重要な構成要素として財産法の計算に参加すると,

試算表に表れている収益と費用の性格がおのずと変わってくる。岩田教授は次のごと く説明する。

「 そもそも複式簿記は,これを単独に孤立化して観察すれば,期間区分を前提 としない無限の連続記帳なのである。だが,複式簿記を財産法の計算と結合 し,その一構成部分とした場合には,いうまでもなくすでに期間決算というこ とが前提となる。かように複式簿記に期間利潤の算定という任務を課して,そ

ふし め

の連続記帳に節目をつけるとすれば,勘定科目の性質はおのずから変化せざる をえない。費用勘定必らずしも費用ではなく,収益勘定のすべてが収益ではな い。決算に当って勘定整理が必要となる。この場合には,取引の成立当初から 費用収益の勘定を用いることは,理論的な処理ではなく,便宜的な取扱いにす ぎない。むしろ決算整理以前においては,いわゆる費用勘定に記入された額と いえども,果たしてその期の費用か否か,収益勘定の金額もまた当期の収益と みとむべきか否か,まだ明白ではないのであるから,試算表の項目ではまだ費 用と財産の区別はなく,収益と負債の区別はないと考うべきであろう。した がってかかる見地からすれば,試算表における費用勘定は,すべて前払費用に 類する資産勘定であり,収益勘定はことごとく前受収益に似た負債勘定である と解釈することができる。」( 頁)

期間利潤の算定方法たる財産法に複式簿記が参加する,つまり,複式簿記に期間利 潤の算定という任務が課されると,収益および費用に属する勘定科目の性格が変化す る。決算整理の手続を経ないかぎり,収益と費用の諸勘定科目は,暫定的な性格を帯 びるようになるのである。期中において費用として処理された額のすべてが必らずし も当期の費用となるわけではない。収益に関しても同様である。決算整理の手続を経 て当期の費用の額,当期の収益の額がはじめて確定する。それゆえ,決算整理前にお いては,費用はすべて前払費用と,収益はすべて前受収益とみなすことができる。こ

(7)

のように考えることで,試算表の借方側には財産の項目のみが存在し,貸方側には負 債と資本が存在することになる。収益と費用の項目は存在しない。結果として,試算 表で行われる計算は資本計算となるのである。そして,その資本計算とは,期末元入 資本の算定を意味する。

「 試算表の内容をかように解釈するとき,この表の借方財産勘定と貸方負債勘 定との差額,すなわち借方残高として,一種の正味財産が算定されることにな ろう。この額こそ期末の元入資本にほかならない。この意味において試算表は,

資本計算の性質をもつということができる。」( 頁)

以上のことから,複式簿記は財産法の計算に必要な期末元入資本を二つの方向から 算定することがわかる。ひとつは資本に関わる諸勘定の貸方残高の合計額として,も うひとつは試算表の借方財産勘定と貸方負債勘定との差額,すなわち借方残高として 算定するのである。そして,期中における取引の記帳に誤りがないかぎり,両資本額 は(貸借反対で)一致する。それゆえ「試算表は資本計算表であるとともに,二つの 資本額を照合して,記帳の成否を確かめる検算表でもある」( 頁)ということに なる。但し,これら二つの資本額(期末元入資本)は,いずれも帳簿記録を基礎に算 定されたものであり,ここにおける照合は岩田教授の言う「計算と計算の照合」に相 当することに留意しなければならない。

期末正味財産の算定

繰返しになるが,財産法は,期末正味財産から期末元入資本を控除することによっ て当期の純損益を計算する。控除項目である期末元入資本が複式簿記から提供される 有様についてこれまでみてきた。それでは,被控除項目である期末正味財産はどのよ うにして算定されるのか。岩田教授は次のように説明する。

( ) 以上のような考えにしたがえば,先に例示した保険料の支払いに係る取引は,取引成 立当初においては(借)前払保険料 , (貸)現金 と仕訳し,決算整理に おいて(借)支払保険料 , (貸)前払保険料 と仕訳することが妥当な会計 処理ということになる。

(8)

「まず,期末現在の財産および負債の在高を,その数量と価値の現実の状態につ き実際に調査,計量,鑑定,評価することによって確定する。帳簿の記録を資 料とすることはあっても,それは参考とするまでのことであって,あくまでも 実際の事実について,できるかぎり現状を把握するのである。この結果を明白 に記載したものが,いわゆる財産目録であるが,これを適当に分類綜合して貸 借対照表を作成する。この表の上で財産および負債の差として,期末正味財産 を算定するのである。」( 頁)

