子育て意識の変容過程に基づく母親支援の実践開発
2020
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科
先端課題実践開発専攻 先端課題実践開発講座
(配属:岡山大学)
岡 村 幸 代
1.図表は、各章ごとに番号を付した。 2.外国人名は、片仮名書きせずに原語で表記した。また人名の後ろに示した数字は、 引用文献の原著刊行年を意味する。 3.脚註を採用した。「前掲論文」「前掲書」等は、その節の中で文献が参照できるよう にした。 4.漢字と仮名の使い分け、用語の使用は、引用部分についても内容に影響がない場 合、本文に統一した。ただし、著書・論文の題名は、そのまま記述した。
目
次
第1章 研究の範囲と位置付け ,,1 第1節 研究の背景と問題の所在 ,,2 第2節 用語の統一と倫理的配慮 17 第3節 研究目的と内容構成 21 0 2 1 第2章 子育て支援講座に参加した母親の子育て意識の変容 227 第1節 子育て支援講座に参加した母親の参加初期における子育て意識の変容過程 228 第2節 子育て支援講座に長期間参加した母親の子育て意識の変容過程 743 第3節 子育て支援講座に参加した母親の心理的変容に関わる語りの特徴 252 1 第3章 母親の子育て意識の変容過程に基づく子育て支援プログラムの実践開発 67 第1節 子育て支援における絵本の読み聞かせが母親に与える心理的効果 68 第2節 母親の子育て意識の変容過程に基づく子育て支援プログラムの開発 82 第3節 母親の子育て意識の変容過程に基づく子育て支援プログラムの実施と評価 96 第4章 研究の総括と今後の展望 115 第1節 子育て支援講座に参加した母親の子育て意識の変容過程と支援の意義 116 第2節 支援プログラムの開発と子育て意識の変容過程 126 第3節 今後の課題と展望 136 引用文献 143 資料 152 謝辞 224第1章 研究の範囲と位置付け
概 要 本章では、地域における子育て支援について母親支援の視点から研究の範囲と位置付けを明 確化した。また、内外の子育て支援プログラムに関する先行研究を概観した上で、研究の目的 と内容構成を示し、用語を整理した。 第1節では、研究の背景を述べ、絵本の読み聞かせ活動と内外のプログラムに関わる先行研 究の今日的な課題を示した。具体的には、内外の子育て支援プログラムを支援の方向性や内容 から区分し、本研究で実践開発するプログラムの位置付けを示した。 第2節では、用語・概念を整理し、本研究での使用方法を定義付けた。また、本研究全体に 関わる倫理的配慮について記した。 第3節では、本研究の目的と内容構成について説明し、本研究の全体像と母親の子育て意識 の変容及び読み聞かせ活動と関連要因との関係を示した。本研究では、本章第1節で示した地 域における子育て支援の課題解決を目指し、公民館の子育て支援講座に参加した母親の子育て 意識の変容として、育児に対する自己効力感の向上と読み聞かせ活動に着目した。プログラム に参加した母親が読み聞かせやワークに取り組み、子育て意識の変容を促進するプログラムを 開発し試行するという、本研究の全体構成を説明した。第1章第1節
第1節 研究の背景と問題の所在
Ⅰ.地域の子育て支援における支援プログラム開発の必要性 本節では、子どもと保護者を取り巻く環境を踏まえ、地域における子育て支援について 母親支援の視点から研究の範囲と位置付けを明確化する。また、問題の所在と内外の子育 て支援プログラム(以下、「支援プログラム」と略す)に関わる先行研究の今日的な課題 を示す1)。これまでの実践上、研究上の到達点とこれからの課題について論考することを 目的とする。 2015(平成27)年度に始動した「子ども・子育て支援新制度」では、地域の身近な所で 気軽に親子の交流や子育て相談が出来る等、全ての子育て家庭に応じた様々な支援を提供 すると明記され、地域子育て支援における支援の量的拡充と質的向上が推進されてきてい る(内閣府,2017)2)。地域子育て支援拠点事業の実施数は、2009(平成21)年度の5,199 から2016(平成28)年度は7,063まで増加し(厚生労働省,2017)3)、各拠点の延べ利用親 子組数は、2016(平成28)年度で平均3982組に上る(三菱UFJリサーチ & コンサルティン グ,2018)4)。しかしながら、家庭内の状況では、6歳未満の子どもを持つ夫の育児関連 時間(1日当たり)は、2011(平成23)年の39分から2016(平成28)年には49分に微増し たが、先進国の中では最低水準に留まっている。一方、妻の育児関連時間は202分(2011 年)から225分(2016年)に増え(総務省,2017)5)、母親が育児に充てる時間は長くなり 負担も増大した。東山(2010)6)は、子育て支援の第1の課題として、特に子どもの発達 初期に子育てに主として関わる母親への支援を挙げているが、母親を取り巻く現状からも、 1) 本節では以下の論文を加筆・修正し、再構成した。岡村幸代・大森弘子・西山修:「地域子育て支援における母 親支援を志向した絵本の読み聞かせの可能性と課題」, 日本読書学会誌『読書科学』第62巻第1号, 12-25頁, 2020年. 2) 内閣府:「子ども・子育て支援新制度について(平成29年6月)」, https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/ pdf/setsumei0.pdf, 2017年.(2017年8月16日閲覧) 3) 厚生労働省:「地域子育て支援拠点事業について」, http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/ kodomokosodate/kosodate/index.html, 2017年.(2019年4月28日閲覧) 4) 三菱UFJリサーチ & コンサルティング:「地域子育て支援拠点事業の経営状況等に関する調査報告書」, 31-35頁, https://www.murc.jp/uploads/2018/04/koukai_180420_c2.pdf, 2018年.(2019年4月28日閲覧) 5) 総務省:「平成 28 年社会生活基本調査―生活時間に関する結果―結果の概要(平成29年5月)」, https://www. stat.go.jp/data/shakai/2016/pdf/gaiyou2.pdf, 2017年.(2019年4月28日閲覧) 6) 東山弘子:「子育て支援―臨床心理士に求められる親支援―」, (臨床心理士子育て支援合同委員会/編:『臨床 心理士のための子育て支援基礎講座』), 25頁, 創元社, 2010年.量、質ともに実効性のある母親支援の実践開発が急がれる。現在、3歳未満の子どもを持 つ女性の約8割は家庭で育児をしている(内閣府,2016)7)とされるが、岩堂(2008)8) によると、現代の母親達は彼女達の成長過程において、公教育や家庭で実践的な保育教育 を受けることなく親になる場合が多い。また、篠田(2008)9)は、結婚後や転勤先での慣 れない土地での生活や核家族であること、或いは仕事の影響で、地域社会での人間関係が 少ないまま子育ての生活に入る母親も多数いることを指摘する。このような中で、地域に おける具体的な取組の手順やモデルの共有が課題(文部科学省,2012)10)として残される。 母親支援の内容や方法に関する課題は、母親の支援が調査や分析を経て捉えられること が十分でなく(小川,2014)11)、子育て支援の効果や評価に関する研究は少ないことも指 摘されている(名須川・楠本,2011)12)。子育て支援の資源面にも課題がある。相戸・山 下(2015)13)は、子育て支援の担い手が、子育て支援に参加意欲を持つ人々等、問題意識 を持った市民であると報告し、古橋ら(2018)14)は、財政状況や人材不足による自治体の 取り組みの遅れを指摘している。限られた資源の中で支援を実践する機関や支援者に寄与 出来る具体的な実践モデルが求められる。 現在までに、地域における子育て支援講座(以下、講座)への参加が子どもの成長だけ でなく母親の意識や気分、親子関係の肯定的な変化を促すことが明らかにされ(e.g., 千葉 ら,2009)15)、講座への参加が子どもの成長だけでなく、ともに参加した母親にとっても 意義ある活動であることが示されてきた。