• 検索結果がありません。

子育て支援講座に長期間参加した母親の子育て意識の 変容過程

第2章 子育て支援講座に参加した母親の 子育て意識の変容

第2節 子育て支援講座に長期間参加した母親の子育て意識の 変容過程

Ⅰ.講座に長期間参加した母親の心理的変容過程を実証する必要性

第2章第1節では、講座の参加初期の体験に限局して子育て意識の変化を短期縦断的 に分析し、講座への継続参加の意義、体験の類型別に効果的な支援を見出すことの必要性 が示唆された。また、母子が時間を共にする中で母親の子育て意識が変容し、繋がりの中 で、支え・支えられる子育てへと変容していく過程が示された。

現在、子どもや保護者への切れ目のない支援として、文部科学省(2017)1)が提示する 乳幼児期から学齢期に繋がる支援や、文部科学省(2012)2)が示す子どもの誕生から自立 までの家庭教育支援の構築が目指される。本研究で構築する支援プログラムは、未就園の 子どもとその母親を対象としており、切れ目のない長期的な支援の一端を担うものである。

地域における未就園児の子育て支援を利用した親子が、園や学齢期の子育て支援・家庭教 育支援を継続的に受けることにより長期的な支援を受けることが望まれる。複数の子ども を持つ母親であれば、子どもの人数に応じて繰り返し子育て支援を利用することで、長期 的な支援を受けることが可能である。

本節では、4人の子どもを育てながら講座に長期間参加した母親の子育て意識の変容 過程を質的分析により検討する。7年間に及ぶ母親の心理的変容の過程を母親の家族や 社会との関わりの視点から実証し、母親の子育て意識が文化的・社会的影響の中でどの ように変容していくのかを分析・考察し、地域における子育て支援の役割を論じる3。 分析法は第2章第1節同様、TEMを援用した。面接の対象は、公民館の講座に7年間参

1) 文部科学省:「家庭教育支援の具体的な推進方策について(平成29年)」,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/

education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/03/1383700_01.pdf, 2017年. (2017年7月9日閲覧)

2) 文部科学省:「つながりが創る豊かな家庭教育―親子が元気になる家庭教育支援を目指して―(平成24年)」, https:// www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/04/16/1319539_1_1.pdf, 2012.

(2017年7月9日閲覧)

3) 本節では以下の論文を加筆・修正し、再構成した。岡村幸代・湯澤美紀:「子育て支援に参加した母親の「子育て 観」の時間的変容過程」, 保育の実践と研究』第18巻第4号, 58-66頁, 2014年.

第2章第2節

加し、4人の子ども(面接時、小学生2名・幼児2名)を育てる主婦(以下、母親

A)で

ある。本節の母親

A

は、第2章第1節の母親

A

と同一人物である。母親

A

の利用期間は 他の母親に比べて特に長く、子育て意識の変容過程をより大きな時間的・社会的枠組みの 中で捉えることが出来ると考えたため、対象者として協力を依頼した。

Ⅱ.方法

1.調査対象及び時期

面接は、公民館主催の講座に7年間参加した母親

A

(面接時

40

代前半の専業主婦、小学 生2名・幼児2名の母親)から許諾を得て、2013年8月に実施した。母親

A

の参加した講 座は未就園児を対象としており、講座の内容は、身体を使った遊びや、図画工作、歌、読 み聞かせ等が1回の講座の主なテーマの中心となっており、毎回、親子で様々な遊びが出 来るよう工夫されていた。

2.調査内容

実施に際して、母親

A

が当時の状況を想起し易いように、家族写真等の用意を依頼した ところ、子どもの人数分の誕生時からのアルバムの持参があった。また、公民館からは、

講座の様子を写真入りの記録として纏めた資料過去

10

年分の貸与を受けた。

面接では、それらの資料を見ながら、講座に参加を始めた頃から現在までの対象者の体 験を、講座に参加してからの母子の関わりや母親の心境の変化を中心に語る半構造的面接 の形式を採用した。面接の時間は1時間

35

分だった。面接は、個人情報等の留意事項を説 明した上で、許可を得て録音した。音声データを逐語記録として文字化し、TEMを用いて 分析を行った。TEM理論の基本概念及び本節における意味は、表2-5に示す。

表2-5.TEM理論の基本概念(上田(2011)4)参照)及び本節における意味

基本概念 内容 本節における意味

必須通過点 論理的・制度的・慣習的にほとんどの人が 経験せざるを得ない点

子どもとの過ごし方を考える

分岐点 ある経験において、実現可能な複数の径路が 用意されている状態の地点

講座に参加するか否か

等至点 多様な経験の径路がいったん収束する地点。

等至点は一つではなく、それと対になり得る 補集合的な等至点のことを、両極化した等至 点という

無理せず自然な子育て(等至点)

