第4章 研究の総括と今後の展望
第3節 今後の課題と展望
Ⅰ.今後の課題
本研究では、講座に参加した母親の子育て意識の変容過程を量的分析及び質的分析に より明示し、支援プログラムを介した育児に対する自己効力感等の向上を目指した。
第2章では、講座に参加した母親の子育て意識の変容過程は、講座と母親の相互作用 のみで進むのではなく、支援者や他の母親からの支えや、講座での学び、子どもの成長、
家族の変化が複層的に影響していることが明らかになった。第3章では、講座における 活動の中で、母親が絵本の活動に参加することそのものに望ましい心理的効果があること が支持された。支援プログラムを開発し、認知行動的アプローチによる行動目標の設定 及び遂行、心理教育、読み聞かせ活動を通して、講座と家庭における母親の支援を試み た。その結果、支援プログラムに参加した母親の効力感の向上という一定の成果を得た。
一方で、今後の研究を展望していく上での課題が明らかとなった。ここではその課題を、
データ収集上の課題と、支援プログラム実践上の課題に大別し論考する。
1.データ収集上の課題
データ収集上の課題として、主に次の4点に関して追試研究の必要性を指摘出来る。
第1に、第2章第1節では、講座に継続参加した8名の母親の子育て意識の変容過程 について長期に渡る質的研究を行い、有益な知見を得たと言える。しかしながら、講座 に参加経験を持つ母親の中には、何らかの理由により途中で参加を止めた母親も存在す る筈である。本研究では、参加を止めた母親への調査分析に着手していない。参加を止 めた母親についても同様にTEM及びテキストマイニングを援用して調査分析し、径路の 更なる多様性や語りの特徴を示すことで、予防策や必要な支援が明示され、支援プログ ラムの改良に繋がる可能性がある。
第2に、第3章第1節では、講座における絵本の活動に母親が参加することに心理的 効果があることが示された。子どもと共に読み聞かせに参加する「読み聞かせ・子有群」
では、我が子を通して周囲への気配りや配慮をしているために「緊張・不安」が保たれる と考察した。支援プログラムでは、母親の安心感を高めるために、親子の触れ合い遊びを したり、読み聞かせの際に母親が心掛けることを解り易く簡単に紹介する心理教育等を計 画し、実施したが、それにより読み聞かせ後の「緊張・不安」の変化を検証出来ていない。
参加群を心理教育実施群、統制群を心理教育なし群として、1要因の被験者間計画を実施 し、心理教育の効果を確認することが望まれる。結果によっては、子育て支援における様 々な読み聞かせの場で、心理教育を部分的に施行し活用出来る可能性が拡がる。これに関 連して、第3章第3節で既に述べたように、支援プログラム参加後に「読み聞かせが母親 の今の子育てや、これからの子育てに影響している」ことを数値化したところ、有意な上 昇を示さなかった。今後は、支援プログラムにおける読み聞かせの効果を測定するための 新しい質問項目を作成し、追試することが課題である。
第3に、第3章第3節において、支援プログラムに参加した母親から得られたデータ 数が少ないことが挙げられる。今回は母子
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組の募集としたが、子どもの体調不良等 で、3回全てのデータ収集が可能であった母親は、13
名に留まった。支援プログラムは、読み聞かせやグループワークを実施することや、全体への目の届き易さから、母子
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組 程度の参加が現実的である。このため、データ数を増やすためには、実施回数を重ねた 上で分析をすることが課題として残される。これに関連して、西山(2009)1)が述べて いるように、より厳密な標本抽出法を採用した追試研究の必要性を挙げることが出来る。支援プログラムでは、講座に参加した母親を全て参加群とし、統制群を保育所に0~3 歳の子どもを預ける保護者(母親)とし、両群は同じ地域に居住する同一の集団であっ た。厳密には、参加者から参加群・統制群を無作為に割り付けるべきであるが、講座の 募集チラシに講座の内容や人数を明記するため、統制群を参加希望者から構成すること は現実的には難しい。今後は、参加希望者が
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組を上回った場合に、参加群・統制群 を無作為配分し、参加群が支援プログラムに参加する等の手続きが考えられる。第4に、支援プログラムに参加した母親の語りから質的分析を行い、支援プログラム に参加した母親の子育て意識の変容過程を時系列に沿って明らかにすることも課題と して残される。分析結果を第2章第1節の質的分析の結果と比較することで、支援プロ グラムの効果をより詳細に明示することが可能になる。その他、第4章第1節で既に述
1) 西山修:『保育者の効力感と自我同一性の形成―領域「人間関係」について―』, 260-261頁, 風間書房, 2009年.