継続的な講座への参加による母親の心理に着目 した研究も複数あり、1年間の子育てサークルへの参加により母親の不安感が有意に軽減 7 ) 内 閣 府 : 「 平 成 27 年 版 子 ど も ・ 若 者 白 書 ( 全 体 版 ) 」 , https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h27honpen/ b2_04_04.html, 2016年. (2017年7月9日閲覧) 8) 岩堂美智子:「母子心理臨床と子育て支援―大阪市立大学「どんぐり教室」の二八年―」,(岩堂美智子/監修・ 松島恭子/編:『臨床心理の子育て支援―その理論と実践事例―』), 267頁, 創元社, 2008年. 9) 篠田美紀:「乳幼児健診からみた子育て支援」,(岩堂美智子/監修, 松島恭子/編:『臨床心理士の子育て支援』), 47頁, 創元社, 2008年. 10) 文部科学省:「つながりが創る豊かな家庭教育―親子が元気になる家庭教育支援を目指して―(平成24年3月)」, http://www.mext.go.jp/component a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/04/16/1319539_1_1.pdf, 2012 年 . (2017年7月9日閲覧) 11) 小川晶:『保育所における母親への支援―子育て支援をになう視点・方法分析―』, 3頁, 学文社, 2014年. 12) 名須川知子・楠本洋子:「親育てプログラムの効果に関する研究―3年間の母親の子育て意識の変容を中心に―」, 『兵庫教育大学研究紀要』, 第38巻, 1-8頁, 2011年. 13) 相戸晴子・山下智也:「子育て当事者と支援者の関係性モデルの一考察―子育て支援事業への参加のあり方を 巡って―」, 宮崎国際大学教育学部紀要『教育科学論集』第2号, 1-13頁, 2015年. 14) 古橋啓介・池田孝博・杉野寿子・大久保淳子・中原雄一・伊勢慎:「子ども・子育て支援新制度導入後の基礎 自治体の実態」, 『福岡県立大学人間社会学部紀要』第27巻第1号, 1-20頁, 2018年. 15) 千葉千恵美・渡辺俊之・平山宗宏・田島貞子:「親子ふれあい教室が母親の気分状態に与える影響」, 『高崎健康
第1章第1節 されること(横川・小田,2012)16)、幼稚園での3年間の親育てプログラムで、4歳児か ら5歳児時において子育て意識尺度の下位尺度である「育児責任」が有意に高くなり、親と しての育ちが示唆されること(名須川・楠本,2011)17)等、講座に一定期間、継続的に参 加することに母親の成長を支える効果があることが示されてきた。 しかしながら、こうした研究の多くは、講座と母親との相互的な関わりに着目したもの であった。子育て支援が子どもの育ちに寄与するものであるならば、母親を、家族や地域 に存在しながら子どもとの関係性の中で成長していく存在と捉え、母親の成長を支えなけ ればならない。母親が受ける支援は、そのときの母子関係に直接的な影響を及ぼすだけで はなく、むしろ、母親が長年醸成させていく子育て意識に影響を及ぼしている可能性があ ると考えられる。本研究では、長期的な展望に基づき子育て意識の変容に繋がる子育て支 援の実践を開発することを目的としている。支援プログラムの開発にあたり、先ず、育児 をしながら子育て支援講座に参加している母親の心理的な変化や成長を実証し、それに基 づいた指針の提案、支援の具体的な方策及び場を提供する必要がある。 講座でも頻回に実施される読み聞かせは、多くの家庭でも親しまれる活動であり、約9 割の児童生徒が幼少期に読み聞かせをされた経験を持つ(文部科学省,2004)18)。本研究 では、子育て支援における読み聞かせの定義を足立(2004)19)を参考に、「大人(支援者) が、子どもや共に参加した親に対して絵本を読んで聞かせたり、子どもや親と一緒に同じ 絵本を読む場を共有したりすること」とする。第四次「子供の読書活動の推進に関する基 本的な計画」では、読書習慣の形成に向けて「発達段階ごとの効果的な取り組みを推進し、 乳幼児期では絵本や物語を読んでもらい興味を示すようになる等」の計画の改正や、家庭 での読書活動の支援として「子どもを中心に家族で同じ本を読み、絆の一層の深まりを目 指す家読」が挙げられている(文部科学省,2018)20)。子どもが乳幼児の場合、大人に絵 本を読んで貰うことが必要である。特に、未就園児の場合、園で継続的に絵本を読んで貰 う機会は少ない。このことから、家庭で読み聞かせをする機会が多く、日中の育児の大半 16) 横川和章・小田和子:「子育てサークルへの参加による子育て意識の変化」, 『兵庫教育大学研究紀要』第40巻, 19-27頁, 2012年. 17) 名須川・楠本・前掲論文(12), 1-8頁. 18) 文部科学省:「親と子の読書活動等に関する調査(平成16年度)」, 41頁, http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/ tosho/houkoku/05111601/001.pdf, 2004年.(2019年4月28日閲覧) 19) 足立幸子:「国際学術誌における読み聞かせ研究レビュー」, 全国大学国語教育学会誌『国語科教育』第55巻, 52-59 頁, 2004年. 20) 文部科学省:「第四次子供の読書活動の推進に関する基本的な計画(平成30年4月)」, 12-14頁, https://www. mext.go.jp/b_menu/houdou/30/04/__icsFiles/afieldfile/2018/04/20/1403863_002_1.pdf, 2018年.(2019年4月7日閲覧)
を担う母親への継続的な支援が望まれる。しかしながら、支援の場で行われる読み聞かせ では、家庭での母親を一定期間、継続的にフォローする等の具体的な仕組みを有すること が極めて少なく、支援体制の構築は喫緊の課題である。 地域での子育て支援の場の1つに公民館があるが(牧野,2018)21)、各公民館では講座 が開催され、読み聞かせが実施されている。例えば、岡山市内の公民館(全37館)のパン フレット(岡山市教育委員会事務局生涯学習部生涯学習課公民館振興室,2016)22)には、 未就園児や乳幼児が対象で「絵本の読み聞かせ」と明記される講座が18講座に上る。絵本 をひらく楽しい体験と絵本をセットで手渡す活動である、ブックスタート(中村・南部, 2007)23)は、2019年2月28日現在で全国の約6割にあたる1,038市区町村が取り組んでいる (NPOブックスタート,2019)24)。絵本は公共施設や園等に準備があるため、支援者にと って入手、実施が容易であるという特徴を持ち、子育て支援と家庭の両方で、親子で取り 組むことが出来る最も身近な活動と言える。 本研究では、支援プログラムの実施の場として、社会教育施設である公民館を想定して いる。公民館の数は実に全国で14,171館に及び(総務省,2015)25)、中学校ないし小学校 の通学区域に設置されているため、親子が徒歩か自転車で気軽に通うことができ、地縁が 生まれ易い利点がある。2014(平成26)年度の学級・講座の開設状況では、「家庭教育・家 庭生活」は72,382講座、「育児・保育・しつけ」は15,282講座が開設される。これらの公民館 の中には、先駆的な家庭教育支援事業を展開しているところもあると報告されている(室 谷・中山,2013)26)。公民館における講座の様子を図1-1に示す。公民館という地域に 開かれた施設を拠点とした子育て支援は、保育の専門家が常駐する他の施設と比べると、 多くの場合、子育て支援の講座の時間内に限定された支援に止まる。他方、その特徴から 地域の多様な世代の人々との関わりが生み出され易く、また、地域の人々が子ども達の成 21) 牧野篤:『公民館はどう語られてきたのか―小さな社会をたくさんつくる①―』, 1-6頁, 東京大学出版会, 2018年. 22) 岡山市教育委員会事務局生涯学習部生涯学習課公民館振興室:「公民館の施設案内」, http://www.city. okayama.jp/ okayama/okayama_00078.html, 2016年.(2018年12月8日閲覧) 23) 中村仁美・南部志緒:「ブックスタートの実態調査と効果的な実施方法についての検討」, 日本図書館情報学会 誌『日本図書館情報学会誌』第53巻第2号, 75-89頁, 2007年. 24) NPOブックスタート:「実施自治体一覧」, http://www.bookstart.or.jp/about/ichiran.php, 2019年.(2019年4月2日閲 覧) 25) 総務省:「社会教育調査 平成27年度統計表公民館調査(公民館)」, https://www.e-stat.go.jp/stat-search/ files? page=1&layout=datalist&toukei=00400004&tstat=000001017254&cycle=0&tclass1=000001098916&tclass2=000001098918 &tclass3=000001098921, 2015年.(2019年4月28日閲覧) 26) 室谷雅美・中山徹:「公民館で実施されている家庭教育支援事業の実態について―先駆的な事業を実施している 公民館の事例―」, 日本家政学会誌『日本家政学会誌』第64巻第11号, 733-742頁, 2013年.