緊張感のある子育て(両極化した 等至点)

社会的方向付け 社会的ガイダンス

選 択 肢 に お け る 個 人 の 選 択 に 有 形 無 形 に 影 響を及ぼす力を象徴的に表すもの(特に肯定 的なものを社会的ガイダンス、否定的なもの を社会的方向付けとする)

子どもと母親を取り巻く環境 講座での子どもの様子

分析は、第2章第1節と同様に文献を参考にして以下のように行った(上田,2011;サ トウら,2006;サトウ,2009)567。先ず、①音声データから、コーディングが可能な ように発話内容に従い切片化を行った。ここでは、合計

182

枚のデータになった。②それ ぞれのカードについて、切片化された文章のみで意味が分かるように、コーディングを行 った。③カードを時系列に沿って並べた。④時系列に並べたカードを内容ごとに分類し、

それぞれに内容を端的に表すようなラベルを付けた。⑤内容の関係性を考慮しながらネッ トワーク化を行った。⑥等至点、両極化された等至点、分岐点、必須通過点を検討した。

⑦TEM図を作成すると共に、データでは得られないが理論的・制度的に存在すると考えら れる選択や経路についても検討した。

4) 上田敏丈:「保育援助に関する幼稚園教諭のふりかえりプロセス―異なるティーチング・スタイルに着目して―」, 日本乳幼児教育学会誌『乳幼児教育学研究』第20号, 47-58頁, 2011年.

5) 上田・前掲論文(4), 47-58頁.

6) サトウタツヤ・安田裕子・木戸彩恵・高田沙織・Valsiner, J.:「複線径路・等至性モデル―人生径路の多様性を 描く―質的心理学の新しい方法論を目指して―」, 日本質的心理学会誌『質的心理学研究』第5号, 255-275頁, 2006 年.

7) サトウタツヤ:「TEMを構成する基本的概念」,(サトウタツヤ/編『TEMではじめる質的研究―時間とプロセス を扱う研究を目指して―』), 39-53頁, 誠信書房, 2009年.

第2章第2節

Ⅲ.結果

TEM

理論の基本概念に基づき、面接の内容を対応させた(表2-5参照)。必須通過点 として【子どもとの過ごし方を考える】を設定した。分岐点として、【講座に参加するか 否か】とした。面接対象者の母親

A

は、参加を選択したが、否という選択肢も本来あった はずだからである。等至点として、子育て支援の数年後に導かれた子育て意識として、【無 理せず自然な子育て】とした。それに対になり得た子育て意識として、【緊張感のある子 育て】を想定した。また、社会的方向付け並びに社会的ガイダンスとして、【子どもと母 親を取り巻く環境】と想定した。

母親

A

の語りから得られた子育て意識の時間的変容過程を、基本概念と共に図1に表す。

時間的変容過程を子育て支援と母親

A

との関わり方の変化の観点から分類すると、Ⅰ:子 育て支援の利用を考える段階、Ⅱ:子育て支援講座に慣れる段階、Ⅲ:子育て支援講座で の活動のスタイルを確立する段階、Ⅳ:家族関係の変化を受容し、(子育て支援講座に

余裕を持って参加する段階という形で移行してきた。以下に、母親

A

の語りの内容と各時 期における子育て支援の特徴を示す。

段階Ⅰでは、母親

A

が当時の子育て意識や母子を取り巻く環境を基に、子どもとの過ご し方を様々な角度から考える経緯が示された。講座を利用する前の母親

A

の子育て意識は、

「長子の育児はちゃんとしないといけないと思った」「第2子は長子に目が行きながらも 遊ばせないといけないと思う」一方で、「子どもとの時間をどう過ごして良いか分からな かった」という矛盾を抱えたものだった。また、当時の家庭の事情や遊び場所の検討は社 会的方向付けもしくは社会的ガイダンスとして捉えることが出来、必須通過点である【子 どもとの過ごし方を考える】ことに影響していると考えられる。

段階Ⅱでは、母親

A

が公民館での【子育て支援講座に参加】し、緊張しながらも参加を 続ける姿が示された。「最初の

1

年目は緊張して終わった」が【参加を継続】し続けるこ とにより「(母と子の)お互いが緊張しなくなってきた」ことが語られた。講座に参加せ ず【他の活動に参加】しても、緊張感の持続や参加を継続するか否かの選択に迫られるこ とが考えられたため、理論的に存在する径路(図2-2 点線矢印)とした。