第4章 研究の総括と今後の展望
第2節 支援プログラムの開発と子育て意識の変容過程
Ⅰ.子育て意識の変容を促す支援プログラムの開発と実施
1.講座に参加した母親の参加初期における子育て意識の変容過程
第3章第1節では、実践開発する支援プログラムに読み聞かせを導入するに当たり、
子育て支援における読み聞かせが母親に与える心理的効果を検証した。具体的には、公 民館で実施されている子育て支援講座において、集団の読み聞かせに参加する母親を対象 とし、講座における読み聞かせが母親に与える心理的効果を、イメージ及び気分・感情の 変化に注目して明らかにすることを目的とした。ここで検証した仮説は、講座における読 み聞かせの実施により、母親のイメージ、気分・感情が肯定的に変化する、であった。
手続きは、母親が我が子と共に集団読み聞かせに参加する「読み聞かせ・子有群」、母親 のみで集団読み聞かせに参加する「読み聞かせ・子無群」、絵本を配布し母親が個人で読む
「ひとり読み群」を設定した。読み聞かせの前後に、活動に対するイメージを
SD
法、気分・感情の指標として
POMS
短縮版を施行した。更に、読み聞かせ終了後、新規作成した質問 紙である、読み聞かせ参加態度尺度を活動への関与の程度の指標として援用し、因子分析 後の読み聞かせ参加態度尺度の得点を、平均値以上・未満で分け、関与群・非関与群とし た。「参加形態」「活動前後」「関与・非関与」の3要因の分散分析を行ったところ、「活動前後」の主効果が、POMS 下位尺度の「活気」を除く全ての尺度に認められた。「関与・非関与」の 主効果は、「活気」にのみ認められ、下位検定の結果、関与群の方が高い得点を示した。「参 加形態」の主効果はいずれの尺度にも認められなかった。交互作用は「参加形態」と「活動前 後」間に、総合的な気分の状態を測定する指標である
TMD
得点並びにPOMS
下位尺度の「緊張・不安」で認められた。下位検定の結果、「読み聞かせ・子無群」及び「ひとり読み群」
が活動を通して「緊張・不安」得点が有意に低下し、緊張・不安がより軽減する方向に変化 していた。「読み聞かせ・子有群」の「緊張・不安」得点は活動前後で有意な得点の増減 が認められなかった。
これらの結果から、「読み聞かせ」及び「ひとり読み」の活動は母親のイメージ及び気
分・感情を穏やかな方向に改善することが示され、母親が絵本の活動に参加することその ものに望ましい心理的効果があることが支持された。一方、子どもを介して活動を行う「読 み聞かせ・子有群」では、読み聞かせ後も母親の「緊張・不安」が保たれていた。母親は 我が子の参加態度が気になるだけでなく、我が子を通して周囲への気配りや配慮をしてい るものと考察され、支援が必要な面もあることが示された。
読み聞かせをする支援者に望まれる関わりとしては、子どもへの働き掛けだけでなく、
母親の安心感を高め、緊張・不安が低減出来るような関わりや、母親を主体とした活動を 取り入れること等が必要だと考察された。支援プログラムでは、母親の緊張や不安の軽減 及び母親の読み聞かせへの理解を深め親子で絵本を楽しむ機会を提供するために、読み聞 かせの前に親子の触れ合い遊びや、心理教育の実施が必要であると考えられた。
2.支援プログラムの開発
第3章第2節では、第2章及び第3章第1節の結果を基に、母親の子育て意識の変容 過程を促進する支援プログラムの開発を行った。具体的には、公民館の講座において、読 み聞かせ、認知行動的アプローチを援用した母親の育児に対する自己効力感を高める取組 み、母親への心理教育を中心に行い、母親の育児に対する自己効力感の向上を目指す支援 プログラム「つながるひろがる絵本の力」を開発した。支援プログラムの実施期間はフォ ローアップ講座も含め2か月間であり、従来の支援プログラムと比して短期間である。こ のため、支援プログラムでは、内容を絞り、講座だけでなく家庭における母親も支援する ことで、短期間での支援プログラムとして成立させることを試みた。
具体的には、母親が講座と家庭の両方で、読み聞かせや達成可能な行動目標の設定と遂 行を重ね自己効力感を高める過程を支援し、週1回の講座への参加体験が、家庭での母親 の行動目標の遂行や読み聞かせを支援し、母親の心理的変容過程を促進出来るよう工夫し た。講座と家庭の両方で使用する冊子を作成し、講座では母親が問いに答えながら書き込 むことで、母親が容易に1週間の行動目標の設定が出来るようにした。家庭では、毎日の 実践と記録を促し、行動目標の達成を通じて制御体験が得られるよう工夫した。講座では、
グループワークにより、他の母親からのサポートや、支援者や他の母親の行動目標を参考 にする等、言語的説得や代理経験に働き掛け、効力感が高まるようにした。
読み聞かせは、第3章第1節で母親への肯定的な効果が認められたが、多くの家庭でも 親しまれる活動であり、入手が簡単で実施が手軽なため、子育て支援でも頻回に実施され