第1章第1節 図1-1. 公民館における講座の様子 長を見守っていく上でも、支援の拡がりが期待される。 地域の母子が気軽に集う子育て支援において、身近な活動である読み聞かせを用いて、 家庭での母親の支援を視野に入れた支援プログラムを開発実践することは、子育ての負担 軽減や母親の心理的な成長に繋がることが期待出来る。そこで本章では、その第一着手と して内外の子育て支援プログラムについて先行研究を概観し、地域における子育て支援の 具体的な取り組みを検討する。 Ⅱ. 子育て支援プログラムに関する先行研究 本節では先ず、「子育て支援」「プログラム」「母親支援」という3つのキーワード に関わる先行研究を概観する。具体的な手法として、国内における先行研究は、国立国 会図書館のNDL-OPAC を使用し、『保育学研究』『乳幼児教育学研究』等、保育・幼 児教育分野の学術雑誌に掲載された論文から検索する。また、国外の先行研究に関して は、EBSCOhost を使用して検索する。調査期間は、2019(平成 31)年2月 12 日~3月 3日である。その結果、計 71 件の先行研究を検索出来た(「子育て支援+プログラム」 関係論文 241 件、「母親支援」関係論文 96 件、「子育て支援+プログラム+母親」関 係論文 22 件)。 支援プログラムは国内外で多数実施される。それらの子育て支援活動の整理として、
中釜(2007)27)は、子育て支援の実際を、発達の遅れや家庭環境等の特殊な問題に対 する支援と、どのような子育てにも通用する、よりジェネラル(以下、「一般的」と表 記する)な問題に対する支援の2グループに分けて捉えている。本節ではさらに、支援 プログラムの参加者を親のみの参加と、親子での参加の2グループに分けて4分類(以 下①~④)とし、表1-1に示した。支援プログラムによっては、開発当初は特殊な問 題に対する支援であったが、現状は一般的な問題に対する支援として利用されている等、 開発当初と現在で支援の実際が異なる支援プログラムは、現状を基に分類している。 ①特殊な問題に対する支援プログラム(親のみ参加):これらの支援プログラムは、発達 に偏りのある子どもへの親の対応や、育児困難感の軽減、親の自信向上等を目的とし、保 護者対象の複数回の心理教育とホームワークからなる。親のみの参加形式により、子ども への対応をグループワークやロールプレイ等で体験的に学んだり、同じ問題意識を持つ親 同士が話し合う機会にもなる。
Common sense parentingは被虐待児の保護者対象のペアレントトレーニングとしてアメ リカで開発された(Burke & Herron,1996)28)。子どもの望ましい行動を増やし問題行動 を減らす、しつけの方法を学ぶという2ステップからなり、暴言や暴力を使わず育児をす る技術を親に伝えることで、虐待の予防や回復を目指す(久保ら,2016)29)。日本でも久 保ら(2016)30)により実施され、一般の養育者にも講義や演習が行われる。
オーストラリアで創始し日本でも実践される、子どもの問題行動や虐待予防に対応する 親支援プログラムTriple P-Positive Parenting Program(トリプルP―前向き子育てプログラ ム)(Sanders,2003)31)は、認知行動療法が基盤となり、家庭での親と子に行動変容をも たらすように工夫されている。子どもとの日常の関わりに使える子育ての実用的な技術と して、発達を促す10の技術、問題行動に対応する7の技術をグループワークやロールプレ
27) 中釜洋子:「子育て支援の心理教育」, (日本家族心理学会/編:『家族支援の心理教育―その考え方と方法―』), 34-45頁, 金子書房, 2007年.
28) Burke,R.V. & Herron,R.W. (1996): Common sense parenting. Boys Town Press. Boys Town, NE.
29) 久保恭子・宍戸路佳・草間真由美・倉持清美・後藤恭一:「乳幼児を持つ養育者にコモンセンス・ペアレンテ ィング・プログラム短縮版を用いた子育て支援のポピュレーションアプローチの可能性」, 『東京学芸大学紀要総合 教育科学系Ⅱ』第67巻第2号, 245-253頁, 2016年.
30) 久保ら・前掲論文(29), 245-253頁.
31) Sanders, M. R. (2003): Triple P-Positive Parenting Program: A population approach to promoting competent parenting,
第1章第1節 イを通して学ぶ(加藤,2010)32)。その他にも、ADHD児を養育する家族への教育プログ ラム(飯田,2002)33)や、児童相談所における親教育プログラムとして、虐待の問題を抱 える親を対象とした支援プログラムが報告されている(田中,2005)34)。 表1-1. 支援の方向性及び内容、参加者による支援プログラムの分類 注)中釜(2007)35)を参考にした。 32) 加藤則子「子どもとの関わりがよくなる17の技術」,(加藤則子・柳川敏彦/編:『トリプルP前向き子育て17の技 術―「ちょっと気になる」から「軽度発達障害」まで―』), 2-6頁, 診断と治療社, 2010年. 33) 飯田順三:「ADHD児をもつ家族への支援―家族教育プログラム―」, 『臨床心理学』第2巻第5号, 605-610頁, 2002年. 34) 田中清美:「児童相談所における親教育プログラム」, 財団法人日本家族計画協会誌『母子保健情報』第50巻, 155-158頁, 2005年. 35) 中釜・前掲書(27), 41-45頁. 支援の方向性及び内容注) 特殊な問題に対する支援 発達の偏りや遅れ,ひとり親家庭の子育て, 攻撃性のコントロール 等 より一般的な問題に対する支援 子どもの育ち,親役割の実行, 仲間づくり,夫婦の役割分担 等 支 援 プ ロ グ ラ ム の 参 加 者 親 の み 参 加 ①
● Common sense parenting(Burke & Herron, 1996;久保ら,2016)
● ADHD児をもつ家族への教育プログラム(飯 田,2002)
● Triple P- Positive Parenting Program(Sanders, 2003;加藤,2010) ● 児童相談所における親教育プログラム(田 中,2005) 他 ③ ● 1-2-3 Magic(Phelan,1984;北 岡ら,2012) ● Nobody's Perfect(Catano,1997 ;原田,2007) ● 幼稚園で実施の親育てプログラ ム(名須川・楠本,2011) ● 育児に悩む母親に対するグルー ププログラム(頭川・北山,2011) 他 親 子 参 加 ② ● 発達に気がかりがある子どもの社会的スキ ル獲 得 を目 指し た 親子 ム ーブ メ ント 活 動 (阿部,2014) ● 障害のある子どものきょうだいとその家族 のための支援プログラム(阿部・神名,2015) ● 早期虐待予防を目的とした子育て支援プロ グラム“赤ちゃんがきた!”(寳川,2015) ● 長期入院児家族のための絵本の読みあいに よる支援プログラム(西・村中・松下,2016) 他 ④ ● 大学で実施の親子ふれあい教室 (千葉ら,2009) ● プログラムとして実施されるリ トミックやわらべ歌等のイベン ト(名須川・高畑・磯野,2016) ● 第2子を持つ親子のための子育 て支援プログラム(七木田ら, 2018) 他
特殊な問題に対する支援では、支援者には専門的な知識や経験が必要とされる。例えば、 岸田ら(2006)36)によれば、トリプルP-前向き子育てプログラムでは、医師、心理士、保 健師、看護師等の専門職がワークショップと認定試験を経て支援者として活動するため、 力量のある支援者の確保に課題があると考えられる。 ②特殊な問題に対する支援プログラム(親子参加):これらの支援プログラムでは、発達 に偏りのある子どもへの親の対応や、親の自信向上、子どもが達成感を持つこと等を目的 として、保護者と子どもを対象とした複数回の活動と心理教育が行われる。親子参加のた め、親が我が子と関わりながら、支援プログラムで学んだ内容を即実践でき、母親同士が 互いに育児行動を観察出来ることも特徴である。 阿部(2014)37)が考案した親子ムーブメント活動は、発達に気がかりがある子どもの社 会的スキル獲得を目的とする。親が予め、子どもの実態に応じて取り組ませたい社会的ス キルと、その実現のために親自身が取り組みたいと考える支援方法を選択しておき、その 後、親子で様々な遊具を使い、人と関わる運動遊びを行う。子どもの活動は、達成感を最 優先するため、子どもが何度でもその活動に取り組むことが出来るよう構成される。活動 の最後に、情報交換や質疑応答の時間が設けられている。親の変容として、支援プログラ ムで習う子育てのやり方以外に自発的に独自のやり方を考え実行する姿が報告されている。 障害のある子どものきょうだいと家族のための支援プログラム(阿部・神名,2015)38) では、グループ活動や親ときょうだいとの触れ合い遊び等を通じて、親の自信の向上やき ょうだいの同胞に対する「余計な負担の感情」が有意に減少することが、量的データを基 に実証されている。早期虐待予防を目的とした支援プログラム「赤ちゃんがきた!」は、 Nobody's Perfect(e.g., Catano,1997)39)の理念を基に、初めて育児をする母親と0歳児を 対象とし、進行役の存在のもと、母親同士の交流が行われる(寳川,2015)40)ものである。 36) 岸田泰子・田村毅・倉持清美・久保恭子・及川裕子:「育児支援プログラムに関する文献的検討」, 『東京学芸 大学紀要』第57巻, 381-388頁, 2006年. 37) 阿部美穂子:「発達に気がかりがある子どもの社会的スキル獲得を目指した子育て支援実践―親子ムーブメン ト活動を活用したプログラムの検討―」, 日本保育学会誌『保育学研究』第52巻第3号, 365-378頁, 2014年. 38) 阿部美穂子・神名昌子:「障害のある子どものきょうだいとその家族のための支援プログラムの開発に関する 実践的研究」, 日本特殊教育学会誌『特殊教育学研究』第52巻第5号, 349-358頁, 2015年.