期末正味財産は,岩田教授の言う「事実上の貸借対照表」を作成するプロセスで算 定される。まず,実際調査に基づいて期末現在における財産と負債の実際在高を決定 する。そうして決定された財産および負債の差額として期末正味財産を算定する。期 末正味財産は,あくまでも財産および負債の差額として機械的に算定されるのであ り,それ自体が直接決定されるのではない。このように,期末正味財産は,帳簿に依 存することなく,実際の事実に基づいて算定される。期末元入資本が帳簿記録に基づ いて算定されることと対照的であると言える。

利潤の算定

財産法の利潤計算の構成要素である期末正味財産と期末元入資本が算定されると,

両者を比較する(前者から後者を控除する)ことによって利潤は決定される。このプ ロセスは「事実と計算の比較」という性格を有している。財産法による利潤計算のプ ロセスを総括して,岩田教授は次のように説明する。

「 さて財産法においては,一方で期末貸借対照表が実際調査にもとづいて期末 の正味財産を計算し,他方では試算表が複式簿記の帳簿記録を集計して,期末 元入資本を算定する。すなわち事実と帳簿というちがう源泉から二種の異なる 資本を求めるのである。この両者の比較によって利潤が計上されることにな る。それ故,財産法の計算は,二種の資本計算の結合から成立するのである。

すなわち貸借対照表による事実上の資本計算と,試算表による計算上の資本計

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算との組合せである。かくて財産法の利潤とは資本の実際在高と帳簿残高の比 較によって算出されるといっても差支えない。」( 頁)

岩田教授は,第一章において,「実際の在高と計算上の在高を突合せることは,

(中略)会計の欠くべからざる特徴である」( 頁)と主張していた。「事実と計算の 照合」こそが会計の本質的特徴であるというのである。財産法における利潤算定のプ ロセスにも会計の本質的特徴が表れている。しかも,会計の究極的な目的である利潤 計算の最終局面において明確な形で現れてくるのである。

Ⅲ 財産法の下での損益計算書

資本計算の結果としての損益計算書

財産法は一般的に,利潤を総括的に計算する方法であり,利潤の原因を分析すると ころまでは行わないとされている。ところが,岩田教授は,教授の構想する複式簿記 と結合した財産法の下では,貸借対照表のみならず損益計算書も作成できると主張す る。つまり,財産法においても利潤の原因分析が相当程度可能であると主張するので ある。では,岩田教授の考える財産法の下で作成される損益計算書とはいかなるもの なのか。

「 財産法を構成する資本計算とは,貸借対照表の正味財産計算と元帳の元入資 本計算であるが,前者における計算要素は財産負債の実際在高であり,後者に おける計算要素は財産負債の帳簿残高である。この資本の構成要素たる財産負 債の実際在高と帳簿残高を比較し,その差額をもとめて一表に集合したもの が,財産法の意味における損益計算書である。したがってこれは二つの資本計 算から派生した副産物である。損益法の場合のように収益費用を直接把握して 集計比較したものではなく,貸借対照表利潤の内訳表にすぎない。財産法の計 算は終始資本計算をもって統一されているのであって,損益計算書もまた資本 計算の一部である。」( 頁)

(10)

財産法の下で構想される損益計算書は収益費用を直接把握して集計したものではな い。とすれば,個々の収益費用はどのようにして算定されるのか。財産法の利潤計算 は,二つの資本計算,つまり貸借対照表における資本計算と試算表における資本計算 とが結合したものであった。前者で算定された期末正味財産と後者で算定された期末 元入資本を比較することで,利潤は算定された。そうすると,期末正味財産の構成要 素たる財産負債の実際在高と期末元入資本の構成要素たる財産負債の帳簿残高を比較 することでも,利潤は算定できるはずである。後述するように,この算定プロセスに おいて,利潤に対する積極要素を収益として,消極要素を費用と捉えることで,資本 計算を基礎にした財産法の損益計算書は作成されることになる。