第4章第3節
べた獲得された効力感のより長期の維持効果についても、追跡調査等を通じて今後の追 試、検証が待たれる。
2.支援プログラム実践上の課題
支援プログラム実践上の課題として、冊子の改善及び支援者用の手引きの作成が挙げ られる。先ず、冊子については、参加者である母親と支援者の双方が取組み易いことや、
支援者による違いが出ないよう均質の支援プログラムを提供出来るように工夫した。し かしながら、支援プログラム実施の際には、特に第1回講座における行動目標の設定過 程で、個別の声掛け等の支援が求められた。母親が行動目標を立て易く、また、支援者 も支援し易いように、冊子の内容に改善が望まれる。例えば、今回実施した支援プログ ラムで得られた、母親が実際に立てた行動目標や、行動目標を実行した感想を冊子に追 記することで、今後支援プログラムに参加する母親が行動目標を立てる際に具体例とし て参考にすることが出来、代理経験にもなり得る。
次に、支援者用の手引きについて述べる。子育て支援の担い手である支援者は、保育者 や子育て支援に参加意欲を持つ市民等様々であり、支援者の知識や経験は多様である。こ のため、均質な支援プログラムの拡大には、手引きが必要である。手引きの内容には、
先ず、①冊子本体、心理教育の教材、絵本の一覧等に加えて、各回における時間配分と 支援者の教示が含まれていることが望まれる。次に、②支援者が、各回の終了後に支援 の内容を話し合いながら振り返ることが出来るよう、振り返りを促すチェックシートも 必要である。振り返りの際には、個別の声掛け等の支援が必要な母親を支援者間で共有 して次回の講座を実施したり、時間配分や選書等について話し合ったりし、次回の準備 計画が出来るような記入欄も必要であろう。これらの工夫により、支援者が次の講座に 見通しを持って取組めるようになる。更に、③支援プログラムのねらいや、認知行動的 アプローチの仕組み、母親の心理的変容過程について、支援者に分かり易く示す資料も 手引きに掲載する必要がある。しかしながら、母親の心理的変容過程は、支援プログラ ムに参加した母親がある時期までに到達すべき目標というような、到達点が限局された ものではない。支援者は、支援プログラムに参加した母親の一人一人の参加の在り方を 尊重する姿勢を持ち、共に実践を重ねることが出来るよう、手引きの内容に配慮が必要 である。以上が、本研究の課題である。
Ⅱ.今後の展望
本研究では、母親の子育て意識の変容過程を明らかにした上で、支援プログラムの効 果について検討し、支援プログラムを介した母親の子育て意識の変容過程を促すことを 目的とした。ここまでの知見から、今後の展望を、適用可能性の拡大のために「支援提 供の場の拡大」「支援対象者の拡大」「支援者養成」「読み聞かせの提言」の4点に絞 り提起する。
第1に、支援提供の場を拡大する課題が挙げられる。本研究では、公民館での実施を 想定した支援プログラムの開発を行った。公民館の利点は、母親と子どもが気軽に通え、
地域の親子や多様な世代の人々と繋がり易いことや、既に多数の講座が実施されている ことから、支援プログラムの拡大が期待出来るためである。地域の子育て支援の場には、
保育所、幼稚園、児童館、図書館、子育て支援センター等があり、読み聞かせも日常的 に実施されている。このため、公民館での実施と併せることにより、より母子にとって 支援プログラムが身近な場所で実施されるものになり得る。支援プログラムの特徴は、
①講座だけでなく家庭における母親も支援する、②短期間、複数回の参加により母親の 心理的変容を促進する、③冊子を用いることにより、認知行動的アプローチによる行動 目標の設定と実行が容易に出来る、④グループワークにより、母親の仲間作りがし易い、
⑤心理教育、読み聞かせにより母親と子どもの双方に働き掛けることである。これらの 特徴を基本形にして、追試をしながら一般化を試みる必要がある。
これに関連して第2に、支援対象者の拡大にも言及する。今回は未就園児とその母親 を支援プログラムの対象とした。就園している0~3歳未満の子どもを持つ母親の育児 ストレスについて、平岡・松浦・野村(
2004)
2)は、育児と仕事の両立を図るための支 援策として、母親自身がストレスを認知し自発的な相談や社会的資源の利用が出来るこ とを挙げ、母親自身が他者や社会的資源との関わりを持つ必要性を述べている。鈴木・古株(2015)3)は、就園や修学など養育環境の新たな変化に直面する、4歳から6歳の 子どもを持つ母親の育児負担感と自己効力感には負の相関があること、自己効力感を高 めることが育児負担感の軽減をもたらすことを示している。このことから、就園してい
2) 平岡康子・松浦和代・野村紀子:「乳幼児をもつ就労女性の育児ストレスと職業性ストレスの分析」, 日本小児保
健協会誌『小児保健研究』第63巻第6号, 647-652頁, 2004年.
3) 鈴木美佐・古株ひろみ:「4歳から6歳の幼児をもつ母親の育児負担感と自己効力感,ソーシャルサポートの関 連」, 聖泉大学看護学部『聖泉看護学研究』第4号, 11-20頁, 2015年.