39) Catano, J.W. (1997): Nobody’s perfect. The Minister of Public Works and Government Services, Toronto. (三沢尚子/監 修・幾島幸子/訳:『完璧な親なんていない!普及版―カナダ生まれの子育てテキスト―』, 1-7頁, ひとなる書房, 2002 年.)
第1章第1節 他にも、西・村中・松下(2016)41)が実践する、長期入院時家族を対象とした絵本の読み あいによる支援プログラムは、長期入院を体験する子どもとその家族への心理的支援を目 的とする。支援者が入院児と絵本を読み合う様子と家族と支援者が絵本を読み合う様子を 録画した後、入院児と家族の双方に見せる。その後、支援者によるインタビューの実施と コミュニケーションシートを用いて家族でやりとりをする。自然発生的な感情や体験を生 かすことが重要であり、支援者の臨床的関わりが求められる。 これらの支援プログラムも力量を持った支援者の確保が課題である。親子参加の支援プ ログラムではあるが、母親同士の交流の時間が支援プログラムに組み込まれることが多く、 母親達の情報交換や気持ちの共有は、母親支援に必要な活動であると言える。 ③より一般的な問題に対する支援プログラム(親のみ参加):これらの支援プログラムは、 親の育児困難感の軽減、虐待等の問題発生の予防、仲間づくりの促進、親の自信向上、子 育ての技術向上を目的とし、複数回の心理教育等の活動が行われる。 英国でADHD児の養育方法として開発された1-2-3 Magic(Phelan,1984)42)は健常児に も効果が確認され、日本でも実施される。子どもの行動面に着目した手法の紹介や、ロー ルプレイ、家庭での宿題等からなり、母親の子育て自己効力感の有意な上昇と終了後3か 月後の維持が確認されている(北岡ら,2012)43)。カナダで開発され日本でも実践報告さ れるNobody's Perfect(e.g., Catano,1997;原田,2007)44)45)では、認定ファシリテーター が企画運営し、親同士がグループで体験や不安を話し合う形式で、子育ての技術や自信の 向上を目指す。 幼稚園で実施された3年間の親育てプログラム(名須川・楠本,2011)46)では、保育参 観、保育参加、演奏会や料理教室といった子育て講座の開催、子育て相談の実施等に母親 が自主的に参加する。母親の子育て意識の分析を目的として作成された子育て意識尺度で は6因子が抽出され、4歳児から5歳児時において子育て意識尺度の下位尺度である「育児 41) 西隆太朗・村中李衣・松下姫歌:「長期入院児家族のための絵本の読みあいによる支援プログラム―実施方法に ついて―」, 『ノートルダム清心女子大学紀要』第40巻第1号, 57-66頁, 2016年.
42) Phelan, T. W. (1984): 1-2-3 Magic; Effective discipline for children 2-12(1st edition). Children Management Inc., USA.
43) 北岡和代・落合富美江・内田真紀・橋本智江・寺井孝弘:「“1-2-3 マジック”英国子育て支援プログラムの 日本導入と効果の検討」, 日本看護研究学会誌『日本看護研究学会雑誌』第35巻第2号, 91-101頁, 2012年. 44) Catano・前掲書(39), 1-7頁. 45) 原田正文:「レクチャー編 親支援プログラム“Nobody's Perfect”とは?―日本の親にぴったり! 虐待予防にも なるプログラム―」,『保健師ジャーナル』第63巻第9号, 774-777頁, 2007年. 46) 名須川・楠本・前掲論文(12), 1-8頁.