損益計算書の作成手続

岩田教授は,財産法の損益計算書の作成手続について,数式を用いてより具体的に 以下のように説明する。

「 しからば財産法の下では,損益計算書は如何なる手続によって作成されるの か。その関係は数式によって説明するのが便宜である。

貸借対照表の資本計算

財産の実際在高−負債の実際在高=資本の実際在高………⑴ 試算表の資本計算

財産の帳簿残高−負債の帳簿残高=資本の帳簿残高………⑵ 貸借対照表計算の結果たる資本の実際在高は,期末の正味財産であり,試算 表計算の結果たる資本の帳簿残高は期末の元入資本である。したがって両者を 比較することによって,利潤または欠損が算定されることになる。これを数式 で示せば,

実際在高が帳簿残高より大きい場合には,

資本の実際在高−資本の帳簿残高=(+)実際在高超過額=利潤 実際在高が帳簿残高より小さい場合には,

資本の実際在高−資本の帳簿残高=(−)帳簿残高超過額=欠損」( 頁)

(11)

ここでは,資本の実際在高と帳簿残高の比較によって総括的に利潤が算定される様 子が数式によって示されている。当然とはいえ,「資本の実際在高>資本の帳簿残高」

の関係にあるときその差額(+)が利潤を意味し,「資本の実際在高<資本の帳簿残 高」の関係にあるときその差額(−)が欠損を意味する。いずれにしても,上記の第 一式(⑴)および第二式(⑵)が,損益計算書を作成する際の出発点となる考え方で ある。引き続いて岩田教授の説明をみていくことにする。

「 かように第一式の貸借対照表計算の右辺と,第二式の右辺との比較によって 純損益が決定されるとすれば,第一式の左辺と第二式の左辺との比較によって も,また純損益が計算しうべきはずである。したがってつぎの数式が成立する。

(財産の実際在高−財産の帳簿残高)−(負債の実際在高−負債の帳簿 残高)=純損益 ………⑶

この第三式においては,いうまでもなく,財産負債の実際在高の差が帳簿残 高の差より大なる場合には,いいかえれば,第三式の結果がプラスの符号をも つ場合には利潤であり,反対の場合は欠損である。」( 頁)

第三式(⑶)は,財産の実際在高から帳簿残高を差し引いた結果から,負債の実際 在高から帳簿残高を差し引いた結果を控除することで,純損益が算定されることを示 している。第三式の左辺は第一式および第二式の左辺を数学的に変形したものと言え るから,この第三式によって純損益が算定されることは当然と言える。

ただ,後の議論との関係で,第三式の左辺のもつ意味内容について確認しておく必 要がある。第三式左辺の第 項((財産の実際在高−財産の帳簿残高))は純損益の計 算要素のうちでプラスの要素であり,第 項((負債の実際在高−負債の帳簿残高))

はマイナスの要素である。そうすると,純損益の計算プロセスにおいて,第 項は収 益に,第 項は費用に相当するものであると考えられることになる。したがって,仮 に,「財産の実際在高>財産の帳簿残高」の関係にあるときは,その差額は収益を意

( ) あくまでも実際在高から帳簿残高を控除するのであって,その逆ではない。このこと は,財産と負債の場合についてもあてはまる。

(12)

味し,「負債の実際在高>負債の帳簿残高」の関係にあるときは,その差額は費用を 意味することになる。また,反対に,「財産の実際在高<財産の帳簿残高」の関係に あるときは,その差額は費用を意味し,「負債の実際在高<負債の帳簿残高」の関係 にあるときは,その差額は収益を意味することになる。この後,この第三式を基礎に して損益計算書が作成されるプロセスが説明されることになる。

ところで,この第三式はまた,[(財産の実際在高−負債の実際在高)−(財産の帳簿 残高−負債の帳簿残高)=純損益](これをここで( )と表記することにする)と変形 することができる。この式の左辺の第 項は資本の実際在高を,第 項は資本の帳簿 残高を意味する。つまり,この式の左辺は,実際在高であれ帳簿残高であれ,資本が 財産から負債を差し引くことにより得られることに基づく。よって,財産法の原理か らして,第 項から第 項を差し引くと当期の純損益が算定されることになる

さて,上記の第三式の財産と負債は,実際在高であれ帳簿残高であれ,それぞれそ の総

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を表している。つまり,財産の実際在高の総額から帳簿残高の総額を差し引い た結果から,負債の実際在高の総額から帳簿残高の総額を差し引いた結果を控除する ことで,純損益は算定される。

岩田教授は,「かように,財産負債の全体について妥当することは,個々の財産負 債項目についても同様に妥当するはずである。」( 頁)と主張する。そして,「財 産負債の各項目別に,実際在高と帳簿残高を比較し,その差額の符号がプラスである かマイナスであるかによって,収益と損失または費用を区別し,これを一表に集計す れば,ここに損益計算書が成立する。」( 頁)と喝破するのである。岩田教授は,

具体的な例を挙げてこの辺りの事情を説明する。まず,第三式における財

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!

