第4章 研究の総括と今後の展望
第1節 子育て支援講座に参加した母親の子育て意識の変 容過程と支援の意義
Ⅰ.講座に参加した母親の子育て意識の変容過程
1.講座に参加した母親の参加初期における子育て意識の変容過程
第2章第1節では、講座に継続参加した8名の母親を対象とし、子育て意識の変容過程 を質的分析法の1つである
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を援用し短期縦断的に分析した。講座に参加する母親 は半年から2~3年程度の参加であるため、参加初期1~2年の経験を中心に分析を行 った。この分析により、母親の心理的変容の過程と、心理的変容の促進に関わる要因を実 証することで、支援プログラム実施のための具体的な手立てを得ることを目的とした。主な結果として次の5点を挙げることが出来る。すなわち、①母親の子育て意識が4つ の段階「段階Ⅰ:子育て支援講座の利用を考える段階」「段階Ⅱ:他者に支えられながら 参加を継続する段階」「段階Ⅲ:講座や家庭で子どもと一緒に活動する段階」「段階Ⅳ:
講座に余裕を持って参加する段階」を経て変容することが示された。②母子が時間を共に する中で母親の子育て意識が当初のストレスや不安を抱えるものから、他の母親や支援者 との繋がりの中で、支え・支えられる子育てへと変容していく過程が示された。③分析の 対象が8名の母親であったため、心理的変容の径路について類型を描くことが出来た。具 体的には、段階Ⅱにおいて2つの類型が認められ、母親が講座の活動に3か月から半年で 慣れる「早期親和型」(8名中6名)、緊張感を持ちながら参加を続け、活動に慣れるまで に1年から2年程度かかる「緊張持続型」(8名中2名)の存在が明らかになった。これら のことから、段階Ⅱに要する時間に長短の差があること、類型別に効果的な支援を見出す ことの必要性が示唆された。④段階Ⅲでは、講座では「(母親が子どもに教えるというよ りも、子どもと)一緒に(活動)すればいいんだ」という気付きが全ての母親から語られ た。段階Ⅱにおいて支援者や他の母親に支援されながら、母親が継続的な体験を積み重ね ていった結果、気付きが生まれたと考察された。⑤段階Ⅲでは、家庭での父親と子どもの 関わりが増える等、家族の変化が語られた。母親や子どもの成長が結果的に父親の成長を
促進する可能性が示唆された。
参加の全体を通して、全ての母親が支援者や他の母親からの支えを語った。特に段階Ⅱ における母子で様々な体験が出来る場の提供や、支援者や他の母親からの支えが、子育て 意識の変容及び家族関係の改善に影響を与えているものと考察された。
2.講座に長期間参加した母親の子育て意識の変容過程
第2章第2節では、講座に長期間参加した母親の子育て意識の変容過程を第1節と同 様、質的分析により検討した。具体的には、4人の子どもを育てながら7年間、講座に 継続参加した母親の心理的変容の過程を、母親の家族との関わりの視点からより大きな 時間的枠組みの中で捉えることを試みた。
主な結果として次の4点を挙げることが出来る。すなわち、①母親の子育て意識が4つ の段階「段階Ⅰ:子育て支援講座の利用を考える段階」「段階Ⅱ:子育て支援講座に慣れる 段階」「段階Ⅲ:活動のスタイルを確立する段階」「段階Ⅳ:家族関係の変化を受容し、余 裕を持って参加する段階」を経て変容することが示された。②講座に参加した母親の子育 て意識が、「母子間の緊張感の緩和」を経て、「曖昧さへの耐性」を併せ持った、無理 せず自然なものへと変容する過程が視覚化された。③段階Ⅲでは、講座に参加した母親 が他の母親に講座を紹介する等、参加した母親が主体的に他の母親と育ち合う関係を生 み出す場であることも示された。④段階Ⅳでは、肉親の死という家族関係の変化をきっ かけに母親の心理に危機的状況が生じたが、夫や子どもとの関わりによって回復し、講 座の継続参加には危機的状況からの回復を早める働きがあることが示唆された。
これらのことから、講座の役割とは、長期的には、緊張感を経て親子が成長出来る場 の提供や参加した母親が主体的に他の母親と育ち合う関係を生み出すことであった。ま た、家族関係の変化が生じた際に回復を早める働きがあることが示唆された。母親が主 体的に他の母親と育ち合う関係を形成するために、グループワーク等、母親と他の母親 の交流を活発にする等の環境設定をすることで、より促進的な働き掛けが出来る可能性 が考察された。
3.子育て支援講座に参加した母親の心理的変容に関わる語りの特徴
第2章第3節では、講座に子どもと共に参加した母親への面接を量的に分析し、母親の 心理的変容に関わる語りの特徴について検討した。具体的には、第2章第1節で得られた
第4章第1節
母親の語りを、テキストマイニングを援用して量的に分析し、講座に参加した母親の心理 的変容の特徴を量的な視点から明らかにした。
主な結果として次の6点を挙げることが出来る。すなわち、①階層的クラスタ分析では、