責任」が有意に高かったが、その要因として「友人の支え」の影響が示された。他にも、育児 に悩む母親に対するグループプログラム(頭川・北山,2011)47)は、家庭での親子の関わ りを記録したノートを持参して話し合うものであり、参加前後において自尊感情尺度や家 族機能尺度の得点に上昇傾向が認められた。これらの支援プログラムの支援者には、特殊 な問題に対する支援プログラムと同様に、認定ファシリテーター、幼稚園教諭、保健師等 の専門職が関わるため、支援者の確保やスキルアップが求められる。 ④より一般的な問題に対する支援プログラム(親子参加):これらの支援プログラムは、 親子のふれあい、子どもの体験活動、母親の困り感の解消、地域の仲間づくりの促進等を 目的とし、主に地域の公共施設や、園、大学等で地域に住む親子を対象に実施される。 大学の子ども・家族支援センターでの親子のふれあい教室(千葉ら,2009)48)は全5回 からなり、1~2歳の子どもと母親が参加し、手遊びや描画、ごっこ遊び、有資格者の教 員による育児相談等を実施した。母親の気分状態の有意な改善が認められ、講座の終了後 は母親が自主グループを構成し活動が継続された。第2子を持つ親子のための子育て支援 プログラム(七木田ら,2018)49)は、子育て支援センターで実施され、母親が2人の子ど もの親になるという新たな役割課題を達成し適応していくための支援を行う。4つの時間 割から構成され、支援の場所に慣れる時間、テーマの共有や絵本の読み語り等支援者が提 案し進行するメインの時間、参加自由な語らいの時間、振り返りの時間からなる。振り返 りでは、母親同士の思いの共有や育児への見通しがついたことが報告されている。 これらの支援プログラムは幼稚園教諭や保育士、臨床心理士の専門職や学生が関わり実 施され、何れも複数回の参加である。支援の内容及び回数について、名須川・高畑・磯野 (2016)50)は、支援プログラムとして実施されるリトミックやわらべ歌遊び等のイベント は参加する親子も多く、支援者の充実感も得られるが、親同士の交流が生じ難く繋がりが 持ち辛いことを指摘している。これらのことから、地域における支援プログラムの内容や 参加回数による効果の実証が求められる。 47) 頭川典子・北山秋雄:「育児に悩む母親に対するグループプログラムの効果―母親の変化と家族関係の変化に着 目して―」, 日本小児保健協会誌『小児保健研究』第70巻第3号, 371-379頁, 2011年. 48) 千葉ら・前掲論文(15),37-48頁, 2009年. 49) 七木田敦・清水寿代・杉村伸一郎・中坪史典・津川典子・富田雅子・森依子・周心慧・本岡美保子:「第2子を 持つ親子のための子育て支援プログラムの構築―東広島市子育て支援センターとの協同から―」, 広島大学大学院 教育学研究科附属幼年教育研究施設誌『幼年教育研究年報』第40巻, 83-91頁, 2018年. 50) 名須川知子・高畑芳美・磯野久美子:「親子が楽しく参加できるプログラムつくり」, (伊藤篤/監修『子育て家
第1章第1節 岸田ら(2006)51)の報告では、地域住民を対象とする支援プログラムの多くは行政が主 催する。行政主催の子育て支援が実施される施設の1つとして、社会教育施設である公民 館が挙げられる。また、NPO法人子育てひろば全国連絡協議会(2009)52)によると、地域 子育て支援の量的拡充を目指す地域子育て拠点事業は、2008(平成20)年度には、年間延 べ約3,264万人の親子が利用している。これらの数値から推察すると,一般的な問題に対す る親子参加型の支援に繋がる親子の数は、特殊な問題を扱う支援プログラムに比して膨大 である。このため、支援の内容を絞り、手続きが構造化され短期間で実施出来る支援プロ グラムの構築が必要である。 しかしながら、より一般的な問題に対する支援プログラム(親子参加)における母親支 援の効果については報告が少ない。このため、地域での子育て支援講座や子育てサークル 等の取り組みにおける母親支援の効果も併せて以下に整理する。 Ⅲ.より一般的な問題に対する支援プログラム及び子育て支援講座(親子参加)における 母親支援の効果 地域における支援プログラム及び子育て支援講座への参加が母親の意識や気分、親子関 係の肯定的な変化を促すことが明らかにされ(e.g., 千葉ら,2009)53)、子どもの成長だけ でなく、共に参加した母親にとっても意義ある活動であることが示されてきた。継続的な 講座への参加による母親の心理に着目した研究も複数あり、1年間の子育てサークルへの 参加による母親の不安感の有意な軽減(横川・小田,2012)54)、地域の子育て支援に継続 参加する母親の動機付けとして、子どもに仲間体験を与えられた満足感や親自身の楽しみ と成長があること(武田(六角),2012)55)等、講座に一定期間、継続参加することに母 親の成長を支える効果があることが示唆された。 子育て支援の効果は、支援の場だけでなく、本来は家庭や地域で生活する母親や子ども 51) 岸田ら・前掲論文(36), 381-388頁. 52) NPO法人子育てひろば全国連絡協議会:「子ども子育て支援新制度・意見書」, http://kosodatehiroba.com/ pdf/ 09box/message.pdf, 2009年.(2018年12月7日閲覧) 53) 千葉ら・前掲論文(15), 37-48頁. 54) 横川ら・前掲論文(16), 19-27頁, 2012年. 55) 武田(六角)洋子:「保育者と心理職の協働による乳幼児とその親への予防的支援―何があれば子育て支援の 場に親子は通い続けるのか―」, 小平記念会誌『家庭教育研究所紀要』第34巻, 115-127頁, 2012年.
の実感によって評価されるものである。支援を受けた母親の子育て意識が変容することに より、家庭や地域でより健やかな子育てが出来るようになることが望まれる。母親の心理 的変容や母子の関係性の変化といった支援の効果に限局し、子育て支援の場と家庭の両方 で出来る活動の提供が、より短期間であっても母親の心理的変容に促進的に働き、量的拡 充が可能になると考える。 支援の場と家庭の両方で出来る活動として読み聞かせが挙げられる。以下に、子育て支 援における読み聞かせの効果について先行研究を概観し、より具体的に考察する。 Ⅳ. 絵本の読み聞かせ活動に関する先行研究 本節では、子育て支援における読み聞かせの先行研究を概観するために、「絵本」「読 み聞かせ」「子育て支援」という3つのキーワードを用いた。具体的な手法として、国立 国会図書館のNDL-OPACを使用し、『読書科学』『家庭教育研究』等、読書や家庭教育分 野の学術雑誌に掲載された論文から検索する。調査期間は、2019(平成31)年2月12日~ 4月15日である。その結果、「絵本」5,887件、「読み聞かせ」673件、「子育て支援」503 件の先行研究を検索することが出来た(「絵本+子育て支援」関係論文36件、「読み聞か せ+子育て支援」関係論文14件)。以下、子育て支援における読み聞かせの効果に着目し、 母親への効果及び母子関係への効果に分けて整理した。 1.母親への効果 子育て支援における読み聞かせでは、母親が我が子に読む場合(母親は読み手)と、母 親が我が子と共に集団での読み聞かせに参加する場合(母親は聞き手)が想定される。 子育て支援において母親が読み手になる場合は、家庭における母子での読み聞かせと同 様の状況である。母親が読み聞かせに対して持つ考えに焦点を当てた研究では、家庭での 読み聞かせにおいて、母親の多くは、「空想・ふれあい」という意義を重視し、読み聞か せの過程自体が意味を持つことが示されている(秋田・無藤,1996)56)。家庭での読み聞 かせが父母に与える影響を縦断的に分析した研究では、当初は親子のどちらかが主導的な 56) 秋田喜代美・無藤隆:「幼児への読み聞かせに対する母親の考えと読書環境に関する行動の検討」, 日本教育心
第1章第1節 関わりであるが、次第に親子が相互的な関わりになることが示された(江玉,2002)57)。 絵本は子どもだけでなく、大人も絵本からの影響を受けるとの考えも多数あり(e.g., 河合, 2001;松居,2008)58)59)、母親自身が絵本に親しみを持つ可能性もある。 母親が聞き手になる場合、講座や読み聞かせ会等に参加した母親が子どもと共に聞き手 として、集団の読み聞かせに参加する場面が想定される。講座における読み聞かせの様子 を図1ー2に示す。聞き手となった母親に対する心理的な効果について実証的な研究は認め られない。このため、第3章第1節において、講座に参加した母親を対象に、心理的効果 の具体的な内容を明らかにする。 図1ー2. 講座での読み聞かせの様子 2.母子関係への効果 実際に講座での読み聞かせの様子を観察すると、母子で並んで同じ絵本を眺め、その内 容について言葉を交わしたり、母親が子どもの表情を見たり、子どもが母の視線を追う姿 を見ることも多い。北山(2005)60)は、この様な共同注視の出現を、子どもが象徴を共有 し、言語を使用し考えるようになっていくための基盤となるものであり、発達にとって重 要な意味を持つことを指摘している。さらに、脳科学の分野で近年得られた知見として、 泰羅(2018)61)によると、我が子に読み聞かせをしている母親及び読み聞かせをされてい 57) 江玉睦美:「絵本の読み聞かせが父母に与える影響に関する研究―事例分析から―」, 中国四国教育学会誌『教 育学研究紀要』第48巻第1号, 529-534頁, 2002年. 58) 河合隼雄:「絵本の不思議」(河合隼雄・松居直・柳田邦男/著:『絵本の力』), 3-5頁, 岩波書店, 2001年. 59) 松居直:『松居直のすすめる50の絵本―大人のための絵本入門―』, 127-130頁, 教文館, 2008年. 60) 北山修:「共視母子像からの問いかけ」,(北山修/編:『共視論―母子像の心理学―』), 16頁, 講談社, 2005年. 61) 泰羅雅登:「読み聞かせは“心の脳”に届く」,(田島信元・佐々木丈夫・宮下孝弘・秋田喜代美/編著:『歌と 絵本が育む子どもの豊かな心―歌いかけ・読み聞かせ子育てのすすめ―』), 235-238頁, ミネルヴァ書房, 2018年.