!

実際在 高と帳簿残高の関係について次のように説明する。

「[Ⅰ] 第三式における財産の実際在高と帳簿残高との比較。

⑴ 前者が後者より大きいとき。

実際在高−帳簿残高=+差額=収益

( ) 理由は定かではないが,上記の引用の最後の文章はこの( )を説明する内容となって いる。

(13)

例 有価証券の評価額が帳簿価額より大きい場合。

⑵ 前者が後者より小さいとき。

実際在高−帳簿残高=−差額=費用

例 有価証券の評価額が帳簿価額より小さい場合。

⑶ 前者が後者に等しいとき。

実際在高−帳簿残高= ……損益なし 例 現金の棚卸高と帳簿残高が等しい場合。

⑷ 前者が のとき。

実際在高−帳簿残高=−差額=費用 例 経費勘定において帳簿残高だけある場合。

⑸ 後者が のとき。

実際在高−帳簿残高=+差額=収益

例 収入利息につき既収分なく,未収分だけ存する場合。」( 頁)

上記における実際在高は,実際調査の結果として決定された額であり,財産目録な いし貸借対照表から抽出されたものである。これに対して帳簿残高は試算表をその源 泉としている。個々の財産について,その実際在高が帳簿残高を超過している場合,

その差額は収益を意味する。反対に,その帳簿残高が実際在高を超過している場合,

その差額は費用を意味する。上記の例のうち,⑴〜⑶については特に言及すべきこと はない。

しかしながら,⑷と⑸については,立ち止まってその意味するところを検討する必 要がある。複式簿記が元入資本の算定という任務を担って財産法の計算に参加すると き,複式簿記の下で作成される試算表において,費用はすべて前払費用とみなされ財 産に,収益はすべて前受収益とみなされ負債に,それぞれ含められるのであった。

⑷に関しては,経費勘定,すなわち費用の勘定を対象にしているため,「帳簿残高」

は期中に取引として認識され,記帳対象となった当該費用の額を指している。そして,

ここでは,それを前払費用に類するものとしてみなしているため,財

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帳簿残高と して取り扱っているのである。また「実際在高」は,決算整理を経て経過勘定項目と

(14)

して認識された真

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前払費用を指している。それゆえ,財産の実際在高とし て取り扱っている。「経費勘定において帳簿残高だけある場合」とは,実際在高すな わち真の意味での前払費用が存在しないことを意味し,帳簿残高がそのまま当期の費 用として計上されることになる。仮に実際在高(真の意味での前払費用)が存在すれ ば,その分だけ当期の費用額が小さくなることになる。

また,⑸に関しては,受取利息勘定,すなわち収益の勘定を対象にしているため,

「帳簿残高」は期中に取引として認識され,記帳対象となった当該収益の額を指して いる。そうすると,期中における収益取引をすべて前受収益とみなす立場からすれ ば,本来,この「帳簿残高」は負債の範疇に入るべきものであり, それを財産の範疇 として取り扱うことには多少違和感を覚える。他方,「実際在高」は,決算整理を経 て経過勘定項目として認識された未収収益を指している。それゆえ,財産の実際在高 として取り扱っている。「収入利息につき既収分なく,未収分だけ存する場合」とは,

既収分がないため帳簿残高は であり,実際在高すなわち未収収益だけが存在するこ とを意味し,実際在高(未収収益)だけが当期の収益として計上されることになる。

仮に既収分(帳簿残高)があれば,その分だけ当期の収益額が小さくなることになる。

財産法と結合した試算表では,既収分(帳簿残高)は前受収益とみなされるからであ

続いて,第三式における負!!!実際在高と帳簿残高の関係について,岩田教授は次 のように説明する。

「[Ⅱ] 第三式における負債の実際在高と帳簿残高との比較

⑹ 前者が後者より大きいとき。

−実際在高+帳簿残高=−差額=費用

例 貸倒引当金について勘定残高より当期末設定額が大きい場合。

⑺ 前者が後者より小さいとき。

( ) ただし,ここでは,期中に取引として認識され,記帳対象となった費用は期末までに すべて費消されたことを前提にしていると考えられる。

( ) ただし,既収分であっても給付が完了した部分に関しては当期の収益となる。

(15)