5クラスタ解を採用し「家族の変化」「子どもの成長」「講座での学び」「子どもとの関 わり」「他者との関わり」とした。②階層的クラスタ分析の結果から、母親は、講座で支 援者や他の母親と接することにより、孤独感の減少や育児行動の学びが生じ、母子の関係 の改善や母親自身の成長の実感を得ることが示唆された。③親性尺度を援用した語りの分 析においても、「親役割以外の状態」である、他の母親をはじめとした他者との関わりを 示す語が認められた。④講座への参加による影響は、父親だけでなくきょうだい児を含め た家族全体に及ぶことが明らかとなった。⑤時間的変容を示す語の分析では、母親の心理 的変容には時間を要し、その多くは半年以上であることから、第1節及び第2節と同様に 継続的な支援の必要性が示唆された。⑥講座の活動内容を示す語「歌」「絵」「絵本」の うち、「絵本」が講座と結び付いて語られた。
更に、第2章第1節の分析結果である、段階Ⅰ~Ⅳや、段階Ⅱにおける径路の類型との 照合を行ったところ、以下の2つの結果を得ることが出来た。①母親の心理的変容を示す 語は8語、計
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回出現したが、他者に支えられながら参加を継続する段階Ⅱでの出現回 数が最多であった。特に、段階Ⅱで最多であった「出来る」は、第4クラスタ「子どもと の関わり」に配置され、第5クラスタ「他者との関わり」と結び付きが強かった。このた め、母親の心理的変容は、他者と関わり支えられながら参加継続する段階Ⅱにおいて、親と しての自己効力感の向上等として見い出された。このことから、母親自身が具体的で達成 可能な行動目標を設定し「出来る」体験を重ねていく過程に対し支援をすることが、心理 的変容に促進的に働き母親の成長に寄与することが示唆された。②第1節で得られた「早 期親和型」「緊張持続型」により特徴語の抽出を行ったところ、「早期親和型」の母親は 人を示す語や活動の楽しみを表す語が多く、「緊張持続型」は人との関わりや楽しさを直 接的に示す語は見受けられなかった。母親の緊張が高い場合、より効果的な支援として、母親が支援者や他の母親と関わる中で安心感を得ながら、支援者が丁寧に言葉を掛けたり、
子どもの成長を言葉にしたりして伝えるだけでなく、心理教育を実施する等して母親が見 通しを持って子育てに取組めるような配慮や活動が望まれることが示された。
Ⅱ.子育て支援講座における母親の支援に関わる提言
第2章では、講座に継続参加した母親の子育て意識の変容を量的及び質的方法を援用 して分析した。質的分析の結果、母親の心理的変容の過程は4つの段階を経ること、段 階Ⅱで2つの径路に分かれることが示された。量的分析の結果を重ね合わせると、講座 の初期に母親自身が具体的で達成可能な行動目標を設定し「出来る」体験を重ねていく過 程に対し支援をすることが、心理的変容に促進的に働き母親の成長に寄与することが示唆 された。その他、実践上の工夫として、母親が支援者や他の母親からの支えを感じながら 母子で様々な体験が出来る場の提供や、母親が他の母親と関わり易くするための工夫が必 要であることが示された。これらの実践への端緒を得られたことに本研究の意義を見出 すことが出来る。
結果を総合し、第2章第1節の段階Ⅱにおける母親への支援について2点提言する。
段階Ⅱ(他者に支えられながら参加を継続する段階)における母親の心理的変容は、自 己効力感の向上、緊張感の緩和、子どもの成長の実感等、母親個人もしくは母子関係の 変化が主であり、支援者や他の母親からの支えが感じられる段階である。段階Ⅱを心理 的変容過程全体から見ると、①段階Ⅰで講座の利用を始めた母親が適応し、②段階Ⅲに おける気付きや家族関係の変化が生じる前の段階であるため、段階Ⅱの支援が母親支援 の要となる。
先ず、①段階Ⅰから段階Ⅱへの子育て意識の変容を、中谷(2013)1)による子育てネ ットワーク2)のエンパワーメントのプロセス(以下、「過程」とする。)を援用し整理 することを試みたい。エンパワーメントとは、「社会的に差別や搾取を受けたり、自ら コントロールをしたりする力を奪われた人々が、そのコントロールを取り戻す過程」と 定義される(久木田,
1998)
3)。子育てネットワークのエンパワーメントの過程(一部)と、段階Ⅰ及び段階Ⅱにおける母親の心理的変容を表4—1に示す。
1) 中谷奈津子:「「子育てネットワーク」と行政との関係―エンパワーメントプロセスからの分析―」,(山縣文治/
監修・中谷奈津子/編:『住民主体の地域子育て支援―全国調査による「子育てネットワーク」―』), 86-111頁, 明石書店, 2013年.
2) 子育てネットワークの定義は、実践者や文献が発表された時期によって変化するが、人が集まり、子育てに関 与した活動を展開する市民主体の活動を子育てネットワークと捉える見方が主流である。中谷奈津子:「「子育 てネットワーク」はどのように語られてきたか―これまでの先行研究・実践報告等の整理から―」, 前掲書(1), 14-33頁.
3) 久木田純:「エンパワーメントとは何か」, 『現代のエスプリ』第376号, 10-34頁, 1998年.