る子どもの脳の状態を光トポグラフィーで計測したところ,読み手である母親のみが、前 頭前野のコミュニケーションを司る部分が活性化することが分かった。読み聞かせをされ ている子どもの脳の状態を機能的MRIで計測したところ、子どもでは感情や情緒に関わる 働きをする大脳辺縁系の活性化が示された。また、実母子間に限らずとも、また成人であ っても同様の効果が得られることが明示されている(森,2015)62)。 読み聞かせ過程における親子の相互作用について、子どもの年齢により親の支持的な関 わり等に変化が認められること(Pellegrini, Brody & Sigel,1985)63)が報告されている。母 親の養育態度と読み聞かせの方法の関係として、子どもの主体性や意図、子どもとの関わ りを重視する配慮型の養育態度を持つ母親は、対話を重視した読み聞かせを行うことが実 証されている(島・浦田,2013)64)。乳児期における絵本共有時間を3か月間操作的に増 加させた群は、母親の子どもに対する賞賛と子どものほほえみの頻度が統制群に比して増 加することが示され、絵本共有により母親及び子どもの行動が変容することが実証されて いる(佐藤・内山,2012)65)。 ここまでに、子育て支援に参加した母親の心理的変容として、自己効力感の向上や、子 どもの成長や家族の変化の実感、他の母親と育ち合える関係になること等が挙げられた。 読み聞かせでは、共同注視による親子の情緒的なコミュニケーションが活性化し、母親の 気分や感情の肯定的な変化があることを示した。次に、これまでの知見から、読み聞かせ を活用した母親支援の実践開発について展望を示す。 Ⅴ.母親の心理的変容を促進する読み聞かせを活用した子育て支援の実践開発 本研究では、母親支援の実践開発として、読み聞かせを活用した母親の心理的変容を促 進する支援プログラムの構築を目指す。支援プログラムとして、先述した先行研究を含め 62) 森慶子:「絵本の読み聞かせの効果の脳科学的分析―NIRSによる黙読時,音読時との比較・分析―」,『読書科 学』第56巻第2号, 89-100頁, 2015年.
63) Pellegrini, A.D., Brody, G.H. & Sigel, I.E. (1985): Parent’s book-reading habits with their children. Journal of
Educational Psychology, 77(3), pp.332-340, American Psychological Association, Washington, DC.
64) 島義弘・浦田愛子:「発達期待と養育態度が母親の読み聞かせの意義の認識と読み聞かせの方法に与える影響」, 『鹿児島大学教育学部紀要教育科学編』第65巻, 125-133頁, 2013年.
65) 佐藤鮎美・内山伊知郎:「乳児期における絵本共有が子どもに対する母親の働きかけに及ぼす効果―絵本共有 時間を増加させる介入による縦断的研究から―」, 日本発達心理学会誌『発達心理学研究』第23巻第2号, 170-179頁,
第1章第1節 認知行動療法を援用した方法が複数報告されている。認知行動療法は,対象者自身の考え 方や振る舞いに対する見通しに介入することによって感情や情緒の安定を図り(坂野, 1995)66)、認知の問題と行動の問題を合わせて治療しようとする心理療法である(坂野, 2004)67)。その治療的根拠は明確で、精神科領域を初め司法・矯正領域や社会支援領域等 幅広く実践され、改善までに所用される時間が一般的に短い(坂野,2012)68)という特徴 を持つ。教育分野においても認知行動療法を援用したアプローチ(以下、下山ら(2008)69) に準じ、認知行動的アプローチとする)が報告されている。児童の心理的問題を予防する プログラムでは自身の感情を肯定的な方向に変化させることが出来る(下山ら,2008)70) こと、保育者への支援プログラムの個別実施(西山・片山,2013)71)並びに集団支援の実 施により保育者効力感の向上が実証されている(西山,2012;大森,2018)72)73)。本研究 においても、講座に参加した母親の心理的変容過程と変容の要因を精査した上で、認知行 動的アプローチによる支援プログラムの構築を目指す。 地域における子育て支援は、利用者数が他の支援に比して膨大であり、支援者や財源の 確保等の資源面に課題がある。利用者の負担も考慮すると、1~2か月程度の短期間の実 施で効果が得られる支援プログラムが望まれる。子育て支援の場(講座)だけでなく、家 庭での母親が、読み聞かせや心理的変容の促進可能なワーク並びに育児行動の実践を行う ことで、母親は講座と家庭の両方で途切れなく支援を受けることが可能になる。支援内容 工夫により、支援者が少ない地域であってもより多くの母親に気軽に支援を提供すること が可能になる。本支援プログラムの実践開発は、身近な読み聞かせを用いた具体的な実践 モデルを示すことが出来る。そのため、本支援プログラムは、限られた資源の中で子育て 支援に取り組んでいる子育て支援の実施機関や支援者を強く支えるものとなり得る。 66) 坂野雄二:『認知行動療法』, 8頁, 日本評論社, 1995年. 67) 坂野雄二:「認知療法・行動療法」, (小此木啓吾・深津千賀子・大野裕/編『改訂心の臨床家のための精神医学 ハンドブック』), 514-515頁, 創元社, 2004年. 68) 坂野雄二:「認知行動療法の歴史と今後の展望」, (坂野雄二/監修『60のケースから学ぶ認知行動療法』), 5頁, 北大路書房, 2012年. 69) 下山晴彦・屋嘉比光子・西村詩織・平林恵美・林潤一郎:「子どものための認知行動療法プログラムの開発研究」, 『東京大学大学院教育学研究科紀要』第48巻, 163-184頁, 2008年. 70) 下山ら・前掲論文(69), 163-184頁. 71) 西山修・片山美香:「初任初期における保育者支援プログラムの個別実施とその効果」, 『岡山大学大学院教育 学研究科研究集録』第152巻, 1-9頁, 2013年. 72) 西山修:「領域「人間関係」に関わる保育者支援プログラムの集団実施による効果」, 日本応用教育心理学会誌『応 用教育心理学研究』第28巻第2号, 3-13頁, 2012年. 73) 大森弘子:「子育て支援を促す保育者支援プログラムの開発」, 日本家庭教育学会誌『家庭教育研究』第23号, 13-24 頁, 2018年.