−実際在高+帳簿残高=+差額=収益

例 修繕保証引当金について年度末設定額が帳簿残高より小さい場合

⑻ 前者が後者に等しいとき。

−実際在高+帳簿残高= ……損益なし 例 借入金の実際在高と帳簿残高が等しい場合。

⑼ 前者が のとき。

−実際在高+帳簿残高=+差額=収益 例 収益を前受して給付が完了した場合

⑽ 後者が のとき

−実際在高+帳簿残高=−差額=費用

例 一定の経費勘定について既払分がなくて,未払分だけがある場合」

頁)

個々の負債について,その実際在高が帳簿残高を超過している場合,その差額は費 用を意味する。反対に,その帳簿残高が実際在高を超過している場合,その差額は収 益を意味する。つまり,財産の場合とちょうど反対のことが言える。

⑹に関しては,勘定残高が帳簿残高を,当期末設定額が実際在高を意味する。ここ では,勘定残高より当期末設定額が大きいため,追加で費用を計上する。すなわち,

(借)貸倒償却 ××× (貸)貸倒引当金 ×××という仕訳がなされることになる と考えられる。なお,貸倒引当金は資産控除性の引当金(評価性引当金)であるが,

ここでは便宜上,負債の範疇に含められていると考えられる。⑺に関しては,反対 に,年度末設定額が勘定残高より小さいため,戻入の処理がなされる。すなわち,

(借)修繕保証引当金 〇〇〇 (貸)修繕引当金戻入益 〇〇〇という仕訳が切られ ることになると考えられる。⑻に関しては,特に指摘するところはない。

続く⑼と⑽に関しては,まずこれらにおける「実際在高」の意味について考えたい。

ここでは,負債が議論の対象となっているため,費用に関しては未払費用が,収益に 関しては前受収益(真

!

!

!

!

!

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前受収益)が実際在高を構成するものと考えられる。

いずれも,決算整理を経て経過勘定項目として認識されるものである。

(16)

それぞれについてみると,⑼に関しては,まず,決算整理を経て認識された実際在 高(真!!!!!!前受収益)は存在しない。また,収益を前受したものの期中におい て給付が完了している。それゆえ,帳簿残高がそのまま当期の収益となる。⑽に関し ては,既払分がなく未払分のみ存在するため,帳簿残高は存在せず,実際在高(未払 費用)がそのまま当期の費用となる。ただし,⑽に関してはひとつだけ合点がいかな いところがある。ここでは経費勘定,すなわち費用の勘定を対象にしているため,「帳 簿残高」は期中に取引として認識され,記帳対象となった当該費用の額を指している。

そうすると,期中における費用取引をすべて前払費用とみなす立場からすれば,本 来,この「帳簿残高」は財産の範疇に入るべきものであり,それを負債の範疇にある ものとして取り扱うことには違和感を覚えるのである。

ここまで,第三式((財産の実際在高−財産の帳簿残高)−(負債の実際在高−負債 の帳簿残高)=純損益)を基礎に,財産負債の各項目別に実際在高と帳簿残高を比較 し,その差額がプラスであるかマイナスによって収益または費用を区別する方法を見 てきた。しかし,岩田教授は,財産負債の各項目別に実際在高と帳簿残高を比較する ことに加えて,第三式を基礎に財産と負債を組合わせた次のような方法で収益または 費用を把握する。

「[Ⅲ] 第三式における財産の実際在高と負債の帳簿残高との比較。

財産の実際在高+負債の帳簿残高=+合計額=収益 例 一定の収益勘定について,既収分と未収分がある場合。

[Ⅳ] 第三式における財産の帳簿残高と負債の実際在高との比較。

−財産の帳簿残高−負債の実際在高=−合計額=費用

例 一定の経費勘定について既払分と未払分がある場合。」( 頁)

まず,第三式は,[(財産の実際在高+負債の帳簿残高)−(財産の帳簿残高+負債の 実際在高)=純損益]と変形することができる。この式の左辺の第 項は純損益の計 算におけるプラスの要素,また,第 項はマイナスの要素を意味する。

