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Title
一般歯科臨床における病理組織診断の意義
Author(s)
橋本, 和彦; 松坂, 賢一; 木村, 裕; 松岡, 海地; 劉,
潁鳳; 杜, 岩; 辛, 承一; 佐野, 司; 井上, 孝
Journal
日本口腔検査学会雑誌, 2(1): 50-53
URL
http://hdl.handle.net/10130/1927
Right
一般歯科臨床における病理組織診断の意義
橋本和彦
1) *、松坂賢一
1),2),3)、木村 裕
1),2)、松岡海地
1),2)、劉 潁鳳
1)、杜 岩
1)、辛 承一
1)、
佐野 司
4)、井上 孝
1),2),3) 1) 東京歯科大学臨床検査学研究室 2) 東京歯科大学口腔科学研究センター hrc7 3) 東京歯科大学千葉病院臨床検査部 4) 東京歯科大学歯科放射線学講座 *:〒 261-8502 千葉県千葉市美浜区真砂 1-2-2 TEL:043-270-3582 FAX:043-270-3583 e-mail: [email protected] 抄 録 今回われわれは病理組織検査の有用性を明らかにするため、臨床診断と病理組織診断と の違いを比較検討した。1999 年 1 月から 2008 年 5 月までの 9 年 4 か月の間に、東京 歯科大学千葉病院臨床検査部に提出された病理組織検査依頼 16,434 例の中から、歯科臨 床において遭遇する可能性が比較的高いと考えられるエプーリス、線維腫又は線維性ポ リープ、歯根嚢胞、含歯性嚢胞を選択し、それぞれの臨床診断と病理組織診断の違いにつ いて臨床統計的に検討した。エプーリスの中で、2/563 例 (0.36%) が悪性と診断された。 線維腫および線維性ポリープの中で、3/1,059 例 (0.28%) が悪性と診断された。歯根嚢胞 の中で、8/1,908 例 (0.42%) がエナメル上皮腫と診断された。含歯性嚢胞の中で、7/638 例 (1.10%) がエナメル上皮腫と診断された。今回の結果から、良性と思われた口腔内病変 が、時に悪性である可能性があることが示された。われわれの研究においては嚢胞性疾患 が悪性転化した症例は認められなかったが、歯根嚢胞、角化嚢胞性歯原性腫瘍、エナメル 上皮腫においては悪性化した症例がいくつか報告されている。このことから、歯科におけ る臨床病理診断の必要性が再考されるべきことが示唆された。キーワード: pathological diagnosis, clinical diagnosis, malignant transformation 論文受付:2009 年 5 月 19 日 論文受理:2010 年 2 月 24 日 緒 言 良性腫瘍や嚢胞性疾患は、時に悪性化する可能性 を秘めており、口腔内においてもその例外ではない。 また、口腔領域における悪性腫瘍は、悪性腫瘍全体 の中で 1% を占めるともいわれている1)ことから、 日常の歯科臨床において口腔悪性腫瘍に遭遇する可 能性も十分に考えられる。ゆえに、病変を摘出ある いは切除した後に確定診断を得ることは極めて重要 である。 今回我々は一般歯科臨床における病理組織検査の 有用性を明らかにするため、臨床診断と病理組織診 断との違いを比較検討したので、文献的な考察を加 えて報告する。 材料および方法 1999 年 1 月から 2008 年 5 月までの 9 年 4 か月 の間に、東京歯科大学千葉病院臨床検査部に提出さ れた病理組織検査依頼 16,434 例の中から、一般歯科
日本口腔検査学会雑誌 第 2 巻 第 1 号: , 2010 臨床において遭遇する可能性が比較的高いと考えら れるエプーリス、線維腫および線維性ポリープ、歯 根嚢胞および歯根肉芽腫、含歯性嚢胞を選択し、そ れぞれの臨床診断と病理組織診断の違いについて臨 床統計的に検討した。また本稿において、エプーリ ス ・ 線維腫および線維性ポリープを口腔内隆起性病 変、歯根嚢胞および歯根肉芽腫 ・ 含歯性嚢胞を嚢胞 性疾患に分類した。 結 果 表 1 で示されるように、1999 年 1 月から 2008 年 5 月までの 9 年 4 か月間の病理組織検査依頼 16434 例において、エプーリスは 563 例 (3.43%)、線維腫 および線維性ポリープは 1,059 例 (6.44%)、歯根嚢胞 および歯根肉芽腫は 1,908 例 (11.6%)、含歯性嚢胞は 638 例 (3.88%) であった。