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子育て支援講座に参加した母親の参加初期における 子育て意識の変容過程

第2章 子育て支援講座に参加した母親の 子育て意識の変容

第1節 子育て支援講座に参加した母親の参加初期における 子育て意識の変容過程

Ⅰ.参加初期における母親の心理的変容過程を実証する必要性

本節では、公民館の講座に継続参加した母親の子育て意識の変容に着目する。講座の参 加初期における母親の子育て意識の変容過程を質的分析(複線径路・等至性モデル)によ り分析し、参加初期における母親の心理的変容の過程と変容を促進する要因を実証する1)。 併せて、支援プログラム実施の具体的な手立てを考察する。

講座に通う大部分の母親は半年から2~3年程度の参加であるため、参加初期1~2 年の経験を中心に子育て意識の変化を短期縦断的に分析し、成長を促進した要因を実証 した上で、支援の在り方を考えることが課題として挙げられる。講座に参加する母親の 目的や背景、子どもの様子、講座での体験は多様であることが予想されるため、複数の 対象者について調査することも課題である。

そこで、本節では、月2回程度の講座へ持続的に参加した経験がある8名の母親にイ ンタビュー(以下、面接)を実施し、母親が初めて講座に参加した当初1~2年の経験 を中心に話を伺った。分析法として用いたのは、複線径路・等至性モデル(Trajectory

Equifinality Model:以下、TEM)という質的研究法の1つである。TEM

はヴァルシナー

とサトウらが生成したモデルで(サトウら,2006)2、安田(2012)3によると、時間 を捨象せず個人の変容を社会との関係で捉え記述しようとする質的心理学・文化心理学 の方法論である。具体的には、人間が外界と相互交渉しながら行うその時々での選択(分 岐点)、選択によって生じる多様な径路(複線径路:

Trajectory)、何らかの最終状態

1) 本節では以下の論文を加筆・修正し、再構成した。岡村幸代:「子育て支援に参加した母親の子育て意識の変容

―8名の母親の語りから―」, 日本家庭教育学会誌『家庭教育研究』第21号, 37-48頁, 2016年.

2) サトウタツヤ・安田裕子・木戸彩恵・高田沙織・Valsiner, J.:「複線径路・等至性モデル―人生径路の多様性を 描く質的心理学の新しい方法論を目指して―」, 日本質的心理学会誌『質的心理学研究』第5号, 255-275頁, 2006年.

3) 安田裕子:「これだけは理解しよう,超基礎概念」,(安田裕子・サトウタツヤ/編:『TEMでわかる人生の径路―

質的研究の新展開―』), 2-3頁, 誠信書房, 2012年.

(等至点:

Equifinality)という概念を用い、サトウ(2009)

4が提示しているように、

等至点へと至る多様性を非可逆的時間軸に沿って明らかにする。

TEM

は1人のデータ でも、多人数のデータでも扱うことが出来、面接対象者が9±2人であれば、径路の類 型を描くことが出来るため(サトウ,2012)5、今回は8名の母親を対象者とした。

以上のことから、本節では先ず、8名の母親の語りについて

TEM

を用いて分析する。

その際、講座に参加した母親の心の動きを検討し、子育て意識が変容する過程を径路と して描くこととする。また、径路の共通性と多様性、類型を明らかにし、母親の心理的 変容過程に沿った支援の有り方を提示することを目的とする。

Ⅱ.方法

1.調査対象及び時期

面接は、講座に参加経験のある8名の母親から許諾を得た上で、

2013

年8月~2015年3 月に実施した。対象者である8名の母親(以下、母親

A~H)は全て専業主婦であり、属

性については表2-1に示した。

母親が参加した講座は、市立公民館の主催講座であり、参加対象者は未就園児とその保 護者である。活動は月2回程度、1回の活動時間は1時間半で、参加する親子は

15

組前後 である。参加者は、半年毎に申し込みを行って予約制で参加する。講師は、保育士資格を 持つ

50

代女性で、公民館の講座を十数年担当した経験がある。講座を主催する公民館は、

地方都市の郊外に立地し、マンションや戸建てが並ぶ住宅街の一角にある。講座の利用者 は地元出身者だけでなく、いわゆる転勤族も少なくない。

講座の内容は、身体を使った遊びや、描画、工作、歌、絵本、自由遊び、季節の遊び等 であり、毎回、講師の指導のもと、親子で様々な遊びが出来るように工夫されていた。ま た、活動の最後には、母親相互の友達作りを目的とし、子どもが自由遊びをしている時に、

4) サトウタツヤ:「TEMを構成する基本的概念」,(サトウタツヤ/編著:『TEMではじめる質的研究―時間とプロセ スを扱う研究をめざして―』), 39-53頁, 誠信書房, 2009年.