第2節 用語の統一と倫理的配慮
本研究は、地域の子育て支援を担う公民館の講座に参加した母親の心理的変容過程を精 査しその詳細を明示した上で、母親の心理的変容を促進する支援プログラムの構築を行う。 そこで本節では、本研究の記述に際し用語の統一を行う。具体的には、「子育て支援」「子 育て意識」「育児に対する自己効力感」について整理し定義付ける。また、本研究の倫理 的配慮について述べる。 Ⅰ.用語の統一 1.「子育て支援」の定義 2018( 平 成 30)年に施行された「子ども・子育て支援法」第七条において、子ども・ 子育て支援は「全ての子どもの健やかな成長のために適切な環境が等しく確保されるよう、 国若しくは地方公共団体又は地域における子育ての支援を行う者が実施する子ども及び子 どもの保護者に対する支援」 ( 内閣府,2018)1)と定義された。「子ども・子育て支援法」 を含む「 子 ど も ・ 子 育 て 関 連 3 法 」 ( 内閣府・文部科学省・厚生労働省, 2013)2)に 基づく、「 子 ど も ・ 子 育 て 支 援 新 制 度 」( 内閣府,2017)3)で は 、 地域での子育て 支援について、公共施設や保育所等、地域の身近な所で気軽に親子の交流や子育て相談 が出来る等全ての子育て家庭に応じた様々な支援を提供すると明記された。 無藤(2016)は、現代の子育て事情の特徴として、長寿化、少子化、専業母親及び主婦 の歴史的階層的な地域特殊性、地域の支援の乏しさ、経済の格差等を挙げ、「縁」を広げ ることが今の課題であると述べている4)。その上で、近隣の親子が集まる場所の増加や、 1) 内閣府:「子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)」, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82ab3017 &dataType=0&pageNo=1, 2018年.(2018年12月8日閲覧) 2) 内閣府・文部科学省・厚生労働省:「子ども・子育て関連3法について(平成25年4月)」, https://www8.cao.go.jp/ shoushi/shinseido/law/kodomo3houan/pdf/s-about.pdf, 2013年. (2018年12月8日閲覧) 3) 内閣府:「子ども・子育て支援新制度について(平成29年6月)」, http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/ outline/pdf/ setsumei.pdf, 2017年. (2017年8月16日閲覧)第1章第2節 子育てに関する情報の入手等により、親子の関係を安定させる時間的精神的ゆとりを作る ことをこれからの子育ての在り方として提起している。東山(2010)5)によると、保護者 に対する支援は、狭義には子どもの学齢期までを対象とするのが一般的であり、母性が優 先する母親支援が第一の課題とされる。 そこで本研究における子育て支援は、保育所保育指針(厚生労働省,2018)6)に準じて 「子育て家庭の交流の場の提供及び交流を促進しながら、母親が有する子育てを自ら実践 する力の向上に資する支援」とし、母親への支援(以下、「母親支援」と略す)を念頭に 置くものとする。 2.「子育て意識」の定義 「子育て意識」に関する調査分析は多数実施されている(e.g.,内閣府,2014;ベネッセ 教育総合研究所,2016;横川・小田,2012)7)8)9)。しかしながら、それらの調査内容は 多岐に渡り、親としての感情、子どもへの将来の期待、地域での子育て支援への考え、母 親の就労、食生活の実態等、網羅的である。幼稚園の親育てプログラムに参加した母親の 子育て意識の分析を目的として作成された子育て支援尺度(名須川・楠本,2011)10)では、 「育児負担」「育児肯定」「育児相談」「友人の支え」「親族の支え」「育児責任」の6 因子が抽出されている。1~3歳児の保護者の子育て意識に影響する要因を検討した佐藤 (2011)11)は子育て意識を「将来の育児に対する関心の程度や肯定的または否定的な理解・ 感情を中心とする意識」と定義している。 本章第1節の先行研究では、講座に参加した母親の心理的変容として、母親の意識や気 分、親子関係の肯定的な変化、母親の不安感の軽減、「育児責任」の向上等が挙げられた。 本論文では、母親を家族や地域に存在し、子どもとの関係性の中で成長する存在と捉え、 5) 東山弘子:「子育て支援―臨床心理士に求められる親支援―」,(臨床心理士子育て支援合同委員会/編:『臨床心 理士のための子育て支援基礎講座』), 34-45頁, 創元社, 2010年. 6) 厚生労働省:『保育所保育指針解説』, 339-342頁,フレーベル館, 2018年. 7) 内閣府:「平成25年度「家族と地域における子育てに関する意識調査」報告書 全体版」, https://www8.cao.go.jp/ shoushi/shoushika/research/h25/ishiki/index_pdf.html, 2014年. (2018年12月8日閲覧) 8) ベネッセ教育総合研究所:「第5回幼児の生活アンケート」, https://berd.benesse.jp/up_images/research/YOJI_all_ P01_65.pdf,ベネッセホールディングス, 2016年. (2018年12月8日閲覧) 9) 横川和章・小田和子:「子育てサークルへの参加による子育て意識の変化」, 『兵庫教育大学研究紀要』第40巻, 19-27頁, 2012年. 10) 名須川知子・楠本洋子:「親育てプログラムの効果に関する研究―3年間の母親の子育て意識の変容を中心に―」, 『兵庫教育大学研究紀要』第38巻, 1-8頁, 2011年. 11) 佐藤公子:「1~3歳児をもつ保護者の子育て意識に影響する要因の検討」, 日本小児保健協会誌『小児保健研 究』第70巻第3号, 412-419頁, 2011年.
長期的な展望に基づき子育て意識の変容に繋がる子育て支援の実践を開発する。そこで、 本研究では子育て意識を「母親が、家族や地域と繋がり、子育てをする過程における、子 どもや母親自身の成長の理解及び実感を中心とする意識」と定義する。 3.「育児に対する自己効力感」の定義 自己効力感について、Bandura(1997)12)は、ある行動を遂行出来るという自身の可能 性の認識とし、自己効力感が強いほど実際にその行動を遂行出来る傾向にあると述べてい る。育児における自己効力感について、Schneewind(1995)13)は、育児に関わる親の自己 効力感の高さが子どもを養育し、社会化させるという課題を処理すると考察している。Teti & Gelfand(1991)14)は、育児に対する自己効力感を「親としての能力に対してどれくら い有能かつ効果的に振舞うことが出来るかという程度に対する親の期待」と定義した。 国内の研究では、田坂(2003)15)が、幼児期の子どもを持つ母親の育児自己効力感尺度 を作成し、「子どもへの積極的関わりへの自信」「子どもを安堵させる自信」「子どもを 自己統制させる自信」の3因子を見出している。さらに、金岡(2011)16)の乳幼児の育児 期の母親を対象とした研究では、「育児で直面する経験的あるいは未経験な新しい状況に 遭遇した際に臨機応変に対処出来るという確信の程度」と定義された。本論文では、金岡 (2011)17)の育児に対する自己効力感尺度を援用し、その定義もこれによる。第3章の保 育者への質問紙調査において、質問を工夫する等して測定を試みる。 Ⅱ.倫理的配慮 第2章において、調査に参加した保護者には、①研究の目的、②研究の方法、③個人の情 報、データ等の取扱い方法(データは責任を持って保管し分析終了後破棄すること)、④
12) Bandura, A. (1997): Self-efficacy: the exercise of control. New York: WH Freeman and company.
13) Schneewind, K. A. (1995): Self-efficacy in changing societies, pp.128, Cambridge University Press, Cambridge: (A. Bandura/編・本明寛・野口京子/監訳:『激動社会の中の自己効力』, 115 頁, 金子書房, 1997 年.)
14) Teti, D.M. & Gelfand, D.M. (1991): Behavioral competence among mothers of infants in the first year: The Mediational Role of Maternal Self-Efficacy, Child Development, 62(5), pp.918-929, Blackwell Publishing, Oxford, U.K.
15) 田坂一子:「育児自己効力感(parenting self-efficacy)尺度の作成」,『甲南女子大学大学院論集人間科学研究編』創 刊号, 1-10頁, 2003年.
16) 金岡緑:「育児に対する自己効力感尺度(Parenting Self-efficacy Scale:PSE尺度)の開発とその信頼性・妥当性の 検討」, 日本小児保健協会誌『小児保健研究』第70巻第1号, 27-38頁, 2011年.