(17)

この第 項を取り出してきたのが上記の[Ⅲ]にある式であり,[(財産の実際在高

+負債の帳簿残高)]が収益に相当する額となる。[Ⅲ]では,「一定の収益勘定につ いて,既収分と未収分がある場合」が例として示されている。このうちの既収分が負 債の帳簿残高に相当する。財産法の計算と結びついた試算表では,既収分の収益は前 受収益とみなされるからである。他方,未収分が財産の実際在高に相当する。

また,第 項を取り出してきたのが[Ⅳ]にある式であり,[(財産の帳簿残高+負 債の実際在高)]が費用に相当する額となる。[Ⅳ]では,「一定の経費勘定について 既払分と未払分がある場合」が例として示されている。このうちの既払分が財産の帳 簿残高に相当する。財産法と結びついた試算表では,既払分の費用は前払費用とみな されるからである。これに対して,未払分が負債の実際在高に相当する。

最後に,財産負債の実際在高の源泉でありそこで期末の正味財産が算定可能な財産 目録,期末元入資本の算定基礎となる試算表(決算整理前残高試算表),そして,財 産法の下で損益計算書が作成されるプロセスを示した決算表が,具体的な金額を伴い 例示されており,それらを以下に掲げることにする

( ) ただし,ここでは,既収分の収益に関しては,期末までに給付が完了していることを 前提にしているものと考えられる。

( ) ただし,ここでは,既払分の費用に関しては,期末までに費消されていることが前提 となっているものと考えられる。

( ) 頁を参照。ただし,一部変更しているところがある。

(18)

財 産 目 録

資 産 の 部

現 金 預 金

但し回収確実な る分の見積高

商 品 棚 卸 高

備 品 造 作

但し再評価額

給 料 前 払 高

雑 益 未 収 高

負 債 の 部

利 息 未 払 高

(19)

勘定科目

現 金 預 金

繰 越 商 品

備 品 造 作

支 払 利 息

(20)

勘定科目 貸 借 対 照 表 損 益 計 算 書 整 理 記 入 修正損益計算書

現金預金 ・・・・・・・・

売 掛 金 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ① , 繰越商品 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ② , 備品造作 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ③ , ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ② , 発 送 費 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ④ , 支払利息 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ⑤ , ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 買 掛 金 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・

借 入 金 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・

上 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 益 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ⑥ , ・・・・・・・・ 前払給料 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ④ ,

未収雑益 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ⑥ , 未払利息 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ⑤ ,

資 本 金

貸倒償却 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ① , ・・・・・・・・ 減価償却費 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ③ , ・・・・・・・・

潤 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・

第八表

(21)

上記の 表から読み取れることを摘記したい。

まず,財産目録は,期末時点における実際調査の結果得られた財産負債の実際在高 を表示している。「売掛金」は貸倒引当金を控除した後の回収可能価額で表示されて いる。「商品棚卸高」は実地棚卸高である。「備品造作」は減価償却費控除後の帳簿価額 を意味する。その他,決算整理を経て認識された経過勘定項目である,「給料前払高」・

「雑益未収高」・「利息未払高」が表示されている。この表において,財産の実際在高 の総額( 円)から負債の実際在高の総額( , 円)を控除した額( 円)が期末正味財産となる。

次に,試算表は,決算整理前の残高試算表であり,帳簿残高が表示されている。複 式簿記が元入資本の算定という任務を担って財産法の計算に参加するとき,複式簿記 の下で作成される試算表において,費用はすべて前払費用とみなされ財産に,収益は すべて前受収益とみなされ負債に,それぞれ含められるのであった。それゆえ,ここ では,「仕入」から「雑費」までの項目はすべて前払費用(財産)とみなされ,「売上」

と「雑益」は前受収益(負債)とみなされる。そのうえで,財産の合計額(借方)と 負債の合計額(貸方)との間の差額(借方残高)として,期末元入資本( 円)

が算定されることになる

引き続き,「第八表」として掲げられた決算表について,やや詳しくみていくこと にする。「試算表」の欄について,ここには,前表の試算表(決算整理前残高試算表)

がそのまま掲げられている。それゆえ,ここに表示されている金額はすべて帳簿残高 である。この表の資本金勘定の貸方に表示されている額( 円)が期末元入資 本である。「貸借対照表」の欄は,財産目録を基に作成され,岩田教授の言う「事実 上の貸借対照表」を意味する。それゆえ,ここに表示されている金額はすべて実際在 高を意味する。この表の資本金勘定の貸方に表示されている額( 円)が期末 正味財産である。