5) サトウタツヤ:「質的研究をする私になる」,(安田・サトウ/編・前掲書(3)), 4-7頁, 誠信書房, 2012年.

第2章第1節

母親同士もしくは母親と講師が自由に話をする時間が

20

分程度設けられている。この時間 を利用して、母親対象のストレッチを行う回もある。

表2-1.講座に参加した母親の属性 母親名 母親の年齢

(参加開始時)

子どもの年齢

(参加開始時)

初めて参加した

子どもの生まれ順 家族形態

母親

A 30

2歳 長子 4世代

母親

B 30

2歳 長子 核家族

母親

C 20

1歳 長子 核家族

母親

D 30

9か月 第2子 核家族

母親

E 30

3歳 第2子 核家族

母親

F 40

3歳 第2子 核家族

母親

G 30

2歳 長子 核家族

母親

H 20

3歳 長子 3世代

2.調査内容

面接では、講座に参加を始めた頃から現在までの対象者の体験を、講座に参加してから の母子の関わりや母親の心境の変化を中心に語る半構造的面接の形式を採用した。また、

協力を依頼する際に、面接の時間は

30

分から

40

分程度である旨を案内した。実際にかか った面接の時間は、

10

分から

95

分、平均時間は

33

分だった。

10

分の母親についてである が、面接時におおよその質問について回答した後、子どもの体調が悪くなったため、短い 時間になった。95分の母親については、母親が言葉を一つ一つ選びながら心情を語る過程 を共にする方がその場の状況として自然であったため、予定時間が超過した。更に、面接 は、個人情報等の留意事項を説明した上で、許可を得て録音した。音声データを逐語記録 として文字化し、TEM を用いて分析を行った。10 分の面接から得られたデータについて は時間的バランスの偏りが懸念されたが、半構造化面接によりほぼ面接の主旨を充足して いたため分析に加えた。

上田(2011)6による

TEM

理論の基本概念は表2-2に示した。必須通過点は、論理的・

6) 上田敏丈:「保育援助に関する幼稚園教諭のふりかえりプロセス―異なるティーチング・スタイルに着目して―」, 日本乳幼児教育学会誌『乳幼児教育学研究』第20号, 47-58頁, 2011年.

制度的・慣習的に殆どの人が経験せざるを得ない点である。分岐点とは、ある経験におい て、実現可能な複数の経路が用意されている状態の地点である。等至点は、多様な経験の 径路がいったん収束する地点であり、等至点と対になり得る補集合的な等至点を場合によ って想定する。それについては、両極化した等至点とする。また、面接を取り囲む要因と して、社会的方向付け並びに社会的ガイダンスは、選択肢における個人の選択に有形無形 に影響を及ぼす力を象徴的に表すもの(特に肯定的なものを社会的ガイダンス、否定的な ものを社会的方向付けとする)を想定する。そのことで、面接に影響を及ぼす社会からの 暗黙的影響を考慮出来る。

表2-2.TEM理論の基本概念(上田(2011)7参照)及び本節における意味

基本概念 内容 本節における意味

必須通過点 論理的・制度的・慣習的に殆どの人が経験せ ざるを得ない点

子どもとの過ごし方を考える

分岐点 ある経験において、実現可能な複数の径路が 用意されている状態の地点

講座に参加するか否か

子 ど も が 楽 し ん で 参 加 し て い る と読み取るか否か

講座への参加を継続するか否か 等至点 多様な経験の径路がいったん収束する地点。

等至点は1つではなく、それと対になり得る 補集合的な等至点のことを、両極化した等至 点という

繋がりの中で、支え・支えられる 子育て(等至点)

孤立した子育て(両極化した等至 点)

社会的方向付け 社会的ガイダンス

選択肢における個人の選択に有形無形に影響 を及ぼす力を象徴的に表すもの(特に肯定的 なものを社会的ガイダンス、否定的なものを 社会的方向付けとする)

子どもと母親を取り巻く環境 講師・他の母親の支え 講座での子どもの様子

分析は、上田8、サトウ(2009)9、岡村・湯澤(2014)10を参考とした。具体的には 次の通りである。①音声データから、コーディングが可能なように発話内容に従って切片 化を行った。②それぞれのカードについて、切片化された文章のみで意味が分かるように、

コーディングを行った。③カードを時系列に沿って並べた。④時系列に並べた母親

A~H

のカードを内容ごとに分類し、それぞれに内容を端的に表すようなラベルを付けた。⑤内

7) 上田・前掲論文(6), 47-58頁.

8) 上田・前掲論文(6), 47-58頁.

9) サトウ・前掲書(4), 39-53頁.

10) 岡村幸代・湯澤美紀:「子育て支援に参加した母親の「子育て観」の時間的変容過程」, 『保育の実践と研究』第18 巻第4号, 58-66頁, 2014年.