エプーリスの中で、2/563 例 (0.36%) が扁平上皮癌 ( 図 1A~C) および悪性黒色 腫と診断された。線維腫および線維性ポリープの中 で、2/1,059 例 (0.19%) が 扁 平 上 皮 癌、1/1,059 例 (0.1%) が平滑筋肉腫 ( 図 2A~D) と診断された。歯根 嚢胞の中で、エナメル上皮腫 ( 図 3A~C) と診断され たものは 8/1,908 例 (0.42%) であった。含歯性嚢胞 表 1 1999 年 1 月 ~2008 年 5 月の 9 年 4 ヶ月の間の各症例数と病理組織診断の内訳 日本語表記が臨床診断、英語表記が病理診断を示す。1991 年 1 月 ~2008 年 5 月 図 1 扁平上皮癌と診断された例の組織像 臨床診断 : エプーリス 病理組織診断 : 扁平上皮癌 A: 大きさは 11.6 × 7.5mm、一見良性の腫瘤性病変 ( ルーペ 像 )。B: 腫瘍細胞が胞巣を形成しながら浸潤性に増殖してい る ( × 40)。C: 癌真珠の形成がみられる高分化型扁平上皮癌 ( × 200)。 エプーリス 線維腫 / 線維性ポリープ 歯根嚢胞 / 歯根肉芽腫 含歯性嚢胞 症例数(臨床診断数) 563 1059 1908 638 squamous cell caricinoma 1 2 0 0
malignant melanoma 1 0 0 0 leiomyosarcoma 0 1 0 0 epithelial dysplasia 5 16 1 0 leukoplakia 0 5 0 0 ameloblastoma 3 0 8 7 keratocystic odontogenic tumor 0 0 14 21 calcifying cystic odontogenic tumor 0 0 0 3
other benign tumor 5 51 1 0 infammatory disease 13 14 8 0
A
B
C
D
C
A
B
図 2 平滑筋肉腫と診断された例の組織像 臨床診断 : 線維腫 病理組織診断 : 平滑筋肉腫 A: 大きさは 15.8 × 11.0mm の充実性腫瘤 ( ルーペ像 )。B: 強い細胞異型を伴った腫瘍細胞が浸潤性に増殖している ( × 40)。C: 腫 瘍細胞は紡錘形を呈し、索状に増殖している ( × 200)。D: 腫瘍細胞は抗 desmin 抗体による免疫染色で強陽性を示す。 図 3 エナメル上皮腫と診断された例の組織像 臨床診断 : 顎嚢胞 確定診断 : エナメル上皮腫 A: 初診時のパノラマ X 線像。単胞性の X 線透過像が認められる。B: 好塩基性の歯原性上皮に裏装された嚢胞腔構造が認められる ( × 100)。C: 嚢胞壁の歯原性上皮は増殖傾向を示す ( × 400)。A
B
C
日本口腔検査学会雑誌 第 2 巻 第 1 号: , 2010 の中で、エナメル上皮腫と診断されたものは 7/638 例 (1.10%) であった。 考 察 今回の研究で選択した 4 種の臨床診断は、東京歯 科大学千葉病院における全症例中 3% 以上を占めてお り、日々の歯科臨床においてしばしば遭遇する病変 であることが示唆された。 良性と思われた口腔内隆起性病変が悪性であった 症例の割合は 0.1~0.36% であり、稀な症例であるこ とがわかった。図 1 および図 2 で示した症例では、 悪性腫瘍を思わせる潰瘍の形成はみられず、肉眼的 には外向性に発育し腫瘤を形成していたために、エ プーリスや線維腫と診断したものと考えられた。病 理組織学的には、口腔内で最も多く認められる扁平 上皮癌の他に、口腔領域での発生は極めて稀とされ ている平滑筋肉腫2)や悪性黒色腫などの非上皮性悪 性腫瘍も含まれていた。今回のような文献的報告は 少なく、われわれが渉猟し得た限りでは、線維腫の 臨床診断下で切除術施行後に紡錘細胞癌 ( 扁平上皮癌 の亜型 ) の診断を得た症例3)の報告がみられた。 嚢胞性疾患と思われていたものが歯原性腫瘍で あった症例の割合は 0.42~1.10% であった。角化嚢胞 性歯原性腫瘍やエナメル上皮腫は、図 3A で示すよう に、X 線所見において嚢胞様 X 線透過像を示すこと があり、臨床症状や画像所見での診断は困難である。 