第1章第2節 成果が発表される場合にも個人情報が保全されること、⑤研究責任者(筆者)の氏名・所 属・連絡先を十分に説明した。 第3章において、支援プログラム及び統制群として質問紙調査に参加した保護者(母親) には、①研究の目的、②研究の方法、③研究への参加予定期間、④研究発表や子育て支援 プログラム改善の目的以外に用いることはなく、個人情報を保護するため個人名は研究デ ータから取り除き個人を特定することはないこと、⑤研究への参加は自由意志によるもの であり、研究への参加を随時拒否・撤回出来ること、⑥質問紙は鍵のかかる棚にて保管し、 筆者の責任下にて研究終了後速やかに廃棄すること、⑦研究責任者(筆者)の氏名・所属・ 連絡先を書面にて説明した。また、支援プログラムに参加した母親には、支援プログラムに おいて質問紙に記入しない場合でも、不利益を被ることなく参加可能な旨を十分に説明し、 文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に準じた同意書に署 名を得た上で、調査を実施した。加えて、写真の掲載については、母親と公民館館長に確認を求 め、掲載の許可を得てから質問紙調査と支援プログラムを実施した。本論文の第3章第2節は、 岡山大学大学院教育学研究科研究倫理委員会の承認(平成 30 年、課題番号 28)を受けた後 に実施した。
第3節 研究目的と内容構成
Ⅰ.本研究の全体像と支援プログラムのモデル 本研究の意義は、地域の講座に参加した母親の子育て意識の変容過程を明確にした上で、 それに基づく母親支援の実践開発を試みることである。具体的には先ず、地域における子 育て支援と内外の子育て支援プログラムについて母親支援の視点から先行研究を整理する。 次に、地域の社会教育施設である公民館で実施された講座に継続参加した母親の子育て意 識の変容過程を検証する。また、講座における活動として読み聞かせに着目し、読み聞か せ前後の母親の気分や感情の変化について実証する。これらの結果を前提にし、公民館で の支援プログラムの開発、実施、及びその効果と関連要因の検証を行う。 図1-3は、本論文の全体像を示したものである。本論文では、第1章から第4章に6 つの関連研究が組み込まれる。図1-4は、支援プログラムに参加した母親の「育児に対 する自己効力感」「読み聞かせ活動」「子育て意識の変容」がどのような関係にあるのか 示した、支援プログラムのモデル図である。支援プログラムは、講座への単なる参加に留 まらず、講座への参加体験が、家庭や地域での母親も支えることをねらいとする。母親が 支援を感じながら、講座と家庭の両方で、絵本の読み聞かせや達成可能な行動目標の設定 と遂行を重ね育児に対する自己効力感を高める過程を支援し、子育て意識の変容が促され ることを目指す。第1章第3節 図1-3. 本研究の全体図 図1-4. 支援プログラムのモデル図 研究の範囲と位置付け(第1章) 子育て支援に参加した母親の 子育て意識の変容(第2章) 子育て支援における絵本の読み聞かせが 母親に与える心理的効果(第3章第1節) 母親の子育て意識の変容過程に基づく子育て支援プログラムの開発、実施及び 評価 (第3章第2節、第3章第3節) 研究の総括と今後の展望(第4章)
Ⅱ.本論文の内容構成 1.本論文の対象と論文の構成 表1-2は、第2章及び第3章各節毎に、対象、時期、及び分析方法を整理したもので ある。以下、本節では表1-2に従って第2章・第3章各節の分析方法と内容構造につい て説明する。 第2章では、母親を対象として、講座に参加した母親の子育て意識の変容過程に解明す る。先ず、第1節の対象は、講座に継続参加した経験のある母親8名である。調査時期は、 2013 年8月~2014 年5月である。次に、第2節の対象は、講座に7年参加した経験のある 母親1名である。調査時期は、2013 年8月である。さらに、第3節の対象は、第1節と同 じである。 表1-2. 本論文の第2章・第3章各節の対象者と分析方法 表1-2の右欄には、各節の分析方法を示している。第2章第1節及び第2節は複線径 路・等至性モデル、第3節はテキストマイニング及び Ward 法による階層的クラスタ分析 対象者 人数 時期 分析方法 第2章 第1節 母親 8名 2013 年8月~2014 年5月 複線径路・等至性モデル 第2節 母親 1名 2013 年8月 複線径路・等至性モデル 第3節 母親 8名 2013 年8月~2014 年5月 テキストマイニング 階層的クラスタ分析 第3章 第1節 母親 女子大学生 106 名 135 名 2010 年 12 月~2011 年 12 月 因子分析 分散分析 第2節 母親 参加群 統制群 13 名 13 名 2018 年4月~2018 年5月 第3節 母親 参加群 統制群 13 名 13 名 2018 年4月~2018 年5月 分散分析 階層的クラスタ分析 テキストマイニング
第1章第3節 である。第3章第1節は因子分析及び分散分析、第3節は分散分析、Ward 法による階層的 クラスタ分析、テキストマイニングによる量的調査データの分析を基にしている。 第3章第2節の調査は、支援プログラム第1回講座・第4回講座・フォローアップ(第 5回講座)の各時に、質問紙調査を実施した。調査対象は、公民館における講座に参加し 全ての質問紙が回収できた母親13 名である。第 1 回講座からの1か月間、参加者は自宅に 冊子を持ち帰り、子育て支援に関する課題を自ら課し、毎日その1日を振り返り、達成度 を冊子に書き込む。また、研修日から1か月後にフォローアップ講座を実施する。調査は、 筆者が直接質問紙を配布する。 第3章第2節・第3節の統制群に関するデータは、私立保育所に0~3歳の子どもを預 ける保護者 67 名からなる。結果的に保護者は全て母親となった。調査実施時期は、2018 年4月から5月である。統制群の保育者には、参加群とほぼ同時期に同条件で質問紙調査 を実施し、すべての質問紙が回収出来た26 名を統制群候補とした。第2節・第3節では、 分散分析と質的分析を用いて、統制群との比較において検証を試みる。 2.各章の研究内容 本論文の第1章では、地域における「子育て支援」について母親支援の視点から研究の 範囲と位置付けを明確化する。また、内外の子育て支援プログラムについて先行研究を概 観した上で、研究の目的と内容構成を示し、用語を整理する。第1節では、研究の背景を 述べ、問題の所在と内外の支援プログラムに関わる先行研究の今日的な課題を示す。第2 節では、用語・概念を整理し、本論文での使用方法を定義付ける。第3節では、本研究の 目的と内容構成について説明し、本論文の全体像と母親の子育て意識の変容及び読み聞か せ活動と関連要因との関係を示す。 本論文の第2章では、公民館の講座に継続参加した母親の子育て意識の変容に着目する。 併せて、子育て意識の変容過程並びに促進の要因について明らかにし、支援プログラム実 施の具体的な手立てを考察する。第1節では、講座の参加初期における母親の子育て意識 の変容過程を質的分析(複線径路・等至性モデル)により分析する。参加初期における母 親の心理的変容の過程と変容を促進する要因を実証する。第2節では、講座に長期間参加 した母親の子育て意識の変容過程を質的分析(複線径路・等至性モデル)により検討する。 7年間に及ぶ母親の心理的変容の過程を母親の家族や社会との関わりの視点から実証し、 地域における子育て支援の役割を論じる。第3節では、公民館における講座に参加した母
親の心理的変容に関わる語りの特徴について量的分析(テキストマイニング、階層的クラ スタ分析)を試みる。母親の心理的変容の時期や、変容に繋がる要因を明らかにし、支援 の実践に向け端緒を得る。 本論文の第3章では、母親の子育て意識の変容過程に基づく支援プログラムを開発する。 先ず、講座での活動として読み聞かせに着目し、読み聞かせの母親に対する心理的効果を 実証する。次に、支援プログラムを公民館の講座として開発及び試行し、効果を検証する。 第1節では、講座での絵本の読み聞かせが、参加者としての母親に与える心理的効果を、 イメージ及び気分・感情の変化に注目して明らかにする。第2節では、読み聞かせ活動や、 認知行動論的技法を援用した支援プログラムを開発し試行する。第3節では、支援プログ ラムの効果を統制群との比較において検証する。これにより、支援プログラムが母親の育 児に対する自己効力感の向上に関与するかどうかを検証する。具体的には、育児に対する 自己効力感等を用いて、クラスタ分析により母親の類型化を試みる。また、支援プログラ ムの効果を推進する要因を同定する。 本論文の第4章ではここまでの研究を総括し、研究の有効性について述べる。また、こ れからの地域における子育て支援の方向性と課題を提示する。その上で、母親の子育て意 識の変容を促進する手立てについて、心理的変容の類型や特徴及び支援プログラムの活動 内容から論考する。第1節では、質的及び量的分析の結果を踏まえ、講座に参加した母親 の心理的変容の過程の時期や変容の特徴を考察する。また、支援プログラムの実施に向け て、留意点と効果を促進する要因を提示する。第2節では、読み聞かせに焦点を当て、支 援プログラムでの読み聞かせの有効性と課題を示す。また、講座での読み聞かせが、家庭 での母親の読み聞かせや心理的変容を支援し促進する要因を明らかにする。第3節では、 母親の心理的変容を促進する子育て支援、及び支援プログラムの適用について論考する。 また、本論文の総合的な考察を行い、到達点と今後の課題を述べる。さらに、研究を総括 し、本論文が果たす社会的意義について述べる。 Ⅲ.本論文で明らかにする課題 以上、本節では、本論文の目的と内容構成について説明した。また、本論文は「子育て 支援講座に参加した母親の子育て意識の変容過程」「子育て支援における絵本の読み聞か