決算表の「損益計算書」欄には,財産負債の各々について,実際在高(貸借対照表)

と帳簿残高(試算表)を比較した結果が表されている。まず,財産についてみると,

( ) ここでは,「資本金」として表示されている。

(22)

売掛金に関しては,「実際在高( , 円)<帳簿残高( , 円)」の関係にあり,

両者の差額(マイナス)が「損益計算書」欄の借方に表示されている。また,繰越商 品に関しては,「実際在高( , 円)>帳簿残高( , 円)」の関係にあり,両者 の差額(プラス)が「損益計算書」欄の貸方に表示されている。さらに,備品造作に 関しては,「実際在高( , 円)>帳簿残高( , 円)」の関係にあり,両者の差 額(マイナス)が「損益計算書」欄の借方に表示されている。

続く仕入から雑費までの費用に関しては,繰返し述べているように,これらは試算 表において前払費用に類するものとみなされている。このうちで,給料と支払利息以 外の項目については,前払分や未払分が存在しないため,帳簿残高がそのまま「損益 計算書」欄の借方に書き移される。給料については,前払分が存在するが,下で前払 給料勘定が新たに設けられているため,帳簿残高がそのまま「損益計算書」欄の借方 に書き移される。支払利息については,未払分が存在するが,下で未払利息勘定が新 たに設けられているため,これもまた帳簿残高がそのまま「損益計算書」欄の借方に 書き移されることになる。

他方,負債の項目については,買掛金と借入金に関しては実際在高と帳簿残高が等 しいため,「損益計算書」欄には何も記入されない。また,売上と雑益の収益に関し ては,繰返し述べているように試算表の下では前受収益とみなされる。しかし,売上 については,帳簿残高がそのまま「損益計算書」欄の貸方に書き移される。また,「雑 益」については,未収分が存在するが,下で新たに未収雑益勘定が設けられているた め,これもまた帳簿残高がそのまま「損益計算書」欄の貸方に書き移されることにな る。

「整理記入」の欄には文字通り決算整理仕訳が表されている。番号順にそれらを仕 訳の形で示すと次のようになると考えられる。

( ) 財産については,「実際在高<帳簿残高」の関係にある場合,その差額(マイナス)は 費用となる。したがって,「損益計算書」欄の借方にその額が表示される。

( ) 財産については,「実際在高>帳簿残高」の関係にある場合,その差額(プラス)は 収益となる。したがって,「損益計算書」欄の貸方にその額が表示される。

( ) 売上については,実現原則に基づき商品を引き渡した時点をもって収益として計上さ れるため,未収分と既収分とを区別することはそもそもない。

(23)

① (借)貸倒償却 (貸)売掛金

② (借)繰越商品 (貸)仕入

③ (借)減価償却費 (貸)備品造作

④ (借)前払給料 (貸)給料

⑤ (借)支払利息 (貸)未払利息

⑥ (借)未収雑益 (貸)雑益

上記の仕訳のうち,②に関して,決算表から次のようなことが読み取れると考えら れる。「繰越商品」勘定について,試算表の金額は期首の商品棚卸高( , 円)を表 している。これに対して,貸借対照表の金額は商品の実地棚卸高,すなわち実際在高

( , 円)を意味する。また,試算表の「仕入」勘定は,当期商品仕入高( 円)を指す。以上のことから,売上原価は,「 , 円+ 円− , 円」と 計算される。これが,修正損益計算書の「仕入」勘定借方の金額( 円)とし て表示されている。

最後に,「修正損益計算書」欄こそが,財産法の下で,資本計算を基礎に作成される 損益計算書にほかならない。当然とはいえ,この表で示されている利潤の額( , 円)は,期末正味財産( 円)から期末元入資本( 円)を控除した金 額と一致する。修正損益計算書は,貸借対照表で算定されたこの利潤の発生原因を示 す内訳表となっている。

Ⅳ 財産法の下で利潤計算の一類型

試算表における正味財産計算〜複式簿記と財産法の関係(その )〜

財産法は,複式簿記から期末元入資本の提供を受けることで,資本と利潤を区別す ることができ,利潤計算として成立するのであった。複式簿記は,財産法に対して期 末元入資本に関する情報を二つの方向から提供する。ひとつは元帳の資本に関わる諸 勘定の残高(貸方残高)の合計額として,もうひとつは試算表の借方財産勘定と貸方