第4章第2節
る。このため、子育て支援の場と家庭の両方で、親子で取組むことが出来る最も身近な活 動と言える。子どもの発達から見ると、母親と同じ絵本を眺め共有するため、共同注視の 機会となる。心理教育は、読み聞かせの直前に実施し、講座と家庭の両方で母親が読み聞 かせの際により望ましい行動を実践出来るよう工夫した。第1回講座の際に、冊子、絵本、
筆記用具を母親に配付し、家庭で容易に行動目標の実践や読み聞かせに取組むことが出来 るようにした。
地域における子育て支援講座において、未就園児と母親が参加する支援プログラムの報 告は極めて少ない。本支援プログラムは、短期間の介入であること、支援に冊子を用いる こと、絵本の読み聞かせの実施等、資源面でも導入がし易いことが特徴であり、新しい支 援の手立てを示すことが出来たと言える。
3.支援プログラムの効果と検証
第3章第3節では、第3章第2節で開発した支援プログラムを試行し、その効果を検 証した。具体的には、母親の育児に対する自己効力感の向上を目指した認知行動的アプ ローチによる支援プログラムを実施し、参加群の母親の育児に対する自己効力感等の変 化として、統制群との比較により検証し評価した。
ここで検証した仮説は、①認知行動的アプローチと母親の心理的変容過程を促進させる 介入、読み聞かせの実施及び支援プログラムの実施により、育児に対する自己効力感が 向上する、②講座と家庭の両方で、母親の育児に対する自己効力感に働き掛けるため、
第5回講座(フォローアップ講座)においてもその効果を維持出来る、の2つであった。
分析の結果、実施後の育児に対する自己効力感得点に向上は認められなかった。そこで 第1回講座の育児に対する自己効力感得点と第4回講座の得点差、第1回講座と第5回講 座の得点差を算出し階層的クラスタ分析を行った。得点の変化パターンはクラスタ分析に より、維持・下降群、上昇群の2群に分類された。上昇群の育児に対する自己効力感得点 に向上が認められフォローアップ時の効果も確認されたため、上昇群では、確かに育児に 対する自己効力感の向上への寄与が示された。
上昇、維持・下降した要因の検討を行った。自由記述の記載内容を分析したところ、上 昇群の方が多く「他の母親と話して気付いたこと」を記載していると言えた。このため、
今後の改善点として、「他の母親と話して気付いたこと」の振り返りを、支援プログラム に組込むことにより、母親の認知により頻回に働き掛けることが出来ることが考えられた。
次に、自由記述のテキスト分析を行った結果、上昇群は子どもや人との繋がり、目標達成 に親和性を持ち、維持・下降群は講座のメニューに興味を持って参加していたと考察され、
絵本の読み聞かせが、自己効力感をより積極的に高める要因になれるよう、読み聞かせへ の取組み方や母親ヘの働き掛け方に課題が残された。維持・下降群に対しても、ワークや ロールプレイを導入するなどし、母親同士をより一層関わり易くする工夫により、育児に 対する自己効力感が上昇する可能性が考えられた。
Ⅱ.支援プログラムを介した母親の子育て意識の変容
1.支援プログラムの活動が子育て意識の変容過程に与える効果
支援プログラムは、フォローアップ講座を含め2か月間という短期間の実施であったが、
母親の子育て意識の心理的変容を促進出来るよう、講座と家庭の両方で読み聞かせやワー クに取組んだ。第2章第1節では、講座における子育て意識の変容には年単位の時間を要 することが明示されている。ここでは、第2章第1節の子育て意識と第3章第3節の子育 て意識の照合を試み、支援プログラムの活動が母親の子育て意識の変容過程を促進し得た かを、変容に要する期間と活動内容を基に検証する。
第2章第1節で得られた子育て意識と、第3章第3節の子育て意識を対応させたものを 表4-2に示す。対応の手順は、①表4-2の左側に、第2章第1節(一部、第2章第3節 の結果を含む)における、段階Ⅱ~Ⅳのラベル(33頁・図2-1)を列挙した。②表4-2 の右側には、第3章第3節で得られた子育て意識を「心理教育・読み聞かせ」「グループ ワーク」「支援プログラム全体」に分類し示した。この際、第3章第3節の量的分析の成 果である「育児に対する自己効力感の向上(上昇群)」及び「親役割以外の状態」得点の上 昇傾向(上昇群)」は、「支援プログラム全体」に配置した。③第2章第1節の子育て意 識と第3章第3節の子育て意識を対応させ直線で結び、対応する第2章第1節の子育て意 識に同色の色丸を付した。対応に際しては、第2章第1節のインタビューデータの原文と 第3章第3節の自由記述を照合させたものもあった。
その結果、第3章第3節の子育て意識は、第2章第1節の段階Ⅱ~段階Ⅳに対応してい ることが示された。但し、段階Ⅳについては、家族の変化のみが第3章第3節の子育て意