さらに、今回我々は経験していないが、歯根嚢胞4)- 6)、含歯性嚢胞7)、角化嚢胞性歯原性腫瘍8)9)の悪性 化を来した症例の報告も存在した。特に、顎骨中心 性癌は顎骨内の歯原性嚢胞が原因となることがいわ れており10)、嚢胞性疾患を認めた場合はこれらの可 能性を考慮する必要があると考えられた。歯根嚢胞 は一般歯科臨床においても日常的にみられる病変で あるが、われわれの研究においても歯根嚢胞および 歯根肉芽種の割合が 11.6% と、4 種の臨床診断の中 で最も高い値を示していたことから、歯根嚢胞を摘 出する機会は多いと考えられる。摘出した病変が本 当に歯根嚢胞であったかどうかを確認するため、病 理組織学的な確定診断を得ることは、摘出後の治療 方針立案の一助になるものと考えられた。 今回の研究および文献における症例から、嚢胞性 病変や口腔内隆起性病変は、極めて稀に悪性腫瘍で ある可能性をもつことが示唆された。ただし、今回 は 4 種の臨床診断に限定した研究であったため、他 の嚢胞性病変や口腔内隆起性病変を含めた場合、悪 性腫瘍である可能性はさらに増加すると考えられる。 これらの病変は、一般の歯科医院でも病変の摘出ま たは切除が可能な場合もある。しかしながら、自院 での処置が不可能と考えられた症例は、悪性腫瘍を 疑う場合に限らず然るべき医療機関に紹介すること、 臨床診断が困難な症例の場合は生検を行って確定診 断を得ること、病変を摘出あるいは切除した場合は 必ず病理組織診断を行うことが重要であると考えら れた。 結 論 口腔外科ならびに一般歯科臨床においても、確定 診断のための病理検査を積極的に行い、臨床医と病 理医の連携を密にしていくことを再考されるべきで ある。 参考文献 1) 下野正基、渡邉是久、賀来亨、佐藤一芳、高田隆、武田泰典、 田中昭男、山本浩嗣:スタンダード病理学、第 1 版第 3 刷、 学建書院、東京、254-255、1999 2) 下野正基、他 : 口腔外科・病理診断アトラス、第版第刷、 医歯薬出版社、東京、220-222、2000 3) 大竹史浩、小谷勇、土井理恵子、音田貢、須藤昌紀、領 家和男 : 舌に発生した紡錘細胞癌の 1 例、日本口外誌、 49: 339-342、 2003
4) Muglali M, Sumer AP : Squamous cell carcinoma arising in a residual cyst : a case report, J Contemp Dent Pract, 9: 115-121, 2008
5) Ochiai T, Chin SF, Horio T, Kimura A, Kawakami T, Hasegawa H : A case of radicular cyst with malignant change, Oral Med Pathol, 10 : 43-44, 2005
6) 小松 史、山田哲男、植田章夫、中島潤子、中嶌哲、川 上敏行 : 上顎の残存性歯根嚢胞より発生したと思われ る上顎の顎骨中心性癌の 1 例、日本口外誌、45:506-508、1999 7) 大島綾、角田典隆、鈴木慎太郎、長縄吉幸 : 含歯性嚢胞 より発生したと考えられた扁平上皮癌の 1 例、日本口外 誌、48:530-533、2002 8) 奥田八重子、岡上真裕、生木俊輔、長谷川光晴、松本光彦、 小宮山一雄 : 裏装上皮に悪性変化を認めた歯原性角化嚢 胞の 1 例、日本口外誌、50:277-280、2004 9) F o l l y W L , Te r r y B C , J a c o w a y J R : M a l i g n a n t transformation of an odontogenic keratocyst, J Oral Maxillofac Surg, 49 : 768-771, 1991
10) Barnes L, Eveson J.W, Reichart P, Sidransky D : World Health Organization classification of tumours, pathology and genetics of head and neck tumours, International agency for research on cancer, Lyon, 290-291, 2005