( ) 棚卸減耗損は把握されていない。

(24)

負債勘定の差額(借方残高)として,である。試算表の借方財産勘定と貸方負債勘定 の差額(借方残高)を期末元入資本とみなす上で,ひとつの前提を置いた。つまり,

決算整理を通過するまでは,すべての費用勘定は前払費用であり,すべての収益勘定 は前受収益であると考えたのである。換言すれば,収益費用勘定をそれぞれ財産・負 債勘定へと分属させたのである。

岩田教授は,資本計算を基礎にするという点では共通点を持ちながらも,これとは 別の方法で利潤を計算する方法を提示している。それは,資本計算を基礎にするとい う意味で等しく財産法の下での利潤計算ではあるが,財産法と結合した複式簿記の任 務を元入資本計算ではなく,正味財産計算とみなす点で異なっている。この複式簿記 の任務を正味財産計算とみなす立場は,収益費用勘定を資本勘定の一部とする解釈を 基礎にしている。まず,収益費用勘定を資本勘定の一部とする解釈について,岩田教 授は次のように説明する。

「すなわち収益は資本の払込をのぞく一切の正味財産増加の原因であり,費用は 資本の払戻以外の正味財産減少の原因であるとして,この両者の諸勘定を資本 勘定に所属せしめるのである。企業の利潤は結局企業主に帰属するのであるか ら,その構成要素たる収益費用は正味財産の増減をもたらすものであると考え た結果である。」( 頁)

収益費用を資本勘定の一部と解釈することで,資本勘定の期末残高は期末の元入資 本ではなく期末の正味財産を意味することになる。また,試算表の借方財産勘定と貸 方負債勘定の差額(借方残高)の性格もそれによって規定されることになる。この辺 りの事情について岩田教授は次のように言う。

「 収益および費用は,正味財産の増減をもたらすものとして,その発生の都度 これを資本勘定に記入し,元入資本とともに集計したとする。この場合資本勘

( ) 後述するように,ここにおける正味財産は,正味財産の帳簿残高を指す。

(25)

定の期末残高は,企業主の持分たる正味財産を意味する。実際的には,資本勘 定を分割して,個々の費用収益の諸勘定を設定し,分記するのであるが,これ は利潤算定のための便宜的な取扱にすぎない。この資本勘定の計算に対して,

財産および負債勘定の残高を集計比較して差をもとめれば,複式記帳の結果と して,ここでもまた正味財産が算出される。これは,元帳の記入に誤謬がない かぎり,資本勘定の残高と一致すべきものである。」( 頁)

ここにおける「正味財産」は,企業主の持分のことを指す。それゆえ,期末時点で の元入資本だけでなく当期の純損益もそこに含まれる。収益費用を資本勘定の一部と 解釈し,その発生の都度,資本勘定に記入する,すなわち収益をその貸方に費用を借 方に記入すれば,資本勘定の下で当期の純損益が算定される。それと期末元入資本を 合わせたのが資本勘定の残高となるからである。

他方,財産および負債勘定の残高を集計し,その差額を計算すると,その結果とし ても正味財産が得られる。試算表(決算整理前残高試算表)において,収益費用を資 本勘定に所属させ,両者の差額としての当期純損益が資本勘定において期末元入資本 と合算されると,残った財産および負債勘定を集計比較した差額(借方残高)は当然,

資本勘定の残高(貸方残高=正味財産)と一致するはずのものであるからである。

正味財産の実際在高と帳簿残高の比較

上で説明した正味財産は,決算整理前の残高試算表を基礎に算定されたものであ る。したがって,それは正味財産の帳簿残高にすぎない。財産法の下での利潤計算に は,正味財産の実際在高が必要となる。ここにも,会計の本質的特徴である「事実と 計算の照合」が求められるのである。会計の本質的特徴についての岩田教授の思考は,

「利潤計算原理」の底を流れる通奏低音となっている。

「 かようにして資本方程式を基礎として,勘定科目を分類する複式簿記は,正 味財産を二方面から計算する記録形式であるが,ここで算定されるものは計算 上の正味財産である。換言すれば正味財産の帳簿残高にすぎない。これは帳簿

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